ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第57話  心の中のウルトラマン

 第57話

 心の中のウルトラマン

 

 油獣 ペスター

 ウラン怪獣 ガボラ

 マケット怪獣 ミクラス 登場!

 

 

 始祖怪鳥テロチルス、火山怪鳥バードンの襲撃をウルトラマンAの活躍によってかろうじて乗り切った『ダンケルク』号は、無事目的地であるアルビオン王国の港湾都市スカボローに入港していた。

「帆をたためーっ!! もやいをうてーっ!!」

 桟橋に傷ついた姿を滑り込ませた『ダンケルク』は、着陸して風石のささえがなくなったとたん、力尽きたかのように船体を桟橋に寄りかからせて、傾いたまま停止した。

「よくここまで航行できたものだ……」

 船底に大穴を空け、あちこちが焼け焦げた『ダンケルク』の姿を見て、スカボローの港湾作業員たちは一様にぞっとして息を呑んだ。『ダンケルク』が、技術大国ゲルマニア製の強靭な船体構造を持っていなければ、ここへたどり着く前に空中分解していたかもしれない。

 また、生き残った護衛艦隊は、軍用ドックのほうへよろめきながら収容されていった。

「当船は、この後第一ドックに移送されます。お客様方は、お忘れ物のなきよう、すみやかに下船ください」

 才人たち一行は、傾いた甲板から足を踏ん張りながら桟橋に降り立った。そしてその後、先に下ろしてあった馬車を受け取るためにこちらの港湾事務所に向かって、そこで同じように馬車の手配をしていたワルドとミシェルに会った。

「おおルイズ、君も無事だったのかい、よかったよかった」

 はじめに陽気に口を開いたのはワルドだったが、一行は一ミリグラムの感銘も受けずに、しらけた様子で丁重にそれを聞き流した。話しかけられたルイズも、先日とは違ってつまらなさそうに視線をそらしている。ワルドが艦隊に無茶な前進をさせたがばかりに、数多くの犠牲者を出してしまった事実はすでにキュルケから全員に伝えられ、全員がすでに彼を嫌いになろうと心に決めていたからである。

「ありがとうございますワルドさま。聞くところによれば、ワルドさまが風の魔法で風石の不足をおぎなってくださったそうですね。皆を代表して感謝の意をささげます」

 なんとか口を開いたルイズの口調も、儀礼的な感情のこもらないものだった。ルイズにとってワルドは、幼い頃から面倒をみてくれた恩人であり、あこがれの人でもあるのだが、自分一人のために何百人も平然と犠牲の羊に並べようとした醜行には閉口せざるを得ず、気持ちの整理がつくまで話したくないというのが本音であった。

 むしろ、積極的な好意の対象となったのは、立派な武具をすすまみれにしながらクルーに混じって船の応急処置に奔走したミシェルのほうであった。顔見知りのルイズや才人はもちろん、これまでほとんど面識の無かったシエスタやロングビルも積極的にミシェルに話しかけて、あっという間に彼女を中心にした人の輪が出来上がった。

「どうもありがとうございました。ミス・ミシェル、わたし、前からずっと銃士隊の皆様を尊敬していたんです。強いしお美しいし、特にアニエス隊長と副隊長のミス・ミシェルは学院のメイド仲間の中でもあこがれの的で、わたしもいつか貴女様のようになりたいと思っています」

「本当に、噂に違わぬ勇敢ぶりですね。おかげで私もこの子も助かりましたわ、ほら、アイちゃんもお礼を言いなさい」

「うん、おねえちゃん、ありがとう」

「あ、うん……どういたしまして」

 ミシェルにとっては、これだけの人数にちやほやされるなど初めてのことだっただろう。才人が何の気兼ねも無く友人のように話していたこともあって、彼女が一行に受け入れられるのは早かった。

 とはいえ、街中で大衆の歓呼の声を浴びるのとは別の感じで、あたふたしている姿は英雄というより、運動会で一等賞をとってクラスメイトに胴上げされる女子生徒といったほうがお似合いかもしれない。

 それからは、ワルドを端にほっておいて、一行は思いもかけない感謝の渦に囲まれてとまどうミシェルといろいろとおしゃべりを楽しんだ。ただしこれからは、一行がサウスゴータ地方に向かうのに対して、王党派に接触しなければならないミシェルとワルドは、そこから離れた場所にある小さな出城に向かうことになるので、ここでお別れということになる。名残は惜しいが、いつまでもこうしているわけにはいかない。ロングビルとシエスタは馬車を取りに行き、ルイズと才人も彼女に別れを告げた。

「じゃあ、サイト、そろそろ行くわよ。ミス・ミシェル、あなたは身分は平民ですが、その行動の勇敢さにはわたしも見習うべきところがありました」

「そうだな、それじゃあミシェルさん、お仕事頑張ってください。俺にはよくわかんないけど、あなたの任務にハルケギニアの平和がかかってるんですよね。応援してます」

 その二人の尊敬と親愛の眼差しを込めた言葉に対して、ミシェルは不思議と影を含んだ表情で。

「ああ……また会おう」

 とだけ、憂えげに答え、心配そうに才人が手を差し伸べると、その手をとり儚げな笑みを見せて。

「心配するな……お前も、元気でな」

 それだけ言うと、彼女は二人に背を向けて出口に歩を進め始めた。

「彼女、どうしたのかしら?」

「さあ……」

 いつもだったら、「余計な心配をするな!」と怒鳴られそうなものなのに、あの、アニエスと並び立つほどの強気な女剣士が、今の後姿はなぜかとても小さく見えた。

 二人はその後、呆然と立ち尽くしていたが、ルイズが「あんたまさかあの人にまで手を出したんじゃあ!?」と、はっとしたように才人を問い詰めると、「そんなわけないだろ! 俺はまだ命が惜しい」「じゃあ安全なら手を出すわけ!?」と、例によって痴話喧嘩を始めて、逃げ出した才人をルイズがどこかへ追いかけていった。

 

 けれど、無言のままミシェルが立ち去ろうとしていたとき、急に後ろから呼び止められた。

「少々お待ちになって、まだわたくし達、貴女へのお礼を申していませんわ」

「ん?」

 ミシェルが振り返ってみると、そこにはキュルケとタバサが真剣な表情で立っていた。彼女たちは、才人たちがその場にいないことを確かめると、ミシェルに歩み寄って軍用の敬礼をとった。

「なんの真似だ? 当たり前のことを言うが、私は自分の義務を果たしただけだ。もうこれ以上は余計なことを言われる筋合いはないぞ」

 いいかげん疲れた、もう行くぞとミシェルは相手にしようとしなかったが、キュルケは強引に引き止めて、男ににじりよるときのように人懐っこい笑みを向けた。

「いいえ、そのことではありませんわ。わたしたちにも貴族としての、いいえ一人の人間として、命を救われてうやむやにされては、後味が悪すぎますもの」

「貸しの作り逃げは、卑怯」

 タバサも続いて半分独り言のようにつぶやくと、ミシェルはそれでようやく合点がいった。この二人がわざわざほかの者たちがいなくなったときを見計らって声をかけてきたのは、彼女たちにとっても人に聞かれたくない話だったからだ。

「ああ、あのことか……」

 軽く頭をかくと、ミシェルはため息とともに、あまり思い出したくない半日前の記憶を呼び起こした。

 

 

 それは戦闘中、キュルケたちが損傷を受けた『ダンケルク』号の応急処置に奔走していたときのこと。

 そのとき、艦隊は必死の防戦でかろうじて全滅は避けていたが、各艦の惨状は目を覆わんばかりだった。

 戦艦『リバティー』が炎を吹きながら、主砲弾庫の誘爆によって船体の半分と四本あったマストの三本を失って、幽霊船のようなありさまになって落ちていく。

 戦列竜母艦『ガリアデス』も艦尾の竜騎士の格納庫を無意味な空洞に変えられ、艦首に残ったわずかばかりの砲門を散発的に放つだけになっている。輸送船『ワールウィンド』は速度を高めた高速輸送船ではあったが速さの格が違い、三本マストの二本をへし折られていた。ただ、積荷が先に撃沈された二隻とは違って医薬品や薬草だったために、二匹はその匂いを嫌がってそれ以降攻撃対象から外したために、艦隊の中ではもっとも損害が浅かった。

 悲惨だったのはゲルマニア派遣軍の砲艦『タレーラン』だろう。この船は巡洋艦並みの船体に無理矢理戦列艦並みの装備を施したために、動きが鈍く、砲の射界が狭いために、その火力もほとんど役に立たないありさまだった。当然、テロチルスに一撃目で舵を破壊されて航行不能に陥り、後は甲板にのしかかったバードンによって上甲板を焼き払われ、あとはただ二匹がついばむだけのえさ箱と化してしまい、見かねた姉妹艦『メッテルニヒ』によって、せめて棺おけに落ち着いて海底の墓場へと消えていった。

 残りの巡洋艦も、もはや撃ち落そうとするよりも弾幕を張って少しでも時間稼ぎをしようとしているに過ぎない。そして、艦隊をこんな惨状に陥れた張本人の乗る『ダンケルク』は、その本人の風魔法でかろうじて高度は保っていたものの、ブリッジは屋根を飛ばされた露天艦橋になり、船底への連続攻撃によって船底の板は剥がれ落ち、火災が船底から徐々に上部へと延焼しつつあった。

「ごほっ、ごほっ! もう、消しても消しても次からと……これじゃきりがないわ」

 キュルケはタバサと協力しながら、火災が燃え広がるのをなんとか防ごうとしていたが、木造船なので全体が燃料と呼んでよく、火の勢いは収まるところを知らなかった。爆風で窒息消火しても、水と氷で消し止めても、別のところから燃え広がってくる。キュルケは、自分の系統である火が、これほど憎たらしいと思ったことはなかった。

 それでも、自分たち自身を守るためにはこの船を守るしかない。タバサも煙に巻かれながら呪文を唱えているし、ロングビルは避難誘導の手伝いをしている。シルフィードでさえ暴れだしそうな他の乗客の使い魔をなだめるために頑張っている。あの高慢なひげ面の目的のために努力しなければならないのは不愉快だが、自分だけへばるわけにはいかない。

 けれど、幸運の女神はまだこの船を見捨ててはいなかったようだ。上甲板から転げ落ちそうな勢いで階段を駆け下りてきたクルーが、「ウルトラマンAだ! ウルトラマンAが来てくれたぞぉ!!」と叫んだとき、悲壮感に覆われていた船内に、怨嗟の声に変わって大歓声が満たされた。

 だけども、一般客はともかくこの船の乗組員や、メイジであるキュルケたちは無邪気にお祭り騒ぎに加わるわけにはいかなかった。エースが来てくれたとはいえ、火災はまだ続いており、自分たちをバーベキューにしようとじりじりと迫ってくる。そしてエースは怪獣と戦っている以上、しばらくはこちらを助けには来られまい。エースが怪獣を倒したときには、船が丸焼けになっていたなど喜劇にも悲劇にもなりはしない。それでも、船がこれ以上怪獣の攻撃を受けることはないであろうということは、クルーたちにも安心をもたらし、消火作業の能率は徐々に上がって、火災も沈静化に向かっていった。

「よし、これなら大丈夫そうね」

 大きな炎は大体消して、あとはクルーたちの手作業でも消火は可能だろうと判断したキュルケは、タバサといっしょに大きく息をついた。戦ったわけでもないのに精神力を大きく消耗し、床はあちこちが抜けかけて海面が見えているが、とにかく一息つきたかった。

 けれど、そんな二人を休ませてはくれない事態が、駆け込んできた一人のクルーからもたらされた。

「貴族の方々、申し訳ありませんがお手を貸してください。竜骨に亀裂が入って、今にも折れそうなんです」

「なんですって!?」

「それ、まずい……」

 二人ははじかれたように立ち上がり、そのクルーの案内に従って通路を走り出した。竜骨とは、船を作るに当たって中心となる、船首から船尾までを貫く巨大な支柱のことで、人間でいえば背骨に相当する。これが折れるということは、人間が背骨を折るのと同じことで、いかに頑丈な船でも自重を支えきれずに真っ二つにへし折れ、あとは海面へとまっ逆さまである。二人は、今のうちに救命ボートでの脱出を勧めたが、すでに甲板に係留してあったボートのほとんどが吹き飛ばされてしまったと、悩む余裕すらない答えが返ってきた。もちろん、今の状況で他の船との接舷などは論外だ。

 だが、案内された現場はさらに過酷を極めていた。目的の竜骨の亀裂部の周りの床や壁はのきなみ剥がれ落ち、ひび割れた竜骨だけが橋のように、不気味なきしみをあげながら宙に揺れていたのだ。

「こりゃあ、しゃれにならないわね」

 破損部に近づいて修理しようにも、足場がなくては近寄ることさえできない。魔法が使えない平民ではどうしようもなく、今はメイジである自分たちだけがこれをなんとかできる。

「どうする、タバサ?」

「わたしが固定化で応急処置をするから、わたしをあそこまで連れてって」

「ま、それが妥当な線ね」

 メイジは、二つの呪文を同時に使うことはできるが、それを実践できるのは相当な経験と才能を持った使い手に限られる。残念ながら未来はともかく、今のこの二人ではそこまで到達していないので、キュルケがタバサを抱えて『フライ』で破損箇所に近づき、タバサが『固定化』をかけるという線で決まった。

 抱える方法だが、お姫様だっこ、後ろから羽交い絞めのポーズ、タバサをおんぶといくつかあったけれども、二人ともいざというとき別の魔法も使えないとこまるのでおんぶとなった。そうと決まれば善は急げである。

「どう、うまくいきそう?」

「もうちょっと待って」

 折れかけた材木に吸い込まれる魔法の光を見ながら、キュルケはできるだけ急いでくれとタバサをせかした。なにせ、足元は何もなく、高高度に宙ぶらりんである。『フライ』で飛ぶのは慣れていても、ここまで地上が遠いとめまいがする。 

 だが、タバサの『固定化』が後一歩で完成しようとしたときだった。突然船が激しく揺らいで、二人は船底の穴から外に放り出されてしまった。

「なっ、なに!? きゃああっ!」

 外に飛び出た瞬間、猛烈な風圧が二人を襲う。内部はシールドされていても、ここは高度五千メイル以上、そこを時速百キロ以上で飛んでいるのだから台風の中のようなものだ。外壁にかろうじて掴まりつつ、二人は『ダンケルク』の左舷から煙が上がっているのを見て、被弾した衝撃で投げ出されたのを知った。

「なん、て、タイミングの悪い」

 それは、エースと二大怪鳥の戦いの終盤に、テロチルスの放った光線の流れ弾が命中したものであった。ただ、『ダンケルク』にとっては軽微な損傷だったために、エースもこの船のクルーたちも無視していたのだが、唯一この二人にとっては最悪の一弾となっていた。二人の『フライ』を合わせて脱出しようと試みても、風圧が強すぎて吹き飛ばされないようにするのが限界だ。そして、振り落とされたら、この広大な海原で助かる術はない。

「こんな……ところで……」

「っ……お母様」

 風圧に抵抗していた精神力も尽きかけ、さしもの二人も絶望しかけたとき、二人の目に信じられない光景が映った。船体から木材のチップが接着剤で固められたような巨大な腕が生えてくると、二人の体をひょいとわしづかみにして、先程放り出された船体の破口に放り投げたのだ。

「どうやら、まだ死んではいなかったか」

 船内のまだ無事だった床に乱暴に投げ捨てられた二人を出迎えたのは、杖を軽く構えた青髪の騎士のぶっきらぼうな台詞だった。

「ミ、ミス・ミシェル!?」

「竜骨が破損したと聞いて急いで来てみれば、とんだ超過勤務が待っていたな」

 二人は、この銃士隊の副隊長が才人の友人だということくらいは知っていたが、個人的にはバム星人のトリステイン王宮襲撃と、アンリエッタ王女が学院に来たときちょっと顔を合わせた程度でほとんど面識がなかったために、こうして救われるとは思ってもみなかった。ましてや、剣士だと思っていた彼女がメイジだったとは、意表を衝かれすぎて、つい淑女らしくもなく目と口を開けっぴろげにした間抜けな顔を晒してしまった。

「あなた、メイジだったの?」

 やっと口にしたのは、そんなありきたりな没個性な台詞だった。

「土の、トライアングルだ。もっとも、貴族の称号など持っていないから、魔法は自己流だがな」

 見ると、破損していた竜骨も、がっちりと固定化をかけられた上に、別の木材を『錬金』して鋼鉄化させた鋼材で補強までしてある。トライアングルというが、スクウェアに近い実力と見て間違いあるまい。

 けれども、実力はともかくとして、平民のみで構成され、平民の期待の星である部隊であるはずの銃士隊の副隊長ともあろう者がメイジだったとは驚くしかない。すると、ミシェルも二人の目つきでそれを察したのか、一瞬だけ冷たい目つきをして口止めをかけた。

「少しでも、助けられたことに恩義を持つなら、このことはこれ限りで忘れてくれ」

 杖を懐にしまい、ミシェルは何事もなかったかのように剣士の容貌に戻った。

「え、ええ……それは、貴族の名誉にかけて約束いたしますわ……けれど」

「なぜ、私が銃士隊にいるかということか? 言ったろう、私はメイジではあっても貴族ではない。入隊以来、ずっと剣一本で今の地位を築き上げた。このことを知っているのも、アニエス隊長だけだ。そして、できるならこれ以上誰にも知ってほしくはない」

「ならば、なぜ秘密を知られるのを承知で、わたしたちを助けてくれたのですか?」

 すると、ミシェルは壊れかけたドアに手をかけたまま、二人には見えないように苦笑して、やや長い沈黙を挟んで独り言のようにつぶやいた。 

「……お前たち二人を見捨てたなどと知れれば、サイト……あのバカがつく正義漢に私が殺されてしまうわ」

 それだけ言い残して、ミシェルは呆然としている二人の前から去った。本当は、ここで二人を見殺しにしても才人には知られまいし、彼への評価も過大なのだが、どういうわけかミシェルの脳裏には、あの小生意気で青臭い正義感を恥ずかしげもなく振りかざす青二才のことが貼りついて、このところそれが気になって仕方がないのだった。

 

 その後、応急修理によってなんとか持ち直した『ダンケルク』号は、海面に不時着した『リバティー』と沈没した艦から脱出した乗組員の救助のために巡洋艦二隻を残し、よろめくようにアルビオンへとたどり着いたのだった。

 

 結局、このいきさつは当事者たち三人のうちにだけ秘められることになる。それでも、ミシェルに対するキュルケとタバサの認識は、大幅に書き換えられることになった。

「わたくし、銃士隊とはお堅い一方で面白みに欠ける方々だと思ってましたけど、その認識を改めさせていただきましたわ」

「できれば、認識を改める前と同じようにしていてくれ。気恥ずかしいったらありゃしない」

「了解いたしました。ですが、ともかく感謝しています。この借りは、いつか必ず返させていただきますわ」

「一個借り」

「わかったわかった。期待しないで待っておくさ」

 ミシェルは苦笑しながら、私はそんな気さくな柄じゃないと、手を振って立ち去ろうとした。しかし、キュルケはまだ用があると、もう一度彼女を引き止めた。

「ところでもう一つ、個人的に気になってましたけど、あなたとダーリ……サイトくんとはどういう関係ですの?」

「……戦友だ」

 そっけなく答えたミシェルだったが、彼女はキュルケとまだほとんど付き合いが無かったために、彼女を甘く見ていた。男心を知り尽くしているプレイガールとして名を馳せ、ルイズの家系から男を奪いまくった一族の血を受け継ぐキュルケは、同時に秘めた女心を見抜く術にも長けていたのだ。

「戦友ですか、けれど、ただの戦友にしては名前の呼び方に親愛がこもっているような……ミス・ミシェル……貴女もしかしてサイトのことを……」

「なっ!? ば、馬鹿な、あんなひょろながでヘラヘラした奴を誰が!!」

「あら? わたくしは将来有望な騎士になると思ってるのかと言ったつもりなのですが、なにか?」

「ぐっ!!」

 見事にキュルケの誘導尋問に乗ってしまったミシェルは、すました顔を紅に染めて口ごもったものの、完全にしてやったりと笑っているキュルケを見ると、負けを認めざるを得ない。

「まあまあ、わたくしこれで貴女のことが大好きになりましたわ。いいじゃないですの、内なる情熱に身をまかせるのは万人に許された権利ですわよ。それにしても、ルイズといい貴女といい、なんとも不器用ですこと。そんな内に気持ちをこもらせてしまっては、気づいてすらもらえずにそのうち枕を濡らすことになりますわよ」

 おせっかいだが、心のこもったアドバイスが硬派一徹でやってきたミシェルの心に沁みた。ただ、彼女にはその感情を素直に吐き出すことができない心のかせがあった。

「私は、国のためにこの身をすでにささげている。明日をも知れぬ身には、男など邪魔なだけだ。それに、あいつの生き様は、私にはまぶしすぎる……」

 ミシェルは、才人がうらやましかった。獣同然で生きてきた少女時代から、男はみんな敵だと見て生きてきたけれど、才人は、たいして強くないくせに自分以外のためには迷いも無く、陳腐な正義感を振りかざして立ち向かっていく。馬鹿としか、大馬鹿としかいいようがないのに、あいつとは安心して話すことができる。死んだと思っていた心に、熱が戻ってくる。

「私は、明るい炎に群がる蛾のようなものだ。光に憧れても、それは我が身を焼き尽くすだけ。所詮暗がりでしか生きられない日陰者さ」

「ミス・ミシェル、それは違いますわ。あなたが自分のことをどう評しようと勝手ですけど、人は蛾にも蝶にもなれる生き物ですわ。進んで光に歩み出せば蝶に、おびえて隠れれば蛾のままです。第一、あなたはメイジであることを悟られるのを承知でわたしたちを救ってくださいました。それは、あなたの心の中の光、あなたの心の中のサイトを裏切れなかったからじゃなくて?」

 ミシェルは言葉に詰まった。そして、キュルケの言葉でかつてツルク星人を倒すための特訓をしたとき、初めてサイトと話をしたときのことを思い出した。あのとき死ぬことを怖いと思わないのかと問いかけた彼女に、才人は。

 

「そりゃ怖いです。本当はみんなまかせて知らんふりをしていたい。けれど、ここで逃げ出したら、俺は自分だけじゃなくて、ずっとあこがれてきた自分のなかのウルトラマンまで裏切っちまうことになる。そうしたら、俺はもう俺じゃいられなくなる……ウルトラマンを真っ直ぐに見ることができなくなる」

 

 そう、照れながら答えたものだ。そのときはガキの理屈だと笑ったが、今ならわかった。才人にとってのウルトラマンとは、彼自身の心の光の象徴だ。だがそれは、本来誰もが持っているものであり、良心とも、愛とも言う。いつの間にか、誰の心の中にでも住んでいるヒーロー。今では、ミシェルにとってのウルトラマンが才人になっていたのだ。

「あの馬鹿に会ったおかげで、私の騎士としての部分はめちゃくちゃさ。なんでいちいち何かするたびにあいつの顔が浮かぶのか。はじめは、ただ少々剣の見所のある奴だと思ってただけなのに」

 気持ちの整理がつかないミシェルに、キュルケは内心で大いに苦笑しつつも、あることを思った。それは、彼女の思いと境遇が、才人とルイズの関係によく似ていることだ。二人とも、才人に出会う前はずっと一人の世界で生きてきた。しかし、そんな彼女たちの閉ざした心に平然と入り込み、本当はすごく弱いくせに、自分ができないことをやりとげ、昔失った前向きに生きる心を思い出させてくれる。そんな訳のわからない正義感と勇気と意地と優しさを持つ才人の生き方に、次第に心引かれるようになっていったのだろう。

 そして二人とも、その思いを相手に伝える術をまだ知らないでいる。

「……どうやら貴女には、直々にレッスンして差し上げる必要があるようですわね。失礼ですけどわたくし、幸せになれるくせに幸せを放棄しようとしている悲劇のヒロイン気取りの女を見ると虫唾が走りますの。めんどくさい任務とやらが終わりましたら、みっちりご自分の魅力を教えてさしあげますわ」

 キュルケのおせっかいが燃えた。タバサに強引に絡んでいくときやルイズにはっぱをかけるときもそうだが、才人とは別の意味で困った人を放っておけないというか、よい意味で貴族らしくない面を持っている。ミシェルとしては無視してもよかったのだけれども。

「まったく、隊長やサイトに続いてお前までも、よく酔狂に私などに関わろうとするものだ」

「そうでしょうか? 貴女ほどの女性なら、世の男たちも放っておかないと思いますけどね」

「平民だからとか、女だからとかで露骨に見下す態度をとってくる貴族や騎士ならいくらか覚えはあるがな。隊員たちの中には衛士隊の中とかに恋人を作ってる者もいるようだが、私や隊長にはなぜか誰も寄ってこん」

 なるほど、そういうことかとキュルケは理解した。いくら平民の、しかも女性のみの部隊である銃士隊がほかになめられないようにするためとはいえ、常日頃から殺気というか男は近寄るなオーラを出していては普通の男は怖がって近寄ってこないだろう。

 それともうひとつ、キュルケはルイズとミシェルの共通点として、才人のほかには周りにろくな男がいなかったのだとも思った。魔法学院の男子生徒はルイズをゼロと見下してきた者ばかりだし、ミシェルは無意識に男を拒絶していたから、それこそ近寄ってこれる男は才人ぐらいのものだったに違いない。

 けれども、キュルケはミシェルがその気になって磨けば、自分の知る中でも五指に入るくらい美しくなれる素質があるとも評価していた。今のままでは、ダイヤの原石も硬さを活かしてハンマーぐらいにしかなりはしない。彼女は苦笑しながら、自分より一回り年上の女性に臆することもなく言ってのけた。

「貴女、もう少しご自分の魅力というものを理解したほうがよくってよ。無骨な剣や、ましてや杖よりも、女の最強の武器は美しさですわよ」

「女であることなど、当に捨てたと思っていたのだがな……しかし、どうしてお前達は私を一人にしてはくれないのか」

「貴女には、ご自分では気づいていないだけで、人を引き寄せる何かがあるということでしょう。それが人から人へと伝わって、次第に貴女を中心にした輪ができていく。月並みな言い方をしますと、それが絆というものではなくって? わたしと、この子みたいにね」

 ぼんやりと無表情にしているタバサの肩を抱いて笑うキュルケの態度は、まさにそれを体言しているといってよかった。他者との交流を拒絶し続けていたタバサの隣にキュルケがいるようになってから、ルイズ、才人たち大勢がいつの間にか彼女の周りにいるようになっていた。

「私に、それほど人に好かれる要素があるとは思えないのだが?」

「だから、ご自分では気づいていないだけですよ。ただ、人の世のしがらみという奴からは、簡単には解放されませんわよ。おせっかいなお人よしってのは、案外どこにでもいるものですからね」

 自分のことを棚に上げて講釈するキュルケに、タバサは表情を変えないまま思った。ひどい世の中だが、思えば行く先々で自分はいろんな人に助けられている。渡る世間は鬼ばかりというが、なかなかこの世も捨てたものではない。百人嫌いな奴がいても、二、三人好きな人がそばにいれば人生というやつはばら色とはいかなくても灰色にはならない。本当に灰色になるということは、あるはずの絆がないと思い込んでしまうことだ。

「ふぅ……どうせ、お前たちのことだ。関わるなと言っても関わってくるのだろう?」

「ご明察ですわ。これがわたしなりの恩返しですもの、返しきるまで離れられると思わないことですわね」

「仇で返されている気がひしひしとするのだが……」

 こんなことなら助けなければよかったかなと、今更ながらに頭を抱えているミシェルの前では、タバサも「一個借りだから」と、指を一本立てて見つめてきている。どうやら、ミシェルは自分が蜘蛛の巣にかかってしまった虫であることを感じざるを得なかった。

 けれども、ほほえましい時間も、無情に流れる時間の前ではいったんの別れを余儀なくされるようだ。出口のほうから無粋にミシェルを呼ぶワルドの声が響くと、彼女は嘆息しつつ、二人に再会を約束して別れを告げた。

 さらば、と、また会うときを楽しみにしていますわという声が交差し、三者はそれぞれ踵を返した。しかし、片方は再会を心待ちにしていたが、片方はその日が来ることを望んでいなかった。望まぬことながら芽生えた絆と、なかったはずの心に灯った炎、それを自らの中に感じながら、彼女は低くつぶやいた。

「次に会ったときには、お前たちは私を唾棄し、殺したいほど憎むかもしれん。だが私は、それを止めることはできん……」

 その言葉は、遠ざかっていくキュルケたちの耳に届くには、あまりにも弱く、儚げすぎた。

 

 スカボロー港を後に、才人たちを乗せた馬車と、ミシェルとワルドを乗せた馬車は別の街道を通って離れていく。その枝分かれした道が、再び同じ道を辿ることになるのか否か、まだこれから待つ未来を正確に予知できている者はいない。

 

 

 だが一方、ハルケギニアの誰も知らないところで事態は加速度的に悪くなり始めていた。

 

 京浜工業地帯。かつて超獣ベロクロンの襲撃によって灰燼に帰した、瀬戸内海に面した一大コンビナートの一角の石油基地に、今危機が迫っていた。

 林立する石油タンクが食い破られ、踏み潰されたパイプラインから漏れ出た石油が広がって、コンビナート全体を危険な火薬庫に変えていく。それを引き起こしたのは、石油タンクを食い破って中に充填された原油をむさぼり飲む、緑色の毒々しいヒトデを横に二匹くっつけたような怪獣。このところ瀬戸内海近辺で頻繁に起こるタンカー沈没事故の犯人が、ついに陸地へと進出してきたのだ。

 だが、怪獣の横暴をこれ以上許すまいと、その上空に二機の炎の翼が駆けつけてきていた。

「こちらガンウィンガー、現場に到着、怪獣の情報を送ってくれ!」

〔ドキュメントSSSPに記録を確認、油獣ペスターです。石油を常食とする怪獣で、両側の体に蓄えた石油を使っての火炎放射攻撃を得意とします。気をつけてください〕

 ガンウィンガーから陣頭指揮をとるリュウの元へ、フェニックスネストからの新人オペレーターの声が響く。同乗するのはミライ、後方にはガンローダーもついてくる。二機は、夢中になって石油をむさぼっているペスターの上空で攻撃態勢をとると、武装の安全装置を解いた。

「ヒトデの化け物め、一思いに吹き飛ばしてやる」

 ペスターは石油を飲むのに夢中で、完全に無防備な状態になっている。今なら目をつぶっても当たると、ヒトデ型の胴体のど真ん中に照準を合わせた。しかし、リュウが攻撃命令を下す寸前、ガンローダーからの通信がそれを押しとどめた。

〔待ってください隊長、敵は石油を大量に体内に抱え込んでいます。攻撃で引火したらコンビナート一面火の海になってしまいます!〕

「なにっ!?」

 今にもトリガーに指をかけようとしていたリュウははじかれたように操縦桿を引いて、機体を上昇に持っていった。考えてみればペスターはそれ自体巨大な爆弾と呼んでいい。そしてこの石油基地が壊滅したら、ここからエネルギーと工業製品の材料を得ている工業地帯全域が大打撃をこうむってしまう。

「リュウさん!」

〔隊長!〕

 後部座席のミライと、ガンローダーからの、次世代GUYSのメンバーの一人、ハルザキ・カナタの声を受けて、リュウは我に返った。

「悪い、カナタ。だがこれじゃあ下手に攻撃できねえな。フェニックスネスト、奴に弱点とかはないのか?」

〔い、今検索しています。ですが決して攻撃しないでください。ペスターが飲み込んでいる分の石油に引火したら、ガンウィンガーに積んである程度の消火剤では消しきれません〕

 焦った様子のオペレーターの声が届いてきたが、リュウは急げよと言っただけで、後は任せた。新人たちもこのところの怪獣の連続した出現で経験を積んできてはいるものの、まだまだ速さと正確さではリュウの望む値には達していない。

「リュウさん、ここは僕が」

 ミライが、メビウスとなって協力しようかと言うと、リュウは決然とそれを拒否した。

「ミライ、でしゃばるな。ここはまだ俺達の戦いだ。あの程度の怪獣にてこずっているようで、地球は俺達人間の手で守るなんて言えるか! お前の出番はまだ先だ」

〔そうですヒビノさん、僕たちはまだ全力を出し切っていません。見ていてください〕

 カナタもまた、リュウと同じように答えた。彼は、リュウ率いる新GUYSの一員で、エンペラ星人の攻撃の少し後になってから起きた、エンペラ星人の残した生きた鎧、アーマードダークネスの事件以来、リュウの愛弟子とも言うべき期待の新星である。

「わかりました。じゃあ、いっしょにあの怪獣を倒しましょう!」

 ミライも二人の心意気を酌んで答える。このところワームホールからの怪獣の出現は減ったが、逆に怪獣頻出期並みに怪獣の出現数が上がってきており、ミライもやむを得ずメビウスとなって戦う機会が増えただけに、軽々しく変身しようとした自分を改めて律した。

 けれども、手をこまねいているうちにペスターによる被害は増えていく。

「くそっ、だが攻撃できないんじゃ……奴の分析はまだか!?」

 このままでは石油基地の石油が全部ペスターのエサにされてしまう。威嚇攻撃で動きを止めようにも、場所が場所だけに引火を招いてしまう。リュウはフェニックスネストのオペレーターをせかしたが、かえって彼を焦らせてしまうだけだった。しかも、いいかげん頭上を舞う蝿の存在に気づいたペスターは、ヒトデ型の胴体が二つつながったところについているコウモリのような頭を上に上げ、その口から真赤な火炎を吹き上げてきたのだ。

〔隊長、危ない!!〕

「ちいっ!!」

 間一髪のところで火炎をかわしたリュウだったが、事態はどんどん悪くなっていく。このままペスターに火炎を吐かれて、それが基地の石油に引火したら大惨事になる。一刻も早くペスターを倒さなければ! しかし動く爆弾のような相手をどうやって?

 そのとき! 焦るリュウたちの元に、通信を通してフェニックスネストから懐かしい声が届いてきた。

〔リュウさん、ペスターの弱点は頭です。そこを攻撃すれば、誘爆は起きません!〕

「その声は!?」

「テッペイさん!」

 なんと、それはかつてリュウとミライととともに、CREW GUYSの一員として戦って、今は医者の勉強のために一線を退いているはずの仲間、クゼ・テッペイの声だったのだ。

「お前、どうして!?」

〔説明は後で、ともかくペスターの弱点は頭です。かつて出現した個体も、頭部をウルトラマンのスペシウム光線で撃ち抜かれて倒されています。そこをピンポイント攻撃すれば、メテオールを使わなくても倒せます。さあ、被害が出る前に急いで!〕

 テッペイは根っからの怪獣・ウルトラマン好きで有名で、過去の怪獣との戦いの知識は下手なコンピュータを凌駕し、怪獣博士の異名を持つ、その彼が言うのだから間違いはない。

「ようしわかった! カナタ、奴の頭に至近距離からピンポイント攻撃をかけるぞ。だが、奴の火炎攻撃を正面から受けなきゃならねえ、俺が奴の頭上を飛んで気をひく間にお前が撃て!」

〔わかりました。フォーメーション・ヤマトですね!〕

 カナタは即座にリュウの考えを理解した。ペスターの頭部を正確に狙うには、真正面から至近距離で狙うしかないが、そうなれば火炎にやられてしまう。ならば一機が囮となって怪獣の注意を引き、その隙にもう一機が急所を狙うしかない。この戦法こそ、かつて不死身の怪獣サラマンドラを倒すために、奴の弱点である喉を狙い打つためにUGMが開発し、発案者である矢的猛隊員の名を冠した必殺の【フォーメーション・ヤマト】だ!!

 すぐさまリュウのガンウィンガーが先頭に立ち、ガンローダーが後に続く。ペスターは当然囮となって派手に近づいてくるガンウィンガーを狙って火炎放射の照準を合わせてくる。

「いくぞカナタ!! 続け」

〔G・I・G!〕

 ペスターの火炎が上昇回避したガンウィンガーのすぐ下を通過していく。まるで、炎の河の上を走っているようだが、リュウは憶さずにペスターの顔面スレスレにまで近づいて急上昇をかけた。その瞬間、ペスターは反射的にガンウィンガーを追って真上を見上げ、それによって、後方から接近してきていたガンローダーに気づけなかった!

「今だ、カナタ!!」

〔バリアブルパルサー!!〕

 ぶつかるかと思われるほど接近したガンローダーから、必殺の超至近距離攻撃がペスターの眉間に命中する。火花が散り、奴の頭部で小規模な爆発が起こるものの、テッペイの言ったとおり誘爆が起きることはなかった。

「どうだっ!?」

 普通の怪獣ならこれで倒せることはまれだが、急所をついたのだ。リュウの、ミライの、カナタの視線が頭部を焼け焦げさせたペスターに注がれる。倒したか? それとも……だが、息を呑む三人の前でペスターは、ゆっくりとよろめくと、背中から数本のパイプラインと、一台のトラックを巻き込んで崩れ落ちた。

「やった!」

「いよっしゃあーっ! よくやったぜカナタ!!」

〔は、はい。ですが、隊長の先導があったからです。ありがとうございました〕

 GUYSだけでの怪獣撃滅成功に、三人の意気が一気に上がる。新人隊員のカナタも、謙虚さを保ちながら自らの手での勝利に喜びに湧いた。

 けれども、そんな彼らの元へ、フェニックスネストのミサキ女史からさらなる怪獣出現の連絡が入ってきた。

〔リュウ隊長、たった今関東第三原子力発電所近辺にガボラが出現したという連絡が入りました。すぐに向かってください〕

「なんだって!? またか」

 リュウは愕然とした。ここ最近はまた数日の頻度で事件が起こっているが、今ペスターを倒したばかりなのに、いくらなんでも怪獣の出現頻度が高すぎる。もはや偶然とは思えない。

 だが、とにかく原発が狙われている以上急行せねばならない。

「すぐに向かう。カナタ、ガンフェニックス、バインドアップ!」

 ガンウィンガーとガンローダーが空中で合体して、高速発揮できるガンフェニックスの形態となる。

「テッペイ、怪獣のデータを教えてくれ」

〔はい、ウラン怪獣ガボラ、ドキュメントSSSPに記録があります。地底怪獣の一種で、ウラニウムを食料とし、動きは鈍いですが口から放射能光線を吐きます〕

「また面倒な相手だな……だが、このままじゃ間に合わないぞ」

 いくらガンフェニックスが高速とはいえ、中国地方から関東までは遠い。フェニックスネストにはまだほかの隊員たちも残っているけれども、出現したガボラは原発のすぐそばに現れたらしい。緊急発進してきたとしても間に合うか。

 しかし、焦り始めるリュウの耳に響いてきたのは、テッペイの落ち着きはらった声だった。

〔大丈夫ですリュウさん。実はそちらのほうにも、すでに強い味方が向かっています〕

「なに? まさか……」

 いたずらっぽく答えるテッペイから、強い味方の名前を聞いたとき、三人の顔に自然と笑みが浮かんでいた。

 

 そのころ、関東の山中にある関東第三原子力発電所には、首の周りに巨大なヒレをつけた四足歩行の扁平なトカゲのような怪獣、ガボラが、今にも発電所の建物に頭を突っ込むというところまで接近してきていた。

 このままでは、破壊された原子炉から漏れた放射性物質によって関東一帯は放射能に汚染されてしまう。

 だがそのときだった。発電所に駆け込んできた一台の車から飛び降りてきた、眼鏡をかけた童顔の女性が空に向かってGUYSメモリーディスプレイを掲げて叫んだのだ。

「ミクラス、お願い!!」

 ガボラの前に、高分子ミストの緑色の輝きが渦を巻いて現れ、その中から浮かび上がるかのように雄牛のような怪獣が現れる。これこそ、CREW GUYSが誇る超絶科学メテオールの一つ、高分子ミストを実体化させて作り出すマケット怪獣、ミクラスだ!!

 

 

 続く


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