ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第43話  超合体、栄光を求めた果てに

 第43話

 超合体、栄光を求めた果てに

 

 ゼットンバルタン星人 登場!

 

 

 コスモスとジャスティスに追い詰められたバルタン星人のリーダーは、卑劣にも同胞であるバルタン星人の子供たちを人質にとって脅迫してきた。

 子供を人質にとられたのではコスモスとジャスティスも手が出せない。そしてバルタンは抵抗できない二人を容赦なく痛めつけていく。

 なんとかしようにも、子供たちが捕らえられているバルタン星人の宇宙船『廃月』には簡単には乗り込めない。

 だが、卑怯なバルタンの野望を阻止するために、ウルトラマンダイナが密かに駆けつけていたのだ。

 

『ウルトラマンダイナ・ミラクルタイプ!』

 

 変身したダイナはすぐさま廃月の内部へとテレポートした。人質の押し込められている広間の場所まではわからなかったので、テレポートした先はどこともわからない通路だったが、そんなことでダイナは止まらない。

〔なんとなく賑やかそうなほうに向かえば大丈夫だろ!〕

 お気楽なノリで決めてダイナは通路をダッシュした。

 乗組員はあのバルタン三人と人質の子どもたち以外にはいないらしく、無人の通路をひた走る。しかし元は民族移民船であっただけに広く、迷いかけたとき、突如ダイナに不思議な声が呼び掛けてきた。

「危ない、その先には罠が作動しています」

〔んなに? おおっと!〕

 ダイナが反射的に足を止めた瞬間、床から無数の刃が飛び出してきてダイナに向かってくるではないか。

〔侵入者避けのトラップってわけか。へっ、こんなものにやられるかよ〕

 ダイナはそのままコマのように回転し、向かってきた刃をすべてスピンで弾き返してしまった。周りが砕かれた刃の破片で埋まる中で、またさっきの声が呼びかけてくる。

「よかった。この船には、まだ今のようなトラップが生きてるところが残ってるんです」

〔その声、俺たちに通信を送ってきたのはお前だな。お前……いや、君もバルタン星人なのか?〕

「そうです。みんなでさらわれてきましたが、わたしだけがなんとか抜け出して通信室からメッセージを送っていました。この星に迷惑をかけて、ごめんなさい」

〔謝らなくてもいいさ。君が悪いんじゃない。悪い奴は、俺たちがささっとやっつけてやるから心配すんな。なんたって、俺はウルトラマン、ウルトラマンダイナだからな〕

「ありがとうございます。ここからはわたしがナビゲートします。その先を右に曲がってまっすぐ進んでください」

〔よっしゃ! まかせろ〕

 ダイナは案内に従って通路を走った。迷路のような宇宙船の中を右に左にと駆け、やがて大きな扉の前に出た。

「その先が、皆が閉じ込められている大広間です。急いでください、コスモスさんたちが」

〔よおっし、すぐにみんなを助けてやるぜ。こんな扉くらい、どりゃぁぁぁ!〕

 ダイナのパンチが扉を吹っ飛ばした。ミラクルタイプはパワーが下がるものの、アスカの熱い根性をもってすれば扉の1枚くらい問題にならない。

 広間に飛び込んだダイナは、驚き慌てて跳び回っているチャイルドバルタンたちの中を駆け抜けて、中央部に据え付けられている爆弾のもとにたどり着いた。

〔こいつが爆弾か〕

 爆弾はまるで生物のように赤い光を放ちながら脈動している。アスカでも一目見て、これはヤバいという雰囲気をビンビン放っていた。

 すると、そのとき外でコスモスたちと戦っていたリーダーバルタンがこの様子に気づいた。

「まだウルトラマンがいたとはな。だが、その爆弾は少しでもショックを与えたらその瞬間に起爆する。解除方法は私しか知らんのだ、人質といっしょに吹き飛びたくなかったら、貴様もそこでおとなしくしているがいい」

 リーダーバルタンは勝ち誇って笑った。彼の足元には大きなダメージを受けて横たわるコスモスとジャスティスの姿がある。

 確かに、ほかのウルトラマンなら打つ手が無かっただろう。だが、ダイナ・ミラクルタイプは違う。ダイナは臆した様子もなく首をコキコキと鳴らすと、爆弾へ向けて構えた。

〔触っちゃダメなら触らなきゃいいんだろ? こんなでっけえボール、場外まですっとばしてやるぜ〕

 ダイナの手にエネルギーが集まる。リーダーバルタンはそれを見て「なんだと! やめろ」と叫んでいるが、もちろんダイナに自爆する気などさらさらない。そしてダイナの手から放たれた光線が爆弾の周囲の空間を捻じ曲げた。

『レボリュームウェーブ!』

 マイクロブラックホールを作り出して対象を別次元に消滅させる光線が、爆弾をそのままの状態でこの次元から消し去ったのだった。

 これでチャイルドバルタンたちへの脅威は消えた。ダイナは喜び祝福するチャイルドバルタンたちに囲まれながら、コスモスたちへ言った。

〔さあ、もう心配はいらないぜ。コスモス、遠慮しないでその悪党をやっつけちまえ〕

 ダイナの心強い言葉がコスモスとジャスティスを勇気づける。そして、枷から解放された二人の放った強い怒りがリーダーバルタンをたじろがせた。

「う、あ……」

「シュワッ!」

「ごあっ!」

 赤い電光のように放たれたコスモスの鉄拳がリーダーバルタンを吹き飛ばした。コスモスが慈愛の戦士と呼ばれるとはいえ、これだけの卑劣を重ねておいてまだ許しが得られるわけがない。

 超えてはいけない一線をこのバルタンは超えた。この先はもう、彼が望んだとおりの展開しかない。バルタンは苦し紛れにドライクロー光線を放つが、コスモスはジャンプでかわしてキックを打ち込む。

 むろん、ここまで情状酌量の余地を無くしたバルタンにはジャスティスも断罪一択だ。コスモスから逃れようとしたバルタンの退路を塞ぎ、音速を超えた拳が轟音とともに打ちのめした。

「デアッ!」

「ぎゃあっ!」

 バルタンは片方のハサミをもぎ取られて倒れる。これで光線は片手でしか撃てないし、受けたダメージから飛行やテレポートで逃げることも不可能。

 チェックメイト……バルタンは逃れられない死を意識した。人質は奪還され、カオスウルトラマンのような手駒ももう無い。数秒後に介錯されるのを待つだけだろう。

 だが、それでもバルタンの中には渦巻く恨みの炎が燃え上がっていた。

「こんなところで死ねん。我らバルタンは最強でなければならんのだ」

 強さのみに価値を見いだし、強さのみに誇りを抱いてきた者にとって、敗北は絶対に認められなかった。なんのために仲間を裏切ってまでコスモスに復讐に来たのか? コスモスを倒し、安穏な平和に甘んじて屈辱を忘れている連中に思い知らせるのではなかったのか?

 嫌だ、こんなところで死ぬのは嫌だ。あんな軟弱な連中に笑われるのは嫌だ!

 とどめの光線を放とうとしてるジャスティスを前に、バルタンの中からとめどなく呪いの言葉が涌き出てくる。

 だが、その時だった。死を前にしたバルタンの頭の中に、グラシエの嘲る声が響いたのは。

「あーあー、みっともないですねえ。せっかくパワーアップのお膳立てまでしてあげたのにその体たらく。そんなものですか? あなた方の強さというものは」

「この声は! 貴様、テレパシーでささやいてまで、我々を笑おうというのか」

「いえいえ、私は負け犬には興味ありませんよ。ウルトラマンを倒すのは、それが誰であろうと利益の大きいこと。その点、あなた方を見込んで同盟を結んだのは間違いとは思っていませんよ。ですから差し上げに来たのですよ、ウルトラマンたちを倒せる圧倒的な力をね」

「なに! なぜ今さら?」

「本当はこの力は私が一人占めしていたかったのですがねえ。あなた方に負けられても困るので、出血大サービスというやつです。さあどうします? 今ならタダで差し上げますよ」

 グラシエの提案が美しい毒花のように甘美な匂いでバルタンの思考をくすぐった。普通に考えればそんなうまい話はないと思う。しかし、バルタンはまさに死の一歩前に追い詰められ、断れば後は死しかない。

 このまま死ぬくらいならば……バルタンは、誘いに乗ることを決めた。

「いいだろう。よこせ、その力を!」

「わかりました。では差し上げましょう、ハイパーゼットンから我々バット星人の技術で抽出濃縮した、この新鮮なゼットン細胞の力をあなたに!」

 グラシエの言葉とともに、バルタン星人の体内に空間転送されたゼットン細胞が送り込まれた。そしてゼットン細胞はその強力な生命力で瞬く間にバルタン星人の全身に増殖していったのである。

 バルタン星人の体が膨れ上がり、異常に気付いたジャスティスは光線を撃とうとしていた手を止めた。コスモスも驚いて見つめる前で、バルタン星人の体が変化していく。

「ヲヲヲヲ、感ジルゾ。スゴイ、モノスゴイパワーガ! ガ、ガガガガ、ガ」

 紫色の光を放ちながら変化していくバルタン星人。コスモスとジャスティスは、学院の生徒たちは唖然としてそれを見守るしかない。

 そして、二つの存在はついに統合を果たした姿を彼らの眼前に現した。

 

 ゼットン!

 

 バルタン星人!

 

 超合体

 

 ゼットンバルタン星人!!

 

「フォフォフォ……ゼットォーン……」

 バルタン星人とゼットンの声。

 見上げるような巨体はベースはゼットンのものだが、頭部にはバルタン星人の三角形の角が突きだし、腕にはバルタン星人のハサミがついている。体の各所にもバルタン星人の意匠が見られ、紛れもなくそれがゼットンとバルタン星人の合体怪獣だということを証明していた。

 ゼットンと同じ頭部の黄色発光器官を上下に点滅させながらコスモスとジャスティスを見下ろすゼットンバルタン星人。グラシエはその黒き威容を見下ろして、腹を抱えながら笑っていた。

「ウハハハ! 素晴らしい。まさかこんなにバルタン星人とゼットンの親和性がよいとは、最高のデータが取れますよ。ゼットンバルタン星人、さあ、その力はいかほどに?」

 グラシエが言い終わるのと同時に、ゼットンバルタン星人は動いた。いや、消えた。瞬時にテレポートして移動したのだ。

 コスモスとジャスティスははっとして周囲を見渡す。

 どこだ? どこに消えた? だが二人が気配を探ろうとした瞬間にゼットンバルタン星人は二人の背後に現れて、ハサミで二人を同時に殴打した。

「ゼットォーン!」

「ヌァッ!?」

「ウォァッ!?」

 死角から後頭部や背中を打たれて倒れこむ二人。しかし二人は決して油断していたわけではない。

〔なんという速いテレポートだ〕

 ジャスティスは驚きを隠せずに言った。

 テレポートにも精度の差というものがあり、例えば予備動作やエネルギーの集中、消えて現れるときの空間の変化などを見切れば避けることも可能だ。だがこのゼットンバルタン星人のテレポートには予備動作も空間の変化も一切なく、本当に瞬間的に空間を移動した。

 これは見切れない。ゼットンとバルタン星人、共にテレポートを得意とする両種族が合わさったその精度は完璧だ。

 だがむろん、それだけであるはずがない。ゼットンバルタン星人のハサミがおもむろに上がり、ハサミの中から強烈な青い光線が放たれる。

〔避けろ! コスモス〕

〔この光線は、はるかにパワーアップしている!〕

 かわした先で大爆発が起こる。すごい威力だ。

 二人はゼットンバルタン星人の恐るべき破壊力を目の当たりにして、その危険さを認識した。こいつは、ここで止めなければ! 反撃の光線がゼットンバルタン星人へと向かう。

『ブレージングウェーブ!』

『ライト・エフェクター!』

 二人の必殺の一撃が赤い二閃の光芒となって突き進む。

 だが、ゼットンバルタン星人は腕を垂直に立てると体の周囲にゼットンシャッターに似たバリアーを張り巡らせた。

 光線がバリアーに当たって轟音が響き、閃光が飛び散る。二人のウルトラマンの光線は、通常のゼットンのバリアーであればそのまま押しきって破れるほどのパワーを込められていたが、ゼットンバルタン星人のバリアーはついにひびも入ることなく二人の光線に耐えきってしまった。

〔く……っ〕

 ジャスティスが光線に全力を注いだ疲労でひざを突いた。

 あの一撃で揺るぎもしないとは……グラシエは予想以上の結果に狂奔を感じた。が、しかし。

「素晴らしい素晴らしい、予想を超えています。どうですかお気持ちは? バルタンさん?」

「……ゼットン」

 ゼットンバルタン星人はグラシエからの呼び掛けに応じることなく、コスモスをハサミで殴り付けた。

「ヌアァッ!」

「フォフォフォ!」

 苦悶の声をあげるコスモスを、ゼットンバルタン星人はさらに殴り付けていく。それを止めようとジャスティスが組み付いても力任せに振りほどき、二人まとめて乱打する。その行為には知性は感じられず、グラシエはははあと納得して顎をなでた。

「あらあら、ゼットン細胞の力に負けて自我が食われてしまったようですね。これは今後の課題になりますか。けれどまあ、お望みどおりにウルトラマン以上の力を持てたんですから本望でしょう」

 まるで良いことをして気分がいいようにグラシエは笑った。

 ゼットンバルタン星人はゼットンの破壊本能と、バルタン星人の怨念だけを受け継いだかのようにコスモスとジャスティスへ襲いかかる。

「ゼットン!」

 ゼットンバルタン星人のハサミがコスモスの首を捕らえて吊り上げた。苦しそうな声を漏らしてもがくコスモスを助けようと、ジャスティスが組み付く。

〔ぐぅっ、なんという力だ!〕

 ジャスティスが全身で力を込めてもゼットンバルタン星人は揺るがないほど強力だった。それでもエルボーを当てて拘束を緩ませてコスモスを助け出す。

 だが、ゼットンバルタン星人の顔面の発光体が光ると、ジャスティスは炎に包まれて吹き飛ばされてしまった。

「ムアアァッ!」

〔ジャスティス!〕

 ゼットンの一兆度の火球の直撃を受けてしまったのだ。その威力はものすごく、ジャスティスは大きなダメージを受けて立ち上がることもできずに苦しんでいる。

 さらにゼットンバルタン星人はハサミをジャスティスに向けて追い討ちをかけようとしてくるではないか。いけない! コスモスはジャスティスの前に立って、全力のバリアを張った。

『サンライトバリア!』

 金色に輝くバリアがゼットンバルタン星人の光線を受け止める。だが、通常のドライクロー光線であれば十分に受けきれたはずが、光線はバリアを押しきってコスモスまでも弾き飛ばしてしまった。

「ウアァッ!」

 バリアのおかげで直撃だけは免れたものの、衝撃はコスモスの体を貫いて、コスモスはジャスティスの傍らに倒れこんでしまった。

「ムッ、ウアゥッ……」

 体をよじり苦痛に耐えるコスモスの胸でカラータイマーが再び点滅を始める。ティファニアもコスモスの中から「コスモス、しっかりして!」と呼びかけてくるが、コスモスのダメージは甚大だ。

〔コ、コスモス……〕

 ジャスティスが苦しげな息で立ち上がろうとしている。しかしジャスティスのカラータイマーも点滅を始め、肉体のダメージはコスモスよりさらにひどそうに見える。

 そこへ、とどめを刺さんとゼットンバルタン星人は頭部を輝かせて、再び一兆度の火球を放ってきた。巨大な火球が二人に急速に迫りくる。その瞬間だった。

〔ウルトラマンは、ここにもいるぜ!〕

 ダイナがテレポートで火球の前へと割り込んできたのだ。目の前に迫った火球に対して、ダイナはブラックホールを生成する技術を応用して火球のエネルギーを吸収圧縮し、ゼットンバルタン星人へ向けて撃ち返した。

『レボリュームウェーブ・リバースバージョン!』

 撃ち返されたエネルギーがゼットンバルタン星人を襲うが、再び光波バリアーを張られて防がれてしまった。

 だが、その反撃はコスモスとジャスティスが体勢を立て直す貴重な時間を稼いでくれた。よろめきながらも立ち上がり、ダイナに並んだコスモスはダイナに礼を言った。

〔ありがとう。君に助けられた〕

〔礼にはおよばねえって。それより、こっからは俺も戦うぜ、こいつは半端な力じゃ勝てなさそうだ〕

〔君の言うとおりだ。あれに勝つためには、我々の力をすべて出しきるしかない〕

 ジャスティスも同意し、彼らは眼前のゼットンバルタン星人を見据えた。

 バリアを解き、無傷のゼットンバルタン星人は発光体を点滅させながら三人のウルトラマンを見下ろしている。

「ウル、トラマン……」

 わずかに残ったバルタン星人の意識か、それともゼットンの遺伝子に刻まれたウルトラマンと戦う本能か。一言つぶやいたゼットンバルタン星人は、再び電子音を鳴らしながら三人のウルトラマンへと歩みを始めた。

 

 ハルケギニアを覆う戦塵。ゼットン軍団との一進一退の攻防は続くも、その戦況はいずれもかんばしくはない。

 ゼットンはもとより『ウルトラマンを倒すために生み出された怪獣』。ウルトラマンの能力を分析し、そのすべて上をゆくべく育てられた力は数多の強豪怪獣が記録される現在なお”最強”の名を冠せられていささかも恥じるものではない。

 

 ガリアの首都リュティスでハイパーゼットンの見元で行われている、ウルトラマンヒカリとゴルガーの変則タッグと青いゼットンとの戦いも決して容易なものではなかった。

「シュウワッ!」

 ジャンプしてナイトビームブレードでヒカリは青いゼットンに切りかかった。だが、必殺の気合を込めたにも関わらず、青いゼットンは腕で光剣を受け止めてしまった。

〔なんという強固な体だ!〕

 ハイパーゼットンと怪獣たちの怨念のエネルギーを得たことで、このゼットンの身体能力も素体とは比較にならないほど強化されていた。

 それは単純な防御力だけの話ではない。シルフィードとフレイムの息が合うようになったゴルバーが突撃をかけても、青いゼットンはゴルバーの頭を掴んで止めてしまう。

「どっせーい!」

「なのねーっ」

「ゼットン!」

「ぬわっ、こいつっ!」

「すごい力なのねっ」

 青いゼットンはゴルバーの頭を掴んだまま振り回し、そのまま放り捨ててしまった。

 打ち倒され、痛みで体をよじるゴルバーをかばってヒカリが傍らに寄り添って油断なく構える。幸い重傷にはいたらなかったが、ゴルバーの二匹は悔しそうに言った。

「いてて、あいつなんなのね? なぐってもなぐってもピンピンしてるなんてずるいのね」

「いやぁ、それだけじゃねえぞ。あの野郎、俺たちの攻撃が当たりにくくなってやがる」

 フレイムはキュルケ譲りのクレバーさで、青いゼットンの戦法が変化してきているのに気づいていた。その言葉にはヒカリも同意して、二匹に注意するようにうながした。

〔確かに、あのゼットンはこちらの攻撃を的確に防御するようになってきている。恐ろしい学習能力を持っている〕

「それってつまり、こっちの攻撃はどんどん効かなくなってくってことかい?」

〔そうだ。闇雲に仕掛けても効果は薄い、一気に大ダメージを与えるつもりで攻めなくては。できるか?〕

「そうはいっても、シルフィたちだって疲れてきてるのね……」

 戦いは長引き、ヒカリはもちろんゴルバーにも疲労がたまってきていた。対して、ゼットンはハイパーゼットンのそばなおかげかエネルギーの減少は見られない。

 戦況はどう考えても不利そのものである。しかも、この青いゼットンを倒した後にさらにハイパーゼットンをも倒さなければならないのだ。

 無茶もいいところ……しかし、フレイムとシルフィードが絶望感と焦燥感を抱き始めている前で、ヒカリは毅然とした姿勢を保ち続けていることに、フレイムは怪訝に思って尋ねた。

「よう、青いウルトラマンのあんちゃん、あんたずいぶん落ち着いてるけど、なんか勝算でもあるのかい?」

〔そんなものはない。ただ、私の仲間はこれよりもっと厳しい戦いを乗り越えたことがある。それを知っているだけだ〕

 落ち着いて答えたヒカリに、フレイムとシルフィードは驚いた。これよりもっと大変な戦い? いったいどんなものか想像もつかない。

 ヒカリは思い出していた。かつてのメビウスの地球での戦いの最終決戦で、エンペラ星人は並の怪獣よりはるかに強いロボット兵器の無双鉄神インペライザーの大軍勢で地球を襲ってきた。一体ごとが桁違いに強く、やっと倒しても次々に新しいインペライザーが転送されてくる絶望的な戦況でも、満身創痍のメビウスもGUYSも決してあきらめずに戦い抜いた。

 あの時の傷だらけのメビウスを思えば、このくらいのことで音をあげられない。それに、勝ち目がないわけではないことを、ヒカリは二匹に告げた。

〔我々がここで持ちこたえれば、ハイパーゼットンの内部から攻撃が始まるかもしれない。そうだろう?〕

「そ、そうなのね! きゅい、おねえさまならきっとやってくれるのね」

 シルフィードは思い出した。ハイパーゼットンの中ではタバサが必死に戦っているであろうことを。タバサが帰ってくるまで、ここでがんばろうと決めたんじゃないかと。

 タバサの苦労に比べたらこのくらいでへこたれてどうするのか。

「おねえさま、シルフィはがんばるのね」

 シルフィードの心意気に、ヒカリも〔その意気だ〕と頷いて答える。一方で、フレイムはやや疎外感を感じていたが、それを察したようにキュルケが叫んだ。

「フレイムーっ、その姿も素敵よ。わたしがここで見てるから、わたしの誇りのあなたのかっこいいところを存分に見せてちょうだい」

「うぉぉ! おれはやるぜぃ!」

 キュルケの檄にフレイムもその名前のように燃えた。あの火竜どもと延々縄張り争いをするほかに何もない火竜山脈から拾い上げてくれたご主人への忠義を今こそ見せる時だ。

 気合を入れなおしたゴルバーの正面から向かってくる青いゼットン。我こそは強者だと誇るように悠然と進んでくるゼットンに、シルフィードとフレイムは息を合わせてメルバニックレイと超音波光線の同時発射で迎え撃つ。

 驀進する光線と光弾。青いゼットンは得意の光波バリアーを張り、余裕で受け止めてしまった。

 しかし、これはヒカリにとって予想できたこと。バリアを張っている間はゼットンも動けない上にバリアーに邪魔されてレーダーになっているゼットン角の機能も鈍る。ヒカリは空高くジャンプして、バリアの空いている頭上から急降下キックをおみまいした。

「セアッ!」

 すれ違いざまに火花が散り、弱点でもあるゼットン角へ攻撃を受けたゼットンはバリアを解いてよろめく。かつてメビウスがマケットゼットンを相手に使った流星キックでの攻略法だ。

 強力な力を持つものはその力に自信を持つと同時に慢心を抱き、それが隙となる。隙ができたゼットンにゴルバーは全力で体当たりを喰らわせる。

「だりゃあっ!」

 頭からの力任せの体当たり。だが体勢を崩していたゼットンはまともに食らって建物を巻き込みながら吹き飛ばされた。

「やったのね!」

 シルフィードは喝さいをあげた。いける、この状態でもまだ十分戦いようはあると。

 しかし追い打ちをかけようとした直後、ゼットンは上体を起こして顔の発光体からの白色光弾で攻撃をかけてきた。

「うわっ!」

 白色光弾は火球ほどの威力はなかったものの、突進を阻まれてゴルバーが足を止めた隙にゼットンは起き上がってしまった。 

〔いかん!〕

 ゴルバーが逆に追撃を受けそうになっているのを見たヒカリは、ナイトビームブレードを振って矢じり状のエネルギー弾を飛ばした。

『ブレードシュート!』

 光弾は攻撃を察知したゼットンがはたき落とすようにしてかき消されてしまった。だがそのおかげでゴルバーは姿勢を取り直し、なんとか追撃を避けることはできた。

 今度は前後からゼットンを挟み撃ちにする形で構えるヒカリとゴルバー。もちろん、テレポートを持つゼットンに挟み撃ちは意味がないことくらいわかっているし、ゼットンも悠然と立っていた。

 さすがはゼットン。ヒカリとゴルバーはゼットンと再び対峙し、また振り出しに戻ってしまった。

 いや、状況はいっそう悪くなったと言うべきか。隙を突いて打撃を加えたものの、与えたダメージはさして大きくはなく、同じ手は二度と通用しないに違いない。さらにヒカリとゴルバーの体力も削られている。

 やはり戦況をどうにかするには……シルフィードは自分もがんばると決めたが、懇願するようにタバサに向けて祈った。

「おねえさま、急いで……」

 

 

 ゼットン軍団は数多くの勇士達の懸命の戦いにも関わらず、その威容を維持し、その力で希望を押し潰そうとしている。

 なにより、その根元たるハイパーゼットンがいる限り、危機は決して去りはしない。

 そのハイパーゼットンの体内に広がる異空間に飛び込んだタバサとジョゼフ。二人はハイパーゼットンのエネルギー源にされたシャルルを止めるべく、シャルルの心が具現化した記憶の迷宮をひた進んだ。

 楽しかった思い出、悲しかった思い出、シャルルが兄と娘に隠してきた暗部の記憶、ジョゼフに対するシャルルの嫉妬と憎悪が二人の前に幾度も繰り返された。

 それでも、二人は足を止めなかった。二人が信じてきた完全無欠な天才であり清廉潔白な人格者というシャルルの虚構が剥がれ、俗人としての素顔を見ることになっても迷宮を進み続けた。

 そして見せる記憶も尽きたとき、ついにタバサとジョゼフは心の迷宮の最深部で待っていたシャルルのもとへとたどり着いていた。

「とうとうここまで来たんだね。兄さん、シャルロット……」

「ああ、俺は執念深いのでな。チェスは勝つまでやらないと気が済まないたちだ」

「おとうさま、帰りましょう。おとうさまは、利用されているだけなのです」

 やってきたジョゼフとタバサを、シャルルは苦々しそうな表情で迎えた。

 心の迷宮の最深部……そこはシャルルの心を映すように真っ暗な空間だった。

 空も床もひたすら黒一色で、互いの姿ははっきり見えるのに他に何もない。シャルルはその真ん中で、幽鬼のように立っている。

 タバサの呼びかけにも、シャルルはじっと押し黙っていた。ここにいるシャルルは実体なのだろうか……? タバサがそう考えたとき、ジョゼフがずかずかと大股でシャルルの前に歩み寄った。

「お前の仕掛けたゲーム、なかなかおもしろかったぞ。ここまで来たということは、俺たちの勝ちでいいのだな?」

「本当に、よく来たね。さすが兄さんだよ。僕ももう逃げも隠れもしないよ。けど、ゲームはこれからだよ」

 真正面からにらみ会うジョゼフとシャルル。タバサはその威圧感に圧されて、この二人の間に割り込めないものを感じた。互いに火花を飛ばしあう二人……その口火を切ったのは、またジョゼフのほうだった。

「まだゲームは続くか、それは嬉しいことだ。せっかくのお前との勝負が簡単についてはつまらん。せっかく、お前も本音を出せるような道具を手に入れたことだしな」

「ああ、これのことかい」

 シャルルはそう言うと、オレンジ色に不気味に明滅する魔石を取り出した。

「これは素晴らしい。僕のなかにあったもやもやしたものがすっきり無くなっていく感じがする。言えなかったことも、隠したかったことも、全部さらけ出していいんだって……ガリアの王の座は僕のものだって、ずっと兄さんが邪魔だったんだって」

 ムザン星の魔石でむき出しにされた憎悪を向けられても、ジョゼフは薄笑いすら浮かべながら答える。

「ああ、聞いたよ。光栄なことだ、俺のような非才の身がお前のような天才の目の上の瘤だったとはな。お前のその悔しそうな顔、フフフ、それがずっと見たかったよ」

「っ、僕は、僕はずっと我慢してきたんだよ。どんなに引き離しても、兄さんは必ず僕のそばにいた」

「どうしても追い抜けなかったがな。その度に俺は悔しがってやったからおあいこだろう。さて、前置きはここまででよかろう。俺を始末しようと思えば簡単だったはず、わざわざここまで通したお前の考えを聞こうか?」

「簡単だよ。兄さんに僕の恨みをすべてぶつけた上で、対等な条件で決着をつけることさ。兄さん、僕はあなたに決闘を申し込む」

 その言葉を聞いた時、ジョゼフは大きく目を見開き、タバサは悲鳴をあげんばかりに顔をひきつらせた。

「決闘! ほほうなるほど、王族が玉座を賭けてゲームするのに、確かにこれ以上の方法はないなシャルルよ」

「兄さんは汚い手を使って一度僕の命を奪ったんだ。僕は正々堂々戦ってあなたからガリアを奪い取る。そして僕は兄さんの呪縛から解放されるんだ」

「それは高く買ってもらったものだ。だが、奪わなくともガリアはお前にくれてやると言っただろうに」

「それではダメなんだ! 兄さんにも見せた通り、僕は考え付くすべての方法を使っても父上に僕を後継者と認めさせることはできなかった。こうなったからには、父上が認めた兄さんを僕の手で倒す以外に僕が王にふさわしくなる方法はないんだよ」

「それがお前の心の中の埋まらない穴、か。いいだろう、ガリア王ジョゼフ、この決闘受けて立ってやる」

 ついに杖を抜いたジョゼフに、タバサは血相を変えて叫んだ。

「や、やめて! おとうさま、やめてください。こんな決闘に、意味なんてない」

 タバサは二人の間に割って入り、父は魔石に操られているだけだから決闘なんて無意味だと止めようとした。しかしジョゼフはタバサの肩に手を置き、そっとだが断固として力強く脇にどかさせた。

「さがっておれシャルロット。王位継承者同士の決闘には、たとえお前でも入る権利はない」

「なにを馬鹿なことを。決闘なんてしても、またあの日の繰り返しになるだけ」

「そうではない。あそこにいるのは、シャルルがずっと隠してきたシャルルの中の悪魔そのものだ。魔石のせいでもない素顔のシャルルだ。倒さねばならん。それに、これは俺たち兄弟がけじめをつけるための最後の機会だ。兄である俺しかできないことだ。シャルロット、お前はそこで見届けていろ」

 有無を言わせぬジョゼフの命令に、タバサは返す言葉を封じられてしまった。

 威圧感……いや、ジョゼフが放った今のものは、タバサが初めて感じた”王”の……そう、威厳というべき堂々たる風格。認めたくはないけれど、そう感じずにはいられないものだった。

 杖を抜き合い、視線を交差させる二人の王族。この瞬間、ジョゼフとシャルルは王子であった頃に戻って、ただ力のみが結果を左右する真剣勝負の舞台に立った。

 

 初めは素直になれなかった兄弟の、ただの意地の張り合いにすぎなかったことが、世界を揺るがす戦火に繋がろうとは誰が想像できただろう。

 

 ただし、悲劇を利用して邪悪な野心を果たそうとしている奴は別だ。バット星人グラシエとゼットン軍団は人間たちと光の戦士の力で倒さなければならない。

 ゼットンと怪獣兵器に襲われているもうひとつの場所、ラグドリアン湖では長身のゼットンがモロボシ・ダンの操る三体のカプセル怪獣と戦いを続けていた。

 ダンの命令の元で、チームワークを駆使して立ち向かうミクラス、アギラ、ウィンダムのカプセル怪獣たち。しかし、エレキミクラスやファイヤーウィンダムにパワーアップした力を駆使しても相手はゼットン。すべてのポテンシャルにおいて圧倒的な差があり、善戦するも軽く腕を払うだけでカプセル怪獣たちは弾き飛ばされてしまい、こちらでもじわじわ追い込まれ始めていた。

「アギラ、しっかりしろ。お前はまだやれるはずだ」

 ダウンさせられたアギラをダンが叱咤する。対してゼットンにはまだ目だったダメージは見えない。シンプルにカプセル怪獣の攻撃力ではゼットンの防御力を貫けないのだ。

 やはりウルトラマンくらいの力でなければゼットンとは正面から戦えない。ダンにもわかっているが、このままゼットンの進撃を許せば町で大きな犠牲が出る。光の戦士の使命は勝利することではない、尊い命を守ることなのだ。

 ダンは三匹への指揮を駆使してゼットンの進行を遅らせようと指示を飛ばし続ける。そんな折、額の汗が流れて目に入ったダンが目をぬぐったとき、彼の視線をふっと横切ったものがあった。

「太陽……?」

 生きとしいけるものの源の太陽。今日もそれだけは変わらず輝き続けている太陽が、一瞬ふっと違った光を放ったように見えた。

 

 

 続く。


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