ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第42話  不屈・勇戦vs卑怯・卑劣

 第42話

 不屈・勇戦vs卑怯・卑劣

 

 宇宙恐竜 ゼットン

 宇宙ロボット キングジョー

 宇宙忍者 バルタン星人 登場!

 

 

「おやおやまったく、本当にハイパーゼットンに自ら飛び込んでいくとはなんと無謀なんでしょう。大丈夫ですかねえ王様にお姫様? いやはやこれですから、人間というものは見ていて飽きないものですよ。ねえ、皆さん?」

 

「おや? あちらもこちらも賑やかで、私のことを忘れておいででいらっしゃったのではありませんか? いやいや、バット星人グラシエ! この私のおかげであなた方もこの最高のショウを見物できるのですから、ちゃんと覚えていてくれなくてはいけませんよ」

 

「ノンノン、不機嫌な顔はいけませんよ。このショウは、瞬きしている暇もないのですからね。ほらほら、天気もちょうどよくなってきて、もうあまり時間はないことですしね」

 

「とはいえ、こちらの人間たちのお相手はどれもゼットン。そのわずかな時間すら耐えられるかどうかもわかりませんねぇ」

 

「それに、私の呼んだゲストの方々も、そろそろ奥の手を出さないといけないあたりでしょうか。さてさて、このゲームがおもしろくなるのはこれからですが、そこまで何人が生き残れるでしょうね? ああ、ただ待つのもなんですし、せっかくですから、いっしょに様子を見にゆきましょうか」

 

「ではまずは、トリスタニアのゼットンとペダン星人の生き残りの方々の戦いを見物しましょう。ルビアナさんにはずいぶん振り回されましたが、ほかのペダン星人の生き残りは凡人ばかり。キングジョーがあるとは言ってもどこまで戦えるか? フフ、頑張ってもらいたいですね」

 

 

 グラシエの気まぐれで、視点はトリスタニアを俯瞰する空へと移る。

 トリスタニアの街はゼットンの放つ火球で炎上し、何十か所から煙を立ち昇らせている。

 かつて科学特捜隊基地を炎上させたときのように、黒々とした巨体から電子音を鳴らしながら、ゼットンは無機質に炎に照らし出されている。その前に立ちふさがるのは金色の巨人キングジョー……だが、その姿はよく言って満身創痍で、自慢の装甲は傷だらけのつぎはぎだらけ、スクラップがかろうじて動いているようなひどい有り様である。

 いや、それだけならまだしもキングジョーの右腕には失った腕の代わりに以前トリスタニアでエースに撃破されたナースの首が接続されており、背中のブースターの代わりに大砲が据え付けられている強引な改造が施されていた。

 とてもまともな状態ではない。それでも、キングジョーの中に無理矢理増設されたコクピットに座る幼げな少女は意気軒高だった。

「やっぱりアタシたちは、こいつといっしょが一番落ち着くっス。お嬢様、見ててください。パーフェクトキングジョー(仮)出るっス!」

 以前ダイナに破壊されたキングジョーを回収して修復したが、時間も設備の余裕も無くて修復率はわずか50%。本来ならばとても出撃させるなど無理な状況だ。いや、ほとんど自殺行為に等しい。

 キングジョーは歩くだけでもぎこちなく、関節や修復個所からギシリギシリと鈍い音を立てている。まともに歩けてさえいないキングジョーに、ゼットンはキングジョーよりも機械的に無言で火球の照準を合わせた。万全のキングジョーのペダニウム装甲ならばゼットンの火球も跳ね返せるだろうが、穴だらけのこの状況では一発食らっただけで終わりだ。

 だが、コクピットの少女は八重歯をむき出しにして笑いながらレバーを押し込んだ。

「キングジョーウィップ、食らうっス!」

 するとなんと、キングジョーの右腕に取り付けられたナースの首が伸びてゼットンに飛び掛かったではないか。ナースの金色の竜の頭がゼットンの頭部に激突し、不意を打たれたゼットンは仰向けに倒れ込む。

「やったっス! ペダンの科学力を思い知ったか」

「まだだラピス! ゼットンがそんなもので死ぬはずがないだろ」

「あっハイ!」

 浮かれたところに飛び込んできた通信で叱責され、ラピスと呼ばれた少女は慌ててレーダーを見た。

 確かにゼットンのエネルギー数値はぜんぜん減っていない。すぐに反撃が来ると身構えるラピスが操縦桿を握り直した瞬間、強烈な閃光とともにキングジョーに衝撃が走った。

「わあっ! なにっスか!」

「うろたえるな! ただの目眩ましだ」

 ゼットンは火球を発射せずに、そのままエネルギー放射をおこなったのだ。元が一兆度の火球なのでエネルギーは強力で、余波だけで周辺の建物が炎上している。キングジョーにダメージを及ぼすほどではなかったがセンサー類にショックを与えるには十分で、動きが止まった隙にゼットンはキングジョーの至近にテレポートして掴みかかってきた。

「ラピス、動け!」

「でも、まだモニターが」

「違う! レーダーを見ろ」

 言われてラピスはレーダーに映ったゼットンへ向けて右手のナースハンドを動かした。ナースの頭が動いてゼットンを狙うが、ゼットンは二度は喰らわないとばかりに払いのけてしまう。ゼットンの手がキングジョーのボディを軽く打っただけで激しく揺さぶられ、コクピット内のラピスも振り回された。

「きゃああっ!」

 急造のコクピット内で火花が散る。本来のキングジョーでならば何でもないような衝撃でも、最初から満身創痍のこのキングジョーにとっては十分に致命傷になる威力だった。

 早くも関節や装甲のヒビから煙を吹き始めるキングジョーに、ゼットンは容赦なくウルトラマンをも吹っ飛ばせるチョップを打ち込んで地に這わせ、無慈悲なストンピングを繰り返して追い込んでいく。

 その、あまりにも早い一方的な展開に、城から見守っていたアンリエッタはやはり行かせなければよかったと後悔し、グラシエは呆れたようにため息をついていた。

「おやおやこんなものですか。少しは期待したのですが、ミス・ルビアナなしではしょせん烏合の衆ですか。眠い戦いですねえ」

 踏みつけられ続けるキングジョーは全身からスパークを発し、もういつ爆発してもおかしくないありさまだった。だがそれでも、コクピットの中の少女はあきらめずに操縦桿を握る。

「アタシは、アタシはまだ負けてないっス! お嬢様、見ててください」

 寝返りを打ったキングジョーの背中に装着されている砲塔の砲身がストンピングを続けようとするゼットンを向き、直径36センチの巨弾を至近距離から4発お見舞いした。

 バリアも張れない距離の反撃にゼットンは砲弾をもろに食らって爆発に吹き飛ばされる。もちろんこの程度ではゼットンにはたいしたダメージになっていないが、その隙に起き上がったキングジョーの中のラピスは荒い息をつきながら、まだ折れない闘志を瞳に燃やしていた。

「痛い……けど、負けない、負けないです。よーし、こうなったら最終兵器を見せてやるっスよ!」

 頭をぶつけて額から血がにじんでいる。口の中もあちこち切って鉄の味がする。けど、それでも笑顔を絶やさずに明るくにこやかに。尊敬するあの人のように。

 しかし今さらキングジョーにどんな手が残ってるというのだろう。いや、キングジョーにはまだ誰もが知っている最強の武器が残っている。接近してくるゼットンに対して、キングジョーは足元に隠していた巨大ななにかを抱えあげて丸太のように叩きつけた。

「どっせーいっ!」

 ゼットンはキングジョーの振り回した何かに殴られてよろけた。それを見たトリスタニアの人々のほとんどは、それがなんなのかを理解できなかった。だが、ごくわずか、東方号を見たことがある者たちは、それがなんなのかを察することができた。

「船……?」

 そう、船だった。それもただの船ではなく、ハルケギニアの木造船とは大きさも次元の違う鋼鉄製の地球の船、戦艦である。

 構わず迫り来るゼットン。しかしキングジョーは抱えた巨大な戦艦を大きく振りかぶって、思い切りゼットンを殴りつけた。

「チェストォーッス!」

 ゼットンは受け止めようとするものの、何万トンという大重量の激突には耐えられずに吹き飛ばされて煉瓦の建物に叩きつけられる。

 まさか! こんな原始的な攻撃でゼットンに会心の一撃を加えたことに、グラシエは唖然とした。そしてキングジョーは抱えた戦艦を倒れたゼットンに押し付けるようにしてマウントから押さえつけにかかった。

 もだえるゼットンは振りほどこうとするものの、押し付けられてくる船体が邪魔になって手が届かない。そのまさかのゼットンが苦しめられている光景に見ているものたちが唖然とする中、ラピスの陽気な声が辺りに響いた。

「どおっスかあ! これぞ、キングジョー最強の武器、タンカー投げっスよ」

 それを聞いて、かつてのウルトラセブンとキングジョーとの戦いを知る者たちははっとした。神戸港を破壊したキングジョーは、セブンとの戦いで停泊していたタンカーを持ち上げて武器にしたことがある。さしものセブンも自分の体重よりも重い船舶をキングジョーの怪力で振り回されては大変で、弾き飛ばされたり押さえ込まれたりして、キングジョーがタンカーを持ち上げるのを懸命に阻止しようとしていた。

 だが、なんとまさか。グラシエは驚くのと同時に、いくらなんでもそれはないでしょうと呆れた。

 しかし、実はこれは多くのペダン星人たちの考えではない。円盤に残ったジオルデ他のペダン星人たちも、「そんなの知らんぞ」とうろたえている。なんとラピスは自分の独断でこの戦法を考えていたのだ。

「ふっふーん。夜も寝ないで昼寝して資料ビデオをガン見したアタシに隙は無いっス! 分析の結果、ウルトラマンに一番効果があった武器はこれで間違いないっス」

 確かに効いてはいるが、ちょっとそうじゃないだろうと全員が心の中でツッコミを入れた。

 だが調子に乗ったラピスは抱えた戦艦を盾にしてキングジョーを前進させていく。

 なお、この戦艦は元々はラグドリアン湖に沈んだバラックシップの一部であった戦艦を引き上げてキングジョーを修復する資材の足しにしたもので、名前をプリンス・オブ・ウェールズというイギリスの戦艦である。主砲は36センチ四連装2基と連装1基の十門で、四連装主砲の1基は取り外されてキングジョーの背中に取りつけられ、良質な鋼材も取り出されてほぼスクラップと化していた。ただ時間が無くて船体はそのまま放置されていたのにラピスが目を付けたのだ。

「ちぇーすとーぉっ!」

 大太刀を振り上げる薩摩武者のようにキングジョーは戦艦でゼットンを殴りつける。満身創痍とはいえキングジョーのパワーで振り抜かれた巨大な船体は、今度もゼットンの防御をものともせずにぶっ飛ばした。

 再び唖然とする観戦者一同。そこに追い打ちをかけようと、キングジョーは独特の稼働音をあげながらゼットンへ向かっていくが、ゼットンも三発目を食らってはなるかと瓦礫に半分身を埋めながらも顔からの白色光弾を放ってきた。

「お見通しっス!」

 しかしキングジョーは白色光弾を船体を盾にして防ぐ。余談だが、この戦艦プリンス・オブウェールズはキング・ジョージⅤ世級戦艦の二番艦である。キングジョーとキング・ジョージ……どこか似ているのは運命であろうか?

 余談閉幕。ゼットンの白色光弾は盾にされたプリンス・オブ・ウェールズの装甲をはがしはしたものの、貫通はできずに防がれた。さすがは浮いていた頃は不沈戦艦と呼ばれただけはある頑丈さだ。キングジョーはおかえしにと、頭部にある突起から破壊光線デスト・レイを発射してゼットンにお見舞いする。

 小爆発。ゼットンにはたいしたダメージにはなっていないものの、余裕ぶって戦っていたゼットンのペースが乱されているのは確かだ。最初は呆れてこんな原始的な戦法などとと思っていたグラシエも、少しは認識を改めていた。

「なるほど、キングジョーのパワーを活かすのならシンプルなほうが合理的なのかもしれませんねえ。思えば、ルビアナさんのキングジョーブラックとも思想は同じ……いや、ラピス嬢は単純なだけでしょうねえ」

 素人の率直な発想が最良の選択に行きついたわけか。なんとかと天才は紙一重とはよく言ったものだ。

 ゼットンは迫り来るキングジョーに、接近戦は不利だとテレポートで距離をとった。するとキングジョーも戦艦を左手に持ち掛けて、右腕のナースヘッドをゼットンに向かって伸ばす。

「くらえっス!」

「いやあゼットンも馬鹿ではありませんよ。ほら、光波バリアーです」

 グラシエの言った通り、直立したゼットンの周囲に発光する透明の壁が現れてナースヘッドを弾いてしまった。八つ裂き光輪も粉々にする頑強なバリアーの前には力押しの攻撃など無力……と思われたが。

「押してダメなら、もっと押すっスよ!」

 なんと、弾かれたナースヘッドを鞭のように振るって第二撃、第三撃を叩き込み、それでもバリアーが破れないと四発目、五発目をバリアーに叩きつけ続けた。

「いやいや、そんな力任せなことで……」

 ゼットンのバリアーが破れるわけがない。しかし、諦めずにラピスはさらにナースをゼットンのバリアーにぶつけ続ける。

 キングジョーのボディがきしみ、ナースの頭部も度重なるバリアーとの激突で欠け始めた。無駄なことを……と、グラシエは思っていたが、グラシエもひとつ見落としていることがあった。攻撃を受け続けている以上は、いくらゼットンでもバリアーを張り続ける他には何もできないということを。

「せありゃあーっ!」

 二十発目の攻撃がゼットンのバリアーに当たって跳ね返されると同時に、直立不動を保っていたゼットンがぐらりと姿勢を崩した。バリアーを張り続けるのが長くなりすぎて保ちきれなくなってきているのだ。

 そして二十一発目のナースヘッドの攻撃がバリアーに当たった瞬間に大きくひびが入り、二十二発目の攻撃で戦艦の船体をバットのように振るった一撃が遂にバリアーを粉砕。ゼットンは巨大な鉄塊に正面からぶち当てられてぶっ飛んだ。

「しゃあーっ! やったあーっス!」

 ラピスの喜ぶ声が町中に響き渡る。まさか、ゼットンのバリアーを本当に正面からの力技だけで突破してしまうとはと、グラシエも本気で驚いている。

 バリアーを長く張りすぎて消耗していたゼットンはキングジョーの戦艦バットをもろに喰らってダウンし、まだ死んではいないものの、独特の電子音を弱らせている。

 さすがは腐ってもかつてウルトラセブン単独では勝てなかったスーパーロボット。半壊の状態でもここまでやるとはと、グラシエは驚いた。

 キングジョーはダウンしたゼットンをプリンス・オブ・ウェールズの船体で押し潰そうと上から押しつけている。このままいけば本当にゼットンをKOできるのではないか? 思いもよらぬ戦いの流れに、アンリエッタやペダン星人たちが希望を持ち始めていた、その時だった。

「正直驚きましたよ。素朴な発想も勉強になります。ですが、そのゼットンをただのゼットンと思っていてはいけませんよ」

 グラシエがそう言った瞬間、キングジョーの背中に黒い光弾が命中して爆発した。

「きゃあっ! な、なにっスか?」

 衝撃でキングジョーが揺らぎ、ゼットンへのマウントが外れてしまう。モニターを操作して攻撃した相手を探すと、いつの間にかキングジョーの後ろにサソリのような甲殻怪獣が現れていたのだ。

「い、いつの間に! これでも食らえっス!」

 キングジョーの背中に装備された四連装主砲が旋回し、砲撃をその怪獣に浴びせた。その砲撃で、怪獣はもろくも倒れて爆発の中に消える。

 やったのか? ずいぶん簡単に……しかしそこへジオルデの声が悲鳴のようにコクピットに響いた。

「ラピスまだだ! 左右にまだ二体いる」

「えっ!?」

 ラピスはモニターを見て愕然とした。なんと、今倒したのと同じ怪獣……二匹の怪獣兵器スコーピスがこちらを狙っていたのである。

 いったいどうなって? 混乱するラピスやペダン星人たちを嘲笑うようにグラシエは言った。

「このゼットンたちはハイパーゼットンの莫大なエネルギーを分け与えることで、死んだ怪獣たちを怪獣兵器として蘇らせることができるのですよ。それにしても、かつては悪名高いサンドロスの怪獣兵器であったスコーピスを自分の怪獣兵器にするとは、このゼットンもなかなか人が悪い」

 この場所ではまだ怪獣兵器が現れていなかったために、ラピスたちは怪獣兵器のことが頭に無かった。怪獣兵器は生前に比べれば非常に弱いが、それでも能力は残されている。二匹のスコーピスの頭部から黒色の破壊光弾フラジレッドボムが放たれてキングジョーを爆発が包んだ。

「あああぁっ! こ、こんのぉっ!」

 火花が弾けるコクピットの中で、ラピスは必死にレバーを押し込んでナースヘッドの一撃でスコーピスの一体を弾き飛ばした。生前は強靭な生命力を有していたスコーピスも、怪獣兵器としてゾンビ化した今では一撃で耐久力が尽きて爆発四散してしまう。

 ラピスは伸ばしたナースヘッドを引き戻し、もう一体のスコーピスも狙おうとした。だが。

「お嬢さん、そんな雑魚にかまっていていいんですか?」

 キングジョーの背後から突き出された強烈な掌底が攻撃体制のキングジョーを突き飛ばした。

「うあぁっ! うぅっ、ゼ、ゼットン……」

 ノイズでかすむモニターに、体勢を立て直したゼットンが映っていた。

 ラピスは体のあちこちを打ち付けて痛むのを歯を食い縛って我慢する。そしてゼットンに再びタンカー投げをぶつけようとキングジョーを振りかぶらせ、戦艦を思い切り振り回した。

 だが、度重なるダメージでさらに動きの鈍ったキングジョーのタンカー投げは、今度はゼットンに完全に見切られていた。プリンス・オブ・ウェールズの船体はゼットンに受け止められ、そればかりかゼットンは船体を逆に振り回してキングジョーを打ち据えたのである。

「きゃあぁっ!」

 コクピットに火花が散り、ショートした機械から焦げ臭い臭いが充満する。もはやオートでのダメージコントロール機能も限界で、ひび割れた装甲や関節から火花を散らすキングジョーは、いつ爆発してもおかしくないような有り様だった。

 いや、キングジョーだけならまだしもパイロットも限界だった。狭いコクピット内で何度も体をぶつけて、ラピスは額から血を流し、小柄な体はもう数えきれないほどのところが痛んでいる。

 だがそれでも、それでもラピスは操縦桿から手を離そうとはしなかった。

「まだ、まだっス……お嬢様は、ルビアナお嬢様は、あきらめろなんて教えてくれなかったス……お嬢様の意思は、アタシたちはここで生きていくんス! パーフェクトキングジョーは、伊達じゃないっスよ!」

 満身創痍のキングジョーは、奇跡としか言いようがないような再起動を果たした。傷だらけのナースヘッドをゼットンに構え、背中の砲門をスコーピスに向ける。しかし、もはや勝ち目があるようにはとうてい見えず、全身から白煙と火花を噴き上げる悲壮な姿に、アンリエッタは涙を流しながら止めていた。

「もう、いいです。もう、やめてください」

 これ以上親しい者たちが傷ついていくのを見るのはたくさんだ。だが戦う力はもう残っておらず、始祖に祈るしかできない自分の無力さを呪った。

 あのキングジョーが勝つことは、もはやどんな手段をもってしても不可能だろう。それを確認して、グラシエは最後まで見ることなく踵を返した。

「よく頑張ったとほめてあげたいところですが、凡人はしょせんここまでですね。さて、それでは次に気になっているところは、と」

 

 グラシエの姿がトリスタニア上空から掻き消え、別の場所にワープする。

 次に現れた場所は、トリステイン魔法学院の上空。そこから見下ろす先ではウルトラマンコスモスとジャスティスが、二体のバルタン星人とカオスウルトラマンカラミティを相手に激闘を繰り広げていた。

「さあて、場を盛り上げるためにわざわざ呼んだ特別ゲストですからね。もうちょっと楽しませてくださいよ」

 自分の仕込みで他人が右往左往するのが楽しくて仕方ないというふうにグラシエは笑った。

 グラシエにとってハルケギニアは使い捨ての実験場、どうなろうと構いはしない。だが、この場に生きる目的を持つ者たちにとっては、それが正でも邪でも真剣勝負の場であることに変わりない。平和と正義を守るコスモスとジャスティスに対し、侵略者バルタンの戦いは激しく燃え上がる。

〔バルタン星人、お前たちのやっていることは、決して正義ではない〕

〔宇宙正義の名において、お前たちの行為を悪と断ずる〕

「ウルトラマンジャスティス、コスモスに与するのならば貴様もいっしょに葬ってやる。やるのだ、同志よ!」

「おおうっ!」

 バルタンのリーダーは聞く耳を持たず、部下のバルタンとカラミティを引き連れて挑みかかってくる。

 そんな、あくまで暴力をもって事をなそうという悪を、ウルトラマンは許さない。

「シュワッ!」

 コスモス・コロナモードの目にも止まらぬ超高速移動がバルタンの背後をとる。エネルギーを回復したコロナモードのスピードは瞬間移動にも近しいもので、二体のバルタンが振り向く隙も与えずに、回し蹴りでまとめてふっとばす。

「シェアッ!」

 強烈な一撃に続いてコスモスの攻撃は止まらない。一体のバルタンが起き上がる直前にタックルをぶつけ、さらにもう一体へと流れるような動きからアッパーをお見舞いする。

 バルタンはコスモスの動きについていけずに翻弄され、またも地を舐めることになった。

「お、おのれ」

 本来ならばバルタンはコスモスに対して、二体のカオスウルトラマンを擁することで圧倒的に有利に戦いを運べるはずだった。しかしカオスウルトラマンの一体は倒され、残るカラミティもジャスティスによって追い詰められている。

〔コスモスの贋作か……心を持たない力など、是非もない〕

 ジャスティスはカラミティに対し、無感情そのものの声色で言った。ただ姿形を似せただけの人形、こんなものに比べれば、まだ自身の悪意で動いていたサンドロスのほうがましだ。

 コスモスによく似た構えからパンチを繰り出してきたカラミティの攻撃を、ジャスティスは軽く手のひらで受け止めた。カラミティは困惑したようにつま先を蹴り上げてくるが、ジャスティスはわかっているようにかわす。

〔コスモスの戦法ならすでに承知している。よくできたコピーだ〕

 皮肉げに言い、ジャスティスはカラミティの腕をとると引き倒すように地面に叩きつけた。

「セエィッ!」

 受け身もとれずに背中から叩きつけられ、カラミティから苦悶の声が漏れる。だがジャスティスはそんな人形の反応などには目もくれず、倒れたカラミティの胸に鉄拳を叩き込み、さらに腕を掴んで力づくで引きづり起こして投げ飛ばす。

『ジャスティス・ホイッパー!』

 強烈な投げ技が炸裂し、カラミティが地面に叩きつけられる振動で学院も揺れる。

 しかし恐怖のないカラミティはなおも立ち上がり、ジャスティスに向かってキックを放とうとする。だが、ダメージを受けてなおさらスピードの鈍ったそんな攻撃をジャスティスが受けるわけもなく、身をひねって受け流すと、そのままカラミティの背後に回って強烈な裏拳を後頭部に打ち込んだ。

「デアッ!」

 貫くような赤い拳の衝撃を受けて、カラミティは自身を構成している人工カオスヘッダーがブレて、砂像のように一瞬形を崩れかけさせた。

 それでもなんとかカラミティは姿を元に戻すとよろめきながらジャスティスに向き直る。だがもうカラミティはウルトラマンの姿を保っているだけでやっとなほど不安定化しているのは明白だった。これがオリジナルのカオスヘッダーの作ったカラミティであればエネルギーは無尽でジャスティスも手こずらされたであろうが、意思無く制御された人工カオスヘッダーではマザルガスに吸収された分を補う知恵も無ければ、ましてや諦めずに戦う意思などあろうはずもない。

 ジャスティスの攻撃は一撃ごとに確実にカラミティのパワーを削り取ってゆく。いくらカラミティが恐怖の無い戦闘マシーンだとしても、ジャスティスの攻撃は一撃ごとが非常に重い必殺の拳打だ。宇宙正義を守り、悪を打ち砕くその重みに加わっているものはからっぽの人形などには決して持てない。

「セヤァッ!」

 ジャスティスのキックがカラミティを大きく弾き飛ばした。

 同時に、コスモスも二体のバルタンを一体は投げ飛ばし、一体は拳打で吹っ飛ばす。

 その壮観な光景に、戦いを見守っていた学院の生徒たちからも歓声があがる。

「いいぞ、いけーウルトラマン!」

 上級生下級生男女問わず、みんながウルトラマンを応援していた。その声を背に受けて、二人のウルトラマンはそれぞれの必殺光線の構えに入る。

 コスモスの手に太陽のコロナのような燃えるエネルギーが荒ぶり、ジャスティスの両拳に黄金のエネルギーが輝く。そしてコスモスとジャスティスはそれぞれの渾身の一撃を撃ち放った。

『ネイバスター光線!』

『ビクトリューム光線!』

 赤熱と金剛の奔流が二体のバルタンを狙い撃つ。

 だが、これでバルタンも終わりだと誰もが思った瞬間、なんとリーダーのバルタンはカラミティの背に回って光線の盾にしてしまったではないか。

「わ、私は死なぬゥ!」

「ド、同志ィィィ!?」

 手下のバルタンとカラミティは焼き尽くされて大爆発を起こした。

 しかし、カラミティを盾にしたリーダーのバルタンはなんとか爆発に吹き飛ばされながらも生き延び、ほうほうの体ながらも起き上がった。

「グ、グヌゥゥ……」

 ハサミを杖にしてやっと立ち上がったバルタンは肩で息をつき、しかしなおコスモスたちへ憎悪の視線を向けてくる。

 むろん、部下を見捨てて自分だけ助かったリーダーバルタンに、コスモスもジャスティスも冷たい視線を返し、もはや甘い対応をするつもりはない。

 今度こそとどめをと、ジャスティスが再度エネルギーをチャージする。バルタンにかわす術はなく、今度こそ終わりかと思われたが、上空で観戦していたグラシエが愉快そうにつぶやいた。

「さあ、もうプライドにこだわっている時ではありませんよ。あなた方もこちら側に来ると決めたのでしょう? なら、それらしく振る舞いなさいよ。さもないと、このまま犬死にですよ」

 まるで悪魔のささやきのようなグラシエの言葉。それはリーダーバルタンの耳には届かなかったが、リーダーバルタンはそれまで軍人や武人としての最後の良心で使わないで残していた切り札を解き放つことを覚悟した。

 ジャスティスが光線を放とうとしたその瞬間、リーダーバルタンは空に浮かぶバルタンの宇宙船『廃月』をハサミで指して叫んだ。

「待て! あれを見るがいい」

 すると、廃月の前の空間が歪み、なにかが映し出され始めた。

 ホログラフィでの空間投影だ。だが今更なにを見せようかという前で、映し出されたものにコスモスとジャスティスは驚愕した。

〔あれは、バルタン星人の子どもたち!〕

〔閉じ込められているのか。なんということを〕

 廃月の中には、小さなチャイルドバルタンたちが何百人も押し込められていた。チャイルドバルタンたちは廃月の中の空間を不安げに飛び回っているが、彼らの閉じ込められている広間の中央には心臓のように鼓動する何らかの装置が置かれている。リーダーバルタンはそれを指し、憎悪にたぎった声で告げた。

「ファファファ、廃月をバルタン星から持ち出したとき、他の連中が手出しできないように人質として連れ込んでおいたのだ。貴様らが抵抗すれば、あの爆弾を爆発させてガキどもを皆殺しにしてやるぞ」

〔なんだと……かつてお前たちバルタン星人は、子どもたちの未来のために命をかけて戦ったではないか。お前は、同じバルタンとして恥ずかしいとは思わないのか〕

 コスモスも憤りを込めて言う。かつて地球を侵略しようとしたバルタンは、自分たちが泥をかぶっても子供たちに未来を残せるならばと必死の信念があった。だからこそコスモスも一定の理解と敬意を持っていたのだが、自分のために子供たちを利用しようとするとは、かつての同胞たちの犠牲さえ足蹴にする行為だ。

 だが、追い詰められたリーダーは吐き捨てるように言った。

「うるさい! それがどうした! ハハハ、それがどうした。負ける以上の恥などあるか! ガキどもなどいくらでもいるのだ。勝利こそがすべてだ」

 錯乱したように怒鳴り散らすバルタンに、コスモスもジャスティスも送る言葉は残っていなかった。

 人質の映像を見せびらかしながら、バルタンはハサミを開いてドライクロー光線をコスモスとジャスティスに放った。

「ウワァッ!」

「ウオッ!」

 光線をまともに浴びてコスモスとジャスティスは吹き飛ばされた。避けようと思えば避けられたが、人質を見せつけられては動けない。

 戦いを見守っている学院の生徒たちも、バルタンの卑劣さに怒りをあらわにする。

「卑怯だぞ! 正々堂々と戦え」

「そんなやり方で勝つなんて盗賊のやることよ」

 貴族の世界にも決闘に敗れた者などを使う人質というものはある。しかし身代金を払うなどすれば解放されるルールが設けられた一種の儀式要素が強いもので、人質を盾にこんなあからさまな脅迫をするものではない。

 戦いにも、戦争にも一定のルールはあっていいはずだ。それを無くしてしまえば、もはや獣同士の闘争しか残らない。高等生命体を名乗る資格を失う。

 だがそれでも、勝てばそれでいいとバルタンは抵抗できないコスモスとジャスティスを攻め立てる。ドライクロー光線がさらに炸裂し、爆発がコスモスとジャスティスを痛めつけた。

〔ジャスティス、このままでは〕

〔だが、今はどうすることもできん〕

 無防備で攻撃を受け続けたらウルトラマンといえども長くはもたない。だが、仮にどちらかが人質を救出しに向かえばバルタンは人質を爆破してしまうだろう。

 なにか方法はないか? なんとかしなければ……コスモスとジャスティスは必死に考えた。しかしバルタンは容赦なく二人を光線で痛め付け、倒れたコスモスを足蹴にして勝ち誇った。

「どうだコスモス、これが真理だ。負けたものは全てを失う、だからどんな手を使っても勝たねばならないのだ」

〔それは違う。負けたからこそ知れるもの、負けたからこそ得られる大切なものがある。お前たちバルタンは、それを見つけたはずなのに〕

 コスモスもかつて、カオスヘッダーとの戦いで何度も傷つき倒れ、敗北の地にまみれた。しかし敗北の中から立ち上がり、新しい力を模索して強くなっていく人間たちとともに歩むことで、コスモスも新しい力や未来をあきらめない心を得てきた。

 負けることは恥ではない。負けから学ばずに成長できないことこそ恥なのだ。バルタン星人は地球侵略失敗の挫折から立ち直り、ようやく新天地となる星を見つけてこれからだという時なのに、そのバルタンの中にもこんな頑迷な者がいたとはと悲しくなる。

 だが、このバルタンが守ろうとしているものはまったく次元が違った。

「そんなもので、貴様らが傷つけてくれたバルタンの誇りは取り戻せん。我らの受けた屈辱、怒り、恨み、敗者に甘んじた平和などで癒せるものか!」

「グアアッ!」

 バルタンはコスモスの脇腹を思いきり蹴り上げた。

 力によって他者を優越する以外の価値観を持てない、彼らはそんな人種だった。こういう類の者たちは、人間からエルフ、亜人、宇宙人から果てはウルトラの一族にも、どんな種にでも多かれ少なかれ存在する。残念だが、大切に思うものが根本から違うのだ。

 このバルタンを納得させるには、勝利による優越を得る他にない。しかし、そんなことは絶対に許されないから戦うしかないのだ。

 バルタンはコスモスとジャスティスが抵抗できないのをいいことに、彼らを踏みつけ、さらにドライクロー光線を浴びせて痛めつけ続けた。その暴力に酔う様に、グラシエは手を叩いて賞賛を送る。

「エクセレント! いやいや素晴らしい。正義を名乗る方々にはこの手は本当によく効きます。手段を選ぶなんてやめて正解だったでしょう?」

 最初から多勢に無勢で挑むなどバルタンも立派に卑怯だったが、本当の悪党から見たら卑怯の度合いが違うのだと言わんばかりの哄笑だった。

「これでこちらは片付くかもしれませんね。もしもダメでしたらと思いましたが、私が手を貸すまでも無かったようですね。さあこれで後戻りはできませんよ。ようこそ、今日はあなたの新しい誕生日です」

 バルタンが「こちら側」に来たことを歓迎して、グラシエは再度拍手を送った。

 

 人質を盾にされて手出しができないコスモスとジャスティス……バルタンの憎悪のこもった攻撃は二人の命を刻一刻と削り取っていく。だが、そんな絶望的な光景を見つめている目が、グラシエも気づいていないうちにもう一組増えていた。

〔我夢の心配した通りになったな。ちっくしょう汚いまねしやがって。子どもたち、今助けに行くぜ!〕

 人間サイズに縮小することでエネルギー消費を抑えていたウルトラマンダイナは、空に浮かぶ廃月を見上げて腕を組んだ。

 ダイナの額のクリスタルが輝き、ダイナの姿が超能力を発揮する青い戦士へと変わる。

『ウルトラマンダイナ・ミラクルタイプ!』

 

 

 続く


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