ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第31話  大怪獣ラッシュ!砕け、四つのプラズマソウル

 第31話

 大怪獣ラッシュ!砕け、四つのプラズマソウル

 

 恐竜戦車マークⅡ 登場!

 

 

 あまたある平行世界、マルチバース。

 その一つ一つでは様々な宇宙人たちが生き、数えきれないほどの文化を生み出している。

 そのうちのひとつに、プラズマギャラクシーと呼ばれる宇宙が存在する。

 そこでは、プラズマソウルという特殊な鉱石が重要な資源となっており、極めて高値で取引されるものとなっている。

 しかし、プラズマソウルは地中に埋まっているような資源ではなく、それはプラズマ怪獣と呼ばれる怪獣たちの体についているものなのだ。

 つまり、プラズマソウルを手に入れるためにはプラズマ怪獣と戦って倒す必要がある。しかしプラズマ怪獣はプラズマソウルのエネルギーで大幅に強化されているので、どんな強い宇宙人でもおいそれと手を出せるものではない。

 そこで、宇宙人たちは手を組み、三人一組のハンターチームを結成してプラズマ怪獣のハントに命を賭けている。その、男たちが一攫千金の夢を掴める時代を、彼らは大怪獣ラッシュと呼んだ!

 

 だが、プラズマギャラクシーは戦いが行われているハルケギニアとは関わりのないマルチバースの話だ。それに、並の宇宙人がプラズマギャラクシーに渡っても、とても通用するものではない。

 それでも、グラシエは少量とはいえプラズマソウルを確保して実験材料としてバルタン星人に提供した。

 別の世界の怪獣に対してもプラズマソウルは効果を発揮するのか? 効果を発揮したとして、その有用性はいかに?

 ウルトラマンガイアとアグル。この二人を相手にした実験ならば、さぞ有益なデータが得られるに違いない。

 プラズマ怪獣と化して数倍に巨大化した恐竜戦車は、その超重量をまるで感じさせない軽やかなスピードを発揮している。

 時速はざっと70数キロか? 出力は数千万馬力だろうか。要塞が生きて驀進してくるような圧倒的な威容を前に、ガイアとアグルさえ人形のようだ。

〔信じられない。あんな大きさじゃ、自重で自己崩壊するはずなのに〕

〔魔法の世界に来ていて今さら物理法則もあるまい。反物質の無限式、こういう形でも見せられるとはな〕

 自分たちに向かって突っ込んでくる恐竜戦車を、ガイアとアグルは飛び退いてかわした。

〔反物質の無限式と言っても、君はよく簡単に受け入れられるね〕

〔お前より多少はこの世界には長いからな。お前はまだまだ頭が固いようだぞ、我夢〕

〔藤宮は前からけっこうロマンチストだったものね〕

 戦いの最中だというのに、のんきに科学的な考察にふけれるのは二人の知的好奇心ゆえにと言うべきか。

 なにせ、本職が科学者である二人にとって、この世界は新発見の連続であった。既存の概念が通用しないのは根源的破滅招来体も同じだったが、この世界ではさらに地球では考えられないようなでたらめな法則がまかり通っている。

 まさしくファンタジー。しかし現実に存在する非現実的なそれを説明するのに、我夢と藤宮は反物質の無限式という仮説を立てた。

 知っての通り、反物質は我々の世界の常物質と繋げると対消滅を起こしてしまう相容れない存在てある。これを事象に例えると、Aの世界では火は熱く、Bの世界では火は冷たいという法則に支配されているならば、この二つの世界は反物質よろしく交わることはできない。まさに水と油の関係である。

 しかしここで、水と油をせっけんで混ぜることができるように、反物質と常物質の共存を可能にできる架空の存在Xを仮定しよう。これによりAXBという世界ができあがれば、熱い火も冷たい火もある不思議な世界ができあがる。

 また、比率を変えれば世界の形も変わる。Aの世界4に対してBの世界が1の比率で混ぜ合わせれれば、Aの世界に極めて近いものの、Bの世界の要素が少し混ざった世界となる。見た目はほとんど地球だけども、人々が車の代わりにドラゴンに乗っている世界があると思えばよい。また、比率を逆にすれば、ハルケギニアでなぜかみんな自動車に乗っているような世界もできあがる。

 要は異なる金属を比率を変えて混ぜ合わせることで異なる合金を作るようなものだ。しかし金属と違って反物質と常物質は混ぜられないし、概念や法則も混ざらない。

 だが、もしも反物質と常物質を合金化することができたら、それは無限の可能性となる。それのヒントとなりうるのが、魔法が実在し、地球の法則が通じないハルケギニアで、その無限の可能性への敬意を込めて反物質の無限式と、そう仮称された。

 ガイアとアグルを睨み、山肌を震わす咆哮をあげる恐竜戦車。機械と生物の完璧な融合だけでなく、あれだけの巨体が自重で潰れることもなく軽々と動いている。まさに地球の物理法則で言えば反物質と常物質の合金のごとくありえない光景。だが、それがあり得るという光景は学者の心が震える。しかし。

〔この世界のことを、大学のみんなにも教えてあげたいよ。けど今は、こいつを倒さないと!〕

 知的好奇心を満たすのは平和な時にすべきだと、ガイアは恐竜戦車を破壊する決意を定めた。それはアグルも同じ。いかに魅力的な対象でも、それが平和を乱す脅威となるならば排除する。

 ガイアは空中に飛び上がり、恐竜戦車への攻撃姿勢をとった。だがその背後からバルタンが狙いをつけるのを、アグルが割り込んで妨害する。

「デュワッ!」

「グォッ!」

 アグルに高速で体当たりされ、バルタンは大きくはね飛ばされた。

 空中戦ならばアグルも得意とするところ。ガイアの邪魔はさせないと、アグルはバルタンに高速飛行しながらアグルスラッシュを連射し、バルタンも飛行形態になって対抗する。

〔お前の相手は俺だ〕

「望むところよ!」

 目にも止まらぬ速さで、まるで二匹の猛禽のようにアグルとバルタンはドッグファイトを繰り広げた。そしてアグルがバルタンを引き付けてくれているうちに、ガイアは恐竜戦車へ突撃をかける。

「デヤアアッ!」

 肩から突っ込む全力の体当たり。それが恐竜戦車の横腹に命中して、恐竜戦車は大きく叫び声をあげた。

 一見するとガイアらしくない知性からはかけ離れた肉弾戦法。しかし、ガイアもこれで勝とうとは考えていなかった。

 プロレスでは、本格的な勝負に入る前に組み合って力比べから入ることもあるという。プロレスの見聞のある我夢は、まず恐竜戦車が見た目どおりの奴かどうかということを試そうとしたのだ。

〔重いっ、全力でぶつかってみたけど、やっぱりこれくらいで揺らぐ奴じゃないか。うわっ!〕

 手応えはあったが効いた気配がまるでない。それどころか、恐竜戦車はその場で左右のキャタピラを逆回転させて超信地旋回すると、大木のように長く太い尻尾をガイアに叩きつけてきたのだ。

「ウワァッ!」

 尻尾の一撃が、ガイアを小虫のようにはね飛ばした。ガイアは山肌にめり込むほど叩きつけられて大きなダメージを負い、すぐには立ち上がれないでいるガイアに向かって、正面を向いた恐竜戦車の三連主砲が照準を定める。

 口径はさらに上がって戦艦の主砲、いや列車砲クラスか? いくらウルトラマンでもまともに食らえばひとたまりもないような巨砲が上下し、砲炎とともに巨弾が放たれる。

 ガイア危うし! そのとき上空からガイアの危機を察知したアグルが急降下してきて、その身そのものを盾に立ちはだかった。

『ボディバリヤー!』

 我が身そのものをバリヤーと化すアグルの豪胆な防御技が砲弾を弾き、二人の周りは砲弾の炸裂が引き起こす爆炎に包まれた。

 しかしそれは恐竜戦車からも二人が見えなくなるということを意味する。アグルはガイアを助け起こすと、恐竜戦車から離れた場所へと飛んだ。

〔大丈夫か?〕

〔ありがとう。あいつ、想像以上の強さだ。パワーでならゾグより上かもしれない〕

〔ああ、見ていた。接近すれば尾の一撃。離れれば強力な砲撃。おまけにあの機動力か。やっかいだな〕

 様々な破滅招来体の侵略兵器と戦ってきた二人から見ても、恐竜戦車マークⅡは並々ならぬ強敵と映った。いやむしろ、ガイアとアグルが戦ってきた破滅招来体の怪獣は波動生命体や自然コントロールマシンや、ブリッツブロッツやゼブブのようなやっかいな特殊能力持ちのものが多かっただけに、逆に恐竜戦車のようなひたすらパワーに全降りな怪獣のほうが慣れてないかもしれない。

 そんなガイアとアグルを見下ろして、バルタンは余裕の嘲りを向けるのだった。

「ちっぽけだなウルトラマンどもよ。せいぜい無駄な知恵を絞り合うがいい。お前たちがこいつと戦わないならば、怪獣は人間どもを踏みつぶし続けるだけのことだ」

 バルタンにとってはハルケギニアの人間たちなど虫けらも同然のもののようだ。以前に地球に来襲してコスモスと戦ったバルタンは過激派ではあったが、まだしも地球人と共存可能か確かめようとする配慮があったのに、こいつはそれにも劣る。

 ガイアとアグルは、内心に「許せない」という強い怒りを覚えた。人類は地球人もこのハルケギニアの人たちも、まだ決して褒められた生き物ではないが、どんなに優れた文明を築き上げたとしても、暴力をよしとするのならばそれは野蛮人でしかない。科学は平和と幸福を追求するために存在する。そうでなければ、そもそも生き物が知恵を持った意味がないではないか。

〔ガイア、あいつはなんとしても倒さなければいけないぞ〕

〔わかってる。あいつが都市部に出る前に、この山岳部で破壊しよう〕

 あのバルタンは、かつて藤宮も懸念した科学を間違った使い方をして自ら破滅へ突き進む人類の姿のひとつの形だ。我夢にとっても藤宮にとっても、決して認めるわけにはいかない。

 再び戦いを挑もうとするガイアとアグル。バルタンは恐竜戦車の頭上に浮き、さらに嘲り続ける。

「フハハ、この兵器を破壊するだと? やれるものならやってみるがいい。ちっぽけなウルトラマンどもめ」

 方向転換して恐竜戦車はガイアとアグルに迫りつつある。その巨体に比べたら、ウルトラマンといえども本物の戦車と人間のようだ。

 けれど、人間は原人だった頃から知恵を使って自分よりも何十倍も大きいマンモスを仕留めてきたような動物だ。大きいことに安心しきっているバルタンのほうがむしろ原始的だと言えるかもしれない。

 見ていろ、すぐにそのデカブツをスクラップにしてやる。手を加えられた生命への同情は変わらずあるが、それで為すべきウルトラマンの使命を忘れはしない。

 恐竜戦車を倒すための作戦を立て、恐竜戦車へ対峙するガイアとアグル。逆に巨体を利して力任せにウルトラマンを叩き潰そうと爆進してくる恐竜戦車。

 死闘が始まる。だが、その瞬間であった。

 

「ちょっと、お待ちなさーい!」

 

 その場にいた全員がびくりとした。

 スピーカーで増幅したような大声。誰だ? いや、この威圧感さえ感じさせる声をした女性は一人しかいない。

 そう、トリステイン王立アカデミー主席研究員エレオノール女史。その声が恐竜戦車から聞こえてきたのだ。

 唖然として動けなくなるガイアとアグル。確かにあの中には恐竜戦車を止めるためにメンテナンスブースへ乗り込んだエレオノールとルクシャナがいることは知っていたし、まずは助け出そうと思っていたのだけれど、まさか呼びかけてくるとは思っていなかった。スピーカーを見つけたのか? だが、考えるまもなくエレオノールの声が続けて響いた。

「こいつを破壊するなんて冗談じゃないわ! こいつにくっついた鉱石を調べてみたら、風石や火石なんかとは比べ物にならないパワーを秘めてるじゃないの。ただ壊すなんて許さないわ、これは世紀の大発見になるのよ」

「ちょ、先輩落ち着いて!」

 ルクシャナの声も聞こえてきた。だがどうも様子がおかしい。ガイアとアグルは恐竜戦車の突進をひとまず飛んでかわすと、さらに二人の言い合う声が聞こえてきた。

「離しなさいルクシャナ。これだけのエネルギーがあれば、動力不足で頓挫してたあれやこれも動かせるようになるのよ。あはは、あははは」

「ねえ、なんか変なスイッチ入っちゃってない!?」

「わたしは正気よ! アカデミーで目立った成果が無くって予算を削られそうだとか、そんな役に立たない仕事より結婚しなさいだとかお母様に言われてたりは決してないんだからね!」

 ああ、そういうことかと聞いていた一同はげんなりした。ルクシャナは、そういえば戦争が起こる直前の土石の鉱脈探しの時でも、予算がどうとか言っていたなあと思い出した。責任者というものはつらいものだ。

 我夢と藤宮も研究員だからわからなくもない。ただ我夢と藤宮は世界的な研究者団体であるアルケミースターズの所属だったから国際機関から予算は出ていたし、藤宮は今ではフリーランスだけれども自分の発明品の特許料でお金に不自由してはいない。

 しかし、一般的な学者や研究員にとって莫大な経費がかかる研究予算の確保は死活問題だ。予算を出してもらいたくば成果を、成果を出したければ予算をという堂々巡りのジレンマとなる。

 我夢と藤宮は考え込んだ。二人はエレオノールのことは多少の面識がある程度で、別に親しい間柄というわけではない。しかし、この世界でも指折りの優秀な学者であり、様々な発明や発見に貢献した人物だということくらいは聞いていた。

 ただ、苛烈な人柄というので余計な摩擦を避けようとしてきたが、こうして聞くと同類としての共感も少しながら湧いてきた。

〔我夢、なにを考えている? まさかあれに同情して生け捕りにしようなどと考えたわけじゃあるまいな〕

〔いや、そんな無理はできないってわかっているよ。でも、あの中で彼女たちが自由に動けているというなら、別の方法もあるんじゃないかな?〕

〔別の方法だと? とっ!〕

 話すガイアとアグルへ向けて、恐竜戦車の口から真っ赤な高熱火炎が放たれた。

 とっさに回避した二人のいた場所を、太陽のプロミネンスにも似た奔流が空気を焼き尽くしながら通り過ぎていく。これもすごい威力だ。砲撃のような精密さや超射程はないようだが、発射の早さでは勝っている。

〔奴の中距離射程用武器か? 我夢、あれでも別の方法があるというのか?〕

〔ああ、あいつは一度は彼女たちがメンテナンスブースに入って操作することで止まった。今は暴走しているのがあの鉱石の力なら、あれを砕けば止まるかもしれない〕

 つまりエネルギーの過剰供給状態を止めるということか。確かに、怪獣を丸ごと粉砕するよりかは難易度は下がるかもしれないが、それも簡単な話ではない。怪獣は動く要塞同然の危険物、バルタンも邪魔してくるのは間違いない。

〔なにより、どうやって俺たちの考えを怪獣の中に二人に伝える?〕

〔パーセルを使おう。あれを使って、怪獣の内部の機械に文字信号を送信するんだ〕

〔なるほどな。わかった、それだけ具体的にまとまっているなら悪くない作戦だ。だがそのぶん、お前は単独であいつを引きつけてもらわなきゃならんぞ。できるか?〕

〔君なら、僕が無理になるほど時間はかからないと思ってるよ〕

 アグルの顔が、一本とられたという風に小さく揺れた。

 だがこれで話は決まった。怪獣の暴走を止め、コントロールを奪い返す。それを察したバルタンは、ドライクロー光線でガイアを狙い打ちしながら吐き捨てた。

「バカめ、怪獣のプラズマソウルのみを狙うというのか? いくらウルトラマンでも、そんなことができるものか」

 プラズマ怪獣そのものはグラシエも捕獲をあきらめたほど強力で、わずかなプラズマソウルの確保が精一杯だった。それを、いくら本場のものより小さいとはいえ、ウルトラマンでもぶっつけ本番でハントできるとは思えない。

 しかし、だからなんだというのだ。

〔そんなの、やってみなくちゃわからない!〕

 無根拠な精神論ではない。あの怪獣の行動パターンは分析している。その上で、勝ち目があると判断したからこそ戦いに望んでいる。

 しかし、いくら綿密に計算しても絶対ということはない。だからこその、やってみなければわからないであり、それは用心に裏づけられた自信を意味するに他ならないのだ。

 恐竜戦車マークⅡは確かにでかいが、狙うべきプラズマソウルはすべて露出しており、狙うのはたやすい。ガリアは飛行しながらプラズマソウルへ向けて手の先から矢じり状のエネルギー弾を放った。

『ガイアスラッシュ!』

 光弾は狙いたがわずプラズマソウルへ突き進む。だが恐竜戦車は命中前に尻尾を振ってプラズマソウルへの着弾を防いでしまい、それを見たバルタンは勝ち誇って笑った。

「バカめ、プラズマ怪獣をただ大きいだけのでくの坊と思うなよ。その知性もまた、溢れるエネルギーで高められているのだ」

〔そうかな? お前は気づいていないのかい。あんな小技でも反射的に防御したということは、プラズマソウルというもの自体はすごく脆いんじゃないかい?〕

 その推測は当たっていた。プラズマ怪獣は強豪宇宙人がチームを組んでもなお危険なほど強いけれども、攻撃を当てさえすればその種類によらずに砕けるほど脆いものなのである。

 その分析に、バルタンは一瞬うろたえたが、すぐに落ち着きを取り戻した。砕けるとわかっただけで砕けるなら誰も苦労はない。虎穴から虎児を得るのも、猫の首に鈴をつけるのも、実行は難しいからことわざになるのだ。

 もっとも、我夢は猫の首に鈴をつけるのを諦めるネズミとは違う。恐竜戦車の動きをよく読み、その正面の地面へ向けて、組んだ腕からオレンジ色の光線を発射した。

『クァンタムストリーム!』

 光線は恐竜戦車の眼前に着弾し、猛烈な砂煙を巻き上げた。勢いのままにその粉塵に突っ込んで視界を失う恐竜戦車。

 今がチャンスか? いや、視界がなくなっても肉体の大部分を機械化された恐竜戦車にはレーダーも搭載されている。粉塵の中にあって自分以外の移動物体を正確に探しだし、それに向けて方向転換して砲門を向ける。ファイア!

 砲弾は正確に空中の移動物体を捕捉して直撃、爆発した。それを上空から見ていたバルタンはやったかと思ったが、飛び散った破片からそれがガイアではないと知って愕然とした。

「なっ、岩だと!」

 そう、ガイアは完璧に機械化された恐竜戦車が視界だけに頼っているとは思わず、粉塵で視界を奪うとすかさず急降下してレーダーをやり過ごした。そして怪力で岩石を投げ上げてレーダーを騙したのだ。

 そしてこの一瞬、恐竜戦車の背後はがら空きになった。地面に伏せてやり過ごしていたガイアは砲撃の爆風で粉塵が吹き飛ばされると、無防備になった恐竜戦車の左側面のプラズマソウルに向けて二発目のクァンタムストリームを放った。

〔よしっ!〕

 パキンという乾いた心地好い音を立ててプラズマソウルは砕けた。残るプラズマソウルは、背中、腰、右脇の三ヶ所。

 これが、知恵を駆使してやってみた結果だ。難攻不落の動く要塞といえども、必ず隙はあるものだ。

 一方その頃、アグルは等身大となって、パーセルの機能を使って恐竜戦車内部のエレオノールたちに連絡をとろうとしていた。

〔さて、成功すればいいが〕

 元々パーセルはこういうことに使うための道具ではない。我夢の発想には感心したが、うまくいく可能性は決して高くはない。それでも、恐竜戦車のボディに打ち込まれたパーセルの子機を通じて、恐竜戦車のメンテナンスブースにアクセスをとる。すると、結論から言えばそれは意外なほどうまくいった。

 パーセルの機能上、文字を一字ずつ入力するという迂遠なやり方ながら、どうやらメンテナンスブースのモニターを通じて意味を伝えることには成功したようだとアグルは判断した。この際にはエレオノールとルクシャナとの間に喜劇めいたやり取りがあったが、それは割愛する。

『これから怪獣のプラズマソウルを砕く。そうしたらそこから怪獣のコントロールを奪い返せ』

 それを伝えたアグルはさっさとパーセルのスイッチを切り、ガイアに加勢するために飛び立った。おざなりにしたわけではない。この程度で理解についてこれないような学者は相手をしてやるだけ無駄だからだ。

 

 一方的に通信を受け、一方的に通信を切られたメンテナンスブース。そのメッセージを受け取ったエレオノールとルクシャナは、ウルトラマンからの要請という内容に少なからず驚きながらも、その意味を噛み締めていた。

「ウルトラマンって、話せばわかってくれるんだ……でもこれで、ウルトラマンの戦いをじっくり観察できるのね。おもしろくなってきた……あれ? エレオノール先輩」

「っざけるんじゃないわよ。俺たちに任せて、私たちは後始末だけやってればいいっていうの。この私をなめてくれたものね……」

「せ、先輩?」

 エレオノールから立ち上る邪気のようなものを感じてルクシャナは戦慄した。まずい、これはまずい。自分も大概だがそれ以上の、エルフの自分には理解しがたい蛮人の欲深い執念のようなものを感じる。

 逃げなくちゃ、あ、逃げ場所なんてないんだったわ。最悪の展開を予想してしまったルクシャナの肩に、エレオノールの手が鉛のように置かれた。

「ルクシャナ、あなた学者よね。欲しいものができたら、どうするかしら?」

「ま、まあ手に入れようとするわね」

「私は最近悟ったのよ。本当に必要なものっていうのは、待ってたり人頼みじゃ手に入らないものだって。ルクシャナ、あのプラズマソウルとかいう鉱石は私たちが手に入れるわよ」

「ええっ、でもどうやって?」

「ウチュウジンやウルトラマンになくて、私たちにあるものは何? 私たちは、学者でしょ。あなた、最近ちょっとおとなしくなりすぎてるんじゃなくって?」

 叱咤されてルクシャナははっとした。そうだ、自分はなんのために船に密航してまでここに来たのだ? さらには何のために蛮人の国まではるばるやってきたのだ? ネフテスでは味わえない刺激や発見を得るためではなかったのか?

 それが今はどうだ? すっかり怖じ気付いてしまっている。これが自分かとルクシャナはぞっとした。人間世界に慣れすぎて、鈍感になってしまったらしい。

 だがそれにしても、エレオノールのなんという向上心の高さか。ルクシャナは、ふと人間とエルフの文化の違いを思い出した。

 エルフは人間より高度な文明を有している。ただしその文化は、文献が『記録』に終始しており、人間でいう『物語』のような曖昧なイマジネーションからの創作物はない徹底した理知合理主義にもとずき、これは人間からは異様に感じられる。これに限らず、エルフは全体的に理性的で合理主義、人間は感情的で衝動的と称される。人間から見たビダーシャルが宇宙人的な得体の知れなさを感じるのがいい例で、エルフの中では蛮人かぶれの変わり者と言われるルクシャナも、その例には漏れずにどこか人間とは違う雰囲気を持っている。

 この両種族の精神性の差について、ルクシャナはこんな仮説を立てたことがあった。

「わたしたちエルフは、大いなる意思という絶対的な『全』に統一されているから、そこに曖昧な感情が入り込む余地がない。対して、蛮人は始祖ブリミルや国王や祖国に忠誠を誓っていても、最終的には自分が来るしかない『個』の生き物。そこに精神面の違いが出てくるのかも」

 実際、エルフと人間に知性面の差は大きくない。ならば精神面を左右するのは後天的な何かということになるが、人間世界で育ったティファニアが人間そのものなメンタルを持っていることからしても、人間とエルフを分ける精神文化の差は、大いなる意思を頂くかどうかということくらいしか考えられない。

 だがそれは今はいい。問題は、人間の大いなる意思をも恐れない個の力。一言で言うなら、エルフでは考えられないほどの目的のために手段を選ばない欲深さ。エルフから見たら野蛮にしか見えないそれに、閉塞したエルフの文化を打破できるものを感じたのじゃなかったのか?

「目が覚めたわ。わたしとしたことが、危険のなかにこそ新しい発見があるんじゃないの。あんなのになめられていられないわ!」

「その意気よ。わかってるじゃない。さあ、わたしたちがここにいるってことの意味を教えてやろうじゃないの」

 マッドサイエンティスト二人が燃えた。いや、魔法使いだからマッドマジシャニストだろうか? まぁそれはどうでもいいが、ある意味ハルケギニアでもっとも危険な二人が覚醒してしまったことを知る者は誰もいない。

 しかし、いくら卓越した頭脳と有数な魔法の才を持つとはいえ、たった二人の人間とエルフが、このウルトラマンと怪獣の戦いにどう影響してこようというのだろうか。追い詰められた時の人間がなにをしでかすのか、それは誰にも予想できない。

 

 その一方で、アグルは二人のことはすでに忘れてガイアの救援を急いでいた。

 重ねて言うが、薄情なわけではなく、戦場ではそれぞれの役割を果たすことが何より大事である。他人のことに気を配ってられるような優しい戦場は滅多にない。

 それに、実際ガイアだけでは恐竜戦車の相手は早くも荷が重くなりつつある。

「ジュワァッ!」

 四ヶ所あった恐竜戦車のプラズマソウルのひとつを破壊することに成功したガイアだったが、それは恐竜戦車の怒りを買うことに直結していた。恐竜戦車は一ヶ所が破壊された程度では弱った様子を見せず、残り三ヶ所となったプラズマソウルへの攻撃など思いもよらないほどの猛攻を仕掛けてきた。

〔くっ、なんて弾幕だ!〕

 恐竜戦車の正面に立つと、三連主砲と火炎の猛攻。それを避けようとしても、ちょっと軸線をずらしたくらいでは超信地旋回で射角に戻してくる。まるでXIGの大型戦車バイソンを何倍にもしたかのような火力に機動力。しかもさっきは奇策が通じたが、恐竜戦車は生き物の思考力も持つから同じ手は通じない。

 ガイアを弾幕で圧倒しつつ、そのまま巨体で押しつぶさんとキャタピラをうならせて進撃する恐竜戦車。この時、アグルが横合いから手を出さなければガイアも危なかったかもしれない。

『リキデイター!』

 アグルの放った青い光弾が恐竜戦車の側面に命中して爆発した。その衝撃で恐竜戦車は驚いてガイアへの攻め手を緩め、ガイアは反対方向へ飛んで脱出することができた。

 だが、アグルはガイアが助かったのを喜んでばかりもいられない。なぜなら、今のリキデイターは戦車の装甲では比較的薄いはずの側面部に当たったはずなのに貫通できていない。今のアグルのリキデイターは破滅魔虫ドビシの群れを一掃することができるほどの威力があるというのにだ。

〔こいつは、並の技ではかすり傷も負わせることはできないか。なら、プラズマソウルとやらを全て砕くか、あるいは〕

 アグルはちらりと頭上のバルタンを見やった。流れ弾を恐れているのか、かなり高度をとって見下ろしてきている。不意打ちには警戒すべきだが、降りてくる気配は今のところ見えなかった。

 馬鹿な奴め。ああいう、浅い考えで大事を起こしたくせに、そのくせ自力ではどうにもできなくなる輩が一番質が悪い。人間特有の悪癖かと思っていたが、宇宙人もそうだというなら、なるほど宇宙が平和にならないわけだ。

 つくづく、宇宙への人類の憧れを打ち砕いてくれる。アグルは憤りを覚えた。宇宙に、ああいう生命体が溢れているのならば、地球がガイアとアグルの光を自分たちに預けてくれた理由まで邪推してしまいそうだ。

 いや、それは今考えるべきではない。宇宙に悪があるのならば、なおさら人類は地球の美しさを守らねばならないのだから。

「フゥワッ!」

 アグルはリキデイターを連射した。恐竜戦車の装甲は貫けなくとも、まずはガイアを救えればいい。爆発が連続し、わずらわしく感じた恐竜戦車の視線がこちらを向き、キャタピラをうならせて方向転換してくる。

 いいぞ、それでいい。お前の相手はこっちだ。アグルは恐竜戦車の攻撃パターンをすでに見切っている。主砲の砲身を向けてくる恐竜戦車に対して、アグルは右手から細身の光のサーベルを伸ばして対峙した。

『アグルセイバー』

 恐竜戦車の主砲が唸り、巨弾が音速を超えて飛んでくる。

 しかしアグルは悠然と立ち、人間を超えた動体視力で砲弾を見切って光の剣を一閃させた。

「トゥアッ!」

 超音速の、目にも映らないアグルの剣技。それは三発の砲弾を見事に捉え、アグルに当たることなくすべて爆散させてしまった。

 怒り狂う恐竜戦車。さらなる砲撃がアグルを狙うが、アグルはそれらの砲弾をも切り裂いていく。

「フゥワッ! デヤッ!」

 まるで雑兵の間を駆ける牛若丸のようだ。しかし、恐竜戦車は砲撃しながら距離を詰め、その太い腕でアグルを直接なぎはらおうとしてきている。

 しかし、それはアグルの想定内だった。恐竜戦車の注意がアグルに向いた隙に、ガイアは体勢を立て直して、さらなる力を発揮する姿へとチェンジした。

『ウルトラマンガイア、スプリーム・ヴァージョン!』

 力の出し惜しみをして止められる相手ではない。ガイアは背中を向けている恐竜戦車へ向けて、エネルギーを凝縮した巨大な光刃を投げつけた。

『シャイニングブレード!』

 高速で回転する光のカッターは恐竜戦車の背中に命中して大爆発を起こした。今の一撃で、あわよくばプラズマソウルにも打撃をと期待したが、高速で動く目標にそれは難しかったようだ。

 だが、これで終わりではもちろんない。恐竜戦車は背後の脅威にも気づき、一瞬動きを止めた。そこを見逃さず、ガイアはアグルに叫んだ。

〔アグル、コンビネーション戦法だ!〕

〔おう!〕

 ガイアとアグルは飛んだ。単独では恐竜戦車の火力とパワーにはとてもかなわない。しかし、二人でなら別だ。

 砲撃の標的にならないよう、二人で恐竜戦車の周りを高速でグルグル飛び回る。恐竜戦車は撃ち落とそうと狙いを定めようとするが、高速で飛ぶ二人にはうまくロックオンができず、しかも半分が生き物であるため目を回しそうになっている。

 やるのは今だ! ガイアとアグルは恐竜戦車が混乱した隙を見逃さず、飛行しながら体をドリルのように高速回転させだした。そして、ガイアは恐竜戦車の背中、アグルは恐竜戦車の腰についているプラズマソウルへ向かって矢のように体当たりをかけた。

『ガイア突撃戦法!』

『アグル突撃戦法!』

 二人の超高速での特攻がさらに二つのプラズマソウルを砕いた。残るは、右脇についている一つのみ。

 だが、後が無くなったことでついに恐竜戦車はキレた。火炎を空に向かって吐き散らし、狙いもつけずに放たれる砲弾は宙をまたいで遠方の町や村のある地域にまで落下し始める。

〔大変だ、暴走を止めなくっちゃ!〕

 このままでは被害が広がる。ガイアは、恐竜戦車に残った右脇の最後のプラズマソウルに狙いを定めた。

『クァンタムストリーム!』

 光線は一直線に最後のプラズマソウルを狙う。しかし恐竜戦車は前足を動かして光線の盾にして、そのままガイアへ向かって火炎を吐きかけてきた。

「ジュワッ!」

 とっさに飛び立って火炎をかわすガイア。残ったプラズマソウルはあと一つ、あれさえ砕ければ。

 アグルも同調し、再び恐竜戦車に隙を作って攻撃しようとガイアに続く。だが、今度はさっきとは状況が変わっていた。

〔奴め、なんて弾幕だ!〕

 陽動しようとしたアグルを迎えたのは、砲弾と火炎のまさに壁だった。恐竜戦車は狙いをつけられないなら空一面を焼き付くしてしまえばよいとばかりに、高速で超信地旋回しながら火炎と砲撃を連射してきたのだ。

「ウワアッ!」

「グァッ!」

 たまらず撃ち落とされ、ガイアとアグルが大地に叩きつけられる。

 あの弾幕を掻い潜るのは無理だ。そう判断した二人は、立ち上がるとエネルギーを集め、巨大な光刃と青く輝くエネルギー球に変えて投げつけた。

『シャイニングブレード!』

『フォトンスクリュー!』

 狙いは正確だ。奴がいくら高速回転していても、必ず最後のプラズマソウルに当たるはず。

 だが、恐竜戦車の頭脳も馬鹿ではなかった。残ったプラズマソウルが一つなら、それだけを徹底的に守ればいい。恐竜戦車は太い腕で右脇の最後のプラズマソウルを抱き抱えるようにしてがっちりとガードし、シャイニングブレードとフォトンスクリューさえも回転の勢いで弾き返してしまったのだった。

〔しまった。守りやすい場所を最後に残してしまったんだ。背中か腰のやつを最後にすればよかった〕

〔今さら言っても始まらないぞ。なんとかして、あの最後のプラズマソウルを砕くしかない。だが……〕

 アグルが苦渋をにじませながら呟いた時、ついに二人の胸のライフゲージが赤く点滅を始めてしまった。長引く戦い、高速飛行に大技の連発が響いてしまったのだ。

 残された時間はあとわずか。それで、暴れまわる恐竜戦車のプラズマソウルを砕けるのだろうか? ガイアとアグルの余力は無くなり続けていく。

〔せめて、奴の足さえ止められれば〕

 だが、あの何十万トンという動く要塞をどうやって止めろというのだ? 戦艦大和で体当たりしたって不可能だ。二人の焦燥に反比例して、時間は無情に過ぎて行く。

 

 けれども、そこで今こそエレオノールたちは動こうとしていた。

「足を止めろですって。やってあげようじゃないの」

 エレオノールとルクシャナはメンテナンスブースからさらに下った先にあるエンジンルームにやってきていた。どういう理屈かは知らないが、恐竜戦車がどんなに激しく動いても内部には伝わってきていない。もしこのカラクリがなければ二人ともとっくにミンチになっていたことだろう。

 二人は恐竜戦車のエンジンを見渡した。巨大な鉄の塊が轟轟と音を立てて稼働しており、科学には浅い二人にも、これがとてつもないパワーを生み出す機械だということは容易に想像がついた。

 しかし、二人にはこのエンジンを停止させる仕組みを探る時間も無いし、破壊しようとすれば自分たちも巻き込まれてしまうのは明白だった。

 ならどうするか? エレオノールはルクシャナに、その秘策を伝えた。

「どう、できる?」

「できる? じゃなくて、やれ、でしょ。確かにこの装置は、プラズマソウルという石から取り出した力を推進力に変えるものらしいから、その力の流れに乗せれば恐らく」

「私の考えたものに間違いがあるわけないでしょ。それじゃやるわよ。呼吸を合わせなさい」

「はぁ、もう一生分言ってる気がするけど、このようなことに精霊の力を使うことをお許しください」

 覚悟を決めて、二人は魔法の呪文を唱え始めた。

 恐竜戦車ほどの超巨体を止めるなんて、人間でもエルフでも不可能だ。魔法とて万能ではない……しかし、不可能に可能性という光明を加えられるものこそが知恵だ。二人の魔法は恐竜戦車の車体に影響を及ぼせるほどの力はない。けれども、プラズマソウルの力を拝借してエレオノールの『錬金』の魔法と、ルクシャナの地の精霊への祈りが恐竜戦車の車体を通じて地面に染み渡っていく。すると。

 ガクン、そういって超信地旋回を続けていた恐竜戦車の車体が揺らいだように見えた。砲撃を耐え忍んでいたガイアとアグルは、一瞬なにが起こったのかわからなかったが、あれだけ激しく動いていた恐竜戦車の動きがみるみるうちに止まっていき、そして沈んでいっているような様になっているのを見て理解した。

〔奴の下の地面が泥沼になっている!〕

 そういうことだった。エレオノールとルクシャナは魔法をプラズマソウルのエネルギーを利用して増幅し、恐竜戦車の足場を底なし沼に変えたのだ。いくら恐竜戦車がケタ外れの馬力を誇ろうが、キャタピラで動いている以上は足場の状態に支配される。そしていくらキャタピラが不整地の移動に適していようとも、底なし沼ほど軟弱になってしまっては進むことはできない。

 恐竜戦車は咆哮をあげながら必死にキャタピラを回転させてもがいているが、かえってどんどん沼にはまっていく一方だ。もちろん砲撃も完全におこなえなくなっており、この有様がエレオノールとルクシャナの二人が何かした結果だと気づいたアグルは、感心したようにうなづきながら言った。

〔この世界の学者もやってくれるじゃないか。ガイア、今だ!〕

〔おう!〕

 このチャンス、逃せばこちらが学者の名折れだ。ガイアは恐竜戦車の上空へと飛び上がり、その姿を恐竜戦車の内部からモニターを通じて見たエレオノールは不敵に笑った。

「さあ、足は止めてやったわ。後はまかせたわよウルトラマン」

 これで貸し借りなしだ。ラ・ヴァリエールの女の意地は、誰が相手でも怖気ずきはしない。

 今こそ、恐竜戦車にとどめだ。それを察したバルタンが慌てて邪魔に入ってもアグルが食い止め、狼狽しているバルタンの眼前で、ガイアは恐竜戦車の死角となる真上から足を赤熱化させながら急降下キックを最後のプラズマソウル目がけて叩き付けた。

『スプリームキック!』

 強烈な最後の一撃。ガイアのキックで最後のプラズマソウルも砕け散り、恐竜戦車はついにそのエネルギー源のすべてを失った。

 苦しげに咆哮する恐竜戦車の体内でエレオノールたちがすかさず停止操作をおこない、恐竜戦車は沼地の中で停止し、魔法で作られた底なし沼もただの地面へと戻った。

 恐竜戦車のプラズマソウル、ハント完了。

 残るはバルタンただ一人。しかし、切り札を失ってしまった以上、もはやガイアとアグルの二人を相手に勝機などあるわけもなく、捨て台詞を吐いて逃亡していった。

「こんな馬鹿な。クソッ、だがお前たちもこれ以上戦うエネルギーは残っていまい。さらばだ!」

 逃げていくバルタンをガイアとアグルは追わなかった。実際にライフゲージの点滅の通り、追う余裕が無かったのだ。

 悔しいが、足止めという目的であればバルタンの目論見は成功したと言える。それでも、あの恐竜戦車相手に負傷も無く勝利することができたのはよくできたほうであろう。だが、ガイアとアグルがこれからのことを考えようとしていると、恐竜戦車の中から高揚したエレオノールとルクシャナの声が響いてきた。

「あははは、やったわ。見なさいよ、あの散らばったプラズマソウルの山を。あれを持ち帰れば、アカデミーの歴史に残る一大壮挙よ。次期室長なんか目じゃないわ」

「半分はもらうわよ先輩。あれがあれば、ネフテスの石頭たちにも精霊に頼らない力の存在を認めさせることができるわ。でも、プラズマソウル……こんな素晴らしい鉱石なのに、これだけしか残らなかったのは残念ね」

 ここまでだったら向上心に溢れる学者のことで済んでいただろう。しかし、エレオノールはさらに未来を見ていた。

「なに弱気なことを言ってるのよ。プラズマソウルがここに無いのなら、あるところに行けばいいだけの話じゃない。ちょうど、ここじゃない世界から来た連中が目の前にいることだしね」

 そう、エレオノールの意識はウルトラマンたちにも向いていた。ガイアとアグルがぎょっとする暇も無く、エレオノールの声はガイアとアグルに向けられた。

「聞いているんでしょうウルトラマン! あんたたちがハルケギニアの外からやってきたのはわかってるんだから。いつか必ず捕まえて、外の世界へ連れて行ってもらうわ。そうして、プラズマソウルだけじゃない。この世のあらゆる発見を私のものにしてみせるわ。外の世界のサイエンスがいくらすごかろうと、私たちメイジの魔法は決して劣っていないのを見ていたでしょう!」

 貪欲な学者の執念。教会に閉塞されていた頃には味わえなかった、未知を暴くことへの無限の喜びを知った学者の魂の叫びだった。科学と魔法、方向は違っていても、発見から進歩へとつなぐ道のりは変わらない。

 そしてついでに、エレオノールはあのカリーヌの子でありルイズの姉だった。

「そうよ。異世界だったら、トリステインみたいに軟弱じゃない男だっているはずだわ。狩ってやろうじゃないのよ何もかも」

「えっ、ちょ? ハントするのはプラズマソウルでしょ!?」

「お黙りなさい! 私より先に恋人のいる勝ち組が偉そうにするんじゃないわよ。言ったでしょ、この世は欲しいものは手に入れたもの勝ちだってねえ」

「ひえー、また暴走してるわこの人ぉ!」

「なんとでも言いなさい。でも、私はどんな手を使ってもすべて手に入れてみせるわよ。プラズマソウルも、彼も、そしてまだ見ぬ宝も。あなたがいらないっていうなら、全部私がもらうわよ?」

「むう、それは許さないわ。わたしだって、蛮人の道具集めで満足する安い女で終わるつもりはないわ。プラズマソウルも異世界の宝も、ネフテスに一番に持ち帰る栄誉は誰にも譲らないわ」

「なら、私に着いてこれるかしら? 異世界を開拓する。並みのメイジじゃ務まらないわ。私はもちろん、ラ・ヴァリエールの人間だから簡単だけど」

「蛮人が調子に乗らないで。精霊の加護のあるわたしたちエルフに行けない場所なんてないんだから」

「言ったわね。ならどちらがハルケギニアの歴史に名を残すか、勝負よ」

「望むところよ!」

 同僚からライバルへ。栄光は誰の手に? もちろん自分のものだ。

 エレオノールとルクシャナ。異世界の不思議を数多く見た彼女たちの好奇心と野心はハルケギニアを離れて、その外へと向いている。しかし、次元の壁を超えることは並の人間にできることではない。

 そのためには。

「そのためには、ウルトラマンたち。まずはあなたたちをハントしてあげるから楽しみにしてなさい。このハルケギニアのどこに隠れても、必ず捕まえてあげるわ!」

「そうよ、楽しみにしてなさい。それで、わたしたちとあなたたちで組んで、この世の神秘を独占しましょう。きっと楽しいわよ」

 勝手にとんでもないことを言い出すエレオノールとルクシャナ。アグルとガイアはなかば呆れながらそれを聞いていたが。

〔どうする我夢? GUARDに留学でもさせてやるか〕

〔さすがにコマンダーに怒られるよ。でも、少し見習うところはあるかも。あれくらい向こう見ずなほうが、進歩のためにはいいのかもしれないね〕

 貪欲な人間はかつて地球を壊し、生き物を殺して環境を汚染してきた。しかし、その貪欲さが科学の発展を促し、自然と人間が調和する技術を作り上げてきたのも事実だ。

 アクセルとブレーキのバランスを、人は長い経験から学んできた。だがそれは、安全運転に慣れて、アクセルを踏みっぱなしの世界を忘れてしまったということでもある。バスやタクシーならともかく、F1やバギーがそうであってはいけない。学者とは、常に人々の先頭を、道なき道を切り開く者のことなのだから。

 果たして、この二人のかっとんだ野望が叶う日は来るのだろうか? もっとも、我夢と藤宮は、この二人には今後近寄らないようにしようと決めていた。

 そしてこの数年後……アルケミックマジェスターズという風変わりなハンターチームがプラズマギャラクシーを騒がすかは……さだかではない。

 

 

 しかし、ハルケギニアをいまだ包む戦雲は、数年後どころか今すぐにでも世界を滅ぼさんとしている。

 その仕掛人、バット星人グラシエは成り行きを楽しそうに見守りながら、いまだに懐のすべてを見せようとはしない。

「それで、王様はもう宮殿にはいないって、どこへ行ったんだよ?」

「さあ? 私は別に王様の行動を縛ったりはしてませんから、どこへ行ったかまでは存じませんね。探してみてはいかがですか、私は止めませんよ」

「この野郎!」

 焦る才人は毒づいたが、グラシエは意にも介さない。

 そうしているうちにもハイパーゼットンは脈動を続け、破滅の力を解き放てる瞬間を待ち続けている。リュティスの最後までのカウントは、もう多くはない。

 

 

 続く

 


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