ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第27話  因縁の対決、タバサ対シェフィールド

 第27話

 因縁の対決、タバサ対シェフィールド

 

 黒い宇宙植物 メージヲグ

 生物兵器 メノーファ

 恐怖エネルギー魔体 モルヴァイア 登場!

 

 

 タバサにとって、ジョゼフは父の仇である。シェフィールドにとって、ジョゼフは守るべき主君である。

 運命に翻弄され、形を変えてタバサとジョゼフは幾度も戦い、シェフィールドはジョゼフの手足としてタバサの前に立ちふさがってきた。

 そして、このリュティスで両者の最後の戦いが始まろうとしている。

 数々の戦いを経て、スクウェアクラスの最上位まで才能を開花させたタバサに対して、シェフィールドは自らの身を捨てて生物兵器メノーファと化して挑む。

 どちらにも引けない理由がある。互いに何度も苦杯を飲まされた憎しみも込めて、決着を付ける時が来た。

 

 その光景を、冷笑しながら見下ろしている邪悪な眼差しがあったとしても。

「フフ、どちらが勝っても構いませんよ。すでに計画の大事な部分は完成していますからねえ。結果は同じ……そう、私はちゃんと王様との約束は守りますからね」

 陰謀に陰謀が重なり、混沌が増していく。最後に笑うのは、いったい誰か……?

 

 リュティス中に広がった恐怖のエネルギーを集めて作り出されたメノーファは、汚泥から沸き上がるあぶくのようにおぞましく脈動しながら膨れ上がっていく。そしてその中心に同化して操っているシェフィールドは、街ごと巨体でタバサを押し潰す勢いで迫っていった。

「くははは、私の中に信じられないくらいの力が溢れてくるわ。最初からこうしておけばよかった。お前を、このくだらない街ごと踏み潰してやる」

「それは奇遇……わたしも、あなたをもっと早く片付けておけばよかったと後悔しているところだから」

 タバサも、敵意をまったく隠さずに杖を振るって迎え撃つ構えだ。

 二人はこれまで、何度も戦いを繰り広げてきた。タバサがシェフィールドの関与を知らなかった場合もあるが、タバサはこれまでに起きたことの多くにシェフィールドが絡んでいたであろうことは気づいていた。

 膨張を続けるメノーファに向けて、タバサは杖をかざして得意の魔法を放った。

『ウィンディ・アイシクル』

 鋭い氷の弾丸が無数に放たれてメノーファの全身に降り注ぐ。しかしメノーファの体はゴムのように氷弾を受け止めると、無傷で柔らかく跳ね返してしまった。

「無駄よ、無駄」

 シェフィールドはあざ笑う。けれどタバサも、未知の相手には最初は様子見だ。相手はぶよぶよのスライムのような怪物、ウィンディ・アイシクルの物理的攻撃は通用しなかった。なら形のない攻撃ならばと、今度は人間なら即死するレベルの電撃を放った。

『ライトニング・クラウド』

 タバサの杖からほとばしった電撃が無数の光の鞭となってメノーファに突き刺さる。しかし、メノーファは電撃も吸い取るように体に吸収すると、タバサに向かってそっくりそのまま打ち返してきたのだった。

「くっ」

 自分の放った電撃のお返しを、タバサはとっさに空気のシールドを張ってやり過ごした。空気の断層に電気を通しやすい層を作って流してしまうというわけである。もっとも、こんな器用な芸当ができるのはタバサくらいのものだ。

 タバサは、目の前のグロテスクな怪物が難敵であることを認識した。物理攻撃もだめ、エネルギー攻撃も効かない。これは、気を引き締めて当たらないといけない。

 メノーファは、タバサの二度の攻撃もものともせずに膨張を続けている。肉塊でできた体は手足も頭もないが、その膨らみ続ける肉体はどんどんとタバサへ迫り、手出しができないでいるタバサにシェフィールドは愉快そうに笑った。

「あははは、もう手詰まりかしら? いいざまね、あなたの力なんてしょせんその程度のものなのよ」

「……」

「あら、負け惜しみのひとつも言えないのかしら? それから、このメノーファが図体だけのでくのぼうだと思わないことね!」

 メノーファのこぶが怪しく光ると、毒々しい色をした光弾が発射された。タバサがとっさにかわした後ろで、建物が爆砕されてレンガの破片が飛び散って行く。

 吸い取った感情の力を圧縮したエネルギー弾だ。まともに食らえば人間の体なんかひとたまりもないだろう。タバサは眉をしかめたが慌てはしなかった。あのシェフィールドの切り札だ、これくらいやってこなければおかしいというものだ。

 無表情で杖を構え直すタバサを見て、シェフィールドは忌々しげにつぶやいた。

「どこまでも腹立たしい奴。お前が、お前たち親子がいなければ、ジョゼフ様が苦悩することも無かった。お前たちは、生まれてきたことが罪なのよ!」

「そうかもしれない。王族というのは、そうした罪深い業を背負っているということはわかってる。けれど、わたしはお前たちのおかげで多くの人と出会ってわかった。人間は誰でも違った業や宿命を背負って生きている。誰もが特別じゃない」

「ハハ、言い訳のつもりかしら?」

「そうじゃない。業も宿命も、誰かに与えられたとしても、選ぶのは人の自由に委ねられている。人はその選択しだいで、罪でさえ光に変えることができる」

 タバサは吠えた。タバサももう昔のタバサではない。異なる世界でも勉強を重ね、人としての生き方を学んできた。

 誰しも間違う。逃れられない重圧の中で間違いを繰り返す。それはどんな人間でも、ウルトラマンでも例外ではない。けれど、それで終わりではない。その先へ進む決意があるのなら。

「わたしもまた、罪深い身。自分のために、多くの血を流してきた。その罪を無駄にしないために、あなたたちの行いは止める」

「勝手なことを。お前もまた、加担した身ではないか。それを今になって、この裏切り者め!」

「そう、わたしは間違っていた。けれど、今は正しい選択をしていると確信している。その自信を、イザベラが与えてくれた」

「なに?」

 シェフィールドは困惑した。なぜ、ここでイザベラの名前が出てくる? しかしタバサは哀れむような声で告げた。

「言っても、あなたにはわからない。歯車であることに満足している、犬のようなあなたには」

 痛烈な皮肉だった。タバサはジョゼフと行動を共にした期間、シェフィールドのことも見ていた。

 タバサから見て、シェフィールドは忠誠心だけは見事なものだ。だが、タバサにとって忠誠心はたいした評価にはならない。むしろ、厚すぎる忠誠心は目を曇らせる害悪とさえ見ている節さえある。

 かつて、忠誠心に厚いと言っていた父の臣下たちは、いざというときに何の助けにもならなかった。それ以来、タバサにとって他者との信義とは、自分の力と態度で示すものだとして、シルフィードにもキュルケにもそうしてきた。

 だがしかし、タバサのそうした見方はシェフィールドの逆鱗に触れるものであった。

「殺す、殺してやる!」

 シェフィールドにとって、それは自身を全否定されるのと同じだった。シェフィールド自身のマイナスエネルギーも加わって、メノーファはさらに肥大化を早めていった。

 メノーファの巨体は肥大化するそれだけでリュティスの街並みを押し潰していく。タバサは自分に雪崩のように迫るメノーファの巨体を飛んで避けるが、このまま無秩序な肥大化を許したらリュティスが飲み込まれてしまう。

「逃げ場は無いよ。リュティスの人間どもから絞り出した恐怖のエネルギーは無尽蔵にあるんだからね!」

「そんなことをすれば、あなたたちの計画も台無しになる」

「心配はいらないよ。リュティスなんかどうなったところで、ジョゼフ様ならどんなことでも必ず取り繕ってくださる。だから安心して死ぬがいい!」

 シェフィールドは顔までメノーファの体に埋没し、もう完全に一体化している様子だ。リュティス中の人間たちの恐怖のマイナスエネルギーを受けて、それでもなお自我を保っているのはシェフィールドの強烈な悪念のなせる業か。

 タバサはメノーファの肥大化を少しでも食い止めようと、さらにジャベリン、ウィンドブレイクを放つが、まるで応えた気配はない。

 それを見てあざ笑うシェフィールド。しかし、タバサは危機感は持っても無闇に焦ってはいなかった。

 どんな強い獲物でも、必ず隙を見せるときはある。そこを逃さずに必殺の一矢を打ち込めば倒せないものはない、そのチャンスを冷静に待って逃すなというジルの教えは今でも確かにタバサの中に息づいていた。

 それに、タバサは一人で戦っているわけではない。巻き込むのは不本意だったが、このリュティスには自分のほかにも何人もの仲間が来ているはず。彼らも必ず、状況になにかの変化を与えてくれるはず。

 

 人頼みになるのかと言われればその通りだ。皆には、後で土下座して謝っても足りないけれど、自分たち王族の犯した過ちはなんとしてでも、ここで精算しなくてはならない。

 そう、決して望んで王族に生まれたわけではないけれど、王族としての責務を果たすことが、守りたい人たちを守ることに繋がる。なら、それを受け入れよう……あなたは答えを見つけたの? イザベラ……。

 

 タバサの心の呼びかけに答えるかのように、その頃イザベラも目の前の新たな試練に望もうとしていた。

「それにしても、リュティスってこんなに人間がいたんだねえ。これが全部わたしの国民か、感激できるねえ」

 ふざけた様子でうそぶいているが、自分が女王になるのならば、この視界を埋め尽くす何万という群衆も御せなくては話にならないことをイザベラは自覚していた。

 しかも、この群衆はあくまでオルレアン公を目当てに集まってきている。自分はお呼びではないところを、自分への支持に変えなければ女王にはなれない。そのために、ここからはハッタリだけではだめだ。

「さて、それじゃお話の時間といきますか」

 イザベラは腰を上げて、演説する台を用意するよう命じた。

 そんなイザベラを、オルレアン公、いや偽オルレアン公は不安げに見つめている。

「どうする気だ? こんなことになるなんて予定はなかった。我々には、もうどうすればよいかわからん」

「なんだ? 台本が無かったらアドリブも不安になるタイプか。情けないねえ、役者魂を見せなよ」

「なにを無責任な。我々は、お前の軍門に下れば命は助かるというから従っているのだぞ。どうしてくれる!」

「慌てるなって。どうしてかはわからないけれど、わたしは今自分でも信じられないくらい落ち着いてるんだ。女王になるのを受け入れたおかげかな? 相手が何万だろうが何億だろうが、まるで怖い気がしない。どころか、フフ……」

 そのとき、イザベラの横顔にオルレアン公は戦慄した。一見すればただの生意気な小娘にしか見えないイザベラから一瞬、背筋の寒くなる悪魔にも似た何かを感じた気がしたのだ。

 いったい、なにを根拠にイザベラはこんなに落ち着いているのだろうか? 開き直ったわけでもやけになったわけでもない。けれど、ゲーム盤を前にしたジョゼフと同じようにその眼は勝利を確信し、獲物を目の前にした猛禽と似た輝きを放っている。

 けれど今度は前回のように未知の力が突然目覚めるみたいな奇跡は望めない。なら、どうするのか? すると、イザベラは少し離れて待機していたトリステインの神官団……つまり、変装したミシェルら銃士隊を呼び寄せると言った。

「お前たちにもちょっと協力してもらうよ」

「我々に、始祖の代行者として正統の証明をしろとのことでしょうか?」

「違うよ、それはもう十分だ。わたしが見るところ、お前ら顔を隠してはいるけどみんないい女だ。ってことは、フフフ」

「はい?」

 イザベラの考えていることの意味がわからず、ミシェルたちは戸惑った。しかし、イザベラから企みを明かされると、ミシェル以外の銃士隊員たちは眼を輝かせて色めき立った。

 銃士隊員たちはトリステインから乗ってきた船に必要なものを取りに跳んでいき、すぐさま支度を開始した。

 数人の銃士隊員がイザベラを囲んでなにやらしている。それをミシェルは、意味があるものなのかと懐疑的な眼差しで見守っていたが、一人の隊員に「だから副長はサイトを捕まえられないんです」と、呆れたふうに言われて憮然とした。

 かかった時間はざっと五分ほど。短いが、救いを待つ群衆を待たせるには長く貴重な時間を費やした後、それは完成した。

「なっ、なんと……」

 そこには、興味を示していなかったミシェルでさえ思わずうなってしまうものができあがっていた。それを見て、周りの兵士たちも大きくどよめきだしている。

 それにたずさわった銃士隊の隊員たちも、思った以上の出来映えに惚れ惚れしているほどだ。例外は人類とは美的感覚が違う偽オルレアン公一団だけだ。

 果たして、イザベラの秘策とは何なのか? それが吉とでるか凶と出るかの答えの時はすぐに来る。

 

 群衆は、恐ろしい怪物たちに街を追われて逃げてきて、精神的にすでにかなり追いつめられていた。軍隊に槍を向けられてギリギリの理性で止まっていたものの、これ以上じらされれば耐えきれずに理性を失って軍隊に突進していってしまうだろう。

 そうなれば多くの犠牲が出るのは間違いない。そんな決壊寸前の瀬戸際に、とうとうオルレアン公はリュティスの市民たちの前に現れた。

「恐れることはない、我が民たちよ。私はここにいる!」

 風の魔法に乗った声が響き渡り、人々は足を止めた。

 TVもラジオも無いハルケギニアでは、平民のほとんどはオルレアン公の顔も声も知らない。けれど平民たちは、このもし地球人が聞いたとすれば変声機を使ったように感じたかもしれないくらいに澄み渡った声の持ち主こそオルレアン公だと確信した。

 オルレアン公の名を呼ぶ唱和が群衆からこだまする。続いて群衆から見える壇上に姿を現したオルレアン公は、人々に向けて落ち着くように諭すと、自分たちがガリアを救うためにやってきたことを語った。

 たちまち群衆から歓声があがる。救世主オルレアン公を歓迎する熱量は、つい先日まで同じように熱狂していたガリア軍の将兵から見ても熱気を感じるほどであった。

 しかし、今のオルレアン公は前座でしかない。主役が変わっていることを知らないリュティスの民たちに、それをどうやって受け入れさせるか。偽オルレアン公は群衆をなだめ、そして言われた通りにイザベラへ渡すように話を移した。

「民よ。君たちに降りかかった災厄を私は見過ごしはしない。だがその前に、君たちに嬉しい知らせがあるので、聞いてもらいたい。私と同じく始祖の血脈を継ぎ、私以上に才覚に溢れた我が姪のイザベラ王女を紹介しよう!」

 大業に称え、偽オルレアン公は群衆に注目を促した。彼は内心では、これでしくじったら一味もろとも破滅だと恐々としていた。

 彼にはイザベラの考えがわからない。どれだけ人間に似せても人間の価値観まではコピーのしようがない、それが限界であった。

 しかし、呼びかけに応じてイザベラが群衆の前に姿を現したとき、その瞬間起こったのはオルレアン公の登場の時以上の歓声であった。

 

「おおおおおおおォォォォ!!」

 

 言葉にならない感情の津波が押し寄せて荒れ狂う。その大半は歓喜で、さらにはガリア軍の中からさえもあがっていた。。

 その光景を、偽オルレアン公は理解できないながらも最低限の威厳を保つよう心がけながら見つめていたが、群衆の中から次第にある言葉が流れ始めて彼の耳にも届いた。

「きれい。きれいな方だわ」

「美しい、なんて美しい姫だ……」

 口々に讃える言葉が漏れ聞こえる。

 そう、今のイザベラは純白の法衣を身に纏い、十分な化粧をして人々の前に立っていた。もちろん王女であるイザベラはプチ・トロワに住んでいた頃から日常的に化粧はされていたけれど、その頃は常に眉間にシワをよせるような生活をしていたので、せっかくのドレスも化粧も台無しになっていた。

 だけれども、今は違う。化粧の質こそ現地で短時間でこなした簡易なものだけれど、イザベラの表情は強い意志に満ち満ちて、生来の美貌をこの上なく輝かせていた。

「ガリアの民たちよ、聞くがいい! わたしは始祖の血を引く正当なる後継者。お前たちの胸に、イザベラという名を刻みつけることをまず命ずる!」

 高らかに宣言したイザベラの声に、人々は雷に打たれたかのように衝撃を受けて固まった。

 一瞬にして大群衆から声が消え去り、どよめきや野次さえもない。それだけ、決然と放たれた今のイザベラの声に込められていた威厳は強かった。

 まるで、無秩序なハイエナの群れがライオンの一吠えで縮みあがってしまうかのような光景。リュティスの民のほとんどはオルレアン公同様にイザベラの姿も知らないけれど、この一声だけで彼女を王族かと疑う者はいなくなった。

「民たちよ。わたしはお前たちを苦しめているジョゼフ一世の一子である。しかし、わたしは父のやり方を認められず、ここにこうして推参した。心苦しいことであるが、わたしは父を国王から廃することを決意した。その果てに、先々王のような平和で豊かなガリアを再興することをわたしは志す。ガリアの未来を憂う勇気ある者はわたしの掲げる旗を仰ぐがいい!」

 この声に群衆からさらなる歓声があがった。

 ジョゼフの子だということなどは聞き流され、新しい救世主の登場に人々は興奮している。群衆の中には、以前のイザベラを知っている元メイドなども混ざってはいたが、あれが本当に昔見たイザベラと同一人物かと眼を疑っていた。声は同じだし顔立ちもそのまま……しかし、まるで別人だ。

 女王としての着こなしと立ち振舞いを披露するイザベラの姿は、あっという間にオルレアン公から人気を奪い取っていた。いつもの意地悪げな笑みを張り付けた顔は凛々しく引き締まり、そのあまりの変わりようにはジャネットさえ自分の目を疑っている。

「あら、まぁ……磨けば光る子なんじゃないかしらとは思ってたけど、まさかここまでとは、ね」

 ドゥドゥーやジャックも、人間ここまで変わるものかと驚いていた。

 イザベラの父ジョゼフも、風貌では美丈夫と称される容姿の持ち主。イザベラにもその美貌は十分に受け継がれていたが、これまでのイザベラにはその自覚が足りなかった。

 その自信に気づかせてくれたのは、イザベラにとって仇敵であった他ならぬタバサだった。数年前、イザベラはタバサを北花壇騎士の任務で呼びつける度に王宮で晒し者にしてきたが、メイドも衛士どももそんなタバサを嘲るどころか尊敬の眼差しで見つめていた。その意味を当時の自分はいら立つだけで知る由もなかったけれど、今ならわかる。

 王の威厳とは何よりも己の強い意志にある。見た目が貧相だろうが、何者にも屈せずに”自分はここにいる”という意志が、太陽や月のように輝きを放って人を引き寄せる。だが、本当に貧相なままでは雲がかげった月のようなもの、身なりを整えればそれは星を従えた満月のようになれる。

 イザベラは、知らないうちにタバサから様々なことを学んでいたことを腹立たしく思ったものの、自分の中に間違いなく王族の資質が眠っていたことに胸を熱くした。こうなることもタバサの思惑通りだとすればさらに腹が立つが、文句を言ってやるのは後だ。

 見渡す限りを埋め尽くす大海のような群衆を見渡し、イザベラは言葉を継いだ。

「我が民よ。今のガリアは大きな災いに直面している。わたしはそれを救うためにここにやってきた。お前たちの欲する平和を必ず取り戻すために、わたしはここにいる」

 イザベラの一声一声に群衆は歓声で答える。けれどイザベラは彼らに対して、都合のいい救世主になるつもりはなかった。

 北花壇騎士団長の頃に得た経験。民衆というものは、単に災厄を取り除いてやっても、すぐに同じことを繰り返す。オーク鬼に襲われていた集落に騎士を派遣してやったら、退治後に安心しきって別のオーク鬼に襲われて全滅した例があった。このままガリアを救ったとしても、ガリアの民はまた変わらぬ安穏とした姿に戻り、王様ひとりの気まぐれに振り回される日々が未来に再現されるかもしれない。

 過ちを繰り返さない唯一の方法は、痛みの記憶を刻み込むことだけ。けれど、民たちに戦えと言うわけにはいかないイザベラは、ひと呼吸おいてこう告げた。

「民たちよ。わたしはこれからジョゼフ王に戦いを挑む。ただし、王には凶悪な魔物がついている。その戦いは恐らく、想像を絶するものになることだろう。だからお前たちに先んじてひとつ命じる……これから起こることを目を逸らさず見届けよ。その果てに、このガリアに生きるとはどういうことか、誰がこのガリアの王だるにふさわしいかをお前たちは知ることになるだろう」

 これは予言ではない。もうあと数刻を待たずして、このリュティスは戦場になる。それはもはや避けられない運命だ。

 本来ならば民を安全な場所まで逃がすべきなのだろう。しかしそれでは、与えられた平和を漫然と享受するだけで、なにひとつガリアそのものの成長はあり得ない。

 もっとも、それもこれも都合よく生き残れたらの話だが。

 イザベラは魔都と化したリュティスを望みながら、すでに潜入しているはずのタバサが無事障害を取り除いてくれることを祈った。

 

 しかし、リュティスの状況は悪化の一途を辿るものであった。

 巨大化を続けるメノーファ。その巨体は小山のようになり、街を押し潰している津波のような進撃で、まだ街に残っていた人々も血相を変えて逃げ出している。

 そしてその中には、役立たず状態で逃げ惑っていたルイズと才人たち一行の姿もあった。

「ちょちょ、ちょっと待て。あれ見ろ、あれ!」

「なんだありゃ? でかい肉の塊か? あれは幻じゃない、街が壊されていくぜ」

「まずい、逃げろ!」

 水精霊騎士隊は急いで逃げ出し、才人とルイズもその後を追った。

「なあ、あれもジョゼフのしわざだと思うか?」

「わかんないわよ。けどたぶんそうでしょ。サイト、変身に必要な力はもう溜まってたっけ?」

「だいぶ来てるはずだけど、まだあとちょっとだ。だけど」

 グエバッサーと戦った際に大きく消耗した回復は、八割ほど完了していた。しかし、今変身してしまってはそれを使い果たすことになってしまう。まだジョゼフの顔も拝んでいないというのに、こんなに早く切り札を使ってしまっていいのかという問題もあった。

 しかし、あんな巨大なものをどうにかするのに他にどうしろというのか? エクスプロージョンをフルパワーで撃っても氷山の一角しか削れそうにない。しかしこのままでは、膨張していくあれに街も自分たちも押しつぶされてしまう。

 せめて、十分なエネルギーが戻っていたら。そう思ったときだった。二人の眼に、建物の影でうずくまっている誰かの姿が入ってきた。

「うぅっ……」

「ちょ、あんただいじょうぶか!」

 二人は急いで駆けつけて、その男を助け起こした。

「ああ、どこのどなたかは存じませぬが、かたじけない」

 その男は、痩せた気弱そうな中年だった。身なりでかろうじて下級貴族だとわかるものの、平民に混ざっていても誰も気に止めないかもしれない。

 彼は痩せた体には不似合いな大荷物を持って疲れはてていたが、才人が肩を貸すと頭を上げて礼を言ってくれた。才人はそんな彼を支えながら、先に行った水精霊騎士隊のみんなを追って急ぐ。

「なんで、こんなところにまだいるんですか? 早く逃げないと、あのでかいのにつぶされちまうんだぜ」

「すみませぬ。私も逃げようとしていたのですが、どうしても置いていけない仕事がありまして」

「そんなの、死んだら元も子もないじゃないですか」

「いいえ、私がこれを放り出して逃げたら、大勢の人が困るのです」

 見ると、男がしっかりと抱き抱えている鞄にはぎっちりと書類が詰め込まれているようだった。会計士かなにかの仕事だろうかと、才人はサラリーマンだった父のことを思い出した。

 ともかく、男は頑固に荷物を手放そうとはしないので、才人だけでは支えきれずにルイズも反対側から肩を貸して歩き出した。

「おもっ! もう、わたしにこんなことさせるなんて、本当ならありえないんだからね」

「本当に、どちらの良家のご夫妻か存じませぬが、ありがとうございます」

「ふ、夫妻!? って、そ、そんなわたしたちはそんなんじゃないわわわ」

 思わぬ一言にルイズは思いっきり動揺した。確かにハルケギニアではルイズくらいの年頃で結婚しているのは珍しいことではないが、こんなところで不意打ちぎみに言われたのでうろたえてしまった。

「それは失礼しました。とても仲良さげに見えたもので、つい。実は私にも妻と子がおりまして。あなた方のように健やかに育ってくれればと願っております」

「マイペースなおっさんだな! 今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」

 才人も呆れたように叫ぶ。そりゃまあ、ルイズと夫婦扱いされたのはまんざらではなくてルイズに肘鉄されたものの、グロテスクな肉塊が後ろから迫っている中でへらへらできるほど色ボケちゃいない、はず。

 だが、心なしか巨大肉塊の膨張する速度が早まっているように見える。なぜ? すると、膨張する肉塊が、いたるところに生えているあの黒い花を飲み込む度に膨らむ速度を早めているように見えた。

「まさか、黒い花を食ってエネルギーに変えてるのか?」

「冗談じゃないわよ。黒い花は町中に咲いてるのよ!」

 最悪だ。つまり巨大肉塊には巨大化の歯止めがないということになる。こんなもの、どうやって止めればいいんだと、二人が絶望感に囚われかけた時、男が顔を上げて、走馬灯を見たかのようにつぶやいた。

「ああ、そろそろお迎えのようです。田舎に逃がしたはずの妻と子たちが見える……」

「は? おっさん、それも幻覚だよ。だいたいこの幻覚で見えるのは、見る人の怖いものだけの、は、ず……」

 才人は男を励まそうとして逆に言葉を失った。なぜなら、才人の目の前にも。

「父さん、母さん……!」

 地球にいるはずの、才人の両親が立っていた。だが目を擦り、自分にあれは幻だと言い聞かせるが、ルイズも別のものを見ていた。

「お、とうさま?」

 学院に入学以来、ほとんど会えていない父親のヴァリエール侯爵をルイズは見た。もちろんルイズも才人同様に、あれは幻だと自分に言い聞かせているが、肉親の姿を目の当たりにした衝撃は簡単に収まるものではない。

 けれど、警戒する二人に対して、今度の幻覚はこれまでのように襲いかかってきたりはせずに、彼らの家族の幻はじっとたたずんだまま、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。

 懐かしい……才人たちの胸に暖かい気持ちがわきあがってくる。けれど、いったいどうして? すると、彼らの見ている家族の幻たちは、すっと男の持っている荷物を指差した。

「えっ? もしかして、これですか?」

 男は荷物の中から、一輪の花を取り出した。それは、町中に咲いている花と形はいっしょのものに見えたが、ひとつ大きく違っているところがあった。

「白い? ほかの花はみんな黒いのに、これだけ白いわ。きれいね」

「ああ、キラキラしててまるで雰囲気が違うな。なあ、この花をどこで?」

「はあ、私の仕事場の鉢植えにいつの間にか生えていましたので、置いていったらかわいそうだと思い」

 白い花は光の粒子を静かに舞わせながら輝いている。それは黒い花の不気味さとはまったく異なり、見ていると心が落ち着いてくる美しさを放っていた。

 いったい、この花は? 才人たちが見とれていると、白い花から放たれる粒子が周囲に広がり、さらにそれが膨張し続けている巨大肉塊の動きを鈍らせたように見えた。

「そうか、この白い花には黒い花の力を押さえる働きがあるんだ」

「それに、この花を見てるとなんだか力が湧いてくる気がする。いける。サイト、今ならいけるわよ」

「ああ、やろうぜルイズ!」

 黒い花が恐怖を吸って育ったなら、恐怖を吸わせずに育てたならどうなるのか? まるであらゆる邪悪が飛び出したパンドラの箱の中にひとつだけ希望が残っていたように、白い花から放たれる清浄なエネルギーを得て、二人は手のひらを重なり合わせた。

 

「「ウルトラ・ターッチッ!」」

 

 虹色の光芒の中から、銀の巨人が姿を現す。

 そのカラータイマーは青く戻り、ウルトラマンAは先に逃れていた水精霊騎士隊の元に才人たちの連れていた男を優しく下ろした。男は唖然としていたものの、水精霊騎士隊の少年たちは、彼が逃げ遅れていた市民だと知ると彼を保護した。

「やっぱすげえなあ。おっさん、あれがウルトラマンAだよ」

「ウルトラマンA、本当にいたんですね」

 エースの勇姿を見上げて頼もしそうに歓声をあげる少年たち。そうだ、ウルトラマンはいつでもこうして人々に希望を与える存在でなくてはいけない。

 そして、偏った感情のまま暴れる怪物は決して許してはおけない。エースは彼らや、いっしょにいるカトレアらの期待する視線を背に受けながら、迫り来るメノーファの巨体へ向かって立ち向かっていった。

「テェーイ!」

 ダッシュ一閃。エースはメノーファの巨体を目掛けてキックを放った。狙うところはどこでもいい、相手がでかすぎるのだからどう攻撃したって必ず当たる。

 渾身のキックがメノーファのぶよぶよした巨体に突き刺さった。その感触はまるでゴムで、エースのキックの衝撃を豊かな弾力性を持って吸収してしまった。

 いや、それ以前に巨大化しすぎたメノーファからすれば、エースの攻撃など蚊に刺されたような規模でしかないだろう。

”まったく効いてないのか!”

 才人とルイズは、そう落胆しかけた。だが、そのときだった。エースの攻撃した場所から白い光が零れ、メノーファの巨体がまるで水をかけられた角砂糖のようにしぼみ出したのは。

〔溶けてく、崩れてくぞ!〕

〔そうか、エースの体にあの白い花の効果が残ってるんだわ。今なら勝てるわ。思いっきりやっちゃいなさい!〕

 勝機、ここにありとルイズも勇敢に叫ぶ。

 もちろん、それに応えないエースではない。

「ムウン!」

 この場で一番有効な手はなにかと選び、エースは念力を集中させて、その手に一振りの白刃を呼び出した。

『エースブレード!』

 輝く剣を手に、エースはメノーファに斬りかかった。

 袈裟懸け、唐竹、斬る、斬る、斬る! 斬りまくる。

 滅多切りに斬りまくり、斬られたところからメノーファの肉塊はバターに熱したナイフを通したように溶けていく。

 しかし、そんなふうに斬りまくられて、メノーファと一体化しているシェフィールドもただですむわけがない。

「ぐああぁ! お、おのれぇ、こしゃくなウルトラマンめ。もう力を取り戻したのか。だが、邪魔はさせぬぞ! 貴様にはこいつの相手をしていてもらおうか」

 憎悪を込めて、シェフィールドはメノーファの一部を切り離した。それはじぐじぐと萎んでゆくと、やがて牡牛と悪魔を掛け合わせたような恐ろしい姿の怪獣へと姿を変えたのだ。

「ゆけ、モルヴァイア。ウルトラマンAを血祭りにあげよ」

 現れた怪獣は、格闘家のように構えをとると、猛然とエースに襲いかかってきた。

 これこそ、黒い花の本来の姿である恐怖エネルギー魔体モルヴァイア。黒い花は恐怖のエネルギーを集めていくと、本来ならばそのエネルギーを集めて実体を持つ活動体である怪獣モルヴァイアを作り出すが、シェフィールドはそのメカニズムをメノーファを作り出すために利用した。しかし、エネルギーがメノーファに十分集まった今ならば、分身のようにモルヴァイアを生み出して使役することもできる。

 エースは襲ってくるモルヴァイアに対して、自身も構えをとって相対した。

 睨み合う一瞬。

 モルヴァイアはその巨体に似合わない身軽さでジャンプし、猿のように空中から襲いかかってくる。それに対して、エースも大地を蹴って跳び上がって迎え撃つ。

「シュワッチ!」

 空中回転し、ジャンプキックを放つエース。宙を突進してくるモルヴァイアと空中で交差し、両者は同時に地面に着地して対峙した。

〔こいつ、できる!〕

 今の衝突で、エースはモルヴァイアが単なる怪獣ではないと理解した。

 元は人間の恐怖のエネルギーから生まれた怪獣。それゆえか、モルヴァイアはまるで人間のように拳法じみた構えを見せている。

 だが、ひるむ理由にはならない。拳法ならば、宇宙警備隊きっての拳法の達人レオとの組手も経験してきた。獅子の瞳の輝きに比べたら、悪魔の眼差しなど恐れるに足りない。

「ヘヤァッ!」

 拮抗は簡単に破られ、エースの18番であるチョップがモルヴァイアの頭に叩きつけられ、間髪入れずにショルダータックルからの接近戦に移行した。

 しかしモルヴァイアも黙ってはいない。悪魔のような角を振り立て、爪を振りかざしてエースの首を狙ってくる。

 

 エースとモルヴァイアの戦いは激しさを増してゆき、リュティスの街並みを揺るがしていく。

 そして、王宮への門を巡って続くシェフィールドとタバサの戦いも、また新たな局面を迎えようとしていた。

「ええい忌々しい。次から次へと邪魔ばかり入って!」

「当たり前のこと。誰も、あなたたちを本気で助けようとする人はいない。けれど、わたしたちには、多くの仲間がいる」

「戯言を! 自分でそれを捨てたくせに」

「そう、わたしは捨てた。だから、こんなわたしでも拾ってくれようという人たちまでわたしは裏切れない。あなたたちは、わたしが止める」

「黙れえ! やはり、やはりそうだね。ジョゼフ様に同意したふりをして、土壇場で裏切った。お前は、お前たち親子はジョゼフ様のお慈悲にたかる寄生虫だ。絶対に生かしてはおかない!」

「なら、なぜあなたはその寄生虫を呼び返そうとするジョゼフに従うの?」

「それがジョゼフ様のお望みだから。私にとってはそれで十分! ジョゼフ様のお喜びこそ我が喜び、ジョゼフ様の願いこそ私の願い。それがジョゼフ様に支えるミョズニトニルンとしての私のすべて! 犬と呼びたければ呼ぶがいいわ。誰にも私とジョゼフ様の関係はわかりはしない」

 狂気のままに、シェフィールドはメノーファの巨体を操ってタバサを攻め立てる。エースの攻撃とモルヴァイアを分離したせいで膨張は止まっているものの、その巨体で王宮の前に立ちふさがり、怪光線でタバサを狙い撃ってくる。

 タバサは怪光線をフライの魔法を使ってたくみにかわし、外れた光線が建物を破壊して爆発が連鎖する。対してタバサの魔法はやはりメノーファには通じず、シェフィールドは愉快そうに笑った。

「あはは! いい様ねプリンセスタバサ。お前の精神力はあとどのくらい持つのかしら? なんとか言ってみたらどう?」

「……」

「チッ、その顔、何度つぶしても、自分は特別な存在だって言ってるようなその顔が腹が立つのよ!」

 あきらめる様子のないタバサに、シェフィールドはさらに苛烈な攻撃をかける。並みのメイジならとても避けられないような怪光線の弾幕、それをスレスレでかわしながら、タバサは無表情のままシェフィールドに言った。

「あなたのことは、少しわかる」

「なに!」

「あなたとわたしは、それにジョゼフは似ている。手に入れたいけど届かなくて、それでもあきらめられないものを追い続ける乾いた獣。でも、同情はしない」

 勝つ手段があるかわからないというのに、毅然と言い放つタバサに、シェフィールドはさらに怒りを増すのだった。

「すぐにそのすました顔を恐怖に染めてやるわ。お前には、私を倒す方法なんかないのだからね」

「いいえ、その兵器の弱点は、もうわかっている」

 激闘は、続く。

 

 しかし、時間稼ぎをするという一点において、シェフィールドはその役目を完璧に果たしていた。

 ヴェルサルテイル宮殿のはるか地下。そこには巨大な空洞があり、そこではあのコウモリ姿の宇宙人が愉快そうにほくそ笑んでいた。

「フフフフ、実にいい具合ですねえ。役者の皆さんがこちらに集まってくれているおかげで、そろそろフィナーレの幕を上げられますよ。自分たちのやっていることが、最強の破壊神の栄養になるとも知らないで……さあ、これが終わりの始まりです。たっぷり食らいなさい!」

 そう言うと、宇宙人はこのリュティスの地下に張り巡らせた血管のようなエネルギー導管の弁を開いた。すると、地上での戦いのあらゆるエネルギーの余波が水が高きから低きに流れるようにして、導管を通じて地下空洞に安置されて鼓動している巨大な繭のような物体へと注ぎ込まれていく。

 すると、巨大な繭が心臓のように発光して、鼓動していた繭がさらに鼓動を速めていった。それを見た宇宙人は、楽しそうにさらに笑った。

「いいですよいいですよ。やはり、人間の感情のエネルギーに着目した我々の目は間違っていませんでした。かなり不純物が多いのは仕方がないところですが、これだけあれば何でもできますよ。なんでもねぇ!」

 彼は、まさに思い通りに事が進んでいると狂喜して叫んだ。すべてはこの時のため、敵も味方も、そのすべてがここに集まってくれることが最初から目的だったのだから。

 だが、喜びに沸く彼に、後ろから暗い声がかけられた。

「なら、その集めた膨大な力を使って、そろそろ一仕事してもらおうか」

 そこには、表情を押し殺した様子でジョゼフが立っていた。宇宙人は振り返ってジョゼフを一瞥すると、子供をあやすように語りかけた。

「わかってます、わかっておりますよ。私は約束はちゃんと守る男です。では、準備もよろしいところで始めましょうか」

 そう言うと、宇宙人はジョゼフの隣に置かれている棺に歩み寄った。

 豪奢な作りをしている棺は一目でやんごとなき身分のために作られたということがわかる。宇宙人はその棺に手をかざすと、繭から棺に向けてエネルギーが流れ込み始めた。

「フフフ、一時だけ動かせればいい捨て駒と違って、ちゃんとした形で蘇らせるのはデリケートですからね。さて、あのお姉さんのおかげでご遺体の修復状態は良好。少しお待ちくださいね。もうすぐ会えますよ。フフ」

 

 

 続く


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