ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第32話  宇宙正義の守護者 (後編)

 第32話

 宇宙正義の守護者 (後編)

 

 サボテン超獣 サボテンダー

 ウルトラマンジャスティス 登場!

 

 

 超獣、それは異次元人ヤプールが惑星攻撃用に地球の生物と宇宙怪獣を超獣製造機で合成して作り上げる生物兵器で、文字通り怪獣を超えた生物である。

 今、力を取り戻しつつあるヤプールは異次元世界で新たに開発した超獣製造機を使い、ベロクロン、ホタルンガをはじめ、次第にその数を増しつつ、ひそかに地上に送り込んでいた。

 このサボテンダーもその一つである。しかしまだ不完全な力しか持たないヤプールは、最初から完全体としてサボテンダーを作り出すことができず、エネルギー充填のために小さなサボテンの姿で送り出した。

 奴は可憐な花で人の目を騙しながら人から人へと渡り歩くたびに、昆虫、動物、さらには人間を次々に捕食しながら成長し、遂にこのウェストウッド村でスコーピスのエネルギーを吸収することによって完全体となって巨大化したのだ。

 

 しかし、その前には宇宙正義の守護者、ウルトラマンジャスティスがいた。

 今、時空を越えた宇宙正義と宇宙悪との最初の戦いが始まろうとしている。

 

「ダアッ!」

 サボテンダーに向かってウルトラマンジャスティスは果敢に挑みかかっていく。本来ならその星の原住生物との交戦は避けたいところだが、明確な敵意を持って向かってくる以上迎え撃たないわけにはいかない。それに、この怪獣をそのままにしておいてはウェストウッド村にまで被害が出るだろう。

「ファッ!!」

 胴体の棘の隙間を狙ってジャブの連撃を見舞う。

 ジャスティスにとっては軽い攻撃だが、一撃一撃は岩をも砕く鉄拳だ。巨大なバチで叩かれる太鼓のように柔らかいサボテンの表皮がへこまされていく。

 そう、ジャスティスの戦い方は常に真っ向勝負、いかなる敵であろうとも正面から戦って粉砕する。

 しかしサボテンダーもやられっぱなしではなく、鋭い棘で覆われた腕を振り下ろして反撃に出てきた。

「シャッ!」

 とっさに受け止めると、腹に蹴りをくれてジャティスはサボテンダーを引き離した。

 けれど、距離が開いたのを見ると、サボテンダーは全身の棘をまるでミサイルのようにジャスティス目掛けて放ってきた。

「!?」

 側転してかわしたジャスティスのいた場所にトゲミサイルは着弾して、派手な爆発を引き起こす。

 しかも、発射した棘は後から後からいくらでも生えてくる。触るな危険みたいな見た目をしているにも反して意外にも飛び道具も豊富なようだった。

 けれど、そのときジャスティスの耳に子供達の応援する声が届いてきた。

 

「頑張れー! ウルトラマーン」

「負けるなーっ!!」

「怪獣をやっつけてー!!」

 

 その声援を背に受けて、ジャスティスはトゲミサイルを乱射するサボテンダーに向き直り、右手から必殺の破壊光弾を一瞬の虚を突いて放った!

『ジャスティスマッシュ!』

 光弾はトゲミサイルとぶつかり合い、これを粉砕しながら前進してサボテンダーの腹に命中! 牽制程度の技だが、サボテンダーは痛覚神経を命中の爆発による熱と衝撃で過剰労働させてもだえた。

 もちろん、その隙を見逃すようなジャスティスではない。

「デュワァッ!!」

 猛々しい叫びをあげると、サボテンダーの胴体の中央部に向けて必殺のパンチを炸裂させる。

 これはさっきの様子見のジャブではなく、渾身の力を込めた正拳突きだ。拳の形に大きく胴体をめり込ませ、内臓破壊にまで達する超重量級の一撃に、サボテンダーははじかれるように吹っ飛ばされる。

 だが、ジャスティスは追撃の絶好の好機であるにも拘わらず、立ち尽くしたままじっとサボテンダーを見ていた。

(これでもう敵わないのはわかっただろう。早く逃げるがいい……)

 なんとジャスティスは目の前の怪獣を殺す気は最初から無く、力の差を見せ付けることで逃がそうと考えていた。宇宙の調和を守る存在であるがために、スコーピスのような完全な悪はともかく、多少凶暴であろうと原住生物の無用な殺戮はすべきではない。

 それは、ジャスティス自身の使命感と……かつて会った怪獣保護という夢を追い続け、信じれば夢は叶うということを教えてくれたある男に対する礼の気持ちもあった。

 だが、その怪獣は自然と調和することのできる怪獣ではなく、悪意から産み落とされた破壊の権化、超獣だった。

 

 奇声を上げ、地面で這いつくばっていたサボテンダーの体から手足と尻尾が引っ込み、見る見るうちにその姿が怪獣型から球状のサボテンの形に変形していく。

「ヘヤッ!?」

 いぶかしむジャスティスの前で、サボテンダーは球体の体をまるでサッカーボールのように飛び跳ねさせると、空中からジャスティス目掛けて体当たりを仕掛けてきた! 

「ヌウォッ!?」

 とっさに受け止めて放り投げるが、サボテンダーはまるで見えないゴム紐でつながっているように再びジャスティス目掛けて飛び掛ってくる。これは避けきれないと判断したジャスティスは、向かってくるサボテンダーに渾身の蹴りで迎え撃った!

「ヌウァッ!!」

 超重量の物体同士が高速で衝突する轟音と衝撃波が、夜の森とティファニア達の顔をしたたかにひっぱたいた。サボテンダーの球体は蹴られた衝撃で、サッカーボールのように飛んで森の木々を巻き込みながら転がり、なおもUターンしてジャスティスへと迫ってくる。

「クッ!」

 ジャスティスがうめいた。

 だめだ、このままでは埒があかない。それにしても、この怪獣はいったいなんなのだ? 動物と植物の特徴を合わせ持っているだけでなく、恐るべき凶暴性を持っている。

(ともかく、このまま放っておくわけにはいかん)

 普通の怪獣とは何かが違う……そんなひっかかるものを感じながらも、ジャスティスは転がってくるサボテンダーに向かって身構えた。

「ヘヤッ!!」

 突進を正面からがっしりと受け止め、渾身の力で勢いを殺す。

「ヌゥゥ……デヤァッ!!」

 止まった球体を、そのまま大地に叩き付けて動きを封じる。

 しかし、サボテンダーはその叩き付けられた衝撃さえ利用して、鞠のように空高く跳ね上がった。

「ヌッ!?」

 思わず空を見上げるが、さしものジャスティスも頭上は死角だ。まっ逆さまに落ちてきたサボテンダーを受け止めきることができずに、強風を受けた看板のように弾き飛ばされてしまった。

「ウォォッ!!」

 思わぬ攻撃を受けてしまったジャスティスは、膝を突いてダメージになんとか耐えようとした。

 超獣の恐ろしいところは、単にそのパワーが怪獣を超えているということではない。兵器として改造された、その特有のトリッキーな特殊能力の数々がやっかいなのだ。 

 もし、普通に怪獣としての形態のままで戦えば、サボテンダーはジャスティスにとってそれほど面倒な相手ではなかっただろう。しかし、相手の虚を突く超獣との戦闘経験が無かった事がジャスティスにとって不利な要素となっていた。

 

「がんばってーっ、ウルトラマーン!」

「立ってーっ」

 

 けれど、そんな中でも子供達のウルトラマンを応援する声はやむことはなかった。

 みんなウルトラマンの勝利を信じて、テファも子供達を守りながら、ぐっと目をそらさずに戦いを見守っている。

 

(だめだ、逃げろ!)

 しかしジャスティスはそんな声援をうれしく思いながらも、それが危険であると感じていた。

 なぜなら、ジャスティスに聞こえるということは怪獣にも聞こえるということだからだ。

「わっ、超獣がこっちに来る!」

「みんな、逃げて!」

 球形から怪獣型に戻ったサボテンダーは、村のほうへ向けて進撃を開始した。

 聞き苦しい鳴き声をあげながら、鋭い牙の生えた口が不定形に不気味によだれをたらしてうごめく。

 だが、そうはさせじとジャスティスは背後からサボテンダーに飛びついて歩みを止めようとする。

「テヤァッ!!」

 後ろから羽交い絞めにして村へと向かうのを阻止し、そのまま無理矢理に振り向かせて、首根っこを押さえて地面に引き倒す。

 が、サボテンダーもただではやられない。仰向けに倒れこんで、追撃をかけるためにジャスティスが覗き込んだ瞬間、木の洞のような口から真赤な鞭のような舌が伸びてきてジャスティスの首に絡まって締め付け始めた。

「ウォォッ!!」

 鉄塔でもつぶしてしまいそうな圧力で首を絞められて、ジャスティスは首を押さえてもだえた。

 その隙にサボテンダーはむくりとビデオの逆再生のように起き上がると、右に左にと舌を振り回してジャスティスを苦しめ、投げ捨てるように勢いをつけて放り出した。

「ガァァッ!!」

 森の木々を巻き込みながら、吹き飛ばされたジャスティスは森の中に倒れた。

 なんという怪獣だ……倒れたジャスティスの脳裏に、長年の戦闘経験が警鐘を鳴らすが、首を絞められたダメージで頭が朦朧とし、なかなか立ち上がることができない。

 その間にも、サボテンダーは絶好の餌場とみなしたウェストウッド村へ、ティファニアと子供達の元へと迫っていく。

「ウルトラマンがやられたっ!」

「わっ、こっちに来るな!」

「お姉ちゃん、怖いよお」

 悲鳴をあげて逃げていく子供達の後ろから、サボテンダーは彼らの家や畑を踏み潰しながら迫ってくる。

「みんな、頑張って走って!」

 ティファニアは子供達の背を押しながら、隠れる場所のある森のほうへと走っていく。

 けれど、サボテンダーはジャスティスを絞め倒した長い舌を伸ばして、子供達を捕まえようとしてきた。

「みんな、伏せて!!」

 とっさに子供達の上に圧し掛かって、地面に押し倒したティファニアの上を毒々しい赤い舌が風を切りながら通り過ぎていった。あと一瞬遅ければ、五、六人はまとめて捕らえられていただろう。

 けれど、空振りしたはずの舌はそのままその先にある一本の立ち木に絡みつくと、深く根を張っているはずのそれを、まるで雑草のように軽々と引き抜き、ティファニア達の上に大量の土を降らせた。

「わーん!!」

 そのとき、恐怖に押しつぶされそうになった一人の子が、ティファニアの腕を振り切って走り出してしまった。

「待って!! そっちに行っちゃだめ!!」

 その子は怖さのあまり、見晴らしのいい畑のほうへと逃げ出してしまった。

 当然、サボテンダーがこれを見逃すはずはない。子供の足では速さもたかが知れており、獲物を狙う蛇のように、長い舌がスルスルとその子の背後から迫った。

「やめてーっ!!」

 ティファニアの絶叫が森にこだまする。

 だが、食欲に濡れた舌が、子供の小さな体に巻きつく寸前、ティファニアの手がその子の体を突き飛ばし、畑の柔らかい土の上に倒れこんだその子は無傷で助かった。

 しかし……

「あっ!! テファお姉ちゃーん!!」

 そう、狙った獲物を空振りしたはずのサボテンダーの舌は、その代わりにもっと大きくてうまそうな餌を捕らえていた。

 飢えて唾液に濡れた舌がティファニアの華奢な体にがっしりと巻きつき、その身の自由を完全に奪って、そのまま奴の口の中へと抗いようもない力で引き込み始めた。

 あの鋭い牙の生えた口の中に放り込まれたら、人の体などひとたまりもなく噛み砕かれてしまうだろう。けれども、自らの命が危機に立たされているというのに、ティファニアの口から出たのは悲鳴ではなく、最後まで子供達のことを思う言葉だった。

「みんな、早く逃げて!!」

「お姉ちゃーん!!」

 子供達は喉も割れんと叫ぶが、どうすることもできない。

 そして、ティファニアの体がサボテンダーの口に飲み込まれようとした。その瞬間!!

 

「デヤァァッ!!」

 まさに刹那! 立ち上がったジャスティスの腕がサボテンダーの舌を掴み、寸前のところでティファニアが飲み込まれるのを防いでいた。

「ジュリ……さん」

「ウルトラマーン!! お姉ちゃんを助けて!!」

 子供達の心からの叫びがジャスティスの耳を打つ。

 その拳に渾身の力を込めて、ジャスティスはティファニアを捕まえたサボテンダーの舌を引きちぎった!!

「ヌォアァッ!!」

 はじける音とともに、サボテンダーの舌は真っ二つに千切れ飛び、神経の集合地を破壊されたサボテンダーの脳はキャパシティを大幅に超える激痛に襲われて、敵のことも忘れて地面をのた打ち回った。あれではしばらくは反撃してはこれないだろう。その間に、救い出されたティファニアはジャスティスの手のひらに乗せられて、子供達の前にゆっくりと降ろされた。

「ありがとう……ございます」

 ティファニアは、自分に抱きついて泣いて喜ぶ子供達の背を抱きとめながら、ジャスティスの姿をいとおしげに見上げて、心からの礼を言った。

 そして、ジャスティスの心にもティファニアの姿がかつての記憶と重なって見えていた。

(自らの命を犠牲にしても……仲間のために……これが、この星の生命か!)

 このとき、ジャスティスはティファニアの中に、未来へつながる希望を持つ者の姿を見た!

 

 サボテンダーは、発狂するほどの激痛にもだえながらも、それをジャスティスへの怒りと憎しみに変えて猛然と突進してくる。

 だが、ひとつの決意を定めたジャスティスは悠然と立ち上がると、迫ってくるサボテンダーへ向けて両腕を顔の前に構え、全身のエネルギーをそこに集中させた。

「フゥゥ……」

 エネルギーはジャスティスの目の前で、太陽のような眩い輝きを放つほどに凝縮されていく。

 そして、一瞬の覇気とともに両腕を突き出したとき、それは金色に輝く超破壊光線となってサボテンダーに向かった!!

 

『ビクトリューム光線!!』

 

 正義の光の鉄槌が、邪悪な超獣に下される。

 命中の瞬間、膨大な熱量と衝撃を送り込まれたサボテンダーは、全身から炎を吹き上げながらのたうち、やがて雷に打たれた巨木の最後のように、ゆっくりと倒れこんだ。

 邪悪な者に明日は無い。サボテンダーは、その破片の一片すら残らないほどの火炎に包まれ、大爆発を起こして吹き飛んだ!!

 

「やったあ!! ウルトラマンが勝った」

「かっこいい!!」

 微塵となったサボテンダーの炎に照らされて、子供達ははじめて見るウルトラマンの戦いと勝利に興奮して、飛び上がらんばかりに喝采をあげている。

 

 しかし、戦いには勝ったが、ジャスティスの心は晴れなかった。

(やったか……しかし、この怪獣はなんだったのだ?)

 自然に生息する怪獣とは違い、ただ破壊と食欲にのみ従って動く生物、確かに宇宙にはそうした凶悪怪獣の類は存在するが、この星に元々生息していたとは思いにくい。

 不可解なものを残し、ジャスティスはこのままこの星を立ち去ることをよしとは思えなかった。

「デュワッ!!」

 ジャスティスの体が光のリングに包まれると、それが収束して、やがてジュリの姿へと戻っていった。

 

「ジュリさーん!!」

 ティファニアと子供達が息を切らせて走ってきた。

「無事だったか」

「はい、おかげさまで……ありがとうございます」

 誰もこれといって怪我などはしていないようだ。特に子供達はあれだけのことがあったというのに、ジュリに囲んでうれしそうに、テファお姉ちゃんを助けてくれてありがとうと元気そうにはしゃいでいる。

「お前達、私が怖くないのか?」

「えっ? なんで」

「テファ姉ちゃんを助けてくれた人が悪い人なわけないじゃない」

「すっごくかっこよかったよ!」

 試みに聞いてみた問いだったが、何の屈託もなく子供達はジュリの存在を受け入れていた。

 ここの子供達には、未知のものを受け入れるだけの器の深さがある。それは本来人間誰もが持っているものだが、成長するにつれて徐々に好奇心より恐怖心が勝っていく。けれど、彼らにはまだそれが残っていた。

「よい親を持ったものだな」

「えっ?」

「なんでもない……それよりも、お前も無事でよかったな」

 ジュリにそう言われ、ティファニアは泥と唾液で汚れた自分の服を見て、改めてジュリに頭を下げた。

「さっ、先程は本当に、命を助けていただいて、どうもありがとうございました。みんなが無事なのは、ジュリさんのおかげです」

「私は自分の使命に従っただけだ。子供達を守ったのは、テファ、お前だ」

 それはジュリの偽らざる本心だった。たとえ戦う力がなくとも、誰かを守ろうとするために立ち向かう勇気は何にも変えがたい強さとなる。

「だが、テファ……このあたりにはああいう怪獣が出ることがあるのか?」

「いっ、いいえ、これまでには一度も……アルビオンには超獣は出ないって、行商人さんも言ってたんですけど」

「超獣? 怪獣ではなくてか?」

 聞きなれない単語にジュリの眉が触れる。

「はい……私も人づてに聞いた話なんですけど……今、違う世界からヤプール人っていう人達が、この世界を侵略しようと、超獣というのを送り込んでくることがあるそうなんです。わたしはこの森から出たことがありませんので……それ以上は」

「ヤプール人……か」

 なるほど、あの怪獣も侵略用の怪獣兵器の一種だと考えれば、特異な能力や際立った凶暴性も納得がいく。

 しかし、この星に怪獣を改造して兵器化できるほどの科学力があるとは思えない……違う世界からの侵略者、異星人による侵略攻撃かと、ジュリは判断した。

 それに、そういえばスコーピスがこの星へと進路を変えたのも突然だった。偶然にしてはできすぎている。となれば、この星にさらに多くの宇宙怪獣がやってくる可能性もある。

「どうやら、このまま戻るわけにはいかなくなったようだな」

 宇宙正義を守る者として、侵略行為を見過ごすわけにはいかない。ジャスティスはその侵略を阻止するべく、この星に残ることを決意した。

 だが、その言葉を拡大解釈したティファニアと子供達は、ジュリがこの村にずっといてくれるものと思ってしまった。

「えっ、ジュリさん、ずっとここにいてくれるんですか!? よかった」

「ぬ? いや、私はこの星にとどまると言ったのだが」

 しかしティファニアはともかく、子供達のほうの喜びはすごかった。口々に歓声をあげてジュリに抱きついて、話を聞いてくれそうもない。

 といっても、それで考えを変えるほどジュリの意思は弱くない。子供達が落ち着くまで少し待って、改めてティファニアに言った。

「……この星になにが起こっているのか、私は見てまわるつもりだ。悪いが、お前達といっしょにはいてやれない」

「あぅ……やっぱり、そうですか……」

 とたんに、ティファニア達の顔が暗く沈んだ。

 しかし、侵略者の存在が明らかになった以上、ここに居続けるわけにはいかない。一刻も早く侵略者の正体を掴まなくては、宇宙の秩序が暴力によって捻じ曲げられてしまう。

「それで、これからどこに?」

「特に定めていない。しかし、敵の目的がこの星そのものであるならば、いずれ出会うこともあるだろう」

 ウルトラマンであるジュリ、ジャスティスにとって時間というものはさして問題のあるものではない。食事や睡眠も、特に必要とはしないために、そのあたりの感覚がティファニア達とは違ったが、それを聞いたティファニアは、はっと思いついたことを思い切って言ってみた。

「じゃ、じゃあ……ずっといてもらうのは無理でも、この村を、きょ、きょ……拠点にしてみてはいかがですか?」

「どういうことだ?」

 いぶかしげに聞くジュリに、勇気を出してティファニアは説明を続けた。

「えっ、えっと、この村は大陸の真ん中にあって、どこに行くにも便利ですし……行商人の人もあちこちの情報を持ってきてくれますから、探し物にはちょうどいいんじゃないかと……わたしもここに来る人に、今度からいろいろ聞いてみますから、ここを中心にすれば効率よく探せるんじゃないかな、と思ったんですが」

「ふむ……」

 確かに、むやみに探し回るよりはそのほうが情報を得やすくはある。

 ジュリはティファニアの顔をじっと見つめた。世間知らずそうで、実際そうなのだが、頭の回転は人並みにあるようだ。いや、その中に隠された本当の気持ちは見え見えなのだが……

「あの……」

 ティファニアと子供達のじいっと見つめる目がジュリに集中した。

 数秒か、数十秒か、ジュリの答えを待つ沈黙の時間が流れ、そして。

「わかった。ずっとは無理だが、定期的にここに立ち寄ることにしよう」

「!! はい!! よかったねみんな」

 子供達はそれを聞いて、今度は万歳三唱しながら喜んだ。

 しかし、これからは約束どおりに情報収集でジュリの役に立たなければならない。ティファニアは、これまでハーフエルフだからということで、できるだけ外の世界と触れ合わないようにしてきたが、これからは村の外には出れなくとも、外交的に人を招いて話を聞かなくてはならない。

 ただ、ズレているという点ではある意味ジュリもいっしょのようだった。

「では、私は出発する」

「ええーっ!!」

 一斉に抗議の大合唱が唱和された。当然である、まだ夜も明けていないのだが、ジュリにとっては昼も夜も関係がない。人間とは視点が大幅に違うゆえの感覚のズレだった。

 かといって、引き止めるにも相応の理由がいる。ティファニアはここぞとばかりに、普段使っていない頭を総動員して考えた。

「ちょ、ちょっと待ってください。あの、出発する前に……わたしたちの家が、さっきの戦いで壊れちゃったんですけど、建て直すの手伝ってもらえませんか?」

「なに、そうか……だが、私には寄り道をしている余裕はないぞ」

「はい……エマの家はジュリさんが倒れこんだときに壊れたのに……裏の畑についた足跡は……」

「……」

 ジュリは返す言葉を失った。超獣を倒すためには仕方なかったとはいえ、厳然たる事実だからだ。

 子供達も、そうだそうだと言わんばかりに無言でジュリを見ている。色々言われるよりも、その視線のほうが責任感の強いジュリにはとても堪えた。

 こんなとき、彼なら破壊された建物を修復できるのにとジュリは思ったが、あいにくジャスティスにはそういった能力は残念ながらなかった。

「ふぅ……家を建て直したら、すぐに出立するからな」

 やった!! という大合唱がジュリを取り囲んだ。

 してやられたか……と目の前でにこやかな笑顔を浮かべている長い耳の少女を見つめてジュリは思った。

 宇宙正義の厳格な執行者も、たった一人の少女と子供の前には形無しだった。

「あの、ジュリさん?」

「なんだ」

「ジュリさんのこと……その、お姉さんって、呼んでいいですか?」

「……好きにしろ」

 

 こうして、ウルトラマンジャスティスと、ハーフエルフの少女のティファニアは運命的な出会いを果たした。

 この邂逅が、その後のハルケギニアの運命をどう動かすのかはまだわからない。

 

 

 続く


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