ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第28話  ウルトラマンエースVS異形の使い魔!

 第28話

 ウルトラマンエースVS異形の使い魔!

 

 怪獣兵器 スコーピス

 大モグラ怪獣 モングラー (ヴェルダンデ) 登場!

 

 

 怪獣兵器スコーピス……それはかつて生命のあるあらゆる星を不毛の荒野に変えようとした悪魔のような怪獣、異形生命体サンドロスが手駒として大量に作り出した人工怪獣たちのことである。

 宇宙空間を飛行する能力は当然、ミサイルやレーザーも寄せ付けない頑強な外骨格、最大の武器は口から吐き出す腐食光線ポイゾニクトと額から放つ破壊光弾フラジレッドボムで、これを使って破壊の限りを尽くす。その猛威はわずか一体で星を一つ滅ぼしてしまうほどである。

 数年前にサンドロスは滅ぼされたものの、宇宙に散ったスコーピスたちの生き残りは野生化して、サンドロスから与えられたあらゆる生命の抹殺というプログラムのみが一人歩きし、宇宙のあちこちを荒らしていた。

 

 そして今、そのうちの一匹がこのガリアに来襲し、ラグドリアン湖周辺の広大な地域をわずか一日で砂漠に変えてしまった。

 ただし、この個体は宇宙での戦いで負った傷でそれ以上は動けず、砂中に潜んで傷の回復を図っていたのだが、原因不明の砂漠化を調査しにやってきたタバサとキュルケを発見して、その凶暴性のおもむくままに二人に襲い掛かっていた。

 

 シルフィードに向かって放たれたフラジレッドボムの赤黒い光弾が猛スピードでタバサとキュルケの頭上を通り過ぎていく。的が小さいだけにそうは当たらないので、二人は余裕を持って攻撃魔法の詠唱をおこなうことができるが、スコーピスも怪獣兵器の異名はだてではない。

「ああもう! なんて硬い怪獣なの!」

 フレイムボールの直撃に焦げ目すらつかないスコーピスの頑丈な体に、頭にきたキュルケが叫んだ。

 スコーピスの外骨格には並大抵の攻撃は通用しない。だが、奴はどういう理由か大きく負傷している、付け入る隙はあるとタバサは考えた。

「あいつの左下半身、焼け焦げて殻がはがれてる。あそこなら攻撃が効くかも……」

 得意のジャベリンをスコーピスの殻に簡単にはじかれてしまったタバサは、敵の傷口に攻撃を集中しようと考えた。

「やっぱりそれしかないか……このあたしがそんな姑息な手段に頼るしかないってのは腹が立つわね。しかし……見事なまでに左足と左の羽根がもぎ取られてるわね。墜落した衝撃でかしら」

「飛べるんだから、空から落ちて大ダメージを受けるなんて考えにくい。焼け焦げてるのも妙、何者かに攻撃を受けたの……?」

 思わず口に出たその仮説は、キュルケだけでなく、口にしたタバサ本人にも戦慄を覚えさせた。

「まさか……あれにこれほどの傷を負わせるなんて、どんな化け物よ。まさか、ウルトラマンA……?」

「わからない。けど、それに匹敵する何かと戦っていたのは、多分間違いない」

「もう一人、ウルトラマンが……まさかね。他の怪獣と同士討ちしてたと考えるのが妥当よね……」

 頭に浮かんだ想像を、まさかと思いながらもキュルケもタバサも胸のうちにしまいこんだ。

 もしもエース以外にもウルトラマンがいてくれるなら、これほど頼もしいことはないが、まだそんな姿を見たものは誰もいない。根拠の無い期待はしないほうがいい。

 だが、まだ彼女達は過去にエース以外のウルトラマン、ウルトラマンダイナがハルケギニアに現れていたことを知らない。

 

 二人は、もう一度フレイムボールとジャベリンの詠唱を始めながら、シルフィードにフラジレッドボムの間合いを計らせつつ慎重に接近を狙った。

 外れたフラジレッドボムが砂丘や森に着弾して爆発を引き起こす。直撃されれば木っ端微塵は間違いないだけに、シルフィードの目つきも真剣になっている。

 それでも、タバサの冷たく研ぎ澄まされた目が、フラジレッドボムの発射のほんのわずかな間隙を見つけた。

「今!!」

 その瞬間、シルフィードは急旋回して、最大スピードでスコーピスの懐にもぐりこんだ。

 

『フレイムボール!!』

『ジャベリン!!』

 

 氷の槍がスコーピスの左脇腹をえぐり、高熱火炎が広がった傷口に侵食してさらに内部を焼いた。

「やったわ!!」

 やっと怪獣にダメージらしい打撃を与えられた。

 思わずタバサの肩をぶんぶん振り回して興奮するキュルケ。けれども痛む傷口をさらに広げられて、激痛に怒りを燃え上がらせたスコーピスは黙っていなかった。すれ違って後方に飛び去ろうとしていたシルフィードに向けて、巨大なサソリのような尻尾を振り下ろしてきたのだ。

「しまった!」

 ほんの一瞬だが浮かれてしまったことを二人は後悔した。なまじか優れている動体視力のせいで、目の前に迫ってくる巨大な尾がだんだんと近づいてくるのが見えてしまう。

 キュルケは目をつぶって観念したが、シルフィードの力を信じているタバサは命中する寸前に急降下の指示をするのと同時に一番詠唱の短い風魔法を頭上に向かって放ち、下降への推進力に変えた。この間わずかコンマ一秒。何千回と詠唱を繰り返してきた経験と、とっさの判断力、シルフィードとの連携のどれが欠けてもうまくいかないタバサならではの神技。スコーピスの尾はシルフィードの真上三メイルを砲弾のように通り過ぎていった。

(やった!?)

 このときばかりはさすがに死を覚悟した。戦争の絶えないハルケギニアでは、死は特別なことではないが、死んで成し遂げられることはない。

 だがそれでも、巨大な尾が超高速で走っていったことは、その周辺に強烈な衝撃波を残した。あおりをもろに受けたシルフィードは叩きつけられるようにバランスを失って、スコーピスの作り出した砂漠の上に墜落していく。

 スコーピスは、その様子を後ろ目で見て、勝どきのようにかん高い鳴き声をあげた。

 

「う……タバサ、大丈夫?」

 シルフィードから投げ出され、体中砂だらけになりながらキュルケはタバサを助けおこした。

「大丈夫……砂がクッションになってくれた。それよりもシルフィードが……」

 タバサは砂の上に横たわっているシルフィードを見て、悔しそうにつぶやいた。

 柔らかい砂地は二人の落下の衝撃を和らげてはくれたが、人間に比べてかなり重いシルフィードまでは無理だった。着地の際に右の翼の付け根を傷めたらしく、右の翼はビクビクと痙攣するだけで羽ばたけそうもない。

 しかし、そんなことでスコーピスが獲物を見逃すわけはない。不自由な半身を引きずりながら、ゆっくりと二人とシルフィードにとどめを刺すために反転してくる。

「キュルケ、あなたは先に逃げて」

 一人だけなら『フライ』の魔法で空を飛べば逃げ切れるかもしれない。しかし、タバサは傷ついたシルフィードを見捨てていくことはできない。『レビテーション』で浮かせて運ぶしかないが、同時に二つの魔法は使えない。これでは狙ってくださいと言っているようなものだ。

「馬鹿言ってるんじゃないわよ! あなた死ぬ気!」

 憤慨したキュルケは迷わずタバサに手を貸した。二人がかりのレビテーションならばシルフィードの巨体でもかなり楽に運べるが、ここは砂漠、砂に足をとられて自由には動けない。

「ひとりでなんとかできるから、キュルケは先に行って」

「だから! あんた一人じゃどうにもならないって言ってるでしょ!」

「できる」

「できない!」

「できる」

「できない!」

 ここまで来たらもはや意地の張り合いである。双方ともに相手を説得する台詞など持ち合わせていないし、パートナーもシルフィードもどちらも見捨てることなど絶対にできない。シルフィードもどうすることもできずに、ただ二人を交互に見て、きゅいと鳴くしかない。

 だがスコーピスはそんな二人と一匹をまるごと吹き飛ばそうと、口を開いてポイゾニクトの狙いを定めた。

「あっ、まずっ!」

「……!」

 スコーピスの口に赤黒い光が収束する。タバサは無駄と知りつつ、氷の壁を作って防御する魔法『アイス・ウォール』を唱え始めた。

 

 だが、タバサの詠唱が完成する直前。

「ちょっと待ったあ、怪獣野郎!!」

 スコーピスの横っ面を光の弾丸がひっぱたいた。ポイゾニクトの発射直前の攻撃に、スコーピスは溜め込んだエネルギーを拡散させ、新たな敵を捜し求めて、それを湖の上に見つけた。

 

「やっぱしあんま効かないか……だが、なんとか間に合ったみたいだな」

 久しぶりに撃ったガッツブラスターを構えて、ほっとした様子で才人が言った。

 湖の上に作られた道を、数頭の馬を駆けさせて、ルイズ達がようやく駆けつけたのだった。

 一行は、湖岸に着くと馬から降りて走り出した。砂漠では馬は使えない。

「こりゃ、近くで見るといちだんと怖いな。ギーシュ、やっぱりやめないか」

 ギムリがスコーピスの姿を見て、ひびって言った。でもギーシュはやる気まんまんな様子で、ワルキューレを一体錬金すると叫んだ。

「なにを言うか! そんなことではぼくらがいつか公式に水精霊騎士隊と名乗るという夢はどうする? それにヴェルダンデのためにもここは引けん! さあワルキューレよ、貴族の誇りと勇気をあの虫けらに思い知らせてやれ!」

 ギーシュが薔薇の花の形をした杖を振るうと、青銅の騎士人形は一直線にスコーピスに向かって飛んでいく。しかし、一行の中で、その攻撃にこの砂漠の砂粒ひとつ分さえ期待を抱いているものはいなかった。

 案の定、スコーピスはなにをするでもなく、ワルキューレはスコーピスの腹に軽く触れただけでばらばらになって落ちていく。

 やっぱり……口には出さなかったが全員がそう思った。大体学院有数の使い手であるキュルケとタバサの攻撃でさえ効かないのに、ドットメイジのギーシュの攻撃が効いたら天地がひっくり返る。

「あ、あれぇ……おかしいなあ」

 少しもおかしくない。というよりその根拠のない自信はいったいどこから湧いてくるのか、一度頭をかちわって見てみたい。きっと七色に光り輝いているのだろうが、それよりいいかげん矛先をこっちに向けてきたスコーピスのほうが大きな問題だった。

「来るぞ!」

 フラジレッドボムが彼らのいた場所を吹き飛ばした。一行はとっさに飛びのいて難を逃れ、当たらなくてよかったと冷や冷やする。だが怪我の光明で、同時に大量の砂煙を巻き起こしたためにスコーピスもすぐには次の攻撃を仕掛けては来ない。

「どうすんのよ! あんなのとまともに戦えるわけないじゃない!」

 怒ったモンモランシーがギーシュに詰め寄った。ギーシュのためと、タバサとキュルケが心配でついてきてはみたものの、やっぱりどうしたって敵いそうもない。

「し、しかしあいつを倒さないと水の精霊の涙が」

「現実を見なさいよ! 勇敢に立ち向かうだけで勝てるなら負けるやつなんていないわよ。少しは頭を使いなさい!」

「は、はい……」

 ようやく熱狂を覚まさせられたギーシュがうなづくと、一行は円陣を組んだ。この砂煙が去るまでに策を立てなければならない。皆の視線は自然レイナールに集まった。

「みんな、このまま戦っても勝ち目はない。幸いあいつは動けないみたいだから、ぼくとギムリが奴の気をそらすうちに、ほかのみんなはタバサとキュルケを助けて、後はあいつの見えないところまで全力で逃げる。あとのことはそれから考えよう」

 皆がうなづくと、ギムリとレイナールは先んじて飛び出した。まだ学生とはいえさすがは貴族の子弟、やると決めたら危険に飛び込むことを躊躇しない。

「よし、じゃあぼく達も……あっ!」

 ギムリ達に続いて飛び出していこうと思ったギーシュだったが、そこで肝心なことを思い出した。

 そうだ、ルイズと才人は飛べないんだった。フライでは人を抱えて飛ぶことはできない。

 どうしようか、とすがるようにモンモランシーを見るギーシュだったが、彼女はそ知らぬ顔。しかしそれを見ていたルイズがギーシュに指を突きつけた。

「あんた、たった今モンモランシーに頭を使えって言われたばかりじゃない。あんたには、空を飛ぶより速いものがあるでしょうが!」

「え? ……そうか、ワルキューレ」

 合点がいったギーシュはすぐさまワルキューレを錬金した。忘れがちだがワルキューレは熟練の傭兵をしのぐほどの力と素早さを誇る。以前才人と決闘したときに使った際も、十数メイルの距離を一瞬で詰めて才人をボコボコにしている。人間を乗せて走るくらいたやすいものだ。

「さあ乗りたまえ、ワルキューレは馬なんかよりずっと速いぞ。二人のところまであっという間だ」

 誇らしげに言って、ワルキューレを呼び出したギーシュだったが、やはり彼のことだから大事なことを忘れていた。ワルキューレは青銅製の等身大の騎士人形、当然すごく重い。そしてここは砂漠。

「ああっ! ぼくのワルキューレが沈むう!」

 やはり二、三歩歩かせただけで砂中にズブズブと沈んでいく。見ていられなくなった才人はギーシュに言って、ワルキューレの足に雪国で使う『かんじき』のようなものを作らせた。これでようやく沈まなくなり、ギーシュはルイズと才人に礼を言った。

「あ、ありがとう。君達は頭がいいなあ」

「……どういたしまして」

「あんたが考えなしすぎるだけよ。それより、次が来るわよ!」

 言った瞬間砂煙が晴れ、スコーピスは丸見えになった彼らにフラジレッドボムを放ってきた。

「走れ、ワルキューレ!」

 四人を背中に乗せた四体のワルキューレは、砂の上をマラソン選手のように走り出し、着弾の爆発が彼らの背後で巻き起こる。

 スコーピスはすぐに第二撃を撃とうとするが、その前をギムリとレイナールがハエのように飛び回って気を引いた。

「化け物! お前の相手はこの俺だ!」

「こっちだこっちだ!」

 フラジレッドボムの連射が二人を襲うが、人間ほど小さな相手に命中させるのは簡単ではない。だがそれも時間の問題でしかなく、一刻も無駄に出来ない。

 その貴重な時間を活かして走り、避け、また走り、ルイズ達はタバサ達の元にどうにかたどりついた。

 

「大丈夫か、二人とも?」

「あ、あなたたちどうしてここに!?」

 まったく思いもよらずに助けに現れた才人達にキュルケもタバサも驚いていたが、才人は話は後でと答えると、ギーシュが新たに錬金したワルキューレの背にキュルケを乗せた。

 その間にもモンモランシーは水魔法でシルフィードに応急の手当てを施し、ワルキューレの背からフライをかける。

「よっし、逃げるわよ!」

 二人は助けた。長居は無用、ルイズは逃げると聞いて仏頂面をしているが、フーケのときと同じ失敗をむざむざ繰り返したら、今度こそ学習しない"ゼロ"が確定してしまう。

 また、スコーピスを引き付けてくれている二人もそろそろ限界に近づいてきている。

「ギーシュ、いいよ!」

「よし、走れワルキューレ!」

 六体のワルキューレは一行を乗せて全速力で走り出した。

 しかし、六体ものワルキューレが一斉に走る姿はさすがに目立ちすぎた。いや、逃げるものをこそ好んで追い詰めようとするスコーピスの残忍な本能がそれを呼んだのかもしれない。突然スコーピスはギムリとレイナールから視線を離すと、一行へ向かってフラジレッドボムを放ってきた。

「まずい! 散れワルキューレ!」

 ギーシュの叫びから一瞬遅れ、バラバラに飛び去ったワルキューレたちのいた場所をフラジレッドボムが掘り起こした。爆発の火炎とともに四方に大量の砂煙が飛散する。

「あっ! ギーシュ、ギーシュどこ!?」

「ここだ、何も見えない。どこにいるんだモンモランシー!」

 もうもうと立ち込める砂煙の中は、一寸先さえ見えない黄土色の世界となり、すべての視界を覆いつくした。

 

 だが、例え暗闇の中であろうと、ルイズと才人は光によって呼び合った。

「サイト!」

「ルイズ!」

 リングの光が闇を縫い、伸ばした手と手が重なり合う。

「「ウルトラ・ターッチ!!」」

 乾いた嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAただいま参上!!

 

「トォーッ!!」

 登場一発、ジャンプキックがスコーピスの胴体を打ちのめし、激突のショックで激しく火花が飛ぶ。

 いかにスコーピスの体が頑丈とはいえ、エースの攻撃にまでは耐えられない。角や触覚を何本もへし折られ、スコーピスは背中から砂の上に崩れ落ちた。

 凶悪怪獣を一発で地に沈めたエースの勇姿に、少年達も歓声をあげる。

「ウルトラマンAだ!」

「よっしゃ、これでもう大丈夫だぜ!」

 空の上からレイナールとギムリがいっしょにガッツポーズをとると、地上でもキュルケ達がいっせいに表情をほころばせた。

「いっつもおいしいところで登場してくれるわね。よーし、がんばれー! ウルトラマンエース!」

「ヒーロー……本当に、また来てくれた……」

 声を震わせ、感慨深げにしているタバサをキュルケが後ろからおもいっきり抱きしめている。

「ウルトラマン…………はっ、ぼくとしたことがつい見とれてしまった。いやあ、さすが正義の味方は美しいな、まあ、ぼ……」

「ギーシュなんかより断然かっこいいわ! あれこそが勇者よ」

「くの……ほう、が」

 モンモランシーの言葉にギーシュがダメージを受けていたりしたけれども、その期待に答えるためにも、なんとしてもここでスコーピスを倒さなければならない。

 

「シャッ!」

 着地したエースは、油断なく構えて起き上がろうとするスコーピスを見据えた。

 まだ奴はどんな武器を隠し持っているかわからないから、うかつにはかかれない。

 幸いスコーピスは半身を負傷しているせいで、すぐには起き上がってこれそうもない。その間にエースの中では三人が作戦会議を立てていた。

(それにしても、今度はサソリの化け物とはね。サイト、あいつの名前は?)

(いや、俺もはじめて見る奴だ。エース、あなたは?)

(私の知る限りではない。この世界の特有種なのかもしれん……それと、超獣とは違うようだが、こいつにはどこかに何者かの邪悪な意志を感じる。どこかの宇宙人の侵略用怪獣なのかもしれん)

 エースはその長年つちかった経験と勘によって、スコーピスが怪獣兵器であることを見抜いた。

 そして、そうであるのならばなおさらこいつはここで倒さなければならない。

 ようやく起き上がり、エースを見たスコーピスは、なぜか一瞬怯えたようにびくりとした。しかしすぐにエースを新たな敵だと認識して、壊れた笛のような凶悪な鳴き声をあげてきた。

(それでサイト、あいつへの対策は?)

(お前な、少しはお前も作戦立ててくれよ)

(黙りなさい。ここのところ役立たずが続いたんだから、名誉挽回の機会を与えてあげようっていうご主人様の温かいご好意よ)

 到底そうは思えないんだが、と思った才人だったが、もうスコーピスは目の前だ。

(よし、あいつはサソリだから……エース、尻尾に気をつけろ!)

(わかった!)

 それは半分助言であり、半分は見たままを言ったものだった。

 エースの視線が光線を出すスコーピスの口と額に集中しているうちに、頭上を飛び越えてスコーピスの巨大なカギ爪付きの尻尾が迫ってくる!

 

「セヤッ!」

 間一髪、エースは向かってきた尻尾を左腕を使って受け止めた。

 攻撃が失敗したことを見たスコーピスは、伸ばした尾を引き戻そうとするが、そうはさせじと引き戻されるより速く、エースの手刀が尻尾の真ん中を斬りつける。

『ウルトラナイフ!!』

 超獣の首さえ切り落とす一撃が、スコーピスの尻尾を真っ二つに切り裂いた。

 

(よしっ! いまだエース!)

 尻尾を失ったスコーピスは苦しげな遠吠えをあげた。

 攻め込むなら今がチャンスだ、エースはスコーピスの体にパンチ、キックの連撃を撃ち込んでいく。

 スコーピスの体は尻尾が無くなれば接近戦には向いていない。鋭い爪のついた腕はあるが、ほかの武器に比べれば補助的なもので、懐に飛び込んできたエースを相手にするには頼りなさ過ぎる。

 

 しかし、このままであれば楽勝かと思われた戦いであったが、エースが次の攻撃のためにいったん間合いを離した瞬間だった。スコーピスは口を開いてポイゾニクトの発射体勢に入ると、その狙いをエースではなく、なんと地上で見守っていたキュルケやギーシュ達に向けたのだ。

(あっ、危ない!)

 エースはとっさにスコーピスとキュルケ達のあいだに立ちふさがったが、放たれたポイゾニクトの直撃をもろに受けてしまった。

「グッ、グォォッ!」

 ひざを突いてくずおれるエース。それを見てスコーピスはうれしそうに甲高い鳴き声をあげ、さらにフラジレッドボムの連射をエースに撃ち込んできた。

「グワァッ!!」

 ここでエースが避けたらフラジレッドボムは後ろのキュルケ達を直撃する。バリアを張る余裕もなく、ただ耐えるしかエースにはできなかった。

 

「エース!!」

 エースの巨体に守られながら、キュルケ達は必死でその名を呼んだ。

「まずい、まずいよキュルケ、このままじゃエースが」

「あの怪獣、最初からこれが狙いであたし達を、なんて卑怯な奴!」

 キュルケは血がにじむほど唇を噛み締めた。

 本当なら、怪獣はウルトラマンの敵ではなかっただろう。自分達の存在がなければ、エースは存分に戦えるのにと、助けたくてもエースの体に守られている以上援護は不可能な状況で、四人は悔しさに震えた。

 

 そして、エースの限界も刻一刻と近づいていた。

 カラータイマーの点滅がいつもより早くあがっていく。

(エース、大丈夫か!?)

(まだ……持つが、これ以上は……くそっ)

 スコーピスは反撃の機会を与えまいと、フラジレッドボムを絶え間なく撃ち続けてくる。

 そして遂に、スコーピスはエースにとどめを刺そうと、フラジレッドボムの攻撃を続けながら、ポイゾニクトの発射体勢に入った。

(これまでか……っ!)

 あれを食らってはもう耐えられない。

 絶望か、と誰もが思いかけた。

 だが、スコーピスがポイゾニクトを発射しようとしたその瞬間、スコーピスの足場の地面が突如陥没して、スコーピスを地中へと引きずり込み始めたではないか!

(いったい、なにが……あっ、あれは!)

 見ると、スコーピスの下半身に巨大なモグラが抱きついて、その身の自由を奪っている。

(あれは……ギーシュの使い魔のヴェルダンデ!?)

 そう、モンモランシーの薬のせいで怪獣モングラーと化してしまったヴェルダンデが、今エースの危機を救わんと勇敢に宇宙怪獣に立ち向かっている。

 スコーピスは反撃しようにも、尻尾を失い、半身が傷ついた状態では思うように動くことすらできずに、アリジゴクにはまったようにもがくしかできない。

(エース! 今だ!)

 ヴェルダンデの勇気を無駄にするわけにはいかない。

「デヤァッ!!」

 エースは残ったエネルギーを振り絞り、拳に込めてスコーピスへと正拳突きのようにして撃ちだした!!

『グリップビーム!!』

 強力な破壊光線がスコーピスの胴体を捉えて火花を散らせる。

 

(爆発するぞ! 逃げろヴェルダンデ!)

 才人はエースを通じてヴェルダンデにテレパシーを送って警告した。それに応じてヴェルダンデは掴んでいた足を離して地中深く潜っていく。

 それからほんの数秒後、過剰に注ぎ込まれたエネルギーに遂に耐え切れなくなったスコーピスは、あおむけにゆっくりと倒れると、全身から炎を吹き出して、砂漠を揺るがすほどの轟音と衝撃波を撒き散らしながら爆発した。

 

「やった! 勝ったぁ!」

 爆発が引いて、スコーピスの跡形もなくなったのを見ると、少年少女達の遠慮のない歓声が響き渡った。

「タバサ、エースがやってくれたわよ! これであなたの任務も完了ね!」

「ええ……」

 タバサは、キュルケの言うように素直に喜ぶことはできなかった。今回の任務は、エースがこなければまず成し遂げることは不可能だっただろう。まだまだ自分には力が足りない。人ととしてどこまで強くなれるかはわからないが、自分の望みをかなえるだけの力にはとても足りない。

 ただ、手放しで大喜びしているギーシュらほどではないが、仲間達とともに分かち合う勝利というのは、うれしいものであるのは間違いなかった。

 そのギーシュはといえば、エースとともにヴェルダンデが活躍したことに、涙まで流して歓喜に震えていた。

「やったやったやったよ! 見たかい、ぼくのヴェルダンデがウルトラマンの危機を救ったんだよ。ああ、ぼくはハルケギニア一の幸せ者だ、こんな素晴らしい使い魔を得られたメイジなんてほかにはいないだろう。そうだろうモンモランシー!」

「まあね。あなたの使い魔は素晴らしいわね……けど、それよりもこれで」

「そうだ! これで水の精霊の涙が手に入るんだ! よーし、待っててくれ、すぐに元の姿に戻してあげるからね!」

「やれやれ……この優しさが人間にも向けばいいんだけどね、特にわたしに……」

 一人で万歳三唱をしながら大喜びしているギーシュを見ながら、モンモランシーは切なげにつぶやいた。

 

(やった……しかし、恐ろしい怪獣だった)

 爆発で作られた巨大なクレーターを見つめながらエースは思った。

 まるで破壊するためだけに存在するような怪獣。こんな奴が何匹も暴れたらそれこそ宇宙はめちゃくちゃになってしまうだろう。

「ショワッチ!」

 これが最後であってくれと祈りながら、エースは蒼穹の空へと飛び立った。

 

 

 そして、キュルケとタバサも含めて、湖のほとりでルイズ達は再び水の精霊と会った。

「約束を果たしたようだな、単なる者達よ……ならば我も約束を守ろう」

 水の精霊の体が短く震え、ピンポン玉程度の水滴が切り離されて、ギーシュの持ってきた小さなビンに納まった。

 こぼしては大変と、慌てて蓋を締める。ビンの中に納まった水の精霊の涙をまじまじと見つめ、ギーシュは満面の笑みを浮かべて、ビンをモンモランシーに手渡した。

「これで解毒薬を作ってくれるね。はーあ、ようやくヴェルダンデを元に戻してあげられる。あと少し待っててくれよ」

「はいはい、学院に戻ったらね。まさか、怪獣退治まですることになるとは思わなかったわ」

 目的の半分を果たした二人は、もう解決したかのように喜んでいた。しかし、気になることが残っていた才人は、水の精霊が湖水に戻る前に思い切って尋ねてみた。

「ちょっと待ってくれ、少し聞きたいことがあるんだ……どうして水かさを増やしてるんだ。あんたは、いくつかの悩みを抱えてるって言ってたよな。まさか他にも怪獣が?」

 水の精霊は、大きくなったり小さくなったり、様々に形を変えた。どうやら考えているようで、微妙に人間のようで人間ではない仕草がなんとも面白い。

「……お前たちになら話してもよかろう。確かに、ここのところ邪悪な気配が世界に漂っているが、今のところこの湖を襲ってきたのはあいつだけだ。今から数えるのも愚かしくなるほど月が交差する時の間、お前たちの暦にして二年ほど昔になるか、我が六千年の昔より守りし秘宝を、お前達の同胞が盗み出したのだ」

「秘宝?」

「そうだ、『アンドバリ』の指輪、我と同じ水の力を込められた唯一の秘宝だ」

 その名前を聞いて、ピンときたようにルイズはつぶやいた。

「アンドバリの……そういえば、伝説の秘宝の本でそういうものがあったわね。人間の心を操り、死者に偽りの生命までもたらすという……水系統の禁忌の邪宝」

「ふむ、お前達の概念ではそうかもしれんが、我にとっては水の力を蓄える大切な秘宝。だから我はこの世界を水で満たすことによって、そのありかを探そうと考えていた」

 なんとも、何百何千年単位のとてつもないスケールの話だった。

「気が長い話だな。じゃあ、機会があったら俺達が取り返してくるよ。水を増やされたら、周りの人達が困るだろう」

「……わかった。お前達を信用することにしよう」

「ありがとう。それで、そいつの名前とかわからないのか?」

「確か個体の一人がクロムウェルと呼ばれていた……それから、お前達二人」

 水の精霊は、才人とルイズを指差すと、手招きするようにして二人を岸辺まで呼んだ。

 二人は、怪訝な顔をしながらも、水の精霊の機嫌を損ねてもまずいなと、首をかしげながら岸辺に歩み寄った。

「よし、そこでよい。二人とも水に手を漬けよ」

「えっ!?」

 二人は思わず顔を見合わせた。水の精霊が心を操るということを思い出したからだ。

 しかし、水の精霊は穏やかな声で言った。

「案ずることはない。お前達に危害は加えぬ」

 少し考えて、才人とルイズは恐る恐る湖水に手のひらを漬けた。

 すると、湖水からまるで電気のように水の精霊の思考が伝わってくる。

 

(これは! テレパシーの一種か)

(さすが、水の精霊と呼ばれるだけはあるわね……)

 二人は頭の中に直接響くお互いの言葉に驚いた。まるでエースと一体となっているときのように、心と心がつながっている。

(聞こえるようだな。お前達とは、こうして話したほうがよいと思ってな……光の戦士よ)

(えっ!?)

 ルイズと才人の驚愕の感情が、それぞれに伝わる。

 何故水の精霊がそのことを知っている。そしてどうしてこうして話そうというのか。

(驚かせて悪かったな。しかし、我はお前達と共にある強い存在に覚えがある)

(えっ、ウルトラマンAとか!?)

 まさか、そんなことが……

(いや、お前達の光とは違うが、とてもよく似た存在だった。もはや我の記憶すらかすむ、今からおよそ六千年の昔、この地を未曾有の大災厄が襲った。無数の怪物が大地を焼き尽くし、水を腐らせ、空を濁らせ、世界を滅ぼしかけたとき、その者は光のように天空より現れ、怪物達の怒りを鎮め、邪悪な者達を滅ぼして世界を救った。彼がいなければ、我もお前達もこの世には存在しなかっただろう)

(それほどの戦士が、六千年も昔に……)

 あまりにも想像を超えた話に、才人は唖然とするしかできなかった。

(ふむ……もしかしたら、お前達と彼につながりがあるかもと思ったのだが。どうも我の思い過ごしだったようだな……すまぬ)

(いや、俺達に似てたってことは、その人もきっとウルトラマンだったんだろう。これで、またハルケギニアにウルトラマンが来てたってわかっただけでもよかったよ)

(そうか、もしかしたらいずれお前達も彼と会うことがあるかもしれぬ。何かあったら来るがよい。お前達の水の流れは覚えた。この世の秩序を守るためなら、我は手を貸してやろう)

(ありがとう、じゃあ俺も、そのアンドバリの指輪ってやつを見つけたら、必ず持ってきてやるよ)

 才人は水の精霊と固く約束をかわした。

 しかし、ルイズは水の精霊の話を聞いて、それとは別の疑問も感じていた。

(六千年前といえば……始祖がこの地に降臨したと言われる時代じゃない。もしかして、何か関係が……)

 また、新たな謎が生まれたが、今はそれを確かめようもない。

 

 

 一方……二人が水の精霊と話している間に、一行の中からタバサの姿が消えていた。

 それはほんの二分前のこと。水の精霊との会話を見守っていたタバサとキュルケの元に、例のガリア王宮からの指令を送ってくるフクロウ、目的の人物の元へ自動的に向かう鳥形の魔法人形が飛んできて、内部に仕込まれていた手紙を吐き出した。

 まだ任務完了の報告すらしていないのにもう次の任務が? 任務がダブるなどというようないいかげんなことはさすがにイザベラもこれまでしなかったのだが、何かあったのかといぶかしげに手紙を開いて、タバサの眉がぴくりと震えた。

「どうしたの? また無茶な命令?」

 肩越しに覗き込んできたキュルケに、タバサは手紙の中を見せた。

「どれどれ……なに? すぐ帰れですって」

 そこには、ガリア語で"任務を中断して、即時にリュティスに帰還せよ"と書かれていた。しかし、それはタバサの部屋や屋敷に届いた、形式だけは公文書を取り繕ったものではなく、そこらにありそうな安物のしわくちゃの紙に殴り書きで書かれたひどいものだった。

「なにこれ……わけわかんない」

「……」

 キュルケの言うとおり、タバサにもこの文面からでは何も読み取れない。

 ただし、これを書いた人間が相当に焦って書いたということだけはわかる。なにかはわからないが、リュティスで事件が起こって、タバサの力が必要とされているのは間違いないだろう。

 そして、どうあれ北花壇騎士であるタバサにとって命令は絶対である。

「すぐ行く。シルフィード、もう飛べるね」

 タバサが声をかけると、シルフィードはきゅいと元気よく翼を広げて答えた。すでにモンモランシーの治療で、その傷はほとんど癒えていたのだ。

「待ってタバサ、わたしも行くわ」

 シルフィードに飛び乗ったタバサに慌てて声をかけたキュルケだったが、タバサはゆっくりと首を横に振って言った。

「だめ……リュティスまでは連れて行けない。キュルケはみんなと学院に帰ってて」

「で、でも」

「大丈夫、なにがあろうとわたしは戻るから……だから待ってて」

「わかったわ……気をつけて、待ってるからね。わたしのシャルロット」

 キュルケは最後に、満面の笑みとタバサの本当の名で彼女を見送った。

 タバサもそれに答えて、一瞬だけ笑顔を見せると、シルフィードとともに空のかなたへと飛び去っていった。

 

 

 だが、数時間後にリュティスに到着したタバサが見たものは、以前来たときとは見る影もなくめちゃくちゃに荒らされた王宮の庭園と花壇、そして完全に破壊されて瓦礫の山となったプチ・トロワの無残な姿だった。

「これは……いったい?」

 さしものタバサも呆然とした。

 破壊されているのはプチ・トロワとその周辺に限られているようで、グラン・トロワやリュティスの街には被害はないようだが、戦争か大地震の後のような惨状は、まるでこの世の終わりだった。

「グラン・トロワへ……」

 ともかく、これではイザベラの生死もわからないが、とにかく彼女を探さなくては始まらない。

 しかし、グラン・トロワの一室でタバサを待っていたのは、とても話などできないほど変わり果てたありさまになったイザベラの姿だった。

「いったい……ここで何があったの?」

 部屋から出て、胸の動揺を冷たく凍りついた無表情で覆い隠しながら、タバサはこの部屋の警護についていたカステルモールというらしい若い騎士に尋ねた。

「はぁ、なんとご説明したらよいものやら……事のはじまりは先日の正午、イザベラ様が突然サモン・サーヴァントをなさるとおっしゃったのです……」

 彼は淡々と記憶の糸をたぐりながら、タバサにプチ・トロワを襲った事件のあらましを語り始めた。

 

 

 続く

 

 

 

 

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