ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第27話  悪魔の忘れ形見

 第27話

 悪魔の忘れ形見

 

 怪獣兵器 スコーピス

 宇宙海獣 レイキュバス 登場!

 

 

「これがラグドリアン湖か、広いなー」

 あの惚れ薬のどさくさから一晩が過ぎ、夜通し馬を駆けさせたルイズ、才人、ギーシュ、モンモランシー、ギムリ、レイナールの一行は、目的地のラグドリアン湖の東岸にまでやってきていた。

 時刻は地球時間で言えばおよそ午前十時過ぎくらい。一旦街に寄って食料を買い込み、馬に揺られながら朝食をとりつつ来たために、けっこう遅くなってしまった。

 陽光を浴びて、湖畔はダイヤの破片をばらまいたように輝き、馬に揺られ続けた疲れもいっぺんに吹き飛ぶようだった。が、一行が景色に見とれる中で、唯一余裕のないギーシュがせわしげに言ってきた。

「のんきなことを言ってないで、ここに水の精霊がいるんだろ」

 いつもだったら旅行気分で幼子のようにはしゃぐのだろうが、さすがに今回ばかりは別のようだ。

 ただ、それも裏を返せばギーシュの使い魔に対する愛情が本物だということにもなるので、焦るなと忠告はしても、誰もいらだつようなことはなかった。

 だが、湖に着いたというのに、モンモランシーは景色を見るばかりで、水の精霊を呼ぶ儀式とやらを始める気配はいっこうになく、やがて独り言のようにつぶやいた。

「……やっぱり、ちょっと湖の様子がおかしいわね」

「おかしいって?」

 モンモランシーの言葉に才人やギーシュなど、ここに来るのが初めての者は不思議な顔をした。

「今あなたが言ったとおりの意味、広い、広すぎるのよ。数年前来たときは、湖岸はもっと先だったはず。見て、あそこの水面から出てる尖塔、きっと教会の屋根よ。ここら一帯水没したってことね」

 よく見てみれば、湖の底に家の影らしきものが見え隠れしている。才人は温暖化による水面上昇がここにも、とか思ったが、当然ハルケギニアにそんなものはない。冗談である。

 彼女は水の様子を探ってみると言って、湖水に手をつけて瞑想しはじめたが、意味のわからない才人はルイズに説明を求めた。

「なあ、あれ何してるんだ?」

「水の精霊の意識を感じ取ってるのよ。メイジは自分の持つ系統の物質に対して敏感になれるのよ。彼女は『水』系統の使い手だからね」

「はーん」

 モンモランシーはしばらくしてから立ち上がり、首をかしげた。

「どうやら、水の精霊は怒ってるみたいね」

「怒ってる? なんで」

「そこまではわからないわ。でも、交渉は難しくなりそうね……」

 皆の顔が一斉に暗くなった。

 それでも、水の精霊の涙がどうしても必要なことには変わりない。ギーシュが学院に居られるかどうかの瀬戸際の上に、やり直しの効かないワンチャンス、いやがうえでもためらいがくる。

「どうする、あきらめるか?」

「……いや! ぼくのヴェルダンデの命がかかってるんだ、主人であるぼくがしっかりしなくてどうする! モンモランシー、頼む! 水の精霊を呼んでくれ」

 覚悟を確かめるつもりでギーシュに鎌をかけてみた才人は、こいつにもこんな面があるんだなあと、正直感心していた。

 また、モンモランシーもそんなギーシュの一面に唖然としていたものの、惚れた男のピンチなら女が助けなくてどうすると覚悟を決め、とにかく水の精霊を呼び出すことにした。

 その方法は、彼女の使い魔のカエルのロビンを使い、湖底の奥底に眠っている水の精霊に、まずは来訪者のことを報告することから始まる。

「いいことロビン、あなた達の古い親友と連絡がとりたいの、盟約の一人がやってきたと伝えてちょうだい」

 彼女は、自分の血を盟約の印として一滴ロビンに垂らすと、湖の中へと放った。

「これで……向こうが覚えていれば来てくれるはずよ……あれ? ルイズ、あんたなに青ざめた顔してんのよ」

 まるで幽霊でも見たかのように真っ青な顔をしているルイズに、モンモランシーは具合でも悪いのかと、額に手を当てようとした。すると、ルイズはびくっと飛び上がって、瞬時に二十歩分ほど後退して震えだしてしまった。

「カ、カカ、カエル触った手を、ちちち、近づけないでちょうだい!」

「はぁ? ……ん、もしかしてルイズあなた、カエルが怖いの?」

「そそそ、そんなこと、ななな、ないこともないけど……いいじゃない! 誰だって苦手なものの一つや二つあるでしょう!!」

 今度は顔を真っ赤にして怒鳴るルイズに、全員の爆笑がラグドリアンの湖畔に響き渡った。

 人は見かけによらないというか、バルタン星人にスペシウム、キングジョーにライトンR30、ベムスターにエネルギー爆弾、サーペント星人に塩、そしてルイズにカエル。意外なところに弱点があるものだ。

「あんたたち笑いすぎよ!!」

 キレたルイズの渾身の大爆発が、一行ごと湖畔と森を揺さぶった。

 

 

 一方そのころ、西岸ではキュルケとタバサを乗せたシルフィードが、任務の目的地であるラグドリアン湖の北西へ向けて風のように飛んでいた。

 旧オルレアン公領から北東へ、トリステイン国境と接するラグドリアン湖の西岸を、命令に記された場所に向かってシルフィードは飛んだ。鳥を追い越し、水面にはねる魚を見下ろし、その穏やかな旅路は自然と眠気を誘うものでもあった。この平和な光景の先に、王軍でも解決できない難題が待ち構えているとは信じがたいものがある。

 あくびをかみ殺しながら、キュルケはこんなときでもしゃがんで本を読みふけっているタバサに、今回の任務の内容を確認してみた。

「ふわ……ねえタバサ、今回の任務ってやつなんだけどさ、もう一度聞いておいていい?」

「……『ラグドリアン湖北西にて、原因不明の森林の立ち枯れと急激な砂漠化が始まっている。その原因を究明し、原因を排除せよ』もうすぐ着くはず」

 振り返りもせずに、事務的にタバサは答えた。

「砂漠化っていったって、気候はこのとおり穏やか、森林も青々と生命力に溢れて平和そのものじゃない。そのイザベラって姫さん、寝ぼけてるんじゃないの? この先だってほら…………うっそ!?」

 シルフィードの進む先を見て、キュルケは思わず息を呑んだ。

 

 ラグドリアン湖の西岸に渡って延々と続いていた森林地帯や、青々とした作物を生らせていた畑が、ある一線を境にまるでまったく違う風景画を切り取ってつなげたように、黄色い砂ばかりの砂漠に変わっているではないか。

 

 これは……と、イザベラの書簡が正しかったことをキュルケも納得せずにはいられなかった。

 砂漠は現在半径三リーグほどに渡って落ち着いているが、こんなものがあったのでは付近に住む猟師も農民も漁民もとても落ち着いて仕事などできないだろう。しかも書簡に追加されていた情報によれば、この砂漠は一週間前に突然現れており、それからほんの一日で半径二リーグにまで拡大し日を追うごとに広がっているという。

 これにより近辺の農業は大打撃を受けて、国境際という地理的条件もあり、早急な解決が望まれるということだった。

 しかもそれだけではない。最初に調査に赴いた学者やメイジの調査団が、流砂にでも飲まれたのか、いくつも行方不明となっているという。これは確かにタバサに回ってきそうな仕事だった。

「こいつは……確かに砂漠だわね。タバサ、ここに来るまで半信半疑だったけど、あなた一人でこれをどうにかできると思う?」

「……やれ、と言われれば内容を問わずにやり遂げるのが、わたしの使命……」

 タバサは、以前火竜山脈で怪獣を倒したせいで、それなら今度は砂漠くらいどうにかできるだろうと思ったなと、イザベラの心の中を読んだ。シルフィードも同じことを感じ取っているらしく、きゅい、きゅいと不愉快そうに鳴いている。

 ただし、馬鹿姫の目論見はどうあれ、今回の任務は一筋縄ではいかない仕事だ。

 砂漠化を防ぐなら水を撒くのが一番手っ取り早いだろうが、下手に大掛かりな魔法を使って周囲の畑や人家を破壊してはまずい。言うなら簡単だが、かつてトリステイン城の火災を消し止める際にタバサとアンリエッタが使った疑似トライアングルスペルでも、その威力は城を覆いつくすまでで、効力は一時的なものだった。

 それに砂漠には保水力がほとんどないし、本気で半径三リーグの広さを潤そうとするならスクウェアクラスが何百人もいるだろう、現実的に考えて不可能だ。

「で、どうしようか? このままぐるぐる回っててもらちが開かないわよ」

「とりあえず、下りて調べてみる」

「まあ、妥当な線だわね」

 とにかく、最初にやることはそれしかないだろう。調査隊が消息を絶ったのは砂漠の中だったというし、もしかしたらここを砂漠にしたなにかが潜んでいるのかもしれない。調べ事は得意ではないが、ぜいたくは言っていられない。こういう時土系統のメイジがいてくれたならと一瞬思ってみたが、土系統の使い手の知り合いの間抜け面が浮かんでそれを取り消した。

 しかし、着陸しようと高度を落としたシルフィードの目の前で砂漠が地響きを立てて揺れ動き始めた。

「タバサ!!」

「上昇、急いで!」

 きゅいと一声鳴いてシルフィードは翼を大きく羽ばたかせて急上昇に入った。

 そのわずか一瞬後、彼女達が着陸しようとしていた砂漠の砂丘が、まるで風船が割れるかのように内側からはじけとび、砂煙の中に巨大な影がせりあがってきた。

 

「あれは!? 怪獣!!」

 

 それは全身土色をした、とてつもない大きさの甲虫だった。

 しかもただでかいだけの虫ではない。つりあがった目は赤く爛々と光り、口には鋭い牙が無数に生えている。さらに、背中からはサソリのような長く、先端に巨大なとげのついた尾が生えているではないか。

「こりゃ、どう見ても菜食主義者には見えないわね」

「調査隊をやったのも、多分こいつ……」

「ええ、ペルスランの言っていた。一週間前に降ってきた星っていうのは奴のことね……見て、体の半分と羽根が焼け焦げてる」

 その怪獣は、体の左半分にひどいダメージを受けていた。本来は飛べるのだろうが、これではまともに動くこともかなわないだろう。

 だが、動けないまでも、その怪獣は自分の周りを飛び回るシルフィードを認めるや、凶悪な顎を開いて、口から赤黒く光る毒々しい光線を撃ち出して来た!!

「危ない!」

 間一髪、ぎりぎりのところでこれをかわしたが、外れた光線はそのまま飛んでその先の森に着弾し、するとどうだ、青々と茂っていた森が瞬く間に枯れて砂に変わっていく!

「あいつが、森を砂漠にした犯人ね。こりゃ、今は動けなくても、ほっておいたらそのうちトリステイン、いえハルケギニア中が砂漠に変えられちゃうわよ!」

 その光線の信じられないような凶悪さを見てキュルケは思わず叫んだ。

 これまでベロクロンをはじめとして、数々の怪獣、超獣、凶悪宇宙人を見てきたが、こいつはそいつらとは根本から違う。内に秘めた邪悪さは超獣の持っていた『侵略』という概念すら外れた、ただ破壊と荒廃のみをもたらす悪魔の使いのようにすら感じられる。

「さて、どうしようかタバサ……やる?」

「……攻撃する」

「あ、やっぱりそういうことになるわけね」

 なんのことはなしに言ってのけたタバサに、キュルケはやっぱりといった表情を見せたが、止めはしなかった。

 どのみちこのままぼんやりと眺めていただけでは事態は変わらないし、タバサの立場上「だめでした」とは絶対に言えない。第一止めたところでタバサが聞き入れるとは思えない。

「でも、あの光線を浴びたらひとたまりもないわよ、いくらあなたの風竜でも大丈夫?」

「なんとかする」

 タバサにしては抽象的な答えだった。けれど、それもやむを得ない場合があろう。風竜は確かにハルケギニアで最速を誇る生き物だが、かつてトリステインの竜騎士隊がベロクロンの前に全滅したように当たるときは当たる。かといって、それが彼女の意思を揺らすものではないが。

 キュルケは杖を取り出すと楽しそうに笑った。

「じゃ……久々に二人でやろうか」

「……うん」

 タバサは自分も杖を構えシルフィードを降下させていった。

 

『フレイム・ボール!!』

『ジャベリン!!』

 

 戦いが、始まった!

 

 

 また、時を同じくして、同じ湖の一角で大変なことが起きていると知るよしも無く、ルイズ達はようやく水の精霊を呼び出すことに成功していた。

 それは、水が意思を持っているかのように湖面から盛り上がって、スライムのように不定形に変形し、モンモランシーが呼びかけると、彼女の姿を模した氷の彫刻のような姿に変わって落ちついた。

「これが水の精霊……液状生命体ってやつか」

 才人は水の精霊の姿を見て、そう判断した。

 全身を液体で構成した生命体は、液体大怪獣コスモリキッドやアメーバ怪獣アメーザのように地球でもいくつか例がある。言えば怒らせるだろうから、才人はそこのところは伏せておいたが、この水の精霊というやつは、それとは対照的に陽光を透明な体に輝かせて、美しくきらめいていた。

「水の精霊よ、お願いがあるの、あなたの体の一部を、ほんの少しだけわけてもらいたいの」

 だが、やはり水の精霊の答えは冷たかった。

「断る、単なる者よ」

 やはり、とモンモランシー達は肩を落とした。

 だが、水の精霊が湖面に戻ろうとしたとき、ギーシュが意を決したように水辺にまで出て、湖水に頭を浸るくらいまで下げて頼み込んだ。

「待ってくれ水の精霊! ぼくの友達が助かるためにはどうしてもあなたの一部が必要なんだ。そのためなら、ぼくはどんなことだってする。だから、お願いだ!」

 精霊は、しばらく湖面にとどまったままじっとギーシュの姿を見守っていたが、やがて再び元の姿に戻ると言った。

「わかった。単なる者よ、お前の体内を流れる液体の流れは嘘を言っていない。我は湖の水を通してそれを知った。願いを聞いてやろう」

「本当か! ありがとう!」

「ただし、お前はどんなことでもすると言ったな。ならばひとつ条件がある。我は今、いくつかの悩みを抱えている。そのひとつを解決してもらおう。ここより北の湖岸の地底に、最近不法な侵入者が居座って大地を荒らし、それが湖にも影響を及ぼしている。そいつを退治してくるがいい。されば、我は我の一部を礼に進呈することを約束する」

 それを聞いて、ギーシュは喜んだが、才人はその侵入者とは何者かと精霊に聞いてみた。

「我を悩ますのものは、太陽が七回巡る前に空のかなたよりここに降りてきて、森を枯らし、生き物を殺し、大地を死なせる、巨大な悪意の塊のような怪物だ」

「て、ことは宇宙怪獣か……?」

「なんでもいい! とにかくそいつを倒せばいいんだな。だったらやってやろうじゃないか!」

 こうして、一行は水の精霊の涙を手に入れるための交換条件として、謎の敵を倒すことになった。

 が、そのとき水の精霊の体がぶるりと震え、一行は何事かと身構えた。

「どうやら、北西岸でそやつと何者かが戦い始めたようだ……」

「ええっ、もしかしてガリア軍か!?」

「違う……湖面に映った様子をここに映し出そう。見るがいい」

 水の精霊が手を一振りすると、湖面が揺らめき、そこにまるでテレビ画面のようにはるか北西の岸での戦いの様子が映し出され、暴れまわる巨大な怪獣と、それと戦っている者達を見て皆は仰天した。

「あれは……まさかシルフィード!? てことは乗ってるのは」

「あの赤い髪はキュルケだろ!」

「タバサもいるぞ、なんであの二人が怪獣と!?」

 才人、レイナール、ギムリはそれぞれ見慣れたシルエットを見て、なんで!? と仰天した。けれど、二人が炎と氷の魔法を駆使して必死に戦っているのを見て、ただ偶然居合わせたわけではないということだけは悟った。

「まずいわね。あの怪獣相当な強さよ、このままじゃ遠からずやられちゃうわ」

 モンモランシーの言うとおり、シルフィードは高速で飛んで怪獣の吐き出してくる光線や光弾を避け続けているものの、怪獣のほうも半身に傷を負っているにもかかわらずにほとんど二人からはダメージを受けていない。

 するとそのときギーシュが高らかに宣言した。

「助けに行こう! 友を見捨てては騎士の恥、どうせ戦いに行くはずだったんだ。二人を見殺しにはできない!」

「ギーシュ……」

 きりっと構えて、凛々しく言ったギーシュの姿に、正直才人達はさっきまでとの変わりように度肝を抜かれていた。特に、モンモランシーなどは頬を紅く染めてギーシュの顔を見つめている。

 しかし、たった一人冷めた視線で成り行きを見守っていたルイズが言った。

「でも、ここからタバサ達が戦っている場所までは相当な距離があるわよ。湖岸を回りこんでいたら、馬でもとても間に合わないわ」

「うっ!」

 それは盲点だった。いくら気合を入れたところで、タバサ達のいるところはこの東岸からは影も見えないかなた、いくら急いだところで何時間もかかってしまう。

 だが、それを聞いた水の精霊が手を湖にかざすと、湖面の上をまるで動く歩道のように北西へと続く水流の道が現れた。

「戦いに急ぐというのならこれに乗るがいい。沈まぬように凝結させた水を高速で北西に流している。この上をさらに馬で駆ければ片時もせぬうちに着けるだろう」

 それはまさに、ハルケギニアの人々が恐れる水の精霊の先住魔法の人知を超えた力のなせる技であった。

「よし、急ごう! 才人、ギムリ、レイナール、WEKC出動だ!」

「おう!」

 一行は馬に乗り込み、タバサ達の待つ北西岸へと湖面の上の道に乗り出していった。

 

 

 そしてそのころ、次空を超えた世界、地球でも勇者達が戦いを繰り広げていた。

 

 今日も、ガンウィンガーでパトロール中のリュウとミライの元に怪獣出現の報が届いてくる。

〔リュウ隊長、東京N地区に空間のゆがみが発生しています。同時に強い生命反応を検知、怪獣が出てくるようです!〕 

「なんだと! ヤプールの攻撃か」

〔いえ、ヤプールの異次元ゲートとは違うようです。どこか別の宇宙につながるワームホールのような……〕

「わかった、後はこっちで確かめる。いくぞミライ!」

「GIG!」

 ミライがGUYSの復唱を力強く答え、ガンウィンガーは進路を変えて東京N地区へ向かった。

 そうするとガンウィンガーは速い速い、あっという間に東京N地区に到着、街の上空に浮かんでいるブラックホールのようなワームホールを発見した。

〔ワームホール拡大、怪獣が出てきます!〕

 一瞬、ワームホールが大きく口を開け、そこから吐き出されるように巨大な生物が飛び出してきて、街中に墜落した。

「出てきたぞ! まるででっかいカニみたいなやつだ」

「リュウさん、あれは尻尾があるからエビじゃありませんか?」

「いや、ハサミもあるぞ、ならザリガニだ!」

「そうか、あれがザリガニなんですか!」

 現れた怪獣は、まさに全身土色をした巨大なザリガニだった。

 右のハサミは自分の身の丈ほどもある巨大さで、飛び出た目は真っ赤な色をしている。

 怪獣は、現れてしばらく「ここはどこだ?」とでもいうふうに、周辺をキョロキョロと見回していたが、やがて狂ったように巨大なハサミを振り回してビルを破壊し始めた。

「やろう! 好きにさせるか! 食らえ、ウィングレットブラスター!」

 ガンウィンガーから発射された強力なビームが怪獣を直撃する。しかし怪獣の強固な殻に防がれてあまり効いていない。

「ちっ! フェニックスネスト。ガンローダー、ガンブースターただちに出撃。こいつはガンウィンガー一機じゃいきそうもねえぞ」

〔GIG〕

 怪獣の強さを見て、リュウは迷わず総力戦を決断した。

「リュウさん。僕がいきます!」

 ミライはメビウスに変身して戦おうとした。だが、リュウはそれを押しとどめた。

「ミライ、それにはおよばねえ。あんな奴くらい、GUYSの力だけで倒してやる。新生GUYSの強さ、お前に見せてやる」

 『地球は、人類自らの手で守り抜いてこそ価値がある』、まだそれをやりとげるには人類の力は弱いが、いつかは本当にそれをなしとげる。それがリュウの信念だ。

 そして同時にそれは、ウルトラマンに頼るのではなく、同じ場所に立って、いっしょに平和のために戦うということになる。ミライはそれをくみとって変身するのをやめた。今はウルトラマンメビウスとしてではなく、GUYS隊員、ヒビノ・ミライとして戦うのが、リュウの気持ちに報いるただひとつの方法だ。

「ミライ、後ろから回り込むぞ!」

「GIG!」

 怪獣は、口から火炎弾をガンウィンガーに向けて連発してくる。

 リュウはそれをかわすと、ウィングレットブラスターを怪獣の顔面に叩き込む。

 その光景を、GUYS総監サコミズ・シンゴはフェニックスネストのモニターごしに頼もしそうに見ていた。

 

 そう、すべてはあのときから……

 

 ガイガレードとの戦いの後、地球に降り立ったメビウスとヒカリは、再び地球人ヒビノ・ミライとセリザワ・カズヤの姿になって、リュウやサコミズら懐かしい人たちと再会を果たしていた。

 だが喜びもつかの間、フェニックスネストの作戦室で、ミライの口から語られた話はリュウを始めとするGUYSの面々を驚かせるのに充分だった。

「ウルトラマンAが行方不明!? それに異次元人ヤプールが復活するだと!!」

 その話を聞かされたリュウは怒りに震えた。ようやくエンペラ星人の脅威もやみ、怪獣の出現も少なくなってきているというのに、また平和を乱そうというのかと。

 そして、二人がやってきた目的が、その現場が太陽系近海であることと、ヤプールとの交戦数が多く、もっとも異次元研究の進んだ地球の力を借りるためだということを聞かされて、今度はどんと胸を叩いて力強く言った。

「まかせておけ! ウルトラマンAには月で助けられた借りがある。喜んで、お前の兄さんの捜索に協力させてもらうぜ」

「リュウさん! ありがとうございます」

 リュウの頼もしい言葉に、ミライは満面の笑みを表して喜びを表現した。

 エースだけではない、地球人はこれまでウルトラの兄弟達に返しきれないほどの恩を受けてきている。今回は、地球人がウルトラマンを助けられるまたとない機会だ。第一、恩返しをするのに遠慮をする必要などどこにもない。

 だが、事は隊長一人の独断で決められることではない、リュウはそれまで黙って話を聞いていたサコミズに許可を得るために、姿勢を正して話しかけた。

「総監、GUYS JAPANはこれよりウルトラマンAの救助と、対ヤプール殲滅のための対策活動に入りたいと思います。許可をいただけますか?」

 するとサコミズは、自らいれたコーヒーのカップをテーブルに置くと、自然体の表情ながらどこかしら暖かみを感じられる顔をリュウに向けて言った。

「今のGUYSの隊長は、リュウ、君だ。君の好きなようにやればいいさ。ミライ、セリザワさん、君達はGUYSの復帰隊員として身分を確定しておこう。ただし、君達がウルトラマンだということはすでに知られたことだから、一般に不安を招くといけない。このことはフェニックスネスト内だけの秘密ということで、しばらくは通したいと思う」

 それだけ言うと、サコミズは再びカップをとり、コーヒーを口に運んだ。

「ようしミライ、そうと決まれば善は急げだ。カナタの奴もお前がまた来たと聞けばよろこぶぜ!」

「はい、またよろしくお願いしますリュウさん」

 リュウとミライはまたいっしょに戦えることを喜び合うと、一礼して作戦室を出て行った。多分、これからフェニックスネストをまわって、新人隊員のハルザキ・カナタや、整備班長のアライソに挨拶しにいくのだろう。

 残されたサコミズとセリザワは、テーブルを向かい合わせて、静かに語り合った。

「リュウも、また見ないあいだにたくましくなってきたな」

「君にとってはアーマードダークネスの事件以来か。当然だよ、彼もまた夢のために毎日を戦い続けている。他のGUYSの仲間達といっしょに、離れていても、みんなの心は常に一つだ」

「そうだな……しかし、今度の事件は今までとは違った感じがする」

「どういうことだい?」

「ヤプールが復活を狙っているのは、我々が地球に来る直前の怪獣の襲撃からも、確証はないが確信に近い。しかし、奴が真っ先に復讐の標的にするとしたら、この地球であるはずなのに、地球は平和そのものだ。静か過ぎるのが逆に不気味だ」

 セリザワの言葉にサコミズは眉をしかめたが、コーヒーに注いだミルクをスプーンでゆっくりとかき混ぜながら自分なりの仮説を披露してみせた。

「ヤプールもばかではない。以前奴は不完全なまま復活し、中途半端なまま異次元ゲートを封鎖されてしまっている。もし完全な状態で超獣軍団を送り込まれていたらどうなっていたか、そのときの教訓を取り入れたんじゃないかな?」

「嵐の前の静けさ、というわけだな」

「ああ、だが、嵐に備えて対策を打つことは出来る。それに、表立って動かなくても何か痕跡を残すことはあるだろう。ヤプールの仕業としぼればそれも見つけやすくなる。どちらにせよ、彼らならどんな障害でも必ず乗り越えていけるさ。コーヒー、おかわりはどうかな?」

「いただこう」

 GUYSの元隊長二人は、自分達の時代が移りつつあるのを感じながら、部屋に満ちる芳醇な香りを楽しんでいた。

 

「総監、横浜で謎の反応をキャッチしました。ただちに調査に出動します!」

 さっそく事件の気配をかぎつけたリュウは、ミライを横浜に向けて出動させた。

 

 だが、その一方で、ヤプールはハルケギニアのどこかで今日も超獣を作り続けている。

 そのことを、この世界で知る者は、いまだいない。

 

 

 続く


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