ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第50話  帰ってきたタバサ

 第50話

 帰ってきたタバサ

 

 高次元捕食王 アークボガール

 深海竜 ディプラス

 根源破滅天使 ゾグ(幻影) 登場!

 

 

「間もなく、セレファイス海溝深度八千メートル。高山さん、藤宮さん、もうすぐですよ」

 

「これがリナールの海底都市……なんて神秘的な」

 

「藤宮は、見るの初めてだったね。僕も、もう一度ここを訪れられるとは思わなかった。本当に美しい……でも今回は、この先に行かなきゃいけない」

 

「見えました! 高山さん、あれに間違いありません」

 

「以前ガクゾムが通ってきたワームホールの残り。あの奥に、破滅招来体の最後の残党がいる。藤宮、準備はいいかい?」

 

「いつでもいい。あのワームホールは、セイレーンが通るにじゅうぶんな広さと安定性を持っている。あとは、リナールの光が俺たちを導いてくれる。破滅招来体の隠れ家へ、そして……この子の故郷へな」

 

「……」

 

「どうしたの? 帰れるのに、うれしくないのかい」

 

「違う、私は帰る。帰らなきゃいけない。それより、あなたたちこそ本当にいいの? わたしたちの世界に来れば、わたしたちの世界の問題に関わることになるかもしれない」

 

「わかっているよ。それでも、破滅招来体によって滅びようとしている世界があるなら、僕らは見過ごせない」

 

「破滅招来体は恐ろしい敵だ。ありとあらゆる方法を使ってやってくる。しがらみのことなら気にするな、だからこそ向こうに渡るのは俺と我夢だけでG.U.A.R.D.は表向き関与しない。感謝するなら、あのコマンダーにすることだ」

 

「ありがとう、あなたたちにはそれしか言えない」

 

「かまうな、俺たちも君にはいろいろ助けられた。それより、いよいよ境界線を越えるぞ」

 

「これがワームホールの中。エアロヴァイパーと戦ったときの時空間を思い出すけど、向こうからの呼びかけがなかったら完全に異次元の迷子になるところだ。帰りのために、しっかり記録しておかないと」

 

「高山さん、前方から妙な信号が入ってます。そっちで分析できますか」

 

「は、はい! こ、これは音声……話し声?」

 

「この声……キュルケ!?」

 

「ワームホールを抜けます。前方に大型の金属反応、ですがエネルギーは微弱。船が沈没しているようですよ!」

 

「向こうに回線をつなげますか?」

 

「やってみます。こりゃすごい水の音、浸水しているようです。おそらく、向こうはもう」

 

「キュルケ! そこにいるの? キュルケ!」

 

「ちょ、タバサちゃん落ち着いて! えっ? これはテレパシー? 誰だ、僕に話しかけてくるのは」

 

「俺にも聞こえる。水の精霊? そうか、お前がこの世界のリナールの同族か。なるほど、こちらの世界の事情はだいたい理解した。我夢」

 

「わかってる。横谷リーダー、さっそくですが行ってきます。僕の荷物も持って行きますので、よろしくお願いします」

 

「了解です。ケーブル切り離し、セイレーンはこのまま離脱。では、幸運を」

 

「ありがとうございます」

 

「キュルケ、返事をして! わたしはここ、ここにいる!」

 

「タバサちゃん、落ち着いて。心配しないで、僕らが君をあそこに連れて行く。藤宮、いくよ!」

 

「おう!」

 

 高山我夢と藤宮博也。大地の力と海の力を与えられた二人がタバサの手を取り、その手に与えられた光を掲げた。

 

「ガイアーッ!」

 

「アグルゥーッ!」

 

 

 エスプレンダーとアグレイターが輝き、XIGの潜水艇セイレーン7500の中から三人の姿が光と共に消え去る。

 ワームホールを背に、東方号を赤と青の輝きが照らし出す。その光から現れる二人の巨人、ウルトラマンガイア、ウルトラマンアグル。

 

 ふたりのウルトラマンは沈没中の東方号を下から持ち上げると、そのまま上昇を始めた。

 水中では浮力が働くとはいえさすがに重い。しかし一度勢いがつけば、東方号は押されるままにぐんぐんと浮上していった。

 しかし、このままでは水上に着く前に中の人間たちの息が尽きてしまうだろう。だが、そちらにはキュルケたちが心から待ち望んだ仲間が助けに駆けつけていたのだ。

「キュルケ、水を吐いて、息を吸って。大丈夫、もう空気はあるから」

「タバサ、ほ、本当にタバサなの?」

「うん、間に合ってよかった。久しぶり、キュルケ」

 窒息寸前のところで息を吹き返したキュルケの前に、見慣れた懐かしい顔がかがんでこちらを見つめていた。

 短く刈りそろえた蒼い髪。顔の割に大きなメガネに、小柄な身の丈に合わない大きすぎる杖。服装こそ、グレーとブルーを基調としたジャケットのようなものを着ているけれど、その幼げな顔立ちと雰囲気は間違いなくキュルケにとってよく見慣れて、そしてもう一度直に見たいと願い続けてきたタバサのそれそのものだった。

「タバサ……ああタバサ、夢じゃないのね。わたし、あなたの助けになるつもりが、あなたの足手まといになってばかりで。ごめん、ごめんね」

「キュルケ、そんなことはない。キュルケが呼んでくれたから、わたしは帰ってくることができた。ありがとう」

 水の引いた耐圧区画の中で、キュルケとタバサは固く抱きしめあった。ガイアの力で東方号内にテレポートしたタバサが、セイレーンから持ち込んだ空気ボンベに風の魔法をかけて空気を作ったのだ。

 浸水もガイアのバリアーで守られているおかげでない。溺れかけていた面々も、床でカエルのように伸びているドゥドゥーを除いて全員息を吹き返した。

「でもタバサ、いったいどうして?」

「ごめん、話は後にして。ハルケギニアがどうなってるのかはわたしも水の精霊から聞いた。みんなが、ハルケギニアのために頑張ってる。だから、わたしも帰ってきた。彼らの助けを借りて」

「彼ら……ウルトラマン!?」

「そう、ウルトラマンガイア、ウルトラマンアグル。わたしの迷い込んだ世界で、根源的破滅招来体と戦っていたウルトラマン」

 驚くキュルケたちの前で、タバサは誇らしげにふたりのウルトラマン、ガイアとアグルを見つめた。

 いったい、異世界でタバサに何が? いや、それはタバサの言うとおり後で聞けばいいとキュルケは思った。自分たちにさえ、これだけ色々なことが起きたのだ。タバサはそれ以上の体験をしてきた、それだけのことだろう。

 ふたりのウルトラマンに持ち上げられて、東方号はぐんぐんと上昇していく。水の精霊の都はあっというまに見えなくなり、あれだけ深く思えた大水崖もすぐに裂け目が見えてきた。

 しかし、東方号ほどの大きさの物体を奴は見逃しはしなかった。

「ソナーに反応!? あの怪獣、また来るわよ」

 ティラが叫ぶ。一度は撃退されたディプラスが、性懲りもなくまた襲ってきたのだ。

 水中を蛇行するように高速で突進してくるディプラスの姿が見える。「まずい!」、ファーティマが叫んだ。今度攻撃を受けたら東方号は終わりだ。

 だが、ディプラスの接近はガイアとアグルもとっくに気づいていた。アグルはいったん東方号をガイアにまかせると、接近してくるディプラスのほうを向き、指先から白色のエネルギー弾を放った。

『アグルスラッシュ!』

 エネルギー弾はディプラスの頭に当たってスパークし、ディプラスは激しく首を振り動かして苦しんだ。

 しかしディプラスはダメージを受けながらも、まったく躊躇することなく東方号を狙ってくる。アグルとしては、今の威嚇で退散してくれればよいと思ったのだが、そう願えないのであれば是非もないと、さらに強力なエネルギー弾を投げつけた。

『リキデイター!』

 青い光弾はディプラスを今度は粉々に打ち砕き、破片を湖の中に散乱させた。

 すごい、コルベールやファーティマは息を呑んだ。あの怪獣をたった一撃で倒してしまった……いや、このくらいで喜んではいられない。本当に倒すべき敵は、この上にいる。

 ガイアとアグルに支えられて、水面がすぐそこに見えてきた。さあ、いよいよ悪党どもに目にものを見せてやるときだ。

 

 

 そう、すべてをひっくり返すときが来たのだ。

 ラグドリアン湖の湖畔で続く死闘は、アークボガールの完全勝利に終わろうとしていた。

「これまでだな。さあ、我の胃袋がお前たちを待っているぞ。寂しがることはない、すぐにこの星の生き物たちもまとめて後を追わせてやろう」

「まだまだ、勝負はこれからだっ!」

 捕食器官を開いてヒカリとジャスティスを飲み込もうとするアークボガール。ふたりはカラータイマーの点滅が限界に来ながらもなお抗うが、もう数秒も経たずに飲み込まれてしまうだろう。

 もうダメなのかっ? 戦いを船上から見守っていたベアトリスやギーシュたちは、自らの無力を嘆き、始祖と神に祈った。

 この世に奇跡というものがあるなら、それは今こそくれ!

 しかし、神は奇跡を起こさない。奇跡を呼び込むのは、常に人の努力に他ならない。

 そのとき、黒い空を映して墨のような水面をたたえていたラグドリアン湖が、金色のまばゆい光を放って輝き始めたのだ。

「な、なんだこれは!?」

 湖上のギーシュたちだけでなく、輝きに目を焼かれてアークボガールもうろたえる。

 いったい何が? その答えは、水柱とともに彼らの眼前に現れた。

「ジュワッ!」

「トゥワッ!」

 水面に浮き上がってくる東方号と、それが起こした大波が彼らの乗る小船を翻弄する。

 だが、彼らの誰もが振り落とされそうな揺れも、頭から降り注いでくる水も気にしてはいなかった。そんなものよりも、彼らは東方号に続いて現れたふたつのシルエットに釘付けになっていたからだ。

「ウルトラマンだ!」

 ガイアとアグルのふたりの雄姿。それは、彼らから絶望の二文字を消し去るのに十分すぎる威力を持っていた。皆が空を指差し、声を限りに叫んで喜ぶ。

 東方号は浅瀬に座礁して止まり、彼らの見ている前でふたりのウルトラマンはアークボガールの前へと着地した。激震とともに、ガイアとアグルの足元の土砂が舞い上がり、すさまじい重量感に、まるで大地と大気が呼応するかのようだ。

「き、貴様らは!?」

 想像もしていなかったガイアとアグルの登場に、アークボガールの口から動揺を隠せない声が漏れた。

 ガイアとアグル、このふたりがハルケギニアに姿を現すのはこれが初めてで、当然アークボガールも彼らのことは知らない。もちろんベアトリスやギーシュたちもだ。ヒカリとジャスティスでさえ、見も知らぬウルトラマンの登場に戸惑ったが、ガイアは彼らに対して落ち着いた声色で告げた。

『はじめまして、後はまかせてください』

『君たちは?』

『話は後で、安心してください。僕らも、ウルトラマンです』

 短いが、確かな信頼がガイアの言葉には込められていた。ヒカリとジャスティスは、バトンを渡すときが来たことを悟って後ろへと下がる。彼らが何者であろうと、信じることからすべてが始まる。

 しかし、たったひとり、ウルトラセブンことモロボシ・ダンだけは、彼らを見るのが初めてにも関わらずに既視感を覚えていた。

「彼らは……」

 M78星雲出身のセブンはガイアとアグルを見たことはない。だが、頭のどこかで懐かしいという思いを感じている。

 そうか、メビウスの言っていた、これがそうか。

 ダンは既視感の意味を悟り、うなづいた。そんなダンに、ギーシュが興奮して詰め寄ってくる。

「あ、あれが、あなたの兄弟? ウルトラ兄弟なんですか!」

「いや、違う。だが、違っていない。別の世界の、もうひとつの兄弟たちだ」

「は、はぁ?」

 ギーシュは意味がわからないと戸惑うが、ダンの表情には彼らは仲間だという確信があった。

 なるほど、詳しいことはわからないが、異世界への門へたどり着いたことは無駄にはならなかったらしい。ダンは、ともすれば自分が彼らを死地に送り込んでしまったのではないかと心苦しさを感じていたのだが、彼らは見事に自分の想像を超えた結果を呼び出してくれた。

 若者たちのパワーはすばらしい。かつてのレオも、ひよっこだったときから見る見るうちに自分の助けがなくとも地球を守れるまでに成長したものだ。

 着地し、態勢を整えるガイアとアグル。そして、ガイアは脇に抱えていたコンテナを放り投げた。セイレーン7500が牽引してきて、ガイアがここまでいっしょに持ってきたのだ。すると、コンテナは空中で変形してXIGの戦闘機ファイターEXの姿となって飛び上がった。

『PAL、具合はどうだい?』

『良好です。我夢、ファイターEX、すべて問題ありません』

『よかった。なら、そっちのほうは君にまかせる。頼んだよ』

『了解』

 ガイアはファイターEXのAIである人工知能プログラムPALに指示を出すと、アグルとともにアークボガールに向かい合った。ファイターEXはジェットを噴射すると、PALによる無人操縦であっというまに飛んでいった。

 あの方角は……ギーシュたちは、ファイターEXが飛んでいった方向を見ていぶかしんだ。あっちに飛んでいって行き着く先といえば、まさか。

 だが思考をめぐらせている時間などはなかった。アークボガールがガイアとアグルに対して、ついに敵意をむき出しにしてきたのだ。

「なんだ、お前たちは?」

「お前の敵だ」

 アークボガールの問いかけをアグルが一言で切り飛ばす。もとよりアークボガールにとって、自分以外の生物はすべて敵か餌かのどちらかなのだ。

 たとえ言葉が通じたところで狼と羊が仲良くすることなどない。ミツバチとスズメバチが隣り合って巣作りをすることなどない。生態としてそうなのだ、ボガールは知性を持った食欲の権化であり、形を持った生存競争なのだ。これを前にしたとき、他の生物がとるべき道は、戦う以外にはない。

 避けることのできない戦いの火蓋は、ついに切って落とされた。

 足元から土砂を噴き上げるほどに荒々しく大地を蹴ってガイアとアグルが駆ける。対して、アークボガールも新たなウルトラマンたちが容易ならざる相手だということを肌で察して、真っ向からふたりを迎え撃った。

「デヤアアッ!」

 正面から激突する二大ウルトラマンとアークボガール。巨大な太鼓を鳴らしたような激震が大気を揺さぶり、見ている者の顔をひっぱたいた。

 組み合う三者。なんと、ガイアとアグルのふたりを持ってしても、アークボガールは押し負けずに受け止めたのだ。

「グフフ、バカめ。その程度のパワーで、我を止められるわけがなかろう」

「どうかな? ガイア、いくぞ!」

「おう!」

 アグルとともに、ガイアはさらに力を込めた。すると、アークボガールの巨体がズルズルと後ろに押されだしたではないか。

「な、なんとぉ!?」

 自分が力負けしているということにアークボガールは驚愕する。だが、こんなバカなと思っても、ガイアとアグルはアークボガールを押し続け、そのまま掬い上げるようにして地に叩きつけた。

「ぐぅぅ、おのれぇ!」

 地を這わせられた屈辱から、アークボガールは怒りを込めて立ち上がってくる。

 が、ガイアとアグルの攻撃が先手を打った。アグルのキックがアークボガールの腰を打ち、ひるんだところにガイアのパンチのラッシュが決まる。

 やる! あの悪魔のような怪獣を押していると、銃士隊から感嘆の笑みがこぼれた。だが、アークボガールはそんなに簡単に負けてくれるような敵ではない。

「なめるなぁ!」

 アークボガールは叫ぶと、全身から強烈なエネルギーの波動を放射してガイアとアグルを吹っ飛ばした。

「ウワァッ!」

「ヌワッ!」

 弾き飛ばされたガイアとアグルは背中から地面に叩きつけられる。アークボガールは、そこに間髪いれずに赤紫色のエネルギー弾を連発してきた。

 まるで池に次々に石を投げ入れて水しぶきをあげるように、ガイアとアグルの周囲にエネルギー弾の炸裂する火柱が無数に立ち上がる。

「ウルトラマン!」

 炎の中に飲み込むようなすさまじい爆発の嵐に、ギーシュたちから叫びがあがる。

 しかし、ガイアとアグルは確かにダメージは受けながらも、冷静に反撃の機会をうかがっていたのだ。

 爆炎が逆にめくらましになるのを計算して、アグルがガイアの後ろに配置すると、ガイアは手を前に掲げて回転する円状のエネルギーシールドを作り出した。

『ウルトラバリヤー!』

 強固なエネルギーの盾は、ガイアとアグルへの直撃コースの攻撃をすべて受け止め防ぎきった。

 だがむろんそれだけではない。ガイアのバリヤーで安全が確保されたアグルは、アークボガールの虚をついて垂直に高くジャンプすると、そのまま超高速での飛び蹴りを食らわせたのだ。

「テヤアァッーッ!」

 弾丸のようなスピードでアグルとアークボガールのシルエットが交差したと思った瞬間、アークボガールの広げた捕食器官の右半分が粉々に吹き飛んでいた。

「よし、これで奴はもうまともにものを食うことはできない」

 ダンが、アークボガールの能力の半分がダウンしたことを確信してつぶやいた。まだ半分しかつぶしていないと見ることもできるが、どんな食いしん坊でも口の中にでかい口内炎ができていたら満足に食事ができないのと同じだ。

 しかし喜ぶのは早い。アークボガールの戦闘力はまだ衰えていないし、時間をかければ奴はこの程度の傷は再生してしまうだろう。

 つまり、攻めるなら今だ。ガイアとアグルはアークボガールを挟み撃ちにして、それぞれ額を輝かせ、必殺の一撃を同時に撃ちはなった!

 

『フォトンエッジ!』

『フォトンクラッシャー!』

 

 ガイアの額から放たれる赤白の光芒と、アグルの額から放たれる青白の光芒がアークボガールの前後から炸裂した。

 爆発が起こり、アークボガールから苦悶の声があがる。

「うぬぅ、貴様らぁ!」

 傷の痛みと怒りと恨みの叫び声。だがそれは、奴自身がこれまで食い散らかしてきたものたちの断末魔を自分で再現しているということだ。

 食べるということは神からすべての生命に与えられた権利であるが、暴食は神から禁じられた罰となる。

 ただし神は罰を下さない。罰を下すのは天、そして天とは、めぐりめぐった因果のこと。アークボガールを下すのは、奴自身が招いた敵という因果だ。

 なおも倒れないアークボガールに対して、ガイアとアグルは再度接近戦に打って出た。コンビネーションを活かし、パンチとキックが次々に決まる。アークボガールは、ガイアに対抗しようとすればアグルに攻撃され、アグルを打ち払おうとすればガイアの一撃を食らうという悪循環に陥って、思うように立ち回ることができない。

 だがガイアとアグルは油断してはいない。フォトンエッジとフォトンクラッシャーのダブル攻撃を受けてなお、アークボガールにはまだ余力が十分に見える。まだ形勢はどう動くかわからない。

 戦いはガイアとアグルが押しているように見えて、実はようやく互角の状況といえる。そして、アークボガールはさすがのタフさでふたりの攻撃を耐え続けた上で、ついにふたりの動きを見切ることに成功した。

「食らえ!」

「ヌワッ!」

「ウオワッ!」

 アークボガールはタイミングを見計らって身をよじり、同時に左右に腕を振り下ろすことで一気にガイアとアグルをなぎ倒した。

 重い一撃を受けて、ガイアとアグルは湖畔の木々を巻き込んで倒れこむ。やはり、腕力ではアークボガールのほうに分があるし、奴も戦闘経験から学習する。

「調子に乗りおって、倍返しにしてくれるわ!」

 怒るアークボガールの猛攻が始まった。太い足でガイアを蹴り上げ、巨大な爪でアグルを切り付けて火花を散らさせる。

 ガイアとアグルも抵抗しようとするが、コンビネーションを崩された状態ではアークボガールのパワーには対抗するのは難しかった。アークボガールは、これまでの仕返しとばかりに徹底して痛めつけにかかってくる。

 危ない! と、ギーシュたちは悲鳴をあげた。新しいウルトラマンの力でも、あの悪魔に勝つことはできないのか?

 空腹のアークボガールは、自身の怒りをコンロの炎にして、ふたりのウルトラマンを美味しく調理しようとしているかのように炒め続ける。

 その様子は、座礁した東方号からでもありありと見えた。立ち上る砂煙、紙くずのように吹き飛んでいく立ち木、それらの中で苦戦を強いられているガイアとアグルを甲板で寒風にさらされながら見て、キュルケやコルベールは歯噛みをしていた。

「なんて強い奴なの……」

 数えればウルトラマン五人分と相手していると同じだというのに、奴にはかなわないというのか。彼女たちは、アークボガールが宇宙大皇帝の側近であったことを知るべくもないが、キュルケだけでなく誰もがこれまで見てきた中でも跳び抜けて強いアークボガールに、畏怖の念さえ抱いていた。

 だが、この中で恐れていない者がひとりだけいる。土佐衛門状態で気絶したまま艦内に置いていかれているドゥドゥーを除けばただひとり、タバサがキュルケの手をつないで言った。

「大丈夫、あのふたりは……あんな奴より、ずっと強いから」

「タバサ……」

 キュルケは、「あなた、いったい向こうの世界でなにを見てきたの?」と問い返そうとして思いとどまった。タバサの目は確信と、ふたりのウルトラマンに対する信頼に満ちている。

 自分がタバサと別れてから今日までの時間、タバサも同じだけ異世界で過ごしていたとしたら、タバサはどれだけのものを見聞きしたというのだろう? そう……きっと、このタバサは自分の知っているタバサとはまるで別人なくらいに成長しているのに違いない。

 少し寂しいわね、とキュルケは心の中で思った。タバサを助けてあげるために強くなったつもりだったが、タバサも天井知らずに成長を続けている。守ってあげる必要などないくらいに。

 でも、きっとそのほうがよいのだろう。タバサが自分の腕などで支えないでもよいくらいに大きくなれば、きっと多くの人たちの助けになるはずだから。

 なら、自分のすべきことはひとつ。タバサの成長を見届け、喜んであげることだ。これから先のタバサとの友情の答えは、きっとそこにあるはずだ。そのためには、タバサの言うとおりに、あのふたりのウルトラマンを信じることだ。

「きっと勝つ、そうよね」

 戦いはまだ終わっていない。希望を託したならば、最後まで勝利をあきらめてはいけない。それがせめてもの責任だ。

 アークボガールの攻撃は容赦を知らず、途切れることなく続いている。だが、アークボガールがガイアとアグルを観察していたように、ガイアとアグルもまたアークボガールのパターンを観察していた。

 生き物である以上、動きにはどうしても癖が出る。まして向こうは怒りで半狂乱だ、パターンを絞り込むのに多くはいらない、そうら……ここだ!

「デヤァッ!」

 奴の攻撃の前の一瞬の溜めを狙って、ガイアとアグルは同時にキックを打ち込んだ。攻撃前の瞬間に一撃をもらい、アークボガールは体勢を崩してよろめき、逆にガイアとアグルは態勢を立て直す。

 だが、アークボガールもそうはさせじと、自身も体勢を立て直すよりも先にエネルギー弾を連打してきた。狙いは甘くても、数を撃てばそんなことは関係ないとばかりの弾幕が襲い来る中、アグルはその身をそのまま使って攻撃を受け止めた。

『ボディバリヤー!』

 肉体そのものを盾とする荒々しい防御技の前に、アークボガールのエネルギー弾がはじかれていく。そしてアグルは攻撃を受け止めながら、胸のライフゲージを中心にしてエネルギーを両手を広げながら集め、それを渦を巻く青いエネルギー球へと圧縮して投げつけた。

『フォトンスクリュー!』

 アグル必殺の超エネルギー弾が正面からアークボガールに炸裂する。だが、驚くべきことにアークボガールはフォトンスクリューのエネルギーさえも我が物にしようと胸から吸収しだしたのだ。

「ファハハ、わざわざ我に馳走をくれるとは、感謝するぞ!」

 強力なエネルギーを手に入れられると、アークボガールの勝ち誇った声が響く。

 しかし、実はこれはアグルの計算どおりだったのだ。アークボガールといえども、フォトンスクリューのエネルギーを食い切るにはわずかだが時間が必要だ。その隙に、こちらの切り札を見せてやる!

「ガイア、変身だ!」

「おう!」

 アグルの呼びかけで、ガイアはアグルと並ぶと、気合を込めて両腕を頭上に掲げた。

 刹那、ガイアから光がほとばしり、ガイアは腕をライフゲージの前から横に広げ、その全身を金色の光が包んでいく。

 地球からガイアに与えられた光の力。それを最大限に高めることで溢れ出した輝きが見るものを照らし出し、その優しくも力強い光にタバサは勝利を確信して言った。

「ガイアが、変わる」

 輝きの中でガイアの姿がよりたくましく変化し、その身に海の力のシンボルである青い色が加わる。そして変身の完了したガイアは、大地を踏みしめ雄雄しい姿を現した。

 

『ウルトラマンガイア・スプリーム・ヴァージョン!』

 

 パワーを全開にしたガイアの真の姿に、見守るうちから歓声があがった。

 そうだ、ここからが本当の勝負だ。意気上がる人間たちとは反対に、アークボガールは「こけおどしを」と吐き捨てるが、それはこれからわかることだ。

 大地を揺るがし、ガイアとアークボガールが再び激突する。アメフト選手のぶつかりあいを数千倍にしたかのような衝撃が生まれ、両者はがっぷりと組み合った。

「ぐぅぅ、くっ!?」

 一瞬で、アークボガールはガイアの力がこれまでとは違うことを悟った。こいつは見掛け倒しなどではない、こちらも全力を出さなければ対抗できない。

 だが、アークボガールは見誤っていた。ガイアの全力はここまでではない、これからなのだ!

「デヤァァァッ!!」

「な、なんだとぉ!?」

 ガイアの掛け声とともにアークボガールの巨体が宙に浮いた。ガイアのパワーはアークボガールを吊り上げて、そのまま後ろに倒れこむ形で奴を頭から地面に叩きつけた。

 激震、人間だったら確実に首の骨が折れているであろう衝撃がアークボガールを襲う。むろん奴はしぶとく起き上がってガイアへの逆襲を計ろうとしたが、ガイアの攻勢はまだ始まったばかりであった。

 反撃に出ようとしたアークボガールの胸にガイアのスプリームキックが炸裂してよろめかせ、体勢を崩したところに体をつかんで持ち上げ投げる!

『スプリームホイップ!』

 回転して背中から地面に投げ出され、アークボガールの骨格がきしむ。もちろんそれで終わりということはなく、ガイアは今度は起き上がろうとするアークボガールの首根っこを掴んで放り投げた。

「デエヤアッ!」

「うがあっ!」

 受身をとることもできずに投げ出され、アークボガールは全身を強打して苦悶の声を漏らした。

 ガイアの攻撃は止まらない。起き上がろうともがくアークボガールの後頭部にかかと落としを食らわせて倒すと、首根っこを締め上げながら持ち上げて、そのまま自分の体重も含めて奴の頭を地面に叩きつけた。

『スプリームフェイスクラッシャー!』

 壮絶な力技の炸裂に、ラグドリアンの湖水すらも震えて波打つ。だが波に翻弄されながらも、船上で見守るギーシュたちの顔は明るい。

 すげえ、あの怪物に完全にパワー勝ちしているぜ! 思いっきりやっちまえーっ!

 少年たちは口々に歓声を喉から搾り出し、目の前で繰り広げられるウルトラマンガイアの活躍にしびれた。

 ガイアの攻撃はとどまるところを知らない。強烈な一撃、スプリームパンチがアークボガールの皮膚を超えて内蔵まで打ちのめし、奴の爪とガイアのチョップがぶつかり合って爪のほうが真っ二つにへし折られる。

 パワーとスピード、さらに技法が加わったガイアの攻撃は圧倒的だ。だが銃士隊の面々はガイアの強さに、ウルトラマンだからというだけではない何かを感じ取っていた。

「そうか、彼も私たちと同じ……」

 力に頼るのではなく使いこなすからこその強さ、ガイアの変身者である我夢は任務の合間に地道なトレーニングを重ねてきており、その自信がガイアの強さを支えているのだ。

 ガイアのバックドロップがアークボガールにまたも土をなめさせ、体の内部からダメージを浸透させていく。

 さらに、アグルも負けてはいない。ガイアに投げ飛ばされたアークボガールの尻尾を掴んでジャイアントスイングのように振り回して放り投げると、さらに駆け寄って腕を掴んで投げ飛ばしたのだ。

『アグルホイップ!』

 ガイアのものに劣らずの勢いで投げ飛ばされ、地響きとともにクレーターの底でアークボガールはもう全身砂埃まみれだ。

 強い! 本当に強い!

 キュルケは、タバサの言ったことが間違っていなかったことを確信した。これまでいろんなウルトラマンの活躍を見てきたけれど、あんな豪快な戦いぶりは初めてだ。

「きゃーっ! きゃーっ! タバサすごいすごーい! 見てみて、どっかーんって、ずどーんって!」

「キュルケ、重い……」

 調子が上がるとやや我を失ってしまうのが微熱のキュルケの面倒な性だ。特に今回はタバサが帰ってきてくれた喜びも合わせて、タバサに抱きついて子供のようにはしゃいでいる。

 さあ、そろそろクライマックスだ。ガイアはアークボガールの巨体を頭上に高々と持ち上げると、もがく奴をこれまでで一番の勢いで放り投げた。

『スプリームリフティング!』

 無造作に地面に叩きつけられ、アークボガールはまだ生きてはいるけれども動きは明らかに鈍っている。

「こ、この我が、こんな奴らに」

 アークボガールも格闘戦には自信があったが、こうまで投げ技の連発を食らうことになるとは想像もしていなかった。特に投げ技はきちんとした受身がとれないのならば衝撃の逃げ場がないためにダメージがまとめて自分に来るので、アークボガールの全身は打撲でボロボロだ。警察官が訓練で柔道を叩き込まれるのはそれだけの実用性があるからなのである。

 よろめきながらも起き上がってきたアークボガールに対して、ガイアとアグルは隣り合って並ぶと合図を送りあって互いに必殺技の構えに入った。

 ガイアが右手を高く掲げると同時にライフゲージが輝き、前に突き出した左手に揃えるようにして一回転させることでエネルギーが集中する。そして重ねた手のひらを上下にスライドさせ、赤色の光線を発射した。

『フォトンストリーム!』

 さらにアグルも両腕を胸の前でクロスさせてライフゲージを輝かせ、高く掲げた右腕をL字に曲げることで青色の光線を放つ。

『アグルストリーム!』

 ガイアとアグルの最強必殺光線。だがそれだけで終わりと思ったら大間違いだ。両者は空中で融合し、果てない威力を秘めた超破壊光線へと変わってアークボガールに襲い掛かっていく。

 

『ストリーム・エクスプロージョン!』

 

 巨大な光の大河が奔流となってアークボガールに直撃した。大地と海の光が合わさった究極のパワーは、いかなる屈強な悪をも粉砕するであろう怒涛の鉄槌である。

 だが、信じられないことにアークボガールはストリーム・エクスプロージョンのエネルギーさえをも我が物にしようとしだしたのだ。

「ぐおぉっ! 我は捕食の王、全宇宙の生態系の頂点。この我に食えぬものなどないぃぃ!」

 アークボガールの腹に光線のエネルギーが吸い込まれていく。

 なんて奴だ! これで決まると思っていたダンは歯噛みした。あの合体光線ならば、直撃すればエンペラ星人でも無事ではいられないであろうのに、奴の胃袋は底なしなのか。

 ガイアとアグルは光線を撃ち続けるが、アークボガールは吸収を続ける。まずい、このままでは。

「ぐわはっはっは、お前たちの光を残さず食い尽くしてくれる。そうすれば、もはやお前たちに戦う術は残っているまい!」

 ガイアとアグルのエネルギーが尽きたら今度こそ本当に終わりだ。ここまで来て、ここまで来て最後に勝つのは奴だというのか。

 ギーシュやベアトリスたちや、タバサとキュルケたちの顔が歪む。あと一息、あと一息なのに。

 そのときだった。

『ナイトシュート!』

 横合いから飛んできた青色の光線がアークボガールの肩に当たり、その衝撃で奴は体勢を崩してしまった。

「ぐああっ? き、貴様ぁ!」

 アークボガールの視線の先、そこにはひざを突きながらも両手を十字に組むウルトラマンヒカリの姿があった。

「ボガール、貴様だけはこの俺が許してはおかん!」

「こ、この死にぞこないが! っ、しまった!」

 体勢が崩れ、吸収するエネルギーのベクトルが歪んだ。今だ、ガイアとアグルはこの瞬間に全力を注ぎ込んだ。

「藤宮!」

「おう!」

 フォトンストリーム&アグルストリーム、最大出力。その光の圧倒的なパワーの前に、咀嚼が間に合わなくなったアークボガールの胃袋はついに陥落した。

「ヴがぁぁぁ! こ、この我が、この我が食あたりなどとぉ? 光が、光が我を満たして……ふははは、我がフルコースは、宇宙一だったぁぁーっ!」

 最後まで食に執着した言葉を残し、アークボガールは大爆発して完全に消滅した。

 撃破、あの恐ろしい悪魔も今度こそ滅び去った。もはや、二度と蘇ることはないだろう。

 勝利に、見守っていた人間たちから祝う声が高らかにあがる。ガイアとアグルのライフゲージは点滅し、ギリギリだったけれどもとにかく勝ったのだ。

 ガイアはヒカリに礼を言った。あなたのおかげだと。ヒカリは答えた、礼には及ばないと。

 

 しかし、戦いはまだ終わってはいない。アークボガールは倒したが、この異変の根源はまだ残っている。

 だがアークボガールとの戦いで力を使いきり、この場のウルトラマンたちはもう戦えない。ガイア、アグル、ヒカリ、ジャスティスの四人は、残った力で変身解除するために飛び立った。

「シュワッチ!」

 四人のウルトラマンは光となり、やがて人の姿となって降り立った。しかしセリザワとジュリは疲労が激しく、陸にあがってきた銃士隊に肩を貸されてやっと立っていられる有様だ。

 一方で我夢と藤宮はまだ余力はあるが、再変身して戦うまでは無理だろう。アークボガールは、それほどまでに強かった。

 見れば、タバサの帰還にギーシュたちが沸いている。万歳の声も聞こえるところを見ると、いまいち脈絡はないがタバサを胴上げしようとしているみたいだ。タバサは困惑しているが、キュルケまでもがいっしょになっていることから、彼らの喜びがわかる。

 タバサと面識のないベアトリスたちだけが蚊帳の外で不思議そうに眺めている。エーコたちは疲れ果てた様子のティラとティアを介抱しており、ファーティマも疲れたという風に倒木に腰を下ろしていた。

 

 この場にいるものは皆、やれるだけのことはやりきった。だが、まだ休むわけにはいかない。

 ダンは、藤宮と我夢にこの世界で起こっていることのおおまかを説明した。ダンはコスモスとのテレパシーで、トリスタニアでの死闘を知っている。あそこを何とかしなければ本当の勝ちにはならない。

「残念だが、我々の力では奴らのトリックを暴くことができない。力を貸してもらいたいのだ」

「安心してください。この世界に来たときから、記録にある敵の兆候を見つけていました。そっちには僕の一番信頼するパートナーが向かってます」

 我夢はそう言うと、ファイターEXが飛んでいった方角を見上げた。

 

 

 そしてトリスタニア。ガリア・ロマリア軍の攻撃は勢いを増し、防戦一方のトリステイン軍の潰走はもはや時間の問題に見えた。

 原因は、言うに及ばず天使の存在だ。あれが物理的、精神的にロマリア側を大きく利している状況ではトリステインに勝機はなく、教皇はさらに演説で自軍を煽り立てる。

「信仰深きブリミル教徒の皆さん、あと少しです。異端者たちの軍勢に、もう逃げ場はありません。ですが油断してはなりません。神に歯向かう愚か者たちがまた現れぬよう、異端者たちを残らず刈り取ってしまうのです」

 トリスタニアの半分が敵に制圧され、後退しながらの防御戦ももう限界にきている。

 天使はウルトラマンコスモスがなんとか抑えてはいるものの、いくらエネルギー消費の少ないルナモードとはいえ連続してバリアを使わせられればもたない。

 あの天使の正体を暴かないことには負ける。コスモスだけでなく、王宮ではエレオノールやルクシャナが、街ではアニエスやジルが知識や勘を総動員して考えているが、わからない。

 どうしようもないのか? コスモスのカラータイマーが鳴り始めて、いよいよ時間がなくなったと焦燥に駆られた、そのときだった。

「お、おい空! なんだあれは?」

 突如、ジェット音を響かせてトリスタニアの空にファイターEXが現れた。その甲高い飛行音に人々は気を取られ、動揺が広がる。

 なにせジェット戦闘機を見たことがある者などほとんどいない。人々が困惑するのも当然だが、その姿を見て驚愕した者がふたりだけいた。ヴィットーリオとジュリオだ。

「あれは、まさか! なぜこの世界に!」

 都市上空を旋回するファイターEXを見てヴィットーリオが初めて焦りを見せた。彼らにとって、それはこの場にありえるはずのない存在だったからだ。

 しかしファイターEXは確実にこの世界に存在している。そのコクピットは無人だが、PALによって完璧に制御され、この場で得たデータを正確にラグドリアン湖にいる我夢の端末へと届けていた。

『我夢、分析データを送ります。予測どおり、この街の上空に超空間の発生源が存在しているようです』

「わかった。破滅招来体め、お前たちの卑劣な手段はもう通用しないぞ。PAL、EXに積んである特殊弾は一発しかないんだ。絶対外すんじゃないぞ」

『信頼してください。ターゲットをロック、我夢、合図をお願いします』

 急旋回したファイターEXは街の上空の一角、黒い雲が渦を巻いているような一点に向けて機首を向けた。

 安全装置を解除するPAL。教皇は焦り、天使にファイターEXを撃墜するように指示を出そうとしたが、それより早くPALに我夢の指示が飛んでいた。

「波動生命体、マスカレードはここまでだ。特殊弾頭弾、発射!」

 ファイターEXから一発のミサイルが放たれて黒い渦に突き刺さる。瞬間、女性の悲鳴に似た叫び声が響き、天使の姿が幻のように揺れた。

 

 

 続く


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