ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第41話  悪夢への子守唄

 第41話

 悪夢への子守唄

 

 邪悪生命体 ゴーデス(第二形態)

 毒ガス幻影怪獣 バランガス 登場!

 

 

 ヴィットーリオの世界扉の暴走によって、才人とルイズが次元のかなたへと飛ばされてから一月あまりの時間が過ぎた。

 その際、才人のほうは過去のハルケギニアへと飛ばされ、始祖ブリミルたちと出会ったことはすでに触れた。

 ならば、ルイズのほうはどこへ飛ばされてしまったのだろうか? 宇宙は広く、無数の多次元に分かれており、そこに投げ込まれるということは太平洋に真水一滴を落とすようなもので、あっという間に溶け込んでしまって再度取り出すことは不可能に等しい。

 しかし、この世には確率を超えためぐり合わせというものがある。あるときに、起こるはずもないような偶然がつながることは割とよくあることなのだ。

 

 世界扉に飲み込まれ、瀕死の状態でルイズは次元のはざまをさまよっていた。そのルイズを拾い上げ、次元を超えて連れて行った者がいたのである。

 

 ルイズが目を覚ましたとき、そこはどこともわからない荒野の上だった。見渡す限り何もなく、しかし現代のハルケギニアとは違う証拠に、見上げた先には広大な青空がどこまでも続いていた。

「ここは……わたし、どうして?」

 目を覚ましたルイズは、別次元で才人が目覚めたときと同じように、自分の状況を確認しようと試みた。

 どうやら自分は誰かに救われたらしい。その証拠に、ジュリオに撃たれた傷には包帯が巻かれて手当てがされており、岩陰に日光を避けて寝かされていた。

 誰が? もしかしてサイトが? と、思ったがルイズはすぐにそれを否定した。あの不器用な才人にしては手当ての仕方が上手だ。この包帯もどことなく巻き方が荒っぽいけれども、それでも才人の手並みとは違うことはわかる。

 ならいったい誰が? そう思ったとき、横から声をかけられた。

「お、目ぇ覚めてたか」

「んっ! 誰?」

 反射的にルイズは声の相手に対して身構えた。もっとも、何も持っていなかったために、身構えてから慌てて杖を探して全身を引っ掻き回すという愉快なことをしてしまったが。

 対して、ルイズの前に現れた相手は敵意があるようなそぶりはまったく見せていない。ざっと見て三十代に入ったかどうかという青年で、美男子とは少し違うが才人とどこか似て、三枚目っぽい愛嬌を感じた。

「ケガのほうは大丈夫みたいだな。そんだけ元気がありゃ心配いらねえさ」

 ひょいっと、近くで集めてきたのかガラクタの山を足元に置いて彼は言った。少しもこちらを警戒している様子はなく、おかげでルイズにも少し相手を観察する余裕ができた。

 一目見て、白とグレーと赤を基調としたジャケット姿はハルケギニアの人間の服装ではないとわかった。しかし、どこかデザインに既視感を覚えたルイズは記憶を探ってみたところ、以前ハルケギニアにやってきたCREW GUYSの制服と似ていると思い当たった。

「あんた、もしかして……チキュウ、人?」

「おっ、よくわかったな。てか、お前ももしかしてだけど……はるけぎにあの人間か?」

 ルイズははっとして相手の男の顔をまじまじと見つめた。見覚えはなく、会ったことがないのは確実だが、彼はハルケギニアを知っているようだ。ならばいったいどこで? 才人のほかに地球人は何人か知っているけれど、思い当たるふしはない。

 ともかく、ヴィットーリオに散々な目に合わされたばかりのルイズは警戒を解いてはいなかった。左手に杖を持ち、右手に才人から預かったガッツブラスターを握ったままで、油断なく相手を見据える。

「いくつか質問することがあるわ」

「いいぜ、俺からも聞きたいことがあるし、一個ずつ聞いてこうか? それなら公平だ」

「まず、ここはどこなの? ハルケギニアじゃないの?」

「ここは惑星ハマーっていうらしい。もっとも、ここにやってきたどっかの宇宙人がそう呼んでたらしいだけで、今は人っ子ひとり住んでない寂しい星みたいだけどな」

 そう答えると、彼は集めてきたらしいガラクタのひとつを足で軽く蹴った。それはいわゆる看板のようなもので、○○星人が○○年に惑星ハマーにやってきたということを示すモニュメントのようなものだと彼が説明してくれた。

 聞いたことのない地名にルイズはいぶかしんだが、ハルケギニアでないことだけは確実で、しかもどうやら地球でもなさそうなことに気が重くなった。しかし、弱気を見せるわけにはいかないと、次の質問をぶつけようとしたときだった。

「じゃ、次は俺の質問に答えてもらうぜ。お嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんじゃないわ。わたしはルイズ、ルイズ・フランソワーズ。って、そういえば先に名前を聞いておけばよかったわね。で、あなたの名前は? ついでに聞きたいことって何よ?」

「ああ、そのことなんだがな……なんでお前が俺の銃を持ってんだ?」

「は?」

 意表を突かれて、ルイズは思わず右手に握っているガッツブラスターを見つめた。

 ええと、どういうことよ? この銃はサイトのもので……いいえ、これは元々オスマン学院長が持ってて、それがサイトに譲られたんだけど、最初に持ってたのは。

「ま、まさか……?」

「そいつは俺が魔法使いのじいさんに貸してやった、俺の銃だ。多少いじくってあるみたいだけど、お前が気絶してるときにシリアルナンバーを確認したから間違いない。それにお前の顔、なんかどっかで見たことある気がするんだよな」

「えええっ! まさか、そんなまさか! ありえない、ありえないわ。けど、ひょっとして……あんたまさか、アスカ・シン?」

「そうだ」

 惑星ハマーの大気に、ルイズの生まれて一番の絶叫が響き渡った。

 

 

 これが、ルイズとアスカ・シン……ウルトラマンダイナの邂逅であった。

 

 

 ルイズが驚いたのも無理はない。アスカ・シンことウルトラマンダイナのことは知っているけれど、それは自分の母が若い時代の昔話に過ぎず、今から三十年も前なのだ。

 つまり、おとぎ話の人物が目の前にいるということになる。驚かないほうがどうかしている状況だ。

「う、嘘よ嘘! だってアスカがハルケギニアにいたのって、お母様がまだ駆け出しだったころよ。あんた、若すぎるなんてもんじゃないじゃない!」

「誰だよお母様って? それに俺がハルケギニアからはじき出されてからまだ半年も経ってないぜ」

「は、えええええ!!」

 そこでルイズはアスカとの決定的な意識の差を思い知らさせられた。とても信じられることではないが、そうでなければ説明がつかない。

 つまり、世界線を越えてしまったことによって、どんな理屈かはさっぱりわからないが、現代のルイズと三十年前のアスカが同じ次元に存在してしまったということだ。そういえば、シエスタのひいおじいさんは現代の地球から三十年前のハルケギニアに飛ばされてしまったらしい。つまり、その逆が起こったということなのか?

 それから先、ルイズとアスカが互いのズレを埋め合わそうとして大変な騒ぎになったのは言うまでもない。

 喧々諤々の言い合いが続き、ルイズは次元のはざまを瀕死をさまよっていた自分を救ってくれたのがウルトラマンダイナであり、アスカが昔話の本人に間違いないということをやっと認めた。アスカも、ルイズが自分の知っているハルケギニアより三十年も未来の人間であることには驚いたが、持ち前の気楽さですぐに飲み込んで、それよりもルイズがカリーヌの娘であるということを知ると大変に喜んでくれた。

「そーかそーか、お前あのカリンのやつの娘なのか。そういえば顔立ちがそっくりだぜ、あいつあれからも元気でやってんだな。よかったよかった!」

 ルイズはそれからも、アスカに自分がいなくなった後のハルケギニアについて色々尋ねられた。オスマン学院長がまだ健在なこと、自分と同じようにシエスタやティファニアといった彼と冒険を共にした仲間の子供がいるということは、ルイズのことと同様に喜ばれた。だが、佐々木武雄がすでに亡くなっていることを伝えたときはさすがに沈痛そうな面持ちになったが。

 しかし、懐かしさに浸るのはそこまでだった。ルイズからハルケギニアが滅亡の危機にさらされていることを聞いたアスカは、ぐっと決意した顔を見せたのである。

「なるほどな。俺の仲間たちが未来で困ってるのか。だったら、俺のやらなきゃいけねえことは一つだ! ルイズ、お前をハルケギニアに連れ戻してやる」

「えっ! そんな方法があるの?」

「いや、知らねえ」

 期待を持たされたルイズは、ガクッとひざを折ってずっこけてしまった。

「なによ、あんたウルトラマンなんでしょ! いろいろできるんでしょ」

「そんなにホイホイ違う宇宙を行き来できれば誰も苦労してねーっての! まあ俺にまかせろって、どっちみち帰らなきゃならねんだろ?」

「まあそりゃあ……そうだけど、いったいどうする気よ?」

「宇宙を渡り歩いていきゃそのうちハルケギニアにもう一回たどり着くこともあるだろうよ。たぶん!」

「はあぁぁぁぁぁっ!?」

 自信満々に”行き当たりばったり”を宣言されてしまったルイズは、もう抗議する言葉も失って呆れ返るしかできなかった。

 そんな適当な……いくら多次元宇宙の知識なんかないルイズだって、違う世界へ行くということがどれだけ困難なことかということはわかる。前に才人から聞いた話では、異なる宇宙は才人の来た宇宙をはじめとして無数にあるという……それを、才人は「たとえば魔法学院には部屋が何百個もあるだろ? その一部屋が地球で一部屋がハルケギニアだ。おれはハルケギニアの部屋から地球の部屋に帰りたいけど、ドアは固く閉まっていて、しかもどこが地球の部屋かわからない。そんなとこかな」と、説明してくれて、そのときは「ふーん」と話半分に聞いていたが、実際に自分がその立場に置かれるとは夢にも思わなかった。

 ハルケギニアには帰りたい。しかし帰る方法が見当もつかなくて、ルイズは途方にくれた。なのに、アスカは気楽に言ってくる。

「なーにを心配そうな顔してんだって。俺は九回裏からに強い男だぜ、信用しろよ。大丈夫、なんとかなるって」

「あんたがお母様と対等に付き合えたってのも納得いけたわ。お母様も、シエスタやテファのお母様もさぞ苦労なさったでしょうね。始祖ブリミルよ、これがわたしに課せられた試練だとしたら、少し過酷すぎはしませんでしょうか……」

 ルイズは、才人相手に何回「ほんっとにダメな使い魔ね!」と怒鳴ったか知れないが、自分はとても恵まれていたんじゃないのかと、今さらながら思うのであった。

 アスカは気にした様子もなく笑っている。こんなことを言われるのは日常茶飯事なのであろう。しかし、アスカに頼らなければ自分はハルケギニアに帰るどころか、この惑星ハマーから出ることさえできないことに、ルイズはあきらめて深々とため息をついてアスカに向き合った。

「仕方ないわ。思えば、あんたにはいろいろ教えてもらいたいこともあるし、短くなることを期待しながら長くなりそうな旅に付き合ったげる」

「よっし、そうこなくっちゃ。よろしくなルイズ」

「っとに、お母様の戦友だと無下にもできないから困るわね。レディに最低限のエスコートくらいできるんでしょうね?」

「……さあて、善は急げだ。こんな何もない星とはさっさとおさらばしようぜ!」

「ちょっと待ちなさいよ。なんで無視するの! ちょっと、変身してごまかそうとしてるんじゃないわよ!」

「ダイナーッ!」

 こうして、ルイズとアスカの凸凹コンビによる旅が幕を開けたのであった。

 

 

 惑星ハマーを後にして、ふたりはそれから様々な宇宙や星を渡り歩いた。

 血も凍るような寒い星で、エスキモーのような先住民に助けられたこともあった。汗も蒸発する暑い星に、宇宙から氷を運んできて雨を降らせたこともあった。

 次元を超える機会は何度か訪れ、重力場の乱れから発生するウルトラゾーンに類似した空間を通って、ふたりはマルチバースを移動した。

 もっとも、自然にできる次元の歪みを利用しての次元移動は完全に運任せのランダムであり、二人の前に現れたのは見たこともない宇宙と星々。そしてそこに生きている人々。

 昆虫が進化したような人類の住む星で捕まりそうになったり、海が硫酸に変わっているほど荒れ果てている星でなお気高く生きている人々を見たこともあった。

 折に触れて人助けをすることもあり、ある惑星では生き物を無差別に喰らい尽くそうとしていた三つ首のドラゴンをダイナが苦闘の末に倒したり、別の次元では自爆して街一つを消し飛ばそうとしていた巨大植物をルイズのエクスプロージョンで自爆前に消滅させたりもしたが、巨大植物と共生していたとんでもなく強い怪獣との戦いは今でも思い出しただけで震えが走る。

 もちろんそればかりではなく、超重力の遊星に引きずり込まれそうになることや、次元の歪みを探してブラックホールに近づいたら巨大な結晶体のような怪獣に追い回されるというピンチもあった。

 ルイズにとっては、宇宙はまさにすべてが未知の体験の宝庫。行って、見て、体験する。その体験からと、アスカや行く先々の人々からルイズは多くのことを学んだ。そして、ルイズはそれまで才人から口伝いに聞くだけであった”宇宙”というものが、いかに広大で雄大であるかを知ったのである。

 いつハルケギニアにたどり着けるかわからない旅は、果てしなく続くかに思えた。しかし、ここにふたりにとって最大の脅威が立ちはだかろうとしていたのだ。

 

 とある宇宙の、名も知れない小さな星。そこはわずかな緑に寄り添うように少数の住民がつつましく暮らしているだけのオアシスのような惑星であったが、この星は宇宙のどこかから流れ着いた邪悪な宇宙細胞によって崩壊しようとしていた。

「こんな星に、オーロラが……?」

 星の住民がある日空に見た不気味な色をしたオーロラ。それ以来、星には怪現象があいつぐようになり、ついには怪獣が現れた。邪悪な気配を察して、アスカとルイズがこの星を訪れたのはこのときである。

 暴れていた二つの頭を上下に持つ怪獣をダイナが倒し、続いて現れたバランガスもルイズのサポートで倒すことに成功した。

 だが、この怪獣たちは最初から囮だったのだ。

 星にただひとつの火山が噴火を起こし、吹き上がる溶岩の中から巨大な影が姿を現す。

「出てくるぜ! こんな背筋の凍るようなドス黒いオーラ持った奴は久しぶりだ」

「な、なんて巨大で禍々しい存在感。こんな化け物を外の世界に解き放ったら大変なことになるわ。まったくアスカ、どうしてあんたの行く先々ではこうろくでもないことばっかり起きるのよ!」

 バランガスを倒した喜びもつかの間、ケタ違いの威圧感を放ちながらそいつはダイナとルイズの前に立ち上がった。

 とにかく、でかい! 全高だけで百七メートルとダイナの倍もある。むろん、ふたりが戦ってきた怪獣の中にはさらに巨大な奴は数多くいたが、ルイズの言うとおり存在感という面では間違いなくトップクラスだ。

 肉体はナメクジかナマコのような軟体型で、そこからイカのような太い触手が多数生えている。これだけでもおぞましいのに、頭部は人間に似ていて、醜悪な老人のような顔に赤い目がらんらんと光っていた。

 怪獣というよりはクリーチャー、もっと端的に化け物と言ってもいいだろう。

「てめえ、いったい何者だ!」

 ダイナは相手に問いかけた。話が通じるかわからないが、見た目から知性を持っているかもと感じたのだ。そして、相手はその呼びかけに答えた。

「我が名は、ゴーデス」

「ゴーデス?」

 聞いたことのない名にアスカとルイズは戸惑った。少なくとも、自分たちのいた宇宙では存在したことのない怪獣のようだ。

 ならば、その目的は何か? しかし、次に放たれた相手の言葉に、ふたりは耳を疑った。

「我が名はゴーデス……今は、それしか思い出せぬ……」

「なんだと!?」

「私はかつて、いつか、どこかの場所に存在したはず。だが、私は滅ぼされ、消滅した……それが何故かは思い出せぬ……だが、私の存在理由だけはわかっている。宇宙のすべての生命を私と同化し、ひとつにする!」

「なにっ!?」

 ふたりは、ゴーデスがこの星でしてきたことを思い出した。奴は、自分の細胞を星全体にばらまくことで怪現象を起こしたり、細胞を星の生き物に寄生させて怪獣化させてきた。アスカが科学の知識にはそれほど詳しくなくても、わかりすぎるくらいわかるほどの影響力。その規模を拡大していったら、宇宙全体がゴーデス細胞の中に飲み込まれてしまうだろう。

「冗談じゃねえ、そんなこと絶対にさせっかよ!」

「たとえわたしたちの世界とは違うといっても、悪を黙って見過ごしてはトリステイン貴族の名折れだわ。さあ、懺悔のセリフを考えておきなさい!」

 こいつを野放しにするわけには絶対にいかないと、ダイナとルイズは巨大な敵ゴーデスとの対決を決意した。

 ふたりからの宣戦布告を受けて、ゴーデスも赤い目を輝かせて触手を振り上げ、身も凍るような雄たけびをあげた。

「ウオォォォ……ウルトラマン……お前の姿に、私の中のなにかが揺さぶられる。この感覚は怒り、憎しみ? 覚悟するがいい、まずはお前たちから取り込んでやろう」

 やれるものならやってみろ! と、戦いが始まった。

 正面から相対するダイナとゴーデス。二百メートルほどの距離をとって睨み合った両者の最初の激突は、ゴーデスが目から破壊光線を放つことで切られた。

「なんの!」

 向かってきた光線を、ダイナはとっさに身をひねるひとでかわした。小さな頃から父親と野球に親しみ、大人になるまでキャッチボールを数え切れないほど繰り返してきたアスカにとっては、真正面から撃たれた光線など外野からの送球に等しい。受け止めることが容易ならかわすことはもっと容易だということだ。

 だが、ゴーデスは破壊光線を連発して撃って来る。ダイナはそれを、千本ノックを相手しているかのようにしてかわし続けたが、ゴーデスもダイナの動きをしだいに見切って、フェイントからの一撃をダイナにヒットさせてきた。

「ウワアッ!」

「アスカ! もう、なにやってんのよ!」

「ってえ、油断したぜ。ストレートの見せ球からの変化球とはなかなかやるじゃねえか、なら今度はこっちの番だぜ!」

 立ち直ったダイナは、腕を外回りに大きく回し、作り出した光の弾丸を投げつけた!

 

『フラッシュサイクラー!』

 

 白く輝く光弾はゴーデスに正面から命中して、その巨体に吸い込まれていった。だが、ゴーデスにはなんの変化も見られず、かすかに揺らいだ様子も見えない。

「ダイナの必殺技が効かないの!」

「まだまだ、勝負はまだ一回の裏が終わったくらいだぜ。さあ、二回の表に突入だ。ルイズ、お前もいつまでベンチをあっためとく気だ?」

「ちぇっ、こっちもさっき特大のエクスプロージョンを使ったばっかりだってのに、ほんとレディの扱いがなってないわね。アスカ、そんなんじゃあんたの恋人にも愛想つかされるわよ」

「心配はいらねえさ、リョウは俺が約束は必ず守る男だって信じてくれてる。俺はいつか必ず、俺の仲間たちのところに帰る。そしてルイズ、お前との約束もな。だから俺は進む、今からも、これからもな!」

 そう叫ぶと、ダイナはゴーデスへと突撃をかけていった。

 無茶よ! と、ルイズが叫ぶがダイナは止まらない。どんな相手にも逃げずに真っ向勝負で活路を切り開いていくのがダイナの、アスカの持ち味なのだ。どんなに無謀に見えても、こればかりは譲れない!

 急接近してからのウルトラキック。さらに渾身のパンチがゴーデスのボディに突き刺さるが、ゴーデスの巨体は小揺るぎもしない。

「にゃろう、なんて重さだ!」

 これだけ殴ってもこたえない相手は初めてだとダイナは思った。手ごたえはあるけれども、大木の表面を指ではじいているように、まるでダメージが中に通っている気がしないのだ。なぜなら、ゴーデスの重量は三十四万六千トンと、ダイナのなんと七倍以上もあるのだ。これは初代ウルトラマンが持ち上げることさえ不可能だったスカイドンの二十万トンをはるかに超える。それに、ゴーデス自体の耐久力もケタ違いなために、さしものダイナのパワーも通じないというわけなのだ。

 ついでに、いくら効き目がないからといってゴーデスも黙って殴られ続けてくれるはずがない。胴体から生えている触手のうち、特に長い二本の触手をムチのようにふるってダイナを攻撃してきた。

「ヘヤッ!」

 触手の攻撃を腕で受け止めて、ダイナは再度反撃に出た。さっきよりも力を込めてパンチを打ち込み、猛烈なラッシュを繰り出した。

 だが、ゴーデスにはそれでもダメージは見えない。さらに、ゴーデスの眼が赤く光った瞬間、ダイナはなにかに弾き飛ばされたように大きく吹き飛ばされてしまった。

「ノワアアッ!」

「アスカ! 今のって、念力? なんてパワーなのよ」

 魔法にも、念力といって手を触れずに物を動かすものがあるためにすぐにゴーデスが何をやったのかを理解できたが、そのあまりのパワーにルイズが驚愕したように叫んだ。

 やはりこいつは強い。巨体ゆえに鈍重に見えるが、ほかの能力でそれを補ってあまりある実力を持っている。

「でも、それがなんだっていうのよ。アスカのおかげで詠唱の時間は十分にとれたわ、ちょっときついけど今日二回目のフルパワーのエクスプロージョン、受けてみなさい!」

 練り上げられた精神力が魔力の奔流へと変わって解き放たれ、巨大な爆発がゴーデスの頭部を中心にして炸裂した。

「どうよっ!」

 精神力の消費は痛かったが、今のエクスプロージョンにはじゅうぶんすぎるほどの容量を込めた。魔法の扱いにも以前より習熟してきているはずなので、以前ゾンバイユを倒したとき以上の破壊力があるはずだ。

 これが効いていないはずがない。ルイズは確信を込めて煙が晴れるのを待ったが、彼女の期待を打ち砕くようにおどろおどろしい声が響いた。

「無駄だ」

「なっ、んですって」

 なんと、直撃を受けたはずのゴーデスには焦げ痕ひとつ見えなかった。なんで!? ゴーデスはエクスプロージョンに耐えられるほどに頑丈だというのか? いや、まさか。

 ルイズは、自分が導き出した仮説に愕然としたが、それを口にする前にゴーデスの眼がルイズを睨んで再び光った。

「きゃああっ!」

 強力な念力に吹き飛ばされて、ルイズは数十メートルを吹っ飛ばされて地面を転がった。だが、ルイズは衝撃で目がくらみはしたものの、地面がゴーデスが荒らしたおかげで砂漠となっていたために幸い怪我がなく済んだ。皮肉なものだが、それにルイズ自身が小柄で余計なでっぱりがなかったおかげで、転がっても大丈夫だったのだ。

 しかし、ゴーデスはルイズが無事なのを見ると、眼からの破壊光線の狙いをルイズへと定めた。

 あれを受ければ生身のルイズはひとたまりもない。だが、そうはさせじとダイナがゴーデスへと向けて腕を十字に組んで必殺の一撃を放つ!

 

『ソルジェント光線!』

 

 ダイナの十八番、先ほどバランガスも倒した必殺光線がゴーデスの胴に真正面から突き刺さった。

 今度こそどうだ! ゴーデスはルイズを攻撃しようとしていたふいを突かれて完全に無防備でこれを受けてしまっている。並の怪獣なら粉々に粉砕し、よほどに頑丈な怪獣でも倒してきたこの一撃に、ダイナは渾身の気合を込めていた。しかし。

「だめよアスカ! そいつは攻撃のエネルギーを吸収しているわ」

「ヘアッ!?」

 ダイナはルイズの叫びに驚いて見てみると、確かにソルジェント光線はゴーデスの体に当たってはいるものの、まるで砂に水を撒いているように吸い込まれてしまっている。

 光線が効かない! そうか、さっきルイズのエクスプロージョンが通用しなかったのもだからかと、ダイナも合点した。

 ゴーデスは熱や電気をはじめ、あらゆるエネルギーを吸収して我が物にできる力を持っている。火山から出現したのも、地熱のエネルギーを復活に利用するためだったのだ。

「と、ということは、攻撃すればするほど奴にエサをやるようなものだってことかよ」

「わたしのエクスプロージョンも、魔法の力そのものを飲み込まれてしまったんじゃあ効果があるわけないわ。なんてバケモノよ、こんなのどうやって倒せっていうの!」

「いや、打つ手はまだあるぜ!」

 悔しがるルイズに、ダイナは頼もしい声で「俺にまかせろ」とでも言うふうに呼びかけた。

 そして、ダイナは腕を胸の前で交差して精神を集中する。すると、ダイナの額のクリスタルがまばゆい輝きを放ち、ダイナはフラッシュタイプから青い姿のミラクルタイプへとチェンジした。

「そっか、よーしやっちゃえアスカ!」

 ルイズはダイナの狙いを察して歓声をあげた。いくら頑丈な怪獣であろうとも、あれならば。

 ミラクルタイプに変わったダイナに対して、ゴーデスは動じた風もなくじっとダイナを睨みつけている。

「変わった……?」

 ゴーデスにはダイナのタイプチェンジの意味がわからないようだ。が、それならそのほうが都合がいい。ゴーデスはその巨体ゆえに回避行動などはとれないだろうが、有利な要素はひとつでも多いほうがいい。

 ダイナはゴーデスに狙いを定めて、右手にエネルギーを集中させた。オレンジ色の輝きがダイナの手に集まり、ダイナはそのエネルギーを光線に変えてゴーデスに向けて発射した。

 

『レボリュームウェーブ・アタックバージョン!』

 

 着弾場所からマイクロブラックホールを作って相手を吸い込み、消滅させてしまうこの技ならば相手の防御力など関係ない。再生能力を持つギアクーダのような始末に悪い怪獣も倒してきたこの技なら、いくらゴーデスがエネルギーを吸収できるとて異空間に送り込んで処分してしまうことができる。

 ダイナとルイズはこのとき勝利を確信した。しかしそのとき、信じられないことが起こった。

「ヘヤッ!?」

「なっ! 怪獣の死骸を、盾に!」

 なんと、レボリュームウェーブが当たる直前に、ダイナに倒されて横たわっていたバランガスの死骸が宙を飛んでゴーデスの前に立ちはだかり、盾となってしまったのだ。

 さっき使った念力で怪獣の死骸を動かしたのか! いけない、あれでは!

 しかし遅かった。当然、レボリュームウェーブはバランガスの死骸に当たってマイクロブラックホールを作り、バランガスの死骸のみを吸い込んで終わってしまったのだ。

 失敗だ! 健在なゴーデスの姿に、ダイナとルイズははらわたが煮えくり返る思いをしたが、相手のほうが一枚上手であったと認めるしかなかった。

 ゴーデスはレボリュームウェーブを放った直後で隙だらけのダイナに向けて、お返しとばかりに眼からの破壊光線を浴びせてくる。避けることもできずに体から火花を散らせ、ダイナの巨体がよろめき倒れた。

「ウワァッ!」

「アスカ! いけない、これじゃあそろそろ」

 ルイズの危惧はすぐさま現実のものとなった。バランガスからの連戦に加えて、光線技の連発でダイナのカラータイマーが点滅を始めてしまったのだ。

 レボリュームウェーブも不発に終わり、ルイズの精神力も二発のエクスプロージョンで尽きた。対して、ゴーデスにはまだわずかなダメージもない。

 このままじゃやられる。ルイズは、せめてここにサイトがいてくれたらと一瞬思ったが、すぐにその甘えを振り払った。

”だめよ、簡単にサイトをあてにしちゃ! そんなんじゃ、トリステインに戻れてもまた同じ失敗を繰り返すことになるわ。わたしは、ひとりでもできるだけやれることをしなくちゃ”

 ルイズは自分を叱咤して、残り少ない精神力を振り絞ってゴーデスの注意を引こうと小さなエクスプロージョンを連打する。ゴーデスがエネルギーを吸収するのだとしても、今はダイナへの追い討ちを防ぐほうが先決だ。

 だがゴーデスはエクスプロージョンを意に介さず、ダイナへと触手の先を向けると、ダイナを青く輝くエネルギーのドームへと閉じ込めてしまった。

「ヌアァッ」

 ゴーデスのエネルギードームはダイナをすっぽりと包み込み、完全にダイナの動きを封じるだけでなく、ダイナのエネルギーをも急激に消耗させていった。

 カラータイマーの点滅が見る見るうちに早くなり、ダイナの体から力が抜けていく。ダイナはミラクルタイプのテレポーテーションで抜け出そうと試みたが、すでにそれだけのパワーも残されてはいなかった。

「アスカ!」

「ル、ルイズ……うわぁぁぁ!」

 ルイズの叫びもむなしく、ダイナはエネルギードームに閉じ込められたまま、ドームごと縮小されてゴーデスの体へと吸い込まれてしまった。

「アスカ! アスカァーッ!」

 悲鳴のようなルイズの叫びに、もうダイナの答える声はない。対して、勝ち誇るように惑星の大気に響き渡るゴーデスのうなり声。ルイズはその光景をただ見守ることしかできなかった。

 

 ダイナを退けたゴーデスの強大な力は、次に惑星の環境を一変させようとしていた。

 莫大な熱エネルギーを我が物としたゴーデスは、惑星の大気を燃焼させ、星の生命を守るオゾン層を崩壊させようとしている。

 星の大地はゴーデスに呼応するかのように激震し、山は崩れ、木々は倒れ、無数の地割れが走る。

 空は赤く染まり、ルイズはのどを押さえて息苦しさを感じ始めた。小さな星ゆえに、火山の燃焼が酸素を奪いつくそうとしているのだ。

 

 地獄へと転落していく星の有様の中で、ゴーデスだけが悪魔のように巨体を聳え立たせて君臨している。奴は惑星を崩壊させて、星の生命体を全滅させると同時に、惑星が自壊する際のエネルギーを利用して再び外宇宙へと飛び立とうともくろんでいた。

 ルイズには、もちろんそんなゴーデスの目論見などはわからない。だが、このままゴーデスをそのままにしておいてはいけないという使命感がルイズを立たせた。

「まだ、息はできるわね。なら、まだ間に合うってことよね」

 勝算などが頭にあったわけではない。今、戦うことができるのは自分だけだと、自分で自分に言い聞かせていただけだ。

 本心では泣き叫びたい。才人に助けを求めたい。けれど、いつまでもそんな弱い自分でいるわけにはいかない。弱いままの自分じゃ才人を誰かに取られてしまう。お母様がお父様を支配しているように、才人は誰にも渡さない。そして、自分の信じる貴族の誇りと、才人の信じる正義も、ここで譲るわけにはいかない。だからルイズは立つ。

 わたしはあきらめない。見てて、サイト!

「いちかばちか、三発目のエクスプロージョンを食らわせてやるわ。あんたが吸収しきれるか、わたしが燃え尽きるか、最後にきれいな花火をあげようじゃない!」

 女ならまず実行あるべきと、ルイズはもう魔法を使えるような状態ではないにも関わらず、乾ききった井戸の底を掘り返すように呪文を唱え始めた。

 常識的に考えて魔法が成立する可能性すら低い。自爆に終わる可能性がほとんどだ。それでもルイズには、泣き寝入りという選択肢はなかった。

 

 ところが、闘志を込めてゴーデスを見上げるルイズに、ゴーデスは意外にも穏やかな声色で語りかけてきた。

「なぜ、あきらめない?」

「なんですって?」

「一人になって、なぜお前はあきらめない?」

 唐突なゴーデスからの問いかけに、ルイズは思わず問い返してしまった。なぜ、わざわざそんなことを聞くのだ?

「お前はなぜあきらめない? ウルトラマンが倒れ、もはやお前はひとりだ。なのに、なぜ無駄なあがきを続けようとする?」

「どうしてそんなことを聞くの? 余裕でも見せてるつもりなの?」

「……私はどこかでそれを問われたような気がするのだ。いつか、私がまだどこかで存在したときに、私に誰かが問いかけた……お前はひとりだ、たったひとりでお前は生きていけるのかと……」

 ルイズは、それがゴーデスが滅びる前の記憶だと気づいた。本能に従って動いているゴーデスの心のどこかで、その失われた記憶が引っかかっているらしい。

 しかし、まるですがるような声だとルイズは感じた。ゴーデスにはこの星で再生する以前の記憶がない。自分が何者かもわからず、ただ本能に動かされるままに暴れている。それはもしかしたら、とても悲しいことなのではないだろうか。

 呪文を唱えるのをやめて、ルイズはゴーデスと向き合った。体格だけで七十倍もある両者が、同等の眼光で互いを見つめている。ルイズは、ゴーデスの赤い眼を見上げて言った。

「わたしが戦うのは、自分の信念と、なすべき使命があるからよ。それを果たさない限り、わたしは倒れない」

「使命、使命なら私にもある……だが、なぜ私の心はざわめていて収まらない?」

「もちろん、わたしの戦う理由はそれだけじゃないわ。わたしが戦うのは、何よりもわたしの仲間のためよ。わたしが倒れたら、あんたはわたしの仲間も滅ぼそうとするでしょう、だからわたしはあきらめない!」

「仲間? 仲間とはウルトラマンのことか? ならば、お前が戦う必要などはない。見るがいい」

 ゴーデスがそう言うと、空にゴーデスに吸収されたダイナの様子がスクリーンのように投影された。

「アスカ!」

 ルイズの見上げる前でダイナは戦っていた。ゴーデスの体内で小人のように縮小され、エネルギードームに閉じ込められたままでありながらも、必死に拳を振るい、蹴りを繰り出して戦っている。

 しかし、ダイナの攻撃は対象を掴んではいなかった。パンチもキックもすべて宙を切り、まるでダイナが独り相撲をしているようにしか見えない。

 いったいダイナは何と戦っているの? ルイズの疑問に、ゴーデスは答えた。

「奴は、私の中で、奴の記憶から生み出した過去の戦いの幻影に襲われている。しかし、幻影は幻影、いくら抗っても自分が傷つくだけだ」

「なんですって! アスカ気づいて! あんたが戦ってるのは幻なのよ。このままじゃ、幻影に取り殺されてしまうわ」

 もちろんルイズの声はダイナには届かない。その間にも、ダイナはかつて戦ってきた怪獣や宇宙人の幻影に襲われ続けていた。

「くそっ、どうなってやがるんだ。ナルチス星人にバゾフにマリキュラにトロンガーに、お前たちはみんな俺が倒したはずだぜ!」

 いくら否定しても、ダイナの眼にはかつて倒した敵が化けて出たようにしか映らなかった。そして、襲ってくるのならばダイナも反射的に反撃しなければならない。だが、幻影に向かっていくら反撃しても無駄なことはゴーデスが言ったとおりだ。

 このままではすぐにダイナは力尽きてしまう。それをあざ笑うかのようにゴーデスはルイズに告げた。

「さあ、お前もあきらめて私と一体となるがいい。そしてすべての宇宙がひとつになれば、もう仲間を思う必要もない。素晴らしい世界が待っているぞ」

「……バカね。ゴーデス、あなたはわたしが見てきた中でも一番のバカ。いえ、哀れと言ったほうがいいかしら」

「なんだと」

 ゴーデスの誘惑を真っ向からルイズは撥ね退けた。そして、真っ直ぐにゴーデスを睨みつけて言い返す。

「すべての宇宙をひとつにする? すべてがひとつになったら、それは結局ひとりぼっちってことよ。誰かを思うこともできないってことは、怒ることも憎むこともできないってこと。もちろん誰かを愛することもできない。そんなの道端の石ころと同じよ。そんなのが素晴らしい世界だなんて、笑わせるわ!」

「むうぅぅぅ。だが! お前たちはこうしてバラバラでいるがために苦しみ続けているではないか。ひとつになることを拒むなら、ちっぽけな弱い存在のままでいることも苦痛ではないのか」

「そうね、確かにわたしたちは弱い。苦痛も孤独も数え切れないほどあるわ。けどねゴーデス、それでもあんたの言うすべてがひとつになった世界より、絶対に素晴らしいものが確実にひとつあるわ」

「それは、なんだというのだ?」

 いつの間にか、ルイズの言葉がゴーデスを圧倒していた。ゴーデスはルイズの言葉に、すべてがひとつになったあとの”無”の世界を想像して動揺している。

 すべてが自分と一体化した世界。それは確かにパーフェクトな世界ではあろう。だが、人は孤独には耐えられるが、それは絶対的なひとりぼっちというわけではない。たとえ深山にこもっている仙人だとて、日の出と夕暮れを見て、風を感じ、鳥のさえずりを聞いて心を動かすことで自分を認識し、生きている。ゴーデスの世界では何も見えず、何も聞こえず、何も感じられない。

 そんな世界で生きていても、なにになるというのだ? ゴーデスの心に、ひとつの言葉が蘇ってくる。

『全宇宙を吸収すれば、お前はひとりだ。友達すらいない世界で、たったひとりで生きていけるのか?』

 ゴーデスは言い返すことができなかった。そして今、ルイズはゴーデスに対して、自分自身の答えを叩き付けた。

「あんたなんかに頼らなくたって、わたしたちはひとつになることができる。体が別々でも、互いを思いあえば心はつながることができる。思いあえる人がいれば、孤独はないわ」

「なにをたわ言を!」

「だったらわたしを見てみなさい! わたしは今たったひとりよ。けど絶対にあんたには屈しない。サイトなら、わたしが絶対にあきらめないって信じてくれているから、この場にいなくたってわたしは勇気をもらえる。ウルトラマンだってそうよ。あんたの中で傷つきながらもひとりで戦い続けてる。それはダイナにも、遠くで帰りを待っている仲間がいるからよ」

 ルイズはアスカから、地球に想い人を残してきてしまっていることを聞いたことがある。けれど、アスカはつらそうな様子を見せたことは一度もない。ルイズが、才人と離れ離れになって胸が締め付けられるような思いをしているというのに、なぜそんなにも平然としていられるのかと尋ねると、彼はこう言ったのだ。

「だって、俺がしょんぼりしてたらリョウの奴にどやされるからな。それに、リョウだけじゃない。俺の仲間たちは俺がいなくなった後でも、俺のことを忘れずに今でも戦い続けてるに決まってる。俺があいつらならきっとそうする。みんなの心が、遠く離れていたって俺にはわかるんだ。だから俺は寂しくないし辛くもない。いつか帰る日が来るまで、どれだけ長くたって旅をしていけるんだ」

 アスカの言葉に、ルイズは自分を恥じた。たとえ自分がいなくなっても、才人やみんなが足を止めるわけがない。落ち込んでいる自分を見たら、才人になんて言われるか。

 遠く離れることが別れではない。心を感じることができれば、距離など無関係だとルイズは叫んだ。

「ゴーデス! あんたに教えてあげるわ。いっしょにいるだけがすべてじゃない。本当に思う気持ちがあれば、どんなに離れていたって心は届くのよ。いえむしろ、遠く離れればこそ大切な人の想いを知ることもできる。そこに孤独なんてない。ゴーデス、あなたにはそんな仲間がいるの? いないから力での統一を望むんでしょう。だけどそれじゃあ、あんたの望む世界なんて永遠に来ないわ!」

 ルイズの告げた言葉に、ゴーデスは苦しむようなうめき声をあげてもだえはじめた。

 ゴーデスには知恵がある、理性がある。だからこそ、ルイズの問いかけに答えを出すことができなくて苦しんでいるのだ。

 声にならない声をあげて苦しむゴーデス。その動揺に共振しているように、大地の震えは高まり、空には無数の雷鳴と稲光がひらめく。奴が自分の能力のコントロールを失いかけているのだ。

 そしてゴーデスの動揺の影響は、奴の体内に捕らわれているダイナにも及んだ。

「なんだ、急に体が軽くなったぞ。それに、怪獣たちはどこへ? そうか、あれはみんな幻だったのか! きっとルイズがなにかやってくれたんだな。ようし、いまだ!」

 拘束から解放されたダイナは、残りのパワーを振り絞ってゴーデスの体内で一気に巨大化を試みた。

 体内での質量の膨大な膨れ上がりには、いくらエネルギーを無尽蔵に吸収するゴーデスの肉体とて耐えられない。ゴーデスの巨体が震え、全身から炎が噴出したかと思われた次の瞬間、ゴーデスは一瞬のうちに大爆発を起こして微塵に砕け散ったのだ。

 そして、飛び散るゴーデスの破片の中から雄雄しく飛び立つウルトラマンダイナの雄姿。

「や、やった。ゴーデスを、倒したんだわ」

 ゴーデスは粉々の塵となり、風の中に消滅していく。どんな攻撃も効かないゴーデスを倒せる唯一の方法は、奴の体内から破壊することだったのだ。

 戦いを終えて、飛び去っていくダイナ。星の環境もゴーデスの干渉がなくなったおかげで沈静化へと向かい、星はなんとか崩壊寸前で救われることができた。

 

 

 平和を取り戻した名もなき星。激戦が嘘だったかのような静けさにあたりが包まれる中で、変身を解いたアスカはルイズからゴーデスと会話したことを聞いていた。

「そうか、あのゴーデスの奴がそんなことを……ともかく、ルイズがゴーデスの気を散らしてくれたおかげでなんとか脱出できたぜ。ありがとよ」

「わたしはわたしの信念をしゃべっただけよ。でも、ゴーデスの奴も、なんというか、哀れな奴だったかもしれないわね」

「そうだな……」

 アスカは足元に散らばっていた、ゴーデスの灰の最後の一掴みを手のひらに掬い上げて見つめた。

 ゴーデスがどこで、どうして生まれたのかはわからない。しかし、奴にとって唯一の生きる目的が、最後には自分自身をも破滅させてしまう道であることを知らずにきたとしたら、それほど虚しいことはないだろう。

「ゴーデスに同情してるの?」

「さあなあ……けど、正しいことだって一心不乱にやってきたことが実は大間違いだったなんてこと、よくあるんじゃないのか。俺にも、お前にもさ」

「ええ、わかるわ」

 ルイズは苦笑交じりにうなづいた。貴族の義務を唯一無二と信じ込んでいた頃の自分は、形は違えどゴーデスと重なるものがある。アスカだって、しゃにむに突貫するばかりで失敗を重ねたことが幾度もあった。

 人は、間違いと知りながら罪を犯す場合と、しっぺ返しを喰らうまで間違いと気づかない場合の二つがある。前者は完全に自業自得だが、後者を体験したことのない人間など存在しないだろう。

 若いうち、人間はその手のバカをよくやる。自我が未成熟なうちは、怪しげな思想にかぶれたり、奇天烈な言動や行動を恥ずかしげもなくとるが、やがて自分の愚かさに気づいて目を覚ます。目覚められなかったものに待つのは、自滅の道だけだ。

「ゴーデスは、仲間が自分にいないことにうろたえていたわ。自分の間違いを誰にも言い当ててもらえなかったから、ああなちゃったのかもね」

「かもな、けど、戸惑っていたってことは自分のやっていることに迷いができたってことだろ。だったら、希望があるかもしれないじゃないか」

「え?」

「ゴーデスが完全に死んだとは限らねえ。あいつはまたどっかで蘇るかもしれねえ。だったら、次に生き返るときが悪党でもいい。次の次に生き返るときも悪党だっていいさ。けど、その度に少しずつ迷って考えていって、いつかはいい奴になって生まれ変われればいいじゃねえか。俺たちウルトラマンは、何度だって付き合ってやるからさ」

 そう言って、アスカは手のひらの上の灰をふっと吹き飛ばした。灰は風に乗って舞い散り、ゴーデスの痕跡は完全に消えてなくなった。

 ルイズは思う。ゴーデス、その存在は邪悪そのものであったが、奴との戦いで学んだものは大きかった。どんなに邪悪で強大であろうとも、生命である以上、他者の存在なくしては生きていくことはできない。

 今は安らかに眠りなさいと、ルイズはゴーデスの冥福を祈った。またどこかで会い、戦う日が来たならば、そのときはまた全力で相手をしてやろう。迷いとは、変革の兆しであるのだから。

 そして、ルイズとアスカの旅立ちの時が、また訪れたのだ。

「さあて、この星での俺たちの役割も終わりだな。行こうぜルイズ、また次の宇宙へな!」

「違うでしょ! わたしが行きたいのはハルケギニアだけよ。っとに、ほんとにいつかハルケギニアに戻れるんでしょうね。このまま五年も十年も連れまわされて、やっと戻ったときはおばあさんになってたなんてことになったらどう責任とってくれるのかしら!」

「心配すんな。俺のカンじゃ次あたりにハルケギニアのある宇宙にたどり着けるはずさ。まあ行こうぜ、俺たちの戦いはこれからだ!」

「その台詞を何回聞いたと思ってるのよ! バカアスカぁぁぁーっ!」

 ついにキレたルイズの失敗魔法で吹っ飛ばされていくアスカの悲鳴が、悲しく青い空に吸い込まれて消えていった。

 

 ルイズとアスカの旅が、これからどれだけ続くかはわからない。しかし、二人が歩みを止めることはないだろう。なぜなら、ゴールは駆け抜けた先にだけ存在するものなのだから。

 確かなのは、この日、宇宙のはずれの名もない星がふたりの活躍で救われた。荒らされた環境は、星自体の再生力と住民の努力で蘇っていくだろう。そして、宇宙のはずれの小さなオアシスが、旅人たちをこれからも癒していくことだろう。

 

 

 しかし、悪の手が迫るハルケギニアに残された時間はもう少ない。急げルイズよ、故郷は君の帰りを待っている。

 

 

 続く


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