ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第23話  無限と光の旅立ち!!

 第23話

 無限と光の旅立ち!!

 

 ウルトラの父

 ゾフィー

 ウルトラマンタロウ

 ウルトラマンメビウス

 ウルトラマンヒカリ 登場!

 

 

 双月も山影に沈み、しんしんと、優しい闇が学院を包んでいた。

 フリッグの舞踏会は、魔法学院始まって以来例を見ない盛り上がりのうちに幕を下ろした。

 

 踊り疲れて、草原に人々が倒れ伏したとき、オルフィの歌も終わり、チンペもパンドラに迎えられて母親も元へと戻っていった。

 そのとき、あのベアトリスがパンドラに向かって深く頭を下げていたのは、彼女を見る大勢の人の目を別のものに変えていた。

 

 そうして、パンドラとオルフィは、再び草原の土を掘り返すと、地底の怪獣の世界へと帰っていき、大勢の人々が「またこいよー」と手を振って見送った。

 

 ガラキングとバンゴはといえば、こっそり隠れて変身したエースによって、まずはバンゴの体に大量の特殊ガスが吹き込まれて、まるで本物の風船のようにまあるくされた。するとガラキングは長年追い求めた恋人を見つけたかのように、大喜びで飛びつこうとしたが、エースはバンゴのボールをサッカー選手のようにタンタンとリフティングしてかわし、そして大空のかなたへ向かって思いっきりシュート!! お星様になっていくバンゴを追って球形に変形したガラキングもまた、エースに蹴り飛ばされて、お騒がせな二大怪獣は宇宙のかなたへ飛んでいった。

「またこいよー」

「こいつらは来なくていい!!」

 散々追い回されて、疲労の極致に追い込まれたマリコルヌが怒鳴っていた。

 

 そして、すべてが収まり、草原に静けさが戻ると、エースも夜空を見上げ、満天の星空へと飛び立っていった。

 

「ショワッチ!!」

 

 エースも夜空に消えてゆくと、皆はそれぞれのいる場所へと帰っていった。

 多分、また明日からは貴族と平民、従える者と従えられる者の関係が始まるのだろう。

 しかし、この日この時、身分も人種も性別も、国籍も、人間と怪獣でさえ共に過ごした時間があったことは、確かに彼らの胸に刻まれたに違いない。

 

 

 才人とルイズは、床に入る前に、星明りだけが部屋を照らすなか、互いに相手のシルエットのみを見ながら語り合っていた。

「楽しかったな」

「まあね、国のお父様やお母様が聞いたら怒るだろうけど、こんなに踊ったのは生まれてはじめてよ」

 社交のためのダンスではなく、相手と楽しむための踊りなど、子供のころ以来だったと、ルイズの声にも自然と懐かしさがにじみ出ていた。

 まあ、口に出せば、どこが子供のころと成長したんだと言われそうだから、そこのところは言わなかった。同時に、またいっしょに踊りたいとも言い出せなかった。

「それに、今回は一匹も倒さないですんで良かった。あいつらも、無事に帰れればいいな」

 才人は、パンドラとオルフィが、今度は誰にも邪魔されずに平和に過ごせることを祈った。

「あんたは、帰りたくないの?」

「え?」

 ルイズがぽつりと言った言葉を、才人はうまく聞き取れなかった。

「あんたは、元の世界に帰りたくないの? ここに来て、もうすぐ二ヶ月になるわ、元の世界に帰る方法を探そうとは思ってないの」

 それはまったく、唐突で衝撃的な質問だった。

 そうか、ここに来てもう二ヶ月か……望郷の思いが才人の胸をよぎり、思わず部屋の隅に大切に保管してある、この世界に召喚されたときにいっしょに持ってきたノートパソコンを取り出した。

「そりゃ、日本には母さんも父さんもいるし、学校もある。こいつでネットもしたかったし、照り焼きバーガーもずいぶん食ってない」

 ほこりを払って、黒々としたノートパソコンの画面を見ながら才人は言った。まだ使えるだろうが、バッテリーの量がギリギリなので電源を落としたまま、長いこと起動させていない。

「じゃあ、やっぱり帰りたいんだ」

「ああ、帰りたい。ろくなもんじゃなかったかもしれないが、大事な俺の居場所だったからな」

 暗がりで、お互い表情のわからないままふたりの会話は続いた。

「じゃあ、なんで帰る方法を探そうとしないの?」

 ルイズは、思い切って才人にそう尋ねた。それほど故郷を思いながらも、帰る努力をまったくしていないことが、彼女には理解できなかったからだが、才人の答えはルイズの予想を超えていた。

「実は、あてがひとつあるんだ」

「えっ!?」

 思わず驚きの声がルイズからもれた。

 実は、才人には内緒にしていたが、ルイズは暇を見て学院の図書室にこもり、サモン・サーヴァントで呼ばれた使い魔を帰還させる方法がないか、調べていたのだ。だが、そうした手立ては何一つ見つからなかったのに、いったいどういう手があるというのか。

「ウルトラマンダイナの話を聞いた後に思いついたんだが、この世界と違う世界が無数にあるなら、この世界から直接地球に帰れなくても、地球につながっている世界に入れれば、そこから地球に帰れるかもしれない」

「あなたの世界とつながっている世界って、まさか」

「そう、ヤプールの異次元世界さ。あいつは、ハルケギニアを征服した後、地球も攻めると言っていた。だったら、あの異次元世界は地球とハルケギニアを結ぶことができるってことだ。これから、どうなるかはわからないけど、ヤプールとの決戦は異次元空間に乗り込んでやることになるだろう。俺が帰るチャンスがあるとしたら、そのときだ」

 それは、ルイズには想像もつかなかった方法であった。皮肉なことだが、今この世界を侵略しようとしている敵の存在が、才人を元の世界に戻す唯一の希望となっているとは。

「だから、当分はお前の使い魔をやりながら、ヤプールと戦っていくつもりさ。もうしばらくよろしく頼むぜ」

「……」

 ルイズは答えることができなかった。

 才人が元の世界に帰る方法が見つかったのはいい。そのために、ヤプールと戦ってくれるのもいいだろう。しかし、いつの日か、ヤプールを倒すことができた日には、それが才人との別れということになる。

 当然才人もそれはわかっているだろう。しかし、そのとき才人は自分を捨てて、さっさと元の世界に帰っていってしまうのだろうか。

 使い魔だからと引き止めることはできる。しかし、才人にも自分と同じように家族もいれば帰る家もある。それから無理に引き離す権利が自分にあるのか、ルイズの心は散々に乱れた。

 

 

 

 しかし、才人の元いた世界では、ふたりの思いをも超えて、事態は大きく動き出そうとしていた。

 

 青く輝く美しい星、地球。

 そこからはるか三百万光年離れた宇宙にウルトラ戦士達の故郷、M78星雲、ウルトラの星はある。

 ここは、通称光の国と呼ばれ、全宇宙の平和をつかさどる宇宙警備隊が、日々星々の平和を守るために働いているのだ。

 美しく整えられた超近代都市には、人工太陽プラズマスパークから常に光が送られ、夜がやってくることはない。

 その中央、ウルトラタワーで今、宇宙警備隊大隊長ウルトラの父が、宇宙警備隊隊長ゾフィーからの報告を受けていた。

「それでは、エースの行方はまだわからんというのか?」

「はい、四方手を尽くしているのですが、いまだ手がかりらしきものはなにも……」

「そうか、エースのことだ、無事でいるとは思うが」

 ウルトラの父は心配そうな声でそう言った。

 今から一ヶ月半ほど前に、地球近辺のパトロールについていたエースが突然消息を絶った。そのことを受けて、ゾフィーは宇宙に散っているウルトラ兄弟達の力も借りて、あちこちの星々を捜索していたが、エースの行方はいっこうに掴めていなかったのだ。

 また、ゾフィーにはもうひとつ気がかりなことがあった。

「それに、エースが消息を絶つ寸前に送ってきたウルトラサインも気になります。『ヤプールの復活のきざしを見つけた』と、それが確かだとすれば、由々しき事態です」

「うむ、ヤプールの復活は全宇宙にとって極めて危険だ。しかし、それらしい兆候は発見できていない」

「ヤプールのことを一番知っているのはエースです。間違うとは思えません」

 ゾフィーはエースへの信頼を込めて、父にそう言った。

「そうだな。ヤプールのことだ、またどんな恐ろしい方法で襲ってくるかわからん、エースはその一端を掴んだのだろう。ゾフィーよ、こうなってはもう猶予はない。一刻も早くエースを探し出し、ヤプールの復活を阻止せねば、ようやくエンペラ星人の脅威から解放された宇宙がまた闇に閉ざされることになりかねんぞ」

「はい、ですが現状、我々に打つ手は……」

 苦しげに言うゾフィーに、しかしウルトラの父は力強く道を示した。

「ゾフィーよ、希望は地球にある」

「地球に!?」

「そうだ、エースが消息を絶ったのは太陽系の近辺だ。ならば地球人達は何か掴んでいるかもしれん。それに、異次元研究に関しては、彼らは我等の一歩先をいっている。地球人達の力を借りて、必ずこの事態を解決するのだ」

「はい、ウルトラの父!」

 胸を張って答えたゾフィーに、ウルトラの父は大きくうなづいた。

 

 そして、ゾフィーの召集指令を受けて、ウルトラタワーに若き戦士が呼び寄せられた。

「お呼びですか、ゾフィー兄さん」

「メビウス、よく来たな」

 彼こそは、若い身体に純粋な心と正義の意思を秘めたウルトラ兄弟十番目の戦士、ウルトラマンメビウスである。

「さっそくだが、エースのことはお前も承知しているな。地球近辺で消息を絶ってから、もうすぐ二ヶ月になる。しかも、その寸前にエースはヤプールの復活を知らせてきている」

「はい、ヤプールとは僕も戦いましたが、奴は本当に恐ろしい相手でした」

 メビウスの胸に、地球でヤプールと戦ったときの思い出が蘇ってきた。

 四人の宇宙人を操り、究極超獣Uキラーザウルス・ネオとなって兄弟達とともに神戸で戦ったときは、ゾフィー兄さんとタロウ兄さんが駆けつけなくては四兄弟ごと全滅していたかもしれない。

 さらにその後も、赤い雨とともに復活し、バキシムを操ってGUYSの全滅を計ったり、ドラゴリー、ベロクロンと次々に強力な超獣を送り込んできた。

 ようやくGUYSの新兵器、ディメンショナル・ディゾルバーで異次元ごと封印することに成功したのもつかの間、エンペラ星人の率いる四天王の一人となって三度復活、卑劣な戦いを挑んできた。それでも仲間達との思いを受けて立ち上がり、直接対決の末にメビュームバーストで今度こそ葬ったはずなのだが。

「奴はマイナスエネルギーの集合体、完全に抹消することはできない。恐らくはまた力を蓄えて我らウルトラ兄弟、そして地球への復讐を狙っているに違いない。メビウス、地球へゆけ、そして地球人達と力をあわせ、ヤプールの復活を阻止するのだ」

「地球へ!? わかりました、必ずヤプールの企みを食い止めてみせます。そして、必ずエース兄さんを探し出してきます」

「うむ、頼むぞ」

 元気よく答えたメビウスを、ゾフィーは頼もしそうに見つめた。

 だがそのとき、旅立とうとしたメビウスをひとつの声が押しとどめた。

「待て、メビウス」

「! ウルトラマンヒカリ」

 そこに現れたのは、青き体を持つウルトラの若き勇者、ウルトラマンヒカリであった。

「ゾフィー、地球へは私も共に行こう」

「ヒカリ」

「あのエースまでが消息を絶つ事態だ。しかも相手はあのヤプールという、一人では危険だ、用心はしすぎることはない。それに、調査であれば私の科学者としての知識が役に立てるかもしれん」

 ウルトラマンヒカリは、今は宇宙警備隊員であるが、元は高名な科学者としてウルトラの星でも知られた人物だった。ゾフィーのものと同じく、大きな功績を残した者にのみ与えられる勲章、胸のスターマークがその証拠だ。

 ゾフィーは一度に二人もウルトラの星を離れることを危惧したが、ヒカリの言うとおり、一人で動いてはエースの二の舞になる可能性がある。それに、ヒカリの能力も確かにこの任務にはうってつけだ。

「わかった、ヒカリ、君にも頼もう。しかし、充分用心するのだ、何かあったらすぐにウルトラサインで知らせろ。この任務は、正直何が起こるかはわからん」

「了解した。では、よろしく頼むぞメビウス」

「こちらこそ、お願いします。ウルトラマンヒカリ!」

 メビウスとヒカリは、固く握手をかわした。

「よし、それでは行くのだ!!」

「はいっ!!」

 二人の若き勇者は、M78星雲の空へと飛び立った。

 目指すは、かけがえのない星、地球。

 

(頼むぞ、ふたりとも)

 ゾフィーは二人を見えなくなるまで見送った。

 そして、二人が空のかなたに消えたとき、ゾフィーの背後から、聞きなれた声が聞こえた。

「行きましたね。弟達が」

 そこには、今ウルトラの国にいるひとりのウルトラ兄弟、今は宇宙警備隊の筆頭教官として働いている、ウルトラ兄弟六番目の戦士、ウルトラマンタロウの姿があった。

「うむ、あの二人なら、きっと使命を果たしてくれるだろう」

「そうですね。彼らはもう立派なウルトラの戦士ですから」

 タロウは、いまやはるかな空にいるであろう、かつての教え子、メビウスに心の中でエールを送った。

 宇宙警備隊のルーキーであったメビウスが、地球に派遣されていったときのことは、まだ昨日のことのように思い出せる。最初のころはウルトラの星から冷や冷やしながら見ていたものだが、戦う度に強くなる彼の成長の速さには驚いたものだ。

 特に、エンペラ星人の尖兵、インペライザーが来襲したときには、命令に背いてまで地球に残り、遂には自分のウルトラダイナマイトでさえ倒せなかったインペライザーを倒してしまった。しかも、その後はウルトラマンであることを知られながら、なおも仲間として地球人とともに戦い続けるという、兄弟達の誰一人としてできなかったことをやりとげてしまった。

「しかしタロウ、これは嵐の前の静けさかもしれん。お前も心しておけ、もしかしたら、エンペラ星人にも匹敵するかもしれない脅威の前触れかもしれん」

「はい」

 タロウは、ゾフィーの言葉に黙ってうなづいた。

 ヤプールの恐ろしさは、タロウも身をもって知っている。かつてタロウが地球の守りについていた時代、エースに倒されてわずか一年も経たないというのにヤプールは復活をとげ、改造ベムスターを始めとする怪獣軍団でタロウに戦いを挑んできた。その威力はものすごく、タロウも一度は手も足も出ずに敗退を余儀なくされたが、勇敢な地球の青年やZATの助けもあって、二度目は怪獣軍団ごとヤプールを再び撃破している。

 ゾフィーは、確信にも似た予感を感じていた。ヤプールは、復活の度に怨念を蓄えて強力になっていく、一度はエンペラ星人配下の邪将に成り下がったが、エンペラ星人亡き今、独自に動き出すことは間違いない。

 

「宇宙に散ったウルトラの戦士達よ。新たなる戦いの日は近い、心せよ!」

 ゾフィーは全宇宙に散らばったウルトラの兄弟をはじめとする戦士達にウルトラサインを送った。

 それは宇宙の闇を裂き、ウルトラマン、セブン、ジャック、レオ、アストラ、80、さらなる戦士達の元へと飛んでいく。

 

「タロウ、我々もこうしてはおれんぞ」

「はい、ゾフィー兄さん」

 ゾフィーには宇宙警備隊隊長として、タロウにも次の世代を担う戦士達を育てる教官としての任務が残っている。

 旅立った弟達に未来を任せ、二人はそれぞれの戦いの場へと戻っていった。

 

 

 だが、ウルトラの父、そしてゾフィーの予感は、不幸にも的中していた。

 地球を目指すメビウスとヒカリの姿は、ヤプールの監視の目に掛かっていたのだ。

「動き出したかウルトラ兄弟、だが邪魔はさせぬぞ。今度こそ、貴様らと地球人どもに復讐を果たしてくれる」

 ようやく平穏を取り戻した地球にも、再び嵐が訪れようとしていた。

 

 

 続く


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