ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

205 / 338
第7話  ハルケギニア大陥没! (後編)

 第7話

 ハルケギニア大陥没! (後編)

 

 暗黒星人 シャプレー星人

 核怪獣 ギラドラス 登場!

 

 

 エレオノールのキャンプで、一行はささやかなもてなしを受けていた。

「まさか、こんなところまで私のためなんかに来てくれるとは思わなかったわ。さあさ、なんにもないところだけどくつろいでちょうだい」

「あ、はいどうもです」

 才人やギーシュがなかば唖然とした顔をして、まだ熱い紅茶を音を立ててすする。ほこりっぽい空気の中に芳醇な香りが流れ、一行が、出された茶菓子に口をつけると、甘く気品のある味が口内に広がった。

 それは、まるで昼下がりの貴族の休日のような優雅な雰囲気……だが、一行は誰一人としてそれを楽しむでもなく、拍子抜けしたようにテントを囲んでいた。

 いや、実際かなり拍子抜けしていた。まるごと地面の底に沈んでしまった火竜山脈に登ったという、エレオノールらしき女性の安否を確かめるためにやってきたのだが、ほとんど岩石砂漠になってしまったここにいたのでは、いくら彼女が優秀なメイジでも無事でいるのは難しかろうとある程度覚悟をしていた。

 それなのに、いざ苦労して見つけ出してみると、エレオノールはまったくの無傷であった。しかも、機嫌がいいのか妙に態度が優しくて、いつもの男勝りで厳しい姿を見慣れていたギーシュたちは、小声でヒソヒソと話し合っていた。

「おい、ミス・エレオノールどうしたんだ? やっぱり岩で頭でも打ったのかね」

「うーん、学院に最初にやってきたときはあんなもんだったが、結局素を隠せなかったしなあ。もしかして、ついに婚約が決まったとか」

「いや、百歩譲ってもソレはないと思うが」

 失礼を通り越して叩き殺されても文句を言えないようなことをギーシュたちはささやきあっていたが、ある意味では無理からぬ話である。エレオノールの猫かむり、というか貴族が対外的に態度を使い分けるのは当然のことだとしても、なぜそれを今さら自分たちに見せる必要があるのだろうか? エレオノールと仲がいいルクシャナなどは露骨に不快な顔をしている。からかっているのか? しかし怖くて誰も言い出せなかったところで、妹のルイズが思い切って言い出した。

「お姉さま、もてなしはこれくらいでいいですから教えてくださいませんか? なぜこんなところにいらしていたんですか? お姉さまほどの人物が、単なる地質調査のためなんかに派遣されるわけがないでしょう」

 皆は心中でルイズに礼を言った。この異様な空気から逃れられるのはなによりありがたい。

 エレオノールは、紅茶のカップを置くとおもむろに話し始めた。

「みんな、ここ最近ハルケギニアの各地で起こっている異変を知っているかしら?」

「異変、ですか? まさか、ここ以外でも!」

「そうよ。今、ここだけじゃなくトリステインを含むあちこちで異常な地震や陥没が頻発しているの。最初は辺境の山岳地帯や、無人の森林地帯が一夜にして消えてなくなって、鈍い領主はそれでも気に止めてなかったんだけど、とうとう村や城まで沈み始めて慌ててアカデミーに調査依頼が来たというわけなの」

 そうだったのか……一行は、知らないところですでにそんな大事件が起こっていたのかと、のんきに旅行気分で東方号に乗ってる場合じゃなかったと思った。思い出してみれば、東方号がトリステインを出発する時にエレオノールがいなかったのは、このためであったのか。

 つまり、火竜山脈にやってきたのも偶然ではないのかと尋ねると、エレオノールは首を縦に振った。

「無闇に発表するとパニックが起こるから王政府の意思で伏せられているけど、今、魔法アカデミーの総力をあげて原因究明がおこなわれているわ。国外にも多くの学者やメイジが派遣されて、私は火竜山脈担当だったというわけ。まさか、調査中に自分が被害に会うとは思わなかったけどね」

「それは、大変でございましたね。それで、山が沈む原因は解明できたのですか?」

 核心への質問がおこなわれると、エレオノールは一呼吸をおいて指で足元を指して言った。

「ええ、一応の仮説は立てていたけど、ここに来て確信が持てたわ。原因は、地下深くに埋蔵されている風石が一気に消失したことによる地盤沈下よ」

「風石ですって!? ですが、火竜山脈にはそれほど規模の大きい風石鉱山はないのが常識ではなかったですか?」

「人間が通常に採掘できる鉱脈はごく浅いところだけよ。知られていないけど、さらに地下数百メイル下には膨大な量の鉱脈が眠っているわ。それこそ、ハルケギニアの地面を埋め尽くすくらいにね」

 まさか……と、ルイズは足元を見た。そんなこと、どんな授業でも習わなかったが、それが本当だとすれば、自分たちの住んでいるハルケギニアは巨大な風石の海の上に浮いている浮き島のようなものだということになる。地下水の汲み上げすぎでも、時には地上が歪むほどの地盤沈下をもたらすことがあるんだから、それほどの鉱脈が消失したとしたら。

「つまり、地下の風石がなくなったから、上の岩盤も支えを失って……」

「そう、まずは重量のある山岳地帯が陥没を始めたという事よ」

 一行は呆然として、ふだんなにげなく踏みしめている地面を見つめた。よく見ると、石や砂に混ざって風石の欠片がキラキラと光っている。それこそ説明されるまでもなく、この山脈の地底にあった大量の風石の残骸に違いなかった。

 そして恐ろしい真相は、さらに恐ろしい未来図を連想させた。

「ちょ! その風石の鉱脈はハルケギニア全体に広がっていると言いましたよね。じゃ、いずれは」

「ええ、遠くない将来に……ハルケギニアは丸ごと陥没して、地の底に沈んでしまうでしょうね」

 音のない激震が全員の中を駆け巡った。ハルケギニアが沈む? そんなバカなと否定したいが、今日自分たちがその目で見てきた事実がそれを動かしようもなく肯定していた。火竜山脈が平地と化してしまうような変動が人里を襲ったとしたら、そこにあるのはもはや災害というレベルではすまされない。

 ハルケギニアが沈む。つまり、自分たちの故郷トリステインにあるトリスタニアの街並みも、魔法学院やひとりひとりの家々も何もかも残さず大地に飲み込まれて消滅する。むろん、ガリアやゲルマニアも同じように壊滅し、アルビオンを除いてハルケギニアは人の存在した痕跡すらない岩石ばかりの荒野と化してしまうのだ。

 ルイズはここにティファニアを連れてこないでよかったと思った。こんなとんでもない話を聞かせたら、あの子なら卒倒していたかもしれない。というよりも、こんな事実が公になったらハルケギニアは破滅的なパニックに包まれてしまうに違いない。

 だが、なぜその風石の鉱脈が消失したかと尋ねると、エレオノールは「それは私にもまだわからないのよ」と、言葉を濁した。

 けれども、才人はここで事件のピースが組みあがっていくのを感じた。

「そうか、町の子供たちが見かけたギラ、いや怪獣は地下の風石鉱脈を食べていたんだ」

「なんですって! 今、なんと言ったの」

 才人はエレオノールに、怪獣が地下に潜るのが目撃されていたことを伝えた。すると、エレオノールは明らかに動揺した様子を見せて言った。

「そ、そう、怪獣を見た人がねえ。でも、子供が見た事だっていうし、見間違いじゃないの?」

「何人もが目撃してますし、その後に恐ろしい叫び声を聞いたという話もありました。なにより、こんなとんでもない事件を引き起こせるのは怪獣でもなければ無理だと思います」

 才人はぴしゃりと言ってのけた。ほかの面々も、これまでに何度も怪獣の起こす怪事件と向き合ってきただけに、才人の言うことが妥当だろうとうなづいている。

「そ、そう……」

 なのに、同等の経験を持つはずのエレオノールだけが納得していない様子で、才人ら一部はどことなく違和感を感じた。

 アカデミーでデスクワークをしているうちに勘が鈍ったのか? いや、男性がついていけないくらいに何事にも積極的なエレオノールに限ってそれはない。ならば、なにが……?

 どことなく居心地の悪い沈黙が場を包んだ。喉に魚の骨が刺さったままのような、吐き出したいけどできない不快な感触。

 しかしルイズはそんな悪い空気を吹き払うように陽気な様子で言った。

「もうみんな、なにをそんなに疑った顔をしてるの? エレオノール姉さまはトリステイン一高名な学者でわたしの自慢の姉さまなのよ。変な目で見たりしたら、このわたしが許さないんだから」

「お、おいルイズ?」

 これには才人たち、ほとんどの者が面食らった。エレオノールもだが、ルイズも変になったのか? が、ルイズが凄い目で睨んでくるため言い出すことができないでいると、エレオノールがルイズに話しかけた。

「まあルイズ、あなたはなんて素晴らしい妹なのかしら。私はあなたを誇りに思うわ!」

「妹が姉の誇りを守るのは当然のことですわ。それよりも、わたしたちもお手伝いいたします。これだけの人数がいるのですわ、お姉さまの下で手分けして捜せば、たとえ相手が地の底に潜んでいても兆候は見つけられるでしょう。相手も、いずれは地上に出てこなければいけなくなるでしょうから、正体を見極めて通報すれば軍が討伐隊を出してくれますわ」

「そ、そうね。さすがは私の妹だわ。そうしましょう」

「はい、お姉さま。あら、しゃべったら喉が渇いてしまいました。すみませんが、お茶をもう一杯いただけませんか?」

「ええ、もちろんいいわよ」

 エレオノールがティーポッドを持ち、ルイズのカップに紅茶を注いだ。湯気があがり、カップに口をつけたルイズの顔が白く隠れる。その湯気の影から、薄く開いたとび色の瞳が才人に向けられて、彼ははっとした。

 そうか、なるほどルイズそういうことか。ついていけずに呆然としている一行の中で唯一才人だけがなにかを理解した目で、それを悟られないように伏せていた。他の者は、多かれ少なかれ何かを腹の内に持っていても、はばかってそれを口にすることをためらって、じっとルイズたちの動向を見守っていた。

 

 

 結果、一行は数人ずつに分かれて火竜山脈跡を探索することになった。

「よし、各員散って周辺の探索に当たれ。ただし、三時間後に何もなくてもここに戻っていろ。暗くなる前に山を下りないと危ない」

「なにかを見つけた場合の合図はどうしますか?」

「信号用の煙玉を各自持ってるだろう? 扱いは火をつけるだけの簡単な奴だからこれを使えばいい。では、全員散れ!」

 ミシェルの号令で、一行はそれぞれバラバラの方向へとクモの子を散らすように飛び出していった。

 編成は、基本は銃士隊と水精霊騎士隊がひとりずつ組んで、どの組にも必ずメイジが一人はいるようになっていた。ただし、才人とルイズは例外で、エレオノールと組んで三人で探索に出ることになった。

 散り散りになって岩の荒野の底に潜む怪獣を求めていく戦士たち。先日の金属生命体のときと違い、仲間も武器もない追い詰められた状態ながらも、自分たちの故郷がこの荒野と同じになるかという瀬戸際なのだ。手段が限られていても気合の入りようが違う。

「くっそお、人の足の下でこそこそしてるシロアリ野郎め。頭を出したらぶっ叩いてやる」

 ハルケギニアの屋台骨をこれ以上食い荒らされてはたまったものではない。しかし、相手がそれほど深い地底を自由に動けるというのなら先住魔法でも探知はまず不可能で、砂漠で蟻の巣を探すような無謀な行為でしかないと誰もが思うだろう。しかも、彼らにはそれとは別に心の内に引っかかっていることがあった。

”まさか、まさかだが、あの人はひょっとしたら……? 万一そうだとしたら、自分たちはとんでもないミスを犯したのではないだろうか”

 誰もが胸の奥から鳴り響いてくる警鐘に、多かれ少なかれ悩まされていた。しかし、思ってはいても口に出せない事柄というものは存在する。裸の王様がいい例ではあるが、言い出しそこねたという後悔の念は時間が過ぎていくにつれて強くなっていった。

 火竜山脈跡は平坦になったとはいえ、家ほどもある岩石がゴロゴロしていて、少し離れると別の組の姿はすぐに見えなくなった。岩の間には風が流れて反響しあい、声を出しても遠くに響く前にかき消されてしまう。これでは、もしなにか起きたとしても誰にも気づかれないのではないだろうか? 本能的にそんな不安が胸中をよぎり、ミシェルと同行していたルクシャナがぽつりと言った。

「ねえ、あなた。わたしたち、こんなことしてていいのかしらね?」

「どういう意味だ?」

「とぼけないでよ。あなただって当に感ずいてるんでしょう? わたしだって、言えるものならさっき言い出したかったんだけど、確証もなしにそんなことを言ったら不和と疑心暗鬼を招くことくらいわたしだって承知してるわ。なにより、言い出して外れてたとき、大恥をかくのはわたしなのよ!」

 一気にまくしたてたルクシャナの顔には、不満といらだちが満ち溢れていた。学者の彼女にとって、言いたいことを飲み込まなくてはならない我慢がどれだけ耐え難いものかは、短からず彼女と付き合ってきたミシェルには十分理解できた。

「気持ちはわかる。わたしとて、途中から少なからぬ疑惑を抱いてはいた。しかし、確たる証拠もなしに友人を侮辱するような真似はできない。あるいは、それを計算していたとしたら相当悪質ではあるな」

「わかってる割には落ち着いてるじゃない。もしかしたら、袋のネズミにされてるのはこっちかもしれないのよ? よくまあ平然とした顔でいられるわね。ほんとにわかってるの? 今、一番危ないのは、あんたの惚れた男なのよ」

「恥ずかしいことを大声で言うな。わかっているさ、そしてわたしやお前にわかっていることなら、大方あのふたりもとっくにわかっているはずだ。必ずやってくれるさ、あいつらならな」

 ミシェルはそれで話を打ち切った。ルクシャナは呆れた顔で、「あんなとぼけた顔のぼうやのどこがいいのかしらねえ? まあアリィーもそんなに差があるわけじゃないかな」と、あきらめたようにつぶやいていた。

 彼女たちの胸中を悩ます不安要素。それは放置すれば、ガン細胞のように取り返しのつかないことになるのはわかっていたが、誰にも手術に踏み切る物的証拠がなかった。

 

 ただし、一方でそうは思っていない者たちもいた。エレオノールに着いていった、才人とルイズのふたりがそれである。

 

 三人は、ほかの一行と分かれた後で、特に当てもなく前へ進んでいた。ギラドラスがどこに出現するかは予知できないので、エレオノールの土メイジとしての直感と、目と耳だけが頼りのあてずっぽうである。と、表向きはなっていた。

 歩くこと数十分、もう他の組とは大きく距離を離れ、なにかがあったとしても他の組が駆けつけてくるには十分以上はかかってしまうであろう。そこを、エレオノールを先頭に三人は歩いていたが、ふいにルイズが話し掛けた。

「ねえ、エレオノールおねえさま、どうしてさっきから黙ってらっしゃるんですか? いつもなら、貴族としてのありさまがどうとか、歩きながらでもお説教なさるくせに」

「そ、それは、あなたも立ち振る舞いが優雅になってきたから必要ないと思ったからよ。う、うん! 立派になったわね」

 明らかに動揺していた。ルイズは、口だけは「ありがとうございます。お姉さまにお褒めいただけるなんてうれしいですわ」などと陽気に言っているけども、目だけはまったく笑っていなかった。

「ところで、この間のお手紙に書いてあった、新しいご婚約者の方とはうまくいってますの?」

「え、ええ! それはもちろんよ。待っててね、結婚式には必ず招待するからね」

 にこやかにエレオノールは言い、ルイズと才人は笑い返した。

 しかしこの瞬間、ふたりは最後の決意を固めていた。エレオノールの視線が外れると、ふたりは目配せしあって懐に手を入れた。

 

 やがて、もうしばらく進むと、ひときわ大きな岩が壁のように聳え立っている場所に出た。

「これはまた、でかい岩だな」

 高さはざっと十メートルほど。それが垂直にそびえ立っていて、少しくらい運動ができる程度で乗り越えられるものではなかった。魔法が使えれば楽に飛び越えられるが、虚無一辺倒でコモンマジックも十全に扱えないルイズにはフライも使えないし、テレポートをこんなことのために乱用するのはもったいなさすぎた。

 すると、エレオノールが岩の上にひらりと飛び乗った。

「あなたたちは飛べないのよね。さあ、引っ張り上げてあげるからロープを掴みなさい」

 岩の上から下ろされたロープが才人とルイズの前でゆらゆらと揺れる。その頂上ではエレオノールがにこやかな顔をしながら二人がロープを掴むのを待っていた。

 しかし、ふたりはどちらもロープに手を伸ばすことはせずにエレオノールを見上げると、ルイズが強い口調で言い放った。

 

「そして、引き上げかけたところでロープを離せば、まずは邪魔者ふたりを始末できるというわけかしら? ニセモノさん!」

「なっ、なに!」

 

 エレオノールの顔が驚愕に歪んだ。そしてふたりは追い討ちをかけるように言い放つ。

「バーカ、とっくの昔にバレてるんだよ。まんまと騙せてると思って、演技してるお前の姿はお笑いだったぜ!」

「エレオノールおねえさまに婚約者なんてできるわけないのよ。ボロが出るのを恐れて話を合わせたのが運のつきだったわね」

「おっ、おのれえっ。騙したなあっ!」

 逆上した顔だけは本物にそっくりだなとルイズは笑った。が、猿芝居に付き合ってやるのもここまでだ。

「さあ、とっとと正体を現したらどう? 地下の怪獣を操ってるのもあんたなんでしょう!」

「人間の分際で、バカにしやがって! いいだろう。こんな窮屈な姿はこれまでだ!」

 そう吐き捨てると、エレオノールのニセモノは懐から銀色をした金属製のプレートのようなものを取り出して左胸に当てた。

 瞬間、白煙が足元から吹き上がって姿を隠す。そして煙の中から全身が金と銀色の怪人が現れた。

「俺様は、暗黒星雲の使者、シャプレー星人だ!」

 ついに本性を表したニセエレオノール。その正体は、本物とは似ても似つかない銀のマスクののっぺらぼうであった。

 暗黒星人シャプレー星人。その記録は才人の知るドキュメントUGにもあり、当時は地質学者の助手に化けて暗躍し、地球のウルトニウムを強奪しようとしていた、宇宙の姑息なこそ泥だ。

「やっぱりお前だったかシャプレー星人! ハルケギニア中の風石を奪ってどうするつもりだ!」

 才人が怒鳴ると、シャプレー星人は肩を揺らしながら答えた。

「フハハハハ! 貴様ら人間どもはそんなこともわからんのか。貴様らが風石と呼ぶ、この鉱石は宇宙でも極めて珍しいくらいに、反重力エネルギーを大量に蓄積した代物だ。人間どもはおろかにも、これほどの資源を風船のようにしか使えておらんが、効率よく加工精錬すれば強大なエネルギー資源になりうるのだ。それこそ、兵器利用のために欲しがる宇宙人はいくらでもいるわ!」

「風石を、侵略兵器に悪用しようっていうのか。ゆるさねぇ! それもヤプールの差し金か?」

「フン! ヤプールはいまごろボロボロになった自分の戦力のことで手一杯だろうよ。俺は最初から、あんなやつの下っ端で働くなんてまっぴらだったんだ。風石をいただくだけいただいて残りカスになったら、こーんな最低な星にはなんの未練もないわ」

 なるほど、つまりヤプールの支配力が衰えた隙を狙って動き出した雇われ星人ということかと才人は察した。ヤプールは、独自の配下として複数の宇宙人を従えているものの、それだけでは限りがあるので、直接的に隷属させてはいないがかなりの宇宙人に声をかけ、誘惑して利用しているのは前からわかっていた。

 しかし、いったんヤプールの支配が弱まってしまえば、無法者たちは一気に好き勝手に暴れだす。

「どうりで、前に地球に現れた奴に比べたら頭が悪いと思ったぜ」

「なに!? そうか、お前がヤプールの言っていた地球から来た小僧か。これはちょうどいい、一番の邪魔者がのこのこ自分からやってきてくれるとはな。まずはお前から血祭りにあげてやる」

 開き直ったかと才人は思った。やはり同族の宇宙人といえども、性格はメフィラス星人の例にもあるとおり差はあるようだ。地球に現れた個体は計算高く、偶然が味方してくれなければ正体を突き止めることすら難しかったくらい周到に暗躍していたが、こいつはヤプールの口車に乗るだけあって浅慮で詰めの甘いところが目立った。

 こんなやつがエレオノールお姉さまに化けてたなんて。決して仲がいいとは言える姉ではなくとも、ルイズも忌々しそうに言った。

「ハイエナのくせに偉そうにしてくれるじゃない。よくもエレオノールお姉さまの顔を騙ってくれたわね。本物のお姉さまはどうしたの?」

「別にどうもしないさ。トリステインで、学者どもが飛び回っているといったろう? あれは嘘でもなんでもない。当然、本物も毎日のようにあちらこちらを飛び回ってどこにいるかわからん。つまり、同じ人間がふたりいても、まず気づかれはしないということさ」

「お姉さまの多忙さを利用したってわけね。確かに、それなら本物が忙しく飛び回ってくれてたほうがニセモノも大手を振って歩き回れるわけ。なるほど、本物のエレオノールお姉さまが聞いたら激怒するでしょうけど、そうやって人々の目を欺きながら自由に怪獣を操っていたのね。ハルケギニアから盗み出した風石は返してもらうわよ!」

 するとシャプレー星人は愉快そうに笑った。

「ハハハ! 残念だったなあ。すでに地下の風石の半分以上はこの星の外に運び出しているのだ。いまごろ気づいたところで取り返せやしないんだよ。ざまあみろ!」

「なんですって! それじゃあ、ハルケギニアの地殻は!」

「今のところはかろうじて安定しているが、それも時間の問題だな。あと少し採掘すれば、地殻は一気に崩壊し、少なくとも大陸全土がこの山のように沈んでしまうのは間違いないなあ」

 才人とルイズは戦慄した。ハルケギニアが根こそぎ地の底へと沈んでしまう? 絶対に、これ以上の採掘は阻止しなくてはならない。ルイズは杖をシャプレー星人に向けて言い放った。

「エレオノールお姉さまを侮辱してくれた報いは妹の私がくれてやるわ。悪いけど、優しくしてもらえると思わないでね」

「チィ、まさか妹がやってくるとは想定外だったぜ。しかし、俺の変身は完璧だったはず、どこで気づいた?」

「ふっ、確かに姿だけは完璧だったわ。でもね、あんたは内面のリサーチが足りてないのよ。おしとやかなエレオノールお姉さまなんて菜食主義のドラゴンみたいなものよ。そして、あんたは決定的なミスを犯したわ。それは……」

 そこでルイズは一呼吸起き、思いっきり胸をそらして得意げに言った。

 

「本物のエレオノールお姉さまはねぇ、絶対わたしにお茶なんか出してくれないのよ! あっはっはっはっは! ん? サイト、なんでコケてんのよ?」

「虐待されとることを自慢すな、アホッ!」

 

 まさにあの姉にしてこの妹ありだった。神経の太さは並ではないと、才人はずっコケながらほとほと思うのである。よりにもよってエレオノールに化けたのが本当に運のつき、この規格外れの姉妹にそう簡単に入り込めるはずがない。

 シャプレー星人は唖然とし、次いで激怒して叫んだ。

「貴様ふざけやがって! 覚悟しろ!」

「覚悟するのはあんたのほうよ! あんたを倒して大陥没を止める」

「ここで死ぬ貴様らには無理だ!」

 シャプレー星人は光線銃を取り出して、才人たちも迎え撃つべく武器をとる。

 交差するシャプレーガンとガッツブラスターの光弾。しかし双方とも発射と同時にその場を飛びのき、外れた弾が岩に当たって火花を散らした。

「外れた!?」

「避けおったか、しゃらくさい!」

 どちらも銃撃を連射するが、十メートルもある岩盤の上と下なので当たりずらい。だが、ならば互角かといえば、才人のほうはエネルギーの関係で実弾練習がほとんどできなかっただけ分が悪い。

 しかも、シャプレー星人は光線銃だけでなく、草食昆虫のような口を開いて、そこからも光弾を放ってきたのだ。

「ちくしょう! 手数が違いすぎる」

 雨あられと降り注ぐ光弾に、才人は避けるだけで精一杯だった。シャプレー星人はさらに調子に乗り、池のカエルに石を投げるように銃撃を加えた。

「ウワッハッハッハ、逃げろ逃げろ、虫けらめ! ヌ? ヌワァッ!」

 突如、爆発が起こってシャプレー星人を吹き飛ばした。半身を焦がした星人の目に映ったのは、杖の先をまっすぐに向けて睨みつけてくるルイズだった。

「サイトにばかり気をとられてるからよ。まだエクスプロージョンを撃てるほど回復してないけど、あんたに町や村を壊された人たちの痛みを少しは知りなさい」

 不完全版エクスプロージョンの威力は必殺とはいかなかったが、不意をつくには十分だった。なにせ、なにもないところが突然爆発するのだから回避は大変難しい。シャプレー星人は、この星のメイジが使う魔法は系統はどうあれ、おおむね飛んでくるものとばかり思い込んでいたから、銃を持っている才人を先に狙ってルイズを後回しにと判断したのが見事に裏目に出た。

 才人も体勢を立て直して、ガッツブラスターからエネルギー切れのパックを取り出して新品を装填した。

「ナイスだぜルイズ! よーし、あいつの弱点は目だ。目を狙え」

「目ってどこよ!?」

 とのやり取りがありながらも、星人の鎧を着込んでいるような体はよく打撃に耐えた。しかし、体は耐えられてもダメージを受けたシャプレー星人は逃げられない。

「お、おのれぇ。ならば、また貴様の姉の姿になってやる。これで攻撃できまい」

「あんたバカぁ? むしろ日ごろの恨み!」

 ニセモノだとわかっているから、遠慮会釈のない爆裂の嵐が吹き荒れる。そのときのルイズの気持ちよさそうな顔ときたら、いったいどれだけ恨みつらみが重なってるんだよと才人が心配するほどであった。

 変身を維持できなくなってボロボロのシャプレー星人に、才人は介錯とばかりに銃口を向けた。

「これでとどめだ!」

「まっ、待て。お前の、影を見……」

「その手品は種が割れてんだよ! くたばりやがれ!」

 悪あがきも通じず、銃撃と爆発が同時に叩き込まれた。その複合攻撃の威力には、さしものシャプレー星人の頑丈な体も耐えられず、星人は炎上しながら岸壁を墜落していった。

「くっそぉぉーっ! 俺がこんなやつらに。ギラドラース! 俺の恨みぉぉぉ!」

 地面にぶつかり、シャプレー星人は四散した。

 だが、星人の断末魔と共に大地が激震し、地底から凶暴な叫び声が響いてくる。

「出てきやがるぞ。あとは、こいつさえ倒せばハルケギニアは沈まずに助かる! ルイズ」

「ええ、仕上げにいきましょう」

「ウルトラ・ターッチ!!」

 岩の嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAが大地に降り立った。

 続いて、猛烈な地震を伴いながら、赤く輝く角を振りかざして核怪獣ギラドラスが地底から現れた。

 

【挿絵表示】

 

 来たな! エースは前方百メートルほどに出現したギラドラスへ向かって構えをとった。四足獣型の体格でありながら前足のない独特のスタイル。黒色のヤスリのようなザラザラした肌、背中にも明滅する赤い結晶体。間違いなく奴だ。

 睨みあうエースとギラドラス。両者の巨体とギラドラスの叫び声が、遠方にいる仲間たちも呼んだ。

「ウルトラマンだ! 怪獣と戦ってるぞ」

「あっちはサイトたちが行った方向じゃないか。よし、助けにいこう」

 全員がいっせいに同じ方向へと急いだ。全部のペアにメイジが含まれているので、フライの魔法を使って飛ぶ速さは岩だらけの中を走るより断然速い。

 しかし、彼らが才人たちのもとへ急ごうと飛び立って間もなく、ギラドラスが空に向かって大きく吼えた。次いで角と背中の結晶体が強く発光すると、突如として暴風が吹き荒れて、降るはずのない雪が猛烈な吹雪となって荒れ狂いはじめた。

「うわあっ! なんだ急に天気が!」

「吹き飛ばされる! みんな、下りて岩陰に避難するんだ」

 ブリザードが周囲を覆い、エースとギラドラス以外は身動きがとれない状況になってしまった。

 この異常気象、もちろん自然のものではない。才人はすでに、ギラドラスの仕業に気づいていた。

〔あいつは天候を自由に操る能力があるんだ。くそ、あんなのをほっておいたら沈まなくてもハルケギニアはめちゃめちゃにされてしまうぞ!〕

 聞きしに勝る強烈さ、ギラドラスは地底に潜れば地震に陥没、地上に出てくれば大嵐を引き起こす、災害の塊のような奴なのだ。こんなぶっそうな怪獣をほっておいたら、寒波、豪雪、干ばつ、台風、人間の住める世界ではなくなる。なんとしても、こいつはここで倒さなくてはいけない。

「シュワッ!」

 吹雪の中で、エースはギラドラスに挑みかかっていく。キックがギラドラスのあごを打ち、噛み付いてきたところをかわして脳天にチョップからの連続攻撃を当てていく。

〔こないだのときと違って、体力はいっぱいよ。ぜったい負けやしないんだから〕

〔だけど、この寒さじゃ長くはもたないぞ。それに、下のみんなが凍死しちまう!〕

〔ええ、不利になる前に一気に決めたほうがよさそうね〕

 ウルトラ戦士は強靭な肉体を持つが寒さには弱い。猛吹雪の中、太陽光もさえぎられたここは最悪のフィールドだといえる。過去、エースも雪男超獣フブギララや雪だるま超獣スノギランとの戦いでは寒さに苦しめられている。いくらエネルギー満タンの状態でも、長期戦には耐えられないのはエースも当然承知していた。

〔悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぞ!〕

 苦い経験を何回も繰り返すつもりはない。エースはギラドラスの背中に馬乗りになり、パンチを連打してダメージを蓄積させていった。

 が、ギラドラスも黙ってやられるつもりはむろんない。太く長い尻尾を振るってエースを振り落とし、雄たけびをあげて頭から体当たりを仕掛けてきた。

「ヘヤアッ!」

 エースはギラドラスの突進に対して、とっさに敵の頭の角を掴むと、突進の勢いをそのまま利用して投げを打った。

 巨体が一瞬浮き上がり、次の瞬間ギラドラスは背中から雪をかむった岩の中に叩きつけられる。

〔どうだっ!〕

 こいつは効いたはずだ。才人も混じって受けた水精霊騎士隊の格闘訓練での、銃士隊員のひとりから投げ技を受けたときには、呼吸ができなくなって本当に死ぬかと思った。ルイズも昔、いたずらしたおしおきでカリーヌに竜巻で空に舞い上げられて落とされた痛みが、寒気といっしょに蘇ってきた。

 案の定、ギラドラスは大きなダメージを受けてもだえている。しかし、なおも角を光らせて天候を荒れ狂わせて攻めてきた。吹雪がさらに強烈になり、エースの体が霜に染まって凍りつき始めた。

〔ぐううっ! なんて寒さだ〕

 すでに気温は氷点下数十度と下がっているだろう。それに加えて台風並の強風が、あらゆるものから熱を奪っていく。

 エースはまだ耐えられる。しかし、ろくな防寒装備もない下の人間たちはとても耐えられない。

「ギ、ギーシュ、ま、まぶたが凍って開か、な……」

「レイナール! 目を開けろ。寝たら死ぬぞぉ!」

「ミ、ミス・ルクシャナ、もっと風を防げないのか?」

「無茶言わないでよ副長さん! わたしだって必死にやってるのよ。今、この大気の防壁の外に出たら、あっという間に氷の彫像になっちゃうわよ」

 もうほとんどの者が手足の感覚がなかった。あと数分もすれば凍傷が始まって、やがては低体温症で死にいたる。

 

 もはや、一刻の猶予もない! エースは自身も白く染まっていく身に残った力を振り絞り、ギラドラスへ最後の攻撃を仕掛けていった。

 

「ヌオオオオォォォォッ!!」

 体当たりと噛み付きを仕掛けてくるギラドラスの攻撃をいなし、首元に一撃を加えて動きを止める。

〔いまだ!〕

 チャンスはこの一瞬! エースはギラドラスの腹の下から巨体を持ち上げる。高々と頭上に掲げ、全力で空へと投げ捨てた。

「テヤァァァッ!」

 放り投げられ、空高く昇っていくギラドラス。エースはありったけのエネルギーを光に変えて、L字に組んだ腕から解き放った。

 

『メタリウム光線!』

 

 光芒が直撃し、膨大な熱量はギラドラスの肉体そのものをも蒸発させ、瞬時に千の破片へと爆砕させた。

 閃光と、それに続いて真っ赤な炎が天を焦がす。爆音にギラドラスの断末魔が混じっていたか、それもわからないほどの衝撃波が大地をなでて積雪を吹き飛ばしていくと、次の瞬間、空一面を青い幻想的な輝きが覆った。

「おおっ」

「すごい、きれい……」

 空一面に、星のように小さな無数の光が舞っていた。皆は、寒さに凍えていたことも忘れてその光景に心を奪われた。青と銀色のコントラストはどこまでも美しく透き通っていて、まるでオーロラを砕いて散りばめたようである。

 いったい、この空を覆う星雲のような輝きはなんなのか? エースにもわからないが、邪悪な気は感じないので見つめていると、ルクシャナがはっとしたように叫んだ。

「これ、風石だわ! 風石のかけらなのよ!」

 そう、ギラドラスが体内に蓄えていた大量の風石が、爆発のショックで細かな破片となって飛散したのが、この光景の正体だった。

 風石は精霊の力が形となったといわれているだけあって、いつまでも舞い降りてくることなく空にあり続け、やがて自然界の秩序を守る精霊の意思を受け継いでいるかのように次なる奇跡を起こした。ギラドラスの巻き起こした嵐の雲に、風石の破片雲が接触すると、まるで悪の力を相殺するかのように黒雲を消し去ってしまったのである。

「おお! 嵐がやんでいくぜ」

「あったかくなってきたわ。これで凍死しないですむわよ。やったあ!」

 天候が急速に回復していき、皆から喜びの声があふれた。いまだ空は虫の群れに覆われており、本物の空は見えなくても一応の平穏が戻った。

 風石の見せてくれた神秘の力。しかしこれも、元を辿ればハルケギニアの自然が長い年月をかけて作り出したものなのだ。決して宇宙人のいいようにされていいものではない。資源を欲にまかせて掘り返し続けて、大地を枯らせてしまった後には何も残りはしないのだ。

 シャプレー星人の邪悪な陰謀は打ち砕かれた。エースは空へと飛び立ち、風と共に戦いは終結を告げる。

「ショワッチ!」

 これで、ハルケギニアの土地がこれ以上沈降することはないはずだ。火竜山脈はもう元には戻らないが、ギリギリ被害を最小限に抑えられたと思っていいだろう。

 才人とルイズは皆と合流すると、事の顛末をまとめて報告した。

「なるほど、やっぱりあのミス・エレオノールはニセモノだったのか。しかし、我々も怪しいとは思ったが、あまりにも怪しすぎて手を出せなかった。まんまと罠にはめるとは、さすがだなルイズは」

「うふふ、まあねえ」

 ほめられて、鼻高々なルイズであった。才人は、まあ少し呆れながらも、今回はルイズの功績が大だったので、文句も言わずに見守っている。

「まったく、褒められるとすーぐ頭に乗るんだからなあ。けど、今回はルイズを敵に回すと恐ろしいってのがよくわかったよ。シャプレー星人も化けた相手が悪かったとはいえ、ちょっと同情するぜ」

「聞こえてるわよサイト。でもま、今日は気分がいいから大目にみてあげるわ。でも、ヤプールが眠っていても安心できるわけじゃないってのもわかったわね」

「ああ、これから先もなにが起こるか、油断は禁物だな」

 ヤプールの統率を離れて勝手に動く宇宙人もいる。災いの芽は、どこに隠れているかわからない。

 

 そう、地球に勝るとも劣らない美しいこの星は、常に狙われているのだ。

 いかなる理由があろうとも、侵略は絶対に許されない。しかし、平和は黙っていても守れるものではない。強い意志で、痛みに耐えてでも悪と戦いぬいてやっと維持できる危うく儚いものだということを忘れたとき、人々の幸せは簡単に踏みにじられてしまう。

 今回の事件は、そのことを思い出すいい機会だった。なにせ、誰もあって当たり前と思っていた地面をなくそうとしていた敵まで現れたのだ。侵略者は、人間のありとあらゆる油断をついて攻めてくる。絶対に安全なんてものはないんだということを、みんながあらためて思い知った。

 

 そして、今この世界は何者かの手によって闇に閉ざされ、滅びの道を歩んでいる。ハルケギニアに住む者として、この脅威を見過ごすことは断じてできない。

「さあ、これでこの事件は片付いたわ。町に帰りましょう、きっとテファが心配してるわよ」

「おおーっ!」

 思わぬ足止めを食ったが、もう大丈夫だ。町の人たちも、早く帰って安心させてあげないといけない。

 一行は、意気揚々と町への帰路についた。

 が、彼らの心はすでにここにはない。前途をふさいでいた難題が解消した今、行くべき道はひとつしかないのだ。

「今日はゆっくり休んで、明日には国境を越えましょう。幸い、山越えはしないですむみたいだしね」

 異変の元凶がある南の地。そこになにが待ち受けているとしても、引き返すという選択肢は誰の心にもない。

 目指すロマリアは、もはや目前へと迫っている。

 そこで待つ運命の指針は、まだ正義にも悪にも、振れることを決めかねているようであった。

 

 

 続く

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。