ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第2話  闇に包まれたハルケギニア

 第2話

 闇に包まれたハルケギニア

 

 超古代竜 メルバ

 破滅魔虫 ドビシ 登場!

 

 

〔いくぞ、怪獣!〕

 噴煙と溶岩をたぎらせる火竜山脈の上空で、ウルトラマンAと超古代竜メルバが激突して火花が散った。

 空中衝突で大気がはじかれ、衝撃波が噴煙を吹き飛ばし、山肌を揺るがす。その威力にはじかれたのは本人たちも同じで、ウルトラマンAは空中で体勢を立て直すと、きりもみから持ち直して旋回してくるメルバを見据えた。

〔やるな、てごわいぞ〕

 翼竜型の怪獣の例に漏れず、この怪獣は空中戦にはかなりの自信を持っているようだとエースは判断した。翼の皮膜をいっぱいに広げて、巨体からは似つかわしくないほど小さい旋回半径で進路をこちらに向けてくる。

 こいつは、今まで自分たちのいた地球には出現したことのない怪獣だと才人は判断した。ドキュメントSSSPからUGMまでと、アウト・オブ・ドキュメントまですべての怪獣の姿と名前を記憶しているが、一致するものはおろか類似するシルエットを持つものすら一体もいない。

 これが何を意味するかということは、このハルケギニアの特有の生物か、または別の世界からやってきたものだということのいずれであるにせよ、能力を先読みして戦うことが出来ないということだ。戦闘において、果し合いにせよスポーツ競技にあるにせよ、情報の有無によって有利不利は大きく変わる。

 さらに、未知の敵に対する緊張感。敵がどんな武器を持っているかわからないとなると、普通は警戒して本来の力を満足に発揮できなくなるが、彼らは違う。

〔エース頼むぜ! あのふざけた怪獣をぶっとばしてくれ。なにか企んでるようだったら、すぐ教えるからさ〕

〔そうよ。わたしたちの巡礼を邪魔してくれたむくい、始祖に代わって天罰を下してやるわ。平和を乱す奴は、絶対に許さない!〕

 ひとりではなく、共に戦う友がいる。応援してくれる誰かがいる。それが、勇気という力になるからこそ、ウルトラマンはどんな強大な相手にも立ち向かっていけるのだ。

 

〔空中戦なら、こちらも負けはしない。来い!〕

 

 エースは真っ向からメルバの挑戦を受けてたった。重力下での空中戦ならば、エースにも小さくない経験がある。

「ヘヤァッ!」

 向かってくるメルバと、エースの肉体が衝突してその度に雷鳴のような轟音が鳴る。強靭無比なウルトラ戦士のボディは、それだけで強力な武器へと変わる。初代ウルトラマンは空中体当たりでガマクジラとスカイドンを撃破し、ウルトラセブンはアイスラッガーさえ跳ね返すクレージーゴンの装甲を、自らを弾頭と化すステップショット戦法で撃破しているが、これらはウルトラ戦士の有する鋼の肉体があってこそ可能となる芸当だ。つまり、空中でウルトラマンと戦うことは、自在に飛び回る砲弾を相手にするのに等しいのだ。

 が、メルバも翼を持つ怪獣としてプライドがあるのか、エースを相手に一歩も引かずに、強力な武器になっているくちばしと鎌状になっている腕を振りかざして向かってくる。その威力は、まともに受ければエースといえども無事ですむとは思えない。

〔だが、翼があるからといって空中戦で有利だとは限らないことを教えてやる!〕

 エースの空中タックルがメルバに命中し、メルバはその特徴的な模様の腹に強烈な一撃を受けてのけぞった。

 どうだ! だがメルバはこれでもたいしたダメージを受けたようには見えずに、失速から体勢を立て直そうとしている。

 華奢な外見に似合わず、なかなかタフな奴だとエースと才人たちは感心した。実際、メルバの同族は高速飛行中に打ち落とされて、地上に激突させられてもたいしたダメージは受けなかった程度のタフネスさを備えている。かといって、相手も高速で動く空中戦で、うかつに隙の大きくなる光線技は使えない。

 つまりは、どちらかが弱って地上に落ちるか、大技を避けようもないほど動きが鈍るまでは肉弾戦しかないということだ。

「テェーイッ!」

 空中すれ違いざまのウルトラチョップが炸裂し、メルバの反撃のくちばしの突きがエースの首筋をかすめていく。

 

 超音速の、それも超ヘビー級の空中戦は戦闘機や騎竜での空戦などとは比較にならないほどの圧倒感をまわりに振りまく。

 生半可な動体視力ではマッハで飛び回る両者を捉えることすらままならず、なかば呆然とすることしかできない。

 

 だが、この戦いのギャラリーは、のんびりと戦いを見物だけしているわけにはいかなかった。

 炎上、撃墜寸前のところをエースに救われた東方号では、クルー総出で消火復旧作業がおこなわれていた。

「ウルトラマンAが怪獣を引きつけてくれている今のうちだ。みんな、がんばってくれ。ただし、決してムリをするな」

 船内にコルベールの、軍人では絶対に出てこないであろう気遣いのこもった声が響くと、彼の生徒たちは顔を見合わせて笑った。コルベールはつねづね、自分は艦長ではなく船長だと言っている。今ではコルベールの軍人嫌いは誰もが知るところで、生徒たちを部下として扱わねばならなくなる艦長となることを嫌がったからだと、周りの人間は察しをつけていた。

 ただし、コルベールの非凡な才能は誰もが認めている。東方号の建造をはじめ、ゼロ戦や、ヤプールの残した異世界のテクノロジーの理解についてのアカデミーでの研究成果などは彼によるところがあまりにも大きく、直接名を連ねてはいないがアカデミーでも高い評価を得ている。

 今回も、正規の空軍軍人を抑えてコルベールが船長に指名されたのは、いざというときに東方号をどうにかできるのが彼しかいないからであった。むろん、軍人たちは歯噛みしたが、逆にこの超巨大戦艦の艦長が自分に務まるかとなると、大半の者が尻込みするありさまだった。

 しかし、コルベールにとっては、たとえ自身の生涯最高の傑作といえど、生徒たちの生命には代えられないと思っていた。

「無理に火に立ち向かおうとするな! たとえ炎から離れていても、熱風は肌を焼くし煙は息をつまらせる。火の魔法の授業で習ったことを思い出すんだ」

 コルベール自身も火の系統のメイジである。炎の恐ろしさを説く口調には鬼気迫るものがあった。

 また、銃士隊もアニエスの指揮のもとで、船内を所狭しと駆け回っていた。新規のクルーを叱咤し、手が足りないところを手伝って、そのあいまにパニックになっている巡礼の貴族や神官を、有無を言わさずに装甲区画に『避難』と『保護』の名目で叩き込んだ。このあたりの冷徹さは、彼女たちが生粋の軍人ゆえだといえる。

 アニエスを頂点に、各小隊指揮官が連携し、円滑に進むように副長ミシェルがサポートする。その動きは、まるで完成された一個の機械のようで、軍人嫌いのコルベールも、なかなかのものだなと感心していた。

 船内で奮闘するコルベールの教え子とアニエスの部下たち。かつて、日本が最新科学の粋を集めて作り上げた船の中を女子供と魔法が駆け回るとは誰が想像したろうか、まったく運命というものは不可思議に満ちている。けれども、彼らの努力は何者にも否定できないとしても、東方号が受けた物理的なダメージは別のものだった。

「一番と四番のプロペラの動きが悪いな。たぶん、蒸気管のどこかがやられたんだろう」

「速度が半減してきてます。直せませんか?」

「直したいが今は無理だ。せめて、安全な空まで離れることができれば、止めて修理できるのだが」

 コルベールが、今にも止まりそうに息をつく左右のエンジンひとつずつを交互に見つめてつぶやいた。やはり、むき出しの水蒸気機関は東方号にとって最大のウィークポイントになる。宇宙人の円盤から流用した反重力装置だけでも、航行はできなくはないが、速度は大幅に削られてしまっている。

「今の東方号では足手まといにしかならん。一刻も早く、この空域から離脱するんだ」

 火竜山脈のど真ん中では不時着もできない。ウルトラマンAにはすまないが、コルベールは乗員の安全を優先するために苦渋の決断を下した。

 

 だが、かつて古代文明を滅ぼした、邪悪な超古代怪獣は逃げ去ろうとする獲物に対して目ざとかった。エースとの空中戦に集中しているかと思いきや、東方号が遠ざかっていくと、まるで頭の中でスイッチが切り替わったかのように、再度東方号を追撃してきたのだ。

「きゃああっ!」

 再び被弾し、揺らいだ東方号。床に投げ出されたティファニアの悲鳴が轟音にかき消され、やっと消し止めた炎がまた吹き上がってくる。

「テファ、大丈夫!?」

「は、はい……それよりも、今ので怪我をした人がいるかもしれません。みんなのところに行かないと」

 唇から漏れた血をぬぐってティファニアは立ち上がった。傷ついた人がいるなら助けてあげたい。その優しくも強い思いが、彼女に痛みを忘れさせて駆け出させていた。

 しかし、ティファニアの思いよりも、東方号を襲う脅威は救いきれないほどの怪我人を製造しようと迫ってきていた。

 メルバの破壊光線が東方号を襲い、鉄と木片を宙に舞わせ、上空へ向かって黒煙と火炎を吹き上がらせる。

 もちろん、東方号の窮地をウルトラマンAも黙って見てはいない。

 

「シュワァッチッ!」

 

 メルバのマッハ六を上回るマッハ二十の超高速で距離を詰め、背中からメルバに突進して東方号への攻撃を阻止しようとする。

〔これ以上やらせるかっ!〕

 東方号は、トリステインの、いやハルケギニアの将来を背負った大事な船だ。そして、それ以上に大切な仲間たちが乗っている。断じて、こんなところで落としていい船ではない。

 けれど、エースが助けに来ることがメルバの真の狙いだった。翼を使って強引にエースを振りほどくと、鋭くとがったくちばしをエースに向かって弾丸のように突き立ててきたのだ。

「グワアッ!」

 岩をも砕く威力のメルバの一撃をまともに受けてはエースもただではすまなかった。突かれた箇所を神経を焼き切られるような激痛が襲い、一方的にエースはやられる。その光景に、思わず東方号から戦いを見ていた水精霊騎士隊の少年からは「卑怯な奴め!」と、怒りの声があがるが、さらにメルバは追い討ちをかけるように目からの怪光線を至近距離から連打した。

「ウォォォッ!」

 オレンジ色の閃光と爆発が連続して、エースの体が大きく吹っ飛ばされた。かろうじて、数百メートル飛ばされたところで体勢を立て直し、失速墜落だけは避けられたものの、カラータイマーの点滅がはじまってしまった。エネルギーを消費する高速機動を長時間続けたツケが来てしまったようだ。

「フオォ……」

 赤く点滅し、危険を知らせるタイマー音が鳴る。さきほど受けたダメージだけでなく、スタミナが大幅に減少してきているのだ。もうだめだというレベルではないが、少なくとも余裕があるとは言いがたい状況だ。

〔まずいな、奴は東方号を人質同然に使ってる。これから先、自分が不利になったら東方号を盾に使ってくるだろう。やっかいな相手だ〕

 エースは、怪獣がこちらが東方号を守らなければならないことを感づいて、それを利用しにきたことを悟って言った。

 そうしているあいだにも、メルバは疲労とダメージで動きの鈍ったエースに怪光線を放ち、あわよくば体当たりしようと狙ってくる。空中戦において、速度はアドバンテージをとるための重要な要素だ。通常ならば、エースのほうが速いぶん有利に戦えるが、全速を出せばそれだけエネルギー消費は早くなる。

〔地上なら、あんな奴に負けやしないのに〕

 才人が、地に足をつけての肉弾戦ならば、怪獣を圧倒することもできるのにと悔しげにつぶやいた。

 過去にも、飛行怪獣との空中戦ではウルトラ戦士は苦戦を強いられており、ウルトラマンジャックは始祖怪鳥テロチルスとの緒戦において敗北し、ウルトラマンタロウもキングトータス・クイントータス夫婦の空中からの爆撃にやられている。

 光線には光線をと、ためしにブルーレーザーを撃ちこんでみたがあっさりかわされた。奴も、こちらの戦法を学習してきているようである。長引くほど、こちらが不利。

 心が折れはしなくとも、焦燥感は湧いてくる。ただし、困難に直面したときにより粘り強いのは女性のほうだ。

〔焦るんじゃないわよ。相手はちょっと大きいだけのドラゴンじゃない。わたしたち、あんなのなんか目じゃない強敵とこれまでやってきたじゃないの!〕

 ルイズの叱咤が、焦り始めていた才人の心の心臓に蹴りを入れた。

〔必ずチャンスは来るわ。あんたも男なら、あたふたしないでどっしりかまえてなさい」

〔わ、わかったよ〕

 なんか、ルイズの理想の男性像を押し付けられたような気がしたが、確かにルイズの言うとおりだった。なんというか、ルイズにはいろいろな面があるが、いざ覚悟を決めた後の芯の強さはやっぱり及ばない。才人は、自分が男なのにそういう面でルイズにかなわないことに少々の嫉妬と、おじけづいたら蹴り飛ばしてもらえる頼もしさを覚えるのだった。

〔チャンスか……〕

 あの怪獣を確実に仕留めるなら、なんとかして動きを封じなければダメだ。かといって、前にバードンやテロチルスにやったように空気の薄い高空におびき出そうとしても、奴はその前に東方号に照準を変えてしまうだろう。

 しかし、こちらがさっき罠にはめられてしまったのと同じく、奴も完璧ではないはずだ。手ごわい相手には違いないが、決して負ける相手ではない。

 

 そのとき、山脈が突然途切れてうっそうたる森林地帯が見えてきた。

「火竜山脈を抜けたんだ!」

 そう、戦いは長引いたが、そのおかげで広大な火竜山脈の山並みをついに越えていったのだった。

 これより先は、人の手のほとんど入っていない自然林の広がる森林地帯が延々と続く。東方号は、気流の不安定な山脈上空を抜けて、緩やかな降下をとりながら速度を上げて離脱をはかっていった。

 だが、せっかくの獲物と盾が離れていくのを悪賢いメルバが逃すはずはなかった。再び追撃してきて、今度は速度を殺そうとしているように破壊光線だけでなく、体当たりまでをも狙って猛スピードで迫ってきた。

 危ない! 超巨大なミサイルに匹敵するメルバの突進に当てられたら、さしもの東方号もひとたまりもないだろう。

 だがしかし、メルバは東方号に乗る人間たちの知恵と勇気を馬鹿にしていた。彼らは恥を忍んで離脱するつもりだったが、エースのピンチを見て、乾坤一擲の逆襲の機会をうかがっていたのだ。

 後方から急接近してくるメルバに合わせて、東方号前部にある重力制御室でギムリが、あるレバーに手をかけて待っていた。東方号の浮遊動力である宇宙人の円盤の操作方法のほとんどは未解明なものの、わずかに解明できた操作方法もあった。

「ギムリくん、いまだ!」

「はいっ!」

 コルベールの指示でギムリがレバーを操作した瞬間、反重力システムが作動した。東方号は惑星の重力から切り離されて、慣性を無視して垂直に五十メートルほど跳ね上がった。当然、中の人間はたまったものではなく、床や天井に叩きつけられて大勢が痛い目を見たが、東方号が先読みのできない垂直移動をおこなったことでメルバの意表をつけた。

 体当たりするつもりでいたところが、目標が消失してしまったことでメルバは勢いのままに東方号の真下に飛び出した。すかさず、重力制御がカットされたことで、今度は重力に引かれて東方号は落下する。すなわち、メルバの頭上へとだ。

「食らってつぶれろ! 必殺、オストラントハンマーだ!」

 ギーシュが、あまりセンスのよくない必殺技名を叫ぶと同時に東方号の船底がメルバに叩きつけられた。文字通り踏み潰されるような爆音が鳴り、ケタ外れの衝撃がメルバを襲った。メルバの体重も四万八千トンを誇るが、その倍以上の十万トン越えの鉄塊をぶっつけられてはたまらない。

 まさしく、ハンマーを受けたも同然の打撃を受けて、メルバは切りもみしながら墜落していく。東方号はかろうじて再度反重力生成に成功して持ち直したものの、船底部も含めて被害は甚大であった。しかし、その代償にメルバに多大なダメージを与えることに成功し、メルバがようやく墜落寸前で体勢を立て直せたと思ったそのときには、上空でエースが必殺技の体勢にはいっていた。

「いまだーっ!!」

 ここだ、このチャンスを逃したら同じ機会は永遠に巡ってこない。船内でシェイクされ、体の節々を痛めながらもコルベールたちは自分たちの作り出したチャンスに叫んだ。そして、それに応えないウルトラマンAではない。

「フッ!」

 腕を胸元でクロスさせ、エネルギーをチャージする。眼下に見下ろすメルバへ向けて、エースは両腕を縦に開きながら三日月状の光のカッターを生み出して撃ち放った!

 

『バーチカル・ギロチン!』

 

 悪を許さぬ正義の一刀ここにあり! 放たれたギロチンの刃はメルバにかわす猶予を刹那も与えずにその身をすり抜けていき、次の瞬間にはメルバは頭から尻尾の先まで全身を二等分されていた。

「勝った……」

 両断されたメルバは短く断末魔をあげると、地上に真っ逆さまに落ちていった。森林の中に巨体が消えていき、その後爆発が起きて木々が激しく揺さぶられ、次いで立ち上った黒煙の柱が怪獣の最期を証明していた。

 危険な怪獣だった……エースは正直にそう思った。強さとしてはそこまでではなかったが、なにか底の知れない闇のような、救いようのない邪悪さを内包していたように思えた。むろん、エースはその怪獣が別世界では文明の破壊者の一柱だったことを知る由もないが、超古代怪獣の底知れない闇の一端は、M78星雲のウルトラマンをもっても脅威を感じさせるものであった。

 しかし、苦闘ではあったが勝ちは勝ちだ。エースは東方号から聞こえる多くの歓声を聞き、ようやく勝ったという実感が湧いてきた。

〔彼らには助けられた。あの怪獣の敗因は、人間たちの力を見くびっていたことだな〕

 人間の底力は、ウルトラマンでさえ計りがたいものがある。科学レベルや文明の差で見下すなどとんでもないことだ。

 彼らには、まだ未熟だが大きな可能性がある。今回は、そのことをあらためて確かめることができた。

〔私がこの星の人たちに手を貸さねばならないのも、あと少しのあいだかもしれないな〕

〔えっ? エース、今なんて?〕

〔なんでもない。それよりも、君たちもそろそろ帰らねば怪しまれるぞ。さあ〕

 エースは、地球でのメビウスとGUYSの活躍を思い出していたのかもしれない。

「ショワッチ!」

 青空を切り裂き、ウルトラマンAの姿が消えて見えなくなる。

 そしてわずか後で、東方号の船内に才人とルイズは戻っていた。

 

「おいサイト! なにぼおっとしてんだ。まだ燃えてるとこあるんだから手伝えよ!」

「あっ! 悪い、今行く」

「ルイズ、船を下りるって騒いでる連中がいるの。ちょっとガツンと言ってやって」

「しょうがないわねえ。見てなさい、母さま直伝の交渉術を拝見させてあげるわ」

 

 あっという間に船内の喧騒にふたりは紛れていった。メルバから受けたダメージはまだ深く、東方号はよろよろと空中を進む。

「コルベール船長、船内の火災は鎮火のめどが立ちました。いやあ、頑丈ですねえこの船は」

「ああ……いや、乗組員のみんなががんばってくれたからだよ。でなければ、いくらこの船でもタダではすまなかったさ。負傷者がいたら、秘薬を惜しまずに使ってくれと伝えてくれ」

 艦橋のコルベールは、報告を持ってきた新参のクルーにそう言って、ほっとした様子を見せた。艦橋から見える煙も、いささか薄れているようにも見える。

「あの、船長。怪獣もいなくなったことですし、そろそろ進路を戻しませんか?」

「うむ、ここはどのあたりの空域かね?」

「ガリア南部、亜人などが多く住む森林地帯です。そのせいもあり、あまり人口密度は高くありませんが、このまま進むと目撃されてしまう可能性もあります」

「むう、それにあの怪獣に壊された町の救助にも戻りたいが……だがこのまま進路を戻して気流の荒い火竜山脈に戻ると修復作業に支障が出る。水蒸気機関の出力を落として、このままで先に修理をしてしまおう」

 コルベールも政治的な判断をしないでもなかったが、ここはガリア軍も目の届いていない辺境だったのでよしとした。それに、万一誰かに見られて通報されたとしても、それを受けて軍隊がやって来る頃には東方号は修理を終えてロマリアへと入っているだろう。後日問題にされたとしたら、しらばっくれるまでのことだ。

 

 

 だが、戦いの終わって安心する東方号を、ずっと監視している目はまだあった。

 ひとつは言うまでもなくガリア王ジョゼフ。彼はメルバを撃破したウルトラマンAの活躍を見て、なかなかおもしろかったと喜んでいた。

 そしてもうひとつ、それこそが真なる悪意を持って動き出そうとしていたのだ。

「ふふふ、がんばりましたね。まずは及第点をあげましょう。しかし、同時にやはり急いだほうがよいようですね。この世界を我々の使いやすいようにするために、そろそろ改造をはじめるとしましょう」

 そのとき、遠くの空が黒く歪み、異世界へとつながるワームホールが口を開けた。

 

 

 その数十分後……東方号。順調に修理を続けるその中で、外部の見張りを続けていたクルーの目に、異常なものが映りこんできた。

「ん? なんだ、黒雲? 嵐でも来るのかな……いや、なんだ! か、艦橋!」

「どうした! また怪獣か?」

「いえ、雲が! 南から変な雲がすごい速さでこっちに! と、とにかく見てください」

 コルベールたちは、「雲?」と怪訝な表情を浮かべながらも、見張り員の尋常ではない声に窓から南の空を見上げた。そして、絶句した。

「なっ、なんだあれは!」

 それは黒雲、と見えるが明らかにそんなものではない何かだった。

 雷雲とも違う、空を埋め尽くすなにか黒いものが、とてつもない速さでこちらに向かって広がってくる。自然界ではありえないその速度に、コルベールは一瞬、アディールで見たヤプールの闇のエネルギー障壁を思い出したが、それとも違っていた。

 望遠鏡から覗くそれは、近づくにつれて雲ではない正体を見せてきた。

「鳥? いや、なにか小さな物が寄り集まっているのか。いかん、降下だ! この高度のままでは巻き込まれる!」

 だが、その指示は遅かった。黒雲のようなものは、高高度を飛んでいた東方号の真上を埋め尽くして通過していくと、その下部にいた東方号にも影響を及ぼしていった。黒雲を構成する無数の物体が、すさまじい速さで船体に激突してきたのである。

「これはいったい!? どうなっているんだ」

 艦橋の窓は黒く塗りつぶされて何も見えない。耳に響いてくるのは、なにかが東方号の船体に無数にぶつかるガンガンという音ばかりである。まるで鐘の中に入れられて、四方八方からハンマーで殴られているようだ。

 しかし、床がぐらりと揺れる感触とともに伝声管から響いてきた声だけは、確かにコルベールの耳に届いた。

「こちら機関室! 水蒸気機関が、うわあぁぁっ!」

 コルベールには、その悲鳴だけでじゅうぶんわかった。今の船が推進力を失ったような感触は、水蒸気機関がすべて止まったという証にほかならない。この雹の嵐のような中で、どこかが破壊されてしまったのだろう。けれども、凶報はそれにとどまらなかった。

「せ、船長ぉ! フライを作る装置が、ぼ、暴走」

「なんだって!」

 今度はコルベールは鏡を見なくても、自分の顔が青ざめているのを実感できた。

 フライを作る装置、それはすなわち反重力制御装置のことだ。この東方号の巨体を浮かせているそれが制御できなくなったとしたら、辿る道は子供でもすぐに理解できるだろう。

 たちまちのうちに、東方号は船首を下げて急速に高度を下げ始めた。

「まずい! 船首を上げろ。少しでも降下速度を緩めるんだ!」

 一瞬で反重力が消滅しなかったのがせめてもの救いだった。緩やかに減少していく浮遊力に抗わせて、東方号はなんとか墜落だけは免れようと死力を尽くす。しかし、すでに船体は制御不能で、降下速度はみるみる加速して小さな山をひとつ越えふたつ越え、やがてどこだとも知れない森林の上へと突っ込んでいった。

「全乗組員に告ぐ! 本船はこれより不時着を試みる。なにかに掴まれ、とんでもないショックがきますぞ」

 もう再浮上は不可能だ。コルベールは東方号を救うためにいちかばちかの賭けに出た。紙飛行機のように鋭い角度で、しかし確実に東方号は落ちていく。あと、二百メートル、百五十メートル……と、そのとき落下していく進行方向に小さな村が見えてきた。

「まずいっ! あと少しがんばれ、東方号!」

 人家の上にでも墜落したら目も当てられない。東方号は残った力を振り絞って高度を保とうとし、かろうじて村のギリギリ上をかすめて飛び去った。

「落ちるぞぉ!!」

 ここまでが限界だった。東方号は猛烈な速度で森の中へと突っ込んだ。

 巨体になぎ倒され、森の太い木々がようじのようにへし折られ、根っこごと引き抜かれて吹っ飛んでいく。

 同時に船内には激震が走り、這っていても床から弾き飛ばされるほどの衝撃が全員を襲って、好きなようにもてあそんだ。

 

 

 が、東方号はその衝撃に耐え切った。森の一角をたがやした畑のように変え、それでも耐え切ったのである。

 

 

「う、ぐぅ……みんな、大丈夫か」

 東方号は、右に傾く形でやっと止まっていた。コルベールは立ち上がって周りを見回すと、艦橋にいた誰もがなんらかの怪我を負っていた。艦橋に来ていたアニエスも、受け身を取りきれなかったとみえて肩をさすっている。

 この様子では、船内には打撲傷の患者が大量に出ていることだろう。その証拠に、各部署からの報告にも苦悶の声が混じっていた。幸いなのは、悪くても骨折や捻挫程度で、命に関わるような重体患者は出ていないことだろう。

 船内では、散乱した調度品などを踏み越えて、救護活動が始まっていた。といっても救護班員も負傷しているような有様であったから、軽傷の者が率先して手当てに当たっている。才人も、ルイズにおでこにできたたんこぶに湿布を貼って貰い、ルイズの腕に包帯を巻いていた。

「ありがと、だいぶ楽になったわ」

「へたくそで悪いな。やれやれ、こんなことならシエスタに来てもらうんだったかな。万一のことを考えて、連れてこなかったけど……」

 失敗だったかなと才人は思った。こういうとき、シエスタならみんなのあいだを駆け回って、怪我した人たちをはげましてくれたろう。

 それにしても、犠牲者が出なかったのだけは本当に幸いだった。

 それに、東方号も見回した限りでは、怪獣にやられた損傷はともかく、不時着によって大きな被害は出していないらしい。飛び立てなくては意味がないが、その巨体でみんなを守り抜いてくれた。

 しかし、ほっとする間もなく、クルーの恐怖に震えた声がコルベールの目を窓の外の空に向けさせた。

「せ、船長! 見てください。囲まれています!」

 なんと、いつのまにであろうか。東方号の周辺は、背中に翼を生やした亜人たちの集団によってすっかり取り囲まれてしまっていたのである。

 

「これは、翼人たちか!」

 

 コルベールはとっさに叫んだ。翼人、ハルケギニアに様々な種類が住む亜人の一種である。姿かたちは人間の背中に白鳥のような翼が生えていて、それで空を自在に飛び回る。性格はオークやトロルのように好戦的ではなく、むしろ人間と同等以上の知性を持つ理性的な種族であり、人間側から手出ししない限りは危害を加えてくることはない。

 ただし、エルフほどではないが、強力な先住魔法を使いこなすために、一級のメイジでもまともに戦うのは分が悪いと言われるほどの強さを持っていて恐れられている。東方号を取り囲んでいるのは恐らくは戦士階級だろう。身につけているのは簡素な布の服だけだが、鋭い目つきに引き締まった肉体、一見で強そうなのが見て取れる。

「数はざっと四十人前後。いや、姿を現していない者を入れたらもっといるだろう。これは……怒っている、わなあ……」

 人間、どうしようもなく最悪にぶち当たると笑うしかないらしい。はははと乾いた笑い声を漏らし、それでもコルベールは東方号を取り囲んでいる翼人たちを見た。

「蛮人ども! このようなもので我々の森を壊すとはどういう了見か! 出て来い! 罪にふさわしい罰を与えてやる!」

 当然の怒鳴り声が響いてきた。それはそうだ。いきなり自分たちのすみかを壊されたら翼人でなくたって怒る。

 コルベールは、話を聞いてもらえるかの自信はまったくなかったが、とにかく外に出て話しかけた。

「待ってください翼人の皆さん! あなたがたのお怒りはもっともです。ですが、我々もここに落ちてしまったのは事故なのです。賠償はいたします。ですからここは、怒りをお静めください!」

「黙れ! お前たちのおかげで何百本の木々が倒れたと思う。古来より、先祖の守りし我らの宝をここまで荒らしてくれた罪は、もはや貴様らの死によってあがなうしかない!」

 とりつくしまもなかった。悪気はなかったといっても非はこちらにある。自分たちでいうなれば、いきなり魔法学院を壊されてしまったようなものである。怒らないほうがどうかしている。

 アニエスたち銃士隊でもかなう相手ではない。巡礼団の団長殿は泡を吹いて卒倒してしまっている。

 しかし戦いだけは絶対に避けないといけない。コルベールはなんとか全面攻撃だけは避けようと努力した。

「待ってください! 責ならば、船長である私がおびます。私の首でなんとか、この場だけはお納めくださいませんか」

「だめだ。お前たち全員の首でなくてはならない。せめてもの情けで、戦う資格だけはくれてやる。出て来い!」

 本来温厚なはずの翼人がここまで怒るとは、彼らにとって東方号が壊してしまった森がいかに大切だったか。

 

 せっかく墜落からは助かったのに、こんなところで自分たちの旅は潰えてしまうのか。今にも、いっせいに先住魔法を繰り出してきそうな翼人たちを、悲しげにコルベールは見つめた。

 

 だが、奈落に転落しかけていた状況を、この場に似つかわしくない若い女性の声が止めた。

「待ってみんな! 精霊の力を怒りのままに使ってはだめ! この人たちも怪我をしているわ。落ち着いて!」

 それはまったくの火事場の慈雨であった。驚いて声のほうに目をやると、血気にはやる翼人たちを抑えるように、ひとりの若い女性の翼人が飛んでいた。どうやら、翼人たちの中でも地位の高いところにいる方らしく、翼人たちはとまどいながらも包囲陣を解いている。

 ほっとした。これでどうやら、最悪の事態だけは免れられたようである。ただし、コルベールたちにとって命の問題より驚くべきことはこれから待っていた。

「アイーシャ! 危ないよ、下りておいで! ここは戦士のみなさんにまかせよう!」

「ヨシア、ダメよ! なにかあってからでは遅いの。争いあったって悪いことにしかならないって、みんな知ったじゃない」

 なんと、下から声がしたので見下ろすと、森から青年が翼人の女性に向かって叫んでいた。が、コルベールたちがびっくりしたことは、彼は翼人の仲間ではなくて、普通の人間だったということだ。おまけに、彼の周りにもおっかなびっくりで東方号を見上げる人間の村人たちがいた。

「に、人間と翼人が? どういうことですかな、これは?」

 さしものコルベールも見たことがすぐには信じられなかった。生活圏を隔絶しているのが常識の人間と亜人が、当たり前のようにいっしょにいるとはなにがどうなっているのか。

 

 

 混乱する現場が一定の落ち着きを取り戻すまで、それからまだ数時間ほどの猶予を必要とした。

 

 

「エギンハイム村……人間と翼人が共存する場所、そんなところがあるなんて夢にも思いませんでした……」

 不時着から数時間後、案内された村長の家で説明を受けたコルベールたちは、感心したようにため息をついていた。

 そう、ここはガリア王国にあるエギンハイム村。かつて人間と翼人が対立し、さらにはムザン星人をはじめとする怪獣たちによって襲われた。しかし、種族を超えて協力しあった勇敢な人々によって怪獣たちは退けられ、村はふたつの種族が共存できるように変わったのである。

「我々の知らないところで、そんなことがあったとは驚きました。しかも、あなた方は人間と翼人で夫婦とは」

「いや、お恥ずかしい。一時はかなわぬ愛かと思いましたが、ある方々のおかげなんです。先ほどはどうも失礼いたしました」

「ヨシアったら、だから言ったじゃない。まずは、勇気をもって話しかけてみるべきだって。あなた方も大変だったようですね。森が壊れてしまったことは、確かに心が痛いですが、後のことはなんとかできるめどが立ちました」

 コルベールたちを招いたヨシアとアイーシャの夫婦は、極めて温厚な態度で一行をもてなした。

 このふたりも、あのときに仲を認められずに苦悩していたが、紆余曲折の末に村人と翼人たち全員から祝福される結婚式をあげれていた。あれから、ふたりとも仲むつまじい夫婦として、翼人と人間の架け橋となるために頑張ってきたのだ。

 一方、墜落した東方号は翼人たちの協力もあって完全に鎮火に成功し、今ではわずかな白煙をあげるだけになっている。船内は相変わらずひどいものだったので、銃士隊が残ってクルーたちを指揮して片付けをしていた。巡礼団たちは、予想外の事態の連続にまいって、ほとんどが自室に引きこもってしまっていた。

 ここにいるのは、コルベールととりあえず手すきになった水精霊騎士隊などの面々である。彼らも、アディールで異種族との交流には慣れていたつもりであったが、平然と人間と翼人が同じように生活しているのを見ると驚きを隠せなかった。

「世の中は広いものだなあ」

 だいたいの感想はその一言に集約された。翼人たちの先住魔法のおかげで、怪我人はあっという間に回復して、全員が今ではピンピンしている。彼らはこちらでの仕事をしているのだが、ネフテスでの経験に匹敵する大事を目の当たりにして、ハルケギニアでもこんなことがすでにあったのだと、目からうろこが落ちる思いをしていた。

 

 エギンハイム村の人々にも東方号の事情は説明され、彼らは見慣れないトリステイン人にも関わらずにきさくに接してくれている。亜人と共存することに比べたら外国人などたいした問題ではないということなのだろう。彼らに対しては、森を壊した侘びとして、東方号に積まれていた金銭や、ロマリアへの寄贈品の一部を渡すということで交渉が成立していた。

 なお、交渉が難航するものと思われていた翼人とのあいだには、東方号にいたもうひとつの別種族が助け舟となってくれた。

「ちょっと待って、翼人の方々。その人間たちは、なりはさえないけど殺されちゃ困るのよね」

「お前たちは……エルフか! なぜお前たちが人間と行動をともにしている!?」

 ルクシャナをはじめとするエルフたちが正体を明かし、仲裁に入ってくれたことがとにかくも幸いであった。こちらが人間と翼人の組み合わせに驚いたように、向こうにとっても人間とエルフの組み合わせは相当な驚きであったようだ。

 コルベールの言うことには耳を貸さなかった翼人たちも、アイーシャのとりなしと、エルフたちの存在には落ち着きを取り戻してくれた。

「わかった。同じ、大いなる意志の声を聞けるエルフたちの言うことならば信用しよう。我らは侵略には断固として戦うが、悪意のない者には無益な戦いを好むものではない」

 翼人たちは、荒れてしまった森の再生にエルフの助力を得られるということでどうにか納得してくれた。なにせ、砂漠に大都市を築くほどの能力を持つのがエルフたちだ。翼人たちから見ても、その力の魅力は大きかっただろう。

 彼らは、東方号が怪獣に襲われて不時着したことを知ると、自分たちも同じ経験をしただけに温かく迎えてくれた。ヨシアとアイーシャの夫婦をはじめ、いまではすでに数組の翼人と人間のカップルが出来ており、彼らによるもてなしは傷ついた東方号のクルーたちにとって大きななぐさめになったのは特筆しておくべきことだろう。

 

 

 ただし、不時着の騒ぎで一時忘れられていたが、空を埋め尽くし、いまや夜のように太陽を隠してしまった不気味な黒雲のことを思い出すと、ほっとしていた空気もまた暗く塗り替えられていった。

 上空で東方号を襲い、墜落に追い込んだ黒い雲塊。その正体は、水蒸気機関の吸気口から入り込み、中に詰まって死んでいたそれを引きずり出したときに明らかになった。

「ミスタ・コルベール、見てください。こいつが、こいつらがあの黒雲の正体ですよ」

「うむ……これは、虫、虫か? しかし、こんな大きくて、おぞましい虫は聞いた事もない」

 それは、全長六十センチはあろうかという巨大な甲虫であった。こいつが大挙してエンジンに飛び込んできたことで、東方号はすべての機関をつぶされて墜落に追い込まれてしまったのだ。雲に見えたのは、蝗のように大群をなしていたからであった。

「しかし、あの雲がすべてこの虫だとしたら、いったい何億、何兆の数が……そして、これほどの数がいったいどこから? なにか、とてつもなく悪いことが起ころうとしているような気がする」

 コルベールは、視界を埋め尽くす虫の黒雲を見上げて、暗然とつぶやいた。

 

 

 だが、事態はすでに動いていた。虫が来たのと同じ方角から、東方号のあるエギンハイム村へ向けて、一直線に飛ぶ巨大な物体があった。

 銀色に輝き、生き物とも機械ともつかない不可思議な形をしたそれは一体なんなのか。確かなことは、新たな危機が避けようもなく迫り来ているということだけである。

 

 

 続く


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