ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第96話  あの青空を守るため

 第96話

 あの青空を守るため

 

 友好巨鳥 リドリアス

 古代暴獣 ゴルメデ

 高原竜 ヒドラ

 古代怪獣 ゴモラ

 古代怪獣 EXゴモラ 登場!

 

 

〔ヤプール! これがおれたちがこの世界でつむいできた絆のすべてだ。受け止められるもんなら、受け止めてみやがれ!〕

 

 長きに渡ったアディールを巡る光と闇の戦いも、ついに終局の時を迎えようとしていた。

 この世界を守るウルトラマンたち、人間、エルフ、怪獣たち。生きとし生ける者たちすべての未来への希望を込めた究極の光の一撃が飛ぶ。その形は、様々な色を抱いて宇宙に浮かぶ惑星のように丸く、その輝きは、様々な色が混在してなお美しい虹のようにきらめいている。

 

『スペースQ!』

 

 それが、この必殺技の名前だった。エースがこれを過去に使ったのはたったの一度きり。ヤプールとの最初の戦いも中間点に入った、時に昭和四十七年七月七日。ヤプールの姦計でゴルゴダ星に閉じ込められたウルトラ兄弟を救い出すための戦いで、ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャックの力を借りて、この超必殺技は放たれた。

 この戦いは、地球からは観測できないマイナス宇宙で繰り広げられたために、その存在は才人も知らない。しかし、エースとともに体験しながら、才人やルイズはこの技の圧倒的な威力だけでなく、技を放つために集められたエネルギーに、ウルトラマンたちのみではなく、数多くの人々の願いが込められていることを知った。

〔みんなの願いが光になって、わたしたちに力を与えてくれたのね〕

 邪悪なマイナスパワーに打ち勝てるのは、同じく人間の持つ正しい心しかない。ヤプールは、この世界にマイナスエネルギーが溢れていると言っていたが、闇があれば光が照らすように、ハルケギニアの人々にも、正義の魂は脈々と息づいていた。

 虹色に輝く光の玉が、断末魔のEXゴモラに炸裂し、その蓄えられた光のパワーで邪悪なマイナスエネルギーを浄化していった。闇の魔獣を包み込むように虹色の輝きが広がり、闇の帳に包み込まれていたアディールの風景をまばゆく照らし出していく。

 

「きれい……」

 

 誰かがふとつぶやいた。光の中でEXゴモラは溶けるように崩壊していく。しかし、その様は決して残酷なものではなく、例えていうのであれば、春の陽気の中で雪だるまが頭のバケツだけを残して消えていくような、理に沿う正しい終わり方である。闇に染まり、間違った生まれ方と生き方を強要されてきた生き物が、マイナスエネルギーを消し去られて、あるべき自然の姿へと戻って消えていく。

 崩れていくEXゴモラの中から、焚き火から立ち上る煙のように黒いもやとなって怪獣たちの魂が昇天していくのが見えた。アントラー、ゴーガ、サメクジラが肉体の呪縛から解放されて、一瞬半透明の姿を見せたかと思うと消えていった。ダロンは、ややユニークなことに、ガディバに寄生される前のただのタコに戻って消えていき、そのシュールさにやや失笑を呼んだものの、やっと自然の姿に戻って誰にも利用されない世界に旅立つ彼らに、祈りの言葉がつむがれた。

「安らかに……」

 死ねば善も悪も関係ない。望まぬ生き方と死に方を強いられたという点では、彼らもまた被害者なのだ。怪獣たちによって友人や肉親を失った者たちからすれば、憎みても余りある敵であろうが、屍を打つほど醜悪なことはほかにない。彼らは怒りをぐっと押し殺し、せめて関係ない者は安らかな眠りを、もしくは来世は平和な生を送れるようにと願うべきだ。

 アリブンタ、マザリュースなどの超獣たちや、ギロン人も精神体が粒子に分解して消えていく。生まれついての悪として宿命づけられた彼らは、最後まで怨念を呑んで消えていくのだろうが、せめて無に帰ることで次の生では正しくあってほしい。

 そして、最後にEXゴモラを内部から抑えていたバルキー星人も解放された。

 

”覚えてろよウルトラマンA。いつか蘇ったら、必ずてめえに借りを返しにいってやるからな”

”いつでもこい、そのときは正々堂々相手をしてやる”

”けっ、俺はてめえらのその正義面したところが嫌いなんだよ……”

 

 バルキー星人は、つまらなそうに捨て台詞を残して消えていった。しかし、まさかあいつに助けられることになるとは夢にも思わなかった。敵の敵は味方と言うが、奴もよほどヤプールには腹を立てていたのだろう。ただ、それはともかくとして、大嫌いなウルトラ戦士に味方してまで、自分の存在を貫こうとした意地には素直に敬服する。くだらない意地にこだわるのと、くだらない意地に命をかけるのは同じようでまったく違う。それについては説明するのは事実上不可能なのだが、エースはもしもそんな機会が来たなら、真っ向から打ち破ってやろうと、改めて心に決めた。

 

 しかし、策謀の果てに自らが捨て駒とした者に逆らわれて勝利を逃したヤプールには、軽蔑の眼差ししか向けることはできない。

 スペースQのエネルギーの中で、ガディバも焼き尽くされて消滅し、抜け殻となったEXゴモラは崩れていく。恐ろしい敵だった、もしもこいつが真にゴモラが進化したものであったならば、勝てたかはまったく自信がない。けれど、これだけの超怪獣を繰り出しながら、勝利することができなかったヤプールの敗因は、まさにヤプールのその卑劣さ、邪悪さにあると言わざるを得ない。

 絆を否定し、すべてを自分本位に考え、他者を蹴落とすための敵か利用するための駒としか思わない。だから、自らの分身ともいえる超獣はまだしも、心を持った相手にはかつての宇宙人連合などのように洗脳をおこなったり、今回のように相手の欲につけこんだりするのだが、それがなんらかの理由で破られた場合は、誰もヤプールに協力する義理などはない。

 まさに、人形遣いがからんだマリオネットの糸に指をからめとられる図なのだが、口に出して人間はヤプールを笑えはしない。そんなヤプールを生み出したのは、ほかでもない人間たちの心なのだから。

 使いきれるだけのマイナスエネルギーをEXゴモラに使い切り、敗れたヤプールの暗黒空間も共に崩壊していった。黒雲が晴れていき、太陽がアディールを今度こそ明るく照らし出していく。そして、光の化身たる太陽の輝きが、ヤプールの異次元空間への亀裂をも照らしたとき、ヤプールの断末魔にも似た叫びが響き渡った。

 

「くぁぁーっ! おのれ、おのれぇぇぇ! このわしが、この軍団がぁぁーっ! よくも、よくもやってくれたなぁぁーっ!」

 

 膨大な怒りと憎しみの込められた邪声が人々の背筋を震わせた。もはや、溜め込んだエネルギーを消費しつくし、現実に悪意をもたらすことは不可能になっているのだが、本能的な恐怖に訴えかけてくる冷たい声に、誰もが喉を凍らせてしまって動けない。

 エースは、次元の裂け目の向こうで怒りに身を焦がしているヤプールに対して告げた。

 

「ヤプール、お前の負けだ。お前は確かに、力では我々よりも数段上回っていた。しかし、お前は人間やエルフたちの底力を見くびった。彼らの心に宿る光の強さを理解できなかったお前は、戦う前から己の可能性をつぶしてしまっていたのだ」

「黙れ黙れぇ! わしは絶対認めないぞ。下等生物どもに、このわしが負けるなどと、貴様らさえいなければ」

「ならばお前には永遠に理解できまい。小さな者たちこそ、大きな心と可能性を秘めていることを。その力は、時に我々ウルトラマンをもしのぐ強さを発揮することを。その力がある限り、お前に永遠に勝利は訪れはしないだろう」

「そうはいかん。暗黒の力は無限だ、永久に絶えることはない。人間どもにエルフども、貴様たちも覚えておくがいい。今日、お前たちは勝者となった。だが、勝った者は負けた者の怒りと憎しみを背負って生きていかねばならんということを。勝った者は負けた者のことは忘れても、負けた者は恨みを永遠に忘れることはない。その恨みがある限り、ヤプールは何度も蘇る。そして必ず、貴様らを一人残らず根絶やしにしてくれるわ、ウワッハッハッハッ!」

 負け惜しみというには、あまりにも確信に満ちたヤプールの言葉に、人々は笑うことはできなかった。初めて地球に現れたときから変わらないヤプールの邪悪な意志は、聞く者に不安と恐怖を植えつける。

 そして、ヤプールは最後に消えかける次元の裂け目から言い残した。

 

「これで終わったと思うなよ。我々にはまだ切り札が残っているのだ。この星の者どもが奪い合ってきた究極の宝は、すでに我が手の内にあるのだからなぁ!」

「っ! 聖地か」

「そのとおり! その周辺は永遠に晴れない荒れ狂う嵐の海と化し、もはや誰も近づけん。フハハハ、この星の者どもは気づいていないようだが、この地に秘められた力が解放されたときこそ、この星の最期となるだろう。そして、これだけは忘れるな! この世界には、まだまだ溢れんばかりのマイナスエネルギーが渦巻いている。我々はすぐにも蘇って、復讐の業火をあげてやる。フハハハハ! 人間を滅ぼすのは人間、エルフを滅ぼすのはエルフなのだ。お前たちがいる限り、我らは滅びることはない。フハハハハ! グッ、グワォォーーーッ!」

 

 呪詛の言葉を残すと、ヤプールはもだえ苦しみながら次元のかなたへと消えていった。

 エースは、ヤプールの言葉がハッタリではないことを知りつつ、心に誓った。

”来るならば来い……そのときこそ、二度とこの世界に手を出せなくなるように、決着をつけてやる”

 きっとその時は、今日すら比較にならない想像を絶する激戦となるだろう。さらに、ヤプールが復活してくるのは、そんなに遠い未来のことではないことも確かだ。かつての究極超獣にも匹敵するなにか、ウルトラ兄弟を抹殺するための恐るべきなにかを用意して、きっとヤプールはやってくる。

 

 だが、避けようのない戦いが未来にあるとしても、今日のこの日は我々の勝利だ。

 黒雲が一欠けらもなく消え去り、太陽の下にアディールは蘇った。空も、砂漠も、海も、自然のありし姿を取り戻した。

 ヤプールの悪夢の世界は終わり、光はさんさんと降り注ぐ。その中で、闇の魔獣も最期のときを迎えた。

 スペースQの輝きの中で、EXゴモラはマイナスエネルギーを浄化され、その身に宿ったすべての怨霊を昇天された。あとの肉体に魂はなくとも、蓄えられた膨大なエネルギーだけは残っている。それが、これ以上この街に災厄を与えぬようにと、光の力はEXゴモラの残存エネルギーとともに対消滅を起こし、余剰エネルギーだけを放出して爆発した。

 

「さらばだ……」

 

 立ち上る赤い炎は、まるで怪獣たちをあの世へと送る道しるべのように輝き、エースは心から彼らの冥福を祈った。

 そして、轟音が通り過ぎて、風が煙を流していったとき、長く続いた戦いは、人々の歓声を持って本当の終了を告げた。

 

「やったぁーっ!」

「勝ったぁーっ! ばんざーい! ばんざーいっ!」

「うわぉーっ!」

 

 割れんばかりの声、声、声。歓喜の大合唱がアディールの隅から隅までを埋め尽くした。

 女も、男も、老人も子供も、皆が喜びの中にいた。何度もこの悪夢は終わらないものと思った。何度も、押しつぶされそうな絶望を味わわされてきた。どう考えても助かりそうもない悪魔との戦いを生き抜けたことは、まさに奇跡としか思えない。

 エルフたちは東方号の甲板に飛び出し、中には青さと穏やかさを取り戻した海に飛び込む者もいた。もう波にさらわれる心配はなく、愉快そうにイルカとたわむれている。闇の力に封じ込められていた精霊たちも解放されて、自然を元に戻していった。

 そして特筆すべきは喜びをわかちあう者たちの中で、エルフと人間がまったく同じ舞台で笑い合っていたことだ。

 水精霊騎士隊の皆が、エルフたちに胴上げされている。疲れ果てて気を失い、ルクシャナに背負われて艦橋を降りていくティファニアに、エルフたちが口々にねぎらいの言葉をかけてくれる。そのふたりを、階下で迎えたのはあのファーティマだった。彼女は無表情で睨みつけてくるルクシャナの視線を少し受け止めると、自分もまだ動くにはきつい体を折って頭を垂れたのである。

「わたしの負けだ、完敗だよ。すごい奴だな、お前は……いや、お前たちは」

 顔を上げたとき、もうファーティマの顔に、人間やハーフエルフを憎んで生まれた影や醜いしわはすっかり消えていた。

 ルクシャナは苦笑し、ティファニアを寝かすから、ほらどいてと歩み去ろうとした。だが、両者がすれ違おうとしたとき、気を失っていたと思っていたティファニアがファーティマのそでを掴んで引き止めた。

「ありがとうファーティマさん……ねえ、わたしたち、これからお友達になれるかな?」

 すぐに返事はなかったが、肩越しにルクシャナはファーティマの赤面した照れくさそうな顔を見ていたのだった。

 微笑ましい光景はそれだけではなかった。銃士隊に救われたエルフたちが、疲労困憊した彼女たちに、残りわずかな精神力を使って回復の魔法をかけてくれた。人間に精霊の力を使うことは、エルフたちにとっては大変な屈辱のはずだったが、ここでは誰もそんなことは忘れていた。

「起きたな、めいっぱい最高の奇跡が。サイト……お前に会ってから、世界が本当に美しいな」

 空を見上げ、疲れきった頬を緩ませてミシェルはつぶやいた。人間の運命なんて、簡単に変わるというが、ほんの一年前まで姑息な小悪党に過ぎなかった自分が、まさか世界の運命を変える仕事をすることになるとは。こんな光景を見るなんて、レコン・キスタの下っ端だった頃の自分なら夢にも思わなかったことだろう。

「次はいったい、どこに連れて行ってくれるのかな? いや、できれば……いつか、お前の故郷に行きたいな」

 それは、彼女以外にもひとりの少女の願いでもあったのだが、ミシェルは自分の体を覆う快いぬくもりに身を任せて眠りについた。

 海原は透き通り、風は優しく肌をなでていく。そこに居る人々の顔は明るく、泣いている人もそれを誰かが慰めている。

 平和……それの重さと尊さを、これほど誰もが痛感した日はこれまでになかっただろう。

 

「ありがとう」

「どういたしまして」

 

 そこでかけられた声のやりとりの大部分は、突き詰めればこの二言に集約された。しかし、短くはあるけれど、この二言ほど人の心の美しさを表す言葉はないだろう。自分のことしか考えない者に、謝意の気持ちなどは決して芽生えない。互いに、相手のことを認めているからこそ、口からは自然とこの言葉が出るし、言われたほうもうれしいのだ。

 まあ中には、早々に女性を口説いて好感度を下げる某隊長どのみたいな例もあるが、そうしたものも笑いを誘って皆をなごませた。

 

 それに、功労者はエルフや人間たちだけではない。ゴモラとゴルメデは勝利の雄たけびをあげて、リドリアスとヒドラもうれしそうな声で喉を鳴らした。人々は、ヤプールのいなくなった今、怪獣たちが暴れだすのではと冷やりとしたが、彼らは疲れたように地面に横たわり、特にゴモラなどは大きなあくびをあげると、そのまま高いびきをあげて眠りだして人々をびっくりさせた。

 そう、怪獣とて危険なものとは限らない。人間が余計な手出しをしなければ、無害な怪獣だって数多くいる。見た目で相手を判断し、決め付けてしまうのは愚かなことだ。色は単色でも美しいが、それは同時に無機質で退屈なのだともいえる。しかし多色となれば、それを美しくするのは難しいが、無限の可能性と面白さがある。

 グヴグウと気持ちよさそうに眠っているゴモラののんきそうな姿に、人々はさっきまでの屈強な大怪獣はどこへやらと笑うしかなかった。その微笑ましい様を見下ろして、エースとコスモスは満足げにうなずきあった。

 

「終わったな。これで、ヤプールも当分は表立っては動けまい……ありがとう、ウルトラマンコスモス。君がいなければ、この戦いに勝つことは出来なかった」

「礼ならば、私からも言わせてほしい。私は昔、この星を襲った災厄から、人々を守りきることができなかった。君たちのおかげで、私は償いの機会を得ることができた。ありがとう」

 

 エースとコスモスは歩み寄ると、どちらからともなく手を差し伸べあった。望んでいることは確認するまでもない。ふたりは、互いの手を取り合うと、がっちりと握り締めて握手をかわした。

 これで、この世界に来て出会った異世界のウルトラマンは、ジャスティスに次いで二人目。いまだ消息の知れないダイナや、未確認だがガリアに現れたという巨人は、聞いた特徴がダイナに酷似していたようだ。会ったことはまだないが、彼らも理由はどうあれこの世界のために戦ってくれていた。

 それに、異空間で出会ったガイア……我夢も、その世界の平和を守るために戦っていた。ウルトラマンは平和の守護神、心正しい者の味方であり、人々が希望を失わない限り、前に進むことをあきらめない限り、無限の力でどんな敵にも負けはしない。

 言い換えれば、人々は自分たちの希望の力で未来を勝ち取ったのだ。ウルトラマンなくては超獣軍団に勝てなかった。しかし、人々が応援してくれなければウルトラマンは負けていた。どんなにすごくても完璧な存在などはない。助け合ってこそ、本当に強い力が生まれる。

 曇天が晴れて青空が見えたときと、さらに虹が見えたときでは美しさが違うだろう。色は多く集まってこそ、お互いを高めあって、単色の限界を超えた美しさを世界に示すことができるのだ。

 

 悪いのは、自分以外の色を認めず、黒をぶちまけてしまうことだ。そんな狭量な輩は、残念ながらどんな世界のどんな時代にも絶えずにいた。手を取り合うウルトラマンの姿に、人々が澄んだ視線を向けている中で、わずかにでも、濁った目をした者は残っていた。

 アディール対岸の、岸壁付近に半ば乗り上げた形で失神している鯨竜艦。その、大破した船体の崩れたマストや艦橋構造物のあいまを抜けて、一門だけ無傷で残った砲塔で、ひとりの男が砲弾を込めていた。

「くはははは、俺は騙されないぞ。蛮人どもめ、悪魔どもめ、清浄なるサハラの地を土足で汚す汚物どもめ。サハラは我々のものだ。今、思い知らせてやるからな」

 そこで引きつった笑いを浮かべて、すすだらけになった体をひきずっているのは、あのエスマーイルであった。戦いが終わってもなお、その身の狂気のおさまらない彼はボロボロの体にも関わらずに、まだ無益な戦いを続けようとしていた。砲門の狙う先にいるのはふたりのウルトラマン。エルフの純血を神聖視する彼にとっては、なにをおいても自身の信仰こそが絶対であり、それに合致しないものはすべて敵であった。

 世界の中に自分がいると思わずに、自分の世界こそが世界のすべてだと思い込む歪んだ思想。その思想をおびやかす異物を排除するためならば、その結果がどうなるかなど考えない。

 しかし、砲弾を込めて、いままさに引き金に手をかけようとしたときだった。エスマーイルの背後から、冷たい口調で声が響いた。

「待ちたまえ、砂漠の民の誇り高き紳士、エスマーイル殿」

「うぬ!? お前、いやっ! と、統領閣下っ!」

 いつの間にか、エスマーイルの後ろにテュリュークが立って、疲れた視線で彼を見上げていた。その後ろにはビダーシャルもいる。ふたりとも、衣類はエスマーイルと同じようにくたびれきっているが、視線だけは鋭く研ぎ澄ませて睨んでいた。

 短い沈黙ののちに、口火を切ったのはテュリュークだった。

「さて、つまらん前置きはなしにしようか。今、なにをしようとしていたのかね? ようやく平和が戻って安堵しておる市民たちを、また混乱のちまたに引き戻そうというのか」

「お言葉ですが、平和とは誰のものでしょうか? 戦いはまだ終わってなどおりません。この地が蛮人どもの汚らしい足で汚され続けているこの時に、なぜ安穏としていられるでしょう」

「君は今の今までなにを見てきたのだね。アディールを救ったのは、まさにその蛮人たちがいたからではないか。我々だけでは、あの悪魔に太刀打ちどころか、今頃一人残らずこの世にはおらんだろうよ。君だってとっくの昔に船と運命をともにしていたかもしれんだろう。彼らは我々の恩人だよ」

「なんとおぞましい! 統領閣下ともあろう方が、これまで蛮人どもが我々になにをしてきたのかを忘れたとは言わせませんぞ!」

 つらつらと、エスマーイルはエルフと人間の戦いの歴史を語り始めた。その中で、蛮人たちが何度サハラに踏み込んできたか、どれだけ汚い手段を使ってきたか、捕虜になった同胞がどういう目に会ってきたのか、この数千年で何万人の犠牲者が出たのか、何度も和平がおこなわれようとしたが、その度に人間たちはだまし討ちにしてきたことなどを、まるで自分が体験してきたかのように饒舌に止まらずに話す彼に、テュリュークとビダーシャルはひどいだるさを感じた。

「それは誰もが知っている歴史じゃの。しかし、そんなことは彼らも当然承知じゃろう。わしは、彼らと直接会って思うたが、彼らはこれまでやってきた馬鹿者共とは違ったよ。彼らは聖地など求めておらんし、サハラを切り取ろうとも思っておらん。小ざかしい条約を結ぼうともしておらんし、もっと言うなら外交の正式な手順すら踏んどらん。彼らは、ただわしらにメッセージを伝えに来ただけじゃった。過去の行き掛かりを捨てて戦をやめようと、それだけをな」

「蛮人が、何度我らを騙したかお忘れではありますまい!」

「そんなことは承知しておる。しかし、今度は彼らも本気じゃと思う。でなければ、敵中にあれだけの人数で乗り込んでくるはずがあるまいて。蛮人のすべてがとは言わんが、わずかなりとも信用できる者たちが現れ始めてきたとわしは信じたい」

「エスマーイル殿、私が蛮人の世界を見聞してきたことは知っているだろう。確かに蛮人どもは我らに比べればほとんどの面で劣っているが、貴公の考えているほど愚かではない。貴公は知識とごく浅い部分でしか彼らを知らない。まずは試しと、彼らに会って、それから答えを出してみてはどうかな」

 テュリュークとビダーシャルは、蛮人への偏見に凝り固まっているエスマーイルへ、つとめて理知的に説得を試みようとした。しかし、ふたりがいかに論理的に説得しても、どんなに妥協案を出してもエスマーイルは聞く耳を持たず、むしろ逆上して大いなる意志とエルフの優勢さを盾にして、逆にふたりを弾劾してきた。

「砂漠の民の誇りを失って、あなた方は恥ずかしいとは思わないのですかな! 我らサハラに生きる者が大いなる意志より与えられた使命は、蛮人の脅威を永遠に排除し、大いなる意志の庇護を知らない蛮人の手にある土地を解放し、エルフの繁栄をもたらすことです。民と国の繁栄を考えずして、なんの指導者ですか!」

 いきりたつエスマーイルに対して、テュリュークとビダーシャルはもはや閉口した。完全に自衛の域を超えた侵略戦争の肯定である。それが彼の鉄血団結党の理念だということは重々承知していたが、狂信とはこういうものだと心底恐ろしく思う。いまや部下もいなくなり、孤立無援でありながらも自らの妄念にしがみつく、その目には自分の見たくないものは見えず、聞きたくない声は怒鳴りつけてかき消してしまう。

 よくぞ、こんな奴がエルフの最高意思決定機関たる評議会にいたものだ。聞くに堪えない罵声を繰り返すエスマーイルに対して、ビダーシャルはふつふつと怒りが湧いてきた。

「エスマーイル殿、いやエスマーイル。私はお前を見てようやく得心がいったよ、エルフと人間に差などない。むしろ、優れているとうぬぼれている分、劣っているかもしれないな」

「なにっ! 貴様、その発言は十分に民族反逆罪に値するぞ!」

「なんとでも言え! 本当の蛮人は貴様だ!」

 その言葉を最後に、ビダーシャルは駆け寄るとエスマーイルの顔面に渾身のパンチを叩き込んだ。魔法を使う精神力などとうの昔に尽きているから、腕力にまかせた盛大な一発だ。まさか、殴られることになるとは想像もしていなかったのであろう奴は、呆然としたまま一撃を食らうと、ふらふらとよろめいて舷側から足をすべらして海に転落していった。

「うわーぁ……」

 間の抜けた声の後で水しぶきの音が聞こえてきた。どうやら奴も、自分が助かるのに魔法を使いきってしまっていたらしい。水軍司令官だから、まあ溺れはしないと思うが、ビダーシャルは憑き物が落ちたような表情を見せて息をついた。

「ふぅ……どうも、失敬いたしました統領閣下、お見苦しいところをお見せしてしまいました」

「かまわんよ、わしもいい加減殴ろうとおもっとったところじゃ。今より三十ほど若かったら、先にあやつの鼻っ柱に一発おみまいしてやったのじゃがのう。残念じゃわい、ほっほっほっほ」

 老体で正拳突きの素振りをしてみせたテュリュークのしぐさに、ビダーシャルも声を出して笑った。

「はっはっはっは、それは申し訳ありませんでした。ところで統領閣下、私は人間たちの社会で、ひとつなるほどと思わされる言葉を聞いてきましたが、知りたくはありませんか?」

「ほう? おぬしほどの者がうならされるほどの名言が人間たちにあったのか。それはぜひとも、ご教授願いたいのう」

 するとビダーシャルは、常に冷静沈着さを保っている彼としては珍しく、口元にいたずらっぽげな笑みを浮かべて言った。

「『バカは殴らないと治らない』のだそうですよ」

「ぷっ、はっははははは! それは確かに道理じゃな。奴にはこの上のない薬じゃろうて」

 テュリュークは、何十年ぶりになろうかというくらいに腹を抱えて大笑いした。

 どうやら、船べりの下からイルカの鳴き声が聞こえてきたところから、エスマーイルの奴もイルカに拾われたらしい。悪運の強いやつだが、万一溺死でもされたら夢見が悪いのでほっとした。

「エスマーイルは、これからどうするのでしょうね?」

 ビダーシャルが聞くと、テュリュークはあごに手を当てて考え込むしぐさをした。

「もう鉄血団結党はほぼ壊滅じゃろうし、評議会にも戻れまい。自分の親派の残党を集めて活動くらいはできるじゃろうが、これからネフテスも変わっていく。奴の居場所は少なくなっていくじゃろうな」

「彼は優秀な男です。できうるならば、目を覚ましてもらいたいものですが……」

「そうじゃの、だが狂信者に狂信を捨てろということは、すべてを捨てろということと同じなのじゃよ。恐ろしいものじゃ狂信とは、人を思想の奴隷に変えてしまう……わしらも、一歩間違えればどうなっていたことか」

 テュリュークは、エスマーイルは憎むべき狂信者であったが、その一面においては犠牲者であったのだと、わずかに彼に同情して、ビダーシャルも同意した。

「奴も生まれる時期が違えば、英雄として名を残したかもしれませんな。私は、統領閣下と働けることを誇りに思いますよ」

「なんの、歴史の流れが見えないほどもうろくしてはおらんつもりじゃよ。思えば、わしらと彼らが何千年もくだらないいさかいを続けてさえいなければ、あんな悪魔どもにつけこまれはしなかったかもしれん」

「ええ……人間とエルフ、その祖は同じであったかもしれないのに、恐らくはいさかいが長引くうちに、いつかいつかと解決を先送りにしてきたのが今日を招いてしまったのでしょう。そのツケは、清算しなくてはなりません」

 ビダーシャルとテュリュークは同じ意味の笑いを浮かべた。ハルケギニアが狙われているのも、ネフテスが危機に瀕しているのも、元を辿れば自分たちの愚かさが原因と言わざるを得ない。確かに、この世界を破壊しようとしているのはヤプールだが、そのヤプールに居座られるほど居心地のよさを感じさせ、あまつさえ力を与え続けてきたのは人間とエルフの生み出してきた歪んだ心にほかならない。

 その腐った鎖を断ち切る、そうしなければどんなに軍事力を高めようが、ヤプールには絶対に勝てない。

 互いを拒否し合ってきたハルケギニアとネフテスは、実はとてもよく似た世界であった。わずかなりとて相手に触れ合った東方号の人間たちはそれを実感し、逆に人間世界を長く見てきたルクシャナや、ここにいるビダーシャルも、人間への偏見を完全に捨てきれなくとも、それしか道はないことを理解していた。

「私も、偉そうなことを言わせてもらえば、我ら全員が子供だったのかもしれませんな。大人ならば、感情ではなく理性で相手を見なければならないというのに……統領閣下、もしものときは私もお供いたしましょう」

「なにを言う、ビダーシャル君。犠牲がいるとしたら、老い先短いわしだけでじゅうぶんじゃ。君はまだ若い、なにより蛮人世界に誰よりも通じている君がいなくては、誰が何も知らない同胞たちを導けるというのかね?」

 人にはそれぞれ役割というものがある。ほとんどのエルフは人間世界のことはなにも知らない、それを矯正するには肌で経験してきた者が不可欠、そのためにもビダーシャルは死んではいけない。そしてそれは人間世界にしても同様で、ブリミル教の教義によって歪められて伝わってきたエルフの印象を変えていくには、東方号の少年少女たちの生の体験が必要不可欠となるだろう。

 この戦いは、どんなに勝ち目がなくとも逃げるわけにはいかない。未来を放り投げることになるから、エルフだけの力でも、ましてや人間だけの力では到底ヤプールに勝てるはずはないのだから……

 決して楽ではない未来を見据え、決意を固めるテュリュークとビダーシャル。ふたりの見上げる前で、希望の象徴たるウルトラマンたちは陽光を浴びて力強く輝いていた。

 

 ヤプールの気配が完全に消え、安全を取り戻したアディールを見渡したエースとコスモスは、そこで手を振る人々に、自分たちは役割を果たしたことを確信した。しかし、エースには去る前にどうしてもコスモスに聞いておかねばならないことがあった。

 

「コスモス、この星をかつて襲った災厄とはいったい? 私たちは、その答えを知りたくてこれまで戦ってきたんだ」

「それは……」

 

 コスモスの口から、才人たちが知りたかった謎の一端が明かされていった。それは、事実の完全な形ではなかったが、これまで不明瞭なものであったパズルのピースの多くを埋めることが出来た。六千年前にこの世界で起こった争いと、そこに襲い掛かった恐るべき勢力のことを。

「そうか……そのときの戦いの記録が、伝説となって残っていたんだな。しかし、伝承が不完全だったのは、それだけその戦いがすさまじかったということか」

「そうだな。私が、この星にたどりついたときにはすでに手遅れに近い状態になっていた。私は、この星に残った者たちと力を合わせて戦ったが、勝ちはしたものの星の生態系はもはや手がつけられなかった。私は、守りきることができなかった……」

「いや、君のせいではない。この星は、長い年月をかけたが立派に再生を果たした。君のおかげだよ!」

「ありがとう。だが、この星はまた滅亡の危機に瀕している。私は、あの悲劇を二度と繰り返させはしない」

「ああ、ともに戦おう!」

 エースとコスモスは視線を合わせ、互いの意思を確認しあった。

 だが、コスモスにはまだエースの誘いを受けるわけにはいかない理由があった。

「君の誘いはうれしいが、私はまだこの星で自由に戦うことはできない」

「そうか……君もウルトラマンだったな。わかった、そのときが来るまでは私たちがこの星を守っていよう」

 エースはコスモスからの頼みを受けた。コスモスが、この星を守るために戦うことができるようになるためのある条件がそろったときにこそ、本当に共に戦おう。そしてそのときは、決して遠くはないことだろう。

 

 カラータイマーの点滅が高鳴り、活動限界が近づく中でエースとコスモスはもう一度アディールを見渡した。

 街は無残に破壊されているが、そこにいる人々の顔は決して暗くはない。街は失ったが、代わりに大きなものを手に入れた。壊れた建物は直せばいい。エルフの建築技術を用いれば、前よりも美しい街をきっと作れるだろう。しかし、失われた命は返らない……生き残れた喜びをかみ締める人々は、本当に大切なものを確かに胸のうちに刻んだ。

 そして、コスモスは最後に東方号でやすらかな寝息を立てているティファニアに思いを寄せた。あの輝石は、コスモスがこの星にまた災厄が訪れたときのため、万一に備えて残していったものだった。しかし、あの輝石は心の清い者が持たなくては役割を果たすことができない。彼女が強い思いでみんなのために祈ってくれたからこそ、コスモスは銀河のかなたからこの星の危機を知り、駆けつけてくることができた。

「この星の未来を信じて、それを残していったのは間違いではなかった。君ならば、あるいは……」

 思いを残し、コスモスは空を見上げた。

 アディールの空は澄み渡り、そこに流れる雲は綿菓子のように白くやわらかそうに見える。この空こそ、自分たちが命をかけて守るべきもの! エースとコスモス、ふたりのウルトラマンは、大勢の人々の見送りを受けて飛び立った。

 

「シュワッ!」

「ショワッチ!」

 

 あっというまに銀色と青色の光が空のかなたへと消えていった。

 そして、ウルトラマンたちに続いて怪獣たちもアディールに別れを告げていった。

 リドリアスとヒドラが翼を広げて空へと舞い上がっていく。彼らの行く空は東か西か、どこを目指しているのかは誰も知らない。

 ゴルメデは、地底へと砂煙を立てて潜っていき、みるまに穴だけ残して消えてしまった。

 彼らも、戦いが終われば自分たちの存在が邪魔になることは知っている。それは差別ではなく、生き物には住み分けがあるということだ。だから追ってはいけない、彼らには彼らの安住の地があるのだから。

 今度会うのは、またどこかの戦いでか? そのときがやってくることを望みはしないが、恐らくは避けられることはないだろう。しばしの間、君たちも安息をとってくれ。その日は少なくとも、明日や明後日ではないのだから。

 

 ウルトラマンも怪獣たちも去り、アディールにはエルフと人間たちが残った。

 それからのことは、くどくどしく語る必要はない。ただ、エルフたちは自分たちのために命をかけて戦い、多くの仲間の命を救ってくれた人間たちを、ともに力を合わせて悪魔と戦った人間たちを、正当に迎え入れたということだけなのだから。

 

 東方号はその巨体ゆえに港に接岸することはできないために、洋上に錨を降ろして停泊した。

 人々は地上へ戻り、家が残っている者は帰宅し、家がなくなっている者は魔法で仮の住宅を作った。この手際のよさは、さすがに人間の何倍も強力な先住魔法を行使できるエルフならではであった。ほんの数時間の休息で回復した精神力で、並の土のメイジ顔負けの芸当を誰もがあっさりとこなしてしまった。

 そして、人間たちは……テュリュークらに招待され、評議会議場が建っていた場所で、全市民に向けて大々的に紹介がおこなわれた。彼らが平和の使者であり、人間とエルフの無益な争いを終わらせようとしていることなど、すでにティファニアによって語られていたとはいえ、あらためて発表されたそれは歓呼を持って迎え入れられた。

 アンリエッタからの親書が正式にテュリュークに渡され、ハルケギニアでの現状が市民たちに説明される。それによって、市民たちは世界の滅亡が知らないうちに間近にまで迫ってきているという危機感を深くした。

 

 しかし、固い話はそこまでで、以降は人間たちとの交流を深めるためのパーティとなった。幸い、街の災害時の食料庫は地下にあったために無事であり、市民全員に簡素ながら食事が支給された。すでに周辺の街や村には使いが出されており、物資は明日にでも届けられるだろう。

 明日からは、目が回るほど忙しくなる。だが今日くらいは、歴史に残るであろう記念日の今日くらいははめを外してもいいのではないか? もう誰も友なのだから。

 

 水精霊騎士隊、銃士隊は大歓迎され、あちこちで酒の席に呼ばれた。そこで、ギーシュをはじめ猛者たちが残した武勇談の数々は、列挙していたらそれだけで本が一冊できあがるだろう。銃士隊は、男顔負けの勇戦ぶりと、救命を受けた人たちから褒め称えられ、気を抜く暇もないと皆ため息をついていた。

 コルベールやエレオノールは、この機会にエルフの進んだ技術を学んでおきたいと望んだが、せっかく平和の使者として来たのにそんなことをすればスパイのようなものだと、残念ながら自重した。

 ルクシャナは、ハルケギニアでの自分の活躍っぷりを大声で吹聴してまわっている。これまでネフテスでは、自分の研究が認められてこなかったので本当に楽しそうだ。聞くエルフたちも、これまで間接的な伝聞によって、しかも強い偏見を混ぜた内容でしか知らなかったハルケギニアの様子を興味深そうに聞いている。

 ひとり、ティファニアだけは疲れが限界にきたのか東方号でぐっすりと眠っていた。その傍らでは、ファーティマが寝顔を眺めながらひとりで杯を傾けていた。不思議なものだ、あれほど殺してやりたいと思っていた相手なのに、こいつに自分も含めてすべて救われてしまった。

 

 

 そして……喧騒を離れて人気のない瓦礫の山の傍らで、静かに立つふたりの男女。

 この世界の誰もの運命を変えた、原初のふたり。

 

「ようルイズ、どうした? 外交努力は貴族の責務じゃなかったっけ」

「うっさいわね、サイトあんた最近調子に乗りすぎじゃない? わたしにだって、静かに飲みたいときはあるわよ。それに……そろそろ、あんたとも一度ゆっくりと話し合いたいと思ってたしね」

 

 青と赤の二つの月は天頂に輝き、肌寒い砂漠の夜はまだ始まったばかりだった。

 

 

 続く


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