ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第95話  アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! (後編)

 第95話

 アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! (後編)

 

 友好巨鳥 リドリアス

 古代暴獣 ゴルメデ

 高原竜 ヒドラ

 古代怪獣 ゴモラ

 古代怪獣 EXゴモラ 登場!

 

 

 新たな奇跡が、ここに展開されていた。

 人間とエルフのすべての武器も魔法も尽き、ウルトラマンも満身創痍の窮地。絶体絶命の大ピンチ。

 もはや、戦える者が誰もいなくなったと思われ、ヤプールが勝利を確信したときに、立ち上がっていった者たちがいた。

 しかし、彼らはこの星の一員であったが、人間でもエルフでも、ましてやウルトラマンでもなかった。

 

 雄雄しい遠吠えをあげながら団結し、立ち向かっていくのは怪獣たち。

 ゴモラ、ヒドラ、リドリアス、ゴルメデ……この星で生まれ育った怪獣たちが、故郷を守るために怒り狂う漆黒の魔獣に挑んでいく。

 その、ありえないような新たな敵の出現に、ヤプールは怒りの臨界点を超えて叫び狂った。

 

「おのれぇ、おのれぇ! あと一歩でウルトラマンどもにとどめを刺せるというところだったというのに、なんだこの怪獣どもは! なぜわしの邪魔をする。人間どもといい、エルフどもといい、どいつもこいつも不愉快極まりない。かまわん! 一匹残らず叩き潰せ! 動くものはすべて屍に変えてしまうのだぁーっ!」

 

 怒りに燃え上がり、ひたすら破壊にすべての解決をヤプールは求めた。その思考と、限りなく湧いてくる憎悪の力は、まさしくヤプールが本物の悪魔であることの証だといえるだろう。だが、ヤプールはその悪そのものの思考のために気づいていなかった。すべてを暗黒に染め上げ、破壊しつくそうとするヤプールに抗おうとするのは、生き物ならば皆が持つ生きようとする強い意志。誰だって、自分を殺しに来る相手を無抵抗で迎えたりはしない、猫に追い詰められた鼠しかり、シマウマだって追い詰められればライオンを蹴り殺そうとする。

 それが生きとし生けるものの本能であり、その点では怪獣もなんらも変わりない。善悪を超えた、それが生命の摂理。ヤプールは、この星の生命すべてを敵にまわしてしまったのだ。

 

 人間とエルフの見守る前で、怪獣たちとEXゴモラの戦いが始まった。

「おお! まずはあの巨竜がゆくぞ!」

 先陣を切って突進し、角をかち合わせるゴモラ。オリジナルとフェイクとはいえ、ゴモラvsゴモラの夢の構図が生まれた。

 EXゴモラの巨大化した爪の一撃をかわし、くるりと回転して得意技の尻尾の殴打をおみまいするゴモラ。相手は自分の遺伝子からコピーされた、ある意味自分自身といえる存在だから、その攻撃パターンも当然お見通しなのだ。

 ウルトラマンをも一方的にノックアウトした尻尾連打を受けて、さしものEXゴモラも足元がふらつく。しかし、強靭な皮膚は打撃をまったく受け付けず、EXゴモラも尻尾を振って反撃してきた。尻尾と尻尾が空中で激突しあい、その衝撃で周囲に雷鳴のような轟音が鳴り響いた。

 しかし、純粋なパワー勝負となったらコピー体とはいえEXゴモラに大きく分があった。オリジナルのほうが吹っ飛ばされて転倒し、EXゴモラは追い討ちをかけようと足を振り上げる。

 そのときだった。今度はゴルメデがEXゴモラに組み付いて押し返してゴモラを助けた。もちろん、ゴモラでさえまったくかなわなかったEXゴモラを相手にゴルメデの力では歯が立たずに軽くなぎ倒される。が、ゴルメデへの報復もまた成功しなかった。後頭部に飛んできたヒドラが飛び蹴りを食らわせ、不意打ちでバランスを崩されたEXゴモラは無様にすっ転ばされてしまった。

 よくもやったな! 怒ったEXゴモラは空に向かって尻尾の先を向けた。対空用の武器を持っていないのがゴモラの弱点のひとつでもあるのだが、EXゴモラには伸縮自在のテールスピアーがある。串刺しにしてやるぞと、空を睨んでヒドラに狙いを定める。

 しかし、またしても妨害が入った。テールスピアーを放とうとした瞬間、高空からリドリアスが放ってきた光弾が周辺で炸裂して、炎と煙がEXゴモラを包んだ。その威力自体はEXゴモラにダメージを与えられるものではなかったが、爆煙で視界がふさがれたためにヒドラの位置を正確に把握することができなくなり、放たれたテールスピアーは空振りして虚しく宙を切った。

 その隙を突き、二匹同時に突進してEXゴモラを吹っ飛ばすゴモラとゴルメデ。空中から援護態勢を整えるヒドラとリドリアス。彼らの四身一体の攻撃によってEXゴモラは翻弄され、持ち前のパワーを炸裂させられずに踊っているようだ。

〔やるな、あいつら……〕

 エースの視界を借りて見ながら、才人は内心で怪獣たちの戦いに感心していた。もう生命エネルギーのほとんどをエースに譲ってしまって、ルイズともども見るくらいしかできないのだが、それでも怪獣たちが連携して自分たちよりはるかに強力な敵と互角にやり合っているのはすごいと思った。

 それはルイズも同じで、実家で過ごしていた頃に数回父や母と狩りに出かけたときのことを思い出していた。あのとき父はこう言った。「いいかルイズ、野生の動物は人間が想像するよりずっと賢いものだ。彼らは過酷な自然の中で生き抜き、数年で戦いのプロに成長する。むしろ自然の中で人間ほど無知で弱い生き物はないと言っていい。お前も大人になれば思い出す日も来るだろう。我ら人間、万物の頂点などとうぬぼれても、しょせんできないことのほうがはるかに多いのだ」

 結局その日は一頭の鹿も獲ることができず、腹を立てたルイズは無理矢理その日のことを忘れてしまった。しかし、きちんと思い出してみれば、鹿一頭にすら勝てなかった自分と、EXゴモラは似たようなものだと思った。ただ力まかせに考えもなしに突っ込んで、せっかくのパワーを無駄遣いしてしまっている。

〔あの子たちの戦い方……むしろ、わたしたちよりうまいくらいじゃないの〕

 効率よく剣を振ったり、隙なく魔法を使う訓練ならばみんなしてきた。しかし、怪獣たちはそんなものはなくとも互いを補い合って、常にどれか一匹が支援に回れるように立ち回っている。彼らの無駄のない動き……いや、むしろ逆だろうとルイズは思った。人間はなにかと余計なことを考えてしまうから無駄ができる。しかし、怪獣たちは常に自然体だ。その戦い方が、パワーにまかせて暴れるだけのEXゴモラには捉えられないのだ。

〔お父さま、今ならあのときおっしゃられたことの意味が、少しわかるような気がします〕

 どんなにすごいパワーを手にしようとも、それはしょせん大いなる自然という手のひらの中の子ネズミに過ぎない。自然を無視して力だけ求めても、世界そのものである自然にはかなわない。わたしたちは、みんなちっぽけな存在なのだから。

〔サイト……やっぱり、ヤプールは間違ってる。あの怪獣は、とんでもなく強いけど……わたしたちは、負けない!〕

〔おれもそう思うぜ。ゴモラたちが教えてくれた……いくら力だけ最強でも、心がともなわなっちゃ不完全だ。あんなやつに、負けてる場合じゃねえよな。寝てる、場合じゃなかった!〕

 ゴモラたち怪獣の勇姿が、途切れかけていた才人とルイズの闘志も蘇らせた。ただ強いだけの化け物に屈するなんて、そんなのは負け犬の、弱虫の泣き言だ。力ではるかに負けていても、戦う手段はいくらでもある。怪獣たちが、それを教えてくれた。

 だが、今は互角に渡り合っても、怪獣たちにはEXゴモラの固すぎる防御を破る手段がない。このままでは遠からず、疲れた怪獣たちはテールスピアーで打ち落とされ、叩きのめされてしまうだろう。やるならば今しかない! 怪獣たちだって頑張っているのに、おれたちが悠長におねんねしている場合じゃない!

「シュワッ!」

「エイヤッ!」

 ふたりの闘志に呼応して、エースとコスモスも心の底から新たな力を生み出した。この命燃え尽きるまで戦うのが、平和の守護神であるウルトラ戦士の義務! 二大ウルトラマンの復活と参戦に、エルフと人間たちは希望を見出し、ついに戦いは最終ラウンドを迎えた。

 

 二大ウルトラマン&怪獣軍団vsEXゴモラ

 

 歴史上二度とないかもしれない幻の対戦カードがここに切られ、最強怪獣に皆は団結の力で挑んでいく。

 ひとりひとりの力では不足でも、力を合わせて連携すれば巨大な力となる。

 ゴモラとゴルメデの体当たりで揺らいだところに、コスモスが渾身の力を込めてパンチを放つ。すると、これまでどんな攻撃にもびくともしなかったEXゴモラがふらついた。効いているのか? そういえば、メビウスが地球に来る前に、ウルトラマンタロウはメビウスから「攻撃の効かない敵と戦うときにはどうすればいいのか」と質問され、こう返したという。

「私なら、とにかくいろいろやって相手に隙を作る。普段は強くとも、隙を突かれた相手はもろいものだ」

 確かに、完全無欠の防御力を持ったEXゴモラといっても、受ける姿勢が悪ければ衝撃を余計にもらってしまうだろう。実際にはほとんど効いていないも同然のダメージだろうが、それでも鉄壁の牙城にわずかなひびがはいった。

 EXゴモラは、ほんのわずかでも痛みを与えられたことに怒り狂い、テールスピアーを連射してきた。一撃でダイヤモンドだろうが風穴を空けるであろう無双の槍の穂先が秒単位で飛んできて、コスモスたちは後退を余儀なくされた。

 しかし、その後方から死角を突いてエースが急降下キックの態勢に入り、リドリアスとヒドラも続く。ただし、EXゴモラも二度も三度も同じようにやられたらさすがに学習する。空に向かってテールスピアーの穂先を変え、対空攻撃を仕掛けてきた。鋭い尻尾の先がまっすぐにエースや怪獣たちに向かう。

”危ない!”

 人々は悲鳴をあげた。ビダーシャルやアリィーのような戦士も、あれは避けられないと最悪の結果を想像して背筋を寒くした。

 けれど、かつてウルトラマンレオはメビウスにタロウにしたのと同じ質問をされたときに、こう答えたことがあった。

「いい方法は見つからなくてもとにかく粘る。ピンチのときこそ、逆にチャンスだと考えるんだ」

 ウルトラ兄弟の中で、もっとも多くの苦難を乗り越えてきたレオだからこその重い一言だった。ピンチこそチャンス、その言葉を実践するために、エースはテールスピアーに臆することなく急降下し、空中で回転して紙一重でこれをかわしきってしまった。

”なんと!”

 今の攻撃は絶対にかわしようがなかったはずだ。しかし、空中で重心を微妙に変えることで軌道を変更し、直撃コースからほんのわずかだが身を逸らしてしまった。

〔タロウのスワローキックを真似してみたが、即興にしては上出来かな?〕

 エースはひとつ下の弟の十八番を少々拝借してみたのだった。もちろんタロウのオリジナルには到底及ばないし、本人が採点したら精々二十点くらいだと辛い評価をされるだろう。だが付け焼刃でも、今この状況を脱することができれば上等だ。

 EXゴモラの背中に急降下キックをお見舞いするエース。その一発だけではびくともしないだろうが、続いてエースが開いた活路からヒドラが突撃し、EXゴモラを顔面から地面に叩きつけた。さらに離脱のときはリドリアスがかく乱し、EXゴモラは反撃もままならない。

 それでも、瓦礫と炎の中から鋭い牙と爪を振りかざしてEXゴモラは起き上がってくる。腹立ちまぎれに振り回した尻尾は街の一区画を瞬時に瓦礫の山に変え、石造りの家が砂のように握りつぶされてしまう。

”奴は、不死身か……”

 恐るべきパワーと耐久力、EXゴモラはまだ少しも弱っていない。対して、戦いの主導権を握っているとはいっても、ウルトラ・怪獣連合軍はギリギリのところで力を振り絞っているのに変わりない。一人一体でも攻撃を食らえば、そこから連携は崩れて一気にやられてしまうだろう。

 しかし、それでも”負け”はしない。何度でも、何百回確かめてもよいが、もう我々が倒されることはないのだ。

 EXゴモラが不死身なら、俺たちもまた不死身! 揺るがない使命感と意志を秘めて、ウルトラマンたちは立つ。

 

 

 だが、どんな攻撃を加えても立ち上がってくるウルトラマンたちの奇跡の力を、もっとも恐れているのはほかならぬヤプールだった。光の力の根源を、闇の存在である自身は理解できなくとも、どんなに計算高く作戦を立てても、それを乗り越えていく力を彼らが持っていることだけは理解していた。

 そして、光の力の根源とはなにか。それを潰さない限りウルトラマンには勝てない。ヤプールはついに勝利のために打算を捨てて叫んだ。

「そうか、貴様らの不条理な力の源がようやくわかったぞ。こざかしい虫けらどもを守るために力を出せるのが、貴様らであったなあ……だったら、フフフフ……決めたぞ、貴様らの力の源となるものすべてを奪いつくしてやるわ!」

 天空を黒い雷光が貫き、何十本もの漆黒の竜巻が黒雲から地上に向かって伸びた。

 これはもはや自然現象ではない。ヤプールの憎悪がそのまま形となった、殺戮の終末現象である。雷は地上をえぐり、竜巻は進路上のものすべてを巻き上げて粉砕しながら、エルフたちを無差別に抹殺しにかかった。阿鼻叫喚の中で逃げ惑う人々、それを見てヤプールは狂気の声をあげる。

「フハハハ! ハーハッハッハ! 守るべきものどもがいなくなれば、貴様らももはや力を出すことはできまい。このまま、この街の住人すべてを殺しつくしてくれるわ!」

「ヤプール! 貴様、なんてことを!」

「ウワッハッハハ、悔しがるがいい、焦るがいい。もうマイナスエネルギーの採取も、絶望の叫びもどうでもいい。どうせこの星の生命すべてがいずれ滅ぶのだ。今は貴様らを始末できさえすれば、ほかはどうでもいいわあ!」

 エースの叫びに、ヤプールは破滅の雷をさらに激しく降らせた。容赦なく破壊されていく街並みと、飲み込まれていく人々。だがそれは裏を返せば、ヤプールも追い詰められている証といえた。これで、アディールの住人からのマイナスエネルギーの回収ができなくては、消費したぶんと差し合わせて元が取れなくなり、ハルケギニア制圧から地球への侵攻に大きな遅れが出ることになる。これまでは採算を考えて、エルフたちを嬲り殺そうとしてきたヤプールだったが、とうとう採算をかなぐり捨ててまで勝ちにきた。

 卑怯者め! 抵抗する術を持たない人々を殺して、それでなお勝ちたいというのか。

 だが、これが有効な手段であることだけは認めざるを得ない。人々を狙えば、人々を守るために戦うウルトラマンは落ち着いて戦うことが出来ない。雷で打たれて吹き飛ばされる人々を見てエースは動揺し、あわやテールスピアーの餌食になりかけた。

 EXゴモラは絶対に自分たちを逃さないつもりだ。釘付けにしてるうちに、ヤプールがアディールの市民を皆殺しにして、しかるのちに邪魔者をまとめて叩き潰す気だ。だが、今でさえやっと抑えているEXゴモラへの包囲を崩すことはできない。

 けれど、そのときだった。エースたちの苦境に気づいて、東方号の甲板から声がした。

 

「ウルトラマーン! こっちはまかせろーっ! 街の人たちは、ぼくたちが助けるさーっ!」

 

 そこでは、ギーシュたち水精霊騎士隊の少年たちが包帯まみれになりながらも、人々を東方号に救い上げている姿があった。東方号は、多数の雷に打たれて炎上しながらも、いまだその城郭のごとき威容を保ち続けており、いくら打たれても揺るがない巨体を洋上に保ち続けている。

 それはまさしく、不沈の大要塞。人々を頑強な鋼鉄の壁で守り続け、我が身を削ることをいとわずに浮き続ける威容で希望を与え続ける。かつて「大和が沈むときは日本が沈むとき」と呼ばれたそうだが、まさに「東方号が沈むときは世界が沈むとき」と呼んでもよかった。しかし東方号が大和と違うのは、国境線で囲われた国などというものではなく、生きとし生けるものをあまねく守る、『平和の不沈艦』であることに他ならない。

 人間にもエルフにも命の重みに差などない。生物としてのわずかな差異など、世界全体、宇宙全体のレベルからしたらないも同然の些細な差なのだ。それに無理に違いをつけたがるのは、地球でも肌の色や生まれた区域、血統や身分の差で語るのもおぞましい醜悪を繰り返したこととまったく同じ。ほんのわずかでも他人と差をつけて偉くなった気になりたい卑小なプライドから来る、お山の大将どもの思考に過ぎない。

 それに気づいた人間たちは今や、この地にやってきた目的よりも、目の前の人々を救うために力を尽くす。水精霊騎士隊は気力を振り絞って自力以上の力を発揮し、その中には、アディールの一般市民と見えるエルフたちの姿もあった。人間とエルフが力を合わせてひとつの目的に邁進する。絶対に不可能だと思われていたことも、こんなに簡単なんだった。

 手を貸してくれるエルフたちと助け合い、水精霊騎士隊は東方号を守り、その中に逃げ遅れていた人たちを収容していく。彼らを代表して、ギーシュはすっかり薔薇の花びらがなくなり、ただの棒っきれになった杖を振りながら、下手くそに巻かれた包帯をたなびかせながらもう一回叫んだ。

 

「ぼくたちは大丈夫さ! こんな程度でやられるほどやわな鍛え方はしてないってね。銃士隊の特訓を耐え抜いたぼくらの根性をなめないでくれたまえ。さあ諸君、もうひと頑張り声出していくぞ!」

 

 ギーシュも、すっかりリーダーとして板についてきたなと才人は思った。あいつは元々人目を恐れないタイプだが、それと集団をまとめられるのとは別のことだ。しかし、バカでスケベであっても陽の気質の持ち主であるために、仲間たちは信用はしなくても信頼を置いて、足りないところを補い合っていける。

 まったく、人間は変わるときには信じられないほど変わる。ギーシュを入学時から知っているルイズも、あのバカも少しは見直してもいいかもと認めざるを得なかった。もちろん、がんばっているのはギーシュだけではなく、ギムリやレイナールたち見知った連中や、艦橋頂上ではまだティファニアとルクシャナが頑張っている。

「コスモス、わたしたちも最後まであきらめない。あなたが、みんなが安心していられるように、わたしも戦いが終わるまでここに立ち続けます。わたしにはそれくらいしかできないけど、それくらいならできるからがんばるから!」

 コスモスは、ティファニアのほうを一瞬だけ見てうなづいた。本当に、若者の成長の速さというものは大人が思っている以上に早い……正しく伸びるその先にこそ、希望の未来はあるのだと信じられる。

 エースとコスモスは、街の人々は彼らにまかせて大丈夫だと託した。今、自分たちがやらねばならないことは、ヤプールの最後の切り札であるEXゴモラを止めることだ。役割を見失ってはならない!

「いくぞ!」

 覚悟とともに、エースとコスモスは怪獣たちとともにEXゴモラに最後の戦いを挑んでいった。

 正義と悪、使命感と執念、勇気と怨念、そして死力と死力がぶつかり合う。

 テールスピアーをかいくぐってエースのキックが炸裂し、コスモスのチョップが角を打つ。

 ヒドラとゴルメデの火炎が同時に命中するが、EXゴモラの表皮には傷ひとつついていない。さらにリドリアスが空中から攻撃をかけようとするが、EXゴモラも今度は直接落とそうとはせずに、いったん地中に尻尾を潜らせてから地表に飛び出させて攻撃する奇襲技『テールアッパー』で撃墜を図ってきた。

 避けきれず、胴を打たれて悲痛な声をあげつつ墜落するリドリアス。ふいを打たれた仲間を助けようと、ゴモラがEXゴモラに密着して、超振動波のゼロ距離攻撃を加えて吹き飛ばした。しかし、並の怪獣相手ならば確実に致命傷となるであろうこの攻撃を受けても、EXゴモラにはほとんどダメージは見当たらなかった。

 やはり強すぎる……なんとか、こいつの不死身を破る方法を見つけなくては。いくら強くても、この世に完全無欠なんてものはありえないはずだ。必ず弱点はある、それさえ見つけることができれば!

 だが、業を煮やしたEXゴモラは再びあの大技を狙ってきた。EXゴモラの体に赤く輝く超エネルギーが集まり、EX超振動波が放たれた。エネルギー規模にしたら、ウルトラマンの必殺光線の数百倍はあるのではないかというそれが、彗星のようにすべてを粉砕しながら進み、ウルトラマンと怪獣たちを跳ね飛ばしていった。

「ウワァァッ!」

 どうやら、速射性を重視してエネルギー充填をしぼったらしい。避けられなかったが、本来なら殺されたところを、それでも大ダメージは受けたが吹き飛ばされただけですんだ。だが、なお勢いを衰えさせない超振動波は街を粉砕しつつ海に飛び込み、巨大な水柱を立ち上げて海上の人々を飲み込んだ。

〔し、しまった!〕

 海には、まだ避難し切れていない人々が、さらには救助にあたっていた銃士隊がいた。もうかなりの住民は東方号に乗り込んでいるとはいえ、少なからぬ人数が残っていたはずである。みんなが……才人の心に冷たい霜がまといつく。

 台風の海のように荒れ狂ったアディールの洋上で、いくつもの船が転覆して船腹をさらしていた。飲み込まれた人たちは……おぞましい予感に、目を凝らして海面を才人はなでた。やがて、エルフや銃士隊が何人も海面に顔を出してくる。そして、一艘の奇跡的に転覆を免れたボートに、ふたりの銃士隊員に肩を貸される形でミシェルが引き上げられてきたとき、才人は心臓をわしづかみにされたような悪寒を覚えた。

「副長、しっかりしてください!」

 ふたりの銃士隊員の必死の人工呼吸などの蘇生術が、呼吸の止まったミシェルにかけられた。戦闘のプロである彼女たち銃士隊は、当然ながら救命技術にも習熟している。慣れた手つきでの蘇生処置で、数秒後にはミシェルは口から海水を咳き込みながら吐き出して息を吹き返した。

 だが、気を取り戻して開口一番、ミシェルは「よかった、副長」と話しかけてくる部下たちを一喝した。

「お前たち、何してる。まだ、我々の仕事は終わっていないんだぞ、任務に戻れ! わたしのことは、ほっておけ!」

 有無を言わせぬ強い口調に、部下の騎士たちは一瞬だけ敬礼をとると海に飛び込んでいった。海中にはまだ沈んだままのエルフたちが残されている。イルカや水竜が背中に乗せて浮き上がらせているが、いかんせん彼らでは引き上げることはできても蘇生処置はできないし、なにより数が足りない。

 しかし、自分も死に掛けておいて、なおかつまたいつ転覆するかもしれないボートの上にひとりで残るとは、なんて強い人だと才人は息を呑んだ。しかも、まだ体も自由に動かずに、溺れる恐怖も強く残っているだろうに……

 けれど、ミシェルはやせ我慢や単なる軍人精神で言ったのではなかった。部下たちが行ってしまうと、彼女はふうと息をつき、ボートのふちに寄りかかりながら、ウルトラマンAのほうを望んでつぶやいた。

 

「ふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。わたしはもう、昔のひとりぼっちだったころのわたしじゃない。離れていても、今のわたしにはたくさんの仲間たちがいるさ。この胸の中に、かけがえのないみんなの魂がいっしょにな。だから、心配するな……この想いがある限り、わたしは負けない。見えているさ、今でも空のかなたにウルトラの星が」

 

 にこりと、濡れた青い髪を手で払って微笑んだミシェルの輝いた顔に、才人は思わずどきりとした。

”まさか……もしかして、あなたはおれのことを……”

 あの雨の日の記憶が、鮮明に蘇ってくる。けれど、いったいどこで?

 しかし、それとは別にミシェルの言葉から才人は重大なヒントを預かっていた。

〔胸の中に、みんなの魂が……そうか! その手があったんだ!〕

〔ちょ、サイト、いったい急にどうしたの?〕

 突然叫んだ才人に、ルイズがいぶかしげに問いかけてくる。すると才人は、ウルトラマンコスモスにも聞こえるように、エースの念波を借りて早口で説明した。

〔あのゴモラは、実体はひとつだけど、たくさんの超獣や怪獣の怨霊が合体したものなんだ! 外からの攻撃をいくら受け付けなくても、融合している怨霊に働きかけることができれば……コスモス!〕

〔なるほど、霊魂を邪悪な力で無理矢理結合させているのであれば。やってみる価値はあるな!〕

 コスモスは、才人の意見に強くうなづいた。攻防ともに無敵を誇るEXゴモラを止めるには、もうその方法しかあるまい。暴力に暴力で対抗するのではなく、心に訴えかける力。それができるのはコスモスしかいない。

 エースは、そして怪獣たちは最後の力を振り絞ってEXゴモラに挑んでいった。ほんのわずか、ほんのわずかな時間でいいから、EXゴモラの動きを止め、コスモスから意識を反らせられればそれでいい。ボロボロになり、何度も叩き伏せられながら、それでも宝石の一瞬を求めて挑みかかっていく。

 そして、ついにその時はやってきた。EXゴモラの動きが止まり、視線がコスモスから外れている。

 今だ、これが正真正銘最後のチャンス……皆の期待を一身に背負ったコスモスは、心を落ち着かせてコロナモードの変身を解いた。

 

『ウルトラマンコスモス・ルナモード』

 

 強さから優しさの元の姿へ、青い姿へと返ったコスモスはEXゴモラをじっと見つめると、こいつを生み出すために犠牲となった怪獣たちへの哀れみと慈しみを込めて、光の力を集めていった。胸を抱くように合わせた手をゆっくりと回して光を蓄え、泡のような光の波動に変えて解き放った。

 

『フィールウォーマー』

 

 感情に訴えかける光の力がEXゴモラの中に染み込んでいき、体内で渦巻いていた超獣や怪獣たちの意識に呼びかけていく。マイナスエネルギーで固定され、怨念の力を吸収され続けていた魂を光の力が覆い、彼らの自我を蘇らせていった。

 アリブンタ、アントラー、スフィンクス、オイルドリンカー、ゴーガ、マザリュース、サメクジラ、ダロン、ギロン人。ガディバによってエネルギー源として利用されてきた怪獣たちの自我の目覚めにより、EXゴモラに異変が生じ始めた。

「ヘアッ?」

 無差別に暴れ続けていたEXゴモラの動きが止まった。それだけではなく、体から黒いオーラのような漏れ出し始めている。

 あれは、怪獣たちの魂か? 見ている間に、黒いオーラは強くなっていき、逆にEXゴモラは苦しみだしているように見えた。

〔怪獣たちの魂が、反抗し始めてるのね!〕

 そうだ、そうとしか考えられなかった。ヤプールに力で支配された無数の魂が、その思念をひとつに統合できなくなって争い始めているのだ。アリブンタやスフィンクスなどの、最初からヤプールの手駒として生み出された超獣たちはよい。しかし、ヤプールのしもべでもなく、ただ暴れたいだけ暴れていたゴーガやアントラーはヤプールに支配され続けることをよしとせず、統合から逃れようともがきだしたのだ。

 さらにそれだけではない。魂を融合させているガディバと、肉体の元々の持ち主であるギロン人が主導権をめぐって争い始めた。これは俺の体だ、返せ! 復讐心や忠誠心とは別に、自分の肉体を別の存在に支配されているのは耐え難いものだ。むろんガディバも主導権を奪われまいと抵抗し、統一した意思行動は不可能になっていた。

 やるならいまだ、いましかない! EXゴモラが自由に動けない今しか、あいつを倒すチャンスはないだろう。コスモスがルナモードに戻り、再度コロナに変身するだけの力も残っていない今、戦えるのはエースしかいない。そしてそれは、怪獣たちの魂も解放してやることになるだろう。

〔才人くん、ルイズくん、悪いが、もうひと頑張り頼むぞ!〕

 三位一体のウルトラマン、エースは本当に最後の力を振り絞ってEXゴモラへ挑んでいった。怪獣たちも、唯一立ち上がれる力が残っていたゴモラが続いてくる。ゴモラも、どうあっても自分のニセモノは許せないようだ。全身ボロボロになりながらも雄たけびをあげて大地を踏みしめる様は、まさに古代の王者そのものだ。

〔ようし、いこうぜゴモラ!〕

 才人は思い切って言ってみた。ここにきて、最後の相棒がゴモラとはなんという運命の皮肉だろうか。しかし、才人は心のどこかで自分が喜んでいるのを感じていた。怪獣にあこがれて、落書きを繰り返した子供時代を持つ者だけにわかる不思議なうれしさ。ウルトラマンと怪獣が力を合わせて戦うという、夢の舞台に今自分はいる。

 キック攻撃を浴びせるエースに続き、ゴモラも前転の体勢から尻尾を激しく叩きつける荒業、『大回転打』をおみまいする。先ほどまでと違い、今度は確実に命中しているという手ごたえがあり、EXゴモラの巨体が激しく揺らいだ。やはり、奴はエネルギー源としていた怨霊とのつながりを断ち切られて、大幅に弱体化している。

 しかし、EXゴモラも、まだガディバの支配下にある超獣たちからエネルギーを受けて、まともに狙いもつかない状況からながらもテールスピアーを連続で放ち、むやみやたらに暴れてエースとゴモラを迎え撃ってくる。その、暴走そのものの反撃に苦しめられながらも、エースとゴモラは確実にEXゴモラを追い詰めていった。

”あと一息だ。もう少し、もう少しふんばれば!”

 怨霊の再統合は不可能になったEXゴモラは、攻撃力も防御力も激減し、ただ破壊衝動にのみ従って暴れるしかできない。それでも、ウルトラマンAとゴモラを相手に、互角の戦いを演じていたが、時間が経つにつれて怨霊の分裂化は進み、劣勢は覆いがたくなっていった。

 もはや、勝利は望みがたく、敗北は逃れ得ない。ヤプールは、計画の崩壊と自らの負けを悟った。しかし、このまま引き下がってウルトラマンたちやエルフや人間どもに勝利の美酒をくれてやることだけは、なんとしてでも許せなかった。

 ヤプールの目が、敗北寸前のEXゴモラに向けられる。役立たずの負け犬となった捨て駒だが、最後にひとつだけ役に立たせる方法があった。

 

「ウルトラマンA! ウルトラマンコスモス! そしてエルフに人間ども、よくぞこのわしの二重三重の構えを破ってくれたものよ。残念だが、もはやわしの負けを認めるしかあるまい。だが、貴様らだけは生かしておかん! 我がしもべの全エネルギーを使って、この街ごと貴様らをこの世から消し去ってくれるわぁーっ!」

 

 ヤプールの怒りと憎悪を込めた声がアディールに響き渡り、EXゴモラの周囲に膨大なエネルギーが収束し始めた。

 赤くたぎる超エネルギーに、エースとゴモラは弾き飛ばされる。あれは、EX超振動波の体勢か? いや、収束しているエネルギーは治まるところを知らず、あんな量のエネルギーを溜め込んだらEXゴモラ自身も無事ではすむまい。

 ならば、考えられる答えはたったひとつ。

〔奴め、自爆させるつもりか!〕

 エースは、ヤプールがEXゴモラを爆発させて、その破壊力で一気にすべてを消し去るつもりなのだと気づいた。

 まずい。怪獣、超獣、十体近いエネルギー量を持つEXゴモラが爆発したら、アディールはもとより最低でも周辺の半径数十キロ以内は跡形もなく蒸発してしまう。だが、止めようにもエースにもコスモスにも、もう光線技を撃つエネルギーさえも残っておらず、ヤプールは高らかに笑った。

「フハハハ! わしの屈辱の代償に、貴様らも道連れにしてくれる。さらばだウルトラマンAよ! 爆発まで、あと十秒足らず、もはやどうすることもできまい!」

 勝ち誇るヤプールの哄笑に、エースは本当になす術を失ってひざをついた。ここまで来て、最後に笑うのはヤプールだというのか……才人もルイズも、戦いを見守っていたすべての人々が悔し涙を流す。しかし、あと五秒では、どうすることもできるわけがない。

 

 だがそのとき、爆発寸前だったEXゴモラのエネルギー収束が突然止まり、聞き覚えのある声が響いてきた。

「ウルトラマン……ウルトラマンども、俺の声が聞こえるか?」

「この声は……バルキー星人! バルキー星人か!」

 なんと、死亡して魂がEXゴモラに吸収されたはずのバルキー星人が語りかけてきたのだ。エースは驚きながらも、苦しい口調で話すバルキー星人の声に耳を傾けた。

「てめえらが、こいつを弱らせてくれたおかげで、俺もやっと気がついたぜ。状況はわかってる……俺が、中からこいつの自爆を抑えててやるから、今のうちにこいつをぶっ飛ばせ!」

「なに! お前、どういう」

「勘違いすんな。俺はてめえらウルトラマンどもは大嫌いだ。だが、俺をコケにして利用してくれたヤプールにいい思いをさせるのだけは、我慢がならねえんだよ! 宇宙の海賊バルキー星人が道化のままで終わったら、俺の星は宇宙中の笑い者だ!」

「お前……」

「さあ撃て! もう何秒も持たねえぞ。俺を、俺を負け犬のままで終わらせんじゃねぇぇーっ!」

 それを境に、バルキー星人の声は途絶えた。EXゴモラは荒れ狂い、溜め込んだエネルギーを解放しようともがいている。

 

”すまない……そして、こんなことを言えば、お前は怒るだろうが……ありがとう”

 

 エースは、才人は、そしてルイズは、悪党であっても己の誇りに殉じた男の意地に、深い敬意を抱いた。その意地に応えるためにも、彼の作ってくれたこの十数秒の奇跡の時間は、無駄にはできない。

 自爆寸前のEXゴモラを止める方法はたったひとつ、それ以上のエネルギーを持って一瞬のうちに消滅させてしまうことだけだ。

 しかし、今のエースにはそんな力はない。けれども、EXゴモラが超獣、怪獣たちのエネルギーを集めて膨大なパワーを得ているというなら、こちらも同じ方法をとればいいだけのことだ。

 

 

 見せてやろう、ウルトラマンAの最後の切り札を!

 

 

「この星に散った、志を同じくするウルトラの戦士たち……今、この星の未来を守るために、力を貸してくれ!」

 

 エースの声がテレパシーとなって、世界の各地に散ったウルトラマンたちに飛んでいく。

 この星の命を、そこに住まう人々の平和を、心清き者たちの未来を、善悪を超えて戦った勇者たちの闘志に報いるため、そして……愛する人を守るために、皆の力を貸してほしい。

 

 トリステインの荒野を馬で行くモロボシ・ダン、ウルトラセブンが東の空を見つめる。

「エース、ついにやったのだな。あの少年たちとともに……私の魂の力を持っていけ! そして、お前たちの導いた未来を見せてみろ!」

 ダンの手から光が東の空へと飛んでいき、星のように輝いて消えていく。

 

 ガリアの寒村で、村の子供に見送られて街道に出たセリザワ・カズヤ、ウルトラマンヒカリがつぶやき、空に手をかざした。

「この星の未来に、新しいページを刻んだな。それに私の後輩、GUYSに入りたければ、もうひと頑張りだぞ!」

 

 トリステインの国境付近で、盗賊どもを叩き伏せていたジュリ、ウルトラマンジャスティスが、微笑して空を見上げた。

「コスモス、とうとうお前もこの星にやってきたか。この星でも、人間という生き物は矛盾した存在であるらしい……だが、お前はそれでも彼らの持つ『希望』を信じるのだろう? だから私も、この星の人間たちの善も悪も等しく見ていられる。そして、違う世界から来た友人よ……ヤプールに真の宇宙正義のなんたるかを示してみろ!」

 

 セブン、ヒカリ、ジャスティスの想いが込められた光が、三本の流星となってハルケギニアからサハラへと飛んでいく。

 たとえ遠く離れていても、その意志は距離を越えてつながっていた。今、エースが力を欲している……短い間でもこの世界で過ごし、この世界の人々と触れ合った彼らは、この世界が守るに値するものだと信じていた。地球と同じように、いい者も悪い者もいる。だけど、だからこそ人々は一生懸命生きていて、それが美しい。

 この宇宙に、これほどまでの多様性を持った惑星はそうはないだろう。それが、百年後、千年後に宇宙にもたらすものは創造か破壊か……確実な未来などは誰にもわからないが、少なくともこの世界で出会った人たちとの絆はうそではない。

 一瞬のうちにサハラを越え、光はウルトラマンAに届けられた。三つの輝きが、エースの頭頂部のウルトラホールに集中して、虹色に輝く光の玉となっていく。

 そして、コスモスもまた、残されたわずかな力をエースに託した。

「ウルトラマンA、この世界を守ってくれ!」

 コスモスの光も受けて、虹色の光球はさらに輝きを増した。四人のウルトラマンとエースの力がひとつとなり、限りない威力を生み出す一撃となる。いや、この一撃には戦いをともに乗り越えてきた東方号やアディールの人々の願いが込められている。その重さが、独りよがりなヤプールの怨念などに負けるわけがない。

 これまで出会い、絆を深めてきた人々の顔が才人とルイズの脳裏に思い浮かぶ。

 

 東方号で共にやってきた、ギーシュたち水精霊騎士隊の悪友たち。バカで陽気な連中がいたから、戦いという殺伐とした空気の中でも、笑いを忘れずに、後ろをまかせて戦えた。

 コルベールやエレオノールたちも、指導する大人として、いろんな背中を見せてくれた。

 出来の悪い子供の面倒を最後まで見て、付き合ってくれた銃士隊のみんな。彼女たち鬼教官がいなければ、この過酷な戦いに耐えられたかどうかわからない。

 また、才人は思う。こんな自分に好意を寄せてくれた、鈍いおれでもわかるくらいに純粋な愛を見せてくれたあの人を。

 ティファニアは、自分の苛烈な運命に立ち向かって、ついにエルフたちの心を開かせてしまった。それにルクシャナも、初対面から図々しいくらいにまとわりついてくるあの爆弾娘がいなければ、エルフが人間となんら変わらないということを知りえずに、ティファニアのふたつの種族の架け橋となるという願いも、叶わなかったかもしれない。

 ビダーシャルやテュリューク、自らが罪に問われることも覚悟でネフテスの門戸を開いてくれた理解者たちもだ。

 

 この場にいない人々も同じだ。

 ルイズは、母や姉、家族のことを思った。皆が教え、導いてくれたからわたしはここにいる。

 トリステインで、普通ならば思いつきもしないであろうエルフとの和解を考え、英断をくだしたアンリエッタ次期女王。

 深い悲しみを乗り越えて、この地へ来る翼を与えてくれたベアトリスとエーコたち姉妹。

 いろんなときに助けてくれたキュルケやタバサ、彼女たちにはいつも頼りっぱなしだった。

 トリステインに帰ったら、魅惑の妖精亭でみんなで一杯やりたい。スカロン店長やジェシカには、いろんな形で元気をもらった。

 そうそう、世話になったといえばアニエスやほかの銃士隊のみんなも忘れるわけにいかない。厳しさと優しさ、それらを両立した、あんな大人になりたいと思う。

 

 誰が欠けてもだめだった。誰がいなくても、今ここにいる自分はない。

 変わらず思う、人はひとりでは生きていけない。それだけではなく、ひとりでは人間になることさえできない。

 数多くの絆、そして愛。

 最後に才人とルイズは互いのことを思った。魔法で出会った、本来会うはずのないふたり、けれどそれを偶然だとか運命だとか安っぽい言葉で片付けたくはない。今は互いの意思で、共に戦うことを選んだかけがえのないパートナーだ。

 

 だが、流れ行く時の中で、いつまでも同じままではいられない。

 この先ふたりがどうなろうとも、未来に新しいステップを求めなくてはならないのだ。

 それが今! 積み重ねてきた過去を踏み越え、今に感謝して、未知なる未来を手に入れるとき!

 

 これが正真正銘、最後の一撃だ。五人のウルトラマンの力を結集させた、ウルトラマンAの最大最強の一撃で、この長い戦いに終止符を打ってやる。

〔いくぞ!〕

 エースは掛け声とともに、その手を空に掲げた。エースの手から虹色の雷光が光の玉を中心にほとばしり、エネルギーを最高潮に上げていく。そのパワーはメタリウムの比ではなく、エースのいかなる必殺技のレベルも軽く超えている。

 額から両手のひらに光球を移し、エースは構えた。

 受けてみろヤプール、これがおれたちのこれまでの全て、皆の絆の結晶だ。

 消え去れ闇よ! 開け、未来への扉! エースは全力で、光の玉をEXゴモラに向けて投げつけた!

 

 

 続く


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