ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第90話  目を開いて見る世界

 第90話

 目を開いて見る世界

 

 大蟻超獣 アリブンタ

 友好巨鳥 リドリアス

 古代暴獣 ゴルメデ

 高原竜 ヒドラ

 磁力怪獣 アントラー

 海獣 サメクジラ

 宇宙海人 バルキー星人

 古代超獣 スフィンクス

 さぼてん超獣 改造サボテンダー

 地獄超獣 マザリュース 登場!

 

 

 宇宙は、様々な次元の世界に分かれている。そしてそのいずれも、無限ともいえる数の生命によって満ち満ちている。

 だが、そのいずれにも絶えない争いが息づいて、昨日も今日も戦火をほとばしらせている。

 それはウルトラマンのいる世界、いない世界を問わない。生き物たちはその中で、生存のため、大義のため、侵略のためと、理由を問わずに戦いを始めては終わり、また始まっては終わりを永遠に繰り返してきた。

 なぜ、いずれの宇宙でもほぼ例外なく、戦いというものは続くのだろう? さらに滑稽なのは、そのほとんどで強く平和を願う人々がいるのに、争いは絶えない事である。

 中には、そんな生き物たちに見切りをつけたロボットたちが造物主の生物を滅ぼし、とって代わった星もあった。

 だが、そんなロボットの完璧なはずの星もまた、争いを捨て去れずに滅んでいった。

 全宇宙を統べる絶対の法則は争いなのだろうか? 元を辿って行き着けば、生物が原始の単細胞として海を漂っていた頃から、他者を喰らって生存をはかるという機構はすでに完成されていた。

 口さがないものは、弱肉強食こそが宇宙の真理だと豪語してはばからないが、しかしそれでは生命が何億年もの時間を費やして身につけてきた知性や、その知性を多くの犠牲を払って進歩させて築いてきた文明は、ただの暴力装置でしかないではないか。

 

 この星でも、西のハルケギニアでは人間が、東のサハラではエルフが、それぞれ他の惑星では見られない独自の文明社会を築いてきた。が、そのいずれも争いの宿命からは逃れられず、無意味に命をすり減らす戦争を繰り返した末、その隙をヤプールに付け込まれて、こうして滅亡の危機に瀕している。

 アディールを襲う超獣軍団を迎え撃つウルトラマンA。

「テェーイ!」

 アリブンタとアントラーを相手取るエースのチョップが空を裂き、キックが大太鼓のような大気の激震を生み出す。

 東方号を破壊せんものとするバルキー星人とサメクジラを相手に、少年少女、若者たちは懸命に蟷螂の斧を振り上げる。

「水精霊騎士隊全員、根性だせ! いいかみんな、命に代えてもティファニア嬢を守れ。でも、彼女の差し入れてくれる手作り弁当をまた食べたかったら死ぬんじゃないぞ!」

「一度捨てると決めて、姉さんとサイトに救われたこの命、もうわたしは地獄に戻るつもりはない。お前ごときに、殺せるものなら殺してみろ」

「やれやれ、僕はどうしてこんなところで蛮人を助けて戦ってるんだろう。聞いた話じゃ元はといえば、ルクシャナがあのハーフエルフに肩入れしたのがそもそもの元凶だとか。婚約者の僕を無視して、ほんとにやりたい放題の数々……いままでは大目に見てきたが、今度という今度はガツンと言わせてもらうからな!」

 軽口を叩いたり決意を固めたり、なかばやけくそになってはいても彼らは皆負けることなどは考えてはいない。勝ち目などは誰が見てもなくとも、彼らはみな勇壮で、かつ悲壮なる勇者たちだった。

 

 しかし、元凶を辿ればエルフと人間がどこかでいがみあいをやめていれば、彼らが若い命を武器にして戦う必要などはなかったはずだ。先人たちが解決を先送りにしてきた問題が、積もり積もって子孫たちを苦しめている。

 人間は動物と違い、知恵あることを誇りとしてきた。だが、その誇るべき知恵を正しく活用してきたかには、大いに疑問符がつく。

 ハルケギニアの六千年の争いを、地球人類は笑えない。

 古来より人は、より優れた剣を、銃を、大砲を、軍艦を、大陸間弾道弾を作り出せる国を先進国として当たり前に思ってきた。だがそれは、より優れた人殺しの技術を自慢してきたに過ぎない。まして、核兵器を用いて数百万の人間を一度に殺傷し、地球すら滅ぼしうる力を得意げに誇示する国を、はたして文明国と呼ぶのだろうか? そんな国は、いくらでも存在する。

 地球人類は、いまだに文明という道具に遊ばれる、物覚えの悪い猿にすぎないのかもしれない。

 その点においては、六千年に渡って進歩のなかったハルケギニアの文明も、地球となんらの優劣の差はない。

 

 けれども、どんなに長く昼寝を続けても、いつか目が覚めるときは必ず来る。無我夢中にトンボを追いかけ続けた子供も、腹が減って日が落ちれば家に帰って来る。

 ならば、田舎劇場の三流脚本家が手がけた演劇のように、延々と猿芝居を続けてきた人間とエルフの戦争も、そろそろ飽きて仕舞いにしてもいいではないか。あらゆる宇宙の、星の数ほどの賢者が考え、砂漠の砂粒ほどの戦士が散っても見出せない恒久平和にはなれなくとも、たったひとつのくだらない戦争くらいは終わらせられるはずだ。

 

「きっとそれが、ハーフエルフとして生まれてきたわたしの役目なんだと思う」

 

 ティファニアは、自分を始祖ブリミルの意志を継ぐ大魔法使いだとも、この世界の命運を左右する選ばれた者だとも、そんな自惚れた考えは持っていなくとも、この多くの人を不幸にしかしない馬鹿馬鹿しい戦争だけは止めようと覚悟していた。

 振り返れば六千年の歴史の中でも、人間とエルフの和議を考えた者はふたつの種族にあったろう。けれど、そのいずれもが失敗したのは、人間の貴族や、人間を蛮人と見くびるエルフを見ればわかる。きっと彼らは平和をお題目に、相手に自らの要求を突きつけ、相手のことを考えない傲慢な天子さまであったからなのだろう。

 

 解決すべきは、ふたつの種族が屍山血河を築いてもなお奪い合いをやめない聖地にある。片方にとっては尊きもの、片方にとっては忌むべきものであるという相反する価値が、この問題を複雑化させてきた。

 

 けれどティファニアには、どちらの種族も満足させる答えなど思いつかない。だがティファニアは自分の非力さを知っている。知っているし認めているから、エスマーイルのように自分の考えで無理矢理すべてを動かそうなどとは思わない。ましてや多くの賢者が行き詰った、知恵という道具が生物に与えられた意味、文明というものが持つ意味を解き明かす英知はないこともわかっている。

 ティファニアにあるのは、人間の英知が生み出した高度な哲学書の知識でも、エルフの誇る大いなる意志の恵みによって知りえたこの世の理の真実ではない。彼女にあるのは、さびしがりやでわがままな子供たちといっしょに、苦楽をともにして森の中で一生懸命生きてきた思い出だけ。

 だけど、だからティファニアには人間とエルフの戦争という大問題も、かんしゃくを起こして意地を張り合っている子供のけんかくらいに見ることができた。その、無知さとは違うある種の純朴さが、彼女にもっとも率直に核心を突いた言葉を、母親が我が子に諭し聞かせるような優しさを交えて口にさせた。

 

 

「自分にとって当たり前なことが、人には全然当たり前じゃなかったりしたこと。自分にとってとても大切なものが、人にはまったくつまらないものだったりしたこと……そんなこと、これまで一度もありませんでしたか?」

 

”思い出してみてください……誰でもない、あなた自身に問いかけてみてください”

 

 他人を見るのではなく、自分の人生を振り返ってみてくれと頼むティファニアの言葉に、エルフの人々は心の片隅にしまってきた若い頃や幼い頃の記憶を掘り起こしてきた。

 

”そういえば、あのときに……”

 

 いまだ超獣と怪獣の吼えたける声のやまぬ中で、エルフたちは心の中で短い過去への旅に出た。

 

 自分にとって当たり前なこと……ある若者は、ネフテスのために騎士になり軍隊に入ることが男として当然のことだと思っていたのに、恋人はそんな危険なことはやめてと、どうしても理解してくれなかった。

 

 自分にとってとても大切なこと……ある母親は、種から熱心に育てた花を子供に見せたが、子供は少しも興味を持ってくれなかったことを思い出した。

 

 それは当人にとっては不愉快な記憶だろう。しかし、それを逆の立場から見てみたらどうだろうか?

 恋人がそばにいることだけで幸せな女にとって、若者の使命感はどう映るか? 遊びたい盛りの子供にとって、花を見せられることがうれしいことと限るだろうか?

 なぜ理解してくれないんだと怒ることは簡単だ。しかし、それは同時に相手も思っていることだろう。

 聖地の奪い合いも、それと同じことだと、ティファニアは穏やかにゆっくりと、ほんとうに子供にするように語った。人間もエルフも、自分の主張をのみ押し通そうとしては争う以外にどうしようもない。だが、相手も同じように苦しんでいるのだとわかれば、そこには話し合いの余地があるではないか。

 これまで人間もエルフも、相手を異種の生き物と見なすがために、相手の立場と気持ちになって考えようとはしなかった。突き詰めれば、それが戦争をはじめとする多くの問題の元凶なのだろう。欲望にまみれた権力者はともかく、多くの市民たちにとってすれば、こんな戦争で得るものなどなにひとつないのだ。

 

「なにか、偉そうなことを言っちゃったみたいで、すみません。ですが、みなさんにそうした思い出がひとつでもあれば、それはエルフと人間がわかりあえる何よりの証拠だと思います。わたしたちは、本来西と東に住むだけの兄弟なのですから」

 

 ティファニアはつたない言葉ながらも懸命に説得を続けた。

 何度反論されようと、何度怒鳴りつけられようと、何度罵倒されようと、その度に真剣に、心からの言葉を尽くして。

 彼女には話術はない。理論立てて相手を論破する知識も無い。あるのは、熱意とあきらめない心のみ。けれども、うわべをとりつくろうことなく虚心に、いっしょうけんめいに話すティファニアの態度は、かたくなだったエルフたちの心を少しずつ溶かし始めていた。

 

”もしかしたらこの子は、なんの裏もなく蛮人と砂漠の民をひとつにしようとしているのか? そんな馬鹿な……だが”

 

 人にものをわからせるためには、教える側にわかってもらおうという誠意がなにより必要だ。ただ漫然と黒板に公式を書き連ねていくだけの教師の授業で成績を上げていく生徒がいるだろうか? 熱意の無い言葉は朝の鳥のさえずりと同じで、耳の中には入っていかずに反対側に素通りしていくだけだ。

 しかし、ようやくとわずかばかりの融氷を成し遂げ始めていたティファニアの説得も、力づくでそれを破壊しようとする悪魔たちの猛攻の前には風前の灯であった。海上でバルキー星人が氷付けにされて封じられている間にも、陸上から海上へと攻撃の手を伸ばそうとする超獣軍団は動く。

〔ここから先へは絶対に通さん!〕

 ウルトラマンAと、彼に味方する二匹の怪獣、ヒドラとリドリアスは全力で超獣軍団を食い止めていた。

 アントラー、アリブンタ、スフィンクス、サボテンダー。いずれも屈強で凶暴な猛者ばかり、ヤプールが、このアディールを完全に地上から消してしまおうと送り込んできた、マイナスエネルギーの申し子たちである。

「ははは! ウルトラマンAよ、先ほどの不可思議な光には驚いたが、どうやらあれは連続しては使えないようだな。一匹や二匹がやられたぐらいではわしは痛くもかゆくも無いぞ! 下等生物どものあがきに期待した愚かさを後悔しながらなぶり殺しにしてくれるわ」

 異次元の闇の中でヤプールは残忍な笑いを高らかにあげた。奴にとっては、我が子のように作り上げた超獣といえど、どこまでいこうと捨て駒でしかない。徹底的な利己主義もまた、ヤプールがヤプールである所以である。

 邪悪な意志のおもむくままに、海に向かって動く超獣たち。今いるものたちは水中適応の特性はなく、先に失われたガランの存在が惜しまれるが、それでもミサイルや火炎の射程に海上をただようエルフたちが入ったら惨劇となってしまう。そうなったら、もう説得どころではない。蹂躙されて、全滅する末路しか待っていない。

 それだけは、なんとしても避けなくてはならない。ヤプールの言うところの、下等生物のあがきにかける光の戦士はそのために命をかける。

「テャァッ!」

 アントラーとアリブンタの二匹を相手にして、エースも全力を振り絞る。突進してきたアリブンタの首をわきの下に掴んでねじあげて、大アゴを振りかざして攻めてきたアントラーを蹴り飛ばして建物に衝突させた。

 二対一でもエースはひるまない。また、太古の時代から長い眠りを経て蘇ってきたヒドラとリドリアスも、サボテンダーとスフィンクスを相手に血を流しながら戦い続け、彼らの壮絶な戦いはおのずと追われることから解放されていた人々の注目を集めることとなった。

 

”あの巨人はいったいなんなんだ? 怪物どもと戦っている。はじめは焦っていて気づかなかったが、自然の法則に背を向けているような怪物どもの邪悪な雰囲気とは裏腹に、純粋な光のように清浄な気に満ちているぞ”

”いいやそれどころか、この街に宿る種種の精霊たちが、まるで応援するかのように取り巻いているじゃないか”

 

 人間と違い、大いなる意志、精霊という超自然的な存在を感知することがエルフにはできる。それは森の中で小鳥のさえずりに耳を澄ますようなもので、殺気立つ耳には聞こえない。しかし、ティファニアの呼びかけで心に落ち着きを取り戻した彼らの耳には、彼我に漂う気配の正邪の違いとともに精霊たちの呼びかけが聞こえていた。

 だが、精霊たちの声があっても、まったく未知のものへの不安はぬぐい得ない。迷うエルフたちに、ティファニアは信頼を込めて告げた。

 

「皆さん、あの巨人は敵ではありません。彼は、ヤプールと戦うために外の世界からやってきた平和の使者、わたしたちは彼のことをウルトラマンと呼んでいます」

 

 ウルトラマン、その名はエルフたちの心にひとつの記号として染み入っていった。

 実際には、まだハルケギニアにはウルトラマンの正体を知る者はいない。しかし、エースをはじめとするウルトラマンたちは、今では正義の味方として、人間たちのあいだに強い信頼感を勝ち得ている。それはなぜか、ティファニアは寡黙なる巨人たちが、どうして人間たちの友人となっていけたのかを訴えていった。

「彼らウルトラマンさんたちは、ヤプールの送り込んでくる超獣からいつもわたしたちを守ってくれました。戦うだけではなく、命を奪われそうなときにかばってくれたり、燃える街の火を消してくれたこともあったそうです。彼は、間違いなくわたしたちの味方です!」

 ティファニアは、はじめてジャスティスに会ったときにサボテンダーから助けてもらったことを思い出しながら言った。思えば、幾百の言葉よりもあのときに助けてもらった感動がジャスティスを信じるなによりの原動力となった。エースも同じく、最初に存在を疑っていた人も、超獣と戦うのみならず、命の危機に瀕した人々を助けた姿が少しずつ人々の信頼となって積み上げられていったのだ。

 言葉には嘘が含まれるかもしれない。行動にも嘘が含まれるかもしれない。けれども、言葉は万や億を揃えても流れていくだけだが、行動の積み重ねは信頼を生む。三顧の礼で孔明を迎えた劉備の例を紐解くまでも無く、毎朝「おはよう」とあいさつをしてくれる隣人に、好意を抱かない人はまずいないだろう。

 

「真実がどうであるか、みなさんの目で見て確かめてください。それでもわからなければ、何度も何度でも見てください。わたしたちはそうやって答えを出しました。みなさんも、誰かに教えられるのではなく、みなさんが自分の目で見た事実で、ほんとうに納得がいく答えを見つけてください」

 

 一回で答えが出なければ、何度でもやり直せばいい。一度の説得で聞き入れてもらえなければ、何度でも繰り返すしか方法はない。一度で絶望しては駄目だ……何百回の失敗にも立ち向かう勇気があってこそ、はじめて不可能が可能になるんだと、それがウルトラマンから人間たちが学び、今エルフたちに伝えたいことだった。

 

 エルフたちの目は、真実を知るためにエースへ向かう。

「ヘヤァッ!」

 担ぎ上げたアリブンタを激しく地面に叩き付け、地中に潜ろうとするアントラーを引きづり出してチョップをお見舞いする。

〔絶対にここから逃がすかよ! テファたちの邪魔はさせねえ〕

〔わたしたちの努力を、こんなことで無にさせてたまるものですか。トリステインで待ってる姫さまに、朗報を持って帰るまでわたしたちは絶対に負けられないんだから!〕

 才人とルイズも、ティファニアと仲間たちの頑張りを見て気を奮い立たせていた。二匹の攻撃をかわしながら、確実に攻撃をヒットさせてダメージを蓄積させていく。

 だが、アリブンタはかつてメタリウム光線の直撃にも耐え、アントラーはスペシウム光線にかすり傷も負わなかった強豪なのに、これはどうしたことだろう? 実は、ティファニアの渾身のエクスプロージョンは、二匹に体力的のみならず肉体的にも深刻なダメージを加え、防御力も大幅にダウンさせていたのだ。

『アロー光線!』

 リング状のショック光線がアントラーに当たって、全身に感電したような衝撃を与えて倒れこませた。戦いは、期待に応えようとするエースに報いるかのように、徐々にエースに優位に傾きつつあった。

『シューティングビーム!』

 付き合わせた手の先から放たれた青色光線がアリブンタに当たって吹き飛ばす。その後ろから、アントラーが虹色磁力光線を放ってエースを吸い寄せようとしてくるのをスライディングでかわすと、腹の下にもぐりこんで掬い投げの要領で投げ飛ばした。

「トアァーッ!」

 背中から叩きつけられて、アントラーが寿命を迎えたセミのようにもがく。だがそれでも巨大なアゴをハンマーのようにふるい、エースを打ち据えて苦しめてくるのはさすがだ。アリブンタも、ハサミのあいだから火炎を放って攻撃を加えてくる。

 激しい攻防戦が続き、その息を呑む超重量のぶつかりあいにエルフたちは我を忘れて見入った。しかし、まだ彼らの目には未知の強大な力を持つ相手への恐れとおびえがある。そんなとき、サボテンダーと戦って抑えていたリドリアスが力量差から押し切られて、球形サボテンの体当たりをまともに食らってしまった。

〔あいつ! くっ!〕

 そのとき、ちょうどエースは二匹にとどめを刺せるかどうかというところにまで来ていた。あと一発、メタリウム光線を撃ち込めば倒せるかもしれない。だが、そうしているうちに……その選択に彼らは迷わなかった。

〔お前たち、邪魔だぁぁーっ!〕

〔道を、開けなさいっ!〕

 アリブンタとアントラーに強烈なパンチをお見舞いし、エースは空高くジャンプした。才人とルイズの心に応え、エースの心も彼らに等しい。空から見下ろせば、白石の建物の瓦礫に埋もれ、悲痛な鳴き声をあげるリドリアスが見える。対して、サボテンダーは超獣の姿に戻り、花弁のような口を開き、体を左右にゆすりながら独特の声で笑い声をあげている。

 とどめを刺す気だ。エースはトゲミサイルを発射する直前のサボテンダーとリドリアスのあいだに割って着地した。直後、鋭いトゲがそのまま弾丸として発射されるトゲミサイルが発射されてエースを襲う。バリヤーを張る暇はない。エースはその身でトゲミサイルを全弾受け止めた。

「ウッグォォッ!」

 エースの左腕と左わき腹にトゲミサイルが刺さり、苦悶の声がエースから漏れる。人間でいえばナイフを突き立てられたような傷に、鋭い痛みがセーブしきれずに才人とルイズにも伝わるが、今さらこのくらいの痛みで弱音を吐く二人ではない。体に刺さったトゲミサイルを引き抜くと、サボテンダーに向かって投げ返した。

「トアッ!」

 持ち主に返されたトゲミサイルは鋭利な切っ先の役割をそのまま果たし、緑色の体に深々と刺さった。その威力はサボテンダーも自分で味わうのは初めてだったらしく、サボテンの枝そのままの腕では抜くこともできずに奇声をあげて苦しんだ。

 だが、ダメージというならば左腕を打ち抜かれたエースのほうが大きい。まだ痺れが残り、腕の力は半減しているままだ。サボテンダーはそこを狙って全身のトゲミサイルをいっせいに撃ちかけて復讐をはたそうとしたが、その前にエースの上下縦に伸ばした手から三日月形の光のカッターが放たれていた。

『バーチカル・ギロチン!』

 研ぎ澄まされた光の刃が、燕のように一瞬でサボテンダーのシルエットと重なって通り過ぎていく。

 一瞬の静寂と、凍りついたかのように身動きを止める超獣。だが次の瞬間、サボテンダーは包丁を入れられた野菜のように左右真っ二つに両断され、崩れ落ちた。

 やった! 観戦していたエルフたちの何人かは歓声をあげた。はじめて、目に見える形で超獣が倒されたのである。

 しかし、深い傷を負った体で強力な技を放ったエースは、その無理がたたってがくりとひざを突いた。

「フウゥゥ……」

 左腕の感覚が無い。骨にまでは達していないが、少しの間左腕は使い物にならないだろう。

 苦痛にじっと耐えるエース。すると、その背の方向から、リドリアスがゆっくりとした声で鳴きながら、傷ついたエースの腕に顔をすりよせてきた。

〔お前、心配してくれるのか……〕

 エースは、子犬のようにけなげな姿に胸の奥が熱くなってくるのを感じた。お前も傷を負っているだろうに……エースは、リドリアスの頭を優しくなでて、自分は大丈夫だというふうにうなづいて見せた。

 そして、彼らの互いをかばいあう姿は、エルフたちにも深い共感を呼んでいった。あの巨人や巨鳥たちは確かにすさまじい力を持っているが、ああして互いを思いあう心を持っている。決して、理解できないものではない。

 だがそのとき、エースの背後で突然土中から砂煙が噴き上がった。その中から這い出てくる巨大なハサミを持った頭、アントラーが土中を高速移動して奇襲をかけてきたのだ。危ない! エースは今完全に無防備だ。そこへ!

「後ろよーっ!」

 ひとつの叫びがエースを動かした。頭で考えるより早く、体に染み付いた戦士の感覚が手足を動かし、下から突き上げたキックがアントラーの首元に当たって吹っ飛ばした。よろけて、木から落ちたカブトムシのように仰向けに倒れこむアントラー。しかしエースはアントラーに追撃を仕掛ける絶好のチャンスなのに、それをせずにゆっくりと立ち上がると、くるりと振り返り避難している人々に目を向けた。

「あ……」

 その視線の先にいたのはひとりの少女だった。さあっと、波が引くように彼女の周囲のエルフたちがどいていく。

 ウルトラマンAとエルフの少女が目と目を合わせ、互いを見詰め合った。彼女のエルフの学校の制服はすすけて汚れ、表情にも憔悴の色が濃いが、瞳はじっとエースを見上げている、あのときのように。彼女は少し前にエースにアリブンタから救われた、あの子だった。

 

「ありがとう」

 

「えっ! 今……」

 たった一言だが、少女はまたウルトラマンの声を聞いたような気がした。しかし、その真偽を確かめる間もなくウルトラマンは戦いに戻っていった。

「あ……」

 周りのエルフ、彼女の級友たちが見守る中で、少女は無言のままでウルトラマンの背中を見上げていた。周りからは、今ウルトラマンと話してたのかと問いかけてくるが、それは彼女自身にもわからなかった。正直、どうしてウルトラマンの危機にとっさに叫んだのかもわからない。やっと命が助かって、もうこのまま気を失ってしまいたいくらい疲れていたのに、なんであんなことをしたのか……ふと目に入っただけで、あんな、わけのわからない蛮人の味方なんかのために……

”……立てるかい? 立てたら、走って早く行きなさい。振り返らず、さあ!”

 心の中に、あのときに耳に響いてきた言葉が返ってきて、彼女は頭を振った。砂漠の民はこの世でもっとも尊い存在、なのに……でも、胸が熱い。あれは、悪いものじゃない! 彼女はまだ始まって間もない人生で、最初に自分で考えて大事な決断をした。

「が、がんばってーっ! ウルトラマーン!」

 言ったとたん、彼女は顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。我ながら、なんてことを言ってしまったものだと後悔する。あんなことを言ったら、皆や親になんて言われるか。エルフがあんなものにすがるなどはしたないと叱られる。でも、でも、わたしは……!

 しかし、羞恥心に染まり、耳を覆った彼女の鼓膜に手のひらを通して伝わってきた大声は、叱り声でも罵声でもなかった。

「そうだーっ! いけーっ!」

「がんばってウルトラマン! 精霊たちは、あなたを加護しているわ!」

「それだけじゃねえぞ、俺たちが応援してやるからなーっ!」

「だから負けるな! 私たちは、あなたを信じるから!」

 ひとつの声がふたつに、ふたつがよっつに、よっつがやっつに、十八、三十六、七十二、百四十四と倍々していく声の連鎖は瞬く間に天を揺るがすような歓声となって街の一角を支配した。

 少女が顔を上げたとき、そこはウルトラマンを応援するエルフたちで埋め尽くされていた。

 そう、エルフたちも皆、自分で見た真実を肯定したかった。だが、染み付いた因習を振り払う勇気と、ほんの一欠けらのきっかけがほしかったのだ。その口火を、ひとりの少女のたった一声が切り、吐き出された心の声は火山のようにとどまるところなく響き渡る。

「が、がんばってーっ! 勝って、アディールを守って、わたし、応援してるからーっ!」

 気づいたときには少女も大声で叫んでいた。その顔には、もうおびえの色はひとかけらもない。満面の笑顔と、希望と未来と、ウルトラマンたちへの信頼の光が輝いていた。

 

〔そうだ! 信じてくれる人がいる限り、光の戦士に限界はない!〕

 エースは傷ついたリドリアスをかばいながらアントラーへ怒涛の攻撃を絶やさない。

 パンチ、パンチ、チョップ、キック! 担ぎ上げてのエースリフターが反撃させる隙なく炸裂する。さしものアントラーもスタミナが尽きてすでにフラフラだ。が、地中から奇襲をかけられるのはアントラーだけではない。アントラーに追撃をかけようとしていたエースの背後で砂煙が上がり、土中からアリブンタがエースを引きずり込もうと狙ってきた。

 土中から、真下からの攻撃ではエースも対応しきれない。エースの足にアリブンタの毒牙が食い込もうとした。

 だが、アリブンタが必勝と復讐に歓喜した瞬間だった。突然、アリブンタのさらに下の地中から太い腕が現れて、アリブンタを羽交い絞めにすると、怪力で持ち上げて地上まで引きずり出したのだ。

〔あれは……あの怪獣は!?〕

 アリブンタを担ぎ上げて地底から現れた新しい怪獣に、エースはヤプールの新手かと一瞬戸惑った。土色をした二足恐竜型の怪獣は才人の記憶にもなく、アリブンタを放り投げると勝ち誇るかのように吼えた。

 が、困惑するのは一瞬ですんだ。その怪獣は、弱ってじっとしているリドリアスに向かって低くうなると、リドリアスもくるると喉を鳴らして答えたではないか。まるで、大丈夫か? よく来てくれたと言い合っているようだ。

〔知り合いってことか〕

 びっくりしたが、どうやら敵ではないらしい。新しい援軍、リドリアスとともに目覚めた古代暴獣ゴルメデが、地底を通って遅ればせながら到着した。雄たけびを上げ、リドリアスに代わって戦うべくエースと並ぶ。

〔ようし! これで形成は逆転ね〕

 この怪獣にはマイナスパワーは感じなかったことが、エースにとっても安心材料となった。むろんそれだけではないが、この星を守るために怪獣たちまでもが立ち上がろうとしているのが、生きようとする星の息吹のように感じられてうれしかった。

 アントラーとアリブンタはゴルメデにまかせて大丈夫だろう。エースはそう考え、スフィンクスに苦しめられているヒドラの援護にまわるためにジャンプした。

 

 

 いったん大声で放たれたときの声は、やまびこが山から山へと伝わるように見えない波でとどろいていく。

 それはまずここで。東方号で必死にエルフたちへの呼びかけを続けるティファニアと、彼女を守る仲間たちの奮闘で、ギリギリ抑えられていたバルキー星人の体を覆っていた氷が砕け、死に物狂いの星人が精神力を使い果たした彼らに襲い掛かってきたのだ。

「かはぁーっ! ぶっ、潰してやるぅぅーっ!」

「しぶとい奴め、我々もまあよくやったほうだと思うが、このあたりが潮時か」

 ふうと息を吐き、ビダーシャルは悟ったようにつぶやいた。もう撃てる魔法はエルフも人間もひとつも残っていない。あとできることといえば殴りつけてやることくらいだが、ちと手が届きそうにないのが残念だ。

 バルキーリングの一閃が迫り来る。今度という今度は防ぐ手立てはひとつも残されていない。あれを喰らえば、とりあえず何十人死ぬことか……東方号が沈められるまで何分かかるか、やるだけやったので悔いはないが、残念だ。

 だがそのとき、バルキー星人は海中から立ち上った巨大な水柱に飲み込まれた。

「こっ、これは!?」

 人間とエルフたちは目を見張った。直径五十メイルに及ぶのではという巨大な水柱はバルキー星人を取り込むと、そのまま高さ百メイルにはなるのではという大きさの中心に星人を取り込んだまま固定された。星人は必死でもがいているようだが脱出できないようだ。しかし、誰も魔法は使っていないはずだ。ならば……

 そこに、大勢のエルフたちの声が響いた。

 

「アディールをこれ以上好きにさせるか! わたしたちだって戦えるんだ」

「統領閣下! 我々もともに戦います。よそ者が命をかけて戦っているのに、我々だってまだ戦う力はあります!」

「ウルトラマンと同じく、その蛮人たちも私たちのために命をかけてくれている。そんな子供たちが戦えているのに、私たちにできないはずはないと気づきました!」

 

 そこには、海に小船やイルカに乗って浮かびながら魔法を使っている何百何千というエルフたちがいた。彼らもまた、ウルトラマンを応援した仲間たちの歓声を聞いて、同じようにがんばっている人間たちを信じる決意をしたのだった。

 首都防衛部隊や水軍空軍の生き残りの将兵たちを筆頭に、アディールの大勢の市民たちがひとつになっている。

「こ、これは、なんという!」

 東方号の艦橋から見下ろしたテュリュークは言葉を失った。合体魔法、その概念はエルフにもあるし、軍の中ではひとつの戦法として確立しているが、彼の長い人生の中においてもこれほどのものは見たことがなかった。男女、職業や身分、老人も子供までがいっしょになって、精霊への祈りを束ねて強大無比な力に変えている。

 水柱の中に閉じ込められたバルキー星人とサメクジラは、水中適応も精霊の力に封じ込められているらしく、もがけどもがけど脱出できない。ラグドリアン湖に住む水の精霊と同じように、この海に宿る大いなる意志も、海を荒らす邪悪な者たちに対して怒っていた。それが、恐れることや、憎悪に身を任せることをやめて、前を向いて戦うことを選んだエルフたちの力で具現化し、侵略者を封じ込めた。自然の怒りに、彼らは触れたのだ。

「とどめだぁぁ!」

 精神力を振り絞りきったエルフたちの意志は、天変地異や宇宙人の科学力をも超えた力を発揮した。何千人というエルフたちの力で生み出された水柱は一瞬にして凍結し、巨大な氷柱……いや、氷山へと姿を変えたのだ。

「なんと……」

 テュリュークやビダーシャル、人間たちは完全に絶句した。恐らく、エルフの歴史上、これほどのものは例を見るまい。普段はエルフは精霊と契約し、命じて魔法を発動させるが、精霊とエルフの意志がひとつになったとき、ここまでの奇跡が起きるとは。その中に閉じ込められた星人と怪獣は、琥珀の中の虫のように、今度こそ身動きひとつできない。

 そして、ふたつの氷山に細かな亀裂が無数に入った。刹那、氷山は数兆、数京の破片に変わって粉々に砕け散ったのだ!

「やったぁーっ!」

「わぁぁーっ!」

 大歓声が響き渡り、バルキー星人とサメクジラは残骸すらわからないくらいに木っ端微塵になって砕け散った。宇宙の海賊と恐れられる無法者は、恐れを捨てて決起したエルフたちと自ら荒らした海の怒りによって、この遠い星に散ったのであった。

 東方号の甲板では、エルフたちと人間たちが手を取り合って喜んでいる。海の上ではその数百倍の歓声があがり、自分たちの力で悪魔の軍勢を打ち破ったと喜んでいる。そして、彼らは誰からともなく東方号の人間たちに、さらには彼らにとってもっとも忌むべき存在であるハーフエルフの少女へ向けて手を振りはじめた。

「あ、えっと……」

 ティファニアは困った。彼女の見る先には、数万のエルフたちが手を振ってくる姿がある。でも、それにどう答えたらいいのかわからずに戸惑っていると、ルクシャナがぽんと彼女の肩を叩いた。

「なにしてんのよ、さっさと手を振ってやんなさいよ。みんな、あんたを待ってるのよ」

 軽くウィンクして、この英雄と、茶目っ気を見せてくるルクシャナのおかげで、ティファニアは胸が軽くなった気がした。そういえば、サイトが言っていた……やってみてほしいって必殺技、あれをやってみよう。思いっきりの笑顔に、みんなと仲良くなりたいって真心を込めて!

「み、皆さん! えと、ど、どうもすごかったです!」

 天使のような笑顔と、どもってどこかずれた一言が流れた瞬間、エルフたちは爆笑した。ティファニアはそれで、また顔を真っ赤にしてしまったが、ルクシャナはそれでよかったのよと妹にするようにほめて、倒れそうなティファニアの体を支えてやった。

「ほら、見てみなさいよ。みんな、あなたに笑顔を向けてるのよ。ハーフエルフとか関係なく、あんたを受け入れてくれたの。あんたの努力が実ったの、もっと誇りなさい!」

「はい……でも、それはわたしだけじゃなくて、みんながいてくれたおかげです」

 疲れとともに、心地よい充足感が体を満たしてくるのをティファニアは感じていた。今確かに、エルフたちと自分たちの心は通じ合っている。人間だから、ハーフエルフだからなどというこだわりを、皆の努力する姿が乗り越えてくれた。エスマーイルと彼の一党だけがまだわめいているが、もう彼らの言に耳を貸す者は誰もいない。なぜなら、人々は見たからだ、人間たちが命をかけて戦う姿を。その勇姿の輝きにくらべれば、空虚な言葉のがなり声が誰に届くだろうか。

 ティファニアたちのがんばりがエルフたちに勇気を与え、エルフたちは持ちうる以上の力を発揮して星人と怪獣を倒した。団結の力……たとえ戦士でなくとも、ひとりひとりの力は小さくとも、集まれば巨大な悪魔に対抗することもできる! まぎれもない奇跡を成し遂げたティファニアの手の中で、青い輝石が祝福するように力強く輝いていた。

 

 超獣軍団の闇を打ち消すように人間とエルフたちの輝きは増していき、その光を受けてウルトラマンAは力を増していく。

『メタリウム光線!』

 エース必殺の光線が超獣スフィンクスに炸裂し、スフィンクスは仰向けに倒れると大爆発を起こした。スフィンクスは首を跳ね飛ばしても胴体だけで向かってくるほど生命力の強い超獣だが、木っ端微塵にされてはどうしようもない。

 エースはスフィンクスの最期を見届けると、弱っているヒドラを助け起こした。体中傷だらけで、スフィンクスの放った高熱火炎にやられた火傷が痛々しい。ほんとうによくやってくれた……リドリアスとともに、ガランと戦い、東方号を牽引し、今ここでスフィンクスと戦い続けてくれた。疲労でいえばエースより上だろう。

 ヒドラを、あとはまかせて休めと横たえると、エースは立ち上がって振り返った。その先には、ゴルメデとリドリアスがアントラーとアリブンタと戦っている姿があった。

〔あいつらを倒せば、ヤプールの超獣軍団は全滅だ! あと一息だぞ、ふたりとも!」

〔おう!〕

〔ええ!〕

 圧倒的破壊を好きにした超獣軍団も、そのほとんどが撃破され、勝利は目前に迫っている。

 あと一息、あと一息で勝てる! 人間も、エルフも、最後の勝利を確信して、天をも震わすのではないかという大歓声をあげた。

 

 

 だが、ヤプールの闇の力はまだわずかな衰えも見せてはいなかった。むしろ、超獣軍団の壊滅を喜ぶかのように、邪悪な笑い声を高らかにあげていた。

「フッハハハハ! それで勝ったつもりか愚かものどもめ。貴様らがなんらかのイレギュラーを起こして逆襲してくることくらい、わしは最初から計算していたわ。そいつらは最初から貴様らの隠し玉を使わせるための捨て駒よ! バルキー星人よ、貴様はよく役立ってくれたぞ。そして、貴様らにはもう同じことのできる力は残っていまい。我らヤプールの力、その本当の威力を見せてやる。悪魔どもよ、我が闇の力を受け取るがいい!」

 空間の裂け目が出現し、そこから膨大なマイナスエネルギーがあふれ出してきた。

〔こ、これは!?〕

 エースは驚愕した。ハルケギニアに来て以来、感じたことのないほどのケタ違いのマイナスエネルギーの波動、これはまさか、ヤプールはいままで遊んでいただけだったというのか。しかし驚いている暇もなく、それは黒い稲妻のように収束し、アントラーとアリブンタに降り注ぎ、リドリアスとゴルメデも巻き込んで巨大な闇の竜巻を生み出していった。

「フハハハ! 驚いたかエースよ。だがこれだけではないぞ! 無念のうちに散った屍よ、闇の力を受けて新たな姿となって蘇るがいい。転生せよ、超獣マザリュース!」

 闇の稲妻は、今度はエースに倒されたサボテンダーの亡骸に降り注いだ。すると、両断された体が接合し、腕に鋭い爪が生え、邪教の仮面のような不気味な頭部を持つ超獣に再生してしまったのだ。

「うわぁっ! し、死んだ超獣が生き返ったぁ!」

 エルフたちの間から悲鳴があがった。あれだけ苦労してようやく倒したというのに蘇ってくるとは。これがヤプールの力だというのか。落胆と、絶望が再び彼らの心を侵食しはじめる。

 しかし、エースはあきらめていなかった。

「ヘヤアッ!」

 構えを取り、息を整えて力を込める。その目は、次元の裂け目を通してヤプールを見据えていた。

〔超獣を再生させてくるというなら、何度でも倒してやるまでだ。このくらいで、希望を折れると思うなよヤプール!〕

「フフフ……さすがだなウルトラマンA、この状況で動揺せぬとはな。だが、貴様らがそうして奇跡をなしとげてきたのも事実。ならば、貴様はこの地に眠っていた最強の力で葬ってくれる!」

〔最強の力だと!?〕

「そうだ! 見るがいい!」

 アディールの中心に、最大の闇の稲妻が降り注いだ。無数の建物が吹き飛ばされ、評議会の象徴たる白亜の巨塔が轟音をあげて崩れ落ちていく。そして、瓦礫の山と化したそこが揺れ動くと、瓦礫を吹き飛ばして地中から巨大な影が這い出してきた。

「フハハハ! いかに貴様でも、そいつに勝つことができるかな? かつての貴様の兄のように、無様に地を這いずるがいいわ!」

〔なに!? あ、あの怪獣は!〕

 才人は思わず叫んでいた。あのシルエットは、小さい頃から何百枚とスケッチブックや自由張に落書きした怪獣の中の怪獣。

 土色の肌に、戦国武者の兜のような角を持つ頭部と、果てしない力を秘めた太い腕を持つ、たくましさに満ち溢れた肉体。鼻先の鋭い角は、どんなに固い岩をも砕き、そして大蛇のように長く強靭な尻尾の一撃はあらゆる敵を粉砕するという。

 地球最強の怪獣の一角と言われ、かつて初代ウルトラマンを初めて倒した大怪獣が、凶暴な雄たけびをあげて動き出した。

 

【挿絵表示】

 

 

 続く


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