ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第83話  ネフテスの青い石

 第83話

 ネフテスの青い石

 

 怪魚超獣 ガラン

 高原竜 ヒドラ

 友好巨鳥 リドリアス 登場!

 

 

「サイト!」

「言っただろ、おれが守ってやるってな!」

 

 ティファニアの危機にさっそうと駆けつけた才人は、ガッツブラスターを構えながら不敵に笑ってかっこうをつけた。

 もっとも、才人も落盤のときに大量の粉塵を浴びたと見えて、顔からパーカーまで真っ黒にすすけている。せっかくのところで悪いけれども、これでは炭鉱の工夫みたいでルクシャナは失笑したが、それでも撃たれた傷を押さえながら、ティファニアは表情を輝かせた。

 それに、瓦礫ごしにルイズも現れて、ポーズをとっている才人の頭を杖で軽くこづいた。

「なあに、似合いもしないヒーローぶってるのよ。閉じ込められたときに、『やべえよ真っ暗だよ』とかうろたえてた奴のセリフ?」

「ちぇっ、お前がつまづいたおかげで逃げ遅れたくせによく言うぜ。けど、そっちが魔法の明かりを照らしてくれたおかげで助かった。まさしく怪我の”光明”ってやつだな。おい! そこの金髪の長耳野郎! もうテファたちに手出しはできねえぞ。降参して武器を捨てろ!」

「おのれ、悪魔のかたわれがまだ残っていたか! いったい、なんの悪魔の術を使った!?」

「術じゃねえよ、こいつは科学っつうんだ。それに、こいつは人を救うための力だ、悪魔なんかじゃねえよ」

 怒鳴るファーティマに向けて、才人は誇りを込めて断固として言い放った。

 才人の手にあるガッツブラスターの先端には、青い色をしたアタッチメントパーツが取り付けられていた。一度リュウ隊長の手に渡されて地球に送られたこの銃は、モロボシ・ダンによって再び才人の手に返された。その際、CREW GUYS仕様にいくつかの改造が施されていて、アタッチメントパーツを付け替えることによって、トライガーショットと同じように超絶科学兵器メテオールを使用することができるようになっていたのだ。

 そのひとつが、今ティファニアたちを助けたメテオール・キャプチャーキューブである。メテオールの代表かつ基本といえる装備で、照射部に一分間限定の簡易バリアーを発生させて、外部からの衝撃から身を守ったり、逆に内部に敵を閉じ込めたりすることもできる。

「黙れ、悪魔の戯言など聞く耳はもたん」

 才人の言葉に激昂したファーティマは、銃口を才人たちに向けた。しかし、一瞬前に才人は二発目の引き金を引いていて、今度はファーティマがバリヤーに閉じ込められてしまった。

「おのれっ! 出せっ! 出さないかっ!」

「無駄だよ。そのバリヤーはちょっとやそっとじゃ破れねえ。少しその中で頭を冷やしやがれ」

 キャプチャーキューブは簡易ながら、その強度は見た目よりはるかに強い。並の怪獣の攻撃が通じないのはもちろんのこと、暗黒四天王のひとりデスレムの火炎弾『デスレムインフェルノ』も軽く跳ね返してしまった。これを内側から破るなら、無双鉄神インペライザー級の大火力が必要とされる。

 才人は、ファーティマが無害化すると瓦礫を駆け下りてティファニアとルクシャナのもとに向かった。ちょうど、そちらのキャプチャーキューブは時間が過ぎてバリヤーが消え、二人も中から出てきて駆け寄ってきた。

「テファ、大丈夫か? 怪我してんだろ」

「大丈夫、かすっただけだから。それよりもありがとう、助けに来てくれたんだね」

「え? へへ、まあなっ! おれは約束は破らない。特にテファとのだったらなおさらさ!」

 天使の笑顔で擦り寄ってくるティファニアに、才人は照れながら胸を張った。もっとも、その後すぐにルイズに耳を引っ張られてしまったが。

「あんた、そのにやけた顔は何? わたしと閉じ込められたときは気にも留めずにひとりで慌ててたくせに、説明してもらえるかしら」

「あいててて! こ、これは、ルイズの顔はもう見慣れているがゆえの新鮮な反応というかなんというか。と、ともかく二人とも無事でよかったよかった! いてててっ!」

 才人は無理矢理ごまかした。だって、ルイズは力強すぎて心配なんてできないんだもの。それに、「自分以外の女を見るな!」というのは女が惚れた男に対する自然な反応だとしても、ルイズの嫉妬ぶかさは相変わらずひどい。少しは自覚してほしいと才人は思った。

「くすっ、サイトとルイズって、ほんとに仲がいいのね」

「お、おいっ! これが仲よさそうに見えるのかテファ!?」

「うん、だって心配する必要がないほど信頼しあってるってことなんでしょ。いいなあ、わたしもそんなふうに思われてみたいよ」

 まったく疑うことをしない天使の笑顔が才人に向けられた。才人からしたら、よくまあそこまで人をよい方向に見られると思う。純真というか、人間のよいところを素直に見られているというか、ティファニアほど人を澄んだ目で見られる子はそういないだろう。人は成長していくにつれて疑り深く、心が濁っていくものだから、ティファニアの純真さはとても貴重に思えた。

 と、そこで無視されていたルクシャナがルイズの手を放させた。

「はいはい、そこまでにしときなさいあなたたち」

「いてて……わり、助かったぜ」

「どうでもいいわよそんなこと。ま、助けてもらえたっていうならわたしのほうこそだから、今のうちに一応礼は言っておくわ。それよりも、どうやってここから出るかを考えましょう」

「あら? それなら心配いらないわよ」

 こともなげに言ってのけたルイズに、才人とルクシャナは怪訝な顔を向けた。

「はあ、あなたたちわたしが虚無の担い手だってこと忘れてんじゃないでしょうね。さすがに外に出るのは無理だけど、この程度の岩壁ならどってことないわ」

「そうか! テレポートがあったな」

 合点がいった才人はぽんと手を叩いてうなづいた。ルクシャナも、話には聞いていた瞬間移動魔法の名前を思い出して、なるほど虚無が悪魔の業と恐れられるのも道理ねと、口には出さずに納得し、ティファニアは両手を叩いてうれしがった。

「すごい! ルイズさんって、そんな魔法も使えるんですか」

「ふふん、そのとーり。レビテーションとかフライとかなんて比べ物にならないわ、なんたって一瞬であっちからこっちまで行けるんだもの。ま、こんなことができるのも、この超絶天才美少女メイジ、ルイズさまだからこそよね。そうでしょサイト?」

「はいっ、そのとおりでありますっ!」

「ほーっほーっほっほ!」

 今わめいたカラスがもうカナリアになったと才人は思った。ほめられればすぐ頭に乗るというか、感情の起伏が大きくてノリがいい。人によっては疲れる性格だと思うかもしれないが、才人はそうでないルイズはルイズでないとも思うのであった。

「それじゃ、善は急げでさっさと脱出しましょうよ」

「待って、あの人を置いていくわけにはいかないわ」

 すぐに脱出しようと急かすルクシャナを、ティファニアが止めた。彼女は、ファーティマをここに残しておくわけにはいかないと言う。見ると、キャプチャーキューブの時間が切れ、ファーティマは床に倒れこんでいた。どうやら、見た目以上に深い傷を負っていたらしい。

 しかし、それでも一丁だけ残った銃を手放さず、ファーティマはティファニアを撃とうと腕を震わせている。そんな彼女の鬼気迫る姿に、自分も殺されかけていたルクシャナは憤然として言い放った。

「いいわよそんな奴置いていきましょう。どうせ死んだって自業自得よ」

「そんな! それは、いくらなんでもかわいそうですよ」

「あなた、自分が殺されかけたってのにお人よしがすぎるわよ。見なさい、助けたって、そいつはまたわたしたちを殺しに来るわ。あなたは知らないだろうけど、鉄血団結党っていって蛮人嫌いの狂信者集団の仲間なのよそいつは。ここで始末しておかないと、あなたの仲間も命を狙われるわ。苦しませるのが嫌だっていうなら、一思いにここで撃ち殺してあげなさい」

 話の通じる相手ではないと、ルクシャナは才人にとどめをうながした。

 才人は、ガッツブラスターを睨んで考える。確かに、この女は命を助けても、その恩をあだで返しに来るだろう。そのせいで、自分はともかくティファニアやギーシュたちに危害が及んだら取り返しがつかない。

 しかし、正しい道理が正しい答えにつながるとは限らないことを、才人も多くの経験から学んでいた。

 血の気を失って蒼白になり、それでも取り憑かれたように銃口を上げようとするファーティマは、まさに狂信者と呼ぶにふさわしい。

 が、命は命……それに、すがるようなティファニアのまなざしが才人を決断させた。

「連れて帰ろう。敵とはいえ、こいつにも死んで悲しむ奴がいるかもしれねえ」

「……甘いわね、あなたはまだ狂信者というものがわかってないわ」

「だろうな……だが、おれはこの銃で人殺しはしたくない。まあ、なるようになるさ。ルイズ、デルフを頼む」

 悪いほうに考えてもしょうがないと、才人は楽天的に言ってのけた。背中に背負っていたデルフリンガーをルイズに渡し、ファーティマの持っていた銃を蹴り飛ばして、彼女を背中に背負った。

「はな、せ……汚らしい、ばん、じんめ……」

「はいはい、蛮人でもゴリラでも好きなように呼べ。おれも本当はてめえなんか助けたくはねえが、テファがどうしてもっていうから仕方なく助けるんだ。ありがたく思ったほうがいいぜ」

「誰が……貴様らのような、サハラを汚すゴミは……われ、らが」

「勝手に来たのは悪いと思ってる。けどな、だからといってゴキブリみたいに片付けられるほど悪いことしたとは思えねえぜ。てめえが自分らをどれだけ偉い種族だと思ってるか知らねえけど、ちっとは自分の背中を見つめてみやがれ。それでなんにも思わないとしたら、てめえは見てくれがいいだけのただのバカ野郎だ」

 肩越しにファーティマの顔を見て才人は怒鳴った。そのとき、才人はなぜか自然と言葉を荒げてしまったことに気づいた。ティファニアを殺されかけたことか、差別主義の狂信者への不快感か、そういったものもあるだろうが、なにか別なことでこの女には気に障るものがある。

 見てくれがいいだけの……そういえば、才人はちらりとティファニアを見た。彼女はどんどん衰弱の進んでいくファーティマを心配そうに見つめていた。

「がんばって、船に戻ったらすぐに治療しますから」

「うるさい……」

 才人の視界の中でティファニアとファーティマの輪郭が重なる。違和感の正体がわかった、

”そうか、こいつはテファと似てるんだ”

 偶然だろうかと才人は思う。昔、日本人には外国人の顔が全部同じに見えると聞いたことがあるが、その類がエルフに適応されているのだろうか? いや、でもハルケギニアに来たときにルイズたちの顔はちゃんと見分けられたから、それはないか。

 とすると、もしかしたら……

 そこまで考えたとき、再び大きな地鳴りがして天井からパラパラと石が落ちてきた。

「早く! 次に大きなのが来たら、もう持たないわよ」

「ええ! サイト、テファ、すぐに跳ぶわよ」

 三人を自分のそばに集めて、ルイズは虚無の呪文を唱え始めた。『テレポート』の魔法が完成すると同時に、五人の姿は掻き消えて、次の瞬間残った部屋は瓦礫に埋め尽くされた。

 

 そして、すでに瓦礫にうずもれている山の前にルイズたちが現れると、待っていたエレオノールたちからわっと囲まれた。

「あっ! ルイズ、あなたたち! 無事だったの。そうか、虚無の魔法を使ったのね」

「ええ、運がよかったのか悪かったのか。姉さま、ほかのみんなは無事ですか?」

「うん、我々のほうには幸いながら行方不明はいないわ。水精霊騎士隊の半分はテュリューク殿といっしょに先に帰ったわよ」

 この場に残っていたのは、土魔法で掘削をおこなおうとしていたエレオノールのほか、ギーシュたち十名ほどの水精霊騎士隊とビダーシャルと、ルクシャナの婚約者のアリィーと数名の騎士だけだった。彼らは、目の前にひょっこりとルイズたちが現れたので驚き喜んだ。

 無事でよかった。心配した、この馬鹿ヤロウと、親しみを込めてもみくちゃにされる。アリィーは、ルクシャナに心配かけさせるなと言ってはつれない態度をとられてしょげているが、そんななかでビダーシャルがルイズに無表情のままながら礼を言った。

「わたしの姪がまた世話になったようだな。つくづく、迷惑をかけて申し訳ない……ところで、エルフの騎士たちの何名かがまだ行方不明なのだが、知らないか」

 ルイズは、言ってもいいかと悩んだが、ファーティマたち鉄血団結党に襲われたことを伝えた。もっとも、襲われたときにはファーティマ以外は全滅し、そのファーティマも虫の息なのだが。

「そうか、あの男の走狗が潜り込んでいたとはうかつだった。彼は努力家なのだが、どうにも自己愛が過ぎる男でな。我々も、お前たちを笑えないのが最近よくわかってきた。それにしても、自分たちを殺そうとした相手を、よく救ったな」

「この女の始末は、あとでテュリューク統領にゆだねるわ。あなたたちの犯罪者をわたしたちが勝手に裁く道理はない……あなたたちの同胞の不幸には、つつしんで哀悼の意を表します」

 淡々と告げたルイズに、ビダーシャルは内心でほんとうに蛮人たちを笑えんなと思った。いったい、より優れているとはなんなんだろうか? 話し合いに来た使者を有無を言わさず暴力で排除しようとした同胞と、その相手に報復せずにあくまで紳士的に対応した蛮人……さて、どちらが蛮人と呼ぶにふさわしいものか。

「了解した。その者の処分は、空軍の軍法によって裁かれるだろう」

「寛大な処置をお願いすると、お伝え願いたいわ。それと、あなたたちの魔法で彼女の治療はできないの?」

「重傷だな。できないことはないが、ここは地の底すぎて精霊の加護が期待できんから効果は薄まる。急いで船に戻れ、専用の医療設備がそろっている」

「よし、そうとなったら急ごうぜ!」

 どっちみち、こんな場所で治して暴れられでもしたらなお面倒になる。意識を失っているなら、かえって都合がいい。

 だがそのとき、帰り道を見ていたギムリが愕然とした声で叫んだ。

「大変だ! 水が溢れてきてる。この遺跡、水没しちまうぞ!」

「ちっ! みんな、走れ!」

 この大人数ではテレポートで連れ出すこともできない。となれば、あとは親からもらった二本の足で駆けるしかない!

 

 

 しかし、才人たちが地上に向かって長い道のりを駆けているあいだにも、東方号は大きな危機に瀕していた。

「副長! いえ艦長代理! 一番および三番の水蒸気圧力が上がりません。これでは、エンジンは半分しか動かすことができませんよ!」

「かまわん! 残った二基だけでも飛ぶだけならできる。いいから回せ、超獣はもうすぐそこまで来てるんだぞ」

 超獣ガランの襲撃を受けている東方号では、ミシェルたち銃士隊が必死になって東方号を動かそうと奮闘していた。

 現在、東方号に残っている人数はたったの三十人。最小限度もいいところで、蒸気釜に石炭をくべる人数も、圧力を調整する人数も全然足りず、まるで、クジラに手綱をつけて操ろうとしているにも似た苦闘だった。おまけに、飛ばす要である重力制御機構はエレオノールでないと理解できず、念のため作ってあったマニュアル本を読みながらなのでうまく稼動しない。

「くそっ! やっぱりミス・エレオノールだけでも残っていてもらうんだった。わたしたちだけじゃとても手が足りん! こんなことならスキュラでも隊員にしておけばよかった!」

「おや副長? 酒場で酔ってからんできた男を十人まとめて叩きのめした人とは思えないセリフですね。ちなみに言っておきますけど、スキュラで多いのは手じゃなくて足ですよ」

「そうですよ。それに亜人は絶世の美女が多いって言いますからね。そんなのを入れておいて、サイトが誘惑されたら大変じゃないですか」

「なんだとお前たち! わたしがタコ人魚にも劣るって言いたいのか!」

「あら? 誰も副長のことだなんて言ってませんわよねー?」

「ねー?」

「うぬぬぬぬ……」

 死期が確実に迫っている中でも、冗談が飛び交って笑いが耐えない今の銃士隊は、明らかにまともな軍隊ではなかった。けれども、達者な口が性質の悪いジョークをつむぎだしながらでも、彼女たちの手は最大限の仕事をこなしていたあたり、まともな軍人ではなくとも超一級の戦士である証であるといえよう。

 東方号の左右二基、計四基のエンジンのうち左右一基ずつが回転を始める。出力的には心もとないが、離陸するにはこれでも十分である。

 しかし、慣性の法則に従い、静止している巨大な質量を持つ物体が動き出すためには、それなりの時間をかけて加速度をつける必要があった。重力制御で急加速をかけることも一応は可能だが、銃士隊の予備要員ではそこまで緻密な操作ができないし、下手をすれば船内の人間が急激なGに耐えられずに押しつぶされてしまうだろう。

 あと一分時間があればっ! あと五十メイルにまで超獣が迫ったとき、運は東方号に味方した。

「化け物めっ! 撃てっ、撃てーっ!」

 それまで無視されていたテュリューク統領の乗艦の砲手が、狂乱してガランの背中に向かって大砲を放たせたのだ。

 ガランの背部で爆発が起こり、砲手が万歳の声を上げた。しかし、エルフの大砲の威力は人間のものを大きく上回るとはいえ、ミサイルさえ跳ね返すガランのうろこにとってはペン先でつつかれたようなものであった。砲煙の晴れた後にはかすり傷ひとつなく、攻撃を受けたらただちに報復する凶暴性をただ目覚めさせてしまっただけの結果に終わった。

「まだだ! 続けて撃て、いまのはまぐれに決まってる!」

 この船の砲手は竜の巣での戦いには参戦せず、またディノゾールをはじめとする来襲怪獣たちとの戦闘経験もない召集兵だったことが災いした。経験ある優秀な砲主は、新式の戦艦のほうに取られて実質戦闘艦ではない統領艦には二線級以下の者が回されるのは合理性からして正しいが、彼らはそれをよしとせずに、なおかつ超獣をなめていた。

 攻撃されたことに怒るガランの尻尾が統領艦を打ち据えた。魚の尾びれそっくりな尻尾の羽はダンプカー一千台分のパワーを発揮して、ただの一撃で木造船に装甲を張っただけの船は半壊し、つながれていた竜たちが慌てふためいて逃げていく。

「あ、ひ……」

「馬鹿者! 誰が撃てと命令した。ちっ、早く退艦しろ、この船はもう駄目だ!」

 そこでこの船の指揮官代行の士官が命令しなければ、無知な砲手たちはほかの乗組員たちとともに全滅していたに違いない。彼らの船は超獣の一撃で船としては死んでいたものの、まだ哀れなクルーたちを冥界の門から遠ざける壁としてはわずかに機能していた。横転しかかり、ひしゃげた船体の反対側へと彼らは走る。

 そこへ怒る超獣の第二波攻撃が襲い掛かってきた。超獣ガランは元々は古代魚類が改造されたものであるので、体つきは魚のシルエットを色濃く残している。海中を、時速三百ノットで泳ぐことができる能力を有していることからも、どちらかといえば水中戦のほうが得意で、砂漠の地下水脈を縦横に移動して東方号を人知れず追ってきた。しかし、超獣と化した今では地上でも問題なく戦うことができ、うちわのように異常に大型化した手で統領艦はあっという間に破壊されてしまった。

「ああ、俺たちの船が」

 だが、今は命が助かったことのほうを喜ぶべきであろう。彼らの目の前で、船は子供の手にかかる積み木細工のように原型を失っていくが、とりあえず命だけは助かることができた。そこへ、テュリューク統領らが地下から戻ってきて、彼らは自らの不手際をわびた。

「申し訳ありません統領閣下。貴重な船を、みすみす……」

「いや、かまわぬ。そなたらが無事だっただけでもなによりじゃ。それよりも、彼奴はもう一隻の船をも狙っておる。彼奴の気を引いて、時間を稼ぐのじゃ」

「っ!? 蛮人の船を守れとおっしゃられるのですか?」

 エルフたちは露骨に嫌そうな顔をした。それを見て、同時に地上に上がってきていたコルベールらの顔がやや曇る。しかし、テュリューク統領は年齢を重ねただけはあって、次の一言で彼らの口を封じてしまった。

「あの船なくして、どうやってこの渇きの大地から帰れるというのかね?」

 選択の余地はなかった。鉄血団結党ほどでなくとも、蛮人嫌いの性質をたいていのエルフは持っている。けれども、自分の命よりも主義主張のほうが大切という偏屈はそうそういない。

 再び東方号を狙い始めたガランを、エルフたちは魔法を使って牽制しはじめた。戦闘訓練を積んだエルフの魔法はすさまじく、砂の混じった竜巻が幾重にも重なってガランを襲う。普通ならば、真空波と高速でぶつかる砂がカッターとなってズタズタに切り刻まれてしまうだろう。

 が、その普通を超越しているのが怪獣であり、怪獣を超えるものが超獣なのだ。

「なんてやつだ。あれで動けるというのか!」

 ダメージらしいダメージはほぼゼロであった。ガランはうろこのひとつも落とすことなく、完全に無傷で魔法を耐えている。

 逆に振られた尻尾がエルフたちをなぎ払いにかかってくる。避けるのもこらえるのもとても無理だ。

 だが、彼らに冥界の門は再び扉を閉ざした。命中直前、飛び込んできた水精霊騎士隊が彼らを抱えて飛び上がったのだ。

「ふぅーっ、危ねえ。超獣に突っ込むつもりだったのに、間違っちまったぜ」

「お、お前。もしかして俺を助けるために?」

「ち、違う! お前たちを救うために……わざと飛び込んだわけじゃないんだからなぁーっ!」

 以上、ある水精霊騎士隊員とエルフのやりとりである。なにがやりたかったのか不自然な会話だが、もしかしたら才人からどうでもいい地球の知識でも仕入れていたのかもしれない。

「と、ともかく。避けるのはおれたちがやる、あんたらは攻撃に専念してくれ!」

「ば、蛮人に指図されるいわれはないっ! ええい、ままよ!」

 なかばやけくそぎみながら、人間とエルフはコンビネーションを発揮して超獣ガランに挑んでいった。

 水精霊騎士隊が超獣の攻撃を読んでかわし、エルフのほうは攻撃魔法に集中する。魔法の威力では遠く及ばないにしても、水精霊騎士隊は怪獣との対決経験は豊富だから、だいたい超獣がどう動くかは直感的に予感することができた。大振りな超獣の攻撃をかわし、あくまで安全に、足止めだけを目的にして彼らは相当な善戦を見せていた。

「おお! 彼らもなかなかやるではないか」

 コルベールが生徒たちの活躍に、思わず笑顔を浮かべて快哉をあげた。この砂漠の熱気の中で、あれだけ動けるとは体力がついたものだ。一ヶ月間銃士隊にしごかれたのは無駄ではなかったということか。

 ちょこまかと動き回る小さい者たちを、ガランは執拗に追いかけている。本来の目的は別にあるだろうに、バキシムやブロッケンのように高度な知性を持たされていないガランは、命令がなければ本能に従って暴れるしか出来ない。だがそれも、人間とエルフのがんばりあってこそだ。コルベールとテュリュークは、ふたつの種族が力を合わせて戦ってる姿に、ともに顔の筋肉を緩めていた。

「やるものですな。噂には聞いてましたが、あれが砂漠の民の力ですか」

「いやいや、あの若者たちもなかなかやりおるではないか。これは先行きが楽しみなものじゃな」

「ええ、東方号もこれなら大丈夫でしょう。やはり、人間とエルフは相容れない生き物などではない! 私はそう確信しました」

 小さなことなど吹き飛ばす必死さが、凸凹ながらエルフと人間の共同戦線を生んでいた。

 見よ! その気になったらわだかまりを乗り越えるなど、こんな簡単なのだ。エルフと人間に翻弄されて、ガランはすっかりと東方号を攻撃する気を失ってしまっている。ミシェルたちの必死の努力が実って、水蒸気機関のプロペラも高速回転を始めた。

 あれなら飛べる。飛べさえすれば、どうにかすることもできる。エルフ相手には使わなかったが、新・東方号には初代東方号に装備されていた秘密兵器と、新型兵器もいくつか搭載されている。が、それも飛ばなくては使えないが、飛べればなんとかすることができる。

「いいぞ、その調子だ。私の目は間違っていなかった。彼らならば、エルフと人間のかきねを超えて、ふたつの種族に新しい道を示すことが出来るに違いない」

 コルベールは確信を持って、その言葉を口にした。若者には、大人には想像もつかない可能性がある。急に完璧とはいかなくても、エルフと人間がいがみ合う以外のこともできるんだと見せることが出来れば、六千年に及んだ確執の壁に蟻の一穴を作ることがあるいはできるかもしれない。

 

 だがそのとき、期待に胸を膨らますコルベールの耳に、砂漠の熱気すら一瞬で冷ますような冷たくおどろおどろしい声が響いてきた。

「そんなことはさせんよ。お遊びはここまでだ、人間とエルフよ」

「なにっ!」

 とっさに振り向いたコルベールとテュリュークの目に、砂丘の上に立つ一人の男が映ってきた。黒いコートに黒い帽子、まったく砂漠に似つかわしくない容姿。なにより、世界のすべてを見下げているような不気味な笑い顔が、コルベールにホタルンガが現れたときのことを、テュリュークには竜の巣から逃げ帰ってきた水軍士官からのおびえきった報告が思い出さされる。

「貴様! ヤプールか!?」

「ほう? 私がわかるのかね。どこかで会ったかな? まあいい……人間たちよ、先日はよくもバキシムをやってくれたな。まさか、セブンが邪魔をしに来るとは完全に想定外だったが、それでもお前たち程度の技術力でよくぞここまでやってきたとほめてやろう。しかし、それもここまでだ」

「くそっ! 我々のあとをつけていたのか」

「フフフ、私がお前たちの小ざかしいたくらみを見逃すとでも思ったか? バキシムに探らせて、お前たちの目論見などはとうに知っておったわ。泳がせておいたら、こんなところにやってくるとは意外であったが都合がいい。ここでなら、どこからも助けはこない。くだらない伝説もろとも消し去ってくれる!」

 勝ち誇った笑みを浮かべ、ヤプールはマントを翻してガランに手のひらを向けた。

「さあガランよ! そんな奴らと遊んでいるのではない。お前の敵はあれだ。叩き潰せ、ガラーン!」

 ヤプールの思念がテレパシーとなり、ガランはくるりと向きを変えると東方号に向かって進撃を再開した。水精霊騎士隊とエルフたちは、ガランの気を引こうと攻撃を続けるが、今度はガランは見向きもしなくなっている。ガランは、知性は低い超獣だが、その反面テレパシーによる命令には忠実に従う特性を持っている。

 しかしそのとき、ついに東方号が巨体を蹴って動き始めた。砂を巻き上げ、砂丘を砕いて少しずつだがガランから遠ざかっていく。コルベールは、これでなんとか逃げ切れるかと希望を持った。だが、希望を絶望に変えることこそ、悪魔の最大の楽しみである。

「馬鹿め! 逃げられると思ったか。ガランよ、機能停止光線を放てぇ!」

 ヤプールの命令と同時に、ガランの鋭く尖った鼻が緑色に光った。その光を浴びた東方号は、急にエンジンの回転が鈍って、動きが止まってしまったのだ。

「どうした! 止まってしまったぞ、原因は何だ」

「わかりません! 機械は全部正常に動いているはずなんですが」

 置物のように止まってしまった東方号の中で、ミシェルたちが慌てふためいて駆け回っているが、どの機械もさっきまでとまったく変わらずに動いており、止まってしまった理由がわからない。

「艦長代理! 機関砲も動きません!」

「なんだと! まずい、これでは東方号といえども」

 逃げることも戦うこともできない。あの超獣の仕業なのか!? これでは、比喩ではなく本当に瀕死のタヌキでしかない。

 砂漠に巨大な足跡を残しつつ、ガランはまっしぐらに東方号を目指していく。ヤプールの勝ち誇った笑いはさらに大きくなる。

「フハハハ! やれ、破壊するのだ」

「どうした! なぜ飛ばないのだ! ヤプール、貴様の仕業か?」

「そのとおり! ガラン光線はあらゆる機械を停止させる効果を持つのだ。もはや、貴様ら自慢の船はガラクタも同然だぁ!」

 けたたましく、悪魔そのものの形相でヤプールは笑った。ガランの放つ怪光は一種の精神感応波で、これを受けてしまったらいかなる機械装置といえどもガランの思うがままに操られてしまう。タックファルコンやタックアローを操って不時着に追い込んでしまったことはおろか、タックガンやビッグレーザー50などの携帯火器すら使用不能に陥らせてしまったほどの威力を誇り、しかもテレパシーであるから電波妨害への対策もまったく役に立たない。

 機能そのものには一切異常がないにも関わらず、東方号は完全に行動不能に陥らされてしまった。数少ない武器の機銃も動かない東方号は、本当にどうすることもできない。

 しかし、最初からこの能力を使えばよかったのに、なぜ黙っていたのか? コルベールはそう思ったが、すぐにヤプールの下種としか呼べない嗜好に思い至った。

「貴様、我々のあがきを見て楽しんでいたな!」

「ファハハハ! そのとおり、ざっくりと始末してしまうなら簡単だが、それでは絶望が浅い。善戦させ、希望に満ちたところを落としてこそ絶望が深まる。我らを悪魔と呼ぶか? よろしい、最高の褒め言葉だ!」

 宇宙最悪の生命体、異次元人ヤプールらしい考えであった。純粋悪、しかしこいつは元々は自分たち人間やエルフの歪んだ心から生まれたもの、いわば鏡に映った自分たちの影……それが悪魔と化して自分たちを滅ぼそうしているのだと考えると、ヤプールへの罵倒はそのまま自分たちへの罵倒となる。

 コルベールもテュリュークも、形を持った悪魔を前に、どうすることもできない。護衛の騎士団が魔法をぶっつけても、すべて見えない壁にはじき返されてしまった。襲い掛かる無力感が、コルベールの胸をしめていく。

「ミシェルくん、もういい。東方号はいいから、君たちだけでも逃げるんだ!」

 命には換えられないと、コルベールは叫ぶ。

 しかし、ヤプールが笑い、目の前に超獣が迫りつつあるのに、ミシェルは艦橋から一歩も動こうとはしなかった。

「まだだ、まだわたしはあきらめない。最後まであきらめなければ運命は変えられる。奇跡は起こるんだって、サイトは教えてくれたんだ!」

 この世で唯一愛した男の名を叫んで、ミシェルは踏みとどまった。悪と絶望に立ち向かえるものがあるとしたら、それは愛と希望のほかになにがある。命ある限り、負けはしない! 本当は泣き出したいほど怖いけれど、才人が帰ってくるまで、希望は守り抜く。

 

 そして、その強い思いは、マイナスエネルギーとは真逆の力強い光の力となって集まり始めていた。

 遺跡の地下通路……ガランの引き起こした地下水流出で水没しつつある通路を、才人たちは必死になって走っていた。

「くそっ! あと何キロあるんだよ。この遺跡作った奴、張り切りすぎだぜ」

「ルイズ! 本当に君の虚無魔法で脱出できないのかい?」

「人を便利屋みたいに言わないでよ。飛ぶ人数が多いほど、飛べる距離は縮まるし精神力は削られるの。まったくもう、すごそうに見えて使い勝手が悪いのばっかりなのよね虚無って!」

 テレポートを使えばルイズひとりは外に出れても、そこで精神力はカラ。外でなにが起こっているかわからない状況では、精神力は温存しておかないと、いざというときに困ることになる。

「もう……満足に使えたら、みんなを安全に逃がすことができるのに、こっちには怪我人もいるのよ。こんなのなら、フライのひとつでも使えるようにしてくれなさいよって」

 自分自身の非力さへの怒りも込めて、ルイズは小さくつぶやいた。

 足元は水が流れ、速さや深さはまだ水溜り程度なので足を取られるほどではないが、焦燥感をかきたててくる。しかも、落盤の岩や地割れを超えなくてはいけないので、その度に時間を食われてしまう。

「間に合うか……いや、間に合わせる!」

 あきらめては奇跡は起こせないと、才人は坂道をひた走る。自分だけではない、背中には今にも消えそうな命をひとつ抱えているのだ。

 だが、走りながら才人はいつの間にか自分の喉元に鈍く光る刃が突きつけられているのに気づいた。

「なんだ目が覚めてたのか。よく切れそうなナイフだな、袖口に仕込んでたのか」

「……」

 しゃべる力も残ってないのか、ファーティマからの返答はなかった。走りを止めず、才人は小声でファーティマに呼びかける。

「やめとけよ、おれを殺せば、落ちたショックだけでもてめえ死ぬぜ」

「……」

「たいした執念だな、よくもまあ毛虫みたいに嫌ってくれたもんだって感心さえするぜ。まあ、聞いた話じゃお前たちと人間は戦争ばっかりやってたそうだからな。恨まれる筋なら、それこそ売るほどあるだろうな。てめえも……大方、あんまり人に言いたくない半生を送ってきたんじゃねえのか? どうだ?」

 返答の代わりに、わずかなうめきが聞こえたような気がした。

「ふん、人間もエルフもやっぱり同じか。ったく、まあた復讐者かよ、いい加減飽き飽きだぜ」

「……!」

 ナイフがわずかに動いて才人の喉の皮膚に軽く触れた。お前になにがわかると、そう言いたげな反応だった。だが、才人はつまらなさそうに答えた。

「てめえの事情なんか知ったことじゃねえし、聞いても大方想像と変わらないだろうから聞かねえよ。でもな、世の中を恨んでるのがてめえだけだと思うなよ。家族や大切な人を理不尽に奪われて、悪魔に魂を売りかけた人を大勢見てきた。みんな、てめえみたいな暗い目をしてたよ。てめえの考えてること当ててやろうか? わたしはこの世の誰よりも不幸なんだ、だからわたしにはこの世界を変える権利がある、わたしより幸福なやつはみんな敵だってか。どうだ外れてるか?」

 ファーティマの手は、静かに震えていた。

「わかりやすいな、てめえみたいな奴の考えることはだいたい同じだ。それで憎むべき敵がおれたち人間か。そうか……」

 才人はそこで言葉を切った。ファーティマは、落ちる勢いで才人の首を掻っ切ることくらいはできるだろうに、動こうとはしない。少しだけ沈黙が続き、やがて才人はまた口を開いた。

「けど、ちょっとだけ安心したよ」

「……!?」

「ほんと言うと、おれもエルフがどんな奴らか不安だったんだ。ティファニアはハルケ育ちだし、ルクシャナは変な奴だしビダーシャルは無愛想だし、いまいち納得いかなくてな。でも、あんたを見て思ったよ、人間もエルフも似たようなもんだ。蛮人嫌いなんて馬鹿げてるぜ。あんた、おれたちとそっくりだ」

「……!」

「はいはい、文句があるならあとで好きなだけ聞いてやるから、今はとりあえず助けさせろ。死んだらケンカもできねえぞ。それに、てめえには心外だろうが、てめえはティファニアに命を救ってもらった恩がある。自分を殺そうとした相手をだぞ? あそこまでのお人よしをおれは見たことねえよ」

 ちらりと才人がティファニアを見ると、彼女は走って息が上がりながらも心配そうに尋ねかけてきた。

「あの、サイトさん。その人、大丈夫ですか?」

「ああ、心配するな。こういう奴はちっとやそっとのことじゃくたばらねえよ」

 才人は、自分が命を狙われていることなどはおくびにも出さずにティファニアに笑い返した。

 ファーティマは、心の中でうずまく怒りの正体を自分でもつかむことができず、ただ歯を食いしばって苦痛に耐えている。

 曇りひとつない小さなナイフが水の中に落ち、流れにそって闇の中に消えていった。

 

 そして、憎むべき敵をさえ救おうとしたティファニアの優しい心が、握り締め続けていた輝石に届くとき、輝石は静かに輝いて、眠れる守護者を呼び起こす。

 いままさにガランに破壊されようとする東方号。だが、そのとき新たな地鳴りと共に、砂漠の一角から砂の竜巻を巻き上げながら現れ、甲高い鳴き声をあげながら巨大な翼を羽ばたかせた巨鳥。ワシのような頭部と翼を持ち、恐竜のようなたくましい四肢を持つ威容は、遺跡の入り口にあった像とまったく同じだ。

「ま、また別の怪獣が!」

「いや、あれはまさか伝説の……」

 うろたえるコルベールとは裏腹に、テュリュークは神々しいものを見たかのようにつぶやいた。

 現れた鳥の怪獣は、ガランに向かって前進をはじめた。それに気づいたガランも迎え撃つ姿勢をとる。人間とエルフの攻撃ごときは無視して構わない超獣といえど、さすがに相手が怪獣となれば相応の対処をとらなければならない。

 水精霊騎士隊とエルフたちは、怪獣と超獣の激突などに巻き込まれてはひとたまりもないと避難した。

 二匹の雄たけびが砂漠の空気を震わせる。もはや両者の衝突は必至だ。しかしヤプールは、その怪獣に強い正のエネルギーを感じてガランに叫んだ。

「ぬうう、邪魔する気か! ガランよ、そんなやつに構うな。さっさと人間どもの船を叩き潰してしまえ!」

 ガランはヤプールの命令に忠実に従い、東方号に巨大な腕を振り上げる。甲板から銃士隊員たちの悲鳴が上がり、その腕が振り下ろされようとした、まさにその瞬間。新たな翼が空のかなたから現れた。

「あっ! あれは」

 青い翼を持つ巨鳥。それは急降下してくるとガランに口から光弾を放って攻撃し、ひるんだガランに体当たりを食らわせた。

 そのまま降り立ち、東方号を守るように立ちはだかる怪獣。さらに、先に現れた怪獣もガランに向かって威嚇するように吼える。

「ええい! なんなんだ次から次へと、この怪獣どもは!」

 二匹の怪獣の出現という、まったく予想だにしていなかった事態にヤプールも苛立ちの声を上げた。

 

 誰にも知られない砂漠を舞台にして、怪獣と超獣の三つ巴の戦いが始まろうとしている。

 六千年の昔、この砂漠に封じられた伝説。それは、同じ悲劇が繰り返されようという今、言い伝えから現実になろうとしていた。

 果たして、伝説を残したものの真意はなにか? 虚無との関係は?

 すべてが明かされるときは、目前まで迫っているのかもしれない。

 

 

 続く


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