ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第55話  撃滅! 怪獣軍団

 第55話

 撃滅! 怪獣軍団

 

 宇宙大怪獣 改造ベムスター

 円盤生物 アブソーバ

 月の輪怪獣 クレッセント

 火山怪鳥 バードン

 食葉怪獣 ケムジラ

 古代怪獣 ゴモラⅡ

 火星怪獣 ナメゴン

 円盤生物 ブラックドーム

 ウルトラ兄弟 登場!

 

 

 ヤプールの送り込んだ無数の怪獣軍団によって、全世界が窮地に陥った地球。

 異世界ハルケギニアへのゲートを開こうとしたGUYS JAPANも、メビウスの力をはるかに上回る改造ベムスター、さらにフェニックスネストのエネルギーを吸い取ろうとする円盤生物アブソーバによって、絶体絶命の大ピンチに追いやられてしまった。

 だが、この世も終わりの絶望のさなか、サコミズ総監の危機に現れた赤い光の球。そして、同時に太陽系へと現れた無数の飛行物体。それらは光速をもはるかに超えるスピードで、怪獣軍団の猛威にさらされる各地へと飛んでいく。

 新たなる敵か? いや、それは人類にとっての希望の光だったのだ。

 

 地球に舞い降りた最初の光は、アメリカ合衆国のニューヨークに向かった。

 ここでは摩天楼を突き崩し、ウォールストリートを踏み荒らして、黒い体と赤い目を持つ怪獣が破壊を好きにしていた。

 世界有数の大都市を襲ったのは、月の輪怪獣クレッセント。市街地に突如実体化して出現した奴の正体は、かつて防衛チームUGMが戦った、マイナスエネルギーが結集して誕生した怪獣の最初の一匹目だ。

 ヤプールの手助けを得つつ、この大都市に渦巻く欲望のエネルギーを吸収して復活したクレッセントは、その邪悪な衝動を持ち主に返そうとでもするかのように人々を襲う。肉食恐竜型の黒い体に、喉元に名前の由来となった三日月型の白い模様をあしらって、太い腕や尻尾を振り回してビルを破壊するさまは悪魔そのものだ。

「うわぁっ! 逃げろ」

 パニックに陥った人々は、地下鉄の構内など少しでも安全な場所を探して駆け込もうとするが、かえってせまい場所にすし詰めになってしまって犠牲者が増すばかりだ。GUYS USAは高すぎるビル群や、逃げ遅れた人々を巻き込む恐れがあるために攻撃することができないでいる。

 それでも、彼らは人々が逃げる時間をなんとか稼ごうと、勇敢にも戦闘機をクレッセントの目の前ギリギリを飛ばして気を引こうとする。平和と正義を愛し、己の身をかえりみずに戦いに挑む魂は国を問わずに息づいていた。

 そして、彼らの誇り高いスピリットは天に届いて奇跡を呼んだ。空から赤い光の球が舞い降りて、進行を続けるクレッセントの眼前に立ちふさがる。その光の中から閃光とともに現れた、赤い光の巨人の勇姿!

「ウルトラマンタロウだ!」

 GUYS USAや逃げ遅れていた人々、TV中継を見ていた人々から一斉に歓声があがった。たとえ海を渡っても、ウルトラマンの名を知らない者はいない。数年前の地球の命運を懸けたエンペラ星人との戦いは全世界に実況中継されていて、そのときはGUYS JAPANのサコミズ隊長の呼びかけにニューヨーク市民も一丸となってウルトラマンを応援していたのだ。

 登場したタロウは、逃げ遅れた人々を守ってかまえ、真正面からクレッセントに挑みかかる。むろん、自分の進撃を邪魔されたクレッセントは怒り、鋭い爪を振りかざして迎え撃つが、タロウは俊敏な動きでかわして、逆に隙をついてクレッセントの首を締め付けて、思いっきり投げ飛ばした。

「トァァッ!」

 ウルトラ兄弟最強のパワーを誇るタロウからすれば、体重四万トンのクレッセントも軽々と宙に持ち上げられて、アスファルトの道路に叩きつけられる。クレッセントは激怒して立ち上がり、目から最大の武器である赤い破壊熱線を打ち出してタロウを狙う。だが、タロウはジャンプして熱線をかわし、そのまま地上六百メートルできりもみ回転をしてスピードを増大させ、超高速のキックを真上からお見舞いした。

『スワローキック!』

 あまたの怪獣をなぎ倒してきたタロウ最大の得意技に、クレッセントは街灯や信号機をへし折りながら吹っ飛ばされる。

 いいぞタロウ! 怪獣をやっつけろ! 人々の応援を受けて、タロウは獰猛なうなり声をあげて起き上がってくるクレッセントへ、恐れずに立ち向かっていく。その勇猛さを見て、GUYS USAも闘志を呼び起こされた。

「ウルトラマンにばかり目立たせるな! ニューヨークを守るのは、俺たちGUYS USAだ!」

「G・I・G!」

 自由の女神に見守られる中で、タロウとクレッセントの戦いはGUYS USAも加えて激闘の色を濃くしていく。

  

 

 地球に舞い降りた光のうち、別の二つはヨーロッパへ向かい、イタリアの首都ローマを目指した。そこでは、極彩色の巨大な怪鳥と、緑色の芋虫が二足歩行したような怪獣が暴れまわっていた。

「逃げろぉっ! 食われるぞ」

「きゃああっ! 助けてぇ」

 美しい市街地を破壊して人々を襲っているのは、火山怪鳥バードンと、そのエサとなる芋虫が巨大化した食葉怪獣ケムジラ。太古の地球で天敵関係にあり、同族が絶滅するなかを地底で生き延びていた二匹は、突如噴火したヴェスヴィオ火山から出現した。ふもとのナポリ市外は最初に現れたケムジラによって破壊され、ケムジラはGUYS ITALYの攻撃を受けてローマ方面へ北上。さらにバードンも火口から出現し、ケムジラを追い、エサとなる人間を求めてローマ市内へと侵攻してきたのだ。

 バードンから逃げようとするケムジラと、ケムジラを餌食にし、さらに人間の肉をついばもうとするバードンによって紀元前から栄えたローマ市街は破壊され、世界遺産コロッセオも崩れ落ちる。

 このまま人類の宝の都市は、バードンの餌場となってしまうのか。

 しかし、虐殺の宴は一瞬で幕を閉じた。バードンがこうるさく攻撃してくるGUYS ITALYの戦闘機を撃ち落そうと、くちばしを空に向けて火炎を放とうとしたときに、視界の外から飛び込んできた二つの赤い流星。それは光の球から炎をまとった獅子の一撃となって、二大怪獣に襲い掛かったのだ。

『レオ・キック!』

『アストラ・キック!』

 燃えるようにエネルギーを一点集中させた必殺キックが直撃し、二大怪獣が軽石のように吹き飛ばされる。さらに宙で一回転し、華麗に着地した二人の巨人は、古代ローマの剣闘士を思わせる勇ましき構えで現れた。

「エイヤァッ!」

 赤い体に銀のマスク。しし座L77星出身のウルトラマンレオとアストラの兄弟は、血肉をむさぼる野獣たちに敢然と立ち向かっていく。獅子兄弟の絆が勝つか、地球最強怪獣のパワーが勝つか。

 

 

 一方、日本以外の国で実質上最大の危機を迎えていたのが東ヨーロッパであった。

 都市圏を離れた人家も少なく、ひたすら荒野が続く大地。ただし、この場所にはロシアからヨーロッパへと向かって伸びる文明の大動脈、石油パイプラインがあった。

 ここに地震とともに地底から出現した、鋭い角と長い尻尾を備えた古代恐竜のような姿の怪獣。やつは地上に現れると、荒野の中で唯一金属の光沢を放っているパイプラインに興味を抱いたのか、一直線に突き進んできた。

 石油は燃料だけでなく、プラスチックから化学繊維まで、現代社会を根底から支えるもっとも重要な資源だ。パイプラインを破壊されてはヨーロッパはエネルギー供給を絶たれて枯死してしまう。地底レーダーの観測から、地底怪獣の出現を予期していた東ヨーロッパ、およびロシア地方のGUYSは総力をあげて、パイプラインをめがけて進撃してくる怪獣を食い止めようと試みた。

「アーカイブドキュメントの検索にヒット。古代怪獣ゴモラ、恐竜ゴモラザウルスの生き残りといわれているやつで、過去に日本において三件の出現が記録されています」

「了解、GUYS Russiaより各国戦闘機隊へ、我々が第一次攻撃隊として突っ込むので後に続け。国際合同演習の成果を見せるときが来たぞ」

「G・I・G!」

 GUYS Russiaを先頭に、数カ国の連合部隊はいっせいに爆撃を開始した。空に向かって吼えるゴモラに対して、ビームやミサイルがゴモラの土色の体に命中して、火花や爆煙が次々にあがる。各国とも、このパイプラインを破壊されるわけにはいかないから、上空を乱舞する戦闘機はゆうに三十機を超える大部隊となっている。万一パイプラインに誤射して誘爆させるわけにはいかないので、ゴモラの進行方向、すなわち真正面からしか攻撃できない点を除いたら圧倒的な戦力といえた。

「ウラー! たかが恐竜がこのツンドラの大地ででかい面すんじゃねえぞ。大昔から、ロシアを攻めてきた奴はナポレオンもヒットラーもみんな返り討ちになってるんだぜ!」

 ビームのトリガーをひきしぼるGUYS Russiaの隊員が豪快に叫んだ。俺たちの土地をよそ者の好きにはさせない。それは現在なお数々の紛争が絶えない理由でもあるのだが、自分の家に入り込んだ泥棒を叩き出すこともできないようでは、どうして幸福や自由を守ることができるだろうか。

 だが、彼らはゴモラを単に恐竜の生き残りだと考えてなめていた。確かに、ジョンスン島に出現したことがあり、大阪を舞台に初代ウルトラマンと激闘を繰り広げた、もっとも有名な初代ゴモラであればそれでよかっただろう。いくらすごいパワーを持っているとはいえ、腕や尻尾の届く範囲のはるか遠くから一方的に攻撃を仕掛けることができる。

 しかしゴモラにはもう一種類、あまり知られていないが隠された能力を持つタイプがいる。

 再び正面攻撃を加えようとする連合部隊の戦闘機隊、だが今度ゴモラは突っ込んでくる戦闘機隊へ向けて両腕を向けた。その手の甲からランチャーのように多数のミサイル弾が放たれる。

「なに!?」

 加速度のついていた戦闘機隊は避けられず、一気に五機ほどが撃墜される。ゴモラはそれにとどまらず、上空の戦闘機隊へも手からミサイルを放って攻撃した。

「馬鹿な! なんで恐竜がミサイルを撃てるんだよぉ!」

 油断していた戦闘機隊は次々撃墜されていく。これが、このゴモラの持つ能力だった。生物には進化といい、住む場所の環境に合わせて自分の体を変えていく機能が備わっている。元がまったく同じ生き物でも、進化によってまるで違う生物に変化していくことなどざらで、たとえば有翼怪獣チャンドラーと冷凍怪獣ペギラは、南国と南極という対極的な環境に住んでいながら兄弟といえるほど似通った姿をしている。これはチャンドラーの先祖はペギラと同類の怪獣だったが、ペギラ特有の渡りをおこなっているうちに高温多湿の環境に次第に慣れて、飛行能力などを捨てて、より住みよい南国に合わせて進化していったのだろうというのが一説である。

 このゴモラも、元はジョンスン島のゴモラと同類の恐竜ながら、地底の高圧や地熱の影響で体質変化を起こして、弱点であった遠距離攻撃能力を補うためにミサイルなどを撃てるよう、より攻撃的に進化していったものと考えられる。その証拠に、初代ゴモラでは一対だった三日月形の角が二対になり、一見角が四本あるように見える。これはドキュメントUGMに記録されているゴモラの亜種、便宜上ゴモラⅡと呼称されるタイプだったのだ。 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「くっ! 高度をとれ、ミサイルが弾切れになるまで耐えるんだ」

 ある隊のリーダーの叫びに、ほかの部隊もそれに習った。だがゴモラⅡの武器はミサイルだけではなく、戦闘能力はもはや恐竜の域を超えてパワーアップしている。ミサイルの有効範囲外へ退避する戦闘機隊へ向けて、ゴモラは今度は頭部の角から稲妻状の光線を発射した。

「うわぁぁっ!」

 回避しきれなかった機のパラシュートが、空に幾重もの白いしみとなって落ちていく。ゴモラⅡの圧倒的な火力は、かつて福山やトリスタニアで猛威を振るったベロクロンにも匹敵する勢いを見せる。

 大部隊をようした戦闘機隊は数機を残すのみとなり、パイプラインは目の前に迫っている。生き残った者たちは最悪の状況を覚悟した。だが、絶望はなにももたらしはせず、希望を与えるために彼らはやってくる。

「あっ! あれはなんだ」

 空のかなたからものすごいスピードで飛んでくる巨大ななにか。それはパイプラインへ迫るゴモラの真上で姿勢を変えると、無防備な頭部へ向かって矢のようなキックをおみまいした。

『流星キック!』

 かつて、古代怪獣キングザウルス三世の角をへし折った破壊力を受けてはさしものゴモラもただではすまない。ぐらりと巨体をよろめかせて横転し、長い尻尾が蛇のようにのたうった。

 そして、この必殺技の生みの親であり、今ここに駆けつけた者こそ、ウルトラ兄弟四番目の戦士。

「新ウルトラマン、ウルトラマン二世……あれが」

 ジャックは地球で本名を明らかにしていないので、今でもそうした異名で呼ぶ者は多い。だが、名がどうであろうと彼がそこにいる事実には変わりなく、またその意志が揺らぐこともない。

「ヘヤァ!」

 起き上がってくるゴモラを迎え撃つべく、ジャックは身構える。人類の自由と平和をおびやかすあらゆる敵と戦う、それがウルトラマンジャックの使命なのだ。

 

 

 さらに戦いの場は地球にとどまらず、地球の兄弟星にも広がっている。

 地球からもっとも近く、もっとも地球に近い環境だといわれる星、火星。ここには火星特産の鉱物、スペシウムを採掘する基地が建設され、民間の宇宙船も発着して多くの貴重な物資を地球に送っている。

 しかし、火星には昔から宇宙移民を悩ませるやっかいな原住生物が生息していた。

 岩の陰から転がり落ちた、ピンポン球ほど大きさの小さな金色の玉。それは火星の強烈な日光を浴びると見る見るうちに山のように巨大化し、ひび割れた内部からヌメヌメした外皮と、上にギョロりとした目玉が飛び出たナメクジのお化けが生まれ出た。

 こいつはその名も火星怪獣ナメゴンといい、かつては金色の卵の状態で地球にもやってきたことがある。火星に無数に生息しており、基地設営は幾度なくこいつに邪魔されてきた。なにせ、卵がとても小さいために発見しずらく、熱でほんの数分もせずに巨大化し孵化するので事前の対処が難しい。

 それでも、怪獣としてはさして強くないので開拓者たちは日々の努力を重ねて火星に地歩を築いてきた。ナメゴンがその外見からわかるとおり、塩分に非常に弱いという特徴を持っていることから塩化ナトリウムを充填した特殊弾丸が開発され、決定打となったことも大きい。

 そのため、近年ではナメゴンの犠牲になる人も少なくなり、基地は安定してスペシウムを地球に供給してきた。

 だが、今回基地を襲ってきたナメゴンの数は尋常ではない。火星の地平線を埋め尽くすほどの大群が砂煙をあげながら砂漠を進撃してくる。基地の防衛隊員たちは、基地の防衛能力を数で圧倒するナメゴンの群れを必死で足止めしながら、非戦闘員の退避を急いでいる。

「急げ! 貨物船でも戦闘艇でもいい。人を詰め込んだものからとにかく発進させろ」

 この基地には物資運搬用の貨物宇宙船が何隻も係留されている。それらが、基地の職員を乗せて次々に飛び立っていく。せっかく長年かけて築いた基地は惜しいが、人命に代えることはできない。

 しかし、あと一隻がというところでトラブルが発生した。

「隊長、東ブロックに子供たちが取り残されています! 隔壁の電路が故障で救助に向かうことができません」

「なんだと! くそっ、東ブロックは一番ナメゴンどもに向かって張り出してるんだぞ」

 それは火星生まれの子供たち、この基地で生まれ育った子供たちだった。以前にウルトラゾーンで事故に合い、ウルトラマンメビウスがヒビノ・ミライという人間名を持つきっかけとなったバン・ヒロトという青年も、彼らと同じように宇宙生まれの地球人だった。

 逃げ遅れた子供たちのいるブロックへ、ナメゴンの群れが地響きをあげて迫ってくる。基地の防衛砲台は必死に弾幕を張るものの、ナメゴンの目から放たれる怪光線で次々と破壊されていく。

 大人たちはどうしようもなく、ナメゴンの群れが東ブロックに迫る。そのとき、空から降り注いできた白色の光線が群れの先頭をなぎはらい、群れの進撃をさえぎった。一体何が!? 驚き慌てる基地隊員たちに、上空から巨大な生命反応が近づいてきていると報告が入る。

 そして空を見上げた彼らの目に希望が映った。赤い大地に銀色のたくましき巨人が降り立って、子供たちはその頼もしい後姿に、何度も聞かされてきた伝説のヒーローの名前を唱和した。

「ウルトラマンだ!」

 地球を守り抜いてきた、栄光のウルトラ兄弟。その最初に地球へやってきたのが初代ウルトラマンだ。数々の怪獣や宇宙侵略者を倒し、彼らのまだ見ぬ故郷の平和を守り抜いてきた栄光の歴史は、たとえ星を越えようとも父母たちから子供たちへと連綿と受け継がれている。

「シュワッ」

 窓に駆け寄り、手を振る子供たちにウルトラマンはゆっくりと振り返り、もう大丈夫だと言う様にうなずいてみせた。

 しかし、ナメゴンの大群はなおも迫ってくる。餌場へ向かう邪魔者を排除しようと、数十匹が目玉を上げて怪光線を放ってきた。

「危ない! ウルトラマン」

 だがウルトラマンは避けない。避けたら後ろにいる子供たちに当たることを知っているからだ。だから、素早く両手を高く上げ、四角い壁を描くようにして本物の光の壁を作り出した。

『ウルトラバリアー!』

 怪光線はすべてバリアーにはじき返され、ウルトラマンはびくともしていない。

 すごいぞ、ウルトラマン!

 子供たちの声援を受けて、ウルトラマンはナメゴンの群れへ向けて腕を十字に組んだ。

『スペシウム光線!」

 その手から放たれる光の奔流が、飢えた怪物どもを蹴散らしていく。

 いくらでも来い怪獣どもよ。ここから先には一歩も進ませない! 

 怪獣退治の専門家、正義のヒーロー・ウルトラマンは、守るべきものがいる限り決して負けはしないのだ。

 

 

 地球を離れること、およそ六億二千キロのかなたにある惑星、それが木星だ。この星の衛星軌道には、宇宙科学警備隊ZATの時代から宇宙ステーションが建設され、外宇宙の観測や様々な研究がおこなわれてきた。

 そこを襲ったのが円盤生物ブラックドーム。過去に地球侵略をもくろんだ悪魔の惑星ブラックスターによって、宇宙ガニが改造されたという怪獣兵器で、カブトガニのような体から巨大なハサミを伸ばしてステーションを襲う。ステーションにも自衛用の武装は施されているものの、ブラックドームはミサイルやレーザーをまるでものともしない。艇長は涙を呑んでステーションを捨てる決断をした。だが……

「脱出だ! 急げ」

「だめです。脱出艇が破壊されました」

「なんだと! くそっ……」

 脱出艇が失われたら、この広大な宇宙空間で助かる道はない。GUYSスペーシーに救助を求めようにも、ここは地球から離れすぎていて、救援が来るのに何日もかかってしまう。生きる望みを完全に絶たれたクルーたちは、わずかに酸素が残されたブロックに閉じ込められ、窓外に迫ってくるブラックドームを憎憎しげに睨んだ。

 やがて彼らのいるブロックにも、ビルをも溶かすペプシン泡を吐き散らしながらブラックドームが近づいてくる。だが巨大なハサミが彼らの最後の砦へとかかろうとしたそのとき、光の槍が流星のようにブラックドームの体を貫いた。

『ウルトラレイランス!』

 強固な殻ごと田楽刺しにされ、苦しみながらブラックドームがステーションから離れる。

 あの攻撃は……救援が来たのか? だが、いくらなんでも早すぎる。ならばいったい……あっ、あれは!

 クルーの一人が指差した先から、両手を広げて飛んでくるウルトラマン。

 あのウルトラマンはもしかして……やっぱりそうだと、あるクルーが大きく叫ぶ。

「ウルトラマン80だ!」

 およそ三十年前の怪獣頻出期の最後の時代、ちょうど彼らが子供のときに地球を守っていたのがウルトラマン80だ。小学生や中学生のころ、TVで頻繁に報道されるウルトラマン80と怪獣の戦いを見て防衛軍に入隊を決めた、この年頃の少年少女は数多い。特に、怪獣頻出期の最後に出現した冷凍怪獣マーゴドンは、ウルトラマン80の力を一切借りずに人間の手のみで倒しているために、そのころに入隊したものは特に多い。

 もっとも、その後に怪獣頻出期の終了が確認され、UGMも解体されて地球防衛軍は規模縮小されたのだが、それでも防衛軍に居続けた志の強い者たちは、少年時代の熱い記憶を忘れてはいなかった。

「俺たちのウルトラマンが、帰ってきた。がんばれーっ! ウルトラマン80!」

 音など届くはずのない宙空を挟んでも、ウルトラマンを応援する声は必ず届く。80はしぶとく襲い掛かってくるブラックドームのハサミを手刀で受け止めた。

「シュワッ!」

 防御から攻撃への転じも素早く切れる。目にも止まらぬ速さのキックを放ってブラックドームをのけぞらせ、カニそっくりの頭にエネルギーを込めたウルトラ拳を叩き込んだ。

『ウルトラチョップ!』

 一瞬隕石が正面衝突したような閃光が走り、ブラックドームの強固なはずの殻がひしゃげた姿が現れる。

 まだまだ、80の力はこんなものではないぞ? フラフラになったブラックドームへ向けて、80は宇宙空間の無重力をまるで感じさせないアクロバティックな動きで連続攻撃を決めていく。

 

 

 そしてここ、現在地球においてもっとも重要といえるGUYS JAPAN基地において、ひとつの再会がなされていた。

「まさか、こうしてまた君に出会えるとは思わなかったよ」

「サコミズ、それを可能にしたのは君の勇敢な魂だ。君の、未来に向かって飛び続けようとする強い意志が再び君と私を巡り合わせたのだ。さあ、もう一度平和な世界のために、共に戦おう」

 光の中で二つの魂がひとつになり、光は実体となって具現化し、銀色の勇者が今一度この地に帰ってきた。

 

「ゾフィー兄さん!」

 

 ジェットビートルの燃える炎の中から、神々しい輝きとともに現れたウルトラ兄弟の長兄の勇姿!

 メビウスが、リュウが、GUYSクルーたちがいっせいに歓声をあげた。四十年間に渡って人知れず地球人を見守って、その成長を信じ続けてきた宇宙の友。肩のウルトラブレスターと胸のスターマークも勇ましく、宇宙の各地で戦うウルトラ戦士たちにとっても、ゾフィーがいつでもいるからこそ、どこの宇宙でも安心して自らの力を発揮できる心の支えのような、宇宙警備隊の隊長。

 ゾフィーはベムスターに苦戦するメビウスを見据えると一喝した。

「立て! メビウス。お前の力はそんなものではないはずだ。銀河の平和を守る、宇宙警備隊員としての誇りを思い出せ!」

「はい! ……でやぁぁっ!」

 ゾフィーの叱咤に、メビウスは全身の力を込めてのしかかってくるベムスターを跳ね飛ばした。ずんぐりした巨体が背中からコンクリートに落下して、白い煙が吹き上がる。その隙にメビウスは起き上がって体勢を整えようとするが、気力は取り戻したものの、すでに大きくエネルギーを消耗しているメビウスのカラータイマーは激しく点滅している。

 ゾフィーは、肩で息をしているメビウスに、右手にはめていた大型のブレスレットを投げ渡した。

「受け取れ、メビウス!」

「はっ! これは、ウルトラコンバーター!」

「そうだ。これでしばらくはエネルギーの心配はない。ゆくぞメビウス! 我々兄弟の絆で、ヤプールの陰謀を打ち砕くのだ!」

「はい! ゾフィー兄さん」

 ウルトラコンバーターを装備したメビウスのカラータイマーが青く回復した。依然ベムスターは強力であり、アブソーバも虎視眈々と隙を狙っているが、これで二対二! 一人では勝てない強敵でも、兄弟が団結したときの力は何倍にも強くなる。

 メビウスが飛び、ゾフィーが駆ける。フェニックスネストを狙おうとするアブソーバにメビュームブレードを振りかざしたメビウスが切りかかり、触手をかすめて追い払う。

「リュウさん、こいつは僕に任せて。急いでハルケギニアへのゲートを! エース兄さんと才人くんたちを助けに行かないと!」

「ああ、頼んだぞ」

 アブソーバと空中戦を繰り広げるメビウスに応え、リュウはディメンショナル・ディゾルバーRの発射準備を急がせる。だが、ただでさえ連戦で疲労のピークにきていたオペレーターたちは、リュウの勢いについていけずに空回り気味で操作がおぼついていない。

 そこへ、ベムスターに格闘戦を挑んだゾフィーからテレパシーが、よく知った声で穏やかにリュウの脳裏に響いた。

〔リュウ、焦るな〕

「この声は……サコミズ総監! 総監がゾフィーと」

〔そうだ。私は今、ゾフィーと一心同体でいる。リュウ、焦るな。焦れば焦るほど冷静さは失われ、かえって人は力を出せなくなってしまう。怪獣たちは私たちがなんとしても抑える。リュウ、君は君が隊長として鍛え上げた隊員たちを信頼するんだ〕

「……G・I・G!」

 深呼吸して気持ちを落ち着かせたリュウは、それまでとは打って変わってキャプテン席に腰を深く沈めて、余計なことを言わずに隊員たちに視線を送るだけにした。こうなると、普通でも威圧感のある容貌をしているリュウに不思議と貫禄が備わってきているように見えて、隊員たちも落ち着きを取り戻してきた。

 俺も隊長なんて呼ばれるようになったけど、まだまだサコミズ隊長やセリザワ隊長には追いつけねえな。リュウは顔に出さないよう自嘲しつつ、これからも自らを鍛えていこうと誓うのだった。

 

 正義と悪とで綱の両端を持ち、負ければ奈落へ転落する綱引き。メビウスとゾフィーの兄弟タッグと、改造ベムスターとアブソーバの生物兵器タッグ。メビウスは隙あらばフェニックスネストを狙おうと、ふらふらとつかみどころのない動きで飛ぶアブソーバを食い止める。

 一方、過去ヤプールが送り込んできた中でもトップクラスの実力を誇る改造ベムスターに、ゾフィーは真っ向から立ち向かっていった。

「ヘヤァッ!」

 頑強なベムスターにも、生物である以上強いところと弱いところは必ずある。ベムスターの喉元へ水平に放った鋭い手刀、ゾフィーチョップが炸裂し、のけぞったところにゾフィーキックが五角形の腹の下腹部あたりにめり込む。

 むろんベムスターも最強の宇宙怪獣の異名に恥じずに、この程度の打撃では致命打は受けない。初代よりも甲高さが強まった鳴き声を上げて、鋼鉄でも噛み砕くくちばしを振りかざしてゾフィーに襲い掛かってくる。だがゾフィーはベムスターの突進を側面跳びで回避すると、勢いあまったその背中に肩から突っ込んだ。

「ジュワァ!」

 うつぶせに倒れこんだベムスターの背中にのしかかり、背中に向かって連続チョップを叩き込む。正面からの攻撃に対しては圧倒的に強いベムスターも、背面からの攻撃にはめっぽう弱い。起き上がる隙を与えずに、一気呵成にゾフィーは攻める。

 だが突如ゾフィーの背中に白色の光線が当たって、ゾフィーがよろめいた隙にベムスターの脱出を許してしまった。上空のアブソーバが、メビウスがフェニックスネストを守っている隙をついて援護射撃を繰り出したのだ。

「ゾフィー兄さん!」

「メビウス、隙を見せるな!」

 ゾフィーの被弾にうろたえるメビウスを、ゾフィーはきっと叱咤した。この程度のダメージで私はやられない。ゾフィーは健在を示すように、体勢を崩したメビウスに触手を向けているアブソーバに対して、腕をL字に組んで赤色の光線を発射した。

『M87光線Bタイプ!』

 ゾフィー最大の必殺技を、速射性を重視して変形させた光線がアブソーバに命中して爆発を起こす。威力を調節してあるとはいえ、これだけでも並の怪獣ならば吹き飛ばせる威力の一撃に、アブソーバはよろめきながら高度を落としていく。

 だが背中を見せたゾフィーに対して、ベムスターはさきほどの仕返しとばかりに飛行して体当たりを仕掛けてくる。そうはさせじと、メビウスは上空から急降下パンチをお見舞いした。

『メビウスパンチ!』

 炎をまとったエネルギーパンチでベムスターの突進を押し返したメビウスは、空中で姿勢を整えるとゾフィーのたもとに着地した。

「ゾフィー兄さん」

「メビウス、ベムスターはお前にまかせたぞ」

 そう告げると、ゾフィーは撃墜したアブソーバにとどめを刺すために飛んでいった。それは、一見するとメビウスに冷たいようにも、また戦術的には空中戦に長けたメビウスがアブソーバと戦ったほうがいいように見えるが、そうではない。自他共にウルトラ兄弟の一角に数えられるようになったメビウスだが、若さゆえにまだまだ甘さが目立つところがある。かつてはエースやタロウにもそうしたように、あえて強敵とぶつけることで彼らの成長をうながそうという、ゾフィーの長兄ゆえの厳しさの発露であった。

 残されたメビウスに、ベムスターは赤い瞳に残忍な感情を浮かべて威嚇の声をあげてくる。エネルギーを回復したとはいえ、お前ごときになにほどのことができるものかとなめているのだ。かつては兄弟最強と言われるウルトラマンタロウを完封した大怪獣、倒すにはかつてのタロウ以上の強さを発揮するしかない。

「負けられない。僕の肩には、リュウさんやGUYSのみんな、ふたつの世界の命運がかかっているんだ!」

 意を決したメビウスは、全身のエネルギーをメビウスブレスに集中させた。ブレスの中心の赤い神秘のクリスタルサークルから炎のような灼熱のエネルギーがあふれ出し、巨大なメビウスの輪となってメビウスの体を覆っていく。そして、炎が爆発して現れたメビウスの体には、GUYS JAPANの友情の印である、燃える炎のファイヤーシンボルが刻まれていた。

 

『ウルトラマンメビウス・バーニングブレイブ!』

 

 これこそ、かつてタロウですら倒せなかった無双鉄神インペライザーとの戦いで瀕死に陥ったとき、メビウスが仲間たち全員の友情を受けて転身した燃える勇者の姿。ウルトラ兄弟の中で唯一メビウスのみが可能とした、自らの姿を変えることによって能力を爆発的に高めるタイプチェンジの能力。

「ヘヤッ!」

 バーニングブレイブへ変身したメビウスの逆襲が始まった。メビウスパンチがベムスターの胸を打ち、メビウスキックが頭部をかすめて火花を散らす! ノーマルよりもはるかに強化された肉体から繰り出される打撃が、メビウスの攻撃を受け付けなかったベムスターの防御力を打ち抜いていく。

 だがベムスターも腹からの毒ガス噴射で反撃をかけてきた。

「フゥワァ!?」

 その毒性と、ガス自体が煙幕となったことによってメビウスの動きが止まる。その隙をつき、ベムスターは腹の口、吸引アトラクター・スパウトを開いてメビウスを狙ってきた。この口はかつて別個体がMATステーションやZATステーションを丸ごと飲み込んでしまい、メビウスやヒカリも捕食されかけたほど強力な吸引力と消化力を誇るのだ。ウルトラマンでも食べてしまう宇宙一の悪食家の口が迫る。

 そこへ、数十のエネルギー弾が地上からベムスターの背中に向けて発射された。

「食らえ! バスターブレット!」

 爆発が多数ベムスターの背中で起こり、メビウスに集中していたベムスターは驚いて、メビウスを捕食するチャンスを失ってしまった。そして、毒ガスから脱出したメビウスに、地上からエールを送る十数人のGUYSクルーたち。

「メビウスがんばれ! 俺たちだってついてるんだ」

 それはハルザキ・カナタら、新GUYS JAPANの隊員たちだった。各地の怪獣を迎撃して、ガンフェニックスほか戦闘機すべての燃料弾薬を使い果たし、再出撃できないながらも、いてもたってもいられずに自分の足で飛び出してきたのだ。トライガーショットを応援旗代わりに振り、応援するカナタたち。メビウスはその声にさらにパワーをもらい、ベムスターへ反撃に出る。

「セヤッ!」

 回し蹴りがベムスターをふっとばし、ベムスターの爪の攻撃にカウンターで放ったチョップが爪を破壊する。

 鋭い角での攻撃も、受け止めたメビウスはその力を利用して背負い投げを食らわせる。さらに、細長い尻尾をつかんで、ハンマー投げのように豪快に振り回して放り投げた。

 仲間との絆がメビウスを強くし、バーニングブレイブは彼の無限の成長を象徴するかのように圧倒的な力でベムスターを追い詰めていく。

 

 さらにゾフィーも弟の成長を喜びながらも、自分も負けていない。

〔ミライ、いやメビウスはもう立派にウルトラ兄弟の一員だな〕

〔ああ、よくここまで成長した。しかし、メビウスはまだまだ強くなれる。君たち地球人と同じように〕

〔ありがとう、ゾフィー。地球人も守られるだけではなく、君たちのように他の星々の人を救えるように強くなっていくと、彼らを見ていたら信じられる〕

〔私もそう思う。しかしサコミズ、我々の役目もまだ終わったわけではない〕

〔わかっている。宇宙の平和のために、命ある限り戦おう!〕

 ゾフィーとサコミズの心もまたひとつとなり、正義のために力をふるう。

 浮き上がろうとするアブソーバをチョップで叩き落し、強引に地上戦に引きずり込んだゾフィーは攻撃を続ける。強力なパンチを頭部に打ち込み、クラゲのように伸びた触手の一本を引きちぎる。アブソーバは触手の先から火炎を吹き付けて反撃してくるが、それをゾフィーは付き合わせた手の先からの冷凍光線で迎え撃った。

『ウルトラフロスト』

 ガス状の冷凍光線が火炎を相殺し、爆発の炎がそれぞれを赤く染める。だが火焔にまぎれて距離をとろうとするアブソーバをゾフィーは逃さず、爆発をジャンプで飛び越えて頭部にキックを叩き込んだ。

「ぬ、さすがに硬いな」

 ゾフィーキックの直撃を受けてなお、まだ余力を残しているように見えるアブソーバにゾフィーは少し悔しげにつぶやいた。アブソーバはフラフラした見た目に反して、ウルトラマンレオ必殺のレオキックにも耐える防御力を備えている。円盤生物は直接戦闘よりも隠密行動での破壊工作や奇襲を得意としているが、いざ戦わねばならない状況になった場合でも充分な実力はもたされているのだ。

 だがそれでも、百戦錬磨の猛者であるゾフィーの闘志はそげない。

「一発ならだめでも、連打攻撃ならばどうだ!」

 触手を無視するかのように距離を詰めたゾフィーは、からみついてくる触手を強引に振りほどいて猛攻をかけた。パンチやチョップがアブソーバの頭部に雨のようにヒットしていく。一発や二発ならば余裕を持って耐えられたであろうボディも、押しつぶすような連打には次第に悲鳴を上げだした。微細な亀裂からひびが全体にいきわたり、割れる寸前の卵のような状態になっていく。

 

 ゾフィーとメビウスのパワーに、ヤプールの切り札の二大怪獣ももはや満身創痍だ。いくら強い怪獣だろうと、協力しあうことを知らないものでは、絆の力でいくらでも成長できるウルトラマンに必ず抜かれていく。指揮をとりながらリュウは、戦友と恩師の活躍ぶりを胸を熱くして見守っていた。

「いいぜ! ミライ、サコミズ総監」

 そのとき、ディレクションルームの扉が開いて、GUYSクルーではない男が一人入ってきた。

「取り込み中のところすまないが、ちょっと失礼するよ」

「ん! 誰だあんた!?」

 突然入ってきた見覚えのない壮齢の男に、リュウは当然怒鳴りつけた。GUYSの関係者でないことは明白で、かなりラフな格好をしている。警戒厳重なここにどうやって? もしかして宇宙人かと、見えないようにトライガーショットを取り出す。しかし、彼は少ししわのまじった顔に温厚そうな笑みをリュウに向かって浮かべた。

「うん、この姿で君と会うのは初めてだったね。以前に一度、君たちの仲間とは顔を合わせているのだが、今日は彼女はいないのか」

「なに!? あんた、何者だ?」

「説明している時間はないから手短に話そう。私も一度は君と同じ立場に立ったことがあるから、名前くらいは聞いたことがあるだろう。私は……」

 ディメンショナル・ディゾルバーRの発動まで、あと一分。そのほんのわずかな時間に起こった、この出来事がその後にどういう影響を与えるのか、まだ知る者はいない。

 

 そして、ウルトラ兄弟と怪獣軍団の戦いも、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。

 ベムスターを格闘技の連続で追い詰めるメビウスと、アブソーバを徹底的に叩きのめすゾフィー。

 強烈なパンチでベムスターの顔面を殴りつけ、爪の一撃をかわしたところにカウンターキックを打ち込むメビウス。さらにメビウスは背中から持ち上げると、その巨体を軽々と放り投げた。

「デャァッ!」

 ベムスターの八十メートルの巨体がわらたばのように転がり、滑走路のコンクリートを引っぺがす、さらにゾフィーはアブソーバの触手をつかむと、大きく振り回してベムスターに向けて投げつけた。

「トァァッ!」

 起き上がろうとしていたベムスターにアブソーバがぶつかり、両者はもつれ合いながら転がる。

 ゾフィーはメビウスの傍らに跳んでくると、腕をあげてうながした。

「メビウス、とどめだ!」

「はい!」

 メビウスは一歩踏み出すと、きっと二匹の怪獣を見据えた。そしてバーニングブレイブのパワーを、胸のファイヤーシンボルへと集中し、真っ赤な炎のエネルギーが天空の太陽のように形作られていく。

「ハァァァッ!」

 メビュームシュートをはるかに超える超エネルギー。正義の炎が燃え滾り、そのパワーを最大限に圧縮した火球を生み出したメビウスは、ベムスターとアブソーバに向けて打ち出した。

 

『メビュームバースト!』

 

 火球は二匹の怪獣に命中すると、その全身を覆って一気に燃え上がった。かつてはウルトラダイナマイトでさえ倒しきれなかったインペライザーをさえ、跡形もなく燃やし尽くしたのがこの技だ。

 しかしベムスターはメビウス最強の必殺技を受けてさえ、そのエネルギーを吸い取ろうと腹の口を開けてあがく。

 だが、ベムスターの悪あがきは実らなかった。ゾフィーは胸のカラータイマーに水平に両腕を沿え、右腕を大きく反らして身構える。その手のひらに青く輝くエネルギーが集中していき、眼光は鋭くベムスターを見据える。先ほどのBタイプとは違い、手加減なしの最大出力。光の国の公式記録において、奇跡の八十七万度の超高熱を達成した、これがゾフィーの代名詞だ。

 見よ! ウルトラ兄弟最強光線を!

 

『M87光線!』

 

 伸ばした手の先から放たれた超絶威力の光線がアブソーバを貫き、ベムスターに吸い込まれていく。あらゆるエネルギーを吸収するベムスターは、M87光線さえも吸収するつもりなのだ。しかし、メビュームバーストとM87光線、ふたつの超必殺技の融合によって生じる超エネルギーは、底なしの貪欲さを誇るベムストマックさえ食いきれない。

 ベムスターの弱点は、体内からの攻撃にはもろい点だ。タロウを倒した個体も、ZATが生態を研究して作り上げたエネルギー爆弾を食わされて体内から爆破されている。ベムスターが消化しきれない餌に食いついてしまったと気づいたときには遅かった。

 メビウスの炎とゾフィーの手から放たれる光芒が、ヤプールの邪悪な意思ごとベムスターの細胞を焼き尽くしていく。

 これが最後だ! ゾフィーは渾身の力を込めて光のエネルギーを注ぎ込んだ。そして、ベムスターの吸収力の許容量が超えた瞬間、ベムスターは体内から爆裂し、アブソーバごと細胞の一欠けらも残さずに消し飛んだ!

「やった……ゾフィー兄さん」

「見事だったぞ、メビウス」

 戦いを終えた弟を、ゾフィーは自らの功は一切語らずに賞賛した。

 二大怪獣は灰となって舞い散っていき、二人のウルトラ戦士は空を見上げた。

 そこには、人類の英知が生み出した鋼鉄の不死鳥が、新たなる道を彼らのために切り開くべく飛んでいた。

 

 

 続く


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