ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第54話  共鳴する悪の波動

 第54話

 共鳴する悪の波動

 

 精神寄生獣 ビゾーム

 宇宙大怪獣 改造ベムスター

 円盤生物 アブソーバ 登場!

 

 

 タバサとキュルケの力を合わせた戦いで、ジョゼフの送り込んだ最後の罠、ギジェラは倒された。

 しかし、勝利の余韻もつかの間、突如として現れた新たな怪獣が二人に新たな脅威を告げる。

 黒々した肉体に、黄色く発光する顔と胸の器官。才人が見たとしたら、かのゼットンを連想しそうな容姿を持つ人型の怪獣は、まるで人間の持つ恐怖という感情を形にしたかのようなおどろおどろしさを振りまいている。

 キュルケはぞっとしたものを感じ、タバサも背筋になめられたような不快感を覚えた。

 そして、ジョゼフすらも予期していなかった第三者は、明らかな敵意をタバサたちに示す。

 果たして、その目的はなんなのであろうか……

 

 シルフィードの背から、タバサとキュルケは愕然として異形の怪獣を見つめていた。だが、この自失していた数秒がいかに貴重であり、自分たちがどれほど危険な状況にいるのかを、皮肉にもその敵によって気づかされた。

 新たに出現した怪獣は、まるで喉がひっかかったまま笑っているような、薄気味の悪い声をあげながらこちらに向かってきたのである。

「いけない。シルフィード、逃げて」

 タバサは怪獣の接近に、ためらわずに逃げを選択した。敵の能力が未知数なうえに、二人とも精神力を使いすぎてすでに魔法を打つ余力がない。とても、もう一匹怪獣を相手にするような余裕などはなかった。

 シルフィードはぐんぐん上昇していき、怪獣の姿はどんどん小さくなっていく。

 しかし、タバサたちは知らなかった。その怪獣……かつて別世界にも現れたことのある、精神寄生獣ビゾームを操っていた存在が、地球攻撃のために得意としていた戦術を。

 高度何千メートルという高さに上昇していくシルフィードを、ビゾームはなぜか光線で打ち落とそうともせずに見上げている。

 そして、天高く上がったシルフィードのシルエットが月と完全に重なり、月食が完成したときにビゾームは高笑いするかのように両腕を掲げた。

「ここまで来れば……っ? シルフィード、どうしたの? スピードが速すぎっ」

「ち、違うのね! な、なにかに吸い寄せられてるのねっ!」

 上昇をやめようとしたシルフィードを、まるで重力が逆転したかのような強力な力がひきつけていく。これはいったい!? と、引き寄せられていく方向を目の当たりにした二人は、信じられない光景に驚愕した。

「あれはっ!? 月に。月食に引き寄せられていってるの!」

 だがそれは事実だった。月食の月が、まるで空に開いた穴のようにシルフィードを吸い寄せている。

 タバサとキュルケは、空に開いた穴の姿に、アルビオンで日食が起きた折、そこからGUYSガンフェニックスが現れた光景を思い出して戦慄した。

「まさかっ! あれは別の世界へつながってる扉! タバサ、逃げるのよ」

「わかってる……シルフィード」

「だ、だめ、少しずつ引き寄せられてるのね!」

 空の穴、ワームホールに向かってシルフィードはじわじわと引き寄せられていった。このままでは、みんな揃ってどこかわからない世界に飛ばされてしまうかもしれない。しかし、ワームホールの吸引力にシルフィードの力はわずかに負けており、タバサとキュルケにも魔法で後押しする余力はなかった。

 ワームホールまであと何百メートルもなく、引き裂かれるような引力の中で、タバサは自らを、キュルケは自らとタバサの母が飛ばされないように必死で守った。しかし、人一倍小柄で、かつギジェラの幻覚と魔法の大規模使用で疲労の極に達していたタバサには、すでに肉体的な余裕も残されてはいなかったのだ。 

 ワームホールの引力に抗って、全力で翼を羽ばたかせるシルフィード。と、急に体がぐらりと揺れ、吸い込まれる力が弱まったような違和感を覚えた。そして、ふと背中を振り向いたシルフィードの心は零下の海中へと放り込まれた。

 そこに……いつも同じ場所に座っているはずの主人の姿が、忽然と消えていたのである。

「おねえさまーっ!」

「タバサー!」

 シルフィードとキュルケの絶叫が虚空を裂いた。タバサの小さな体が、シルフィードから引き剥がされてワームホールへと吸い込まれていく。もはや、後先を考えている余裕はなかった。シルフィードはすぐさま反転し、全力でワームホールに翼を向けた。

「タバサーっ!」

「キュルケ……」

 タバサが必死で伸ばした杖をキュルケが捕まえようと手を伸ばす。だが、それが限界だった。タバサは大きく開いたワームホールの中に、黒い水に落ちたように吸い込まれて消え、その瞬間、ワームホールはそれまでの吸引力がうそであったかのように、強烈な反発力でシルフィードを吹き飛ばしたのだ。

「タバサぁー!」

 悲鳴とともに、シルフィードはきりもみしながら墜落していった。意識を失う前にキュルケの目に映ったのは、終わろうとしている月食と、愉快そうに肩を震わせている怪獣の姿だった。

 

 

 しかし、この異常な月食がもたらした影響はここだけではなかった。

 ガリアの反対側で、眠れず空を見上げていた才人とルイズの見ている前でも、ありえるはずのない月食は見えていた。

「そんな馬鹿な……この時期に月食なんて」

 呆然と不気味な姿をさらす月を見る二人は、はるかかなたのタバサたちとビゾームの戦いを知るよしもない。だが、この不吉の象徴のような月がもたらす異変は、二人の元へも別の形で現れた。

 突然、才人が肌身離さず持っているGUYSメモリーディスプレイの呼び出し音が鳴った。慌てて懐から取り出し、スイッチを押した才人の耳に、ノイズ交じりの声が流れてくる。

〔こち……ちき……聞こえるか? ハルケ……才人!〕

「この声は、リュウ隊長! おれです。聞こえますか!」

 向こうの世界で、再びこの世界とを連結させる作戦が成功したのかと才人は喜色を浮かべた。しかし、通信の向こうから聞こえてきたリュウの声は、再会を喜ぶものではなく、急いでなにかを伝えようとする怒鳴り声だった。

〔おう! 才人か、いや……り、時間が……〕

「なんです! よく聞こえない!」

 相手の声色から、容易ならざる事態なだけはわかったが、音割れがひどくてうまく聞き取れない。地球で何があったのだ? 焦って聞き返す才人へ、メモリーディスプレイからもリュウの焦った声が途切れ途切れに響く。

〔よく聞け! お…………ディゾルバー……次元移動……作戦…………ヤプール〕

「ヤプールですって! なにがあったんですか! もしもし!」

 叫べど、激しくノイズの混ざる通信はいっこうに要領を得ない。

 地球とハルケギニアを結ぶはずの次元トンネルになにがあったのだ? まさか、ヤプールがすでに地球にも。

 

 才人は、自分の知らないところで事態が大きく動いていたことを知った。しかしそれは、単純にヤプールによる攻撃が再開されたのみならず、ジョゼフをはじめとするハルケギニアを狙う勢力の活動が混ざり合い、まったく予想できない形で生み出された結果によるものだったのだ。

 そう、この世界は常に狙われている。かつて、地球が宇宙を漂う幾千の星から、侵略の魔手を伸ばされたように。

 さらにその中には、ヤプールのように時空を超えて陰謀をめぐらすものも存在する。それらの悪の勢力が互いのことを意図しあわなくとも同時に活動すれば、それがもたらす事態と被害は計り知れない。

 平和を守ろうとする者たちと、平和を乱し混沌と破滅を愛するものたち。

 水面下で着々と力を蓄え、悪意をみなぎらせて蠢動してきた敵たちが、ついに表に出て侵略を開始しはじめた。

 そして、その次なる標的となったのは才人が帰還を心待ちにしていた故郷だったのだ。

 

 次元を超え、時系列は数時間巻き戻る。

 地球……エースたち、M78星雲のウルトラマンたちの故郷のある世界の地球において、それまでの平穏さが嘘のような異常事態が起きていた。

 

「GUYSアンタクルティカより連絡! 南極にて冷凍怪獣ペギラの群れを確認、北上しつつあり。南太平洋でGUYSオーシャンが迎撃態勢をとるもようです」

「GUYSスペーシーから緊急連絡! 月面上にて月怪獣ペテロを確認。さらに火星基地にナメゴン二体が出現、木星ステーションからも、羽根怪獣ギコギラーが地球に接近中との報です。現在全力出撃中」

「ヨーロッパ方面からもザルドン、アメリカでもゴキネズラが出現したそうです。各国GUYSが迎撃中ですが、苦戦しているようです」

 

 フェニックスネストのディレクションルームに、ひっきりなしに各地に怪獣出現の連絡が飛び込み、オペレーターたちが対応に苦慮している。

 世界各地で同時多発的に起きた怪獣の異常発生。怪獣頻出期の歴史上においても、最大級の非常事態が、この日地球を襲ったのだ。地底から現れるもの、宇宙から飛来するものなど、出現パターンは様々であるが、そのいずれも大都市や基地などを標的に定め、その防衛のために世界各国のGUYSは総力戦を余儀なくされている。

 むろん、これが単なる偶然の自然現象などではなく、ヤプールかそれに匹敵する侵略者による仕業であることは、当初から誰もが認めていた。

 一週間ほど前から、地球の各地で観測された微量のマイナスエネルギーの検出。次元の変動と、それにともなうヤプールエネルギーの観測。さらには、GUYSの厳重な警戒網を破っての、地球各地での未確認飛行物体、いわゆるUFOの目撃証言。その場所はおよそとりとめがなく、日本だけでも瀬戸内海上空、静岡の下田港、愛知県の伊良湖岬。国外では台湾、フィリピンの海上で漁船が不振な飛行物体を目撃し、南太平洋、北大西洋、地中海でも飛行中の旅客機が怪しい光を目撃したとの報告があがっている。恐らくこれらは、本格的な攻撃の準備のための偵察であったのだろう。

 当然、攻撃の対象は日本にも向けられ、GUYS JAPANも出動している。このころになると、ハルザキ・カナタら新人隊員たちも、ジョージやテッペイら前GUYSのOBらの指導で、すでに一人前と呼べる技量に成長していた。彼らは今では、さらに新たに入ってきた新人隊員たちとともにガンフェニックスで出撃している。

 ただし、各地の怪獣の数はかつてのアーマードダークネス事件のときよりも多く、ガンフェニックスだけではとても対処し切れなかった。そのため、GUYS JAPANはガンクルセイダーや、補用機の旧MATのマットアローの改修機であるGUYSアローまでも投入して、必死に各地の被害を抑えている。

 しかし、各地から悲鳴のようにあがってくる救援要請を受けながらも、GUYS JAPANにはリュウ隊長、ミライことウルトラマンメビウスら主戦力をフル投入できない訳があった。

「隊長! 札幌にアーストロンが出現しました。これで、世界各地に出現した怪獣の数は二十体を超えます。このままでは、市民の避難が完了するまでに食い止めきれません!」

 

 

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「ちっ! いったい何匹出現すりゃ気が済むんだ」

「リュウさん! やっぱり僕が行きます」

 ディレクションルームで、各地のGUYSクルーに指示を出していたリュウは、待機しているのにいてもたってもいられなくなったミライから出動要請を受けて、一瞬逡巡した。確かに、メビウスが参戦してくれれば戦況は一気に楽になる。しかし、現状をかんがみるとリュウは首を横に振るしかなかった。

「だめだ。ミライ、やつらはお前を引っ張り出すことが目的なんだ。ここを手薄にしたら、せっかく完成したディメンショナル・ディゾルバー・Rを誰が守るんだ!」

 そう、それこそがリュウを苦悩させている元凶だった。地球と次元を超えた異世界ハルケギニアとの行き来を可能とする、時空間安定化装置ディメンショナル・ディゾルバー・R(リバース)。かつてヤプールの次元ゲートを半永久的に封印したディメンショナル・ディゾルバーの極性を反転させたこの装置は、前回のときは未完成であったためにわずか三日でゲートが閉じてしまったが、フジサワ博士らの努力で完成にこぎつけられていた。ただし、ゲートを開くためには理由は不明であるが日食が必要であり、あのときの皆既日食には及ばないにしても、部分日食が発生する今日しかチャンスはなかった。

「ヤプールは、俺たちが向こうに乗り込んでいくのを恐れてるに違いねえ。いいかミライ、俺たちの仕事はこいつを防衛して、もう一度向こうの世界へのゲートを作り出す。そして、お前の兄さんたちとも力を合わせてヤプールをぶっ倒す。だから、見え透いた誘いに乗るんじゃねえぞ」

「わかりました。すみませんでした」

 ミライは素直に謝罪したが、リュウの心は複雑だった。ミライにこうして偉そうに言ったものの、隊員時代のリュウであったら、真っ先に飛び出していったのは間違いないし、今でもリュウはどちらかといえば司令室より現場を好むタイプだ。

 しかし、一隊員だったころと隊長に就任した今では責任の重さがまるで違う。上に立つものは、自らの自我を抑えて、全体を、目的を最小限の犠牲と労力で成し遂げさせるために牽引しなければならない。それは、リュウの気質からしたらかなりの負担になることは、隊員時代の彼を知るものからしたら容易に想像ができた上に、今回は新生GUYS JAPANに本当の意味で経験を積ませるため、ジョージ、マリナ、テッペイ、コノミら前GUYS JAPANは参加していないから、負担は一気にリュウにのしかかってくる。

 ただし、現在のリュウを知る者の中に、彼がその義務から逃げたことは一度もないことを否定する者もいなかった。

「GUYSを頼む」

 かつてディノゾール戦で、セリザワ前々隊長が散り際に残した言葉をリュウは忘れたことはなく、それは今も続いている。ウルトラ5つの誓い、地球は地球人自らの手で守り抜くという信念を受け継ぎ、そして敬愛する二人の隊長に追いつくために、リュウは全力で隊長の責務と向き合っている。

 

 地球側の必死の努力をあざ笑うように続く、怪獣軍団の猛攻。けれども世界各国のGUYSは、日本に比べれば経験が浅いにもかかわらず、じわじわと怪獣軍団を押し返し始めた。

 だが、地球側がこれくらいの健闘を見せることくらいはヤプールも想定していた。次元を超えて地球の戦いを見守るヤプールは、怪獣軍団による無差別攻撃では不十分だと判断した。

「地球人の科学力もなかなかのものだ。やはり、マイナスエネルギーに惹かれてやって来たゴミどもだけでは不十分だな。ならば、作戦の第二段階へ移る。ゆけ! 超獣どもよ!」

 次元の裂け目を通り、ヤプールの第二陣の攻撃が送り込まれる。今度は無差別ではなく、ピンポイントに地球の重要拠点を狙った攻撃は、即座にGUYSの知るところとなった。汗をぬぐう暇もないフェニックスネストのディレクションルームに、新たな敵出現の報が飛び込んでくる。

「隊長! マレーシアの天然ガスステーションにガス超獣ガスゲゴンが出現。続いてインドのニューデリーにさぼてん超獣サボテンダーが現れました」

「ちっ! ヤプールめ。業を煮やしてついに超獣も出してきやがったな」

 舌打ちしたリュウは、事態が深刻さを増していることを自覚した。このまま戦いが長引けば、物量差で負ける。世界各国への攻撃も、耐えられなくなった国をGUYS JAPANが助けに行かなければいけない状況になるのを計算しているからなのだろう。実際、戦力の低い地方のGUYSは悲鳴のように周辺国に救援を求め、特に精鋭の日本には救援要請が山積みされている。これは直接日本だけが標的にされるより性質が悪い。

 ヤプールの相変わらずの卑劣なやり口に、以前ヤプールに憑依されたことのあるリュウは胸がむかむかしてくるのを隊員服のはしをつかんで抑えた。あのときのことは記憶にないが、自分の体を操ってGUYSの皆をだまし、ミライを陥れようとしたヤプールに、リュウは好意的な感情を抱いたことは一度もない。

 絶対にヤプールだけは許さねえ。リュウは決断した。

「メテオールの使用を許可する。ただし、無理に撃破しようとしなくてもいい。怪獣たちはヤプールエネルギーの影響を受けてるだけだ。ぶっ叩いて追い返せ!」

「G・I・G!」

 隊員たちもリュウの荒っぽい命令にすぐに答える。セリザワ隊長時代とも、サコミズ隊長がいたころとも違う形の、リュウが指揮する新しい形のGUYSの姿がここにあった。

 そして、GUYSマシンの必殺装備、超絶科学メテオールが発動し、GUYS JAPANは決戦に打って出た。

 

「パーミッショントゥーシフト・マニューバ!」

 

 ガンフェニックスから分離した、ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターの機体が金色に輝き、それぞれの機体の超兵器が放たれる。

「スペシウム弾頭弾、ファイア!」

「ブリンガーファン・ターンオン!」

「ガトリングデトネイター、発射!」

 ガンウィンガーから放たれた大型ミサイルが、静岡の浜名湖で暴れていたシェルターの周囲に巨大な水柱を立ち上げ、驚かせて追い返した。

 ガンローダーの荷電粒子竜巻が、愛媛県の霊峰石鎚山の上空で、参拝客を狙っていたテロチルスを巻き上げて山腹に激突させる。

 ガンブースターも負けてはおらず、光線砲の全弾命中で福岡県の山間部から北九州市方面に向かっていたインセクタスを吹き飛ばした。

 さらに、その他の機で出撃した部隊も負けてはいない。ガンクルセイダーの改良型ガンクルセイダーMXにはメテオール、スペシウム弾頭弾が備え付けられており、函館に出現したアーストロンを撃破、千葉県九十九里浜に上陸をもくろんでいたツインテールを海に叩き返した。

 残るGUYSアローは元々四十年も昔の機体なので、改修を重ねたとはいえ性能的に苦戦は免れない。しかし、これらの機体も整備班長のアライソの下でエンジン出力他、可能な限りのパワーアップがなされていた。さらに今回は細胞破壊ミサイルや大型レーザー砲・ゴールデンホーク、対怪獣用強力ミサイル・X弾改など、旧防衛チームが開発・使用した兵器を実験的に再現して搭載してあり、それらを駆使して怪獣たちを退けていった。

 

 新生GUYSの隊員たちは、必死の努力で怪獣軍団の猛攻から人々を守っていく。

 怪獣たちが倒され、あるいは逃げ帰っていく姿に人々は歓声をあげ、飛び去っていく戦闘機を手を振って見送る。

 しかし、弾薬、エネルギーが尽き果てて、隊員も疲労困憊したGUYS JAPANはしばらく戦えない。彼らが必死に作ってくれたチャンスを、無駄にするわけにはいかない。

「リュウ隊長、フジサワ博士からディメンショナル・ディゾルバー・Rの発動準備完了と連絡です」

「日食の開始まで、あと五分です」

「ようし、フェニックスネスト、フライトモード起動だ!」

 リュウはついに作戦開始を指令した。GUYSの基地、フェニックスネストはただの基地ではなく、その地上の建物部分は飛行可能な大型航空機として機能する能力を持っている。

 最上部のディレクションルームのあるコクピット部分が鳥の頭のように前に倒れこみ、その背部に主砲である大型砲・フェニックスキャノンがせり出してくる。さらに主翼が展開し、後部リフレクターブレードが垂直尾翼のように後方で固定され、フライトモード起動用意が整った。

 このモードはGUYS最大の切り札であり、本来はミサキ総監代行以上の許可が下りなければ起動不可能だが、今回はサコミズ総監からリュウに権限が委任されている。

 時空ゲートを開く場所は、フェニックスネスト上空五百メートルの空中。今回は空間座標固定の技術が確定しているために、ある程度自由な場所にゲートを開くことができる。ただし、地上に開けば両世界を渡ってはいけない者が通ってしまう危険性が強く、上空高く作りすぎては行き来が不便となるために、監視に適したフェニックスネスト上空に作ることとなったのだ。

 メインエンジンが起動し、すさまじいエネルギーがエンジンノズルに集中していく。

 

 しかしヤプールも、GUYSの作戦は読んでいた。フェニックスネスト上空の次元に歪みが生じ、強力なヤプールエネルギーが空を黒く染めながら、邪悪な意思とともに漏れ出してくる。

 

「おのれ地球人どもめ! 今一度時空を超えさせはせぬぞ。今こそ我らヤプールの真なる力を見せてくれる! ゆけ! 我等が同志、最強の宇宙怪獣ベムスターよ。さらにパワーアップしたその威力で、人間どもをふみつぶしてしまうのだぁー!」

 

 空間がガラスのように割れて真っ赤な裂け目が生じ、その中から巨大な影が姿を見せる。そしてそこから地球の大地に降り立つ、濃緑色の体を持つ異形の鳥型怪獣。引き裂くような甲高い鳴き声をあげ、今にも飛翔しようとしていたフェニックスネスト前面の滑走路上で、鋭い一本爪を生やした腕を高々と掲げたそいつを見て、リュウは悲鳴のように叫んだ。

「あいつは! ベムスターじゃねえか!」

 リュウたちGUYSは以前ベムスターとの戦闘経験がある。オオシマ彗星のダストテールを追って地球へ飛来したそのときの個体は、GUYSやメビウスの攻撃をことごとく吸収して大苦戦させられた。かろうじてメビウスがヒカリからたくされたナイトブレスを使った、メビウスブレイブの初披露で撃破したものの、それがなければさらなる被害をこうむったのは間違いない。GUYSにとっては忘れられない因縁の敵だ。

「野郎! 超獣じゃなくてベムスターとは人をなめた真似してくれるぜ。基地の防衛機構を作動させろ。地上兵器で食い止めているうちに離陸する」

 フェニックスネスト周辺には、オオシマ彗星の破片の隕石を撃墜した大型ビーム砲シルバーシャークGをはじめ、千二百ミリシンクロトロン砲や無人戦車大隊も配備されており、これをフルに活用することで無双鉄神インペライザーの一体を撃破したことがある。

 だが現れたベムスターはただのベムスターではなかった。その特徴の変化から、オペレーターがリュウを止めた。

「隊長待ってください! あれはGUYSが以前交戦したベムスターではありません。ドキュメントZATに記録を確認しました。レジストコード、宇宙大怪獣改造ベムスターです!」

「改造だと!?」

 

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 そう、それは普通のベムスターではなく、体格も一回りほど大きく、以前リュウがどことなくかわいいと表現した顔つきも、赤目が目立つ凶悪なものになっていた。こいつはかつて、ウルトラマンAによって倒されたヤプールがタロウが地球防衛をしていた時代に復活した折に、ウルトラマンジャックが倒したベムスターを超獣と同様に強化再生させた新たなベムスターだった。その実力はジャックが戦ったときのものをはるかに超え、一度はタロウを完封するほどの脅威を見せ付けている。

 今度現れたものは、ハルケギニアの月でウルトマンジャスティスによって倒された個体を強化再生したもので、ベムスターはヤプールの自信を体言するかのように、地上兵器の猛攻をほとんど無視しながら、大またでのしのしとフェニックスネストに迫ってくる。

「防衛ライン、突破されます! フライトモード離陸、間に合いません!」

「畜生!」

 離陸直前の無防備な状態を狙われたら、いくらフェニックスネストでもひとたまりもない。主砲のフェニックスキャノンはディメンショナル・ディゾルバー・Rの発射のために使えず、防衛ラインを抜かれたら打つ手はなかった。

 しかし、ベムスターがフェニックスネストまであと百メートルにまで迫ったときだった。滑走路上でベムスターの前に立ちふさがったミライが、メビウスブレスを装着した左腕を空に掲げた。 

 

「メビウース!」

 

 金色の光に包まれて、メビウスの輪の中から銀色の巨人が現れる。ミライが変身したウルトラマンメビウスが、フェニックスネストを守るためにベムスターの眼前に立ち上がったのだ。

「ヘヤッ!」

 登場したメビウスは、ベムスターに肩から突っ込んでフェニックスネストへの突進を阻んだ。しかし重い! 以前のベムスターよりもさらにパワーのあるベムスターに、メビウスの足元のコンクリートが耐えられずにはじけるようにして飛び散っていく。

「ミライ!」

「リュウさん。こいつは僕が食い止めます。その隙に早く!」

「くっ、すまんミライ。だが気をつけろ! そいつは以前のベムスターよりはるかにパワーアップしてるはずだ。負けるんじゃねえぞ!」

「G・I・G!」

 力強く答えたメビウスは、さらに渾身の力を込めてベムスターを押さえつける。だがベムスターはタロウをも軽々と吹っ飛ばした怪力でメビウスを振り払い、目から発射する破壊光線でメビウスごとフェニックスネストを狙う。

「フェニックスネストはやらせない!」

 間一髪、立ちふさがったメビウスがメビウスディフェンサークルを作って光線を防いだ。しかしベムスターは近接戦を得意としていたオリジナルの能力に、ヤプールによって目や腹の口からも光線を放てるような改造が施されている。距離を詰めようとしたメビウスに、今度は目から針状の光線を連射して痛めつけた。

「ウワァッ!」

「ミライ!」

「僕は大丈夫です。それより早くっ!」

 メビウスは苦しみながらも、フェニックスネストを守る盾としてベムスターの前に立ちふさがった。その隙に、ミライが作ってくれたチャンスを無駄にしてはならないとフェニックスネストは白煙を上げて、その名に冠した不死鳥のように、炎をたなびかせて雄雄しく空へと飛び上がった。

 圧倒的な威容に、はじめてその姿を目の当たりにする新人隊員たちは揃って歓声をあげた。長い防衛隊の歴史上でも、フェニックスネスト・フライトモードに匹敵するメカは、UGMの大型宇宙艇スペースマミーなどわずかしか存在しない。そして、いまやコクピットとなったディレクションルームでは、キャプテンシートにリュウが座り、矢継ぎ早にディメンショナル・ディゾルバー・R発射の指示を飛ばす。

「メテオール解禁。ディメンショナル・ディゾルバー・R発射用意!」

「高度五百メートル。発射位置固定、フェニックスキャノン安全装置解除」

 チャンスは一度、ベムスターを抑えているメビウスも単独では長くは持たない。発射準備完了を待つ一秒が一時間にも感じられる中で、リュウの額から流れた汗が顔を伝ってあごから床へと滴り落ちていく。

 だが、カウントダウンが開始されようかという直前、レーダーを監視していたオペレーターが叫んだ。

「隊長! 後方百メートルに怪獣の反応が!」

「なんだと!? そんな近くに来るまでなんで気づかなかったんだ!」

「わかりません。突然、突然現れたんです。うわぁっ、間に合わない。衝突します!」

 直下型地震のような激震が襲い、オペレーターの何人かが床に放り出された。かろうじて席にしがみついていたリュウは船外監視カメラを操作し、フェニックスネストに食らいついた怪獣の映像をスクリーンに映し出すと、そこにはフェニックスネストに無数の触手で絡みつく、緑と赤の不気味な生物が現れた。

「な、なんだこいつは!? まるで、クラゲとタコの合いの子みたいな」

「ア、アウト・オブ・ドキュメントに記録を見つけました。こいつは、円盤生物アブソーバだと思われます」

「円盤生物!? そうか、そういうわけだったのか!」

 リュウは円盤生物と聞いて、以前怪獣博士のテッペイから余暇時間に講義を受けたことを思い出した。防衛チームMAC壊滅後に現れた円盤生物と呼ばれる宇宙怪獣たちは、そのほとんどが自分の体を石ころ大の大きさに縮小できる能力を持っている。恐らく、小型円盤形態でレーダーを避けて接近してきたために発見できなかったのだろう。

 しかし悔しがる暇もなく、オペレーターからさらに悪い報告が入る。

「隊長、フェニックスネストのエネルギーが急速に減少しています。このままではフェニックスキャノンの発射が不可能になり、最悪墜落してしまいます」

「なにっ! くそっ、やつがエネルギーを吸い取っているのか」

 アブソーバという名前は、”吸収”という意味を持つ。あらゆるエネルギーを吸い尽くすといわれるアブソーバの触手が、蛭のようにフェニックスネストのエンジンに張り付いて、エネルギーを吸い取っていたのだ。

「まずい。なんとか振り払えないか!」

「だめです! がっちり捕らえられていて、とても振り払えません」

「畜生、なんてこった……」

 今やフェニックスネストは、電気クラゲに捕らえられた小魚も同然であった。メビウスはベムスターとの戦いに拘束されて援護できず、GUYSの地上武器ではフェニックスネストを巻き込んでしまうために狙えず、頼みの戦闘機も全機エネルギー切れで動けない。

 これまでか……さしものリュウもあきらめかけた。しかしそのとき、ディレクションルームに懐かしい声が響いてきた。

 

〔リュウ、あきらめるな。最後まであきらめない者だけが、不可能を可能にできるんだ。それはお前が、一番よく知っているだろう?〕

 

「この声は、まさか!」

 顔をあげたリュウの前で、アブソーバに複数のミサイルが着弾して火花を上げるのが見えた。

 突然の攻撃に驚き、アブソーバの拘束とエネルギー吸収が緩む。そしてアブソーバの醜い姿の後ろに、丸みをおびた銀色の戦闘機が旋回するのを目の当たりにして、リュウは誰が助けに来てくれたのかを確信した。

「ジェットビートル……サコミズ総監!」

 それこそ、最初の防衛チーム科学特捜隊の主力戦闘機ジェットビートルの雄姿。さらに、そのコクピットに座っている人は、CREW GUYSの総監にして前GUYS JAPANでミライやリュウたちを教え導いてくれたサコミズ・シンゴ隊長に間違いなかった。

 ジェットビートルは旋回してくると、主翼の両端に装備されているロケット弾でアブソーバを攻撃していく。ただし、フェニックスネストへの誤爆は一発もなく、アブソーバの強固な皮膚を避けて目などの急所に攻撃を集中させる腕前は並みのものではない。リュウは、アブソーバの拘束が緩んだこの隙しかないと叫んだ。

「いまだ! エンジン全開で振り切れ!」

 轟然とメインノズルから炎を吹き出し、フェニックスネストはアブソーバを振り払った。もちろん、一度捕まえた獲物を逃してなるものかとアブソーバは再度触手を伸ばしてくるが、そこへ急速旋回してきたビートルがロケット弾の雨を食らわせて食い止める。

 ビートルの動きにはまったく無駄がなく、とても四十年以上も昔の機体だとは思えないキレを見せて、フェニックスネストの後ろを通り過ぎていった。銀地に赤いラインをあしらったボディは美しく、古臭さはまったく感じさせない。そしてなにより、主翼と垂直尾翼に描かれた流星マークが、その存在を誇らしげに表している。

 ビートルはフェニックスネストにアブゾーバを近づけまいと攻撃を続け、ディレクションルームにサコミズからの通信が再び入ってきた。

〔リュウ、この怪獣は私が引き受ける。その間に、お前たちは作戦を成功させるんだ〕

「サコミズ隊長! いや総監、総監は確かニューヨークの本部にいるはずじゃあ!? それに、そのビートルは!」

〔実は今朝日本に帰ってきていてな。お前たちが苦戦していると聞いて、いてもたってもいられなくなって、アライソさんに私の昔の機体を出してきてもらったんだ〕

 それでリュウは隊長就任後にサコミズ総監から聞かされた昔話を思い出した。サコミズ隊長は、昔は科学特捜隊の亜光速実験船イザナミのキャプテンをしており、冥王星までも航海していたことがあったという。ただし、光速に迫ることによる時間の遅れ『ウラシマ効果』によってサコミズ隊長は四十年前の人間なのに、現在でも三十代そこそこの若さでいる。そしてそのとき、イザナミに搭載されていたのがジェットビートルの改造機イガヅチ。そのサコミズ隊長の昔の愛機が、宇宙航行用の装備を取り外して、ここに蘇ったのだ。

〔さすがアライソさんだ。骨董品同然のこいつを、新品同様に保っていてくれた。さあ、いけリュウ!〕

「無茶です! メテオールの装備もないそんな機体じゃ持ちません。総監にもしものことがあったら、GUYSはどうなるんですか〕

 リュウは、セリザワ隊長に続いて敬愛するサコミズ隊長が、むざむざ怪獣の餌食になるのは耐えられなかった。しかしサコミズは、強い決意のこもった声でリュウを諭した。

〔リュウ、君がやるべきことは、みんなが思いを込めて飛ばしたフェニックスネストをゴールまで導くことじゃないのかな? それに、私が今ここにいるのはGUYSの総監としてじゃない。私個人としての意志だ。私はお前たち次の世代を担うものたちが、存分に力を尽くせるように働いてきた。しかし、机の上でできる仕事がなくなったら、もう一度君たちとともに戦いたくなってしまった〕

「総監……」

〔いわばこれは、私のわがままだ。君たちや、ウルトラマンとともに戦いたいという、その一念だけのね。私もまた、君たちの道を切り開くためにここに来た。だからリュウ、君はみなのその思いをつなげる道を作るんだ!〕

「っ……G・I・G!」

 サコミズ隊長も安全な場所を捨てて、命をかけて道を切り開いてくれた。この思いは、絶対に無駄にするわけにはいかない。

「ディメンショナル・ディゾルバー・Rは、まだいけるか?」

「時間、エネルギー残量ともにあと一回だけ可能です。再発射可能まで、およそ二百秒」

 これが本当に最後のチャンスだと、リュウは気を引き締めなおした。新人隊員たち、各国のGUYS、メビウス、サコミズ隊長、多くの人が背中を支えてくれてフェニックスネストは飛んでいる。こいつを絶対に落とすわけにはいかない。

 

 だが、GUYSの強い意志を持ってさえヤプールによって強化再生された二大怪獣は強かった。

 ベムスターは肉弾戦で完全にメビウスを圧倒し、元々光線技が通用しないというアドバンテージも持ってメビウスを追い詰めていく。

「フワアッ!」

 体当たりで弾き飛ばされ、倒れこんだところに蹴りこまれてメビウスは苦悶の声をあげた。こいつは以前に戦ったベムスターが、多少なりとて持っていたかわいげも消え去り、凶暴性が非常に上がっている。もはや完全に超獣と呼んで差し支えはないだろう。

 すでにカラータイマーは赤く点滅をはじめて、食い止めるだけのつもりではかなわないと考えたメビウスは一気にけりをつける覚悟を固めた。左手のメビウスブレスから光の剣・メビュームブレードを発生させて、けさがけにベムスターに切りかかっていく。

「テヤァァッ!」

 グドンやアリゲラの体でも両断するほどの切れ味を持つ、メビウス必殺の一刀がベムスターに一直線に向かう。ベムスターはメビウスの動きについてこれないのか、真正面から受け止めるかまえになっている。やった! と、メビウスはもはや避けようがない距離にまで迫ったベムスターの姿に確信した。

 しかし、メビウスの確信は打ち砕かれた。メビュームブレードはベムスターの体に当たりはしたが、石を切りつけたペーパーナイフも同然にはじき返されてしまったのだ。

「ヘアッ?」

「なんだと!」

 狼狽の声を上げたのはメビウスよりも、むしろリュウのほうだった。数々の怪獣を倒してきたメビウスの剣がまったく通用しないとは信じられない。だがそれも道理だった。ベムスターはかつてウルトラマンジャックのウルトラスパークで二度に渡って、体をバラバラにされて倒されている。その轍を踏むまいと、ヤプールはベムスターの表皮を特に強化し、ウルトラスパークと同等の切れ味を誇るZATの回転ノコギリをはじき返すほどの頑丈さを与えていたのだ。

 そして一瞬の狼狽はベムスターに味方した。メビウスを抱えあげて投げ飛ばし、鋭い爪の生えた腕で殴りつける。すでに持つ武器のほとんどが封じられたに等しいメビウスに、満足に反撃する術は残されていなかった。

「ウワアッ!」

「ミライ!」

 ベムスターは腹の口から毒ガスを噴射してメビウスを攻め立てる。ディレクションルームのスクリーンに映るメビウスの苦戦の様子に、リュウは戦友の名を叫んでやるしかできなかった。

 

 たったの二百秒足らずが永遠にも思えるほど長く感じられる。コンソールに表れるエネルギー充填完了のカウントダウンは恐ろしくゆっくりと流れていき、敵の攻撃はひと時も休むことなく続く。そして、運命のときがやってきた。

「部分日食が始まったようです。次元の変動が観測されはじめました」

 ついに、地球とハルケギニアを結ぶトンネルを開くことができる時間が来た。前回の皆既日食に比べればわずか七分の一しか削れず、本来ならたいしたニュースにもならないような些細な自然現象だが、今はこれに地球はおろか全宇宙の命運がかかっていると言ってよい。

 遮光フィルターを通した太陽の姿が徐々に欠けていき、センサーにも次元の歪みが大きくなってきているのが観測できる。エネルギー充填完了まで、あと百六十秒。早く、早く、と焦る気持ちばかりが強くなる。

 そこへ隙が生じてしまったことを責められる者はいないだろう。リュウはおろか、操縦士までもカウントダウンに集中してしまったフェニックスネストに向けて、アブソーバの触手の先端が伸びる。

〔リュウ!〕

「しまった!」

 サコミズ機からの警告が響いたときには遅かった。アブソーバの触手から、真っ赤に燃える高熱火炎が放射されてフェニックスネストに襲い掛かる。四千度にも達する高熱火炎に焼かれたらフェニックスネストでも無事ではすまない。避ける間はとてもなく、リュウが大破を覚悟したときだった。ジェットビートルがアブソーバの触手に体当たりし、火炎の方向を変えたのだ。

「サコミズ総監!」

 フェニックスネストは救われたが、サコミズ機は左主翼の大半を失って墜落していく。垂直離着陸能力も損傷したのか、姿勢制御する様子もない。このままでは地面と激突してしまう。

「脱出してください。早く!」

〔だめだ、脱出装置も故障したらしい〕

「そんな、総監!」

〔リュウ、うろたえるな。お前には、まだやるべきことが残っている。GUYSを、頼んだぞ〕

「総か……隊長ーっ!」

 通信が切れ、燃え盛る炎とともにジェットビートルは落ちていく。メビウスはベムスターに組み伏せられ、動くことはできない。リュウの心にセリザワ隊長が戦死したときの記憶がフラッシュバックする。

 だが、そのときだった。

「隊長! GUYSスペーシーから緊急連絡です。地球に向かってとてつもない速さで飛ぶ、無数の飛行体を確認したそうです」

「なんだと! 新しい敵か!」

「いえ……これは、この反応は!」

 オペレーターは答えを言い切る必要はなかった。なぜなら、太陽系外から光速をも超える速さでやってきた無数の飛行体は、怪獣に襲われる各惑星や地球の各都市へと飛び込んでいったのだ。

 そして、リュウたちの眼前にもそのひとつは現れた。空のかなたから飛び込んできた、太陽のような赤い光の球。それはフェニックスネストを再度襲おうとしていたアブソーバに体当たりして吹き飛ばし、墜落寸前のジェットビートルを、まるで抱きかかえるようにして包み込んだ。

 

 死を覚悟して、操縦桿を握ったまま瞑目していたサコミズの耳に、懐かしい声が響いてくる。

 

「サコミズ……サコミズ……」

「……君は」

「君は、ここで死ぬべき人間ではない……ともにゆこう、今一度、君の力が必要だ」

 

 ジェットビートルは砕け散り、機体は紅蓮の炎に包まれる。

 だがその炎の中から、炎よりもさらに熱い光がほとばしり、光は人の未来がまだ尽きていないことを世界に告げて立ち上がった。

 

 

 続く


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