ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第48話  さらば、古の古戦場よ

 第48話

 さらば、古の古戦場よ

 

 深海怪獣 ピーター

 菌糸怪獣 フォーガス 登場!

 

 

 アーハンブラ城を跡形もなく呑み込み、巨大キノコはとうとう全高一千メートルにまで成長を果たした。

 その威容は文字通り天に届き、人類が作り上げたいかなる構造物よりも高く、巨大であることを誇る。

 砂漠に浮かぶ、生きた要塞。そこに近づく愚か者は、何万何十万の大軍であろうと、ひとひねりに死の制裁を与えられるに違いない。

 だがまだ勝負はついていない。この星には、まだ我らのウルトラマンAが残っている!

 大地に深く根を張り、一都市をも飲み込めるほどに巨大化したフォーガスに対し、エースは捨て身の作戦に打って出た。

 

「フォーガス、これ以上この星をお前の身勝手な進化のための道具にはさせない。お前が菌類から進化した生命体だというのなら、大量の水がなくては生きていけないだろう。この地底湖から追い出してやる!」

 

 熱エネルギー放出の必殺技・『ボディスパーク』で、エースはフォーガスが根を張る地底湖に高熱を叩きこんだ。

 外部からの攻撃が一切通じないほど強大化したフォーガスを倒すためには、エネルギー源となる水源から切り離すのみだ。莫大な水量を誇る地底湖から奴を追い出すには、湖の水そのものをフォーガスが吸収できないように変えるしかない。だがそれは、エース自身の命をも削りかねない捨て身の賭けでもある。

「おのれぇ、地底湖の水を自らのエネルギーで沸騰させるとは恐ろしい奴。しかし、それほどの熱量を放出し続けては貴様のエネルギーも長くは持つまい」

「確かに、私のパワーは残り少ない。だが! 私は絶対にお前には負けない。私の肩には、この星の何億という生き物たちの命がかかっているんだ!」

 ボディスパークは、かつて雪男超獣フブギララに冷凍にされかけたとき、一瞬で凍結を解除したほどの熱量を発生させられる。しかし、地底湖の水量は膨大で、フォーガスが根を張っている近辺だけでも何十万トンとある。それでも、光の戦士としての使命と、この美しい星と人々への愛を力に変えてエースは燃える。体を燃やし、心を燃やし、ルイズや才人もエースを支えてともに燃える。

「わたしの生まれ育った国を、あんたなんかのエサにさせてたまるもんですか!」

「おれだって、この世界は好きになったんだ。ルイズに負けてられっか! エース、おれの力も使ってくれ!」

 二人も、自分たちの双肩に世界の命運がかかっていることを知っている。自分の生命力がエースの力になるなら安い代償だ。

 あとでめちゃくちゃ疲れるかもしれないが、そんなものぐっすり眠ればすむことだ。

 ボディスパークの超高熱で地底湖の水を沸きあがらせようとするエースの攻撃で、地底湖へ血を吸うように延びてきていたフォーガスの根がしおれはじめてくる。だが、フォーガスもその高熱に耐えようと根の密度を増して、なお地底湖の水分を吸い上げようと試みる。

 世界の救済か破滅か、更なる進化か枯死か、互いはそれぞれの存在をかけて戦った。

 

 そして、地下深くでの死闘は地上にも影響を与え始めていた。

「きゃっ! な、なに地震!?」

「違う。地下でウルトラマンとフォーガスが戦ってるんだ。ルクシャナ、近くだったら精霊の力も少しは効く。蛮人たちを捕まえていろ、崩れる砂丘に飲まれたら終わりだぞ!」

「わ、わかったわ!」

 ビダーシャルとルクシャナは、まだ大半がフォーガスの支配下に置かれている地から、なんとか力を引き出して、自分たちの周りの砂が流されないように固定した。

 砂漠は地の底からの振動によって激しくうねっている。砂は流れて脈動し、流砂が波打つ砂漠はまるで海のようだ。

「わぁぁーっ! ちょ、ルクシャナこれ大丈夫なの?」

 暴れ馬の背に乗っているような感覚に、ルクシャナにしがみついているエレオノールは思わず彼女の耳元で悲鳴をあげた。

「うるさーいっ! 私だって必死なのよ。二人も抱えて流砂の上でバランスをとるなんてはじめてなんだから」

「恐れ入ります。だから、絶対に離さないでくださいね!」

 ロングビルも、ルクシャナから離されれば永遠に死体すらあがらないことを理解しているので必死にしがみつく。エレオノールにしても、自分の『フライ』だけでは一人分も重量を支えられないから、恥を放り出してルクシャナに頼るしかない。

 なお、ティファニアはビダーシャルに守られている。ティファニアは、つい先ほどまで自分の心を奪おうとしていた相手に、複雑な思いがないわけではない。それでも、あまり愉快な思い出はないとはいえ、しばらくともに過ごして、彼が無愛想であっても誠実な人であると思っている。

「しっかり掴まっていろ。手を離したら命の保障はしない」

「は、はいぃ」

 目をつぶって恐怖に耐えながら、ティファニアは「この人は信じられる」「この人は守ってくれる」と自分に言い聞かせ続けた。エルフに対して揺らいだ自分の憧れと信頼。でも、才人やルイズたちはエルフと人間とだってわかりあえるということを教えてくれた。なら、わたしももう一度エルフを信じてみよう。

 

 だが、砂漠の激震はさらに大きくなり、まるで台風の海の上のように悪化していく。精霊の力のコントロールもしだいに利かなくなっていき、二人のエルフの力をもってしてもついに限界が訪れた。

「叔父さま。も、もうだめっ!」

「ルクシャナ! くそっ、こんなところで」

 先住魔法が解除され、ルクシャナたちは流砂の中に放り出された。

 悲鳴をあげるまもなく、液体同様となった砂はあっというまに五人を飲み込んで沈めていく。もがいても、もがくだけ早く沈んでいくだけで役に立たない。

 あっというまに首まで砂に埋まり、口元、目元まで砂が押し寄せてくる。

「死ぬっ!」

 もはやこれまでかっ! 誰もが絶望したそのときだった。

 突然、無重力感を味わっていた足に重さの感覚が戻り、そのまま押し上げられるような圧迫感を感じた。

 錯覚ではない証拠に、視界のはしまで来ていた砂がだんだん下のほうに離れていき、体や手足が砂の上に出てくる。

「なに? どうなってるの……」

 砂海の中にいきなり地面が現れたような出来事に、ロングビルは呆然と言葉を漏らした。

 見ると、引いていく砂の中からエレオノールやビダーシャルたちも現れる。彼らも多少砂を吸い込んでむせているだけで、命に別状はなさそうだ。

 そして、完全に引いた砂の中から現れたゴツゴツとした地面。いや、うろこで覆われた皮膚を持ち、その大きな背中に自分たちを乗せている生き物が姿を見せたとき、ティファニアは満面の笑みに顔を染めて、才人から教えられた名を呼んでいた。

「ピーター! あなたが助けてくれたのね」

 なんと、砂の中から現れたのは、ティファニアがかわいがっていた、あのピーターだった。流砂がはじまったときに離れ離れになってしまって、もうだめかと思っていたが、砂の中を泳いで無事だったのか。しかも砂漠の直射日光を浴びたせいで全長が二十メートルを超えるくらいにまで巨大化している。

 一同を乗せたピーターは、アーハンブラ城、すなわちフォーガスから離れるように泳ぎだした。その体格によって増大した浮力で、流砂の上をたくみに泳ぐさまはまるで船のようである。ルクシャナは、砂を全身からこぼしながらピーターの上で小躍りした。

「すっごいわ。砂の中を泳げるなんて。こんなことアリィーのシャッラールだって無理よ。世の中には、まだまだいろんな生き物がいるのね」

 好奇心の塊のような彼女には、こんな状況でも楽しく映るらしい。しかし、事象におびえて調べることをしなければ、発展も進歩もありはしない。ルクシャナは、たとえ人からなんと言われようとも、思うままに一直線に突き進んでここまできた。そうして、誰もたどりつくことのできなかった数多くの発見と、未知の知識を得る喜びを得つつある。可能性とは勇気を持って自分の道を切り開くこと、よりよき未来、すなわち進化はそこにある。

 このピーターだってそうだ。本来海洋生物であったピーターは、砂漠に住める体はしていない。にもかかわらず、流砂に巻き込まれて、生命の危機に瀕したことで砂中を泳ぐ術を身につけてしまった。こういった例は、低地の草地を食物としていた動物が、干ばつなどで草地がなくなってしまったとき、それまで一切できなかった木登りをし始めることなどいくつも実例がある。生き物には元々、生き延びるために自らを変えていく機能が備わっているのだ。

 生物はこうして、何度も訪れた大絶滅の危機を乗り越えてきた。困難に直面したとき、自らを鍛え上げて乗り越えていくこと。これもまた進化だ。進化とは、こうして一歩ずつゆっくりと、あるときは痛みに耐えながらおこなわれていくものだ。

 急ぐ必要はない。急がなくとも、自然は必要なときになったら進化を促してくれるし、生き物にはそれに対応する力がある。

 しかし、自然に従わない人為的な急激な進化はひずみを呼び、多くの命を危険にさらす。自然を征服せんものとして破壊を繰り返し、地球を滅ぼしかけた、うぬぼれたかつての人類のように。まして、自分ひとりのために多くの命を生贄にしようと企むフォーガスの進化は絶対に認めるわけにはいかない。

 砂漠の揺れはさらに激しくなり、地中から柱のようにフォーガスの菌糸が飛び出してくる。一本でも軽くピーターを串刺しにできそうなくらい巨大さだ。エレオノールはひやりとしながら、眼鏡についた砂を拭き取っているロングビルに言った。

「フォーガスが苦しんでるのね。地底で、ウルトラマンがフォーガスの水源を攻撃しているに違いないわ」

「でしょうね。でなかったら、ここまで巨大化したやつが苦しむ理由がないわ」

「ええ、直接見るのはこれで何度目かになるけど、すさまじい力の持ち主よね……お願い、勝って。ウルトラマンA」

 エースは何度だって奇跡を起こしてきた。今度だって、きっと彼は勝ってくれる。始祖ブリミル、どうかウルトラマンAに加護を。

 エレオノールは、心の中でかつてハルケギニアを救うために命をかけた、ひとりの”人間”に対して心から祈った。

 そして同時に、はぐれてしまったルイズの無事も願った。本来ならば、この状況で生きているとはとても思えないけれど、虚無の力の継承者に選ばれた運命を持つあの子が、こんな簡単に命運が尽きるとは思えない。必ず帰ってきてよ。あなたの干からびた体をお母さまやカトレアのもとに持って帰るなど冗談ではない。

 ただ、もう片方のほうはどうでもいい。むしろサソリのエサになれとエレオノールはけっこうひどいことを思った。

 祈りが人知を超えたものに届くかどうか、確かめる術はない。けれど、人事を尽くしたあとの人間にできることは祈ることしかない。

「彼は必ず勝つわよ。私たちの未来が、こんなところで途切れてたまるものですか」

 眼鏡をかけなおし、ロングビルはピーターの頭にしがみついているティファニアを見てつぶやいた。

 こんな生き物を友達にしてしまうとは驚いた子だ。でも、彼女がピーターと仲良くなってなければ、今ごろは全員砂の底でミイラになっているだろう。助けに来たつもりが逆に助けられてしまうとはふがいない。私はいつもそうだ。

 彼女の胸中には、以前ホタルンガから助けられたときの記憶が蘇っている。あのときも、死に瀕した私はウルトラマンAやおせっかいな連中に助けられている。一人で生きて、なんでもできると思っても、肝心なときにはいつも誰かに助けられてばかりだ。

 でも、それでいいのかもしれないとも思うようになってきた。人間ひとりの力なぞ、しょせんそんなものだ。誰かに頼るのは恥ずべきことではない。私は私にできることを精一杯やりつくした。だから、私たちの未来はあなたに託す、ウルトラマンA!

 

 未来を望む人間たちの思いを受けて、エースは限界を超えて戦い続ける。

「なぜだ! なぜそこまでエネルギーを放射して力尽きないのだ!?」

「言ったはずだ。私にはこの星の命運がかかっている。そして私には、お前にはない仲間の支えがある。それがある限り限界なんてありはしない!」

 地底湖の水が水蒸気爆発を起こしそうなくらいに煮えたぎる。地底の巨大な圧力に封印されて、気体に変わることのできない高温の水が対流を起こして、地底湖は火にかけられた卵の中身のように荒れ狂った。

 天井の岩がはがれてどこか遠くへ流されていき、フォーガスの根も次々と千切れ飛ぶ。

 もはや、フォーガスが地底湖から水を吸い上げることは不可能になっていた。そして、水源を絶たれたことによって地上のフォーガスにも影響が出始めた。

「見て、お化けキノコが枯れていくわ!」

 ピーターの頭からティファニアが叫んだ。全長一キロにも達していた巨大キノコの傘がしぼんでいき、しおれてどんどん低くなっていく。明らかに、水分の欠乏を起こしている症状だ。砂漠では、何もしなくても空気中に水分は蒸発し続けていき、人間でも水分補給をしなければほんの数時間で脱水症状を起こして死に至る。まして、ここまで巨大化したフォーガスは表面積も広大であるから奪われていく水分も膨大だ。

 そして、フォーガスがこうなったということは原因は一つしかない。真っ先に合点したエレオノールが興奮して叫んだ。

「ウルトラマンAが、フォーガスの水源を破壊したに違いないわ。見なさいよあいつのざま、まるで塩をかけられたナメクジじゃないの」

「ミス・エレオノール、その発言は淑女としてどうかと思いますけれど?」

 平気でナメクジとか言う淑女は社交界にはいないだろう。ロングビルは忠告したけれど、内心は彼女にほぼ同意していた。ものには時と場合があり、始終礼儀正しくしていても仕方がない。もっとも、ルクシャナのように公も私もまったく態度を改める気のないのも困ったものなのであるが。

「完全に吸い上げる水と、失われていく水のバランスが崩れてるわ。これならいける、いけるわよ!」

 すでに勝利を確信してはしゃぐ彼女は、まるで子供のようだ。ビダーシャルは平静を装っているように見えるが、ティファニアがちらりと横顔を見たところ、なにやら悩んでいるように見えなくもなかった。たぶん姪の将来を心配しているのだろう。

 

 気がつけば、砂漠の揺れも収まってピーターも砂の上に上がっている。どうやら、地底に広がっていたフォーガスの菌糸も力を失ったようだ。ならば、残るはあのデカブツのみ!

 しかし、大きくしおれたといっても巨大キノコはまだその巨体の威容を残している。巨体を活かして内部に水分を溜め込んで持久戦に持ち込まれたら、いわば種が残るようなものなのでいずれ奴は復活できるだろう。

 あと一発、駄目押しの一撃がほしい。

 その瞬間、砂漠が爆発して銀色の影が地中から飛び出した。

「ウルトラマンA!」

 地底から姿を現したエースの無事な姿を目の当たりにしたとき、歓声に近い声が一同の間から響いた。

 すでにカラータイマーは高速で点滅し、エース自身も大きく消耗しているのがわかる。だが、エースは疲労を感じさせないくらい力強く飛び、フォーガスの頭上に静止すると右手を高く上げた。

「ヘヤッ!」

 エースは右手の人差し指と中指を立てた。その指の間に白い閃光がきらめき、強烈無比な熱光線が放たれる。

『ドライスパーク!』

 砂漠の日光さえ陽気に感じられるような熱射が巨大キノコを照らし出す。かつて河童超獣キングカッパーの頭上の皿を干上がらせた乾燥光線が、フォーガスに残った最後の水分をも絞り出していく。

 巨大キノコは見る見る小さくなり、とうとう傘が砂漠に崩れ落ちて砂煙をあげた。

「やったわ!」

 もうフォーガスには水分は残っていまい。ここまで完全に乾燥させられたら、細胞が破壊されてしまうから再度水分を得たとしても再生は不可能だ。この星を取り込もうと画策したフォーガスの野望は、この星自身の自然によって打ち砕かれた。

 だがそのとき、朽ち果てようとしている巨大キノコの内部から十数メートルの大きさのクラゲ状の物体が飛び出した。そいつは悲鳴のような音をあげながら、一直線に空の上へと飛んでいく。

 もしかして、あれは。目の前を通り過ぎていったものの正体に思い当たったルイズは、とっさに叫んだ。

〔追って! 今のがフォーガスの本体よ!〕

〔よし!〕

 逃げていくフォーガスを追ってエースは飛んだ。あっという間に成層圏を突破して、空の色が青から黒に変わっていく。

 奴め、宇宙まで逃げていくつもりか。エースは追いすがるが、すでに大量のエネルギーを消費しているために徐々に離されていく。

 追いつけない。そう思ったとき、エースにフォーガスがテレパシーで語りかけてきた。

〔ウルトラマンA、今回は私の負けだ。だが、私はまだあきらめたわけではない。宇宙のどこかで今度こそ惑星を、いや星系ごと同化するほどの進化を成し遂げて、いつの日かこの星も吸収するために戻ってきてやる!〕

 その瞬間、力が失われかけていたエースの全身にかっと炎が宿った。

 

「ふざけるな!」

 

 まだ宇宙のどこかの星を自分の欲のための犠牲にするつもりか。これで、わずかでも見逃してやろうと思っていたのも消えた。どこの星に行こうとも、破壊と不幸を撒き散らすこいつを逃すわけにはいかない。

 エース、才人、ルイズの心が一つとなる。

 高空に達したことで太陽光が強くなり、瞬間的にエネルギーを吸収したエースの体が強く発光した。

 

”太陽よ、ありがとう……お前が与えてくれたこの力で、お前の子供であるこの星は守ってみせる”

 

 意識を集中したエースは、エネルギーを解放して空間を歪めた。光速を超え、一瞬のうちにフォーガスの前へとテレポートする!

『瞬間移動能力!』

 かつて危機に瀕したGUYSを救うために、地球から月まで移動したこの技ならば、わずかな距離のテレポートなど造作もない。

 逃げ場を失ったフォーガスの前に立ちふさがったエースは、一切の容赦を捨てて宣告した。

「フォーガス、私はこの宇宙に生きるすべての生命の自由と幸福を守る。この宇宙から去れ!」

「まっ、待て!」

 今さら命乞いをしても遅い。改心するのならばいくらでもチャンスはあった。それを放棄して、あくまでも侵略をあきらめないのであれば、もはや是非もない。

 エースは心を鬼にして、最後のエネルギーを怒りとともに撃ち出した。

『メタリウム光線!』

 至近距離からの一撃が寸分の狂いもなく命中し、フォーガスの細胞を破壊していく。宇宙空間では炎は燃えないが、代わりに余剰のエネルギーが膨れ上がってフォーガスを包み込んで逃がさない。

 そして、もう二度とフォーガスが蘇らないように、どこの星も歪んだ進化の犠牲とならないように、フォーガスはその細胞のすべてを完全に焼き尽くされて爆発した。

「やったわ!」

「思い知ったか!」

 燃え上がる炎に照らされて、エースの中でルイズと才人はともに歓声をあげた。

 フォーガスの最期、もはや細胞片の一つも残らずに燃え尽きたフォーガスが復活することはないだろう。

 ただ、戦いが終わってみればフォーガスも哀れな奴だったとも思う。

 進化、より自分を高めていこうとすることは生命にとって重要なことだ。人間のみならず、生き物はみなそうやって過酷な自然と戦って強くなってきたし、そうしなければ滅びていた。奴は、その本能に誰よりも忠実であっただけ、奴にとってはこの星の生き物は、孤島や深海で何万年も同じ姿で生き続ける生きた化石のように見えたのかもしれない。

 しかし、やはりフォーガスのやり方は性急で自己中心的すぎていた。勝利に湧く二人に、エースは静かに告げた。

「二人とも、フォーガスは確かに悪だった。しかしこれから人間が……いや、人々の心の奥にはそれぞれ自分のために、他人を犠牲にしようとするフォーガスが住んでいる。それを覚えておいてほしい」

「え……?」

 才人とルイズは、思いがけないことを語るエースに言葉をすぐに返せなかった。

「金持ちになるために人を騙す。名誉、名声、地位、権力……ただがむしゃらにそれを目指して、あげく悪を働く人間も数多くいる。しかし、他者を省みずに、ただ欲望を満たすためだけにそれを手に入れたといても決して幸せはこない。それは人間を見下して、歪んだ進化を妄信したフォーガスとなんら変わらない」

「……」

 炎が消えうせ、フォーガスの灰が宇宙塵となって舞い散っていく。塵は、奴が我が物にしようとした星の周りを回り続けて、いずれは引力に引かれて地表に落ち、ただの土へと返るだろう。星と一体化しようとした奴にとっては皮肉だが、願いがかなったことになる。

 だが、人類も心を失って愚かな進化をたどれば、やがて滅びの道を歩み、宇宙に漂う塵として終わるだろう。

 未来は常に不確定。当然、不確定であることは滅びの未来の可能性もある。しかし、可能性はひとつではないことを、これまでに数多く学んでいたルイズは力強く言った。

「でも、わたしたちがいる限り、ここを絶対にそんなふうにはさせない。フォーガスがバカにしたハルケギニアのみんなだって、何度も絶対無理な戦いを乗り越えてきてる。それが進歩じゃないなんて、絶対に言わせないわ!」

 子が親を慕うように、生まれ故郷に誇りを持つ、ルイズが昔から持っていた気高さだ。ただ、昔と違うことは誇る対象がトリステインという漠然とした"国"から、人間、大地、空、そこにあるすべてのものに変わっていることだろう。

 振り返ると、眼下には青く輝く美しい惑星が広がっている。

 ルイズの故郷……いまだ名もなき惑星。地球によく似た、生命にあふれた水の惑星。

「この星空の向こうに、どんな優れた文明を持つ星があっても、一番きれいなのはわたしたちの星だわ。わたしたちは、ここに生まれた幸運に甘えないで、ここを守っていく努力をしなければいけない。そうでしょう?」

「そうだな。私も、君たちやこの星の人々の持つ心の光を信じていこう。ただし、これから先、もっと強い敵が現れてくるだろうけど、どんなに強くなりたいと望んでも、心あってこその力だということを決して忘れてはいけないよ」

 エースの言葉に、才人とルイズはそれぞれの言葉でうなずいた。

 この星の人々は、まだ自分たちが住んでいる星の名すら知らない。けれど、いずれはこの星にもこの星の誰かがふさわしい名前をつけるだろう。

「何回見ても、きれいな星だな」

 才人は、久しぶりに見る星の姿に、宝石の美しさなどはわからないけれど、心からその美しさに見とれてつぶやいた。

 惑星は以前と少しも変わらない姿でそこにあり、地上の騒乱などが嘘のように輝いている。

 だが、人の体の中で悪魔のがん細胞が静かに増殖するように、美しさの陰で星を滅ぼそうとする闇は確実に胎動しているのだ。

「帰ろう。みんなが待ってる」

「ええ」

 戦いは終わった。ウルトラマンAは再びハルケギニアの地に帰る。そこに待つ、次なる戦いに備えるために。

 

 

 フォーガスが引き起こした砂漠の異変はすでに収まり、流砂も消えた砂漠は平穏を取り戻していた。

「おーい、みんなー!」

「あっ! あの子たち。テファ、ちょっと止めて!」

 ピーターに乗って砂漠を後にしようとしていた一行と、才人とルイズは合流した。例によって、よく助かったわねと問われたり、たまたま流砂の外まで流されたのだとごまかしたりしたが、ともかく全員無事だったことが彼らを喜ばせた。砂まみれで顔や服がひどいことになっていても、ひどい怪我をしている者はひとりもいない。

 そして、戦いが終わった今、なにより喜ばしい現実が彼らの前に待っていた。

「まあ、なにはともあれ生きていてよかったわ。ルイズは」

「はいはい、どうせおれはお呼びじゃありませんよ」

「そ、そんなことないですよ。サイトさん、助けに来てくれてすごくうれしかったです」

 エレオノールの露骨な態度も、ティファニアのおかげで差し引きはプラスになった。

 そう、おれたちはティファニアを助け出せたのだ。その充実感が疲れを消し飛ばし、はるかに勝る満足を彼らに与えていた。

 アルビオンからここまでは数百リーグを超え、ハルケギニアを端から端まで来たに等しい大冒険だった。しかも、ガリア王国の王様を敵に回して、この世界最強の種族であるエルフを相手にして、さらわれたたった一人の人間を救い出すなど、普通は誰が考えても不可能だと思うだろう。

 その不可能を成し遂げた。喜ばないほうがどうかしている。

 ただし、少々問題も出てきたようである。才人は、ちらりとティファニアをじろじろと観察しているルクシャナを見た。

「あの、ルクシャナさん? あまりそんなにまじまじと見ないでください」

「そうはいかないのよ。ハーフエルフなんて希少なもの、これを逃したらまたいつお目にかかれるかわからないじゃない! 私はあなたに会いたくて、もういろいろと苦労してきたんだから。だからもっと調べさせてよ!」

「きゃっ! ちょっ、寄らないで、さわらないで!」

「だいじょーぶ、怖くないから、すぐ終わるから。ふーん、耳はエルフと同じだけど瞳の形は蛮人と同じなのね。それに……ここ! あなたすっごく大きいのね。これも混血のせい? ね? ね?」

「ひゃう! も、もまないで! いゃああぁ!」

 ティファニアの嬌声が後ろ頭に響いて、なにやらとんでもないことがおこなわれているようだが才人は見れない。振り向こうとしたならば、目の前のピンク色の鬼からなにをされるか知れたものではないからだ。

 代わりの止め役のはずのロングビルはといえば、疲れがどっと出たのか横たわってぐったりしている。エレオノールは、その方面に関しては驚くべきことにルイズ以下なので、表情からして声をかけられたものではない。殺される。

 ビダーシャルは、姪っ子の暴虐を押しとどめるべきなのだろうが静観している。いや、あれは止めても無駄だと思っているのに違いない。

 結論として、ティファニアにはしばらくルクシャナのおもちゃになってもらうより仕方ないようだ。しかしまあ、後ろからは相変わらず「どうしたらこんなに大きくなるの? ね? 作り物じゃないよね?」と、ティファニアのあそこの部分にこだわっているルクシャナの声が聞こえてくる。

「ハーフエルフの研究じゃなかったのかよ?」

 才人は、あぐらをかいて面杖をつきながら、ぽつりとつぶやいた。もちろん、ルクシャナに聞こえていないのは承知のうえ。というより、研究欲の塊に見えたルクシャナにも、そんなところにこだわる女の子らしい面があったのかと感心しているのだ。

 この旅のはじまりに、ルクシャナは才人に、自分のことが気に入らないなら私を観察してみろ、そう言った。だから観察してみたら、なんともこんなかわいいところもあったとは。いつの間にか、才人の中のルクシャナへの嫌悪は消えていた。

 

 やがて、砂漠をのしのしと歩くピーターの後ろへと、アーハンブラ城は小さくなっていく。城を覆っていた巨大キノコは風化して塵となっていき、呑み込まれていた丘の風景が戻ってくる。

 その破壊された惨状に、才人は街の人は大変だろうなとつぶやいた。けれどルイズは首を横に振る。

「大丈夫よ。城はあとかたもないし、町もひどく壊れてるけど、人間はそんなにやわじゃないわ。人が戻ってくれば、今度は町の再建のためにいろんな人が集まってくる。壊れた城だって、資材は高級なものだし見事な彫刻が施されたものもある。持って行って売り払おうとする商人はわんさかいるでしょうし、城の跡地にはまた誰かが家を建てる。そんなものよ」

「人間って、たくましいな」

 ここが交易地として価値があるなら、いつかアーハンブラはもっと栄える都市となって蘇るだろう。そして、もしも人間とエルフがはばかることなく手を取り合える日が来たとしたら、アーハンブラは軍事要塞ではなく、平和の象徴として歴史に名を残すだろう。ぜひそうあってほしいと願いつつ、才人たちは砂漠に蜃気楼のように消え行くアーハンブラに別れを告げた。

 

 

「では、私はここで行く。ルクシャナ、そのものたちの監視は任せたぞ」

「わかってますって。常時目を離したりしませんよ」

 砂漠の切れ目となっている森の端で、才人たちはビダーシャルと別れることにした。ジョゼフが虚無を悪用しようとしている以上、もはや奴の下には戻らない。彼はこのまま海へ向かい、隠している船を使って海路でいったんサハラに戻ることになる。帰還後は、ジョゼフとの契約が破談したことなどを報告することになっていた。

「シャイターンの末裔よ。今日はこれで引き上げる。しかし、もう一度警告するが、もしお前たちがシャイターンの門に近づこうとすれば、我々は全力でお前たちを打ち滅ぼすだろう」

「くどいわねあなたも。頼まれてもそんなものに興味なんかないわよ。それよりも、あなたこそ」

 釘を刺してくるビダーシャルに、ルイズはこっちから釘を刺し返した。ルイズとティファニア、二人の虚無の担い手のことがサハラに知られれば、大規模な刺客が送られてくる危険がある。特にティファニアはハーフエルフであるがゆえに、余計な憎悪の対象となりうる可能性が大きい。

「その心配はいらん。お前たちについては『依然不明』とだけ報告しておく。我々の中にも、やや過激な思想を持つ者もいるのでな。うかつに悪魔の末裔を見つけて放ってきた、などと報告したら私もどうなるかわからん。それは避けたいのでな」

「わかったわ。じゃ、道中気をつけてね」

「ん? あ、ああ」

 拍子抜けするほどあっさりと納得したルイズに、身構えていたビダーシャルのほうが虚を突かれてしまった。しかし、別にルイズに悪気があったり無用心だったりするわけではない。

「なに人を変なもの見るように眺めてるのよ。わたしはね、自分の言い出したことに責任持とうとしてるだけ。人間とエルフが敵同士じゃないって主張したのはわたし、だからわたしはあなたを信じる。それだけよ」

 ルイズの率直だが自信に満ちた言葉に、ビダーシャルはわずかに目を伏せるとゆっくりと答えた。

「自分の言うことに責任を持つ、か。簡単そうに見えて、なかなか実践できるものはいない。蛮人にしておくのが惜しい娘だな」

「ほめてもなにも出ないわよ。それと、あんたにはもうひとつ約束があるんでしょう? それも忘れないでよ」

「ああ、シャジャルのことは調べておく」

 ビダーシャルはそう言うとティファニアを見た。彼女は、相変わらず隙あらば観察してこようとしているルクシャナから隠れて、ロングビルの陰で様子を伺っていた。

 なお、ピーターは森に入ると外気温の低下で牛くらいの大きさまで小さくなって、さらにルクシャナの魔法で冷却されて、彼女の頭にちょいと乗っている。ティファニアは、母の名を聞くと恐る恐るビダーシャルの前に出てきて、ぺこりと頭を下げた。

「ビ、ビダーシャルさん。母のこと、どうかよろしくお願いします」

「約束は守る。どうも気になる名前でもあるしな。君こそ、私が言うのもなんだがルクシャナをよろしく頼む」

「あっはい! どうも、お世話になりました」

「……」

 どうもこの連中を相手には調子が狂うとビダーシャルは思う。薬をもろうとしていた相手に、お世話になりましたとは普通は言わない。それも嫌味ではなく本気で言っているのだから、なおさらである。だからこそ、ルクシャナとはよく合うわけかもしれない。

 適材適所というべきかと、ビダーシャルは内心嘆息した。

「やれやれ、これらのめぐり合わせも大いなる意思のたまものだとすれば、我もやっかいな運命を背負わされたものだな」

「こっちじゃ、そういうのを苦労性というんですよ」

「余計なお世話だ」

 はじめてビダーシャルがいらだたしげに言ったので、人間一同とプラスエルフ一人は揃って爆笑した。

「さあ、帰ろうぜ。行きより帰りが問題だ」

 才人が言って、一行はやってきたガリア王国の方角を見返した。

 残るは帰路、先に帰ったタバサやキュルケ、待ちわびているであろうウェストウッドの子供たちにも早くティファニアの無事を知らせてやりたい。

 しかし、帰路はジョゼフも軍勢を使って妨害してくるかもしれない。果たして突破がかなうか? それでも、帰るためにはやるしかない。

 

 だが、才人たちとビダーシャルが別れようとしたときだった。ふと、砂漠のほうを見たルイズが、空に奇妙なものを見つけた。

「ねぇみんな。あれ、なにかしら?」

「えっ?」

 ルイズの指した先を、一同は目を凝らして見た。なにか、空中に点のようなものが浮かんでいる。鳥……いや、近づいてくるにつれて、それが鳥よりもずっと大きいことがわかってきた。

「あれは、竜……空軍の竜騎兵だわ!」

 シルエットを確認したルクシャナが叫んで、才人たちは身構えた。さらにティファニアに上着をかぶせて、正体がばれないようにする。

 なぜエルフの軍隊がこんなところに? 理由はわからないが、ともかく虚無やティファニアのことを知られるのだけはまずい。

 ところが、さらに近づいてくるにつれて、その竜騎兵が尋常ではない様子なのが見えてきた。

「なんだ? えらくよたよた飛んでるぞ」

「よく見たら、背中のエルフもぐったりしてるし、あれ落ちるんじゃない?」

 はたして、才人とルイズの危惧したとおりになった。竜騎兵は砂漠を越えたことで力尽きたように森の上に落ちていく。このままでは、下手をすれば森の木に串刺しになってしまう。ビダーシャルは森の木の精霊に命じて、枝を伸ばして竜騎兵を受け止めさせ、一行は急いで不時着した竜騎兵に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!? おい!」

 墜落した竜とエルフはまだ息があった。両方とも、ひどく消耗しているが傷はないところから、原因は疲労らしい。この砂漠を、休憩なしで真昼間に横断するとは無茶なやつだ。

 彼は若い男性の兵士で、人間に囲まれていることでいったん狂乱しかかったが、同族のエルフがいると知ってようやく落ち着いた。

「君は本国艦隊の、その所属標は第一艦隊のものだな。私は評議会議員のビダーシャルだ。どうして空軍のものが、こんな場所にいる?」

「おお……ビダーシャル殿……こ、こんな場所で会えるとはまさに奇跡。大いなる意思よ、感謝します」

 彼はかすれた声をようやく絞り出した。水筒の水を飲ませてやると、むせながら飲み込む。エルフの魔法は傷は癒せるが、疲労までは回復することはできない。ビダーシャルと才人たちは、彼が落ち着くまで待つと、あらためて問い直した。

「どうやら、私に用件があるようだが、なぜ空軍の竜騎兵が危険を冒してやってくるのだ? 定時報告ならば、伝書のガーゴイルですませられるだろう」

「はっ! そ、そうでした。た、大変なのですビダーシャルさま。すぐにサハラにお戻りください。テュリューク統領閣下からの伝言です……竜の巣が……いえ、シャイターンの門が……奪われました」

「な……なんだと!」

 ビダーシャルはいったん我が耳を疑うように硬直し、すぐに声を荒げて兵士に詰め寄った。

「シャイターンの門が、奪われただと!? いったいどういうことだ!」

 兵士の胸倉を掴んで怒鳴りつけるビダーシャルに、常の冷静な姿はない。あまりの剣幕に、才人たちが止めようとしても治まる様子はなかった。だが、ビダーシャルだけでなく、エルフなら大抵がこうなっただろう。ルクシャナも、取り乱しこそしないが顔を青ざめさせている。

「竜の巣は、常に水軍の一個艦隊が監視していたはずだ。それを突破されたというのか!? いったい誰に、誰に奪われたというのだ!」

「あ……悪魔、悪魔です」

「なに……?」

 悪魔……それは、いったいどういう意味だ? あっけにとられているビダーシャルたちに、彼は震えながら語り始めた。

「数日前のことです。いつものように、水軍が竜の巣の周辺を哨戒していたところ。突然、鯨竜が暴れだし……」

 

 竜の巣とは、エルフの地サハラの洋上にある群島である。

 普段はエルフたちもほとんど見返すことはなく、水軍の関係者でもなければ忘れているであろうこの場所で悪夢は始まった。

 エルフの水軍は、鯨竜というクジラに似た生き物を改造した軍艦を使っているのだが、その鯨竜が竜の巣に近づいたとたんに暴れだしたのだ。

「これは、どうしたことだ! なんとかおとなしくさせろ!」

 艦長が怒鳴っても無駄だった。兵士たちが長年の経験からどうしようとしても、鯨竜たちは暴れ続けて舵が利かない。まるで、なにかにおびえているようだという報告があがってくるのみだった。

 そして……

「なにかにおびえているだと? この海洋で、この鯨竜艦よりも強いものなど……」

「あるさ、私だよ」

 突然艦橋に響いた声に、艦長や艦橋のクルーが振り返ると、そこには黒いマントを羽織り、黒服と黒い帽子をかぶった異様な風体の初老の男が立っていた。

 いつの間に!? 艦長たちは戦慄した。この鯨竜艦の艦橋に、こんな奴が現れるのをなぜ誰も気づけなかったのだ。

「貴様、何者だ!? どうやってここに忍び込んだ?」

 クルーたちは銃を男に向け、魔法もいつでも撃てるように身構える。しかし男は、十人近い武装したエルフに囲まれているというのに動じた様子もなく、群島を望んでニヤリと笑った。

「竜の巣……お前たちは、ここをそう呼んでいるな? だが、お前たちはここの本当の価値を知らないようだ。くくくく……」

「な、なにをわけのわからんことを言っている! 貴様蛮人だな。撃て、かまわんから撃ち殺せ!」

 男に得体の知れない恐怖を感じた艦長は射殺を命じた。しかし、放たれた弾丸は一発もその効力を発揮することはなく、男の直前で壁に当たったようにはじき返されてしまったのだ。

「なっ! これはカウンター!? い、いや……精霊の力は感じない。それどころか、な、なんだこのどす黒い気配は!」

「ふふふ……そんなもので私は殺せないよ。さて、諸君には我が復活の祝いと、世界滅亡の序曲を聞く栄誉を与えよう。さあ、開幕だ!」

 男が高らかに宣言し、手を空に掲げた瞬間異変は起こった。

 突如、空に暗雲が立ち込め、周囲が昼間だというのにどんどん暗くなっていく。さらに、海は荒れて鯨竜たちは狂ったように叫び始めた。

「あ、雨が……そんな、さっきまで晴れていたのに」

「まさか、天候を操っているというのか! そんなバカな……い、いったい貴様は何者だ!」

 艦長も、クルーたちも恐怖に青ざめて、震えながら男に叫ぶ。そして、男は振り返ると、この世のものとは思えないほど邪悪な笑みを浮かべて、空に向かって手をかざした。

「我が復活のときは来た! さあ、降り注ぐがいい死の雨よ! いでよ我が怨念の化身! 復讐の使者、超獣よ!」

 空が割れ、真っ赤な裂け目の中に巨大な影が現れる。史上最悪の侵略者が、再びこの惑星に降り立った。

 

 

 続く


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