ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第14話  剣の誇り (前編)

 第14話

 剣の誇り (前編)

 

 奇怪宇宙人ツルク星人 登場!

 

 

「ウルトラ・ターッチ!!」

 ルイズと才人のリングが合わさり、ウルトラマンAがトリスタニアの街に降り立つ。

 メカギラスの襲来から一夜明けたこの日、トリスタニアは新たな脅威に晒されていた。

 石造りの建物がバターのように切り裂かれ、崩れ落ちた瓦礫を巨大な足が踏みにじる。

 それは、緑色の肌と爬虫類のような顔を持ち、両腕に巨大な刀をつけた怪物。

 その名はツルク星人、かつて地球で数多くの人間を惨殺し、ウルトラマンレオを苦しめた凶悪な宇宙人だ。

「タアッ!!」

 エースは構えをとり、ツルク星人を見据える。だが、いきなり攻撃を仕掛けることはしない。なぜなら、星人の両腕に取り付けられた刀は、例え鉄でも軽々切り裂く恐るべき武器で、直撃されたらウルトラマンでも危ないからだ。

 しかし、両者の均衡は、両手の刀を振りかざして猛然と襲い掛かってきた星人によって破られた。

「シャッ!!」

 エースは宙に飛び、太陽を背にしてツルク星人に空中から攻撃を仕掛ける。星人は、慌てて空へ跳んだエースの姿を追うが、真っ白な太陽の光がその視界を真っ黒に染め上げた。

「デャッ!!」

 必殺キックが星人の顔面に直撃! ふらつく星人にエースは機を逃さずにパンチやキックを打ち込む。だが、視力の戻った星人は猛然と両腕の刀で反撃に出てきた。

 三十メイルはあろうかという巨大な刃がエースに向かって振り下ろされ、間一髪エースは後ろへ飛びのいてかわしたが、星人は蟷螂のように二本の刀を振ってエースを追い詰め、空気を切り裂く音が鳴る度に、建物が切り裂かれて崩れ落ちていく。

 こんなとき、格闘能力に優れたレオならば、星人の刀を受け止めて反撃をおこなえるが、残念ながらエースにそこまでの格闘センスはない。ただし、エースにもレオにはない武器がある。

 そして、完全に調子に乗った星人は、一気にエースを仕留めるべく、両手の刀を同時に振りかざしてエースに飛び掛ったが、実はこれこそエースの狙いであった。

 闘牛のように突進してくる星人に、エースは両手をつき合わせて向けると、その手の先から真赤に燃える灼熱の火炎がほとばしる!!

『エースファイヤー!!』

 火炎は星人の顔面を直撃、突進の勢いでかわすこともできずに見事カウンターの形で命中したそれは、トカゲのような星人の皮膚の表面を瞬時に気化させて、爆発まで引き起こさせた。

 煙が晴れたとき、星人は顔面を黒こげにして両手で傷口を押さえ、反撃も忘れて金切り声をあげてもだえていた。

「テェーイ!!」

 エースは、顔面に大火傷を負って戦意を失った星人に怒涛の攻撃を炸裂させる。

 チョップ、パンチ、キックが星人のボディに次々と吸い込まれ、その体力を削ぎ取っていく。 

「ダァァッ!!」

 とどめに、エースは星人の右腕の刀の峰の部分を掴み、思い切り放り投げた。

 瞬間、地響きを立てて星人は大地に叩きつけられる。そして、フラフラになりながらも立ち上がってきた星人に、エースは体を左に大きくひねり、その両腕をL字に組んだ。

『メタリウム光線!!』

 赤、黄、青に輝く美しい光線が放たれる。だが、なんということか、星人はメタリウム光線が放たれるよりも一瞬だけ早く、残った力で宙へ飛び上がり、光線をかわしたかと思うとそのまま煙のように消えてしまったのだ。

(しまった! 逃げられた)

 まだ星人に逃げを打つ余裕があったことを読み違えたエースは、星人の消えた空を見上げたが、すでに星人の姿はどこにもなかった。残ったのは、青い空と、廃墟となった街を駆け抜ける静かな風のみだった。

「……ショワッチ!!」

 確かに深手は負わせた。だが星人はまだ死んではいない、飛び立ったエースの胸中には一抹の不安がよぎっていた。

 

 

「この犬ーっ!! あんたのせいで奴に逃げられちゃったじゃないのよー!!」

「えーっ!? なんで俺!?」

 変身を解いた後、才人はなぜか激怒しているルイズの理不尽な怒りを一身に受けていた。

「普段役に立たないんだから、こういうときくらいきちんとサポートしてなさいよ。この、この!!」

「そう言われても、まさかあそこで逃げられるとは思ってもみなかったし。それに、俺普段からけっこう役に立ってるんじゃないか?」

 腹が立って反論してみた才人だったが、これがまずかった。

「なあに、あんたご主人様に反抗する気? そう、昨日はあれだけ頑張ったってのに、あの事なかれ主義の鳥の骨のおかげで姫様にまで心労をかけてしまって、これで勝てばお心も晴れると思ったのに、後一歩ってところで」

 それで才人にもルイズの不機嫌の合点がいった。要は姫様命のルイズのマザリーニへの不満の八つ当たりだ。鞭を振り上げるルイズに、こういうときどんな弁明をしても逆効果だと学習してきた才人はとっさに話題を変えた。

「ちょ、それよりも、逃げた星人のことが問題だろ」

 すると、どうにか効果があったようで、ルイズは鞭を下ろすと少し考えて言った。

「ち、まあ、そうだけど……たいして強い奴じゃなかったじゃない。また来ても別に怖くないわ」

 確かに、ツルク星人は両腕の刀を除けばたいした武器は持っていない。かつて宇宙パトロール隊MACはこれに苦戦し、ウルトラマンレオもかなわず敗退したが、当時のレオは地球に来たばかりで、それまでのウルトラ兄弟と比べて格段に技量が劣っていたころだったし、MACも結成されたばかりで、実戦はマグマ星人と双子怪獣のみというあたりだったから仕方が無い。

 ただし、才人が言おうとしているのはそういうことではなかった。

「あいつがヤプールの息がかかっているのはまず間違いない。けど、前回のメカギラスといい、なんで超獣じゃなくて宇宙人を送り込んできたかってのが問題なんだ。大して強くもないやつを」

「? ……そりゃあ、超獣がいなかったからじゃないの?」

 適当に言った答えだったが、意外にもそれは才人の考えを射抜いていた。

「実は俺もそう思う。ここに来る前に、ロングビルさんに話を聞く機会があったんだけど、ヤプールに洗脳される直前に『今エースを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無い』って言ってたそうだ。多分、まだヤプールは次々超獣を作り出せるほど復活してないんじゃないかな」

「だから、手下の宇宙人を使ってるってこと?」

 才人はうなづいた。

 ヤプールは超獣だけでなく、多数の宇宙人をも配下にしていることは知られている。アンチラ星人、ギロン人、メトロン星人Jr.などである。近年ではテンペラー、ザラブ、ガッツ、ナックルの四大宇宙人を操って神戸の街を破壊し、ウルトラ兄弟と激戦を繰り広げたのはまだ記憶に新しい。しかもこの場合は本人達も自覚せぬうちに精神を支配され、操り人形にされていたというのだから恐ろしい。 

 また、そうでなくてもバム星人のように侵略の分け前を狙ってヤプールにつく宇宙人も大勢出てくることだろう。

 だがルイズはまだことの深刻さを理解してはいないようだった。

「別にけっこうなことじゃないの? 超獣なら苦労もするけど、あんなやつしかいないならエースなら楽勝でしょ」

「そりゃ巨大化したならな、けど宇宙人は頭がいいから……」

「あーっ! もういいわよ。どっちみちまた出たならやっつければいいだけでしょ。それよりもうすぐ学院に帰る馬車の時間よ。昨日のことはしょうがなかったけど、これ以上サボるわけにはいかないからね」

 そうだ、ルイズはあくまで学生で、授業を受けなければならないという義務がある。そして、本来そちらが怪獣退治より優先されるべきことなので、才人も強くは言えなかったが、どうしても逃げたツルク星人のことが気になって、もう一度だけ頼んでみた。

「なあ、もう一日この街にとどまれないか?」

「だめよ、さっさと帰らないと授業についていけなくなるわ。あんたわたしを留年生にするつもり? 心配しなくても、あれだけ深手を負わせたんだから当分出てこないわよ。出てきたらそのときは学院にも連絡が来るから、飛んでいけばいいでしょ。さっさと行くわよ」

 残念ながらにべもなかった。

 しかし、ツルク星人の行動パターンから、どうしても心のなかから不安が消えることはなかった。

 そして、才人にはどうしても気になることがもうひとつあった。それは地球で2006年から2007年に異常に怪獣や宇宙人が頻繁に襲来してきた時期、それが実はヤプールが特殊な時空波を使って呼び寄せていたためであり、もし、ハルケギニアでも同じことをされたら……

 

 

 その後、魔法学院に帰ったルイズ達は午後からの授業に出席し、その間才人はルイズの部屋の掃除や、街であったことのオスマン学院長への報告、その後は食堂の手伝いをしてシエスタ達と夕食を食べて夜を迎えた。

「ふわぁぁ……じゃ、明日またちゃんと起こしなさいよね」

「ああ、お休み、ルイズ」

 部屋の明かりが消え、ルイズはベッドで、才人はわら束でそれぞれ横になった。

 

 それから数分後、ルイズが寝息を立て始めたのを確認すると、才人は静かに起きだして出かける支度を整えると、部屋を抜け出してオスマンに会って事情を説明し、ロングビルに馬を一頭貸してもらうように話をつけた。

 厩舎は、さすがに深夜のため静まり返っていたが、なぜかそこで見慣れたメイド服を見つけてしまった。

「シエスタ?」

「あっ、サイトさん! ど、どうしてこんなところに!?」

「それはこっちの台詞だよ。女の子がひとりでこんな人気の無い場所にいたら危ないだろ」

「い、いえわたしは同僚が急病で、代わりに厩舎の見回りに来てたんですが、サイトさんこそなんでこんなところに?」

 どうやら、鉢合わせしたのは本当に偶然だったらしい。だが、これもなにかのめぐり合わせと、才人は部屋に残したままのルイズのことを頼むことにした。

「そうだ、ちょうどいいや。ちょっと街まで行くから馬を一頭借りていくよ。学院長にはもう話を通してあるし、何も無ければ朝には帰ってくる。けど、もし戻れなかったときはルイズによろしく言っといてくれ」

「えっ、どういうことですか!?」

「ちょっと気になることがあってな。あいつに授業サボらせるわけにはいかないから俺一人で行ってくる。洗濯がどうとか言うと思うが、悪いけど適当に相手してやってくれ」

 そう言うと、才人はロングビルに比較的大人しくて扱いやすいと言われた馬にまたがると、不慣れな手つきながら手綱を握った。 

「じゃあシエスタ、頼めるかな?」

「わかりました。事情はわかりませんが、何かお考えがあってのことですね。ミス・ヴァリエールのお世話はお任せください。けど、早く帰ってきてくださいね」

 心配そうに見つめているシエスタに、才人は出来る限りの笑顔を向けると、ルイズの見よう見まねで馬に鞭を入れて、夜の街道へと走り出した。

 

 

 

 一方そのころ、トリスタニアの街では、深夜だというのに街中をたいまつやランタンを持った兵士が行きかい、まるで昼間のように騒々しい体をなしていた。

「おい、そっちにいたか?」

「いや、こっちはいない」

「おい!! 五番街のほうでまた二人やられてるぞ」

「なに!? くそっ、これでもう十五人目だ、いったいどうなってやがるんだ」

 街中を右往左往する彼らの中を不吉な情報が飛び交っていく。

 

 事の発端はこの二時間ほど前、酒場から自分の屋敷に帰ろうとしていた、ある中級貴族が突然襲撃されたことから始まった。

 襲撃者は、いきなり彼らの眼前に現れると、先導していた従者を斬り殺し、一行に襲い掛かってきた。もちろん、その貴族は酔いを醒まし、即座に『エア・ハンマー』の魔法で迎え撃ったが、なんとそいつはジャンプして空気の塊を飛び越すと、そのまま目にも止まらぬ速さで次の呪文を唱えている貴族を鋭い刃物で胴から真っ二つにしてしまったのだ。

 残った使用人達は、主人が殺されるや、蜘蛛の子を散らすようにバラバラになって逃げ出した。そのうちの一人が衛士隊の屯所に駆け込み、事を話すとただちに詰めていた二十人ほどの衛士が現場に急行したが、すでに犯人の姿は無く、無残な遺体を目の当たりにして、彼らは口を覆った。

 だが、この夜の悪夢はまだ始まったばかりであった。

 引き上げようとする彼らの元へ駆けて来た伝令が、二リーグほど離れた場所での同様の事件を報告してきたのを皮切りに、街のいたるところで貴族、商人、見回りから物乞いにいたるまで次々と殺人が起きていることが明らかとなり、衛士隊はこれが自分達の職務を超えていることを知って、王宮に救援を求めるとともに、非番の者も召集してのトリスタニア全域の一斉封鎖を開始した。

 

 しかし、千人近くを動員しての捜索にも関わらずに、犯人の行方はようとして知れなかった。

 唯一、目撃者の証言によれば、悪魔のような風体をした亜人で、両腕に巨大な刀をつけていて、猿のように身軽であることがわかっているくらいだった。

「おい、裏通りでまた一人殺されてる!」

「ちきしょう、いったいどこに隠れてやがるんだ」

 彼らの必死の捜索も虚しく、犠牲者の数は増え続け、遂に首都全域に戒厳令が敷かれるにいたった。

「こちら、王立魔法衛士隊です。現在トリスタニア全域に戒厳令が公布されました。市民の皆さんは許可があるまで決して屋外に出ないでください。外出している人は、すみやかに最寄の建物に入ってください。こちらは王立魔法衛士隊です。非常事態により、現在トリスタニア全域に戒厳令が敷かれています……」 

 上空からヒポグリフやグリフォンに乗った騎士達が、鐘を鳴らしながら市民に呼びかけていた。混乱を避けるために、正体不明の殺人鬼が徘徊していることは伏せられていたが、慌しく駆け回る兵士達の姿を見たら、いやがうえでも住民の不安はつのる。もたもたしている時間は無かった。

 

 そして、それから一時間後に、必死の捜索が実り、遂に街道近くの馬車駅で怪人を捕捉することに成功した。

「屋根の上だ、取り囲んで退路を塞げ!!」

「照明だ、奴を照らし出せ!!」

 兵士達が駅の周りを取り囲み、魔法衛士隊が空中から目を光らせる。

 そして、火系統のメイジが放った魔法の明かりがそいつを照らし出したとき、とうとう怪人はその禍々しい姿を人々の前に現した。

 歪んだ鉄のマスクのような顔と赤く爛々と光る大きな目。しかもその顔の半分はどす黒く焼け爛れていて醜悪さを増し、さらに黒々とした体表と手の先にだけ毛を生やし、両手の先を死神の鎌のような巨大な刀にした姿はまさに悪魔と言うにふさわしかった。

「あ、亜人?」

「いや、悪魔、ありゃ悪魔だ!!」

 兵士達の間に動揺が走る。その隙を怪人は見逃さなかった。

「跳んだ!?」

 壊れた弦楽器のようなこすれた声をあげ、怪人は屋根の上から人間の5倍以上はある跳躍を見せ、眼下の兵士達に襲い掛かった。

 たちまち逃げる間もなくふたりの不幸な兵士が鎧ごと胴体を真っ二つにされて息絶える。もちろん、怪人の攻撃はそれで終わりはしない。

「む、迎え撃て!!」

 隊長の叫びで、恐怖に支配されかかっていた兵士達は、それから逃れようと叫び声をあげて怪人に斬りかかっていくが、その勇敢だが無謀な行為はすべて彼らの死であがなわれた。

「平民共、どけ!!」

 あまりにも一方的な展開に、魔法衛士隊が高度を下げて参戦してきた。別に平民を助けようとか思ったわけではなく、兵士達がやられている間何をしていたのかと後で叱責されるのを避けるためだったが、結果的に兵士達は逃げ延びる時間を得ることができた。

「エア・カッター!!」「フレイム・ボール!!」

 魔法衛士隊は高度二十メイルほどから攻撃を開始した。それ以上高くては闇夜で狙いを定められず、低くては反撃を受ける恐れがあるための絶妙な位置加減だったが、怪人の身体能力は彼らの予測を大きく上回っていた。

 怪人は、放たれた魔法を俊敏な動作ですべて避けきると、そのままジャンプして両腕の刀を二閃させ、ヒボグリフとその主人を兵士達同様に切り裂いてしまった。

「そんな馬鹿な、あいつは本物の悪魔か!?」

 王国最精鋭の魔法衛士隊ですら軽々と餌食にしてしまった怪人に、否応も無く兵士達の恐怖心はつのる。

 残った魔法衛士隊は仲間のあっけないやられ様に怒りを覚えたが、同時に未知の敵への恐怖心も強く、高度を上げて逃げてしまい、地上の兵士達は再び死神の鎌の前に差し出された。

「うわあっ、た、助けてくれえ!!」

 すでに兵士達は逃げ惑う羊の群れでしかなかった。 

 怪人は、まるで狩りを楽しむかのように彼らの背後に迫っていく。

 

 だがそのとき、怪人の足元に突然多数の銃弾が殺到して火花を散らせ、怪人の動きが止まった。

 

「王女殿下直属銃士隊、参る」

 それは、王宮から急行してきたアニエス率いる銃士隊の放った援護射撃だった。

「第二射、撃て!!」

 副長ミシェルの命令で後列に構えていた隊員達が銃を放つ。彼女達の装備している銃は前込め式の単発銃なので連射するためには射手が複数いるか、あらかじめ銃を複数持っているしかないからだ。

 だが、怪人は立ったままほとんどの弾丸をその身に受けたにもかかわらず、平然としていた。

「銃が効かんか、なら切り倒すまでだ、かかれ!!」

 副長の命令で銃士隊は全員抜刀して怪人を包囲しにかかった。

 銃士隊は、王女の直属警護部隊に抜擢されるだけあって、接近戦では一人で一般兵士の五人分に相当する強さを見せるとも言われ、さらに集団戦法を用いれば無類のチームワークで凶暴な亜人とも渡り合うこともできる。

 今回の戦法は、かつて辺境の村を襲ったオーク鬼を包囲し、集中攻撃で仕留めたときの布陣であったが……

「やれ!!」

 合図とともに二人の銃士隊員が同時に斬りかかる、しかし怪人はそれより早く動いて一人を切り伏せると、返す刀でもう一人に襲い掛かり、とっさにその隊員が盾にしようとした剣ごと彼女を切り裂いてしまった。

「ミーナ、シオン!! おのれっ!!」

 仲間を殺され、怒る隊員達の声が夜空に響く。だが、怪人はまるで殺しを楽しむかのように刀をゆらゆらと剣を振って余裕を見せてきた。

「なめているな! こうなれば一斉攻撃だ。全員かかれ!!」

 ミシェルの声とともに隊員達は一斉に剣を振りかぶる。

 だが、彼女が指揮を執っていることに気づいた怪人は隊員達が動くより早く、刃を彼女に向けて飛び掛ってきた。

「くっ!?」

 とっさに剣を抜いて受け止めようとしたが、一刀で剣の刃を根元から切り落とされて、丸腰にされてしまった。

 そしてその悪魔の刃が次にミシェルの首を狙った、そのとき。

 

「待てーっ!!」

 

 馬の蹄の音とともにやってきた叫び声が彼女達の動きを止め、怪人もそちらに注意を向けた。

 

「あいつは!?」

 彼女達はその声と姿に覚えがあった。

「ツルク星人ーっ!!」

 そう、二時間前に学院を出発した才人がようやくトリスタニアに駆けつけてきたのだ。

 彼は、駅で暴れているのがツルク星人だと知ると、すぐさま馬を駆けさせ戦いに割り込んだ。

 等身大ではすさまじく素早いツルク星人にはガッツブラスターは通用しない。彼はデルフリンガーを引き抜くと馬から飛び降りた。すると、左手のガンダールヴのルーンが輝き、彼に銃士隊さえ超える俊敏さが備わり、そのまま勢いのままに上段から思い切り振り下ろした。

「くっ!」

 だがやはり正面からの攻撃では星人に避けられてしまった。さらに、体勢を立て直そうとしたところに星人が右腕の剣を振り下ろしてくる。才人はなんとかそれを受け止めたが。

「相棒、伏せろ!!」

「!?」

 デルフの声に従い、才人はとっさに身をかがめた。直後、彼の首のあった空間を星人の左手の刃が風を斬りながら通り抜けていった。

「次は左だ!! かわせ!!」

 息つく間もなく星人の攻撃は続く、才人はデルフの指示に従って、嵐のような星人の連続攻撃をしのぐ。

 自称伝説の剣であるデルフリンガーはなんとか星人の刀との打ち合いに耐えていたが、ガンダールヴで強化された才人の動体視力を持ってしても、星人の二本の刀の攻撃は見切りきれずに、どんどん追い詰められていった。

「うわあっ!?」

「相棒!!」

 ついに才人は星人の剣撃に耐えられず、デルフリンガーごと吹っ飛ばされてしまった。

 地面に倒れこむ才人にとどめを刺そうと星人の剣が迫る。そのとき!!

 

「でやぁぁっ!!」

 

 突然飛んできた一本の剣が、いままさに才人に向かって剣を振り下ろそうとしていた星人の顔の中央に突き刺さった。

 その剣は、星人の頑強な皮膚に阻まれてほんの数サントしか刺さっていなかったが、それでも星人は顔面を押さえて苦悶し、金切り声をあげると、夜の闇の中へと跳躍して姿を消した。

 

「や、やった……」

「隊長……」

 その剣はアニエスが投げたものだった。彼女は星人の気配が完全に無くなったのを確認すると、隊員達に負傷者の収容をするように命じて、才人とミシェルに向かい合った。

「また会ったな、少年。確か、ヴァリエール公爵嬢の使い魔だったか、先日はお前のおかげで大変世話になったな」

「あ、その節はどうも」

 どうやら、ルイズの爆発に巻き込まれて城の床で一晩越させさせられたのを根に持たれていたらしい。

 しかし、嫌味はそのくらいにしてすぐさま本題に入ってきた。

「さて、お前はさっきあの怪物のことを"ツルクセイジン"とか呼んでいたな。しかも、ヴァリエール嬢は魔法学院に帰ったというのに、使い魔のお前だけがこんな時間にこんな場所になぜいる? お前は何を知っているんだ」

 有無を言わせぬ強い口調と、嘘を許さぬ鋭い眼光でアニエスは才人に迫った。

 才人は、ごまかしきれないと思い、知っていることを話すことにした。

「あいつはツルク星人、昨日城を襲ったバム星人と同じく、昔俺の国を荒らした奴の仲間で、多分ヤプールの手下さ。昼間エースに深手を負わされたから、もしかして仕返しに来るんじゃないかと思って来てみれば案の定だったよ」

「昼間エースに? あの怪獣のことか? だが奴はあれとは姿形がまったく違うぞ」 

「ツルク星人は巨大化時と等身大時では姿がまったく違うんだよ。ただ、両腕の鋭い刀と、昼間の戦いでエースの火炎でつけられた顔面の火傷の跡はそのままだったろ」

 怪訝な表情をするアニエスに才人は、ツルク星人の特徴を説明していった。等身大と巨大化時で姿がまったく違う星人には、他にカーリー星人、バイブ星人、ノースサタンなどがいて、どいつも等身大時は並外れた格闘能力を誇る。おそらくは状況に合わせた星人なりのタイプチェンジなのだろうが、ツルク星人はその中でも特に凶悪で残忍な部類に入る。

「なるほど、わかった。しかし、ウルトラマンさえ取り逃した相手を、たった一人で止めようとは、剣術に優れているのは分かるが、自惚れているのではないか?」

 するとデルフが鞘から出てきて、カタカタとつばを鳴らしながらアニエス達に言った。

「確かにそうかもな。だがな、さっき相棒が飛び込まなかったら、そっちの副長どのは間違いなく殺されていた、いやあ、そのまま全滅していただろうな」

「なに、貴様!!」

「よせミシェル、少し頭を冷やせ。それで、講釈はもうそれで十分だ。あと聞きたいことはひとつ、奴の仲間は昔貴様の国で暴れていたと言ったが、そのときはどうやって倒されたんだ?」

 さすが、現実的な思考をしているなと才人は感心した。あれだけの力の差を見せ付けられながら、もう次に勝つ手段を模索しているとは。

「ああ、以前はウルトラマンレオ、エースの仲間だけど、彼が戦ってくれたんだが、最初の戦いでは残念ながら星人に負けてしまったんだ」

「ウルトラマンが、負けた!?」

「ウルトラマンだって、別に神じゃない。あんたらもさっき見ただろう、奴は剣の一撃目をかわしても、受けても、もう一本の刀で二段攻撃を狙ってくる。それをかいくぐって星人本体を狙うのは並大抵のことじゃない」

「だが、最初の戦いということは、彼は次の戦いで奴に勝ったのだろう。言え、星人の二段攻撃を破り、奴を倒したその戦法を」

 才人は少し逡巡したが、やがて一言だけ口にした。

 

「三段攻撃だ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 続く


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