ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第36話  星の守護者

 第36話

 星の守護者

 

 ミイラ怪人 ミイラ人間

 ミイラ怪獣 ドドンゴ

 青色発泡怪獣 アボラス

 赤色火焔怪獣 バニラ 登場!

 

 

 驟雨にさらされ、無人と化したトリスタニアの一角で、六千年の時を超えた宿命の対決が再び始まろうとしていた。

 東から現れる、赤色火焔怪獣バニラ。

 西からやってくる青色発砲怪獣アボラス。

 市街地の中に、怪獣出現を想定してもうけられた空白地帯が二大怪獣の戦いの舞台となる。

 東西から、まるでコロシアムに入場する剣闘士のように同時に現れた二大怪獣。

 しかし、彼らには戦いのゴングは必要なかった。互いの姿を見ただけで凶暴な叫び声をあげ、牙をむき出し、大地を蹴って相手に迫る。

「始まるぞ。怪獣同士の戦いが……」

 この戦いの観客である、魔法衛士隊のド・ゼッサールをはじめとする隊員たちは、息を呑んで戦いの始まりを見届けた。 

 アボラスとバニラは真正面から激突し、両怪獣合わせて四万トンもの大質量が生み出す運動エネルギーは、その余波を衝撃波に変えて、ド・ゼッサールたちのほおをしびれさせる。

「うわっ!」

「落ち着け、まだ始まったばかりだぞ」

 うろたえる若い隊員を叱咤しつつ、ゼッサールは自らも緊張からつばを飲み込んだ。

 体当たりに始まった両者の激突は、当然それにとどまるものではなく、さらなる攻撃へと発展をはじめる。

 アボラスの巨大な顎が開き、バニラの肩に食らいつく。鋭い牙に皮膚を貫かれ、バニラは悲鳴をあげてのけぞるが、痛みでむしろ戦意をかきたてられて、アボラスの角を掴み、長い首を伸ばしてアボラスの頭を噛み付きかえす。

 たまらずバニラを離すアボラス。同時にバニラもアボラスを離し、両者は再び数十メートルの距離を挟んでにらみ合う。

 数秒の硬直。と、アボラスとバニラの口が同時に大きく開いた。

 アボラスの口から放たれるビルをも溶かす白色溶解泡、バニラの口から放たれる二万度の超高熱火焔。

 

 白と赤、対照的な力を持つ二匹の怪獣のブレスは空中で激突し、対消滅による爆発が巻き起こる。その衝撃波は空中を伝わり、中空で待機していた魔法衛士隊を幻獣ごと吹き飛ばし、周辺の建物の窓ガラスを一枚残さず粉砕した。

 

「す、すごい……」

「ううむ。これはいかん。全員、百メイル後退せよ! 近くにいると巻き添えを受けるぞ」

 それは臆病から出た命令ではない。今の爆風だけでも、頑強なグリフォンやヒポグリフが木の葉のようにもまれて、訓練されているはずの魔法衛士隊員たちでさえ振り落とされそうになったくらいだ。

 ド・ゼッサールは古参の軍人として、『烈風』カリンの部下だった頃から数々の戦いをくぐってきた。人間同士の戦争から、凶暴な亜人や猛獣退治、何度も命を落としそうになってきた。最近では、トリスタニアに現れた超獣や怪獣とも幾度も渡り合い、ウルトラマンAと怪獣との戦いも間近で見てきた。それでも、怪獣同士の戦いという未知の体験は、彼の心に戦慄を覚えさせる。

「野獣同士の喰らいあいか……とてもじゃないが人間の入る余地がない」

 理性のない獣対獣の、純粋な敵意の激突は、理性持つ人間からすれば本能の奥に忘れてきた、根源的な恐怖を呼び起こす。かつて同族が地球で激突した際にも、二大怪獣は科学特捜隊からスーパーガンやマルス133で攻撃を受けながらも、まったく意にも介さずに戦いを続けた。

 

 溶解泡と火焔が相殺に終わったことにより、アボラスとバニラは再度接近戦に打って出た。

 バニラが雄叫びをあげて、掴みかかろうと突進する。対してアボラスはくるりと背を向けると、太い尻尾を振り回してバニラをカウンターでなぎ払い、運の悪い家屋が押しつぶされて崩れ去る。

 すかさず追撃をかけようと飛び掛っていくアボラス。しかしバニラもこんなものではまいらず、すぐさま起き上がると隣の家を掴んで引っこ抜き、岩石のようにアボラスに投げつけた。

「ああっ! 街が」

 アボラスに向かって投げられた家は、アボラスが軽く腕を振るだけでバラバラのレンガのかけらになって飛び散った。しかし、バニラは体勢を立て直すために、二軒目、三軒目の家を引き抜いては投げつけ、そのたびに街が無残に破壊されていく。

 だが、二大怪獣にとって当然そんなことはおかまいなしだ。街を犠牲にして体勢を整えたバニラは、今度は頭からアボラスに突進し、両者は組み合ったままで反対側の住宅地に倒れこむ。組み合ったままで、互いに相手を押し倒そうと、二匹は自分が上になろうと転がり、次々に家が押しつぶされていく。しかも、砂埃と同時に、炊事用のかまどの火が燃え移ったのか火災までもが起こり始めたではないか。

「なんてことだ。これでは、トリスタニアは戦いのとばっちりだけで壊滅してしまうぞ!」

 いかに怪獣被害の緩衝地としてもうけられた空き地が広くても、怪獣同士が中で戦い合うことまでは想定に入っていない。コロシアムの中だけでは狭すぎるとばかりに、アボラスとバニラは場外に躍り出てなおも戦う。

 蹴倒された商店が、尻尾をぶつけられた家が粉々に砕け散る。

 溶解泡を浴びせられた役所が溶けてなくなり、高熱火焔の流れ弾を受けた工場が灰に変えられる。

 ド・ゼッサールたちの焦りをよそに、二大怪獣の激闘はエスカレートの一途をたどっていた。

 

 

 一方、バニラがトリスタニアに到達する少し前まで時系列はさかのぼる。

 まとわりつくような霧雨が降る森の道を、才人とルイズはトリスタニアに向かって急いでいた。

「急ぎましょう! あの怪獣は、最後に見たときトリスタニアの方角に向かってたわ。早く戻らないと、街が大変なことになっちゃうわよ」

 ルイズが走りながら才人をせかして言った。

「お、お前そうは言っても、トリスタニアまで何十キロあると思ってるんだよ」

 ぜえぜえと、息を切らしながら才人は答えた。ハルケギニアに来てからだいぶ鍛えられているとはいえ、半年ほどでは才人の体力は高校男子の平均から大きく逸脱することはない。

 走れど走れど、変わり映えのしない景色が才人の気力を削ぐ。まったく、馬車で数時間かけた道のりというのは、徒歩で駆ければ気の遠くなるほどの距離があった。単純に馬車が時速二十キロで二時間かけたとして、四十キロトリスタニアから離れていることになる。フルマラソンの距離が四十二.一九五キロメートルであるから、それだけで普通の人ならば気力がなくなるだろう。

「せ、せめて歩こうぜ。とても、体力もちゃしねえよ」

「あんた馬鹿! こうしてるうちにトリスタニアがどうなるかわかってるの」

 声を張り上げ、ルイズは才人を叱咤する。けれど、強気を見せていても、ルイズも見た目とは裏腹に脇腹に走る痛みをこらえている。プライドの高さから弱みを見せないようにしていても、華奢で小柄な彼女のスタミナの限界値はそう高くはない。それでも、走り続けようとするのは彼女が才人と出会う前から持っている一本の芯のためであった。

「ヒカリがトリステインを離れて、軍の主力もウェールズ陛下の護衛に裂かれている今、わたしたちが戦わなくてどうなるっていうの。姫さまや、魅惑の妖精亭のみんなが傷つけられるかもしれない。大勢の人が家を失うかもしれない。だったら、ここでわたしたちの足が折れようとも、安い代償じゃない。最高の名誉の負傷じゃないの!」

 これほど誇れる名誉が、ほかにある? と締めくくってルイズは笑って見せた。その気高くて、折れない強い意志を秘めた凛々しい笑顔を見て、才人はがくがくと笑うひざにもう一度鞭を入れた。

「名誉か……ったく、お前は昔からそうだな」

 情けないが、この笑顔にはいつも勝てない。まあ仕方ねえかと才人は自嘲した。なんたって、おれはルイズのこの誇り高さに惚れちまったんだから。

「なに人の顔見て笑ってるのよ?」

「いや、なんだ……貴族の誇りってのも、たまにはいいかと思ってよ」

「はぁ? いつも名誉なんてくだらねえって言うあんたが? 雨に打たれて熱でも出た」

「あいにくと、馬鹿は風邪ひかないって昔から言うだろ。さて、急ごうぜ」

 今度は才人がルイズをせかして走り出した。ルイズの言うとおり、今でも誇りや名誉のために命をかけるのはくだらないと思っている。しかし、今のルイズの誇りや名誉ならば悪くはない。昔と今で違うところといえば、一人よがりの誇りと名誉か、誰かのために戦う誇りとおまけでついてくる名誉のためかの違いだけだ。

 まとわりつく雨の降る寒い道を、二人は無言で走った。この街道も、いつもならばゆきかう人を普通に見かけるのだけど、今はこの天気と、なによりトリスタニアやラ・ロシェールに人が集まっているために、たまに雨具を着た人とすれ違うくらいで、馬車を捕まえることもできない。

 ウルトラマンAに変身して飛んでいくという手もあるけれど、エースは先のバニラとの戦いで消耗したエネルギーがまだ回復していない。トリスタニアについたところでエネルギー切れを起こしてしまったのでは本末転倒でしかなく、二人の足に今はすべてが懸かっていた。

 しかし、ぬかるんだ泥道は、走るうちに二人ともひざまではねた泥で染まらせ、式典のためにあつらえた服も見るかげなくしおれさせる。そればかりか、濡れた服は体温を奪い、ぬかるみは二人の足をとって、体力を余計に消耗させた。

「も、もうだめだ」

「サ、サイト、弱音吐いてる暇があったら……あぅっ」

 とうとう、気力でおぎなっていた体力も限界にきた。二人とも、泥道に倒れこみ、大の字になって荒く息をついている。

 やっぱり、雨の中を子供の体力で数十キロも走るのは無理があったようだ。しばらく過呼吸を繰り返し、なんとか呼吸だけは落ち着いたものの、体が痛くていうことを聞かない。

「くっ、くそぉ。まだ、あと何十キロもあるってのに」

「シルフィードが、いてくれたら、あっというまなのにね……ねえデルフリンガー、虚無に体力回復の魔法とかないの?」

「んなものいちいち覚えてりゃしねえよ。移動に便利な呪文はあったかもしれねえが、どのみちお前さんは昨日あんだけぶっ放した後だからな。虚無魔法は精神力を多大に削るから使えやしねえよ」

「ああもう! 肝心なときに使い勝手が悪いわねえ!」

 困ったときの虚無頼みは失敗に終わった。あの夢の中でブリミルが使っていたような、とてつもない力の一端でも自分に使えたら、この窮地を脱することができるのに。おまけにデルフリンガーは、「お前さんが未熟なのがいけねえんだ。虚無の力は使いこなせばできねえこたぁなんもねえ。今のお前さんには渡したって振り回されるだけだって、祈祷書も読めなくしてあるんだよ。いやあ、ブリミルのやつは子孫思いだねえ」などと、人事のように言うのだからなお腹が立つ。

 だが、運はまだ二人を見放してはいなかった。薄暗い街道の、学院に向かうほうから、霧雨の奥にぼんやりとランプの灯りが見えてくる。やがて馬のひづめの音や車輪が地面をはむ音も聞こえ始め、一頭の馬に引かれた小さめの馬車がやってきた。

「馬車だ! おーい! おーい!」

「止まって! 乗せてほしいの!」

 残った力で二人は馬車の前に出て必死で引きとめた。その馬車もガーゴイルが御者をしているらしく、声には反応してくれなかったけれど、人をひいてはいけないといけないという判断をしたらしく、直前で停止させた。けれど、ほっとする間もなく馬車から顔を出してきた人を見て才人とルイズは仰天した。

「ミス・ヴァリエールにサイトくんじゃないか。どうしたんだいこんなところで?」

「コルベール先生!?」

 三者三様の驚いた顔が雨中に展示された。才人、ルイズともに、まさかこんなところでコルベールに会うとは思っておらず、コルベールのほうもずぶ濡れの二人を見て目を丸くしている。

「君たち、ラ・ロシェールでの式典はどうしたんだい? いや、それよりも早く乗りたまえ、そんなところにいては風邪をひいてしまうぞ!」

 手招きするコルベールの言うとおり、二人はコルベールの馬車に乗り込んだ。この馬車は学院の公用品の、四人乗りの小さなものであったが、二人くらいが同乗する分には問題ない。タオルをわたされて体を拭き、コルベールの炎の魔法で体を温めると、二人はやっと人心地ついた。

「ふぅ、どうも助かりました。ミスタ・コルベール、こんなところで先生にお会いできるなんて。でも、どうしてこんなところに?」

「なに、トリスタニアの式典まで、私は特にするべきこともありませんのでね。ほかの先生方にちょっと失礼して、先に帰っていたのです。それで、近頃はじめたアカデミーとの共同研究を進めておこうと、学院から資料を運ぶところだったのですよ」

 そういうことだったのかと二人は納得した。オスマン学院長以下の教員方は、馬車でゆっくりとトリスタニアに向かっているから、到着は明日以降になるはずだった。時期がずれていたらこの事件と鉢合わせすることになったかもしれないから、運がよいと言うべきであろう。

「ま、普段から変わり者で通ってる私が抜けたところで誰も問題にはしないしね。あなたたちこそ、ウェールズ陛下の歓迎式典はどうしたんだね? なにかあったのかい」

「あっ! そうだった! 先生、急いでトリスタニアに向かってください。理由は走りながら話しますから」

 それから二人は、コルベールにこれまでのことを説明した。ラ・ロシェールが怪獣に襲われたことから、赤い怪獣がトリスタニア方面へと向かっていることまで。むろん、虚無に関わることは隠して、自分たちが学院に報告しに戻る途中に怪獣に襲われたとごまかした。

「なんと、我ら教師のいないときにそんなことになっていようとは。トリスタニアに知らせなければ大変なことになる。わかった、怪獣より早くつけるように急がせよう。それでも一時間ほどかかってしまうが、君たちはともかく体を休めたまえ」

「ありがとうございます……はぁ」

 コルベールの心遣いが、緊張し続け、疲労困憊の極だった才人とルイズから肩の力を抜かせてくれた。

 たった一時間だけれども、ともかくもこれで休むことができる。座席に深く体を沈めて、全身の筋肉を脱力させた二人は、ぼんやりとこれまでのことを振り返った。

 たった二日足らずのことなのに、とてつもなく多くのことがあったように思える。伝説の大魔法『虚無』、それを狙うシェフィールドと名乗る謎の女の一味。突如現れた怪獣バニラ。そして始祖の祈祷書が見せたという、六千年前の始祖ブリミルの戦い。どれも、一つだけでもショックが大きいことなのに……

 また、始祖の祈祷書に過去のビジョンを見せられているあいだに、かくまわれていた大木のうろの中。そこまで運んできてくれたのは……最後にちらりと見えたあの顔は、人間のものではなかった。しかし、それと同じ姿をした亜人を、始祖ブリミルとともに戦っていた者たちの中に見た気がする。

 堂々巡りの思考の中、けっきょくわからないことだらけだと才人もルイズも結論づけるしかできなかった。虚無のことは、なにかを結論づけるには材料が断片的過ぎる。バニラも、アカデミーの事情などを知るはずもない二人には、現れた理由は皆目見当がつかなくて当然だった。

 ただし、あの不思議な亜人……ミイラに関しては話が別だ。なぜ自分たちを助けてくれたかはわからないけれど、もう一度会えば何かがわかるかもしれないと、ルイズはふと思った。危険で、しかも馬鹿げた考えかもしれない。しかし、少なくとも無防備な自分たちに手出しをしなかったところから、敵意だけはなかったと思いたい。それに、なぜ祈祷書はこのタイミングで自分たちにあのビジョンを見せたのだろうか? ビジョンに出てきた怪獣と亜人が、今ここにいる。偶然にしては、あまりにもできすぎている。

「ねえサイト……」

「うん」

 声を潜めて、才人とルイズは小声で話し合った。幸い、馬車の音と雨音でコルベールに話し声は聞こえない。

 才人の意見も、ルイズとほぼ同じだった。もしも、過去のビジョンで見たバニラが自分たちが戦ったバニラと同じものであるならば、祈祷書は自分たちになにかヒントを与えてくれようとしたのではないか?

 

 だが、それより前に、バニラはなんとしてでも倒してしまわねばならないと、二人は決意を新たにした。

 

 バニラは科学特捜隊のジェットビートルがロケット弾を撃ちつくすほど攻撃してもこたえず、航空自衛隊の戦闘機も次々に撃ち落したほどの火力もかねそろえている。先日戦ったゾンバイユのような超能力こそ備えないけれど、首都防衛のわずかな部隊では太刀打ちできないだろう。奴をそのままほっておけば、ビジョンで見た世界の終末の光景が、この時代でも現実となってしまう。それだけは防がなくてはいけない。

 でも、勝てるか……? ぬぐいきれない不安が二人の心をよぎる。

”ウルトラマンAの力でも、バニラを倒すことはできなかった。もう一度戦ったとして、はたして勝利できるのだろうか”

 かつて、初代ウルトラマンはバニラと対を為すアボラスを苦闘の末に倒した。しかし、戦いの勝敗はやってみないとわからない。怪獣だって必死なのだ。以前勝てた相手だから、今度も勝てるなどという保障などどこにもない。バニラがかつて悪魔と呼ばれた理由となった能力も、だいたいのところは予測がついている。エネルギーが回復しきっていない、不完全な状態のエースで立ち向かえるのか。

 敗北の衝撃が、戦いを目前にして二人の心に影を落としていた。

 そんな二人の暗い波動が届いたのか、北斗星治の声が心に響く。

(かつてのウルトラマンたちも、強敵に敗れることはあった。しかし、彼らは再び立ち上がり、侵略者を打ち倒してきた。なぜ、負けるかもしれない相手とまた戦えたのか、わかるかい?)

(それが、使命だからですか)

(それもある。しかし、使命感だけでは戦いの恐怖には打ち勝てない。ウルトラマンには常に、共に戦ってくれる仲間がいたからだ)

(仲間……でも、今のわたしたちには、いっしょに戦う仲間なんて)

(そんなことはない。君たちには、ここにはいなくても大勢の仲間がいる。思い出してみるんだ、今でも君たちを心配している友達や家族のことを。地球で、再びこの世界とつなげるためにがんばっているメビウスたちを。考えてみるんだ、我々が戦っているすぐそばで、応援してくれる人々を)

 強くうったえかける北斗の言葉が、暗雲にとざされていた二人の心に記憶という名の光を呼び戻した。

 キュルケ、タバサ、アンリエッタ、アニエス、ミシェル……まだまだ名前が浮かんでくる大勢の友。

 父、母、姉……血の絆で結ばれて、さらに強い心の絆を確かめ合ったかけがえのない人たち。

 才人は、中学生だったころにTVで見たウルトラマンメビウスと、エンペラ星人配下の暗黒四天王の一人、凍結宇宙人グローザムとの戦いを思い出した。不死身のグローザムの異名を持ち、その気になれば地球すらあっという間に氷付けにできるという圧倒的な力を持つグローザムの前に、メビウスは手も足も出ずに氷付けにされ、ダムに張り付けにされてしまった。

 しかし、CREW GUYSは先日の暗黒四天王デスレムとの戦いで戦力が半減した状態にも関わらず、果敢に反撃に出てメビウスを救出することに成功する。さらに、メビウスとウルトラセブンとの共闘により、不死身を誇ったグローザムに見事にとどめを刺す快挙も達成したのである。

 圧倒的な力の差がある相手でも、恐れず立ち向かえばどこかに光明は見える。それに、過去のビジョンで見た始祖ブリミルも、仲間とともに圧倒的に強大な敵と戦っていた。一人でない限り、どんな敵とも戦うことができる。

(我々の戦いは、必ず勝たねばならない戦いだ。それも、仲間と別れて、一人で戦うのはつらいことだ。しかし、一人でいることは孤独であるということではない。心でつながっている限り、誰もが君たちと共に戦っている。それに、君たちはなによりも、二人じゃないか)

 北斗はかつて、超獣ファイヤーモンスに敗れたときにウルトラセブンに励まされたことを。かつて、ヤプールの精神攻撃に苦しめられるメビウスを励ましたことを語った。心に距離は関係ない。どこかで戦っている仲間とは、心でいっしょに戦っている。だからこそ、ウルトラマンたちは二度と負けまいと立ち上がることができたのだ。

”そうだ、おれたちはまだ一回負けただけだ!”

”次は、必ず勝ってみせるわ”

 闘志がふつふつと蘇ってくる。仲間たちががんばっているのに、自分たちだけ情けない顔は見せられない。負けん気を呼び起こした二人が空を見上げたなら、そこには必ず暗雲をもものともせずに輝く星が見えたであろう。

 

 馬車は街道をトリスタニアへと向けて急ぐ。

「君たち、トリスタニアまで、あとおよそ十分だ」

 コルベールの声で、仮眠していた二人は目を覚まして外を見た。いつの間にか雨はやんで、街道の幅もだいぶんと広くなっている。しかし、どこを見渡してもバニラのあの赤い姿は見つからない。

「まだ見えないってことは、バニラはもうトリスタニアについちまったってことか。くそっ」

「落ち着きなさい。あんなでかい奴が近づいたら、いくらなんでも気がつくはず。首都の防衛の部隊も残ってるから、すぐには大事にならないわ。まだ間に合うかもしれない。急ぎましょう」

 街を舞台に戦うことは避けたいと思っていた二人は、最悪の事態を予感して憂鬱になった。バニラの能力は火焔であるから、雨上がりの街なら火災は広がりにくいだろうけど、それも時間の問題だ。馬車は速度をあげて街へと急ぐ。

 そのとき、突如馬車を激震が襲い。跳ね飛ばされた二人は、コルベールとぶつかったり、あちこちを痛めたりした。それでも何事かと起き上がって外を覗くと、そこには想像もしていなかった光景が広がっていた。

「あたた……なんだ、穴にでもはまり込んだか? んぇぇっ!?」

「なによ、大きな声を出して……へぇぇっ!?」

 才人もルイズも自分の目を疑った。彼らの馬車と並行して、金色の怪獣が五十メートルばかり離れた森の中を走っている。今の激震はこいつの足音だったのだ。いや、そんなことよりも、才人はすぐ間近で見上げることができているこの怪獣がなんなのか、それに思い至っていた。

「ミイラ怪獣ドドンゴ……やっぱり、あのミイラは」

 頭のすみで気になっていた、ミイラへの仮説が完全なものになって頭の中で組みあがる。

 やはり、あのミイラは地球で確認されたものと同じ。科学特捜隊の時代、日本のある洞窟で発見された七千年前のミイラ。はじめそれはただのミイラと思われていたが、突如復活して暴れまわった。そして、ミイラの呼び声に応えるように現れたのが、あのミイラ怪獣ドドンゴだ。

 今、目の前にいる怪獣がドドンゴならば、あの亜人の正体はやはりミイラに違いあるまい。理由はわからないけれど、なんらかの理由で、恐らく六千年前から眠っていたミイラが蘇ってドドンゴを呼び寄せたのだろう。もしかしたら、バニラの出現にもなにかの原因が? 才人はそう考えたものの、やはり確証はない。

「んったく、おれたちの知らないところで勝手に話を進めるのはやめてほしいな」

 才人は、神ならぬ自分の身を呪ったがどうにもならない。人間一人の知ることのできることなどはたかが知れているのだ。問題は、自分の手の届く範囲でなにができるかである。

「あいつ、トリスタニアに向かってやがる……くそっ、バニラだけでも手にあまりかねないってのに!」

 才人は歯噛みして、頼みもしないのに次々起こる異常事態を恨んだ。まったく昨日の今日で、どうしてここまで連戦しなければならないのか。運命の神とやらが天界でサイコロを振っているなら、五・六発殴ってやりたい気分である。

 それでも、怪獣を見てそのままにしているわけにはいかない。才人は、ドドンゴを見てあたふたしているコルベールをおいておいて、ルイズに問いかけた。

「仕方がない。ここで戦うか?」

「だめよ。前回のダメージが残ってるのに、ここで変身したら赤い怪獣と戦う力は確実に無くなるわ」

「だけど、怪獣をそのままトリスタニアに行かせるわけには……」

「ううん、行かせるべきだとわたしは思う」

「ルイズ!?」

 突拍子もないことを言い出したルイズの顔を、才人は思わず正面から見返した。怪獣をトリスタニアにそのまま行かせるべきだとはどういうことか? しかし、ルイズのとび色の瞳は正気を失ってはおらず、真剣な様子で才人に言った。

「あの怪獣、夢の中で始祖ブリミルといっしょに戦っていたやつと同じだわ。きっと、わたしたちを助けに来てくれたんじゃないかと、そう思うの」

「それは……確かに、言われてみたらあいつは夢の中で見た。しかし、あいつが六千年前にいたやつと同じやつだとは限らないだろ」

「ううん、同じだと思う。でなければ、祈祷書があんなビジョンを見せる意味がないもの。それに、そうだとするなら、あの亜人がブリミルの子孫であるわたしを助けてくれた理由にもなる」

 自信ありげに断ずるルイズに、才人はうーんと考え込んだ。つじつまはそれで合う。でも、ルイズが虚無に目覚めたその翌日に、こんなことが起きるなどとできすぎではあるまいか。

 するとルイズは、窓の外を指差してもう一つ付け加えた。

「ほら見て、あの怪獣ずっと森の中だけを走ってるわ。走るなら道を走ったほうが速いのに。きっと、わたしたちのような人間を踏みつけないようにしてるのよ。邪悪な怪獣だったら、まずはわたしたちに襲い掛かってくるはず」

 確かに、ドドンゴは馬車などは目に入らないように一心不乱にトリスタニアを目指している。それによく見ると、あのミイラがドドンゴの背に乗っているのも確認できる。だが、才人は迷った。仮に、あのドドンゴが六千年前にいたものと同じ個体であったとするなら、百歩譲って敵ではないかもしれない。けれど違っていたら、トリスタニアは複数の怪獣による同時攻撃を受けることになる。そうなれば、いくらなんでも勝ち目はない。

 悩む才人に、ルイズはいつもの命令口調ではなく、諭すように話す。

「あなたは運命なんか信じないかもしれない。でも、現実は時にはおとぎ話以上に荒唐無稽なことが起きることもあるわ。始祖のお導き……くらいしか、わたしには表現する方法がないけど、信じて欲しいの」

 あっけにとられた。ルイズがここまで下手に出ることなど、これまでほとんどなかった。

「きっと、祈祷書には始祖ブリミルの意思が宿ってるんだと思う。だから、かつての仲間と敵の復活を夢の形でわたしたちに教えて、彼と戦ってはいけないと警告してくれたんじゃないかしら。それに、ここまで舞台がそろったのなら、もう最悪の事態を考えてもいいんじゃない?」

「最悪の事態って……まさか、バニラが復活してるってことは、アボラスも」

 蘇っているのか? という疑問は、アボラスとバニラが対となっていることを知っていれば、当然にして浮かんでくることであっただろう。むろん、才人もその可能性にはずっと前から気がついていた。ただし、あまりにも最悪の事態であるので、考えることをすらずっと拒否していた。

 しかし、無意識の現実逃避をすらあざ笑うかのような、二つの巨大な遠吠えがトリスタニアの方向から聞こえてきたとき、才人はルイズの言うとおりに、最悪の事態が起きたことを悟らざるを得なかった。

「今の叫び声は、ひとつは赤い怪獣のものよね。もうひとつは……」

「青い怪獣……アボラスだ。間違いない」

 甲高いバニラの声と、野太いアボラスの声はよく覚えている。かつて二匹が地球で戦ったときの舞台である、オリンピック競技場に仕掛けられていたカメラの映像はTVでも一般公開され、その迫力に圧倒された才人はビデオに録画して擦り切れるまで画面にかじりついて見たものだ。

 けれども、今目の前にあるのは子供の頃に見た過去の記録ではない。現実の脅威として、アボラスとバニラは自分の目の前に立ちふさがっている。泣きっ面に蜂か……ここまで完璧に揃えば、もう不運のお釣りを出したい気分だ。

 そのとき、唐突に馬車が止まったのでコルベールを見ると、彼は自分の荷物を小さなかばんにまとめながら二人に言った。

「むうう、あの怪獣。アカデミーが最近発見したという古代遺跡のほうからやってきたぞ。エレオノール女史から見学させてもらえるはずで期待しておったのに。いや、それよりも遺跡のスタッフたちが心配だ。君たち、悪いがわたしは行くところができた。馬車は預けるから、君たちで先に行きたまえ」

「えっ? お、おれたちだけでですか」

「君は、銃士隊隊長と副長くんの弟なんだろう。だったらわたしより顔が利くはずだ。ミス・ヴァリエールは下級貴族のわたしなどより宮廷に入りやすい。第一、君たちのほうがこういうことには慣れている。今、トリスタニアは猫の手も借りたい状態のはずだ。助けにいってやりたまえ、わたしはわたしの友人たちを救いに行く」

「わかりました。お気をつけて」

 コルベールと別れた二人は、馬に鞭を入れて急がせた。トリスタニアの街並みと、立ち上る煙を目にしながら、やはり間に合わなかったかと心が痛む。しかし、コルベールの言い残した古代遺跡というキーワードで、漠然とではあるけれどアボラス・バニラの出現と、ミイラ人間・ドドンゴの出現の理由の見当はついた。昔から、遺跡だの遺物だのを地中から掘り出すとろくなことが起きない。貝獣ゴーガが封じられていたゴーガの像しかり、地中に埋められていたお地蔵様を掘り出したら復活したエンマーゴしかり、現代人の浅い知識で古代の神秘に不用意に触れようとすると、大抵手痛いしっぺ返しを喰らうことになる。

「ったく、掘り出すにことかいてよりにもよって怪獣を穿り返すことはねえだろうが。せめて温泉でも掘り当ててくれたらありがてえんだけどなあ」

「今更言ってもはじまらないわよ。サイト、二大怪獣を相手に勝てると思う?」

「万全ならともかく、回復に時間がなさすぎたからな。でも、ウルトラマンの本当の強さは力じゃない。そうだろう?」

 覚悟はすでに決めている。後は、一歩前に踏み出すだけだ。

 才人とルイズは顔を見合わせると、互いの心を確認してうなずきあった。彼らの視線の先では、ドドンゴが馬車をはるかに追い抜いて、もう間もなくトリスタニアに入ろうとしている姿がある。二人も負けじと、最後の鞭を入れて急ぐ。

 

 戦場と化したトリスタニアは、いまや象の群れに蹂躙されるジャングルのような光景となっていた。

 アボラスに蹴り飛ばされた建物が積み木のように崩れ去り、バニラに踏みつけられた公園が子供たちの遊具ごと無残なクレーターに変えられる。

 昨日までは家族が揃って団欒していた家が溶解泡を浴びて崩れ去り、仕事に疲れた人々がわずかな癒やしを一杯の茶に求めにやってきたカッフェが高熱火焔で灰に変えられる。

 アボラスとバニラの戦いは延々と互角のまま続き、二匹が移動し、攻撃を重ねるごとに街が壊されていく。それでも被害は現在のところ最初の戦場であった広場から、およそ数百メイル四方に抑えられて、かろうじて少ないといえるのは被害軽減を考慮に入れた都市計画のおかげだろう。

 だが、都市計画はあくまで被害を軽減して時間稼ぎをするためのものでしかない。二匹の怪獣のあまりに長続きする戦いに、開始からずっと見守り続けていたド・ゼッサールたちは疲弊を隠しきれなくなってきていた。

「やつら、いったいいつまで戦い続けるつもりなんだっ!」

 激突してから、すでに二時間近くが経過している。それなのに、決着がつくどころか戦いは同じ舞曲を何度も見ているかのように延々と続き、街は自らが破壊される音で彼らをひきたたせる楽団となったごとく、崩壊の戦慄をかなで続けている。

「まさか、このまま永遠に戦い続けるのではあるまいな……」

 そのつぶやきは、口にしたド・ゼッサールにとって冗談に含まれる部類のものであったろう。どんなものにも始まりがあれば終わりはある。三日三晩の死闘などという言葉が、英雄譚などには頻繁に登場するものの、それは作者の空想のうちから生まれた幻想の決闘にすぎない。

 永遠はない。それは真実である。しかし”半”無限であるならば実在する。そして、ルイズが現実は時として幻想よりも荒唐無稽なことが起きると語ったとおりに、残念なことに彼のつぶやきは正解に限りなく近い位置にあった。

 地球でも、アボラスとバニラが宿敵同士だと知った科学者たちが一つの矛盾に行き当たったことがある。

 

”アボラスとバニラが敵対しあっているのなら、ほっておけばいずれどちらかが倒れるはず。なのになぜ、ミュー帝国の人たちは二匹を同時に捕らえる必要があったのだろう?”

 

 考えてみたらしごく当たり前の疑問である。二匹より一匹になるまで待ったほうが、手間隙あらゆる意味で有利になるのは子供でもわかる。それを、大変な労苦であっただろうに二匹同時に捕らえなくてはならなかったのは、そこにこそアボラスとバニラが『悪魔』と形容された理由があったのだろう。

 才人がたどりついた、バニラがウルトラマンAを圧倒できた理由も実はそこにある。科学者たちは研究の末に、結論をこういう形でまとめた。

「アボラスとバニラは、人間を狙って暴れたわけじゃない。彼らにとって、人間などはそもそも眼中になく、目の前を通り過ぎる目障りな小虫くらいにしか感じていないだろう。彼らの目的は、互いを打倒するというその一点に尽きる。しかし、二匹の戦いは完全に互角であり、双方共倒れとなることもなく延々と戦い続けた。その無限と思われる死闘に巻き込まれたものはことごとく破壊され、荒廃が広がっていった。それが人類を滅ぼすと恐れられた理由、彼らの持つ無限のスタミナこそが悪魔と呼ばれたゆえんだったのだ」

 ウルトラマンに爆破されたアボラスの残骸を調査した結果、この怪獣の筋組織はいくら激しく動いても、決して疲労しないものであることが判明した。前回ウルトラマンAの攻撃をいくら受けても、こたえた様子がなかったのはそのためだ。どれだけ戦っても疲れることがなく、いくらでも戦えるまったく互角の実力を持った怪獣同士の戦い。

 終わらない悪夢を人々に見せ続け、破壊と死を撒き散らし続ける悪魔。

 このまま戦いが続けば、トリスタニアも古代のハルケギニアやミュー帝国同様に滅びの道を歩む。

 それを阻止するために、六千年前の人々は二匹の怪獣とともに、彼らに対抗できるわずかな可能性を残してくれた。

「隊長大変です! 東から、また新たな怪獣が!」

「なんだと!」

 ド・ゼッサールやこの時代の人間たちは知らなかったが、それこそが彼らにとっての希望であった。

 天上の雲の上を走る、神話の獣のようにドドンゴが駆けてくる。その眼の睨む先にあるのはアボラスとバニラの二頭しかいない。

 金色に輝く体を弾丸のように加速させ、高らかな足音を響かせながらドドンゴはアボラスに体当たりを仕掛けた。

 ドドンゴの地上失踪速度は最大でマッハ1.8の超高速を誇る。それに体重二万五千トンの重量が加われば、さしものアボラスの二万トンの巨体といえども木の葉のように吹き飛ばされる。

 むろん、死闘に横槍を入れられたバニラは怒り、矛先をドドンゴに向けて火焔を吐いてくる。エースにも大ダメージを与えたこれが直撃すればドドンゴもひとたまりもないだろう。しかし、ドドンゴは背に乗るミイラ人間が指示するように方向をバニラに向け、目から怪光線を発射して火焔を空中で相殺した。

 バニラはドドンゴを新たな敵として認識し、続いてアボラスも起き上がってくる。同時に、遠吠えをあげて威嚇する三大怪獣。六千年前と同じように、暴れまわる凶悪怪獣から星を守るために、過去から遣わされてきた星の守護者はその身を賭して立ち上がった。

”いくぞ”

 ミイラの呼び声にしたがって、ドドンゴはその身をバニラにぶつけていく。重量差からバニラは押されるが、怪力を発揮してドドンゴを押しとどめる。

 このままバニラとのみ正面からぶつかれば、勝負は体格差からドドンゴが有利だったかもしれない。けれど、先に体当たりを受けた恨みをアボラスは忘れてはおらずに、横っ腹から鋭い角を振りかざして頭突きをかけてきた。たまらず五分の状況からバニラに逆転され、苦しみながらドドンゴは後退する。

 敵・敵・敵の三つ巴の状況ながら、実質この戦いはドドンゴにとって不利だった。決闘を邪魔されたアボラスとバニラは、その怒りの矛先を一時的ながらもドドンゴに向けて襲ってくる。一対二の圧倒的に不利な状況。それでも彼らは戦わなくてはならなかった。

 あの悪夢のような戦いのはてに、奇跡的に掴んだ平和を崩さぬために。もう二度と破滅を招かないために、自分たちはあえて地の底で長い眠りについていたのだ。多分自分たちはここで死ぬだろう。それは恐ろしくはない。死ねばかつての仲間たちがきっと迎えてくれるだろう。仲間との再会は喜ばしいものであるのだから。

 ただしその前に、刺し違えてでも二匹のうちの一匹は道連れにしなくてはならない。

 迫り来るアボラスとバニラ。ミイラは、ここで散ることは覚悟しながらも、ふと昔のことを思い出した。あの厳しい戦いをともにくぐってきた仲間たち。叶わぬことながら、彼らがここにいてくれたらと思ってしまう。

 だが、仲間たちの命は尽きていても、その志は彼らの子孫に消えずに受け継がれていた。

 この世界を理不尽な破壊の手から守ろうとする強い意志。それがこの場に顕現する。

 

「ウルトラ・ターッチ!」

 

 閃光輝き、ドドンゴに一度にかかろうとしていたアボラスとバニラがひるんで止まる。

 光が収まったとき、そこにはドドンゴの傍らに戦友のように立っているウルトラマンAの勇姿があった。

「ヘヤァッ!」

 これで二対二、歴史は蘇り、六千年前の戦いの続きがここに最後の決着のときを迎えようとしている。

 激震とどろき、トリスタニア最大の決戦がここに幕をあげたのだった。

 

 

 続く


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