第20話
ウルトラ大相撲! 百番勝負
すもう怪獣 ジヒビキラン 登場!
ハルケギニアにも秋が来る。
例年にない猛暑が続いたブリミル暦六二四二年の夏もその暑さを減じ、蝉に変わって鈴虫が鳴く季節がやってくる。
この地方は基本的に温暖で、日本ほどはっきりと四季が分かれているわけではないけれど、それでも季節は移ろいゆく。
山では木の実がたわわに実り、海には丸々油ののった魚が群れをなして帰ってきた。
これら、当たり前だといえばそうなのだが、地球とはまったく起源の違う惑星で、これほど自然環境が似ているのは宇宙の神秘といえるだろう。
トリステイン魔法学院でも、旬を迎えてやってくる食材の数々に、食堂のコックたちは腕を振るう。
ああすばらしきかな食欲の秋。
でも、彼ら学生にとっての本分はこれから。勉強しやすい季節になって、先生方はこぞって宿題を出し、毎夜生徒たちはノートと教科書を前に悪戦苦闘。
少々厳しい読書の秋。負けるな若者、この苦悩もまた青春だ。
一方、トリステインで夏の終わりの長雨が終わった頃、空のかなたの浮遊大陸アルビオンでも季節の変わり目をむかえていた。
復興が進む各地方都市では、大陸各地からの名産品が集まってくるようになり、市場に活気の花が咲く。アルビオンはトリステインなど下界に比べて寒冷で、冬になったら雪に閉ざされるから、今から年越しの準備に余念がない。少し前に才人たちがお世話になっていたサウスゴータ地方のウェストウッド村でも、森の木々が枯れ葉を散らし始めて、ティファニアはそろそろ薄着に肌寒さを感じ始めていた。
「はぁーっ、最近は急に冷え込むようになってきたわね」
手のひらに息を吹きかけて暖めながら、ティファニアは行商人から買った品物を家の中に運び込んで一息をついた。
「最近は品物が安くなって助かるわ。これも戦争が終わったおかげね」
家の中には、野菜や果物、穀物やパンのほかに生活雑貨が小さな山を作っている。長く続いたアルビオンの内乱が夏に終結し、秋になるとその恩恵はこのウェストウッドにもやってきたのだった。
思えば、あの王党派とレコン・キスタの内乱は、アルビオン全体が悪い夢を見ていたようなものだった。戦艦ロイヤル・サブリン号の反乱から始まった内乱は、あれよあれよと広がって、気がついたときには国を二分する決戦となっていた。始祖の血を守ろうとする王家と、ここ数百年おこなわれたことのないはるか東方の聖地奪還戦争を再開しようとするレコン・キスタ。ぱっと見では華々しく華麗な戦争歌劇だが、終わって思い起こせば、そんなことで戦争をしたのかと馬鹿馬鹿しく感じてしまう。
でも、これを教訓としなければ、死んでいった者たちも浮かばれまい。
先日国王に即位したウェールズ皇太子は、もう二度とヤプールなどに付け込まれないように、国の建て直しに腐心しているようだ。噂では、トリステインを見習って平民や女性の登用を始めたり、戦時中にあぶれた大量の傭兵が野盗に転じないようにいろいろ手を尽くしているらしい。詳しいことはティファニアにはわからなかったものの、流通が安定したことで物価が安くなり、ロングビルの仕送りの範囲でもけっこう余裕をもって買い物ができるようになった。そのほかも、ウェールズ新国王は若さをいかして精力的に改革に取り組んでいるのだが、とりあえずウェストウッドまで伝わってくるのはまだそれくらいである。
ティファニアは、戦争中は戦火が及んでくるようなところではなかったので意識してなかったけれど、やっぱり平和はいいものだとしみじみ思った。
「今日はお肉が手に入ったから、サイトから教えてもらったスキヤキというのをやってみようかしら? みんなもうすぐおなかをすかせて帰ってくるから、がんばらなくっちゃね」
ティファニアはエプロンを結ぶと、日が暮れたらやってくる可愛い十数人の食欲魔神に立ち向かうために、キッチンに立って、かまどに立ち向かい始めた。
この、たいした娯楽のない森の中の村でも、子供たちにとってはこの上ない遊び場となる。夏場は照りつける日差しが強すぎて木陰で伸びて、小川で水遊びをしていた彼らも、秋の涼しさの中では存分に駆け回ることができる。
特に、最近ウェストウッド村の子供たちのあいだでブームになっているものがあった。
「はっけよーい! のこった!」
地面に引いた丸いわっかの中で、男の子二人ががっぷりと組み合って力の限りに踏ん張りあう。
「のこった! のこった!」
周りの子供たちからは、顔を真っ赤にして組み合う二人に声援が送られる。
そして、押し合い引き合いの駆け引きの末、片方の子が相手の一瞬の隙をついて投げ飛ばした。
「東ぃー、チックのやまー!」
うちわで作った軍配をかざして、行司のアイが勝者の男の子の名前を高らかに呼び上げる。
そう、今ウェストウッド村ではすもうが大ブームなのだ。
「よぉーし! 今度はおれが相手だ」
「ジムが相手か、返り討ちにしてやるぞ」
「言ったな。今日こそヨコヅナはおれのものだ!」
また元気よく、土俵の中で二人の男の子がしこを踏んで向かい合う。
もちろん、これを教えたのは才人である。夏休みにここで遊んでいた頃、なにか面白い遊びはないかと聞かれて、考えた結果教えたのがこれであった。なにせ、すもうは野球やサッカーなどと違って道具は一切必要ない。地面に輪を書けば土俵が出来上がる上に、ルールも相手を土俵の外に出すか、殴る蹴る以外で相手を地面に触れさせればいいだけと極めてシンプルだ。
子供たちも、最初はかっこ悪いとしぶっていたものの、すぐにその力強さが気に入ってしまった。
「がんばってチック!」
「なんの、今日こそジムが勝つんだからね!」
女の子たちも、応援している男の子に声援を送る。
「よーっし! 見合って見合って」
すっかりみんなになじんだアイが軍配を下げて、次なる勝負の始まりだ。
これぞまさしくスポーツの秋。
今日もまた、一日で一番強かった子に授けられるヨコヅナの称号をかけて、日が沈むまでのこったのこったと、子供たちの掛け声がウェストウッド村に響き渡る。
そして、時空のかなたの青い星でも、珍しい取り組みがおこなわれていた。
「えーい!」
「うわーっ!」
「リュウさん! 大丈夫ですか」
思いっきり投げ飛ばされて宙を舞ったリュウ隊長に、慌てたミライが駆け寄った。
ここは日本のとある地方の山間部。そこにある神社の境内で、リュウたちCREW GUYS JAPANのメンバーは、今赤いちゃんちゃんこを身につけた小太りな少年と、すもうで対決をしていた。
「弱い弱い、さあもっとすもうとろうよ」
リュウをあっさり投げ飛ばした少年は、境内に作られた土俵の中で無邪気に笑って次の相手を待っている。でも、GUYSで一番力持ちのリュウを軽々と投げ飛ばした少年に、カナタをはじめ新人隊員たちもたじたじだ。
しかし、なぜ地球防衛組織であるGUYSが子供とすもうをとっているのだろうか? その答えは数時間ほどさかのぼる。
異世界での戦いからこちらでも一ヶ月半ほどが過ぎ、GUYSはヤプールの復活以来、地球でもまた出現しはじめた怪獣の撃退に連日取り組んでいた。そんなある日、奇妙な情報がフェニックスネストに寄せられてきた。
「すもう小僧が山から下りてきた?」
新人のオペレーターからその報告を受けたとき、リュウは最初なんのことやらさっぱりわからなかった。これがテッペイだったら、わかりやすく資料をまとめて説明してくれるだろうけど、今彼は医者の勉強のために大学に戻っている。マリナ、コノミ、ジョージも現在は本業に復帰中。旧メンバーで残っているのは自分と、一度光の国に報告に帰って、また戻ってきたミライの二人だけだった。
でも、いつまでもOBに頼るわけにはいかない。これからのGUYSを背負っていくのは彼ら新人たちなのだ。報告をそのまま持ってきた隊員は軽くとがめられると、自分なりに資料をまとめてリュウに提出しなおした。
「ドキュメントUGMに記録があります。すもう小僧というのは、足柄秘境に住むすもうの神様と呼ばれている少年で、数十年に一度山から下りてきてはすもうをとってくれると地元の子供たちからは親しまれています。ですがその正体は、ジヒビキランという怪獣なんです」
「へーえ、相撲取りの怪獣か」
怪獣といえば恐ろしい奴ばかりかと思っていたリュウは、そんなユニークなやつも中にはいるんだなと感心した。
「記録では、百番のすもうをとると満足して山に帰るそうです。しかし、万一怒らせてしまうと、手のつけられない凶暴な怪獣になってしまうそうです」
「そりゃやっかいだな。だが、なんでまたそんな奴がやってきたんだ?」
「先日、足柄秘境の近くで地底怪獣マグラを撃破したときのことをご記憶でしょう。恐らくそのとき、奴が起こした地震が原因ではないかと」
「やれやれ、迷惑なことしやがって」
怪獣は怪獣を呼ぶ。ボガールのようにぞろぞろと目覚めさせてくるのもいれば、レッドキングのように別の怪獣がいればとりあえず喧嘩をふっかけるために出てくるようなのまで様々だ。
リュウは、相手が怪獣でもいつもとは違うにおいの事件に、前にファントン星人の落とした非常食料を街中走り回って探したときのような、面倒さを感じた。しかし、人々の平和を守るGUYSとしては座視するわけにはいかない。
「それで、まだそのすもう小僧というのは町に入ってないんだな?」
「はい、ですが過去にも誤って彼を怒らせてしまったために、近隣の町に少なからぬ被害が出ています。ものすごい怪力の持ち主らしいので、怪獣化させたら大変ですよ」
それを聞いた隊員たちは、怪獣になる前にやっつけてしまえばいいと主張した。しかし、ミライは真っ向からそれを否定した。
「待ってください。怪獣でも、怒らせない限りはおとなしいやつなんでしょう。むやみに攻撃するなんてかわいそうです。人間が宇宙の一員であるように、悪さをしない怪獣はこの地球で人間と共存する権利があるのではないでしょうか」
人間、ヒビノ・ミライとして、彼は主張した。宇宙には、悪さをしない善良な怪獣も数多くいる。ボッチ村の歌好き怪獣オルフィ、宇宙で一番美しいといわれているローラン。それに兄であるウルトラマンタロウは少年時代に怪獣の友達がいたそうだ。
そしてリュウもまた。
「ミライの言うとおりだ。俺たちGUYSは殺し屋じゃない。相手が無害だとわかってるなら、攻撃する必要はない。それに弱いものいじめは、俺の性にあわねえ」
昔、ディノゾールに仲間を全滅させられ、怪獣に対する憎しみに凝り固まっていたころに比べて、リュウも人間としてはるかに成長していた。隊員たちは、弱いものいじめといわれて自分たちの好戦さを反省し、ミライも満足そうにうなづいた。
「しかし隊長、今はおとなしくても万が一ということもあります。GUYSとして黙って見ているというわけには」
「そうだ、出動するぞ。ただし武器は持たずにな」
「は? ですが武器なしでどうやって」
「ようはすもうをとれれば満足するんだろう? だったらやることは簡単だ。よっし、GUYS・サリー・GO!」
「G・I・G!」
というわけで、リュウたちGUYSは現地に急行した。そして町に入る前のすもう小僧を見つけて、正々堂々と勝負を申し込んだのだった。
「すもう小僧! 俺たちGUYSが相手になってやる。百番すもうをとったらおとなしく山へ帰るんだ」
「わかった。お前たち強そうだな。よーし、すもうとろうよ」
こうして、すもう小僧VS新生GUYSのすもう合戦がはじまり、今にいたるというわけだ。
「まず一番手はカナタだ。相手が子供だからって油断するな。ああ見えても怪獣だぞ」
「わかってます。まかせてください!」
リュウに指名されて、新生GUYSの期待の星、ハルザキ・カナタがまずは土俵入りした。
地元の相撲部が使用している神社の土俵をお借りして、二人の力士が見合って塩を振る。
行司はリュウ。ミライははじめて見る相撲とやらに興味深深で見学している。
でも、いざ取り組もうとしてしこを踏む番になったら、すもう小僧がしこを踏むたびにすさまじい地震が引き起こされた。
「どすこい、どすこい!」
すもう小僧からしてみれば、軽くしこを踏んでいるだけなのだろうけれど、一歩ごとに森の木々から鳥たちが逃げ出して、古い神社の建物がびりびりと震える。一同はそれだけでひっくり返ってびっくりだ。
しかしそれでも気を取り直し、まずは一番。
「見合って見合って、待ったなし。はっけよい、のこった!」
はじかれたように飛び出したカナタとすもう小僧ががっぷりと組み合う。
けれど勝負はあっさり決まった。すもう小僧の頭上にカナタは軽々と持ち上げられて、ひょいと放り投げられて勝負あり。まずはすもう小僧に白星ひとつ。カナタは目を回して早くも戦線離脱した。
「まだまだ。もっとすもうとろうよ」
あっけにとられていた隊員たちは、すもう小僧の余裕しゃくしゃくな声で我に返った。
正直、子供の姿なので油断していた。しかしこの金太郎のようなすさまじい怪力は、やっぱり怪獣だ。
そこへ、人間離れしたすもう小僧のパワーに気おされて尻込みした隊員たちに、リュウの叱咤が火をつける。
「お前ら、いい大人がそろいもそろってびびってんじゃねえ! GUYSの隊員なら、根性見せやがれ!」
マリナいわく、熱血バカの真骨頂がここで発揮された。スポ根、熱血、どんと来い。倒れるならば前のめりに思いっきりこけろ。旧MACでは、素手で星人との格闘戦をやることが日常だったそうだ。それに比べたらこのくらいでなんだ。それでもお前たちは男か!? 尻を蹴っ飛ばされた隊員たちは、気合を入れなおしてすもう小僧に立ち向かう。
「よぉーし、隊長! 次は俺がいきます」
だが、気合はどうあれ結果は散々だった。
新人隊員たちは一人残らず投げ飛ばされ、みんな地面に転がってグロッキーになっている。
最後に、こうなったらGUYSのプライドにかけてとリュウが挑んだが、やっぱり勝負にならなかった。
「あいたたた……くっそー、俺が負けるなんて」
根性見せて、新人たちみたいに伸びはしなかったもののリュウのダメージも甚大だ。実はすもう小僧は昔にも、勝負を挑んだUGMの隊員たちを全員あっさりと返り討ちにしたほど強いのだ。
「どうした? もう終わりかい」
「ちっくしょ……あいたた」
まだまだ元気一杯のすもう小僧に対して、リュウたちはもうボロボロだ。一人だけミライが残っているけれど、いくらミライが地球人以上の身体能力を持っているからといって、百番まであと九十番近くもあるのに一人だけで取り組ませるわけにはいかない。
「なーんだもう終わりかあ。それじゃあ」
「ま、待て! いてて」
立ち去ろうとしているすもう小僧をリュウは慌てて引き止めた。これはまずい、ここまで強いとは思っていなかった。しかし、全員打撲で動けない上に、自分も腰が痛くてまともに立つことすらできない。
ところが、ここで思わぬ援軍が神社の階段を昇って彼らのところにやってきた。
「あれぇ、リュウさんじゃないですか? どうしたんですかこんなところで」
「あっ、コ、コノミじゃないか!」
なんと、幼稚園の仕事に戻っていたはずのコノミが子供たちを連れてやってきた。驚いたことに、偶然にも幼稚園の遠足が、ここの山登りだったそうだ。彼女はリュウから事情を聞くと、ポンと手を叩いて提案した。
「お相撲なら、みんな大好きですよ。この子たちに、すもう小僧さんの相手をしてもらえばいいんですよ」
「えっ! それは危険だ。子供に見えても、相手は怪獣だぞ」
自分たちですら敵わなかったのに危なすぎると、リュウは当然ながら受け入れなかった。しかし、話を聞いていた園児たちはリュウの言うことなどおかまいなしで、口々に「すもうとろうよ」と言い、すもう小僧のほうもうれしそうに土俵で待っている。
リュウは子供たちに怪我をさせては大変だと、腰が痛むのを我慢して止めに入ろうとした。けれど、その前にミライがリュウを助け起こしながら言った。
「リュウさん。ここはコノミさんと皆さんにまかせてみましょうよ」
「おいミライ、何を言うんだ。お前もあいつがどれだけ怪力持ってるのか見ただろう」
「大丈夫です。すもう小僧は子供たちとすもうをとってくれる神様なんでしょう? ほら」
見ると、すもう小僧はさっきリュウたちとすもうをとったときのパワフルさとは打って変わって、軽くこける程度に手加減して相手をしている。子供たちは、投げられてもたいして痛くないのですぐに立ち上がって泥をはたき、次の子が「今度はぼくの番だ」と元気にしこを踏む。
ミライの言うとおり、すもう小僧は子供たちに乱暴したりはしなかった。そういえば、村の伝承ではすもう小僧は子供たちと仲良くすもうをとってくれると、アイドル的な伝わり方をしていた。きっと、昔はすもう小僧が目覚めるたびに、村の子供たちがすもうをとって彼を眠らせていたのだろう。
それにしても、ミライには相手が邪悪なものかそうでないかを感じ分ける不思議な力があるなとリュウは思った。以前も、初めて見るボガールの映像を見ただけで、奴には邪悪な意思を感じると、その脅威をいち早く見抜いている。
「どすこいどすこい」
「まだまだ。もう一回だ!」
「いいぞ、何度でもすもうとろう」
子供たちは投げられても投げられてもへこたれずに向かっていき、すもう小僧も楽しそうに相手をしている。
言い伝えでは、すもう小僧は昔は足柄秘境に住む普通の子供だったという。
でも、力自慢で村のすもう大会の賞品をみんなかっさらっていってしまうので村人から疎まれ、崖から突き落とされて怪獣になってしまったのだという。
それが本当かは今となっては不明だが、目の前にいるすもう小僧はひたすら楽しくすもうをとっていて、そんな悲しい過去があったとはとても見えない。
「さあみんな、そろそろお昼よ。お弁当にしましょう」
次々に取り組んでいるうちに、いつの間にやら正午になっていたらしい。コノミの合図でいったん取り組みは中断して、園児たちはシートを広げて弁当箱を開ける。おにぎりやら、ふりかけのかかったご飯、それにウィンナーや焼き魚など色とりどりなおかず。母親が腕によりをかけたおかずが、子供たちの食欲をそそる。
けれど、すもう小僧は当然食べ物なんか持っていない。すると、子供たちは物欲しげにしているすもう小僧に、自分の弁当からおかずをわけてすもう小僧に差し出した。
「はい、これあげる」
「あたしも、おかあさんのタコさんウィンナー、どうぞ」
たちまち、弁当箱のふたの上がおかずでいっぱいになる。それを受け取ったすもう小僧は、満面の笑みを浮かべてぺこりと行儀よくおじぎした。
「ごっつあんです」
腹が減ってはいくさはできぬ。否、子供たちは大きくなるためにいっぱい食べて、遊ばなければならない。小さいころは遊ぶことが勉強だ。野を駆け山を駆け、多少の怪我なんかお構いなしで、自分の肌で自然からいろいろなことを教わる。昔は誰でもできていたことだ。
あっという間に弁当を平らげると、すもう大会の午後の部のスタートだ。午前と同じように、投げたり押し出されたり、それでも子供たちはへこたれずにすもう小僧に向かっていく。むしろ鍛えてるはずのリュウたちのほうが疲れた顔をしているから、子供たちのタフさというのはものすごい。
そしてとうとう九九番の勝負が過ぎて、あと一番を残すのみとなった。これを終わればすもう小僧は山に帰る。
最後はいったい誰が相手をするか? GUYSの隊員たちはまだあいたただし、子供たちもへとへと、まさかコノミが相手をするわけにはいかない。
すると、すもう小僧はまっすぐにミライを指差した。
「最後の一番は、お前ととりたい」
「えっ、僕と? いいよ」
指名を受けたミライは怪訝な表情をしたが、彼だけはまだ勝負をしていなかったので快く受けた。でも、土俵に上がろうとしたミライにすもう小僧は首を振った。
「お前とじゃなくて、ウルトラマンと勝負したい」
「えっ、メビウスと?」
「うん、お前の兄さんはすごく強かった。だから、80の弟がどれだけ強いのか、すごく興味がある」
ミライは、すもう小僧からの挑戦に息を呑んだ。そうか、彼は昔、兄のウルトラマン80と勝負したのか。そうと言われれば、メビウスもさすがに血が騒ぐ。
子供たちはすでにウルトラマンメビウスと怪獣のすもう対決に大興奮している。リュウも、怪獣からの挑戦状。しかも自分たちをこてんぱんにした相手からの指名にすっかり乗り気だ。
「ようしミライ、思いっきりぶん投げてやってこい!」
「G・I・G!」
ミライも、みんなの九十九番までの相撲対決を見てきたので、自分もやってみたくてうずうずしていた。幸いここは山の中、ウルトラマンと怪獣が暴れても人家に被害はでない。
これでいよいよ千秋楽。対決表は、ウルトラ兄弟の新星・メビウス対怪獣界の横綱ジヒビキラン。
ミライは土俵の中で、左手にメビウスブレスを出現させると、空高くかかげて変身する。
「メビウース!」
金色の光の中から、ウルトラマンメビウスが銀色の雄姿を現す。
そしてすもう小僧もメビウスを見るとニッと笑い、赤い光に包まれると見る見る巨大化した。それは、すもう小僧の小柄な体型とは打って変わって、伝説の力士雷電のような全身筋肉の真赤な巨躯。顔は逆立つ髪の下に仁王像のような威圧感にあふれ、大木のように太くてがっしりとしたまわしをきりりと締めている。
これぞジヒビキラン。まさしく、大横綱の大怪獣だ。
「ようし、勝負だジヒビキラン」
両者気合充分。土俵はないけど投げられたら負けの時間無制限一本勝負。
雄叫びをあげるジヒビキラン。対してメビウスも臆せずににらみ合う。次に両者は塩の代わりに谷川の砂利をつかんで振りまき、四股をふむのだが、これがまたすさまじい地震を引き起こす。
「きゃああっ! ミライくん、ちょっと加減してよ!」
しりもちをついたコノミがたまらず悲鳴をあげた。なにせメビウス三万五千トン、ジヒビキラン三万トンが同時に四股を踏むのであるから、隕石が団体さんでいらっしゃったような衝撃が起こる。それでも両者は腰を落として拳を地面につけて仕切りをとった。
行司は、リュウがガンウィンガーで上空から見下ろしながらすることになった。
「ようしいくぞ! 両者見合って、はっけよーい……のこった!」
スピーカーで増幅された声が響き渡り、いよいよ立会いが始まった。
はじかれたように飛びだすメビウスとジヒビキラン。まずは両者ががっちりとよっつに組んで、がちんこで力比べとあいなった。
「ヘヤッ!」
全身の力を込めて、メビウスはジヒビキランを押していく。先手必勝、攻められるときに攻めろ。小柄な分、素早さではメビウスの勝ちでジヒビキランは押されていく。
でも、横綱が立会いに遅れたからといって早々やられるわけがない。ジヒビキランはうなり声をあげて気合を入れると、足を踏ん張り、腹に力を込めてメビウスを押し返しはじめた。
「ウワッ!?」
突然強くなったジヒビキランのパワーにメビウスは驚く間もなく、あっという間にどんどんと押し返されていく。これはまずい、土俵がないとはいってもメビウスの後ろには山肌が近づいてきている。このままでは押し倒されて負けになると、メビウスは組み合いから脱出していったん間合いをとった。
でも相撲はとにかく押して押して押しまくれが基本だ。離れたメビウスに向かって、ジヒビキランの猛烈な張り手攻撃が襲い掛かり、観戦しているカナタたちGUYSクルーたちから声があがる。
「すごい、なんという突っ張りだ!」
かつて勢いのあまりにビルを木っ端微塵にしてしまった突進がメビウスに襲い来る。この突進力は犀超獣ザイゴン? いや、キングザウルス三世か、古代怪獣ゴモラのようだ。
「メビウス! 避けろぉ」
ウルトラマンでもこれは無理だ! メビウスも言われるまでもなく、ジャンプしてジヒビキランの頭上を飛び越えてかわす。やはり身軽さではメビウスのほうが上だ。ジヒビキランは勢いが強すぎて急に止まれずに、一キロほど無駄に突進してやっと止まった。
その隙をついて、メビウスは反撃に出る。
「セヤァ!」
助走して勢いをつけ、威力を増したメビウスのジャンプキックがジヒビキランの後頭部に炸裂する。これにはさしものジヒビキランもこらえきれずに前のめりに転ばされた。でも……決まったのはジャンプキックなのだから当然……
「あーあ……」
やっちゃったなと、カナタたちはため息をついた。子供たちも、「メビウスずるい」と口々に非難の声があがっている。もちろん、転ばされたジヒビキランもメビウスを指差して明らかに怒った様子で物言いをつけてきている。
「えっ? ぼ、ぼく、なにか間違ったことしましたか?」
メビウスは勝ったと思ったのに、周り中から冷たい視線を投げかけられて戸惑っていた。すると、ガンウィンガーからリュウの呆れた声が流れてきた。
「ミライ! 相撲ではパンチやキックは反則だ!」
「あっ!? そ、そうなんですか」
ルール違反をしたことにやっと気づいたメビウスは、ジヒビキランに向かって頭を下げると、「ごめんなさい」と平謝りした。
まったく、地球に来てけっこう年月が経ったけれどもミライが地球の文化にうといのは相変わらずだった。でも、みんなが相撲をとっているのを傍から見ていただけなのだから、ルールを詳しく知らなくても仕方ない。
「ミライくんは相変わらずね」
コノミが呆れながらも親しみを込めてつぶやいた。昔も、不用意な発言で正体をばらしそうになるミライをフォローするのにいろいろ苦労したのも、今となってはいい思い出だ。
その後なんとかメビウスにパンチやキックや光線などの相撲の禁じ手を教えて、ジヒビキランに許してもらうと、あらためて立会いが再開された。
「タアッ!」
突っ張り攻撃を仕掛けてくるジヒビキランに、今度はメビウスも正面からぶっつかる。その衝撃の勢いたるや、周辺の山々の木々が震えて、木の実が冬眠前の熊の頭の上に降り注いだくらいだ。
メビウスとジヒビキラン、組み合った両者のパワーとパワーが火花を散らす。
”どうしたどうした! ウルトラマン80はもっと強かったぞ”
”僕だって、まだまだあ!”
ジヒビキランの言うとおり、兄に負けまいとメビウスも全力を尽くす。自分だって、タロウ兄さんやレオ兄さんの厳しい特訓や、いろんな怪獣との戦いを乗り越えてきたんだ。
「がんばれー! メビウス」
「負けるなあ! ファイト」
「相撲は土俵際からが勝負だぞ」
GUYSクルーたちから、メビウスへのエールが送られる。戦うことはできなくても、GUYSの心はいつでもメビウスといっしょなのだ。
「タァァッ!」
百二十パーセントのウルトラパワーが発揮され、じりじりと押されていたメビウスの足が止まる。メビウスとジヒビキランの力が釣り合って、一転してまったく動かなくなった。こうなると、少しでもバランスを崩したほうが負ける。ここからは緻密な駆け引きと、精神力の勝負だ。
両者とも彫像と化したようにぴくりともしない。しかし、メビウスには地球上の三分間という時間制限がある。限界が近づいてカラータイマーが点滅を始める。
メビウスが危ない! コノミは、手に汗握って見守っていた子供たちに言った。
「みんな! あともう少しよ。さあ、みんなでいっしょに応援しましょう」
その瞬間、はじかれたように子供たちから歓声が響き渡った。
「がんばれメビウス」「負けるな」「いっけー」「ふんばれ」「ファイトだ」「ジヒビキランもがんばれ」
声が入り乱れて誰が誰だかわからない。中にはジヒビキランを応援している子もいるけど、それはもうすもう小僧が子供たちの友だちになったという証拠だろう。さあ、時間切れで水入りなどつまらない。最後の勝負だ。
「ヘヤァァッ!」
メビウスとジヒビキランが同時に声をあげ、決め技をかけようと力を込める。メビウスの体がジヒビキランに押されて後ろにさがる。これは力任せの豪快な押し倒しだ。メビウスもふんばるが、じわじわとメビウスの上半身が地面に近づいていく。
危ない、メビウス! だがメビウスはこの瞬間を待っていた。ジヒビキランのまわしをしっかりとつかんだメビウスは、ジヒビキランの押してくる力を逆に利用して一気に持ち上げた。
「おおっ! 浮いた」
「吊り上げだあ!」
力士の巨体をそのまま持ち上げるとんでもない大技が炸裂した。空中では、ジヒビキランがいくら力持ちでも手も足も出ない。
「いまだ、いけぇー!」
これで百番勝負もとうとう終わりだ。最後の一本、派手に決めてくれ! メビウスは、GUYSクルーや子供たちの声を受けて、ジヒビキランを抱え込んだまま後ろに向かって思いっきり倒れこんだ。
『ウルトラバックドロップ!』
頭から地面にぶっつけられて、これまでで最大の地響きを起こしながらジヒビキランはぶっ倒れた。最後まで相撲がよくわかってないあたりメビウスらしいけれど、なにはともあれ土がついたのはジヒビキランだ。行司のリュウの高らかな声が、勝者の名を宣言する。
「ウルトラマン、メビウ~ス!」
見事、メビウスは勝利した。子供たちはメビウスに向かってうれしそうに手を振って祝福した。
そして、百番勝負を終えたジヒビキランはすもう小僧の姿に戻ると、地面に大の字に寝転んで言った。
「まいった。お前、強いなあ」
「君もすごく強かったよ。さあ、山へ帰ろう」
「うん! 楽しかった」
満足したすもう小僧は満面の笑みを浮かべて、お礼を言うようにメビウスに手を振った。
こうして、CREW GUYS始まって以来の怪獣とのすもう合戦は幕を閉じた。
満足したすもう小僧は、言い伝えどおりに山へと帰っていく。そんな彼を、GYUSクルーや子供たちは、山道の途中まで見送っていった。
「じゃあ元気でな。これ、もっていけ」
リュウが食べ物を詰め込んだ風呂敷包みを渡すと、すもう小僧はにっこりと笑って受け取った。
「ごっつあんです」
風呂敷には子供たちのお菓子や、村の人たちがくれたおむすびなどがぎっしりと詰まっている。相撲取りは大食いだけど、すもう小僧ももちろん例外ではない。これを平らげて、またいつか目覚める日のためのパワーを補給するのだろう。しかしよく食べよく眠るとは、本当に子供そのものだ。
すもう小僧は最後にぺこりとお辞儀をすると、笑いながら山の中へと駆けていった。
「さようならー」
「さようならー」
見送る子供たちとすもう小僧の声が短く響くと、山の中は何事も無かったように静かに戻った。
これで、また数十年は眠り続けるだろう。次に彼と相撲をとるのはこの子供たちの子供たちかもしれない。きっとそのときも、すもう小僧は喜んで相手をしてくれるだろう。でも、リュウはまた自分が相手をするのはちょっと勘弁と苦笑した。
「やれやれ、嵐のような奴だったなあ」
「でも、気のいい奴でしたね」
珍しくくたびれた様子を見せたリュウに、カナタが言った。リュウにしてもカナタたち新人たちにしても、怪獣退治のために入隊したGUYSで、まさか相撲をとることになるとは夢にも思っていなかった。怪獣と一口に言っても、こんな愉快なやつも中にはいるのかと目からうろこが落ちた思いをしていた。
それを見ていたミライは、さわやかな疲れを額の汗ににじませながら言った。
「相撲って楽しいものですね。いつか、またあいつと勝負してみたいです」
「おいおい……でもまあ子供たちにとっては、あいつはアイドルみたいなものだな。それにしても、怪獣と相撲をとったウルトラマンなんて、80とお前くらいじゃないか?」
「うーん。かもしれませんね」
本当は、怪獣と相撲をとったウルトラマンはエースやタロウなど、ほかにもけっこういる。言ってしまえば、怪獣とバレーをしたり、ボクシングや野球やサッカーをしたりしたウルトラマンもいるのだが、それはまた別の話。
その後、GUYSのサコミズ総監は、この一風変わった事件の顛末を、ニューヨークの総本部から帰る途中の専用機の中で、ミサキ総監代行から電話で聞いた。
「以後の調査で、ジヒビキランが完全に眠りについたことが確認されました。しかし、GUYSクルー全員が筋肉痛で、しばらく役に立ちそうもありませんが」
「ふふふ、リュウらしいな。今日いっぱいは怪獣の監視に専念して、無理をせず休むよう伝えておいてくれ」
サコミズ総監は、好物のコーヒーを飲みながら、立派にGUYSとして活躍しているリュウたちを頼もしく思った。
でも、無理は禁物だ。リュウは防衛チームの隊長としては史上最年少なだけに、勢いのままに無理をしすぎるところがある。一途で向こう見ずなところが彼の長所であり短所だった。
それでなくてもリュウは、ハルケギニアから帰ってきて、怪獣対策に追われる毎日。それに、異世界に残った平賀才人くんのご両親に、事情を説明しにうかがったときは、ミライと二人で数日憔悴しきって帰ってきた。無理もない。子供がある日突然手の届かないところに行ってしまった親御さんの気持ちは想像するに余りある。
さらに通常勤務に並行して、次の日食の日に備えた新型メテオールの試作をフジサワ博士と打ち合わせねばいけなかったり、異世界でも長時間戦えるようにGUYSメカやマケット怪獣の改良をおこなったりと、ただの隊員だったころが懐かしいほど忙しいのである。
「今日のことは、彼らにとっていい気分転換になったんじゃないかな。それに、怪獣にも友達になれるような善良なやつはいる。それを、みんなが知ってくれたのは大きい」
「そうですね。いつか人間と怪獣がいっしょに地球で暮らせる日が来る。そうすれば、この宇宙にも本当の平和というものが来るかもしれませんね」
敵対ではなく共存。怪獣はいったん怒らせると手に負えないけれど、人間が余計な手出しをしなければおとなしい奴だっていっぱいいるのだ。互いの住処に干渉せず、きちんと住み分けるだけでも怪獣災害はぐんと減るだろう。
「人類は、これからももっと賢くならなければいけない。でなければ、人知れず地球を守ってくれていたウルトラマンたちに、いつまでも恩を返すことはできない」
サコミズ総監は、かつて最初の防衛チームだった科学特捜隊の亜光速実験船隊のキャップだった。ウラシマ効果で地球とは時間の流れが違うその世界で、彼らは亜光速試験船イザナミを駆って、人類が外宇宙に羽ばたくための実験に明け暮れていた。
しかし、冥王星軌道に差し掛かり、サコミズキャップが搭載艇イカヅチで母船を離れたとき、どこかの星からやってきた侵略円盤の大群に襲われた。
そのとき、絶対絶命のサコミズを救ったのが宇宙警備隊の隊長ゾフィーだった。
それ以来、地球が宇宙の中でいかに危うい存在であるかを知ったサコミズは、その人生を地球防衛と、人知れず地球を守ってきてくれたウルトラマンたちの心に応えるためにささげてきたのである。
光の国に報告をしにいったん帰っていたミライによれば、ウルトラ兄弟たちも次の機会にはヤプールの率いる超獣軍団との決戦を決めたという。彼らを異世界で戦っているエースのもとへ送り届ける。責任は果てしなく重大だ。
「まだ我々には、ウルトラマンと対等な力はない。それでも、彼らの助けになり、平和への架け橋になれるのなら全力を尽くそうではないか」
来るべき戦いに備えて、サコミズ総監も人知れず努力していた。実は、GUYSが別の次元世界へと出撃することに関しては、GUYS内部でも反対意見が強いのである。地球防衛を主眼としたGUYSの行動目的を離反する、異星文化への干渉、侵略の引き金にならないか、未知の伝染病、さらなる異世界からの侵略を招かないかなど、数え上げればきりがない。
だが、最大限の慎重さをもってそれらの課題をクリアしなければならない。必ずやってくる、時空を超えたウルトラ兄弟とヤプールとの決戦のために。各国GUYSとの会議はまだまだ続くだろう。それでも、サコミズにはリュウという頼もしい後継者がいるから安心できる。
この日、小さな事件を経てGUYSの隊員たちはまた大きく成長した。
明日からは、また自然界のバランスが崩れて目覚めた怪獣たちや、宇宙からの脅威が地球に迫るかもしれない。
そんなとき、彼らは必ず駆けつけるだろう。平和を守り、未来を切り開くために。
平和を守るヒーローへのあこがれは、いつしか小さな芽となって人々の心に葉を茂らせはじめる。
地球で、子供たちがそうするように、時空を超えたハルケギニアでもそれは変わらない。
今日も、トリスタニアの一角では子供たちの遊び声がこだまする。
「がおー! おれは怪獣ザラガスだ。トリスタニアの街なんかぺっちゃんこにしてやるぞ」
「そうはいくか、このウルトラマンAが相手だ! くらえ、メタリウム光線だ」
日が暮れるまで、子供たちはウルトラマンAごっこを楽しんで、やがて母親に呼ばれて家に帰っていく。
こんな光景がある限り、世界が闇に閉ざされることはないに違いない。
例え今日に百人の悪がはびころうと、明日には千人の善人がいればいい。
誰にも知られず、記憶されることもない世界の片隅で、世界を変えていく希望の光は少しずつ育ちつつあった。
続く