第8話
がんばれ!未来の三ツ星シェフ (後編)
再生怪獣 ライブキング 登場!
『ワハハハハ、ハークション! ウハハハハ、イーックション!』
残暑の日差しも厳しい魔法学院に、場違いで巨大な笑い声とくしゃみが何度もこだまする。
才人は声の主に向かって、自分のために与えられたGUYSメモリーディスプレイを向けた。カメラに映し出された映像から、内部に記録された膨大な怪獣データと照合がおこなわれて、やがてドキュメントZATの中に該当するものが現れる。
地底から現れた、この人間の笑い声とそっくりの鳴き声を発する巨大怪獣は、その名も再生怪獣ライブキング。かつて多摩川の地底に潜んで鼻の穴だけを露出し、落ちてくる生き物を無差別に平らげていた悪食の大怪獣だ。
こいつは巨大な腕で腹を叩きながら、鼻の穴から才人の放り込んだコショウを撒き散らし、学院の中庭を足をじたばたともだえさせながら笑い転げている。
その一方で、白昼の大怪獣の出現は、否応なく平穏な人間生活を破壊する。
「き、きゃーっ! か、怪獣ーっ!」
「あ、あわ、あわわわ」
目の前に突如出現した巨大怪獣にシエスタは悲鳴をあげて、モンモランシーも以前のタブラの恐怖を思い出して腰を抜かした。
「あ、あの穴は、あいつの鼻の穴だったのか」
不用意に飛び込もうとしていたギーシュも地面にへたりこむと、才人は止めるのが間に合ってよかったと、ほっと胸をなでおろした。地底に潜伏しているときのあいつの鼻の穴はまるで落とし穴のようなもので、かつて地球でも防衛チームZATの東光太郎隊員が知らずに近寄って落ちてしまって、救出するのに一苦労したのだ。
戦いに慣れている才人とルイズ、キュルケとタバサは即座に臨戦態勢をとって武器を取り出す。だが、ライブキングは人間たちなどまるで目に入らないようで、鼻の穴に放り込まれたコショウのせいで笑いながらクシャミを連発して、おまけに人間ならば呼吸困難に陥りそうな状態になりながらも、元気に学院の中庭を転がって、ときたま城壁に体をぶっつけたり、馬小屋に足をひっかけて壊したりしていた。
そのせいで、つながれていた馬が悲鳴をあげて逃げ出し、奴のとんでもなく大きな笑い声とあいまって、騒ぎは小さな街ほどもある魔法学院に、一瞬にして拡大した。
「うわっ! なんだこいつは」
「か、怪獣!?」
「あっはっはは! なんだありゃあ」
「あ、あばばばばばば」
「せ、先生ぇー!」
走ってきたり、フライで窓から飛んで来たりと方法は様々だが、続々と生徒たちが集まってきて、現場はあっというまに数百人に囲まれてしまった。
「あちゃあ、まさかこんなに人が集まってくるとは」
才人はライブキングを追い出すのに夢中になって、うっかりここが魔法学院の中であることを忘れていた。みんな、腹が減って部屋にこもっていたはずなのに、どうやらライブキングの笑い声が天の岩戸開きの役を果たしてしまったらしい。
見渡せば、ダウンしていたはずの全校生徒がほぼ勢ぞろいして、教師の方々もちらほらと見られる。このときばかりは空腹を好奇心が上回ったらしい。それに、ライブキングの見た目が他者に警戒心を与えにくいものなのも理由だろう。大笑いしながら転がりまわるカモノハシ頭の出っ腹怪獣は、早くも生徒たちの失笑を買っている。
そのとき、ライブキングのすぐ前にいた才人たちに向かって、コルベール先生が汗を噴き出しながら慌ててやってきた。
「君たちなにをしてるんですか! こんなところにいちゃあ危険です。はやく下がりなさい」
普段は影の薄い、頭頂部が地上の太陽になりかかっているこの先生は、ほかの教師たちがどんな指示をだしていいか分からず戸惑っている中で唯一、生徒たちの身を案じてやってきた。そうして、壮齢に達していそうな老けた容貌からは想像もできないほど強い力で、有無を言わさず彼らを数十メイル引きずっていった。
「ミスタ・コルベール、待ってください。怪獣が出たんですよ、退治しないと」
「なにを言ってるんです。あなたたちはまだ子供ですよ。そんな危ないことに手を出してはいけません」
引っ張られていく途中でルイズが抗議してもコルベールは聞く耳を持たなかった。この先生は、ほかの学院の教師と違って生徒に親密だが、反面過保護な一面がある。もっとも、以前にホタルンガと戦ったときはコルベールのその性格のおかげでルイズたちは助けられている。
ほかの面々はといえば、キュルケとタバサはギャラリーも増え、せっかくこれから派手にやろうかと思った矢先に腰を折られてしまって、とりあえずシルフィードを呼んでシエスタを避難させてから、自分たちも下がった。モンモランシーはまだ腰が抜けたままで、うれしがっているのか拒否しているのかわからない様子でギーシュにおんぶしてもらっている。
『ウハハハ、ヒーハッハハハハ、イヒヒヒ!』
ルイズたちが校舎脇に下げられてからも、ライブキングは相変わらず笑い転げていた。
生徒や教師たちは、怪獣を見るのは初めてではないし、ドラゴンやグリフォンなどの恐ろしげな幻獣を使い魔にしているものもいるので、最初は物珍しげに見ていた。だが、その先はとなると、こんなふざけた姿で、しかもひたすら笑うだけの怪獣をどうしたらいいのかわからずに、最初の興奮が冷めやって空腹感が戻ってくると、つぶされないように五十メートルばかり距離をとって、遠巻きに眺めていた。
そんな中で、ルイズたちは校舎の影で少々涼しさを感じながら、コルベールからお説教を受けている。
「まったく、本当に君たちは危ないことばかりして、怪我でもしたらどうするんですか」
「申し訳ありませんミスタ・コルベール、でも」
「でももかかしもありません! どんな理由があろうとも、あなた方は子供です。怪獣を相手に戦うなんてこと、許しませんよ」
にべもなかった。コルベールは自分の生徒に危険を冒させはしまいと、場合によっては実力で阻止するように、杖をもって立ちふさがっている。しかし、その気持ちはありがたかったがルイズにも意地があった。
「……確かに子供かもしれません。でも、貴族として! いいえ、あいつはわたしたち全員の家であるこの学院を荒らしてるんです。家を荒らされたら平民だって、動物だって戦うでしょう!?」
「それは大人の論理です。どこの世界に子供より家が大事な親がいますか。あなたたちは、まだ戦場の恐ろしさを、傷つくことの恐怖を知らないから……」
この、注意しなければ景色に埋もれていきそうな中年教師のどこにこれだけの力強さが眠っていたのか。かたくななまでに、コルベールはルイズたちの前に立ちはだかり続けた。ルイズがなにを言ってもまったく聞き入れてくれる様子はない。
けれど、命より名誉を重んじる貴族たちの教師としては、臆病にすぎるとも見えるコルベールの態度に、キュルケなどは少々いらだちをみせはじめた。
「ちょっとミスタ、わたしたちの身を案じてくださるお気持ちはうれしいですけど、わたしたちはすでに一度ならず実戦を潜り抜けています。大人ではないといいますが、ただの子供でもありませんわ」
「私は、君たちが戦いに行くことはずっと反対してました。一度や二度勝てたからといって調子に乗ると、いつか取り返しのつかないことになりますよ」
確かに、言っていることは正論なのだが、すでに多くの戦いを潜り抜けてきた自負を持っているキュルケには納得しがたいものだった。
「もういいです。自分の家に野良犬が入り込んできても平然としているような臆病者の言うことなど聞いてられませんわ。タバサ、行きましょう」
キュルケはタバサを連れて憤慨したように行ってしまい、ギーシュはモンモランシーを守らねばということで残っているが、ルイズと才人はまだ足止めを受けていた。
「あちゃあ、先生、こりゃもうただですみはしないですよ。みんな気が立ってるし、止まれと言って止まるもんじゃないです」
「だからといって犠牲者が出てからでは遅いでしょう。君たちこそ、敵と見ればどうしてそうすぐに好戦的になるんですか? 怪獣になんの恨みがあるというんです」
「だって、あいつが学院の食料を食べちゃったんですよ!」
そのルイズの一言が、地雷のスイッチであった。
ただでさえ空腹で我慢の限界に来ていた生徒たちはその言葉を聞くなり、憎しみを込めて杖を握る。中にはゼロのルイズの言うことだからと、疑いを見せたものも少数いても、ライブキングの大きく突き出した腹と、人を馬鹿にしているような笑い声が無意識に彼らの憎悪を喚起した。
「ウォォォッ! やっちまえぇ!」
激発した生徒たちは憎しみと怒りを込めて、ライブキングに魔法を打ち込んだ。
炎、風、水、氷、土、雷、系統も威力もバラバラで、戦闘を得意としないものも多くいたが、それよりも怒りのほうが圧倒的に強い。男女問わず、教師まで含めた数百人ぶんの魔法の総攻撃が一匹の怪獣に集中して、激しく火花を散らせた。
「うわあっ! さ、さすがにすげえっ!」
才人はかなり離れていたのに吹き付けてきた爆風を、手で顔を覆ってなんとか避けた。
さすがにみんな魔法学院の生徒たちである。玉石混合ではあっても、人数が三桁だけに爆風だけでもその威力はキュルケやタバサの魔法すら軽くしのいでおり、弱い者の中には自分で放った魔法で吹き飛ばされてしまったものもいたくらいだ。
だが、軍隊だったら一千人、小さな山なら吹き飛ばすくらいの威力をもっていたはずのその攻撃の爆風が晴れたとき、そこから聞こえてきたのは怪獣の断末魔などではなかった。
『ウッハハハ! ウフフハハハ……』
なんとライブキングは多少焦げてはいるものの、まるで痛さなど感じていないように続けて笑い転げているではないか。
「そ、そんな馬鹿な……」
まさかこれで生きているはずがないと、全力で攻撃を仕掛けた生徒たちは意気消沈してひざを突いた。なにせ、消耗しきっていた体力を怒りだけでカバーしていたのであるから、それを吐き出してしまった後では、後には虚無感のみが残った。
「なんて頑丈な……っていうか、信じられないくらいニブい怪獣ね」
「やっぱりな、噂に違わない不死身っぷりだ」
あいた口がふさがらないといったルイズの隣で、才人は体についた煙の灰を払い落としながらつぶやいた。
ライブキングは再生怪獣という別名のとおりに、たとえ体を木っ端微塵にされても復活する恐るべき生命力を秘めている上に、タフネスさやスタミナも他の怪獣を大きくしのぐ。過去に出現した個体も、防衛チームZATの攻撃を受け、同時に出現した液体大怪獣コスモリキッドと長時間にわたって交戦しながらもまるで弱らず、コスモリキッドと二対一の状況でありながらもウルトラマンタロウの腕を折るほどの暴れっぷりを見せている。
それでも、数百人もいればあきらめの悪いものもいるもので、続いての攻撃をかけようと呪文を唱え始める。しかも悪いことに、負けん気が強いキュルケがその先頭に立って、男子生徒がいいところを見せようと続いているから始末に負えそうもない。ルイズは明らかに冷静さを失っている様子のキュルケに呆れて叫んだ。
「馬鹿ね! 全員でやってダメだったのに、ほんの数十人で効くわけないでしょう」
キュルケは友人としては最上の部類に入るが、欠点もまた多い。男癖が悪いことがその最たるものだが、自分の実力に絶対の自信を持っているだけに引くことを知らない。今回はそれが悪い方向に発揮されていた。
「ありゃ完全に頭に血が上ってるな。しょうがない、いくぞルイズ」
ライブキングは凶暴性は少なく、かつてもコスモリキッドに散々殴られながらもほとんど反撃していないことや、ウルトラマンタロウの戦いも幼児がおもちゃにじゃれつくようなものだったことから、才人もあまり危機感はもっていなかったのだけれど、このまま攻撃を続けたら万一にも怒らせてしまうかもしれない。
犠牲者が出る前にウルトラマンAに変身して、一気にライブキングを片付ける。
二人はうなずきあうと、人目を避けるために人ごみに背を向けて、校舎の裏へと駆けていった。だが、ウルトラタッチを決めようとしたとき、突然二人は肩を叩かれて止められた。
「待て、二人とも」
「あっ、セリザワさん!」
いつのまにか二人の後ろには、警備兵の服に身を包んだセリザワが立っていた。
「今はまだ、ウルトラマンAにはなるな」
「えっ!?」
二人は予想もしていなかったセリザワ=ウルトラマンヒカリの言葉に戸惑った。怪獣がいるというのに変身するなとはどういうことか? あの血気にはやった生徒たちが馬鹿なことをする前に止めなくては、本当に犠牲者が出るかもしれないのに。
そんな二人の抗議を、セリザワはGUYS隊長であったころと同じように表情を変えずに聞いていた。けれども、少しすると今度は急に「ならば変身してみろ」と言って二人を驚かせた。
「えっ……じゃあ」
才人もルイズも、セリザワの真意を理解できないままだったが、最初から変身するつもりだったので、怪訝な表情をしながらも、向かい合って互いに右手を差し出しあって重ねた。
「ウルトラ・ターッチ!」
しかし……変身の光は起こらず、つなぎあった手はそのままだった。
「えっ!? な、なんで」
「なんで変身できないのよぉ!?」
いったいどうしてと、才人とルイズはうろたえながらセリザワを見た。
「やはり、エースも同じ気持ちか。そのリングをよく見てみろ」
えっ、と二人は言われたとおりにそれぞれの右中指にはめられた、銀色のウルトラリングを覗き込んで、そしてなぜ変身できなかったのか理解した。これまでは、変身のタイミングの度にまばゆい光を放っていたリングが、今は鈍い銀色のままを保っている。
「人間と肉体を共有しているウルトラマンは、その人間とウルトラマンの意思が一体になったときにしか変身することはできない。知っているはずだろう?」
二人は無言のうちにうなずいた。人間によって、ウルトラマンの強すぎる力が乱用されないために、ウルトラマンは自分の力を意思によって制限している。かつて、タッコングとの戦いのときに利己心からウルトラマンジャックの力を使おうとした郷秀樹は、その心のために変身を許されず、人間として限界まで戦い抜いたとき、はじめてウルトラマンは力を貸してくれるのだと知った。また、エースも地獄星人ヒッポリト星人の巨大な幻影にエースになって立ち向かおうとした北斗と南を制している。
「じゃあ、今はウルトラマンの力はいらないってことですか? なんで!?」
「それは、君たち自身の目でこれから見極めるんだ。力だけでは物事は解決しない。私はそれをかつてメビウスたちから教わった」
そこまで言うとセリザワは校舎の上の尖塔を見上げた。そこには肩に小さな白い鳥をとまらせて、ブロンドの髪をなびかせた麗人が立っていた。
「そろそろ……ね」
風の流れを敏感に感じ取り、マントの中から取り出された杖が陽光を反射して鋭く光った。
ライブキングは学院生たちの攻撃も、心地よいマッサージくらいにしか感じないのか、地面に腰を下ろして、学院の城壁に背を預けながらなおも笑っている。
「ぜえ……ぜえ。な、なんて奴だ」
息も絶え絶えになり、どうにか魔法を撃っていた生徒たちは、もう数人を残してみんな体力の限界に達して、地面の上に倒れこんでいた。
「くそぉ、ぼくたちの魔法が全然効かないなんて」
「やろう、なにがそんなにおかしいんだよ。ああ、ムカつくなあ!」
レイナールやギムリも、完全に魔法が打ち止めで、役に立たなくなった杖を地面に叩きつけて悔しがった。彼らも、何度も怪獣や宇宙人と戦って自分の実力に自信を深めていたのだが、この怪獣は文字通り彼らのそんな自信をあざ笑うように、傷一つない体をのんびりと横たえている。
「ちきしょう……この泥棒やろう!」
「なんでこんな奴が学院に出るんだ。腹減った、もうだめだ」
「おなかすいた……ごはん返してよお」
虚勢を張っていた男子生徒たちは悪態をつくしかなく、女子生徒たちには泣き出すものまで現れ始めている。彼らは皆、飢えに苦しんだ目で、出べその飛び出た出っ腹をポンポンと太鼓のように鳴らして笑い続けてるライブキングを憎しみを込めて睨みつけた。
そして、体力を残していたキュルケとタバサも、あまりにもタフな怪獣に打つ手をなくしていた。
『アハハハ! ウッヒャッヒャッハ!』
「くぁーっ! もう、なんて腹の立つ怪獣なのかしら」
ただ強い怪獣なら、相手の強さに戦う高揚感というものが湧いてくるが、こいつにはそういった戦闘する快感というものが微塵もなかった。とにかく、美的センスの欠片もないブサイクさと、人を馬鹿にした笑い声が神経を逆なでする。プライドの高い貴族の子弟たちにとって、これほどの屈辱を感じたことはなかった。
だが、ライブキングの声に冷静さを失ったキュルケが怒りのままに、特大のファイヤーボールをライブキングの顔に向けて撃ち込んだときだった。それまで一方的に攻撃を受けるだけだったライブキングが突然カモノハシのようなくちばしを開き、猛烈な火炎を吐き出してきたのである。
「っ! しまった」
一瞬でファイヤーボールを飲み込んで、火炎熱線は一直線にキュルケに向かった。もうフライで回避する余裕はない。タバサがアイス・ストームで防壁を張ろうとしてるが、火炎が大きすぎてとても無理だ。
油断した。いくら間抜けな姿をしていても怪獣は怪獣だった。いつもならこのぐらいの火炎を避けるくらいなんでもないのに。自分のうかつさを呪って、キュルケが目を閉じかけたそのとき、火炎と彼女たちのあいだに割り込むように、渦を巻く突風が飛び込み、炎を巻き込んでいった。
「な、なに!?」
「カッター……トルネード?」
二人の見ている前で、真空渦巻きは火炎放射を飲み込んで上空へと舞い上がり、誰にも被害の出ない高度まで達すると拡散して消滅し、続いて峻烈な女性の声が響き渡った。
「全員引け! これ以上の戦いはまかりならん!」
鋭く、よく通る声で発せられたその命令が頭上から場を駆け抜けたとき、生徒たちは校舎の上に立つ一人の教師の姿を見つけていた。
「か、カリーヌ先生……」
「下がれ、お前たちの力ではどのみちそいつは倒せん」
彼らは正体を知るよしもないが、『烈風』カリンの迫力は声からだけで生徒たちを圧倒して、対抗するだけの胆力のない彼らは、ほぼ言われるままにライブキングから離れていった。
一方のライブキングは自分の吐き出した火炎が無力化されたというのに特に次の攻撃をするでもなく、もう二言三言笑い声をあげると、ごろりと横になってまぶたを閉じ、大きないびきをかき始めた。どうやら今の火炎は別にキュルケたちを攻撃したわけではなく、奴にとってゲップかあくびのようなものだったらしい。
つくづくふざけた怪獣……しかしそのふざけた怪獣に勝てないことは、生徒たちの自尊心を大きく傷つけていた。
「ちくしょう……」
誰か一人の生徒がもらしたつぶやきが、全員の思いを代弁していた。
自分の魔法の威力に自信を持っていた生徒も、生徒に自分の系統の自慢ばかりしている教師も、もう体力も気力も戦えるだけ残ってはいない。キュルケとタバサも、高いびきをかきつづけるライブキングを憎らしげに見上げるしかできず、ギーシュやモンモランシーなど、戦いに参加しなかったり、途中で離脱した生徒たちも、精魂尽き果てた様子で呆然としており、それらの人々を見回したカリーヌは軽く息を吐いた。
「情けないものだな。これだけの頭数がいて、なにもできずに終わるか……噂の魔法学院のレベルも、たいしたものではなかったな」
無数の歯軋りの音が連鎖した。反論のできない現実が目の前に横たわっていることが、昨日今日学院にやってきたばかりの新任教師の酷評に、抵抗する術をなくさせていた。それでも、誰かが負け惜しみのようにつぶやくと、カリーヌは即座にそれを聞きとがめた。
「くそ……こんなに腹減ってなきゃ、こんな奴」
「ほお……万全だったら勝てたと……では聞くが、この中に朝昼晩と、まともに食事をとっていた者がいるか?」
ルイズや才人など、一部が手を上げただけであとは大半が口ごもった。才人にしても、学校に遅刻しそうで味噌汁を残したりした経験はあるので、手の上げ方は控えめである。
「ふん、けっきょくは全員口だけか。そんなことでは勝てる戦いも勝てんよ」
「じ、じゃああんたは。い、いや先生はあの怪獣に勝てるっていうんですか?」
「そ、そうだ! おれたちに偉そうなことを言うからには、先生はそれができるんでしょうね!」
一人の生徒が、昨日のラルゲユウスの圧倒感を思い出しながら恐る恐る言うと、ほかの生徒たちも釣られるように、口々にカリーヌをなじりはじめた。
カリーヌは、それらの悪口を無表情で聞き、やがて軽く杖を振って彼らを黙らせると、熟睡しているライブキングを見下ろして言った。
「倒せんな」
「な、なんだって、それじゃあ」
「情が移った」
「はぁっ!?」
想像もしていなかった答えに、生徒たちは罵声を浴びせることも忘れてあっけにとられてしまった。怪獣に情が移るとはどういうことか? だがカリーヌは口元に皮肉な笑みを浮かべると、喉から乾いた笑いを短くあげて言い放った。
「ふふふ……見てみるがいい。その怪獣、食って、遊んで、あとは寝る。まるでどこかの誰かたちとそっくりではないか」
「うっ……ぐっ」
怒りと、羞恥心と、屈辱感が全員を駆け巡った。もちろん、全員が全員そうではないし、勤勉な生徒だって大勢いるが、人生の一切を怠惰に生きたことのないものなど、まずいない。日本の普通の学生として生きてきた才人だって、漫画やゲームが身近に氾濫していたし、ルイズやキュルケだって授業をサボったことはある。
いわば、目の前で高いびきをかいている怪獣は、自分たちの同類なのだ。人は、自分の顔を鏡に映して見ることはできるが、鏡には醜い心までは映らない。それを認識させられたとき、生徒たちは完全にカリーヌに対しての反抗心を失っていた。
「はっは、だがそう見ると可愛くもあるだろう。食べさせて、遊ばせておけばあとは無害だ。いやあ、この学院の仕事は楽そうだ。そう思わないか?」
生徒たちは怒っても、同時に否定することはできなかった。まったくの真実であるからだ。これまで学院の教師たちが、自分たちがなにをしてもほうっておいたのは、捨てておいてもなにも問題ないから、つまり自分たちはその程度の存在なのだと。
けれど、生徒たちがぶつけようのない屈辱感でうなだれているとき、真っ向からカリーヌに対抗する声があった。コルベールである。
「デジレ教諭、それは違います。彼らは確かに、まだまだ心身ともに未熟ですが、悪いところばかりではありません」
彼の、カリーヌに対して一歩も引かない強い口調に、普段彼を見下している生徒や同僚の教師たちは、驚いた目で、その禿頭の冴えない中年教師を見つめた。
「コルベール教諭、しかしあなたがどう言おうと、今こうして彼らは自分の身の程も理解せずに自分の命を危険にさらしていたではないか」
「それは、彼らがまだ未熟だからです。ですが、未熟による失敗は誰でも経験していくもので、決して重い罪ではありません。彼らはまだ若い。過ちは、正していけばいいのです」
「だが、あなたは教職の身でありながら、ほとんどここの生徒たちは放置に等しい状態ではなかったではないか」
「う……た、確かにわたしは生徒たちが過ちを犯していても、ろくに注意することもできないだめな教師でした。でも、それでも……見捨てることはできません!」
コルベールのその発言は、深海の水圧に抗うように、勇気を振り絞ったものであったろう。コルベールの額に浮かぶ汗は、暑さや空腹による疲労だけではない。
「見捨てない、か……なら、これからあなたはどうするつもりですか?」
「それは……」
見捨てないだけなら誰でもできる。行動に示すことができなければ、ダメ教師のままだ。コルベールははあっと息を吸うと、全員に向かって大きな声で述べた。
「皆さん! 昨日からまる一日、何も食べられてなくてさぞ苦しいことと思います。ですが、見てのとおり、あの怪獣は恐らく食べ物を求めてここにやってきたのでしょう。ここでは、毎日のように大量の食物が捨てられています。いわば、あいつを呼んでしまったのは私たち全員に責任があるのです」
突飛な話だったが、説得力は強くあった。ヘドロが生んだザザーンや、汚水が生んだムルチ、騒音に引かれてやってきたサウンドギラーやノイズラーなど、人間が原因で現れた怪獣は多いが、飽食が大食いの怪獣を呼んでしまうとは。
「皆さん、私たちは毎朝食事の前に、始祖ブリミルと女王陛下に感謝の祈りを捧げますが、いままではそれを実現してはいませんでした。これからは、自分の言ったことには責任を持つようにしようではありませんか」
必死に生徒たちを教えただそうとコルベールは声をしぼった。だが、その呼びかけに生徒たちの何割かは、自分のおこないを悔いる姿勢を見せたけれど、別の生徒が反論の言葉をあげた。
「でもミスタ・コルベール、あの怪獣をなんとかしないと、それどころじゃないでしょう?」
「いいえ、怪獣を追い払い、また食料が届くようになったとしても、わたしたちが自分の過ちを改めない限り、何度でも同じことは起こるでしょう。あの怪獣はまだおとなしいからいいですが、次に来るのが丸々と太った人間が大好物な、そんな凶悪怪獣だったらどうします?」
生徒たちのあいだに戦慄が走った。そうだ、次に来る怪獣もこの怪獣のように間抜けな奴とは限らない。むしろ、うじゃうじゃいる人間を好んでエサにしようとする奴が来るほうが、圧倒的に確率としては高いのだ。
「わかりますな? 今回私たちは、まだ運がよかったのです。さあ皆さん、今ならまだ間に合います。あんな怪獣が二度と来ないようにするにはどうすればいいか、もう理解していますね? 朝、昼、晩、それぞれ出されたものは残さずいただく。いいですね!」
「はい!」
生徒たちのほとんどと、才人の唱和が学院にこだました。
恐らく、貴族として育ってきた生徒たちにとって、それはいままで教えられてきたことの中で最小のことに違いないし、才人にとっても小学一年生の学級目標のレベルのことだ。でも、大人になるほど、食物を作ってくれたお百姓さんや漁師さんに感謝して「いただきます」と言い、食べられた魚や肉の命に感謝して「ごちそうさま」と言うような、そんな素朴な気持ちを忘れていくものだ。
カリーヌは、生徒たちをまとめあげたコルベールの手腕に感心すると、屋上から飛び降りて彼の前に立った。
「お見事な手腕、どうやら私はあなたを見損なっていたようですね」
「いえ、私に教師としての義務を思い出させてくれたのはあなたです。私は臆病で、あなたのような厳しさをもてなかった。おかげで生徒にもなめられて……活を入れてくれて、ありがとうございました」
「なあに、こちらもなかなかよいものが見れました。あなたの言うとおり、彼らもまだ捨てたものではないようです」
二人の教師は、互いを認め合うと口元に軽く笑みを浮かべて、固く握手をかわした。
「さて、それはともかく怪獣をどうしましょうか? 目を覚ます前になんとかしないと」
「この大きさでは私の使い魔でも厳しいわね……レビテーションで運び出すにしても全校生徒の倍はいるか……」
昔からベッドにしがみついて起きない子供をどかすのは大変なものだ。コルベールとカリーヌは、さてどうしたものかと、残った課題に頭を抱えた。
けれど、ここでようやくヒーローに出番が回ってきた。
「さて、もうそろそろいいですよねセリザワさん」
「ああ、さっさと後始末をやってしまおう」
「まったく、久々の出番がこれだなんて、さえないわねえ」
「そう言うな。ウルトラマンは殺し屋じゃないんだ。さあ、久しぶりにいくぞ!」
「ウルトラ・ターッチ!」
才人とルイズのリングが光を放ち、セリザワのナイトブレスにナイトブレードが仕込まれる。
ダブル変身! ウルトラマンA&ウルトラマンヒカリ。
姿を現したエースとヒカリは、二人のウルトラマンだと驚く生徒たちを踏み潰さないようにゆっくりと歩くと、ライブキングをはさんでしゃがみこみ、奴の腹の下に手を突っ込んで、思い切り持ち上げた。
「デャァァッ!」
「トァァッ!」
ライブキングは再生能力を持っているので、始末するには宇宙空間に運ぶしかない。二人のウルトラマンのウルトラ筋肉が収縮し、ライブキングの巨体がじわじわと持ち上がっていく。
が、二人のウルトラマンの力をもってしても、こいつはなかなか持ち上がらない。
(と、とんでもない重さだ)
(タ、タロウが苦労したというものもわかるな……これはきつい)
ウルトラマンらしくもなく弱音を吐きながら、ヒカリとエースはよろめきそうになるのをこらえながらなんとかライブキングを持ち上げていく。こいつの基本重量は六万五千トンと、ただでさえ戦艦大和と同等の重さがあるのに、食べた食物の分も加わればメガトン怪獣スカイドンに匹敵するのではないかと思うくらいに重い。
それでも、二人のウルトラマンは、頑張れと応援してくれる生徒たちの声援を受けて、どうにかライブキングを持ち上げて飛び上がった。
「ショワッチ!」
飛行をはじめたら、みるみるうちに学院が小さくなり、やがて雲を突き抜けて成層圏を超え、銀河の星々が渦巻く宇宙空間へとやってきた。
(ふぅ、ここまで来たらもう大丈夫だな)
無重力であれば奴がいくら重くても関係ない。二人のウルトラマンは、運んできただけなのに激しく明滅しているカラータイマーの光に照らされながらも、なおも爆睡しているライブキングをようやく手放した。
(さて、これから奴をどうする?)
(……殺すのは、かわいそうなんじゃない)
エースからライブキングの処遇を問われたルイズは、ぽつりとそうつぶやいた。
確かに、憎たらしいやつには違いないが、カリーヌの言ったとおり、奴は自分たちの心の一部が具現化したようなものなのだ。始末して終わりでは、なにか負けたような、そんな気持ちがする。それに……あんなに気持ちよさそうに眠っているやつを撃つのは、後ろめたい。
(わかった。それでは、あとは成り行きにまかせようか)
エースとヒカリはうなずきあうと、しだいに小さくなっていくライブキングを見送った。
なんとも、はた迷惑この上ない怪獣だったが、いなくなると寂しい気がするのはなぜであろうか。
そういえば、ライブキングはもともと宇宙怪獣だったという説がある。次に行くのはどんな星か、せいぜいのんびり食べて寝てられる星であればよいのだが……
やっと一人暮らしを始めた馬鹿息子を見送った母親のような気持ちで、二人のウルトラマンと二人の少年少女は、再び青い星へと帰っていった。
こうして、大迷惑な怪獣によって引き起こされた事件は一応の解決を見た。
新人教師カリーヌ・デジレは、生徒たちから畏怖されながらも頼られる存在になり、影の薄かったベテラン教師のコルベールは生徒たちから見直された……のだが、根本的な問題はまだ解決していなかった。
「腹……減った」
そう、ただでさえ丸一日食事を抜いて、なおかつ怪獣相手に精神力の限度を振り絞って戦った生徒たちにはもはや動く力もろくに残されておらず、才人たちなど一部の例外を除けば校舎の日陰にはいずっていって、なかば死体のように寝こけているありさまであった。
しかし、反省して心を入れ替えたご褒美か、日が暮れはじめるころになって天使がやってきた。
「みなさーん! お食事の材料をいただいてきましたよーっ!」
底抜けに明るい声が、腹の虫の鳴る音しかしない学院の庭に響き渡ったとき、死体たちはフランケンシュタインとなって蘇り、我を争って正門前へと集合した。
「遅れてすみません。どうにか、皆さん全員にいきわたるだけの食材を集めてきました」
そこには、リュリュやマルトーをはじめとした食堂のコックたちが、荷車にいっぱいの小麦粉や野菜を積んで、息を切らせて立っていた。
みんな、朝からあちこちを駆け回り、重い荷物を運んできて服は薄汚く汚れている。けれども、先頭に立ってにんじんを振っているリュリュをはじめ、マルトーや今のコックたちからは後光さえ生徒たちには感じられた。
「なんだなんだ。どいつもこいつも死人みたいな顔色しやがって、いつもの威勢のよさはどこいった? ええ」
「まあそう言わないで、こっちもいろいろ大変だったんです」
マルトーは才人から、そこでようやくこの学院で、怪獣をからめた大騒動があったことを聞かされた。
「ふん、飢えてようやく食い物のありがたさが身に染みたか。馬鹿どもにはいい薬だ」
空腹の苦しさは体験してみないとわからない。いつもは居丈高な態度をとる生徒たちも、力を失って目の前の食べ物の山に目が釘付けになっている今になって、やっと食べられることのありがたさを知っていた。
でも、今のマルトーの貴族の子弟たちを見る目には憎しみはない。いや、そもそも本当に彼らが憎いのならばとっくに学院のコックなどやめているだろう。なんだかんだで、子供が可愛いのは親心か……彼らも空腹で苦しいだろうに、早朝からあちこちの村々をめぐり、頭を下げて、下げて、下げて、ようやく集めてきた食材が、彼らコックたちの心を雄弁に象徴していた。
「さあて、それじゃあさっそくメシにするとするか。お前ら、道あけろ! どけどけどけい」
すると生徒の波が、さあっとまるで赤じゅうたんをひいたように割れていった。
マルトーたちが集めてきたのは、小麦粉二十袋、野菜荷車一台分、肉は牛一頭分、牛乳荷車一台分と、けして裕福ではない近隣の村々から集めてきたにしては上出来すぎるくらいの収穫だった。これだけを集めるのに、マルトーたちがした苦労は計り知れない。実は、これを集めるのに彼らは自分たちの私財の一部まで使っていた。プライドの高い彼らだからこそ、自分たちの仕事がどれだけ重要なものなのか、それを証明したかった。
リュリュはそんな彼らと行動をともにする中で、遊びではなく、本気で仕事に命を懸ける職人の心意気というものに触れられた気がした。
けれど、荷台に山積みになっている食材を見れば大量に見えるだろうが、数百人で分配する上に、次の食料がトリスタニアから届くのは明日の昼過ぎなので、あと二食分に分割せねばならず、一人当たりに回るのはわずかスープ一杯分でしかなかった。
「申し訳ありません。本当はみなさんにおなかいっぱいめしあがっていただきたいのですが……」
誰にも食の満足を味わってほしいと夢見るリュリュは、いつもの十分の一もないメニューに、すまなそうな顔をして、スープの皿をテーブルに並べていった。
”みなさん、怒るだろうな”
いつも贅をつくした豪華な料理でも満足してもらえないのに、これではとても……
だが、食事がはじまったとき、リュリュが見たのは、彼女がずっと見たいと願っていた光景だった。
「うまい! こりゃうまい」
「うめえ、うまいぜ」
「おいしい! なんで? こんな粗末なスープなのに」
男女問わずに、作法もろくに守らずにスープをかきこんでいく。
才人もルイズも、ギーシュやモンモランシーも同様だ。
リュリュは、なぜ塩とコショウで味付けしただけの粗末な野菜スープがこんなに喜ばれているのか、すぐにはわからなかった。だが、そうして呆然としているところをマルトーに肩を叩かれた。
「連中はこれまで、一番大切な調味料が欠けたものしか食ってなかったからな。それに、うますぎる料理ってのは、飽きられやすいもんだ」
その一言でリュリュは、以前タブラに追い詰められて飢えに苦しんだとき、いままでずっとできなかった食物の錬金に成功したときのことを思い出した。
体だけでなく、心が求めるからこそ味覚が普段に倍して応える。たとえば、一日中走り回った後では、豪勢な料理よりも塩をふっただけの握り飯がやたらとうまく感じたりするようなものだ。
「味だけじゃないんですね。料理というものは」
うまければみんな喜んで食べてくれると思っていたリュリュは、また一つ身をもって大切なことを学んだ。
むろん、他者の苦労を想像することのできない浅慮な生徒や教師の中からは、「こんなもので足りるか!」と、罵声が出たが、そういった者たちはカリーヌによって石壁にめり込まされて土の味を噛み締めることになった。
「いやなら食べなくてけっこうです」
好き嫌いをする子供に食わせる飯はない。食卓において母親より強いものはいない。
ほかの生徒たちは、飯抜きにされてはかなわないと、慌てて自分のスープを確保する。
その様子を、オスマン学院長は秘書のロングビルといっしょにスープをすすりながら、のんびりと眺めていた。
「ふむ、さすがカリーヌくんじゃのう。惰眠をむさぼっていた者たちの目を一気に覚まさせてくれたわい。彼女に全部をまかせて正解じゃった」
「学院長、まさか全部こうなるって予想されてたんですか?」
「馬鹿言っちゃ困る。わしゃ神様じゃないから千里眼なんかないわい。ただ、歳をとると多少は人の扱いというものもうまくなるでのう。おかげで、これから学院の食堂の予算を削ると言っても誰も文句はつけるまい。ひっひっ」
口元に人の悪い笑みを浮かべるオスマンを見て、ロングビルはこの事件が最初からオスマンの手のひらの上で踊らされていたような、そんな不気味さを感じた。さすが腐っても齢三百歳、年の功はキングトータスの甲羅より厚いようだ。
「抜け目ない人ですね。ただ、笑いながら人のお尻に手を伸ばすのはやめてください。フォークで刺しますよ」
「ちぇっ、ミス・ロングビルは相変わらず隙がないのう」
そんなたわむれを続けながらも、夕食会は静騒とりまぜながら続き、やがて空には幾兆の星々が瞬き始めた。
あそこに光る一番星はライブキングか? それともウルトラの星か。今日が過ぎたら明日が来る。
明日もいいことありますように。あーした天気になーあれ。
続く