ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第2話  ルイズの帰郷 (後編)

 第2話

 ルイズの帰郷 (後編)

 

 獣人 ウルフガス

 童心妖怪 ヤマワラワ

 始祖怪鳥 ラルゲユウス 登場!

 

 

「だわーっ!」

 カトレアのゴーレムの放ったパンチを、寸前のところでかわした才人のいたところが、巨大な土の拳に芝生ごとつぶされて、子供が泥んこを殴りつけたような跡ができた。

 ラ・ヴァリエール家の広大な庭園の一角で、今全長四十メイルの超巨大ゴーレムが、すさまじい地響きをあげて暴れまわっている。

「カ、カトレアさん……マジですか」

「当然本気ですよ。本当は戦いは不得手なのですが、かわいいルイズの将来のためですもの、少々無茶をするわね」

 杖を下向きに振ったカトレアの手の動きに合わせるように、今度はゴーレムの右足が浮き上がって、月明かりに浮かんだ影が才人に重なるように迫ってくる。

「ぬぁーっ!」

 踏み潰される寸前に飛びのいた才人の後ろに、また新たなクレーターが新設されて、続けて第二第三の攻撃がやってくる。

 才人も、この半年で鍛えた体力でどうにか逃げ回っているが、所詮は高校生のスタミナを多少底上げしたところでたかが知れている。相手が巨大すぎるために動きは緩慢に見えても、実際直撃されたらスルメは決定だ。そのとき、このままでは才人の命が危ないと感じたルイズが叫んだ。

「ちぃねえさま、やめてください! なんでこんなことするんですか!?」

 あの優しい姉が信じられないと、悲鳴に近い声で叫ばれたルイズの問いかけに、カトレアは攻撃の手を止めると二人を見下ろして、よく通る声で返してきた。

「ルイズ、あなたの気持ちはわかるわ。けど、今は恋ですんでいるけど、生涯の伴侶を決めるというのはそんな簡単じゃないの。いざというときに、あなたを守れるだけの覚悟が彼にあるのか……姉として、どうしても見極めておきたいの」

「ちぃねえさま……」

 最後に目を閉じてうつむいたカトレアの憂えげな表情に、ルイズは姉が自分に恨まれるのを覚悟で、こんな無茶をしていることを悟った。

「でも、いくらなんでもやりすぎです! サイトはただの平民なんですよ!」

「ルイズ、あなたはまだ自覚がないかもしれないけど、ヴァリエール家の息女ともなれば、どんな刺客がかけられるかわかったものではないわ。もし、わたし以上の使い手がルイズの命を狙ったとき、サイトくん、あなたはどうするの?」

「あー、まあ、ルイズを連れて全力疾走で逃げますかな」

「ふふ、面白い子ね。けど、今みたいに逃げられない状況ならどうするか、わたしはそれを見極めたいの。手荒なのは承知で、悪いとは思うけどね。それに、わたし一人を納得させられないものが、お父さまや、お母さまを納得させられると思う?」

 二人はぐぅの音も出なかった。温厚なカトレアでさえ、ルイズのためを思ってこれほどの無茶をしているというのに、父や、まして『烈風』と異名をとるあの苛烈な母が交際を認めてくれるとはとても思えない。

「家柄や爵位などといったものは、わたしは気にしないわ。平民でも、ルイズを幸せにしてくれるなら、それで充分。けれど、ルイズへの愛を貫ける器量があるかは別よ。サイトくん、あなたはそれを証明できるかしら?」

 サイトはぐっと息を呑んだ。カトレアは、もし半端な覚悟しかないのなら躊躇なく命を取りに来るかもしれない。それだけ、ルイズを大切に思っているのだ。しかし、相手はフーケのものさえ上回る巨大ゴーレム、普通に考えて勝ち目は微塵もないし、こんなことのためにウルトラマンAの力は借りられない。

 けれど才人がためらっていると、背負っていたデルフリンガーが鞘から出て才人をうながした。

「抜け、相棒! あの姉ちゃんは本気だ。こっちも本気でいかねえと、死ぬぞ!」

「くっ、仕方ねえ!」

 腹を決めた才人は、背中からデルフを抜き放つと、ゴーレムに向かって正眼に構えた。

 だが、握った感触がこれまでと違って、デルフリンガーがとても重い。

「ちっ、そういやガンダールヴの力は抜けてるんだった」

「バカ! 今頃思い出すな。今の相棒の力は、いいとこ前の十分の一ってとこだ。ちょっとでも気を抜いたらアウトだ。来るぜ!」

「ああ!」

 再び襲ってきたゴーレムのこぶしを、才人はバックステップでなんとかかわした。ガンダールヴだったときの、体に羽が生えたような身の軽さはないが、やはりデルフを手にしていると、そのときの動きを体が覚えていて反応してくれる。

 しかし、ガンダールヴの力を失ったことと、一撃でも喰らったら即死確定の攻撃を避け続けなければならないことで、動きに精彩を欠きすぎると思ったデルフは才人を叱咤した。

「相棒、回避に無駄が多すぎる! 思い出せ、お前はあれよりもっと速いものと戦ったこともあるじゃねえか!」

「へっ? ……そうか! あれか」

 合点した才人はデルフをかまえて気を落ち着かせると、今度はゴーレムの手の動きをよく観察して、軽く飛びのいただけで余裕を持って回避した。

「どうやら、思い出したみたいだな相棒」

「ああ、ツルク星人の剣に比べたら、遅い遅い」

 そう、あの奇怪宇宙人ツルク星人との対決のときの三段攻撃の見切りの特訓も、ガンダールヴの力が失われた後でもちゃんと才人の血となり肉となっていた。コツを取り戻した才人は、今度は先程よりも格段に無駄のない動作で、機敏に攻撃を回避していく。

「いいぞ、前の動きが戻ってきてるぜ」

「ああ、それにしてもガンダールヴがなくても、これだけ動けたなんて信じられねえぜ」

「あんまし自分を過小評価すんなよ、お前さんは実戦経験だけならすでにベテランの域なんだ。ようし、そろそろ反撃してみろ!」

「反撃って!? ちぃっ、だめもとでやってみっか、せゃあっ!」

 だが、やけくそでデルフリンガーの重さを振り子のように使ってゴーレムの手に斬りつけてみても、やはり硬質化した土には通用せずに、わずかに刃先がめり込んだだけではじかれた。

「ちぇっ、相棒、やっぱ正攻法じゃ無理だ」

「わかってる、怪獣を相手にしてるようなもんだからな。連打してもいいけど、手が痛くなるだけだなこりゃ」

 と、言いながらも才人の頭の中の冷静な部分は、どうにかしてこの苦境を突破できないものかと回転していた。元々、日本にいたころからも怪獣が突如出現して避難するなどは日常だったし、ハルケギニアに来てからは、腕っ節といっしょに度胸も鍛えられてきている。

 

 メイジを相手に勝つ方法……

 

「デルフ、メイジを倒すには、やっぱり杖か本人を狙うしかないか?」

「そりゃそうだろうが、あの姉ちゃんはゴーレムの肩の上だぜ。ガンダールヴのままの相棒だったら、ゴーレムの体を駆け上がれたかもしれねえが、普通の人間が四十メイル近くも昇れるわけねえだろ」

 確かに、メイジの魔法の源は魔法の杖であり、いかなる魔法も例外なく杖がなければ発動することはできない。それが、メイジの最大の弱点であるのだが、そもそもメイジを相手に正面からは、近づくことさえ困難なのだ。

「まあ、そうだろうが、一つだけ作戦があるぜ。このだだっ広い庭ならな」

「相棒?」

 不敵に笑った才人の自信の根源は、六千年生きてきて、その生涯の中で幾度か「メイジ殺し」と呼ばれてきた剣士にも使われたことのあるデルフにもわからなかった。ただ、才人がこの期に及んでハッタリでその場しのぎをするほど卑小な男ではないことだけは、デルフもルイズも信じている。

「カトレアさん! その挑戦、受けて立ちます。もし勝ったら、ルイズとの交際、認めてくれますか!」

「ええ、それはわたしの誇りにかけて誓いましょう。けれど、平民のあなたがわたしに勝てると思うの?」

 それは差別意識からではなく、冷然たる事実から出た言葉だった。魔法を使える貴族と、使えない平民とでは、その力に雲泥の差がある。ルイズも、ガンダールヴの力もなしで無茶よと、青ざめた顔で才人に怒鳴ってくる。

 それでも、才人はそんな常識に臆することなく決然と叫んだ。

 

「そんなこたあ関係ねえ! 魔法なんかなくたって、人間には誰にでも知恵と勇気があるんだ!」

 

 そうだ、魔法が使えなくたって、ガンダールヴがなくたって、ウルトラマンの力を借りられなくても、才人にはまだこの最初で最後の武器が残っている。かつて地球でも、ウルトラマンや防衛隊の力を借りずに、単身怪獣に立ち向かっていって、平和を守ってきた人が大勢いた。その勇敢な志は、才人にも脈々と受け継がれて、一瞬ルイズとカトレアを圧倒した。

「さすがに、ルイズが選んだだけのことはあるわね。あなた何者? ハルケギニアの人間じゃないわね。っていうか、なにか根っこから違う人間のような気がする。違って?」

「あ、うーん……」

「うふふ、やっぱり。わたし、なんか勘が鋭いの……ルイズ!? あなた」

 そのとき、剣を構えている才人を守るように、それまで諦観しているだけだったルイズが前に出てきたのを見て、驚いたカトレアは攻撃をいったんやめた。

「ちぃねえさま……いいえ、カトレアお姉さま。わたしはこれまで、おねえさまに甘えるだけで、何もわかってない子供でした。けど、わたしは本気でサイトが好きなんです」

「ルイズ……」

「それに、わたしは一方的に守られてばかりなんてできません。敵に背を向けないこと、それが貴族なんだとわたしは教わりました。今、わたしはその意味をわたしなりの言葉にして使います。敵に背を向けないとは、自分を守ってくれる大切な人に背を向けて逃げ出さずに、いっしょに立ち向かうということ! だから、だから……わたしは、ちぃねえさまとだって、た……たたた、戦います!」

「……しばらく見ないうちに、ずっと大人になりましたねルイズ……わかりました、あなたたち二人の力、見せてみなさい。手加減はしません、いきますよ!」

 才人とルイズの度胸のよさに感心したのか、カトレアもうれしそうな笑みを見せてオーケストラの指揮者のように杖を振り下ろし、楽団のように同調したゴーレムの攻撃が襲い掛かってくる。

「うわっとお!」

 ルイズを抱えて、ひとっとびしたところへゴーレムの一撃がやってくる。さすがはおっとりしているように見えて『烈風』の娘、妹がいてもこれっぽっちも容赦をしてくれない。

 ルイズも、たんかをきった以上黙っているわけにもいかず、いつもの爆発を引き起こす魔法攻撃を加える。とはいえ、わずかに土をこぼさせるだけで、当然ながらあっという間に再生してしまう。

 救いがあるとすれば、カトレアのゴーレムはフーケのもの以上の体躯と破壊力、身のこなしを誇るが、戦闘にゴーレムを使い慣れていないために今の才人の実力からすれば、単調なその攻撃を回避するのは難しくはなかった。

 ただ、攻撃しても効果はゼロなのだし、ゴーレムの繰り出してくるパンチや踏み付け攻撃を、身をかわしてとにかく避けていっても、いずれスタミナが切れれば直撃をこうむってしまう。このままでは時間ばかりが無駄になり、なによりもさっきの大言壮語が口先だけになってしまう。

「サイト、なにか作戦があるんじゃないの?」

「ああ、一か八か、耳かせ」

 才人は、ゴーレムが打ち込んだこぶしを引き抜いているあいだにルイズの耳元に早口で、作戦を伝達した。そのとたん、ルイズの顔が期待から驚愕に急変した。

「ば、ば……ばっかじゃないの! あんた正気? そんなの、作戦どころか、でたらめもいいところじゃない」

「じゃあ、ほかにいい案があったら教えてくれ」

 言葉に詰まったルイズだったが、才人から伝えられた作戦とは、ルイズどころか一般常識の範囲に照らし合わせても、無理、無茶、無謀を三点セットでプレゼントしてもらえるような、とんでもないものだった。

 なのに、才人の顔は異様なまでの自信にあふれている。まるで、とっておきのいたずらを仕掛ける前の腕白坊主のようだ。

「うう……わかったわよ! なんで、あんたみたいなのを信じるって決めちゃったのかしら。乗ってあげるわ、あの森まで誘導すればいいのね」

「ああ、ここじゃ無理だが、森まで逃げ込めればチャンスがある!」

 このヴァリエール家の広大な庭園には、今二人とゴーレムが戦っているゴルフ場のような芝生の庭のほかにも、ボート遊びが可能なほどの池や、そこを取り囲むように森林がある。

 だがなぜ、森に逃げ込む必要があるのか? 普通に考えたら木々に身を隠して隙をうかがうなどと考えるだろうが、才人の自信からして、そんなせこいものではないだろう。

 二人は、ゴーレムの激しい攻撃に、大粒の汗を流しながらもちょこまかと逃げ回って、次第に森のほうへゴーレムを誘導していった。

 その様子を、カトレアは攻撃を続けながらじっと見詰めていたが、二人の息の合ったコンビネーションに、内心感嘆していた。

「本当に、仲がいいのね……」

 つぶやきながら、ゴーレムの上で指揮をとるカトレアの表情には、いままでルイズが見せたことのない勇ましい顔つきになっているのを見れることへの、無意識な喜びがあった。

 

 そして、そんな二人の連携もあって、森林地帯にゴーレムは誘導されて、才人の作戦は開始された。

 

「ふぃーっ、さすがに広い森だな。これが原生林ってやつか」

 まだ自然が色濃く残るハルケギニアの森は、日本の森よりもずっと深くて、月明かりもたいして届かずに、ずっと薄暗かった。地球でも、ドイツには影の森という場所があると地理の授業で聞いたことがあるのを才人は思い出した。

 だがこれならば木々が邪魔をしてしばらくは身を隠せるかと思えたのもつかの間、ゴーレムはなんの遠慮もなく木々を蹴散らしながら森の中に踏み込んできた。

「ちぇっ、やっぱ小細工が効くはずもねえよな。よーし……あれなんかちょうどいいか、ようしルイズ、作戦開始だ!」

 一方、カトレアは森に逃げ込まれて才人たちを見失ったものの、ほかの二人の姉妹と比べて落ち着いた性格ゆえか、慌てた様子を微塵も見せずに、微笑を浮かべたまま、ゴーレムを操りながら二つ目の呪文を唱えていた。

「森に逃げ込んで隙をうかがうつもりかしら? 残念だけど、メイジを相手に暗闇は武器にならないわよ」

 カトレアは水系統の『暗視』の魔法を使って、まるで赤外線スコープを使っているかのように二人の姿を探した。彼女の得意系統は『土』だが、『水』系統も得意な上に、母親ゆずりで精神力の容量も並外れている。

 しかし、時を経ずして見つけた二人がやっていたことは、姉や妹にも負けずに頭脳明晰なカトレアから見ても、疑問符をつけずにはいられないものだった。

「なにを……してるの?」

 森の一本の木を使って、二人はなにやら奇妙なことをしている。最初はよじ登ってゴーレムに飛び移るつもりかと思ったが、どうも違うようだ。おまけに、ゴーレムが一直線に向かっていっても逃げる気配もない。

「よーし、思いっきり引けーっ!」

 才人は、森の木々の中から、垂直に伸びている高さ五メイルくらいのまだ幹の柔らかい若木を見つけると、その先端をつかんで、ルイズといっしょに思いっきり弓なりになるまで引っ張って曲げていた。

「ほ、ほんとにこんなんでうまくいくんでしょうね!?」

「ああ、見て腰を抜かすなよ。よーし、ちょうど正面から来てるな。デルフ、いいか?」

「おれっちはいつでもいいが、相棒、何をする気か知らねえが、こんな木をぶっつけたって、ゴーレムはびくともしやしねえぜ」

「ふふふ……そんなことは百も承知だぜ。ようし、まっすぐ来てるな。ルイズ、いくぜ!」

 ルイズに合図を送ると、才人は限界まで引っ張られてきしみ音を上げている木のてっぺんにしがみつき、デルフを持って身構えた。

「いくわよサイト! いち、にの、さーん!」

「平賀特別攻撃隊、いきまーす!」

 ルイズが手を離したその瞬間、限界まで曲げられていた木は、その弾力性から一気に元に戻ろうと跳ね上がった。するとどうなるか、てっぺんに掴まっていた才人もいっしょに持ち上げられて、なおも勢いを落とさない木の反発力は、まるでパチンコのように才人の体を空中に投げ上げたのだ!

 

「と、飛んだ!」

 

 半信半疑だったルイズやデルフ、それにカトレアも度肝を抜かれて、ゴーレムで迎撃するのも忘れて、みっともなく叫んでしまったが、それを誰が責められようか。平民が魔法の力も借りずに空を飛ぶなんて、普通に考えたら絶対にあるはずがない。

 のにも関わらず、才人は空をゴーレムに向かって一直線に飛んでいき、見事にゴーレムの左肩に着地したではないか。

「おっとっとっと! あぶねー、もうちょっとで落ちるとこだった」

「……あ、ぁ」

 さしものカトレアも、目の前で起きたことが信じられないと、この世のものではないかのように呆然として、ゴーレムにしがみついている才人を見つめた。

 このときの彼女たちの心境を一言で表すなら「そんなアホな!?」のこれしかないだろう。

 けれども、植物の反発力というのをあなどるなかれ。実際に木のしなりを利用して大きな石を飛ばす『投石器』という武器は地球でも使われていたし、近代でも防衛チームZATの東光太郎隊員が、竹のしなりを利用して身長四八メートルもある蜃気楼怪獣ロードラの鼻っ先に飛び乗ったという実例があるのだ!

「さてと、これでおねえさん、おれたちの勝ちかな?」

 デルフをカトレアに突きつけながらした才人の勝利宣言を受けて、カトレアはようやく我に返ると、大きく息を吐き出して、杖を下に下ろした。

「ずいぶんと、信じられないことをするのね……いいわ、わたくしの負けですね」

 毒気を抜かれてしまったカトレアは、いさぎよく負けを認めると、ゴーレムをゆっくりと元の土くれに解体していった。

「はぁーっ、やれやれ、死ぬかと思ったぜ」

 空気の抜けていく風船に乗っているように、ゆっくりと下ろされている感触を味わいながら、デルフを下ろした才人は緊張が一気に解けたようにへたりこんだ。勝利宣言はしたものの、まさかルイズのお姉さんに向かって本気で剣を振り下ろすわけにはいかないし、カトレアも、剣を突きつけられていても、彼女ほどのメイジならいくらでも逆転の手はあっただろうから、本気で寿命が縮んだ。

「サイトーッ!」

「おーいルイズー! 見てたか、おれ勝ったぜーっ!」

 ゴーレムがただの土の山に返ると、才人は慌てて駆け寄ってきたルイズに勝ったことを知らせて喜ばせようと、満面の笑みを浮かべて抱きとめようとした。けれども、おれの胸に飛び込んで来いという才人の胸に実際に来たのはルイズのドロップキックの一撃だった。

「この、バカーッ!」

 目を白黒させているカトレアの前で、ルイズは見事に飛ばされて土の山に大の字になってめり込んだ才人を引きずり出すと、襟首をつかんで締め上げた。

「なんてむちゃくちゃやるのよ! 見てたけど、あと一メイルでもずれてたらゴーレムを通り過ぎて地面と激突してたじゃない。一瞬だめかと思っちゃったじゃないの」

「せ、成功したからいいじゃねえか……ん? お前」

 そこで才人は、怒りに燃えていたはずのルイズの顔が、いつの間にか涙目になっているのに気がついた。

「バカ……サイトのバカ、あんたって、どうしてそう自分の命をかえりみないのよ。わたしが、どれだけ心配したと……」

 また、あんたの死体を見ることになったらどうするのよと、ポカポカと自分の胸板を殴りながらぐずるルイズに、才人はその顔は反則だぜと思いながら優しく頭をなでてやった。

「わりい、心配かけちまって。もう二度としないから、泣き止んでくれよ、な」

「むぅ、な、泣いてなんかないもん! 怒って目から汗が出ただけだもん!」

「ぷくくく、なんだよそのド下手な言い訳は、まったく可愛いなお前って!」

「わっ、サ、サイトぉ!」

 仲良く抱き合う才人とルイズを見て、カトレアはもう一度ふうとため息をついた。彼女としては、この戦いの決着についての予定として、いくら才人ががんばろうと四十メイルのゴーレムにかなうはずはないのだから、適当なところでルイズに攻撃がそれたふりをして、才人がルイズをかばおうとしたら、

「ルイズといっしょになれない障害が、あなたが貴族じゃないということなら、貴族の条件というのをご存知? それはね、お姫さまを命がけで守ること、それだけなのよ」

 と、はげましてあげて水入りにして終わらせるつもりだったのだが……まさか、本当に勝負して負けることになるとは思わなかった。それも、才人は特別な力や道具などには一切頼っていない。言ったとおりに、知恵と勇気でこの難関を切り抜けてしまった。

 どうやら、自分は余計なおせっかいをしてしまったようだなと、カトレアは魔法の杖をしまうと、まだじゃれあっている二人に歩み寄った。

「ルイズ、サイトくん」

「ちぃねえさま」

「あ、はい」

 そのときのカトレアの表情は、もういつもの温和で優しいものに戻っていた。

「お見事だったわサイトくん、あんなかたちで負けちゃうなんて、夢にも思わなかった。わたしの完敗よ。あなたは、すばらしいナイトだわ」

「い、いやそんな。た、たまたまうまくいっただけですよ、あはは」

 才人は笑ってみせたが、カトレアのまったく他意のない言葉は、まるで母に褒められているときのような充足感を、彼の心に満たしてくれた。

「うふふ、でもねサイトくん。もしあなたがルイズを悲しませるようなことになったら、おねえさん怒っちゃうから、覚えておいてね」

「き、肝に命じておきます!」

「ルイズ、サイトくんなら、きっとあなたを守ってくれるわ。うらやましいわ、あなたにはこんなすばらしい騎士がついていてくれる。ハルケギニア中探しても、二人といない勇者でしょうね」

「ち、ちぃねえさま、あんまり褒めすぎるとこいつはすぐ頭に乗るから、そのへんで!」

 とはいえ、頬を染めているところから、ルイズもまんざらではないらしい。

「ルイズ、でもこれだけは言っておくわね。サイトくんがあなたを守ってくれているように、あなたもサイトくんを大事にね。恋人というものは、温かいコートのようなもので、着ているときは、ときに汗をかいて暑苦しく思うこともあるけど、脱いでしまったらとたんに冷たい北風にさらされてしまうものなの、わかる?」

「はい、わかります。ちぃねえさま」

 一度、才人を失っているルイズには、カトレアの言いたいことがよくわかった。これからも、二人の前にはさまざまな障害や、試練が待ち構えていることだろう。それらに立ち向かっていくには、二人の強い絆が絶対に必要なのだ。

 カトレアは、強い光を宿した二人の瞳を、大切に籠に飼っていた小鳥を、空に放すときのように、一瞬寂しそうに見つめると、ルイズを抱きしめた。

「もうすぐ、あなたもわたしが抱きしめられないくらい大きくなるのね。だけど、わたしはずっとあなたの味方だからね。わたしの小さな、いいえ、愛しいルイズ」

「ありがとう、ちぃねえさま……」

「サイトくん、この子はきかん坊なところがあるけど、仲良くしてあげてね。ただ、お母さまとお父さまの説得には、わたしもできるだけの助力はするつもりだけど、がんばってよ」

「ど、努力します」

 こうして、恋人として歩み始めた才人とルイズの最初の試練は無事に終わった。

 すっかり仲良くなった三人は、それから散歩の続きをするように、これまでの思い出をカトレアに語りながら、ゆっくりと屋敷のほうへと歩いていった。

 

 しかし……そんな三人を、空の上からこれまでずっと見守っていたものがいたのである。

 

「ま、まさか……カトレアに、あんな平民が勝っちゃうなんて、信じられないわ」

「カトレアも、ゴーレムに上がってこれるはずがないと油断したわね。まあ、あの子は元々争いごとには向かない性格だけど、ふふ……あんな無茶をする男は久しぶりに見たわ」

 高空で、月を背にホバリングする巨大な怪鳥、ラルゲユウスの背中に立つ二人の女性が、今の戦いぶりを見てそれぞれの感想を述べていた。

「お母さま、笑い事ではありませんわ。カトレアが、あのカトレアがただの平民と戦って負けてしまったんですわよ。このことがおおやけになれば、ヴァリエール家の大恥に! いえ、それよりも、あの男は何者ですか! カトレアは、その気になればトリステインでも五指に入ると言われた魔法の使い手ですよ。それを……きっとあの男はヴァリエール家にとって大変な災厄になります。即刻排除いたしましょう!」

 ぶっそうなことを目を血走らせて言っているのは、カトレアとルイズの姉のエレオノール。彼女はヴァリエール家の長女として、いつもは轟然とかまえているが、幼い頃にカトレアの飼っていた子犬を蹴飛ばしてしまい、泣かせてしまったカトレアから受けた仕打ちが、今でもトラウマになって忘れられないでいた。

 さて、ところでなぜカリーヌに教育的指導を受けているはずのエレオノールがここにいるかといえば、カリーヌの指導の苛烈さを身にしみて知っているエレオノールは、カトレアと同じ『土』系統のメイジなので、カトレアが大型のゴーレムを作り出したことを地面の振動で知り、これ幸いとばかりに何事かが起こったに違いないとカリーヌをけしかけて、こうして出てきたというわけだ。

 が、その個人的感情を大いにこめたうったえを、彼女たちの母であるカリーヌは冷然と受け止めた。

「心配しなくても、誰もこのことを言いふらしたりはしませんよ。それに、彼はルイズの使い魔、今はそれで充分ではありませんか?」

「使い魔といっても、だったらなおのこと問題ではないですか! どこの世界に使い魔と連れ合いになる貴族がいますか。カトレアが許しても、わたしは絶対に認めませんわ」

「さて、それはどうかしらね。あのサイトという子、このままただの使い魔で終わるかしら? 彼が見せたあの力は、私たちの持つ魔法などとはどこか異質な……けど、とてもユニークなものね。ふふ、ルイズやカトレアが気に入るわけねえ」

 そこでエレオノールは、普段厳格そのもので、めったに笑顔など見せないカリーヌが声を出して笑っているのを間近で見て、背筋が冷たくなるものを感じた。

「ま、まさかお母さまは、あの二人の交際をお認めになるつもりなのですか!?」

 信じられなかった。カリーヌの現役時代からのモットーは、決して揺るがない鉄の規律であり、貴族としての精神、しきたりを踏みにじることになる行為をするはずがない。だが、カリーヌは含み笑いを止めると、真面目な表情に戻って言った。

「それはこれからのあの二人しだいね。あの二人の愛が本物ならば、彼が爵位をとるなり、ルイズが家を出て行くなりするはず、そうなればわたしに止める理由はなくなるでしょう」

 規律の中で違反を犯すならとがめるが、その枠から外れてしまうなら叱る必要はない。ヴァリエール家の娘をめとるのだ、それくらいのことはしてもらわなくては困る。

 そして、カリーヌはエレオノールには言わなかったが、あの二人ならばもしかしたら自分が考え付かないような、新しい可能性を見せてくれるのではないかという期待があった。

 けれど、どうしても才人のことが認められない様子のエレオノールは、まだカリーヌに噛み付いてきた。

「わたくしは、断固反対です。平民が貴族になど、なれるはずがないではないですか! それもあんな野良犬みたいな男を……それも、ルイズが私より先になんて!」

「……エレオノール」

「え……あ」

 そこでエレオノールは、うっかり自分が言ってはならない本心を口に出してしまったことに気がついて、慌てて口を塞いだが……後の祭りだった。

「そうね、十以上も歳の離れた妹に先を越されたら、それは悔しいでしょうね。けれど、それはいったい誰のせいなのかしら? そして、そんな子に他人の恋路にとやかく言う資格が、はたしてあるのかしらと言ったわよね?」

 エレオノールは、嫉妬のあまりに地獄行きの切符を自ら切ってしまったことを、死ぬほど後悔した。しかしもはや逃げ道はなく、座った目つきになった母からの死刑宣告を、幼児のように泣き喚きたい気分で聞くことになった。

「確か、アカデミーの休暇は一週間ほどあるんでしたわね。あなたの不徳は母であるこの私の不徳によるもの。罪滅ぼしに、付きっ切りで性根を叩きなおしてあげましょう。感謝なさい」

「い、いやーっ!」

 なんとか逃げられるかと思ったのに、さらにひどい地獄がエレオノールの前に口を開けていた。これからエレオノールは一週間にわたって、おしとやかに歩かなければ靴に噛みつかれるとか、大声を出したら全身に電流が走るとか、眠っているオーク鬼の群れの中を起こさずに歩きぬけるとか、なかば拷問に近い『烈風カリンの社交界マナー講座、初級編』を受けさせられることになるのだが、ルイズたちはその内容を知るよしもない。

「ふふふ……どうも、なかなかおもしろい時代になってきたようね。老兵は去りゆくのみと思っていたけれど、どうしてどうして、私の人生もまだまだ捨てたものではないらしい」

 才人という少年を中心にして、ヴァリエール家にも新しい風が吹いてきたのかもしれない。

 そうだ、世界は可能性に満ちている。自分が若い頃にしてきた奇想天外な冒険の数々や、アスカや佐々木らと駆け抜けた、常識を超えたタルブ村での戦いの記憶は今でも薄れることなく、カリーヌの魂の奥底に根付いていたのだ。

「さて、これからどういったものを見せてくれるのか、母として見届けなくてはいけませんね」

 まるで少女のころに戻ったように、カリーヌの瞳に若々しく未来への期待にあふれた光が灯り、悲鳴をあげる娘をひっとらえたままで、夜空のかなたへと消えていった。

 

 やがて、月は天頂へと駆け上り、夜は草木も眠る真の静寂へと落ちていく。

 ルイズとカトレアは同じベッドで仲良く抱き合って眠り、ソファーに寝転んでいた才人は寝相が悪くて転がり落ちたところに、ヤマワラワとウルフガスにはさまれて、もじゃもじゃの毛皮のサンドイッチにされているうちに、ワイアール星人に追いかけられている悪夢を見ながら、一人うなされていた。

 

 

 双月は、二つ揃った満月の日から離れ、片方が欠けて片方だけが強く輝くようになり、今は満ち満ちた赤い月が、半分になった青い月のぶんまで天に君臨しようと、煌々と晴れ渡った夜空に輝いている。

 そして、そんな赤い月の光を受けてもなお色あせない群青の影が、トリステインを遠く離れたガリア王国の一角の空を、優しいそよ風のように飛んでいた。

「きゅーい、おねえさま、今日は任務でもないのにずいぶんと遠くまでくるのね? こんな人気のない場所に、なんの用なのね?」

「もうすぐだから、このまままっすぐに飛んで」

 風竜のシルフィードに乗って、雪風のタバサは月明かりで本を読みながら、じっとこの空の向こうにある目的地につくことを待ち望んでいた。

 ここは、トリステインの何倍もの広大な領地をかかえるガリア王国の中でも、いまだ手付かずの自然が色濃く残り、めったに人間の入ることのない秘境。タバサはルイズたちと別れた四日前から、一度ラグドリアン湖畔の実家に帰省した後で、シルフィードに命じてこの辺境の地、『ファンガスの森』へとやってきたのだった。

「見渡す限り、森、森、森、なーんにもないところなのね。シルフィとしては、そりゃ自然がたっぷりなところは好きだけど、こんなところじゃ満足にごはんにもありつけそうもないのね。まさかまたごはん抜きなんて言わないのね?」

「……」

「竜にだって、働いたらそれに見合った報酬を受ける権利はあるのね。おなかすいたー、ねー、おねえさまってば」

 そろそろ我慢の限界が来たらしいシルフィードがわめいても、タバサは本から視線を離さずに、うんともいいえとも言わない。

「もー、最近のおねえさまはほんと竜使いが荒いのね。こんなに遠くまで飛ぶのがどれだけ疲れると思って……ねー! ねーってばー……あれ?」

 いいかげん堪忍袋の緒が切れて、タバサから本を取り上げようと首を後ろに向けたシルフィードは、タバサの読んでいた本が、飛び始めたときからほとんど進んでいないのに気がついた。いや、それ自体は珍しいことではない。タバサでも、強く緊張したり、心が乱れていたりするときは本に集中できないこともある。

 けれど、今のタバサは……いつもと同じ無表情なのには違いないが、どことなくそわそわしているというか、ほおの筋肉がこわばってないというか……

「はて……いつものおねえさまとはどこか違う?」

 それが何か? といわれれば困ってしまうけれど、少なくとも今のタバサからは危険な仕事におもむくときのようなピリピリした殺気のようなものは感じられず、むしろご馳走を前にしたときの自分のようなうれしそうなものに思えた。

「うーん、この先におねえさまの大好物のハシバミ草の群生地でもあるのかね? いやいや、おねえさまは確かに大食いだけど、そこまで食い意地は張ってませんから、となると……はっ!」

 そこでシルフィードは、人間に換算するなら十歳くらいの脳みそで、ちょうどその年頃の人間の子供も思春期に突入して、やたらと気にするようになるあることにタバサの状態を強引に当てはめて、一人合点した上でおもいっきり叫んだ。

「そうか! おねえさま、恋してるのね! だからこんな人里離れたところで逢引を。ずるいのねずるいのね、それならそうと」

 どうしたのか、というところを言う前にシルフィードの頭上にはタバサの杖の一撃が、きついお仕置きとなって降りかかった。

「いたーいのね!」

「早とちり」

 タバサの杖は節くれだっていて大型なので、鈍器としてもけっこうな威力を持つ。この竜は、実年齢こそ人間であるタバサの何倍もあるくせに、まだ幼獣なので精神年齢は低くて、話を低俗なほうへもっていこうとする悪いくせがある。

「わたしは恋なんてしていない」

「うー、でもー……わ、わかったのね」

 反論したかったが、またどつかれるのが怖くなったシルフィードは、しぶしぶと『タバサ逢引説』を撤回した。

「んで? 逢引でなかったら、こんなへんぴなところになんの用なのね?」

「会いたい人がいる」

「えっ、それって恋……」

 うっかり口を滑らせそうになったシルフィードは、振り上げられたタバサの杖を見て、慌てて前足で口を閉じた。けれども、タバサの杖はシルフィードの頭を通り過ぎて、前方下の一点を指し示していた。

「目的地」

 見ると、いつのまにか黒々とした森の中にぽつんと灯が見えている。シルフィードは、とにかく言われるままに、そこへと向かって降下していった。

 

「はぁー、こんなところに家があったのね」

 降りた先には、森の木を利用して建てられたと思われる一軒家が建っていた。

 ただ、家といっても、二階建ての倉庫と山小屋の合いの子のような感じで見栄えはまったくしない。だがネズミ避けの高床式で、太い木を隙間なく組み合わせた頑丈なつくりの、オーク鬼でも簡単には壊せそうもない、小さな砦の様相を見せていた。

「ここが、おねえさまのお知り合いの家なの?」

「そう、少し待ってて」

 シルフィードの背から降りたタバサは、彼女にそう言うと、ゆっくりと玄関の扉のほうへと歩いていった。

「それにしても、こんなところにこんな家を建ててるなんて、何者なのかね?」

 近場まで来てわかったのだが、ここは森の一角を伐採して作った、半径百メイルはありそうな円形の広場で、家はその中央に建っている。この造りは明らかに、外からの猛獣の侵入を警戒したもので、空き地に作られた畑や、動物の侵入をこばむ有刺鉄線などからも、この家の住人がここに長期間住んでいることは、シルフィードでも容易に推測できた。

「人間にもいろいろと変なのがいるけど、また物好きなのがいたものね。けど、こんなところに、おねえさまがどんな知り合いが?」

 竜が首をかしげているところは、普通はなかなかお目にかかれない貴重なものであろう。とはいえ、そんなもの見慣れているタバサは振り向きもせずに、玄関の前にある小さな階段へと歩いていく。

 と、そのとき家の扉が内側から開き、中から一人の人影が現れた。

「来たね。そろそろだと思っていたよ」

 女の、それも若い声だった。シルフィードの位置からは、家の明かりが逆光になってシルエットしかわからないが、長身で短く刈りそろえた髪が、一瞬少年のような精悍さを感じさせた。

 彼女は階段の前で立ち止まったタバサに向けて、ゆっくりと階段を降りていった。だが、木の階段を下りるときに右足と左足で足音が違う。右足は普通の革靴のものだが、左足は硬い音がする。よく見ると、ズボンのすそから見える足首が木でできている。義足だった。

「また、少し大きくなったかな?」

「……」

 彼女はタバサの前に立つと、手を上げてタバサの頭を豪快になでまわした。

「痛い……」

「おっと、悪い悪い」

 シルフィードはそこで、「おねえさまになにするのね!」と、飛び掛ろうとしたのだが、タバサは嫌がるどころか、感極まったように彼女の胸に飛び込むと、甘えるようにほおをすりつけていった。

「お、おねえさま!?」

 タバサのこんな無防備な姿、召喚されて半年経つけれど一度も見たことがなかった。一番の親友と思っている、あのキュルケの前でさえ、こんな姿は見せないだろう。

 そして彼女はすりよってくるタバサの背中を優しく抱きかかえると、とても穏やかに、母が娘に語りかけるときのように、心を和ませる声色で、タバサの本当の名で迎え入れた。

 

「おかえり、シャルロット」

「ただいま、ジル」

 

 

 続く

 

 

 

 

【挿絵表示】

 


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