ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第一章
第1話  合体変身!! ルイズと才人


 第1話

 合体変身!! ルイズと才人

 

 ミサイル超獣 ベロクロン 登場!

 

 

 

「怨念を晴らすまでは、幾度でも蘇る」

 西暦二〇〇七年、地球を狙う恐怖の異次元人ヤプールはウルトラマンメビウスの活躍によって滅ぼされた。

 しかし、その底知れぬ怨念は闇の中で胎動を続け、復活のときを待っていた。

 だが、闇が動けば必ずそれを晴らそうとする光がある。

 今、新たなるウルトラ伝説が始まろうとしている。

 

 

 

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「宇宙の果てのどこかにいるわたしの下僕よ!! 光り輝き、気高い最強の使い魔よ、わたしは心より求めるわ! 我が導きに応じなさい!!」

 その日、地球とは違う異世界ハルケギニアの一国、トリステインの王立魔法学院で、ひとりの少女が使い魔召喚の魔法『サモン・サーヴァント』を唱えた。

 彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。魔法成功率ゼロパーセントゆえ『ゼロのルイズ』と屈辱的な蔑称を与えられている彼女の魔法は、結果として成功を収めた。

「あんた誰?」

 爆発とともに現れた真紅の光、それが収まったときに姿を見せた一人の少年。

「誰って……俺は平賀才人」

 彼の名は平賀才人、日本に住むごく平凡な少年だったが、この日を境に彼と、彼の主人となったルイズ、そしてハルケギニアの運命は大きく変わることとなる。

 

 誰も気づいていなかったが、召喚の際に現れた真紅の光は、消えずにそのままどこかへと飛び去った。

 

 また、才人の手に使い魔のルーンが刻まれた時、はるか天空に歪みが生じ、不気味な声が響いた。

「ほほう、次元震の反応があって見てみれば、こんな次元が存在していたとは。地球にも負けない美しさだ、住民も我らの奴隷となるにふさわしい。ふふはは……」

 

 

 それからしばらくは才人とルイズにとって、波乱万丈なれど平穏な日々が続いた。

 才人がルイズに犬扱いされるようになったこと。シエスタというメイドと偶然仲良くなったこと。

 たまたまギーシュという貴族の少年の落とした香水を拾ってやったことから、彼とつまらないいさかいを起こして、あげく決闘に臨むことになり、青銅の騎士人形"ワルキューレ"を操るギーシュの前に才人は追い込まれるが、突然圧倒的な剣の腕を発揮して奇跡的に勝利し、その後和解したギーシュと親交が始まったこと、など。

 おまけで言えば、その際の騒動でシエスタとさらに仲良くなって、なぜかルイズの才人への扱いがより以上に過酷になったことなどが付け加えられる。

 だが、平穏な日々は突如として終わりを告げることになった。

 

 

 ある日、ルイズと才人はトリステインの首都トリスタニアへと買い物に出かけた。

 目的は、ギーシュとの決闘の際に人間離れした剣の冴えを見せた才人のために専用の剣を買うためだった。

 なお、先日の件のお礼をしたいということで、シエスタが買出しついでについてきていたのがちょっとアクセントになっている。

「あっ、あれは何かな?」

「あそこは靴屋さんです。うちの厨房の人たちもひいきにしているんですけど、とても丈夫な靴を作ってくれるんですよ」

「じゃあ、あっちは?」

「刃物の砥ぎ師さんです。あそこで砥いでもらった包丁はとてもよく切れるとマルトーさんがおっしゃってました」

 街を歩きながら才人は物珍しそうにあれこれとシエスタに尋ねてまわっていた。

 ルイズとしては何がそんなに面白いのかさっぱり分からない、さらにあのメイドが何を聞かれても事細かに、しかもうれしそうに説明しているのもなぜか気に入らない。

「はいはい、あんた達、おしゃべりはその辺にしなさい。サイト、目的の店はこの裏通りの奥よ。シエスタ、あなたは分不相応なところだからしばらく待ってなさい、いいわね」

 ようやく目的の裏通りの入り口にまで来たときには、ルイズの忍耐は限界ギリギリにまできていた。

「は、はい、じゃあわたしは別の買い物を済ませておきますね。ではサイトさん、また後で」

 彼女はそそくさと駆けて行った。さすがにキレかけたルイズの雰囲気を察したようである。

「さて、さっさと行くわよ」

「あいよ、ご主人様」

 裏通りにある小さな武器屋、そこが目的地である。

「おや、これは貴族の旦那、うちはまっとうな商売をしておりまさあ。お上に目をつけられるようなことは、これっぽっちもしちゃいませんぜ」

「客よ」

 店に入ったとたん、警戒心をあらわにしてくる店主にルイズは堂々と言い放った。

 まあ、年のころ十五前後の貴族の少女とひ弱そうな少年の連れでは客と見られなかったしてもしょうがない。 

 だが、店主とルイズが次の句を繋ごうとした時、突然外から雷鳴のようなすさまじい音が響いてきた。

「な、なに!?」

 とっさにふたりは外へと飛び出した。

 そして、武器屋から出てきて空を見上げた瞬間、それは始まった。

 

 

 突如、空がまるでガラスのように割れ、真赤な裂け目が現れたかと思うと、そこから全長五十メイルは軽く超えるような巨大な怪物が街中に降り立ったのだ。

 全身は禍々しく黒光りし、二足歩行でありながら鰐を思わせる顔、そして頭から背中にかけて無数に生えた珊瑚のような赤い突起。

 怪物は、解放されたことを喜ぶかのように巨大な咆哮を上げ、店を、家を踏み潰し、叩き壊しはじめた。

 呆然とする人、逃げ惑う人を、まるで虫けらや石ころのように踏みにじり、蹴散らし、口から吐き出す火炎で焼き払っていく。

 そして才人は、暴れまわるその怪物を見て愕然として叫んだ。

「そんなバカな!! あれはミサイル超獣ベロクロンじゃないか!!」

「なに、ベロクロン? あんたあの怪物知ってるの!?」

「俺の世界で、三〇年以上前に暴れまわっていた怪物だよ。でも、超獣はもうメビウスとGUYSが全滅させたはずなのに、しかもなんでこの世界に?」

「そんなことはいいわ、行くわよサイト!」

「なに、ルイズ!?」

「国を荒らす敵に、貴族が背を向けるわけにはいかないでしょ!?」

「やめろ!! 逃げるんだ!!」

 駆け出したルイズを、才人は慌てて追っていった。

 

 

 そのころ、街の窮状にようやく王国の軍隊も動き始めていた。

 空からはグリフォン、飛竜、ヒポグリフなどハルケギニアに生息する幻獣に乗った騎士やメイジが、陸上からもトリスタニアに駐屯していた部隊が集結して怪物へと向かっていく。

「よりによって隊長が国境視察でいないこんなときに……だが、トリステインは我らが守る。怪物め、いくぞ!!」

 グリフォン隊の隊長代理は部下を督戦すると、怪物の頭上を目掛けて突撃をかけた。

「全軍、一斉攻撃開始!!」

 グリフォンや飛竜に乗ったメイジが空中から魔法攻撃をかけ、さらに空中から矢や槍が降り注ぎ、竜のブレスがほとばしる。

 火が風が氷が鉄が無数の牙となって怪物を貫いたかに見えたが、なんとその皮膚にはかすり傷ひとつついてはいなかった。

「化け物め!!」

 そのとき、怪物の口が開き、真赤な火炎が吐き出された。

 火竜のブレスの一〇倍はあろうかという火炎に、避ける間も無く、三匹のグリフォンが主人ごと消し炭に変えられる。

「正面は危険だ、背後から攻撃をかけるんだ!!」

 グリフォン隊の隊長代理は火炎の威力を見て、とっさに死角になるであろう怪物の背後をとる作戦に出た。

 だが、その怪物に死角などというものは存在しなかったのだ。

 突然、怪物の背中から頭にかけてびっしりと生えている赤い突起から無数の火の玉が撃ち出された。

「こんなもの!」

 隊長代理は熟練した動きでその火の玉を回避した。

 しかし、反撃に移ろうとしたとき、その眼は驚愕で見開かれた。なんと避けたはずの火の玉が進路を変えて追ってくる。

「ウワァァッ!!」

 それは地球においてミサイルと呼ばれている兵器で、グリフォン、竜騎士、ヒポグリフ隊は半数はそのまま餌食となり、半数は避けようとしたが、追尾してきたミサイルによってやはり空の藻屑と消えた。

 さらに、地上の部隊にもミサイルは降り注ぎ、彼らもなすすべなく全滅の憂き目にあった。

 

 

「離せ、サイト、離しなさいよ!!」

「だめだ!! あれは人間の敵う相手じゃない。殺されるぞ!!」

 間もなくベロクロンの足元になろうかという場所で、才人はルイズを必死に抑えていた。

 ルイズにとって逃げるという選択肢は存在しない。だが才人にとって、生身の人間が超獣に挑もうなど自殺行為以外のなにものでも無かった。

「サイトさん、ミス・ヴァリエール、ここは危険です。逃げてください!!」

「シエスタ……あっ、危ない!!」

 ルイズと才人の目に、ふたりを逃がそうと駆けつけてきたシエスタの背後から、今まさに火炎を吐き出そうとしているベロクロンの姿が見えた。

 そのとき、ふたりは同じ行動に出た。シエスタをとっさに路地の影に突き飛ばしたのである。

 自分が炎の餌食となることを代償に。

「才人さん、ミス・ヴァリエール……いやあぁっ!!」

 道路を焼き尽くした熱波と熱風が路地にも吹き荒れ、シエスタは吹き飛ばされて意識を失った。

 

 

 いまや、トリスタニアの城下町の半分が炎に包まれていた。

 

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 ベロクロンは悪鬼のごとく炎の中に君臨している。いまや奴を止める者は誰もいない。

 トリステイン王女アンリエッタやその重鎮達は、城からその惨状をなす術なく見つめていることしかできなかった。

 だが、突如怪物の頭上の空に真赤な亀裂が生じると、そこからおどろおどろしい声が城に、街に響き渡った。

「フハハハ、愚かな人間どもよ。我が名は異次元人ヤプール、この空に君臨する異次元の悪魔だ!」

 誰もがあまりのことに空を見上げる。声はなおも続いた。

「我らはこの世界を必ずや我が物とさせてもらう。まずは、このトリステインとかいう小さな国からもらうとしよう。貴様らは、我らの誇る超獣ベロクロンによって皆殺しとなるか、それとも我々の奴隷となるか、好きなほうを選択させてやろう。さあどうする? この国の主よ?」

「断ります!! 誇りを捨て、奴隷となって服従するなどするくらいなら死んだほうがましです。私達は断固として戦い、この国を守り抜きます!!」

 アンリエッタは勝ち誇るヤプールに向かって毅然と言い放った。

「フハハハ、愚か者よ。今日のところはこのくらいにしておいてやるが、次に来るときには容赦はしない。次は貴様らの命とともに、貴様らの絶望、憤怒、恐怖から生まれるマイナスエネルギーを我らに献上してもらおう。フフフフハハハ、フハハッハッハッハッ!!」

 空の裂け目はベロクロンを飲み込むと、何も無かったかのように消滅し、呆然とするアンリエッタ達の目の前には、地獄のように燃え盛るトリスタニアの街だけが残された。

 

 

 破壊されつくした街、動く者さえいなくなった廃墟の一角に、物言わぬ姿となったルイズと才人が横たわっていた。

 しかし、そんな彼らを新しい世界へと導こうとする者がいた。

 どこからか現れた赤い光がふたりを優しく包み込み、やがてふたりは光り輝く不思議な空間に立っていた。

「ここは、いったい……はっ! サイト、サイトは?」

「俺はここだ……ルイズ、お前も無事だったか、よかったな」

「な、なによ。べ、別に心配なんてしてないんだけど、あんたも無事でよかったわね」

「残念だが、無事ではない」

「はっ、だ、誰!?」

 突然語りかけてきた声に驚くルイズと才人の前に、ゆっくりと、銀色に輝く巨人が姿を現した。

 そして、再びふたりの意識に、強く、気高い声が語りかけてきた。

「私は、ウルトラ兄弟の5番目、ウルトラマンAだ」

 ふたりの前に現れたエースは、そう力強く言った。

「ウルトラマンA!? ほ、本当に!?」

「サイト、知ってるの?」

「知ってるも何も、俺の居た世界でウルトラマンAを知らない奴なんかいないよ。怪獣頻出期から今までずっと地球を守ってきてくれたウルトラ兄弟の一人、あこがれのヒーローさ!!」

 才人は怪訝な顔をするルイズにウルトラマンAのことを熱弁した。

 かつて自分のいた世界では怪獣や宇宙人の脅威に晒されていて、そのとき人類を守ってくれたウルトラマンと呼ばれる光の国の戦士達がいたこと。

 だがあるとき、怪獣よりはるかに強い超獣を駆使して地球を襲ってきたヤプールという侵略者が現れ、それと初めて戦ったのがウルトラマンAということ。

 ヤプールはその後もたびたび復活したが、そのたびに歴代のウルトラマン達が撃退したこと。

 最近もエンペラ星人の手先になって復活したが、新しいウルトラ兄弟の一員、ウルトラマンメビウスによって倒されたこと。

 ルイズは半分も理解していないようだったが、才人の熱の入れように半分呆れながらも目の前の巨人への警戒心を解いた。

「……まあ、とりあえず敵じゃないみたいね。それで、無事じゃないってどういうことよ?」

「君達の肉体は、先のベロクロンの襲撃で死んでしまったのだ。今私と話している君達は精神体にすぎない」

「なんですって!?」

 驚いて見下ろすと、確かに足元には傷だらけで横たわっている自分達、よく見てみれば、今の自分達の姿はうっすらと透けている。

「ってことは、わたし達は今幽霊ってところかしら……で、そのウルトラマンAとやらが何用なの?」

 ウルトラマンAは、ふたりを見下ろしながら、ゆっくりと語り始めた。

「この世界の少女よ。君はまだ気づいていないだろうが、あのとき君がこの世界に召喚してしまったのは、その少年だけではない。この私もなのだ」

「へっ、あたしが? そんな憶え無いわよ」

 自分が呼んだと聞かされて、まったく身に覚えの無いルイズはとまどった。

「彼が現れたときに、同時に赤い光が現れたのを憶えているか? 私達は遠くへ移動するときには赤い玉となって飛行することができるのだ。私はヤプールの動向を偵察するためのパトロールの最中に、君の作り出した空間の歪みを発見して、そこからヤプールの気配を感じて飛び込み、この世界に来た」

「えっ、それじゃあもしかしたら、あんたが私の使い魔になってたかもしれないってこと? ……ちぇっ、惜しいことしたわ」

「どういう意味だよ……」

 エースはふたりのやりとりには構わずに話を続けた。

「どうやら、この世界は完全にヤプールに目をつけられてしまったらしい。原因ははっきりとは分からないが、この世界ではあちこちで時空転移、君達の言う召喚儀式がおこなわれているために、その次元震がヤプールに気づかれてしまったのかもしれない。奴らは手始めにこの世界を侵略し、力を蓄えた後に地球へと侵略の手を伸ばすだろう」

「なんですって、ハルケギニアを侵略? そんなことさせるものですか!!」

 ルイズは激怒した、自分の国をあんな怪物に蹂躙されて愉快なはずはない。

「悪いが、この世界の魔法とやらでもヤプールの操る超獣には歯が立たないのは実証されてしまった。だから君達の力を貸してほしい」

「わたし達の? どういうこと」

「残念だが、私はこの世界ではこのままでは戦うことができない。だが君達の体と一体となれば、私は短い時間ではあるがこの世界で戦える」

「わたしと一体に? じょ、冗談じゃないわよ!!」

 ルイズは当然拒否した。だが、ウルトラマンの活躍を小さなころから見聞きしてきた才人は、むしろわくわくした顔でルイズをなだめた。

「まあ落ちつけよ、体を貸すっていっても乗っ取られたりするわけじゃないし。それよりも、この世界では戦えないってのはどういうことなんだ?」

「詳しくは分からないが、この星の太陽の波長が私とは合わないのかもしれない。地球で我々の活動時間が三分に限られていたように、単独ではおそらく一分程度しかこの世界では実体を保てないだろう」

「なによ、それじゃまるで役に立たないってことじゃない」

 ルイズの歯に絹着せない言葉に、才人はムカッとしたが、エースは構わず続けた。

「だからこそ君たちの力が必要なのだ。それに、君達と一体となれば、私の命で君達の命を救うことができる。君達の記憶に立ち入るようなことは決してしない。力を、貸してほしい」

「俺はいいぜ」

「サイト!?」

 あまりにあっさりと承諾した才人を見て、ルイズは困惑した顔を見せた。

「この年でまだ死にたくはねえし、ウルトラマンになれば、シエスタやお前、友達になりかけた奴らを守ってやることができる。それに第一、俺はずっとウルトラマンにあこがれてたんだ!! こんなチャンスは二度と無いぜ!!」

「気楽でいいわね。けど、私もまだ死にたくはないし……わかったわ、それでどうすればいいの?」

 エースは右手を高くかざすと、そこから光が走り、ふたりの手に小さな指輪がはめられた。 それは銀色で、Aの文字をかたどったエンブレムが取り付けられているだけの簡素な、しかし美しいリングだった。

「銀河連邦の一員の証であるウルトラリングを今、君達に与えた。そのリングが光るとき、君達は私の与えた、大いなる力を知るだろう!!」

 ふたりの意識はそこでとぎれ、再び目をさましたとき、ふたりとも傷ひとつない姿で廃墟のなかに横たわっていた。

 あれは夢だったのかと思ったが、その手に光るウルトラリングがあれは現実だったことを示していた。

 その後、臨時救護所で再会したシエスタが最初、泡を吹いて倒れ、やがて目を覚ました後にふたりが無事だったことを知って泣き崩れたのを見て、ふたりはようやく笑顔を見せた。

 

 

 だが、休んでばかりもいられなかった。

 王国は壊滅した軍の代わりに、対ヤプール用の王立防衛軍を設立することに決定した。

 地球でいえばTACに相当する組織だが、その内容は最精鋭部隊がベロクロンによって全滅し、他国への備えから各地の兵力も削るわけにはいかず、生き残ったわずかなメイジと兵、貴族や民間、魔法学院からの志願者などを集めた寄せ集めだった。

 ただし、その士気は高い。王女アンリエッタ自ら最高指揮官の位置に立ち、城を舞台に不退転の意志を表したことで兵達から弱気は振り払われていた。

「今度の侵略者に対して、降伏や和平という道は最初からありません。それは、彼らが奪おうとしているものは誇りでも、国でも、命でもなく、我々の人間としてのあらゆる尊厳をはぎとり、奴隷として貶めることで愉悦を得ようとしていることだからです。私達が選ぶ道はただひとつ、戦って勝つことだけです。この戦いの敗北はトリステインの人間の全滅、いえ、絶滅を意味することを忘れないでください。そして、私と王家の人間はただひとりとして、あの超獣が地に崩れ落ちるときまで、この城から離れぬことを制約します」

 王族自らが徹底抗戦の意志を固めたことで、防衛軍には続々と志願者が集まってきていた。

 ベロクロンによって家族や友人を失った者から、貴族の誇りを守るために戦おうとする者、これから家族を守ろうとする者、ほかの者も皆トリステインのために命を賭けて戦おうとしていた。

 もちろん、そこにはルイズと才人がいたが、ほかにもルイズの悪友のキュルケやタバサ、さらにはギーシュなどのクラスメイトたちの姿もあったことにふたりは驚いた。

「ツェルプストー、なんであんたがここにいるのよ。学院も無期限休校になったことなんだしゲルマニアに帰りなさいよ」

「いやぁ、あたしもそうするつもりだったんだけどね。あたしの恋人達がみーんな揃って防衛軍に志願しちゃったもんでね、俺の死に水を君がとってくれるなら俺は誰よりも勇敢に戦える、なんて言われちゃ断れなくてね」

「……心配なのはふたりだけのくせに」

 タバサが居るわけは分からなかったが、キュルケが関わっているのは間違いないだろう。

 そして才人は、部屋の隅で柱を相手に落ち込んでいるギーシュに声をかけた。

「ギーシュ、お前はなんで?」

「僕は、軍の名門グラモン家の名誉のために当然ね、つまり家柄でしょうがなく、強制的に……」

「……」

「まあ、僕にも誇りはあるさ。ヤプールが次に狙ってくるとしたら間違いなく王宮だろう? この城を落とされたらトリステインは顔を無くすようなものだからね。王女殿下が命を賭けて城を死守しようっていうのに逃げちゃあ、貴族以前に最低だろ」

「だな、どこまでできるか分からないが、ヤプール相手には逃げ場なんかどこにも無いんだ」

 才人は、本当にかつて地球防衛軍を全滅させたほどの相手と戦えるのかと不安になっていたが、ここの学院の騒々しさがそのまま移ってきたような雰囲気に少し安心していた。

 

 

 そして、二週間後、遂に再びベロクロンが姿を現した。

「ゆけえベロクロン!! 恐れを知らぬ人間どもに、我ら異次元人の悪魔の力を見せてやるのだ!!」

 復興しかけた街を思うがままに蹂躙するベロクロンに、防衛軍は決死で立ち向かう。

 空からはタバサの使い魔の風竜シルフィードをはじめとするドラゴンやグリフォン。

 地上からは旧式火器や遠距離攻撃可能なメイジが、可能な限りの攻撃をベロクロンに叩き込んだ。

 しかし、やはりベロクロンにはわずかばかりの痛痒も与えることはできなかった。

 一回だけ、ベロクロンが口を空けた瞬間に急接近したシルフィードから、キュルケが全力の火炎弾を口内に叩き込んで動きを止めたが、それも口内のミサイル発射管をつぶしただけにとどまり、反撃の火炎を受けて翼をやられて墜落してしまった。

 

 防衛軍のあまりにもあっけない敗北だった。

 

 勝ち誇るベロクロン、生き残った防衛軍がわずかな攻撃を続けてはいるが、ベロクロンの火炎とミサイルの前にひとつ、またひとつと潰されていく。

 やがて、防衛軍をあらかた叩き潰したベロクロンはその行き先を変えた。

 すると、その眼前でまた空が割れていく。しかも尋常な大きさではない、幅およそ五〇〇メイル、高さ二〇〇メイル、ベロクロンが一〇匹以上通っても余るほどの広さだ。

 しかし、その割れた空間の先にあるものは異次元の真っ赤な裂け目ではない、その方向にあるものは……

「やめなさい!! 学院まで壊すことはないじゃない!!」

 ベロクロンの先、裂けた空間の先にはルイズたちの母校があった。

 ヤプールは見せしめとするために、街と学院をつなぐ巨大な異次元ゲートを作り出したのだ。

「フフフフ、王女よ、勝利するときまで王城より離れぬと言ったそうだな。だったらそこからこの国が灰燼に帰していく様をじっくりと見せてやろう」

「っ!! なんて卑劣な」

 虚空から響くヤプールの声に、アンリエッタは憎悪を込めて睨み返したが、城の防御に完全配置した多くの部隊はすぐには動かせない。

 

 そのころ、ルイズは才人を連れてベロクロンの後を必死で追っていた。

 ルイズにとっては決してよい記憶ばかりがあるところではない。むしろつらいこと、悔しいことが多くあったが、それでも友と過ごし、自分をここまで育ててくれた思い出の場所なのだ。

「やい、あんたが私達にくれるって言った、大いなる力ってのは何よ! くれるなら今よこしなさい!!」

 ルイズはリングに叫ぶが、リングは何も答えない。

「……学院を、やらすものですか!!」

 ルイズと才人はベロクロンの後を追って異次元ゲートへと飛び込んだ。

 風景が一瞬にして変わり、火災の熱気に包まれた空気から、学院周辺の緑の香りが鼻孔に飛び込んでくる。

 ベロクロンはふたりの目の前を、ことさらゆっくりと学院へと歩いていく。しかしその距離はあと二〇〇メイルもない。

 

「逃げろ、みんな急いで逃げるんだ!!」

 学院では突然の事態に慌てながらも、教師達が必死に生徒達を逃がそうとしていた。

 だがあまりに突然の奇襲だったためにとても間に合わない。飛んで逃げることもできるが、それではミサイルの餌食にされてしまう。

 

 

「この、悪魔めーっ!!」

 少しでも足止めになればとルイズは魔法を連射する。ゼロのルイズの異名の通り、どんな魔法を使っても派手な爆発しか起こさないが、教室ひとつを全壊させるくらいの威力がある。しかし、超獣ベロクロンにはまるで爆竹のようなもので、あまりの巨体ゆえにまったく効果がない。

 外壁上にはルイズたちの教師であるコルベールや、学院長のオスマンが最後の防衛線を引いている。彼らも死ぬ気だ。

 だが、ベロクロンの手が今まさに学院の外壁にかかろうとした、まさにそのとき!!

 遂にふたりのリングが眩い輝きを放った。

「光った!?」

 ルイズと才人はエースの声を聞いた。

 今こそ、力を合わせて戦う時。

「ルイズ!!」

「サイト!!」

 ふたりのリングが火を放つ!!

 

 

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「「ウルトラ・ターッチ!!」」

 光がふたりを包む。そして、光の巨人が光臨する。

 ウルトラ兄弟五番目の戦士、ウルトラマンAの登場だ!!

 

「デャアッ!!」

 天空から急降下してきたウルトラマンAのドロップキックがベロクロンに炸裂、ベロクロンは草原のはしまで吹き飛んだ。

「シュワッ!!」

 エースはそのまま学院からベロクロンの注意をそらすためにベロクロンの後ろへと跳ぶ。

 そして起き上がったベロクロンは、エースを敵と認識して雄たけびを上げた。

 

「な、なんだ、あの巨人は!?」

 防衛軍やコルベールたち、兵を率いて出陣しようとしていたアンリエッタも突然現れた巨人に驚きの声を上げた。

 あの化け物を巨人はやすやすと跳ね飛ばした。

 幻獣やゴーレムの類ではない、そんなものとは醸し出すオーラがまったく違う。

 なにより怪物と違って、あの巨人には禍々しさはまったく感じられない。

「私達のために、戦ってくれるのか……?」

 

(すげえ!! 俺ほんとにウルトラマンAになったんだ!!)

(なっ、こ、これが私なの!?)

 ウルトラマンAへと変身をとげた才人とルイズは、それぞれ驚きの声を上げた。

 今、ふたりの目はエースの目、耳はエースの耳。

 そしてウルトラマンAの声がふたりに語りかけた。

(そうだ、今君達は私と視覚と聴覚を共有している。体の優先権は私にあるが、君達の意思は消えずに君達のあきらめない強い意志が私の力となる。さあ、共に戦おう!!)

(よーし、やろう!!)

(もうこれ以上、私達の国を好きにはさせない!!)

 ウルトラマンは光の戦士、その力の源は決して折れない心の光。

 今、才人とルイズの強き意志を得たエースの体には力がみなぎっていた。

 

 着地したエースにベロクロンは向き直り、威嚇するように咆哮をあげる。

 そして、ベロクロンの全身から炎が放たれた。ミサイルがエースに向けて全弾発射されたのだ!!

 しかし、エースは微動だにせずにその全てを体のみで受け止め、跳ね返した。

「す、すごい……」

「……信じられない」

 地上では、キュルケだけでなくタバサまでも巨人の恐ろしいまでの頑強さに驚愕していた。

「シュワッ!!」

 悔しがるベロクロンに向かってエースは再び跳んだ。飛んだのではない、跳躍力のみを使って跳んだのだ。ゆうに三〇〇メイルは超えているだろう。

「デヤッ!!」

 必殺キック、ベロクロンの顔面直撃!!

 ふらつくベロクロンにエースのパンチ、チョップの連続攻撃!!

「テェーイ!!」

 さらに背負い投げで投げ飛ばす!!

 ベロクロンも体勢を立て直すと火炎をエースに向かって放つ、しかしエースはかつてのベロクロンとの戦いと同じ失敗はしない。

 空へと立てた指先から光が走り、そのまま四角く空をなぞるとエースの前に巨大な光の壁が現れた。

『ウルトラネオバリヤー!!』

 火炎はバリヤーに命中するも、押し返されて向こう側のエースにはまったく届かない。

 ベロクロンは悔しがり、バリヤーが消えたとき、さらに光弾、破壊光線を放つ。

 しかし!!

『スター光線!!』

 前に突き出した両手の間から放たれた星型のエネルギー弾の連射が光弾を。

『タイマーショット!!』

 胸のカラータイマーから放たれる一筋の光線とベロクロンの光線がぶつかり合う。

 全弾相殺!!

 エースの連続発射した光線の前に、ベロクロンの攻撃はその全てが撃ち落されてしまったのだ。

「ヘヤッ!!」

 今度はこちらの番だ、エースの広げた両手の間に雷のようなエネルギーがほとばしり、それがエースの手のひらの間で小さなボールのように凝縮していく。

 そしてエースは砲丸投げの玉のようになったそれを、一気にベロクロンへ向けて押し出すと、玉は赤い三本の光線となってベロクロンを襲った!!

『パンチレーザースペシャル!!』

 膨大なエネルギーの奔流はベロクロンの腹を打ち、その巨体を後方へと大きく吹き飛ばした。

 もだえるベロクロン、エースはとどめを刺すためベロクロンに駆け寄る。

 だがそのとき、ベロクロンの口から突然無数の泡が吹き出し、エースにまとわり付いていく。

「グッ、グォォッ、グッ、ヌァァッ!!」

 それはベロクロンの体内の毒袋から放出される強力な溶解液、ベロクロ液だ。

 本来ベロクロン二世の能力だが、ヤプールによって強化されたこのベロクロンもこれを持っていたのだ。

 ベロクロンはここぞとばかりに反撃に出る。

 むくりと起き上がったベロクロンはエースに突進を仕掛け、エースは避けられずにもろに受けて吹っ飛ばされてしまった。

 さらに、振り下ろされる爪が、鉄柱のような足がエースを襲うが、苦しむエースは反撃することができず、ベロクロンの攻撃を受けることしかできない。

 そして遂に、ベロクロンの足蹴にされたエースのカラータイマーが鳴り出した。こうなってはエースのエネルギーはあとわずかだ。

(エース、頑張れ!! 超獣なんかに負けるな!!)

(あんた!! でかいこと言っておいてその程度でくたばるわけ!?)

 心の中から才人とルイズのエールがエースの心に響く。

(ああ、ウルトラマンはこんなことでは負けはしない!!)

 エースの心にかつてTACと共に戦っていたときの記憶が蘇る。

「デヤァッ!!」

 エースは渾身の力を振り絞ってベロクロンを跳ね飛ばした。

 そして、エースに向かって火炎を吐き出そうとしたその口をめがけて。

『パンチレーザー!!』

 額のビームランプからの光線一閃!! ベロクロンは火炎が体内に逆流し、誘爆を起こして苦しむ。

 今がチャンスだ!! 戦いを見守っていた誰もがそう思ったに違いない。

 もちろん、エースも同様だ。

「デヤァッッ!!」

 エースはベロクロンを持ち上げて天高く放り投げると、さらに落ちてきたベロクロンを受け止めて、そのまま回転しながら投げ捨てる!!

『エースリフター!!』

 強力なエースの投げ技炸裂!! ベロクロンは地に叩きつけられる。

 とどめだ、エース!!

 エースは体を大きくひねらせ、腕をL字に組む!!

 今こそ必殺!!

『メタリウム光線!!』

 虹色の必殺光線がベロクロンに吸い込まれ、大爆発を起こす。

 ベロクロンは断末魔の遠吠えを上げると、天まで届く巨大な火炎を上げて遂に消し飛んだ。

 人々は、ある者は飛び上がり、ある者は泣いて喜んでいる、街を家族を誇りを、何もかも踏みにじっていった悪魔が滅んだのだ。

 ウルトラマンAは、その姿を見届けると静かに空を見上げて、飛び立った。

「ショワッチ!!」

 

 

 ハルケギニア対異次元人ヤプールの戦いは切って落とされた。

 すでにアルビオン、ガリアでも、超獣らしき巨大生物が確認されている。

 ヤプールが侵略の手をハルケギニア全土に広げるのも時間の問題であろう。

 アンリエッタ王女はヤプールに対抗するために、全国家の同盟を呼びかけはじめている。

 いつ、どこに異次元人によって改造された恐るべき超獣の群れが、平和の破壊に現れるかもしれないのだ。

「んじゃ、平賀才人、定期パトロールに行ってきまーす」

「こら、なに言ってんの。私達は超獣が出ないときには学生のままなのよ。さっさと来なさい」

「いてて……ちぇ、冗談のわからない奴」

「なんか言った?」

「い、いえいえこちらの話で」

「あんた、最近ウルトラマンになれたからって気が緩んでるみたいだから、おしおきが必要かしらね?」

「い、いやその、わ、わたしが悪うございました!!」

「問答無用!!」

「ぎゃーっ!!」

 

 

 続く

 

 

 

 

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