魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第68話「麻帆良祭二日目・送別会」

Side 木乃香

 

最近、自分と言う存在が不安定になっているような気がするんや。

少しずつ、少しずつ・・・うちは「普通の人間」の範疇から、抜け出してきとるんやないかって、思うようになった。

 

 

それは、アリア先生のくれた『念威』のせいかもしれへん。

このアイテムは、うちの意識を広く、薄く、広げてくれる。

せやから、うちはこの麻帆良で起こってることの大半を探ることができる。

 

 

怖いくらいの範囲の情報が、うちの脳に伝わってくる。

世界の全てが。

 

 

「・・・ううん、きっとそれも、言い訳や」

 

 

本当は、晴明ちゃんと出会ってからやと思う。

アリア先生やエヴァちゃんや、千草はんに教えてもろてた時は、こんなことはなかったもん。

晴明ちゃんに出会って・・・スクナや、他にもたくさんの妖怪や魔物と契約した。

 

 

ひとつ契約を進めるごとに、うちは「普通の人間」から、離れて行くのを感じた。

スクナとの契約を一歩手前で止めているのは、それ以上進むと危ないから。

晴明ちゃんも、これ以上は危ないって言っとった。

才能があり過ぎて、順応がすご過ぎて。

 

 

人間を辞めるつもりが無いなら、ここで修行を止めた方がええて。

事実うちは、自分の存在が少し、希薄になったような気がしとる。

気を抜くと、消えてしまうんやないかって、思ってしまう。

 

 

「このちゃん?」

 

 

でも、うちにはせっちゃんがおる。

せっちゃんが、うちを「人間」に留めてくれる。

凛々しい顔立ちの中に、眩しいくらいの光を持って、うちに示してくれるんや。

 

 

こっちやよ、って。

ここにおるよって、うちに言葉をかけてくれるんや。

澄んだ、綺麗な声で、せっちゃんは、うちの名前を呼んでくれる。

 

 

それが、どれだけ嬉しくて、どれだけ凄いことなんか、せっちゃんにはわからへんやろうな。

 

 

「このちゃん?」

「・・・ああ、ごめんなぁ。ちょっとぼうっとしとった」

「もう・・・このメール、どうします?」

「せやねぇ・・・」

 

 

メールって言うのは、くーふぇからクラスの皆に回されてるコレのことやね。

うちの携帯にも、来とる。

 

 

携帯をしまって、ふと空を見る。

すっかり暗くなって、二日目も終わりやな。

うちは・・・。

 

 

「・・・アリア先生らを、迎えに行こうか」

「そうですね、そう言えば今日は、会ってませんし・・・」

「それに、たぶん主賓と一緒におると思うし」

「主賓?」

 

 

不思議そうな顔で、せっちゃんはうちを見る。

うちは、せっちゃんの顔を見て、眩しそうに目を細めた後・・・。

 

 

「せっちゃん」

「何、このちゃん?」

 

 

にっこりと、微笑んだ。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

『すまないね、明日菜君。夕食くらいは一緒にと思ったんだけど・・・』

「い、いえ、そんな・・・お忙しいなら、仕方ないですよ」

『すまない。ネギ君のことと言い、明日菜君には迷惑をかけてばかりだ』

「な、何言ってるんですか、高畑先生が謝ることなんて・・・」

『今度、埋め合わせはするから・・・』

 

 

二日目のパレードを横目に、高畑先生と携帯電話でお話。

普通なら、舞い上がって話なんてわかんないんだろうけど、今は別の意味で何話してるんだかわかんない。

 

 

武道会が終わった後、高畑先生が晩御飯に誘ってくれた。

今までのお詫び・・・とか、意味分かんなかったけど、私的には、高畑先生と一緒できるってだけで、十分だったんだけど。

ネギのこととか、超さんとか・・・いろいろと悶々としてたから、嬉しかった。

 

 

「・・・まぁ、それも今無くなっちゃったんだけど・・・」

 

 

ぱたむっ、と携帯を閉じて、深く溜息。

ネギとも、何となく話しにくくて、美術部を言い訳に逃げたんだけど。

・・・告げ口、もとい、どうしたら良いかわからなくて、高畑先生に相談したんだけど・・・。

 

 

・・・思いっきり、叩き潰されちゃったんだけど、あいつ。

おかげで、罪悪感とかそう言う物がドンドン湧き上がってきちゃったんだけど。

ああ、もう。どうすれば良いんだろ、結局。

 

 

「あら、そんな所で何をしているんですの?」

「あ、明日菜だ!」

「こんな所でどうしたですか、明日菜さん?」

「いいんちょ・・・と、鳴滝姉妹?」

「「略された!?」」

 

 

そこにいたのは、いいんちょと鳴滝姉妹。

何か、大きな紙袋を抱えてるんだけど・・・何してるんだろ?

 

 

「何してんの?」

「それはこっちの台詞ですわ。クラスの召集にも応じないで・・・」

「クラスの?」

「メール見てないのー?」

 

 

メール?

確認すると、何件か来てた。

・・・高畑先生のことで頭がいっぱいだったから、気付かなかった。

 

 

「・・・って、超さんが転校!?」

「今さら気付いたんですの? ・・・と言うか、その格好・・・まさか、ネギ先生とデート!?」

「違うわよ! あんたの頭にはネギのことしか無いわけ!?」

「ええ!? 明日菜、ネギ先生を振ったですか!?」

「ちっがう!」

 

 

いや、確かにちょっと頑張ってオシャレしてるけど!

断じてネギのためとかじゃないわ!

じゃあ、何って言われても困るけど・・・と言うか、落ち込むけど。

 

 

・・・あ、本気で落ち込んできた。

 

 

「と、とにかく、超さんが転校ってどういうこと?」

 

 

超さん、これから何か、凄いことをするはずなんじゃ・・・。

それがどうして、転校騒ぎになるの?

 

 

「詳しいことは私も存じませんが・・・古菲さんの発案だそうですわ」

 

 

くーふぇの?

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

どうしたら良いのかしらね、このバカは。

私の目の前には、もう、今にもジャパニーズ土下座しそうなネギがいる。

 

 

まぁ、何でこんなことになっているのかと言うと、ネギがカモを解放してほしいって言ってきたから。

一応、気絶させちゃったのは不味かったかな~って思って、部屋に入れてあげたんだけど。

それこそ、不味かったかもしれないわ。

 

 

「お願い、アーニャ!」

「いや、だから・・・あのね、ネギ。そいつは犯罪者なの。しかも脱獄犯なの、OK?」

「で、でも、カモ君は僕の友達で・・・悪い子じゃないんだ!」

「あ、兄貴・・・!」

「貴方は、黙っていなさい」

 

 

籠の中でカモが何か感動したような顔をしたけど、エミリーが黙らせた。

フォークで兄を突く妹と書くと、なんだか凄いことのような気がするわね。

 

 

と言うか、ネギは私の言ってること、わかってるのかしら?

悪い子じゃなかろうと、友達だろうと、犯罪を犯せば捕まるのは当たり前。

私だって別に、個人的がカモが嫌いなわけじゃない。

軽蔑はしてるけど。

 

 

「・・・どうしてもカモを助けたいって言うなら、ちゃんとそれなりの手続きを経てからにしなさいよ」

「て、手続き?」

「そ、正式な文書で申請するとか、保証人制度を受けるとか・・・いろいろあるでしょ」

 

 

まぁ、カモは脱獄犯だから、通るとは思えないけど。

 

 

「私も、仕事で来てるの。悪いけど幼馴染だからって特別扱いはできないわ」

「アーニャ・・・」

「・・・第一、何よその女の人達は!」

 

 

どう言うつもりか知らないけど、ネギは3人も女の人を連れて来てた。

しかも、どう見ても一般人!

でも、魔法のことは知ってるって言うし・・・何なのよ!?

 

 

「え、あ・・・こ、この人達は僕の生徒なんだ。この人とは仮契約もしてて・・・」

「み、宮崎のどかですー」

「綾瀬夕映です・・・仮契約はしてないです」

「早乙女ハルナです! 仮契約しに来ました!」

「はぁっ!?」

 

 

最後の子、一番意味がわからなかったんだけど!?

仮契約したいって・・・意味、わかって言ってるのかしら・・・?

 

 

と言うかネギは、こんな一般人の人達と仮契約したり、しようとしたりしてるわけ?

綺麗な女の人に囲まれて、ヘラヘラしてたわけね。

ヘラヘラと・・・アリアにばっかり負担をかけて。

そりゃあ、アリアにも愛想尽かされるわよね。

 

 

・・・やっぱりもう一発、殴っておこうかしら。

 

 

「ネギ、あんた・・・」

 

 

私が喋り始めたその時、軽快な音楽が流れた。

何と言うか、場の空気を壊す音だったとだけ、言っておくわ。

 

 

「あ、メールだ・・・古老師から?」

「あ、私にも・・・」

「こっちも来たわ」

「私もです」

 

 

・・・?

何なのよ、いったい。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「茶々丸、ハカセを頼むネ」

「・・・わかりました」

 

 

葉加瀬さんを茶々丸さんに任せて、超さんは私とエヴァさんの前に進み出て来ました。

気負った様子もありませんし、エヴァさんからの話では、不思議な道具を使うとか。

 

 

・・・不思議な道具を使う。

そう言うのは、私の専売特許だと思っていましたけれど。

 

 

「・・・アリア先生は、私の計画の大まかな内容を知っていると聞いたが、本当かネ?」

「茶々丸さんに聞いたんですか? だとすれば、その回答はイエスです」

「なるほど・・・だとするならば、私を止めに来たカ? 魔法使いとして」

「まさか」

 

 

何が悲しくて、魔法使いとして行動しなければならないのですか。

死んでもご免です、そんなの。

 

 

ただ、やはり・・・視えない。

私の魔眼に、何の反応もしません。

エヴァさんの話が本当なら、マジックアイテムらしき物をいくつか所持しているはず。

だと言うのに、私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』には何の反応もありません。

 

 

「・・・貴女は、何者ですか、超さん」

「・・・ふむ、私の正体が知りたいかネ」

「私はどうでも良いが・・・まぁ、一応聞いてやろう」

「ふふふ・・・」

 

 

エヴァさんの言葉に妖しく微笑んで、超さんはバサァッ、と着ていたローブを脱ぎ捨てました。

その下には、何故か「超包子」のロゴの入った奇妙なスーツ。

 

 

「ある時は謎の中国人発明家、クラスの便利屋、マッドサイエンティスト!」

「・・・自分で謎って言いましたね」

「またある時は、学園№1天才少女! そしてまたある時は人気屋台超包子のオーナー!」

「あいつ、自分で天才って言ったぞ」

「黙って聞くネ! ・・・しかして、その実体は・・・!」

 

 

超さんは、なぜかそこで力を溜めました。

その時点で、エヴァさんが上の方を見て、片手で「やれ」のジェスチャー。

 

 

「何と火星から来た火星人ネ!」

「ちぇりお――――っ!!」

 

 

ズガンッ・・・と、大地を割る勢いで、街灯の上から飛び降りたスクナさんが、超さんを踏み潰・・・蹴り潰しました。

いえ、蹴り潰したと言う表現もおかしいいですかね・・・。

 

 

地面が小さなクレーターを形成し、ぼふんっ、と煙が巻き起こります。

あー・・・派手に壊して、後で『レストレイション』でも使って直しますか。

 

 

「ち、超さん――――っ!?」

 

 

葉加瀬さんの悲鳴が響く中、エヴァさんが鬱陶しそうに左手を振ります。

無詠唱の『風よ(ウェンテ)』が発動し、煙が晴れます。

その先には、さよさんをお姫様抱っこしたスクナさんが。

 

 

そして、それ以外には誰もいませんでした。

 

 

「いやぁ、びっくりしたネ」

 

 

背後から、超さんの声。

速い・・・違いますね、コレは。

 

 

「カシオペアとやらか!」

「そのようです・・・ね!」

 

 

袖口から『神通扇』を取り出し、鉄扇を振るうエヴァさんに合わせて、背後に振ります。

ぼひゅっ・・・と言う音を立てて、私とエヴァさんの扇は、背後で妖しく笑っていた超さんの首を捉えます。

しかし、まるで擦り抜けるように、超さんの身体が消えます。

 

 

次いで、やはり背後に。

これは、カシオペアによる短時間・短距離時間跳躍。

対抗するには、いろいろと条件があるのですが。

 

 

「アリア、何とかしろ!」

「丸投げですか・・・」

 

 

思わず、苦笑します。本当にエヴァさんは、自信満々に言いますね。

でも、嬉しくもあります。

 

 

私なら、なんとかできると思ってくれているのですから。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「丸投げですか・・・・・・では、12秒ください、何とかします」

「遅い、7秒でやれ」

「10秒でお願いします」

「9秒」

「わかりました」

 

 

そう言って、アリアは一歩下がり、逆に私が前に出る。

目の前には、あのいけすかない超鈴音が、ムカつく笑みを浮かべていた。

 

 

「は・・・殺されても文句を言うなよ、超鈴音!」

「構わないヨ。思いを通すのは、いつだって力ある者のみ・・・だからネ」

「良く言ったぁ!」

 

 

パチンッ、と指を鳴らし、次いで右足を二度踏み鳴らす。

それで、チャチャゼロ、さよ、バカ鬼に意味は通じる。

茶々丸には指示を出さない、ハカセと離れていればそれで良い。

 

 

私自身は、超めがけて突撃をかける。

超もまた、私を迎え撃つ。

シャ・・・と、手を出す。当然、超も手を出してくる。

 

 

「ふっ・・・」

「・・・ほっ」

 

 

右上、左下、そして左・・・と、超の拳や手掌が私に襲いかかってくる。

しかし真祖の吸血鬼である私の動体視力は、超の動きの全てを見抜き、かつ速さと力で押される事もない。

 

 

右上からの攻撃を左手で弾き、左下からの蹴りはかわし、最後に左からの拳を受け止める。

受け止めた超の右腕を鉄扇で固定し、技を・・・。

と、思った瞬間、超の身体が掻き消えた。

 

 

目醒め現れよ(エクス・ソムノー・エクシスタツド)浪立つる水妖(エクスンダンス・ウンディーナ)水床に(イニミークム・インメルガツト)敵を沈めん(イン・アルウエム)!」

 

 

なるほど、時間跳躍。確かに厄介だ、だが・・・。

 

 

「『流水の縛り手(ウインクトウス・アクアーリウス)』!」

「おお!?」

 

 

私が影を使った転移(ゲート)でその場に沈んだ瞬間、さよの捕縛魔法が超を襲った。

私が、そのさよの影から身体を出した時には、やはり時間跳躍で捕縛魔法を逃れた超に、バカ鬼が肉薄していた。

チャチャゼロと入れ替わり立ち替わり、拳と刃で全方位から攻撃する。

 

 

流石の超も、回避で精いっぱいになっているようだ。

 

 

「さよ!」

「はい!」

 

 

無詠唱の氷属性『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を。合わせて160作る。

そして同時に、かつある程度の初速のバラつきを与えて、それらを一斉に放つ。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の101矢(グラキアーリス)!』」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の59矢(グラキアーリス)!』」

 

 

同時に、バカ鬼とチャチャゼロが離れる。

次の瞬間、私とさよの魔法の矢が、超めがけて殺到した。

本当は1000程叩き込んでやりたい所だが、この場所ではこれが限界だ。

160の魔法の矢は、数秒かけて着弾し・・・。

 

 

「・・・これ、餞別代りに貰っても良いカナ?」

 

 

当然のような顔をして、超が私とさよの背後に。

しかもその手には、私のリボンと、さよの和風ドレスの飾り房が握られていた。

 

 

ち・・・やはり、死角に回り込まれるくらいならともかく、時空間の外に行かれると、捉えるのが難しいな。

しかし、そうは言っても超も私達にダメージを与えることはできていない。

時間跳躍も無限にできるわけでもあるまい、消耗戦になれば私達が勝つだろうが。

 

 

「そこまで付き合ってやる気も無いさ・・・なぁ、アリア」

「まぁ、朝までバトルとか、面倒極まりないですからね」

 

 

次の瞬間、全てが停止したような音が響いた。

 

 

 

 

 

Side 超

 

・・・カシオペアが、機能を停止したネ。

同時に、軍用強化服のレーダーが、半径200m圏内の空間に異常を感知したネ。

 

 

カシオペアも使えず、しかも何となく、空間ごと固定化されたかのようなこの現象。

これは・・・。

 

 

「『時空間固定杭』」

 

 

ふわり、と、私の背後に降り立ったアリア先生。

その声は、どこか冷たい。それでいて、何か別の感情を感じさせる声音。

 

 

「本来は転移での逃亡を防ぐために、時空間を固定するための魔法具ですが・・・カシオペアにも有効なようですね」

「まぁ、時間軸ごと固定化されてしまうと、移動先を計算できないからネ」

 

 

科学と言う物は、ある意味で魔法以上にシビアなのヨ。

デリケートだしネ。

いや、それはそれとして、これはヤバいネ。

 

 

懐に手を入れて、以前、エヴァンジェリンからの逃亡に使った羽根に触れる。

転移用魔法具『ギルギアヌの黒翼』・・・しかし、この空間から外に出る必要があるネ。

一旦この包囲網から逃れて、次いでハカセを連れて逃げるカ。

とは言え他の道具で対抗しようにも、アリア先生相手だと、どこまで効果があるカ・・・。

そこまでの数を持ってきたわけでは無いしネ。

 

 

「ふふん、なんだ、もう詰みか? やはり貴様は逃げるしか能の無い奴だったのだな」

「く・・・流石ネ、エヴァンジェリン。他人の手柄をまるで自分の手柄のように」

「バカにしとるのか貴様!?」

 

 

バカになどしていないネ、むしろ尊敬しているヨ、<闇の福音>。

ただ、今まさに命の危機に瀕しているということだけを除けば。

 

 

正直、不味いネ。

私のアーティファクトは、相手が増えると効果が薄まるのヨ。

おまけに、相手は全員、それなりの力を持っているネ。

 

 

「まぁ、良い。これで貴様を心おきなく嬲り殺せると言う物だ」

「・・・できるだけ、優しくして欲しいネ」

「善処・・・など、するわけが無いだろうが!!」

 

 

ズダッ!・・・っと強く踏み込んで、エヴァンジェリンが飛び込んでくる。

その右手には、魔力でできた剣。

あれは・・・『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』。

 

 

本気だネ。

後ろにはアリア先生がいる。四方にはエヴァンジェリンの身内。

茶々丸には動かないように言ってある。ハカセ自身は戦力を持たない!

 

 

仕方無い、ここで切り札の一つを切る。

他の物と違って、一度しか使えないが・・・やむを得ないネ!

 

 

「『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』!!」

「・・・エヴァさん、待って!」

 

 

私が懐から取り出した「ソレ」に、アリア先生が声を上げる。

流石に、コレの効果はわかるカ。

しかし、エヴァンジェリンはすでにモーションに入っているネ。

ならば、コレは先に発動させることができる。

 

 

これは、後の先を取る武器なのだから。偽物だけどネ。

 

 

「『斬り抉る(フラガ)・・・」

 

 

しかし、次の瞬間。

 

 

「そこまでや!」

 

 

そんな声と同時に、私とエヴァンジェリンの間に、何か大きな物が落ちて来たネ。

それは、大きな鬼だったネ。

赤い肌に、大きな棍棒を背負っている。

そして、その肩には・・・。

 

 

「・・・木乃香サン?」

「こんばんはやな、超りん」

 

 

にこっ、と微笑みを浮かべているのは、クラスメートにして関西の姫、近衛木乃香サン。

その向こうでは、刹那サンが野太刀でエヴァンジェリンの『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』を受け止めていたネ。

ギリギリと・・・魔力と気が鬩ぎ合っている音が、ここまで聞こえているヨ。

 

 

「・・・なぁんのつもりだ、刹那?」

「い、いえ、その何と言うか、私も本意では無いと言うか・・・」

「ヌワハハハ、久々の出番かと思えば、祭りか、ええのぅ!」

「あー・・・酒呑さんですか」

 

 

酒呑とか言うその鬼は、木乃香サンを地面に降ろすと、ドカドカと歩いて・・・。

 

 

「しばらくじゃの、旦那!」

「おお~、オヤビン。久しぶりだぞ!」

「え、えーと、すーちゃん、知り合い?」

「おお~、この別嬪さんは誰じゃい?」

「嫁だぞ!」

「ちょ、すーちゃ・・・!」

 

 

な、何か、急に賑やかになったネ・・・?

少しばかり戸惑っていると、木乃香サンが私の傍に来て、私の手を取ってきたネ。

・・・?

 

 

「ほな、行こか!」

「い、行くって・・・どこに?」

「あ、おいコラ木乃香! 勝手に・・・」

「ま、まぁまぁ、エヴァンジェリンさんもどうか落ち着いて・・・あ、前髪が・・・」

 

 

木乃香サンは、私、エヴァンジェリン、アリア先生達、茶々丸とハカセを一人一人、優しげな目で見つめた後。

ただ、にっこりと微笑んだ。

 

 

「皆の所や」

 

 

 

 

Side アリア

 

『ようこそ、超りんお別れ会へ―――っ!!』

 

 

パンッ、パンッ、パパ――ンッ!

軽快な音を立てて、色とりどりの紙吹雪や紙テープが。

そしてそれらの全ては、超さんに向けられた物です。

 

 

「ちゃおちゃお~、イキナリお別れなんて突然過ぎるよ――っ」

「何で何にも言ってくれなかったの?」

「と言うか、本当に転校しちゃうの?」

 

 

3-Aのクラスメートの方々が、超さんを囲んで騒いでいます。

お別れ会、ですか。

あるだろうとは思っていましたが、まさか・・・。

 

 

「まさか、刹那さんや木乃香さんが迎えに来るとは思いませんでした」

「あ、いえ、これはこのちゃんが言いだしたことと言うか・・・」

「木乃香さんが?」

 

 

その木乃香さんは、千鶴さんや四葉さんと一緒に、テーブルに並べられたお料理を運んだり取り分けたりしています。

あの木乃香さんが、私達の話し合い・・・と言う名の戦いを止めに来た?

 

 

それは、木乃香さんにしては珍しい判断ですね。

 

 

「えっと・・・たぶん、このちゃんは、クラスメートの喧嘩を仲裁した、くらいに考えてるんじゃないかと・・・」

「それは、逆に末恐ろしいですね・・・」

「それに、超さんが何を考えているのだとしても・・・2年間一緒に過ごした、お友達ですから。転校と言う話が本当なら、こう言う場があっても良いんじゃないか、と・・・」

「は、それにクラスの連中の前なら、超はもちろん私も大人しくすると思ったわけか。甘いな、この杏仁豆腐くらい甘い」

 

 

言いつつ、杏仁豆腐をパクつくエヴァさん。

もう、かなり「興が削がれた」みたいな空気出してますね。

乾杯の前に食べるのは、どうかと思いますけどね。

 

 

刹那さんもそんなエヴァさんを見て、苦笑しています。

なんだかんだで、人目とかそういうのには注意してくれますから。

 

 

「それに・・・やっぱり、何も言わずにお別れと言うのも、寂しいですから」

「・・・」

「・・・な、なんですか?」

「・・・いえ、何も言わずに木乃香さんの前から去ろうとしていた刹那さんが言うと、成長を感じるなぁ・・・と」

「そ、それを言われると・・・弱いと言うか」

 

 

急遽設営されたらしいお立ち台の上では、雪広さんが風香さんと明石さんに「話が長い!」とスピーチを妨害していました。

・・・スピーチと言うのは、長い物ですよ。

しかし、まぁ・・・。

 

 

「・・・ところで、私の所には、お別れ会のお知らせメールが届いていないのですが」

「え・・・そんなはずは」

「それは、おそらく・・・」

 

 

その時、茶々丸さんが、私の疑問に答えてくれました。

 

 

「アリア先生が、プライベート用の携帯電話をお持ちでないからだと思います」

「・・・え?」

「え、あれ・・・アリア先生、携帯持って無いんですか!?」

「え、そ、そんなはず。だって・・・コレ!」

 

 

ポケットから取り出したのは、いつか新田先生から貰った携帯電話。

今日も何度か使いました、この「お仕事用」の携帯・・・。

・・・お仕事用の?

 

 

「はい、それはお仕事用の携帯電話ですので・・・クラスメートのメールアドレスなどは、登録されておりません。私達とは携帯が無くてもお話が可能ですので・・・」

「・・・ええ!?」

「いや、ええっ・・・て、今まで気が付かなかったんですか・・・?」

 

 

今明かされる、衝撃の事実。

私は、生徒とメルアドを交換していなかった!

・・・教師としては、普通な気がします。

だって、普通自分の生徒とメールアドレス交換とか、しないと思いますし。

 

 

個人的にそう言うことをやると、問題だと思いますし。

まぁ、それでも数人くらいは、知ってる物かもしれませんが・・・。

 

 

「ネギ坊主は、全員とメールアドレスを交換しているようでござるよ」

「・・・!」

 

 

通りすがりに囁くのは、長瀬さん。

ネギができていることを、私はできていない・・・!

 

 

つまり、3-A内において、私はネギ程生徒と絆を築けていないと言うこと?

え、それは正直、結構ショックです・・・。

私は、杏仁豆腐をパクついてるエヴァさんの服の裾を引っ張りながら。

 

 

「エヴァさん、携帯買ってください!」

「ぶふぅっ!・・・な、何?」

「あ、間違えました・・・携帯買って良いですか!?」

「いや、なんで私に許可を求めるんだ!?」

「え、だって・・・」

 

 

エヴァさん、家長じゃないですか。

こう言うのは、ちゃんと家の代表の人と言うか、保護者的な人の許可を得ないとでしょう?

ハンコとか、いりますよね?

 

 

「大体、お前・・・仕事用のがもうあるだろ、それでやれ、それで」

「プライベートのが欲しいんです!」

「マスター、私からもお願いします」

「なんふぁかよふわふぁらふぁいふぇお、ふぁふぉふお!」

「すーちゃん、お口いっぱいで喋っちゃダメだよ」

 

 

なんだかよくわかりませんが、スクナさんもお願いしてくれます。

・・・と言うか、なんでこの人ここにいるんでしょう?

すっかり溶け込んでますけど。ひたすらお肉を食べてますけど。

 

 

「しかしなぁ・・・最近の携帯は危ないと言うじゃないか。私だって持って無いし」

「アリア先生なら、きっと大丈夫です、マスター」

「そうです、精神年齢考えてくださいよ!」

「どうせなら、皆で買いましょうよ。私達も持って無いですもん」

 

 

よし、何か良い感じで包囲網ができていますよ・・・!

これで私も、携帯電話をゲットです!

 

 

「え、なになーに、エヴァちゃん達、携帯買うの?」

「だったら今しかないよー♪ 麻帆良祭でどこもセール中だから! あ、これカタログ」

 

 

柿崎さんと椎名さんの援護射撃!

よし、ここでたたみかけるんです・・・!

 

 

「あはは、仲ええなぁ」

「そ、そうですね」

 

 

木乃香さんと刹那さんが、生温かい目で私達を見ていました。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

大切な友達が、遠くに行ってしまう時。

なるべく笑顔で、でもたくさん泣いても構わない。

だけど、お別れはきちんとしなくちゃいけない。

 

 

瀬流彦先生にそう言われて、超のお別れ会を開こうと思った。

いいんちょにお願いしたら、ちょうど3-Aで打ち上げパーティーをやるから、それを改造しようと言ってくれたアル。

いいんちょは、ネギ坊主が絡まない限り、頼りになるアル。

 

 

クラスの皆も、声をかけたらすぐに来てくれたアル。

正直、すごく感動したアル。

でも・・・。

 

 

「さぁ、泣け、泣くんだ超りん―――っ!」

「や、止めるネ、やめ―――――っ!?」

「問答無用――――っ!」

 

 

超の開発したマジックハンドで、明石やまき絵たちが、超をくすぐり続けているアル。

何でも、「超の涙を拝ませろ」とか言っているアル。

確かに、超はあまり泣いたりとかはしなかったアルから。

 

 

お別れくらい、感動の涙で咽び泣いてほしいと言う、クラスメートの好意。

・・・好意かは、ちょっと微妙アルが・・・。

 

 

「いやー、ヒドイ目にあったヨ・・・」

「あはは、まぁまぁ」

「貴女達は、まったく・・・!」

 

 

途中、いいんちょが止めたアル。

まぁ、流石の超もクラスメートには敵わなかったということアルネ。

 

 

「・・・ほら、くーふぇ」

「いつまでも隠れてないで、さ」

 

 

ハルナと春日が、私の背中を押してくれる。

い、いざとなると、気恥かしいアルネ・・・やっぱり。

 

 

「超・・・」

「ふふ・・・内緒にしてくれと、言ったはずヨ?」

「す、すまないアル。でも・・・ちゃんと、お別れしたかったアルから・・・」

 

 

そう言うと、超は少し驚いた顔をしたアル。

餞別に、師父から貰った双剣を渡すと、もっと驚いた顔をされたアル。

でも、超の故郷は遠くて、もう会うのは難しいアル。

だから・・・。

 

 

「・・・ああ、古が泣いてどうするネ・・・」

「な、泣いて無いアル」

 

 

本当アルよ?

全然、涙なんて流れていないアル。

 

 

「・・・超」

「何かな、古?」

「・・・ありがとう、友達でいてくれて。できればこれからも、友達でいてほしいアル」

「・・・ぬ」

 

 

私の言葉に、超の顔がかすかに赤らんだアル。

それから、頬を軽くかいて・・・笑った。

 

 

「・・・うん」

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ち、超りんがデレた・・・!」

「涙とは違うけど、これはこれで・・・!」

「ちょ、デレたとかじゃないヨ!?」

「いやいやー、可愛かったですよー?」

「ハカセ! バカなことを言うもんじゃないネ!」

 

 

超さんは、クラスの皆に囲まれて楽しそうにしてる。

でも、どうして急に転校なんて・・・。

 

 

超さんはこれから、大事な計画があるのに。

アーニャも、カモ君を返してくれなかったし・・・。

 

 

「・・・ねぇ、ネギ」

「あ、明日菜さん、美術部はどう・・・って、なんだかとてもオシャレですね!」

「う、うるさいわね」

 

 

髪も下ろして、いつもよりも大人びた雰囲気の明日菜さん。

誰かに会う予定だったのかな、美術部にしては違う雰囲気だし。

 

 

明日菜さんは、超さんの方を見ながら、どこか話しにくそうな顔で。

 

 

「あんたさー、このまま超さん手伝って、本当に良いわけ?」

「え・・・」

「超さんって・・・言いたくないけど、悪いこと、してるんじゃない?」

「で、でも超さんは・・・何か、これから起こる大変なことを、止めるために頑張ってる・・・んですよ?」

 

 

それに、カシオペアや珍しいマジックアイテムだって貸してくれた。

僕の悩みを解決してくれようとしたし、何より。

超さんは、僕の生徒だし。

生徒を疑うなんて、良くないよ。

 

 

「・・・私も、不安です」

「ゆ、ゆえ?」

「夕映さん?」

 

 

のどかさんの後ろにいた夕映さんが、不安そうな顔で、僕を・・・そして遠くの超さんを見ていた。

超さんは、僕達の視線に気付くと、少し微笑んで、ウインクしてきた。

 

 

夕映さんは、それから目を逸らすように。

 

 

「そもそも超さんの言う悲劇とは、誰にとっての悲劇ですか? 魔法を世界に広めることが、いったいどうして、その悲劇を防ぐことに繋がるのです? 私達は、詳しい話を何一つ聞いてはいないです」

「それは・・・」

「それに、超さんは高畑先生に怪我をさせたのよ? 正直、私はあまり信用できない」

 

 

タカミチに怪我を?

それって、つまり超さんが、タカミチよりも・・・。

それに最近、超さんは何度もエヴァンジェリンさんに絡まれていて、それでも計画を進めていて。

やっぱり、凄い人だ、超さんは。

 

 

「・・・ネギ?」

「え、あ・・・はい!」

「ネギせんせー・・・?」

「そうですね・・・幸い、まだ時間はありますし、またお話を聞いてみます」

 

 

確かに、詳しい内容とかは聞いて無いし、ちゃんと聞いた方が役にも立てるはず。

よりよい未来のために頑張るのが、僕達魔法使いの使命。

 

 

きっと、タカミチや他の人達も、わかってくれると思う。

 

 

「先生だけが、納得したって・・・」

「・・・え、ゆえ、何か言った?」

「い、いえ、何にも無いです、のどか」

 

 

・・・?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「私は未来からやって来た、ネギ坊主の子孫ネ♡」

 

 

私がマスターと「子供の情操教育に携帯は必要か否か」を話し合っていた時(「いや、私子供じゃないですから!」)、超はクラスの皆さんに爆弾発言を行っていました。

超の血液情報を見たことがありますが、確かに、アリア先生の血液情報と酷似している点がありました。

いわゆる、DNA鑑定と言う物でしょうか。

 

 

超の言葉が本当だとするなら、ネギ先生と比べれば、より事実がはっきりするでしょう。

超は、ネギ先生の子孫。アリア先生の血縁者です。

 

 

そのうちに、流石に騒ぎ疲れたのか、クラスメートの皆さんは、一人、また一人と就寝していきました。

日付が変わる頃には、私達以外の全員が、眠りに就いてしまわれました。

スクナさんは、さよさんの膝枕でお休みされていますが。

アリア先生が一人一人に毛布をかけて行くのを、私もお手伝いします。

 

 

お別れ会場の隅の方では、ネギ先生達もお休みになられているようです。

明日菜さんが、「まったくもー」とか言いつつ、毛布をかけて行きます。

 

 

「・・・私は、明日までは何もしないヨ、エヴァンジェリン」

「だから何だ。明日には私に殺されてくれるのか?」

「冗談にしては、目がマジネ・・・」

「本気だからな」

 

 

マスターは、場所が場所ならば今にも襲いかかっているだろう状態です。

アリア先生は、何とも言えないような目で超を見ています。

いえ、視ています。

 

 

「・・・超さん、貴女・・・」

「うん? どうして私が貴女しか知り得ない魔法具を持っているのか、カ?」

 

 

超は、異様に強力なマジックアイテムを5つ所持しています。

一つはネギ先生に貸し出している様ですが、私も全てを知っているわけではありません。

 

 

しかし、その全てが、この世界には存在しえない力を秘めた魔法具です。

まるで、アリア先生謹製の魔法具を見ているような。

そんな気分にさせられる道具の数々。

私自身、超が何故それらを所有しているのか、知らされてはいません。

 

 

「まぁ、詳しいことは禁則事項だから言えないガ・・・」

 

 

超は、秘密めいた笑みを浮かべると、アリア先生とマスターを見て。

 

 

「あるところに、たくさんの宝石を持った人がいたとするネ。でもその宝石を欲しがった別の人間が、その人を閉じ込めて、宝石を奪い続けた・・・と言う、まぁ、そんなお話なのだがネ」

「・・・はん、まぁ、人間の世界では良くある話だな」

「そうネ・・・良くある話ネ」

「で、それがお前にどんな関係があるんだ?」

「何、大した関係じゃないヨ」

 

 

宝石、と言う表現をしていますが、この場合の宝石とは、魔法具のことでしょうか。

それも、アリア先生の魔法具。

閉じ込められ、奪われ続ける。

 

 

聞いていて、あまり気持ちの良い単語ではありませんね。

 

 

「私はただ、その人が持っていた宝石をいくつか、受け継いだだけネ」

「受け継いだ・・・奪った、では無くか?」

「そんなことはしないネ」

 

 

固い声で、超は言いました。

笑みを浮かべ続けていた顔は、今では何の表情も浮かべていません。

無表情。

 

 

「アリア先生」

「・・・なんでしょうか?」

「アリア先生だけではなく・・・皆も、過去を変えたいと思ったことは無いカ?」

 

 

過去を変えたい。

超の源泉は、どうやらそこにあるようです。

 

 

「600年前・・・60年前・・・10年前、6年前。不幸な過去を変えたいと思ったことは、無いカナ?」

 

 

超の問いに、マスター達は・・・。

 

 

マスター、さよさん、アリア先生。

姉さんや、寝たふりをしてさよさんの膝枕を続行しているスクナさん。

私が見ている中、視線を交わして。

そして。

 

 

そして、世界樹が光を放つのと同時に。

 

 

同じ答えを、超に返しました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

広い間取りのベランダに出て、空を見上げる。

遠い空を、見上げる。

あの人がいたであろう世界を、ここから見れるとは思えませんが・・・。

 

 

「先走りましたね、ジョリィ」

 

 

先にアリア様の下へと遣わした部下の名前を、呼びます。

黒髪の美しいその女性は、私の方を見て。

 

 

「はい、申し訳ありません」

 

 

と、言う。

彼女の名前は、ジョリィ。ジョリィ・ハミルトン。

アリカ様の衛兵の一人だった女性で、オスティア難民の一人。

そして、人間。

 

 

私がアリカ様の名誉を回復すると言う約束で、力を貸してくれています。

難民化している民の中には、彼女のように、王宮で働いていた者も多くいます。

彼女はその中でも、女性兵士に顔の利く人間なのです。

 

 

「まぁ、良いでしょう・・・それで、どうでしたか、アリア様は?」

「は・・・その、上手く言えませんが・・・」

 

 

ジョリィは、しばし視線を彷徨わせた後、かすかに頬を紅潮させつつ。

 

 

「良い、と思います」

「と、言うと?」

「勝手な行動を慎めと命じた、あの御姿。幼いながらも、私は王女殿下の中に女王陛下に勝るとも劣らぬ輝きを見出したような心地であります。このジョリィ、王女殿下の戴冠のために、身命を賭すつもりです」

「なんだか、良くはわかりませんが・・・気に入ったのなら、良しとしましょう」

 

 

それにアリア様も、これで少しはわかってくださると良いのですが。

自分と言う存在が、その容姿が。

いったい、どれほどの人間に期待されてしまうかを。

 

 

もちろん、どうするかはアリア様がお決めになることです。

しかし、オスティアの民は彼女に期待する。

ネギ君では無く、アリカ様の血を色濃く受け継いでいる、アリア様に。

望もうが望むまいが、アリア様を見るオスティア人の目は、期待の色に染まらざるを得ない。

魔法世界に、アリアドネーに行くつもりがもしあるのなら、アリア様にはそれを知っておいてほしかった。

 

 

「・・・まぁ、指一本触らせるつもりはありませんがね」

 

 

魔法世界に行くとなれば、これまで以上にアリア様に群がってくる輩が増えて来ることでしょう。

実力行使的に近付いて来る輩は、まぁ、斬り捨てれば良いとして。

政治的に近付こうとする輩は、まぁ、蹴落とせば良いとして。

 

 

しかしそうは言っても、手勢が必要な時もあるでしょうから。

アリア様個人に忠誠を誓う駒は、いくらあっても良いでしょう。

 

 

「・・・では、ジョリィ。今後も影ながらアリア様をお守りするように」

「はっ、一命に代えましても」

「よろしい」

 

 

ふ・・・今日も一人、アリア様の味方を増やしてしまった。

見ていてください、アリカ様。

 

 

私は、貴女様のご息女をお守りするために、全力を尽くします。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険③・地下の住人>

 

ちびアリアとちびせつなは、大ピンチだった。

いや、役目を果たしていない時点で、ちびアリアもちびせつなも大ピンチではあるが。

 

 

「た、たたた、食べられるですぅ――――っ!?」

「ち、ちびアリアさ――――んっ!」

 

 

ご存知の方もいるだろうが、図書館島の最深部には、ドラゴンが住んでいる。

それ程位階の高い竜種では無いが、それでも一般魔法使い程度の実力では、出会った瞬間に死が確定してしまう程の存在である。

 

 

図書館島司書のペットと言う噂もあるが、許可なく侵入した者の排除と言う仕事を持っていることは間違いない。

そして現在、ドラゴンに服の端を咥えられたちびアリアと、そのドラゴンの頭をポカポカ叩いているちびせつな、と言う構図が完成しているのだ。

 

 

「あ、あわわわわ、た、助けてたすっ・・・!」

「ち、ちびアリアさんを離せ離せです―――!」

 

 

ちびアリアは慌て過ぎて、本体から与えられた「49の隠し技」を放つこともできない。

ちびせつなに至っては、ドラゴンの分厚い筋肉や皮を破ることができずに、困り果てている様子。

まぁ、万が一食べられたとしても、彼女達は式神なので、死んだりはしないが。

 

 

「そう言う問題じゃねーですぅ――――っ!?」

「こ、こうなれば、伝説の竜殺しを実行するしか・・・!」

「できるなら速くやるですぅ―――っ!」

「それは困りますね。離して差し上げなさい」

 

 

不意に、若い男の声が響いた。

するとその声に従うように、ドラゴンはちび達を地上に降ろした。

 

 

転がるように地面に落ちる、2人のちび。

その傍に、頭までローブをかぶった、いかにも妖しい人間が立っていた。

名を、アルビレオ・イ「クウネル・サンダースです。どうぞよろしく」・・・。

 

 

「む、むむむ、もしや、我々が見えているですぅ?」

「ええ、まぁ」

「なんだか、変な人ですねー」

「ふふ・・・それにしても、可愛らしいお客様ですね。お茶でも御馳走しましょうか?」

 

 

フフフ・・・と、妖しく笑うクウネル氏。

ちびアリアは、びしっと、人差し指と中指を目の前に掲げると。

 

 

「ちびアリア49の隠し技の一つ・・・『みやぶる』!」

 

 

キュピーン☆・・・一瞬の間に、ちびアリアは理解した。

このクウネルと言う男の本質を。

 

 

「・・・おじさん、変な身体ですぅ」

「おや、わかりますか? ちょっと友人のお子さんに殴られましてね。上手く作れないんですよ」

「確かに、端の方とかが掠れてますねー」

 

 

クウネルは、諸々の事情により、現在活動休止中である。

 

 

「それで、どうでしょう? 私も話し相手がいない物で」

「えー・・・私も暇じゃな「地下でしか採れない苺もありますよ?」・・・お~・・・」

「で、でも、知らない人についてっちゃいけな「大福とか、好きですか?」・・・お~・・・」

「ふふ・・・それでは一緒に」

 

 

ふらふら~・・・と、クウネルに2人のちびがついて行きかけた、その時。

 

 

「あかんえ!」

 

 

第四の声が、響き渡った。

 

 

「本体に言われて探してみれば、こんな所で知らないおじさんにフラフラと!」

「む、むぅ、何者ですぅ!?」

「うちの名前を呼ぶなら、答えてあげるえ!」

 

 

近くの岩場に、しゅたっ、と立ったその人影、否、ちび影は・・・。

 

 

「ちびこのかや!」

 




アリア:
アリアです。こんばんは。
今回は、3日目に向けた前哨戦の意味合いが強かったようです。
超さんの謎が、ここから明かされて行くかと思います。
というか、どうも未来の私が関係しているようですね。
この時点で、私の知識はほぼ役に立ちませんね。


今回使用された新規魔法具は、以下のとおりです。
『魔法行商人ロマ』から『ギルギアヌの黒翼』:司書様のご提供です。
『クロックワークス』より『時空間固定杭』:月音様のご提供です。
ありがとうございます。


アリア:
では次回からは三日目です。
二日目ほどは、長くならないようですが、どうなりますやら。
超さんの謎が、ついに明かされていくパートになる予定です。
かなり引っ張りましたからね・・・。
次回は、決戦へ向けた動きが加速していくようです。
では、またお会いしましょう。

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