魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第57話「麻帆良祭二日目・本選開始」

Side 学園長

 

「それは・・・公式な決定ですかの?」

「いえ、まだメルディアナ上層部でも一部しか知らない、非公式な考えです」

 

 

目前の女性、メルディアナ代表特使ドネット殿は、表情を変えることなく、そう言いきった。

むぅ・・・非公式とは言え、メルディアナ校長の直属である彼女が言うことじゃ。

与太話やハッタリの類で無いことは、容易にわかる。

 

 

今は、わしと彼女の2人での会談と言う形をとっておるので、外に漏れることはないが・・・。

しかしそうは言っても、にわかには受け入れ難い話ではある。

ネギ君を・・・。

 

 

「ネギ・スプリングフィールドの卒業を取り消す・・・と言うのは、どうかと」

「前例が無いわけではありません。能力的、精神的理由などで卒業を取り消される生徒は稀にですが存在します」

「しかしですな、ネギ君は大変優秀な魔法使い見習いとして・・・」

「なるほど」

 

 

ドネット殿は、一度深く頷かれた後。

 

 

「教職員として、優秀と言うことですね?」

「む・・・」

「我々が彼に与えた課題は、『麻帆良で教師をする』と言う物です。それ以外でもそれ以上でもありません」

 

 

正直な話、魔法使いの能力や将来性云々を抜きにしてしまうと、かなり厳しい。

魔法使いとしての修業を優先させたために、仕方が無い、と言えばそうなのじゃが。

一教師としての仕事ができているのか、と言われると、こちらとしても・・・。

 

 

「しかしですな、二人お預かりして、しかもそれが双子となると・・・」

「何か、不都合がありますでしょうか?」

「我が校といたしましても・・・」

 

 

こうなってくると、外聞を盾に粘るしかあるまい。

時間を稼ぎ、体勢を整える。

ここまで年を取ると、時間と言う物の有効性も、十分わかっておる。

 

 

よもや、アリア君を切れるわけでもあるまいに・・・。

 

 

「・・・それでしたら」

「ほ?」

 

 

ドネット殿は、一度目を閉じ・・・俯くと。

唇を噛み締めながら、言った。

 

 

「・・・アリア・スプリングフィールドの卒業を取り消す用意が、こちらにはあります」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

何やら、高音さんという方と、ネギ達が揉めているようですね。

なんでも、世界樹の呪いに当てられたネギが、キス魔になったとかどうとか・・・。

・・・明日菜さんもその場にいなかったとかで、誰にキスをしたのかは知りませんが。

まぁ、筆頭は宮崎さんでしょうが。

 

 

そこはあまり興味が無いので、どうでも良いですね。

それよりも・・・。

 

 

「・・・どういうつもりなのでしょうね」

「さぁな、お偉い議員様のやることなど知らんよ」

 

 

憮然とした表情で告げるエヴァさん。

その両目は閉じられており、何を考えているのかはわかりません。

一方で私は、会場の上部――――解説者席の方を見上げています。

 

 

そこには、解説者席に座る茶々丸さんと、千草さん、そして・・・。

眼鏡をかけた細身の男性が、こちらを見下ろしていました。

遠目ですので、表情までは窺い知れませんが、ゾロゾロと黒服の方達を引き連れています。

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

なぜ知っているかと言うと、エヴァさんがタカミチさん経由で情報を得ていたからです。

顔までは、知らなかったようですが・・・。

 

 

しかし、クルト議員ですか。

実は私、あの人のことを良く知らないのですよね。

詳しいプロフィールまで知っているわけではありませんし・・・。

 

 

「お前の『知識』に、あの男の情報はあるか?」

「極めて不確かですし、ここでも同じ肩書きかはわかりません」

 

 

大体にして、麻帆良に来ている時点でもう、私の有している知識は大した意味を持たない。

最近は、役に立たないことの方が多いですしね。

まぁ、今は特にできることもありませんし・・・。

 

 

『こ、これは―――っ! 愛衣選手、10m上空に吹き飛んだ―――っ!?』

 

 

・・・と、小太郎さんの試合が終わったようですね。

瞬動で間合いを詰め、気を込めた風圧で吹き飛ばしましたか。

というか、朝倉さんがノリノリでアナウンスしているのが意外・・・でもなんでも無いですね。

 

 

あら、佐倉さんが溺れているようで・・・。

・・・なぜだか、親近感が湧きました。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

いやー、上手くいってよかったわ。

楓ねーちゃんやら何やらならともかく、こんなナヨナヨした女の子殴るわけにはいかんしなぁ。

 

 

殴れへんなら、殴らんで勝ったらええわって言う作戦は、自分でもまぁまぁやったと思う。

これくらいなら、魔法やら何やら言われることも無いやろ。

 

 

『カウント10で愛衣選手の負けが確定します!』

 

 

しっかしまー、アリアのねーちゃんも難しいこと言うなぁ。

一般人がどうやっても再現できひんような攻撃は避けろ言うたって・・・。

・・・意味がわからん。

そんなことして、何や意味あるんかいな。

 

 

『・・・10! 小太郎選手の勝利です!』

「へへ・・・悪いな。こんな所で立ち止まるわけにはいかんのや」

 

 

夏美ねーちゃんに男の戦いの熱さってもんを、見せたらなあかんしな。

・・・でも、本選に出場しとるの、女ばっかな気ぃするんやけど。

 

 

『ああっと・・・愛衣選手、溺れているっ!』

「あぶあぶっ・・・わ、私、泳げないんです~!」

「なんやてぇ!?」

 

 

しゃーないな、もー。

見捨てるわけにもいかんし・・・

 

 

「世話焼けるな、ったく!」

 

 

ドボンッ・・・と、リング周辺の水場に落ちて溺れてる相手のねーちゃんを、助けに飛び込んだ。

その時、選手席の方が見えた。

アリアのねーちゃんや、エヴァンジェリンとか言う怖いねーちゃんもおる。

その中の、あの赤毛のガキに、なんや見覚えが・・・って。

 

 

「思い出したぁっ!」

「な、何がですかぁ!?」

 

 

あいつ・・・ネギ!

俺は、あいつと戦うためにここに来たんやった!

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「す、凄い凄ーいっ! 小太郎君カッコ良い――――っ!」

「まぁまぁ♡」

 

 

ちづ姉と一緒に、小太郎君の試合を見てたんだけど、凄い!

なんでかはわかんなかったけど、相手の女の子が凄く吹き飛んだ。

と言うか、もうほぼ、宙に浮いてた。

 

 

とにかく、凄いよ、小太郎君!

 

 

「くぅ~・・・最後まで見れるかなぁ。私、公演のリハあるし・・・」

「うふふ、私が見ておくから大丈夫よ」

「ちぇ~」

 

 

小太郎君は、舞台の外の堀に落ちた相手の女の子を引き上げてる所。

結構、優しい所あるじゃん。

 

 

・・・む?

何か、話してるみたい。聞こえないけど。

でも、なんだか相手の子の仕草や反応がちょっと・・・。

 

 

「・・・何、アレ」

「あらあら♡」

 

 

私の横で、ちづ姉が笑ってた。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

ネギとアリアは、昔から仲が良くなかった。

ネギがアリアをどう思っていたのか、そしてアリアがネギをどう思っていたのか。

実の所、私には難し過ぎてわからない。

 

 

ただ、2人が上手くいってなかったってことは、わかってた。

すれ違い続けていたんだって、子供心にわかってた。

・・・今でも、私達は子供だけど。

 

 

「あの2人の関係ほど、見ていて腹の立つ物は無かったわね・・・」

 

 

一見、ネギの無神経ぶりが原因な気もするけど。

でも一方で、アリアの方にも、問題が無かったわけじゃないと思う。

あの2人の関係を、あえて一言で言うのなら・・・そうね。

 

 

仮面兄妹って言うのが、正しいんだと思う。

兄妹であって、兄妹じゃなかった。

だから今さら、兄妹を辞めたと言われても、納得の方が大きかった。

言いたいことが無いわけじゃないけどね。

 

 

・・・あの2人のおかげで、私も随分と客観的になれるようになったもんだわ。

ネカネお姉ちゃんも気付いてたとは、思うけど・・・。

 

 

「それにしても、人が多いわね」

 

 

下の道を行くと時間がかかりそうだから、建物の屋根の上を走ることにした。

このあたりの区画は、建物同士が結構隣接してるから、飛び移る必要も少ない。

 

 

「3日間の延べ入場者数40万人。世界有数の規模の学園都市の全校合同イベントですぅ」

「田舎暮らしの長い私には、ちょっと厳しいわ」

「一説では、2億6000万のお金が1日で動くとされているそうですぅ」

「・・・あんた、私に説明しているようでいて、実は自分の知識をひけらかしたいだけでしょう?」

「バレたですぅ」

 

 

腕の中のちびアリアを、力強く抱きしめる。

日本の東洋魔術の使い魔らしいけど、随分感情表現が豊かだわ。

 

 

それはそれとしても、やっぱりこの街はおかしい。

聞く所によれば、麻帆良の外からもお客さんがやってくるらしいじゃない。

そんな人間に、こんな意味不明なイベントだらけの学園祭、見せて良いわけが無い。

もちろん、記憶処理とかはやってるんだろうけど・・・。

 

 

いつまでも、このままで良いわけが無いわ。

世界樹を守るためだって言っても・・・こんな中途半端な状態、いつまでも保つはずが無い。

こんなの、山奥でひっそり慎ましやかに生きてる私達が、バカみたいじゃない。

 

 

「パートナーさんの反応、あっちから感じます」

「わかったわ」

 

 

私とエミリーは、ネギとカモと違って、きちんと手順を踏んで使い魔契約をしてる。

だから、私とエミリーの間には、魔力のリンクがある。

ちびアリアは、それを頼りにエミリーを追いかけてる。

 

 

まぁ、とりあえず今は、エミリーを探しながら・・・。

この麻帆良のことを、調べて行くしかないわね。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

『ラッシュ、ラッシュ――っ! 大豪院選手、猛攻撃だ―――っ!』

 

 

今は、マスターの試合。

マスターが負けるとは思えないけど、それでも応援はしないと。

なのに・・・。

 

 

「ネギ、勝負や! 決着つけよ――ぜっ!」

「え、えええ、今、それどころじゃ・・・」

「やかましい! 勝負しろこら――っ!」

 

 

京都で戦った・・・・・・・・・・・・小太郎君だ、うん。

その小太郎君が、なんでか僕に勝負しろって言ってきた。

な、なんでいきなり?

 

 

「だ、大体キミ、僕に2回も負けたじゃないか・・・」

「はぁ!? お前みたいな奴、次戦えば勝てるわ!」

「・・・何回やっても、一緒だと思うんだけど・・・」

「ああ!?」

 

 

僕だって、京都の時からかなり修業したから、もっと強くなってる。

京都の時に僕に勝てなかった子が、今僕に勝てるわけないじゃないか。

 

 

「何やとこのチ「てりゃ~」びぁっ!?」

 

 

突然、奇妙な悲鳴を上げて、小太郎君が倒れた。

その後ろには、京都で木乃香さんを攫った月詠って人が、困ったような顔で立っていた。

そのまま、小太郎君の首根っこを掴んで、ズルズルと引き摺って行った。

 

 

「あかんえ~小太郎はん。場外乱闘は即失格て言われたやろ~」

「ぐ・・・ネギ、決勝であおーぜ・・・」

「小太郎はんは、おつむが弱いどすからな~」

「月詠のねーちゃんにだけは、言われたぁ無いで・・・」

 

 

・・・なんだったんだろう。

 

 

「・・・なんだったのかしら?」

「さぁ・・・」

 

 

明日菜さんの言葉に、そう答えるしかなかった。

 

 

『か、カウンター決まったぁ――っ! 大豪院選手、立てません! クウネル選手、勝利!』

 

 

・・・あ、マスターの試合、終わっちゃった。

小太郎君のせいで、ほとんど見れなかった・・・。

 

 

『それにしても、ふざけた名前だ。クウネル・サンダース!』

 

 

あ、やっぱりそう思うんだ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

第二試合が終わった。

クウネル・サンダースという男、あれは本体じゃないな。

魔眼で見ている私にはわかる。

もちろん、私以外にも、わかる人間にはわかるのだろうが。

 

 

「ふむ、次は拙者の出番でござるな」

 

 

私の横に座っていた楓が、気負った様子も無く立ち上がった。

楓の相手は、あのアリア先生だ。

普通なら、楓が10歳の女の子相手に後れを取るとは思わないが。

 

 

「勝算はあるのか、楓?」

「んー、どうでござろうかなぁ」

 

 

なはは、と楓は笑った。

以前はそれほどではなかったが、最近はアリア先生の書き換えた記憶の監視のために、一緒にいることも多くなった。

それなりに、友人関係を築けていると言える。

 

 

「アリア先生には、修学旅行でも投げられているでござるからなぁ」

「ふふ、本気じゃなかっただろ?」

「いやぁ、それでも厳しいでござろう」

 

 

そう言う割に、楓に緊張は見受けられない。

こういう所が、楓の強みだろうな。

 

 

「まぁ、何。とりあえずは当たってみるでござるよ」

「ふ・・・そうか。一応、応援はしておいてやろう」

「おお、真名がタダで人のために何かをするとは意外でござるな」

 

 

・・・お前の中の私は、どんな冷血人間なんだ、楓?

私だって、友人の応援ぐらいはするさ。

 

 

「じゃ、逝って来い」

「うむ・・・字が違うでござる。ベタな見送りでござるなー」

 

 

ほっとけ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「まぁ、お前が長瀬楓ごときに後れを取るとも思えんが・・・頑張って来るが良い」

 

 

そうエヴァさんに送り出されて、私はリングに上がりました。

目の前には、いつも通りの笑みを浮かべている長瀬さん。

・・・いつも笑顔で、大変良いことです。

 

 

『さぁやってきました第3試合! 長瀬楓選手対アリア・スプリングフィールド選手―――っ!』

 

 

朝倉さんのマイクパフォーマンス。

どうでも良いので、早く始めてほしいのですが・・・。

 

 

『一方は昨夜の予選で謎の分身を行い、勝利した麻帆中さんぽ部の長瀬選手! そのミステリアスな細目にどんな謎が!? 忍者の生まれ変わり・・・いや、むしろあんたが忍者だろ!』

「照れるでござるなー」

「照れるポイント、まるで無いと思うのですけれど・・・」

 

 

むしろ、この場で殴りつけても見逃しますよ、私。

 

 

『そして残る一方は、昨年度麻帆中に赴任してきました噂の子供先生の一角! アリア選手! 噂によるとその愛くるしくも妖艶な美しさにファンクラブができているとかいないとか! いよっ、この「調子に乗ってるともぎ取りますよ」さぁて始めましょう!』

 

 

まったく・・・。

溜息一つ落として、改めて長瀬さんと向き合います。

 

 

「さて・・・アリア先生。普段は教師と生徒の関係でござるが、今日はそれを忘れ、全力で当たらせて頂くでござる」

「・・・お相手いたします」

 

 

しかしそうは言っても、生徒を派手に殴ったりとかするわけにもいきませんし。

こういう時、教師と言うのは面倒な立場です。

 

 

『それでは、第3試合・・・』

 

 

となると、予選と同じやり方で行きますか。

懐から、一枚のカードを取り出します。

 

 

『Fight!!』

「『眠(スリープ)』」

 

 

即座に睡眠の効果を相手に与えるカードを発動。

ぱたり・・・と、長瀬さんが倒れます。

我ながらあっけない終わらせ方ですが・・・。

 

 

ぽむっ、と、肩を叩かれました。

 

 

「いやぁ、いきなりで驚いたでござる」

「催眠術か何かでござるか?」

 

 

4人の長瀬さんに囲まれていました。

・・・わーお。

 

 

「楓忍法」

 

 

気配を少しも悟らせずに、ここまで近づいてくるとは。

一般人としては、まさに最高の完成度。

 

 

「『四つ身分身・朧十字』!!」

 

 

気を伴った掌底が4発、前後左右から放たれました。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

「『四つ身分身・朧十字』!!」

 

 

分身を使い、四方向から攻撃を撃ち込んだのでござるが、手応えがまったくなかったでござる。

いや、あるにはあるでござるが、なんとも不可思議な感覚。

 

 

攻撃は当たっているのに、通っていない感覚。

 

 

「素晴らしいですね」

 

 

囁くように、アリア先生の言葉。

瞬間、アリア先生の身体を気に似た何かが覆ったでござる。

むぅ・・・体勢を整えられてしまったでござるか。

 

 

「影分身・・・と言うのですか? 初めて見ました。流石は忍者、ですね」

「さて、何のことでござるかな?」

「はたして、そこではぐらかすことにどんな意味が・・・」

「ニンニン」

 

 

攻撃の手を休めずに、そのまま攻めかかるでござる!

決して、忍者であることを指摘されたからではないでござる。

 

 

しかし、4人がかりで攻撃を加えても、アリア先生は先ほどとは打って変わったなめらかな動きでかわして行くでござる。

拳を放つと流され、蹴りを放つと受け切られ、かわされる。

攻撃を撃ち込めたとしても、やはり『朧十字』の時と同様、攻撃が通った気配がしないでござるな。

 

 

気で覆われているわけでもなく、ダメージが止められている、と言った方が正しいでござろうか。

ふむ、これは・・・。

 

 

 

何らかの術、と言うか、ズルをしていることは間違い無いでござるなー。

 

 

 

まぁ、だからと言ってそれを言って駄々をこねるほど子供でもござらん。

さて、これを破るにはどうするか・・・。

 

 

「・・・なぜ、攻撃してこないのでござるかな?」

「なんのことでしょう?」

 

 

アリア先生はそう言うが、現在、拙者の攻撃を防ぐばかりで反撃の気配が無い。

わざと隙を作ってみても、撃ち込んでくる様子も無い。

考えられる理由としては、教師と生徒と言う立場を慮ってのことでござろうか。

なら・・・。

 

 

それを最大限、利用させてもらうでござる!

 

 

分身で撹乱し、懐に飛びこむ。

虚を突かれた形になったアリア先生は、一瞬驚いたような顔をして、すぐに手を出してくる。

その手を払い、宙返りの要領で後ろに飛び、蹴りを加える。

そしてその分身の背後から、気を込めた拳を撃ち込み――――。

 

 

アリア先生の身体を掴み、投げ飛ばした。

ダメージは通らずとも、ただ投げることはできるでござる。

 

 

「・・・見事です、が・・・」

 

 

当然、アリア先生は空中で身体を捻り、体勢を整えたでござる。

しかし、その背中から。

 

 

「・・・む」

「この密度の分身は、拙者も4人が限界でござるよ♡」

 

 

本体の、拙者が。

高濃度の気を練り込んだ右拳を、叩きつけたでござる。

 

 

アリア先生の身体が、床板を砕いた。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

アリア・スプリングフィールド。

本国にある資料によれば、魔法の使えない役立たずとありますが・・・。

まぁ、くだらぬ魔法至上主義者の報告書など、アテにはなりません。

 

 

現に彼女のこれまでの経歴と、彼女の身体を覆う静かで力強い魔力の気配は、それを否定している。

ふふ・・・机の上で報告書しか読まない連中には、わからないでしょうがねぇ。

彼女の価値が。

 

 

「クルト議員、今のは・・・」

「ええ、気力の乗った良い一撃でしたね」

 

 

隣に座る絡繰茶々丸とか言う魔導人形が、私に解説を求めてきました。

長瀬楓と言いましたか、あのお嬢さんは。

あれで一般人と言うのですから、旧世界の人間もなかなか侮れませんね。

 

 

「多数の分身で撹乱しつつ、最後には背後からの一撃。長瀬選手はなかなか頭の良い戦い方を選択していますね」

「なるほど・・・」

「まぁ、それだけやあらへんけどな・・・」

 

 

関西の元暫定大使、天崎千草・・・いえ、天ヶ崎千草が、呟くようにそう言いました。

ほぅ、なかなか、わかっていますね。

 

 

「と、言うと、どういうことでしょうか千草さん」

「あの長瀬って選手は、アリアはんを直接倒す以外の方法で倒そうとしとるってことや」

 

 

そう、この大会で相手に勝つ方法はいくつかありますが・・・。

何も、相手を場外にしたり、あるいはカウントを取る必要は無い。

要するに・・・。

 

 

反撃しない限り、アリア・スプリングフィールドは勝てないと言うことです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

あの、バカが・・・この期に及んで生徒を気遣ってどうする!

 

 

『な、何が起こったのかはさっぱりですが・・・とりあえず、長瀬選手がアリア選手を地に叩きつけた―――っ!』

 

 

ダメージがあろうはずも無い。

アリアの『歩く教会』は、あらゆる物理・魔法攻撃に対して絶対的な防御力を誇る。

具体的に言えば、私の『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』でもダメージを通せない程だ。

 

 

「す・・・凄い」

 

 

ぼーやは無邪気に喜んでいるようだが、長瀬楓が一般人としては最強の部類に入ることは、わかりきっていたことだ。

それよりも問題なのは・・・。

 

 

「恩人は、優しいからな」

「やっと起きたのかお前・・・だがな、あれは優しいとか言うレベルでは無いぞ」

 

 

バカ鬼の声に、そう返す。

生徒・・・それも3-Aの生徒に限り、アリアは優しい。

さらに言えば、「自分の庇護下にある生徒」「自分のルールの枠内にある生徒」に限定される。

だからこそ、ぼーやや学園の魔法使い側に立っている生徒には冷淡な対応をする。

龍宮真名などは、本当に例外的だ。

 

 

身内を含めて、自分の管轄にある者に対する怯えとも取れる優しさ。

それは決して、博愛や隣人愛では無い。

誰よりも純粋で、身勝手な愛情。

 

 

『お、おお!? アリア選手、無傷だ―――っ!?』

 

 

砕かれた床の中から、ゆっくりとした足取りでアリアが出てきた。

当然、ダメージは無い。

長瀬楓も、どうやらそれをわかっているようだ。

 

 

だからこそ、ああして派手に立ち回っているのだろう。

観客の受けを、良くするためにな。

ちぃ・・・あのバカが、それくらいわからないはずが無いだろうに!

 

 

「コラ―――ッ! アリア!!」

 

 

もどかし過ぎて、思わず声が出た。

それが聞こえたのだろう、アリアが肩をびくっ、と震わせて、私の方を見た。

 

 

「私の家族ともあろう者が、ただの忍者に何を手こずってる! さっさと倒せ! 負けるなど、私が許さんからな!」

「おい、吸血鬼。皆が見てるぞ、良いのか?」

「やかましぃ! 良いかアリア・・・もし負けてみろ! 負けでもしたら、あー・・・」

「なんだか今日は、スクナが正しい気がするぞ。聞いてるか?」

 

 

一瞬、考えて。

 

 

「一年間、苺抜きにするからな!!」

 

 

・・・あれ?

何か違うような気がする。だが、アリアの表情に危機感と言うか、衝撃が走ったのを感じた。

あと茶々丸、解説者席から私をガン見するのはやめろ。

 

 

・・・・・・一年間は長いか。

一カ月、いや、3日で良いな、うん。

 

 

「とにかく、勝て!」

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「あはは・・・エヴァさんってば」

「西洋の鬼は、考えることがわからんのう」

「イヤ、テンパッテルダケダ」

 

 

あ、もう。ダメですよ喋っちゃ。

私の頭の上にチャチャゼロさんが、腕の中に晴明さんがいます。

まぁ、周りの人は試合に夢中で私のことなんて気にしてないけど・・・。

 

 

『何やら選手席が揉めているようですが・・・さて、勝つのはどっちだ!?』

「朝倉さんも、良くやりますねー」

 

 

普通に考えれば、アリア先生が負けるはず無いと思うんだけど・・・。

どうかな、ちょっとわからない。

まさか、苺で主義を曲げるとも思えませんし。

 

 

「あ、さよちゃんじゃん!」

「へぅ? ・・・あ、ハルナさん」

 

 

近くにいたのか、ハルナさんと会った。

その後ろに、のどかさんと綾瀬さんがいた。

一応、ペコリと頭を下げて挨拶しておきます。

 

 

「いやー、でも、すごいよねコレ! ってかアリなのコレ!」

「あ、あはは・・・」

「む、と言うかさよちゃん。2つも人形抱えて、ファンシーだね?」

 

 

チャチャゼロさんと晴明さんは、もう動かなくなってる。

それにしても、参ったなぁ・・・。

ちらり、と、私を見ているのどかさん達を見る。

 

 

ハルナさんって、状況的にかなり危ないんですよね・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「いやー、アリア先生も大変でござるな~」

「大変どころの騒ぎじゃないですよ・・・」

 

 

苺一年間禁止って、それ私に死ねって言っているような物ですよ。

苺分不足症候群で余命三日、そんな感じですよ。

・・・というか、自分だってシリアスを壊すの、癖みたいな物じゃないですか。

 

 

「・・・しかし、エヴァ殿の言うことにも一理あるでござるよ」

「苺禁止が?」

「それもあるでござるが・・・本来ならアリア先生は、拙者などすぐに倒せるでござろう?」

「・・・否定はしませんよ」

 

 

長瀬さんは、おそらくは血の滲むような修練を積んで、今の領域にいるのでしょう。

その思考力も、技術も。全ては彼女の努力の賜物。

しかしその全てを踏みにじって勝つ手段が、私にはあります。

 

 

「でも、今のままでは・・・」

「メール投票で貴女が勝つでしょうね」

「・・・わかっていたでござるか」

 

 

当然でしょう。

この大会は、一試合15分と定められています。

それで決着が付かない場合、観客のメール投票で勝敗が決まります。

今の感じでは、長瀬さんの方に多くの票が入る可能性が極めて高いと思われます。

つまり、私が負けます。まぁ・・・。

 

 

「アリア先生は、別に負けても良いと思っているでござろう?」

「まぁ・・・お金には興味ありませんしね。教え子をねじ伏せてまで勝ちたいとも思いません」

「ふむ・・・それは少々、拙者の立場からすると、腹立たしい考え方でござるな」

 

 

それは、そうでしょうね・・・。

ただ、私としては、武道会に出てほしいと言う超さんの願いは叶えましたので。

 

 

「アリア先生は、我ら3-Aの生徒を大切にしてくれているでござるが・・・どのような花でも、手をかけ過ぎれば腐り、枯れる物でござる」

 

 

長瀬さんはそう言うと、風に乗って舞台に下りてくる世界樹の花弁に、手を添えました。

その視線は、どこまでも優しい。

自然、私も天を見上げて、舞い降りてくる花弁を見ます。

 

 

「適度に水をやり、大切に育て・・・そして時として風雨に晒されて、少しずつ強くなるのが花」

「・・・長瀬さん」

「抱え込み、全てからただ守るばかりが、花の育て方ではござらん」

「・・・10歳の子供先生に言う台詞ではありませんね」

「む? それもそうでござるな。なぜかアリア先生なら、理解してもらえると思ったでござるが・・・」

 

 

まぁ、理解はできますが。

理解したからと言って、それですぐに主義主張を変えられるほど、賢しくもありませんが。

しかし・・・。

 

 

いつだったか、木乃香さんや刹那さんが一個人として私の所に来た時と、少し物言いが似ていますね。

私を含めて、人間と言う物は、他人に認められたがると言うことでしょうか。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

長瀬さんは、静かに微笑んで、私を見ていました。

 

 

「今は、拙者だけを見てほしいでござる」

 

 

 

 

 

 

Side 楓

 

・・・む。

わずかでござるが、アリア先生の雰囲気が変わったでござるな。

身体を覆う何かの総量が変わったでござる。

 

 

「行きます」

 

 

次の瞬間には、すでに拙者の懐に飛び込まれていたでござる。

速い!

ぼっ・・・と、攻撃を繰り出すも、アリア先生の姿がかき消えた。

 

 

「『速(スピード)』から・・・」

 

 

声に反応すれば、数m上に。

対空しつつ、腕を交差させつつ、落ちてきたでござる。

しかしさらに、その場から加速・・・虚空瞬動でござるか!?

 

 

ずだんっ!

大きな音を立てて、アリア先生が拙者の背後に降り立つ。

 

 

「・・・『闘(ファイト)』、『南斗流鴎拳・南斗嘴翔斬』」

 

 

次いで、ぼんっ・・・と言う音を立てて、拙者の燕尾服の左の肩口が爆ぜたでござる。

傷ひとつ無いでござるが・・・今のに気が乗っていれば、拙者の左腕は肩から千切り取られていたでござろう。

修学旅行で見た技と似ているでござるが、少し違うようでござる。

 

 

「一応・・・生徒のお願いは可能な限り聞くことにしているので」

「む・・・」

 

 

アリア先生の目を見て、瞬時に感じたでござる。

日の光のせいか、紅く輝いて見えるその眼を見て。

 

 

・・・うむ!

これは、敵わぬでござるな!

しかし・・・。

 

 

「今は・・・貴女だけを見ることにします。長瀬さん」

 

 

・・・照れるでござるな。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生は、これまで通り長瀬さんの攻撃をかわして・・・いえ、今までよりも華麗に、流麗な動きで移動していました。

それはまるで演武のようでもあり、非常に綺麗な動きでした。

おかげで、会場の一部が大いに盛り上がっております。

 

 

「クルト議員、これは?」

「ふむ・・・まるで、風に乗って水辺を浮遊する水鳥のような動きですね。非常に美しい」

「どうでもええけど、議員って呼んでええんか?」

 

 

千草さんの瑣末な疑問は軽く流して、クルト議員に続きを促します。

まったく・・・常識人を自称される方はこれだからいけません。

 

 

「先ほど長瀬選手の衣服の肩口を弾けさせた一撃・・・アリア選手は長瀬選手の拳を躱すように跳躍した後に急降下し、肩口を切り裂いたのでしょう。実に高度で完成された動き、見事な物だ」

「なるほど。流れるような、非常に滑らかで清らかな動き、と言うことですね」

「まさにそれです」

「・・・あんたらは、アリアはんの技を解説しとるんか、それとも単純にアリアはんを褒めたいんか、どっちなんや?」

 

 

両方に決まっているでしょう。

まったく、これだから千草さんは。

小太郎さんと月詠さんの撮影をしてあげませんよ?

 

 

「別に、構へんよ・・・」

「なんと、成長の記録なのに・・・」

「まぁ、いずれにせよ・・・」

 

 

かちゃ・・・と、眼鏡を指先で押し上げながら、クルト議員が呟くように言いました。

 

 

「試合の趨勢は、決まったと見て良いでしょうねぇ・・・」

「・・・・・・なるほど」

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

素性についての情報があまり無いために、その目的を推測することはできませんが。

アリア先生を見るその目は、どこか、懐かしさを含んでいるような気がします。

 

 

千草さんとのやり取りの後は、普通に解説を行うなどして、試合をただ見ています。

当初は、我々を人質にでもするつもりかと思いましたが。

 

 

ただ単純に、試合を見に来ただけとも思えます。

しかし、元老院。

スプリングフィールドの名を持つアリア先生にとっては、最も注意すべき相手だと、マスターは言っていました。

 

 

油断せず、観察を続けることにしましょう。

 

 

 

 

 

Side 超

 

・・・ふふ。

かえでサンは、アリア先生にとっては、良い事例になるだろうネ。

 

 

アリア先生の対戦相手には、特に気を遣ったからネ。

自分の守るべき物と戦わねばならない状況。

これが、欲しかったのヨ。

 

 

「・・・ハカセ、魔法先生の動きは?」

「各勢力の外交使節団の応対に、半数以上の戦力が割かれているようです」

「なるほど・・・それは思い通り、カ」

 

 

しかし、まさかクルト議員が会場に来るとは思わなかったネ。

何を考えているのか・・・。

さらに言えば、クウネル・サンダース。

あの接触以来、私を警戒しているようだしネ。

 

 

まぁ、抑え込むための策は考えているヨ。

計画に不確定要素は付き物・・・修正の余地を残しておくのが、コツ。

 

 

そして、そのためにも・・・アリア先生には、勝ち上がってもらわないとネ。

ネギ坊主にも、ある程度は頑張ってもらわないと。

 

 

「ふむ・・・ハカセ、ネット上に画像とその他の情報を流し始めて欲しいヨ」

「わかりました」

 

 

ネットの下準備も、24時間以内に完了する。

地下は五月に任せてあるシ・・・。

クラスメイトの状況も、リアルタイムで把握している。

 

 

全体として、作戦は順調ネ。

 

 

わぁ・・・!

 

 

会場の様子を映している画像から、歓声が響いてきたネ。

アリア先生とかえでサンの試合が、終わったようネ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「いや~、コレは無いでござろう?」

「すみません。怪我をさせずに勝つと言うのは、意外と難しくて」

 

 

今、長瀬さんの周囲には、私の『ラッツェルの糸』が生みだす切れない糸が張り巡らされています。

おそらく、観客席からは見えないでしょうが。

柱や手すりなど、糸を巻ける場所が遠かったので、少々苦労しましたが。

 

 

「少しでも動けば、スッパリ逝きますよ?」

「真名と同じ字でござるが・・・この場合は、用法が正しい気がするでござるな」

 

 

真名さんが何を言ったのかは、知りませんが。

 

 

「しかし、こちらの攻撃はダメージが通らず、そちらは自在にダメージを通せると言うのは、少しヒキョーでござるなぁ」

「それを込みで試合を望んだのは、長瀬さんでしょう?」

「まぁ、それはそうでござるが・・・」

 

 

こちらとしても、生徒の願いを叶えつつ、自分の主義を通すと言うのは骨でした。

長瀬さん、普通に強いんですもの。

 

 

「・・・それで? 続けますか?」

「いやぁ、流石にここから逆転するのは骨でござるな・・・・・・拙者の、負けでござるよ」

『おおっと、長瀬選手、まさかのギブアップだ! この瞬間、アリア選手の一回戦突破が決定―――っ!』

 

 

朝倉さんの試合終了の声とともに、私は『ラッツェルの糸』を解除しました。

 

 

「・・・服、すみませんでした」

「いやいや、大したことではないでござるよ。しかしアリア先生も演出好きでござるなー」

「・・・別に、そんなことはありませんよ」

「なはは・・・しかし、タメになったでござる」

 

 

笑いながら、長瀬さんが言いました。

その笑顔は、どこかさっぱりとした物でした。

 

 

「世の中は広い。拙者もまだまだ修業が必要でござるな」

 

 

まぁ、忍者の修行と言うのがどういう物かはわかりませんが。

いずれにせよ、私の力はズルみたいな物なので、結局の所、長瀬さんには敵いません。

 

 

「ところでアリア先生。実際の所、どういうカラクリだったのでござるか?」

「長瀬さんが忍者かどうか教えてくれれば、答えてあげても良いですよ」

「諦める他無いでござるな・・・」

「そこで諦めちゃうんだ・・・」

 

 

それを狙ったんで、思い通りではあるのですけど・・・。

なんだか、釈然としない物を感じますね。

 

 

・・・ふぅ、と溜息を吐きます。

選手席の方を見ると、エヴァさんが腕を組んで私を見ていました。

怒られますかね、コレは。

 

 

まぁ、苺一年禁止の危機からは逃れたような気がしますし。

まぁ、良いですかね・・・。

 

 

「・・・ん」

 

 

不意に、名を呼ばれた気がして、私はそこで立ち止まりました。

そのまま、西の方向に視線を向けます。

一見、何もないようですが、しかし・・・。

 

 

「アリア先生? どうかしたでござるか?」

「いえ、別に何も・・・」

「少し、顔が赤いようでござるが・・・」

「本当にこれっぽっちも何も無いので、大丈夫です。先生、嘘吐きません」

 

 

こほん、と咳払いしつつ、長瀬さんを選手席の方へと押しやります。

まったく・・・。

 

 

ところで、まったく関係の無い話ですが。

見られることを意識すると、人は美しくなると言います。

つまり、見られることを意識していなかった今までの私よりも、これからの私の方が美しく見えると言うことでしょうか?

さらに言えば、それによってこれまでの分も挽回できると見て、間違い無いですよね?

 

 

シンシア姉様、姉様はとても美しい方でしたが・・・。

実の所、秘訣などはあったのでしょうか?

 

 

 

アリアも、貴女のように美しく在りたいのです。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

『アリア選手、1回戦突破―――っ!』

 

 

まほら武道会とか言うそれを、僕は会場の西側の高灯篭から見下ろしていた。

1戦目と2戦目は、あまり面白くは無かったけど・・・。

クウネル・サンダースと言うあの男、アルビレオ・イマ?

僕には気付いていないようだけど・・・。

 

 

「アルビレオ・イマに、近衛詠春。そして、タカミチ・T・高畑と・・・クルト・ゲーデル」

 

 

やれやれ、いつからここは「紅き翼」の集合拠点になったんだい?

まぁ、クルト・ゲーデルは「紅き翼」を離反しているけどね。

それでも元老院議員と言う地位は、警戒するに足る物だと思う。

 

 

それに、彼は優秀だ。

昨日僕が仕込んだ工作員2人を、昨夜の内に殺している。

反応が早い・・・関西の方の入れ替わりは、気付かれていないと言うのに。

魔法世界と旧世界の考え方の違いもあるのだろうけど。

 

 

・・・眼下では、なぜかアリアが吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)に叱られている。

先ほど、彼女はアリアに「家族」と呼びかけていたようだけど・・・。

アリアの言う「家族」とは、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)のことなのだろうか。

 

 

「家族、と言う物は、僕には良くわからないけれど・・・」

 

 

つまりアリアを連れて行くためには、加えて彼女もどうにかしなければならないと言うことだろうか。

これは、なかなか厳しい条件だ。

ある意味、世界を救うのとどちらが難しいのかと言うレベルではないだろうか。

しかし、それでも・・・。

 

 

「待ちなさい! この恥知らず!」

「ちげーって、誤解だって! 俺はお前のためにだな・・・!」

「妹のために、下着二千枚盗んでくる兄がいますか!」

 

 

にわかに、周囲が騒がしくなった。

・・・何?

 

 

「アルベール!」

「ま、待て待てエミリー! とりあえず話をだな・・・・・・って、げぇっ、て、てめぇは!?」

 

 

・・・オコジョ?

どうしてここに、オコジョが・・・と思ったら、もう一匹現れて、その一匹に覆いかぶさった。

 

 

「捕まえたぁ―――っ!」

「うぉあっ!? ・・・ちょ、ちょっと待てエミリー! 今がまさに命の危機っ・・・!」

「何を意味のわからない、ことを・・・?」

 

 

2匹のオコジョが、同時に僕を見た。

1匹は、どうやら僕のことを知っているらしい。もう1匹は、名前と言動からして妹か。

事情は良くわからないけど・・・。

 

 

2匹のオコジョごときに邪魔されるなんて、あってはならないことだ。

下手に騒がれても、面倒だし・・・。

 

 

 

始末しても、問題無いかな。

 




茶々丸:
初めまして、絡繰茶々丸と申します(ぺこり)。
本日の後書きコーナーを担当させていただきます。
今回から、試験的にアリア先生関連の方々の持ち回り制になります。

なぜなら、アリア先生は今まさに私の膝の上ですやすやとお休みなので、よもやこれを起こそうなどとは神でさえも不可能なわけです(ジー・・・)。

今話はまほら武道会の一回戦の3試合の様子をお送りしました。
アリア先生の可愛らしいお姿を見ることができ、私としては大変満足のいく内容でした。
あと10年は稼働できます。


茶々丸:
次回は、引き続きまほら武道会の様子が描かれます。
予定としては、2、あるいは3試合分収録される模様です。
もちろん、武道会以外の動きについても触れることになるかと思います。

それでは、アリア先生が起きてしまわれますので、後はお静かにお願いいたします(しー・・・)。
またのお越しを、お待ちしております。

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