あなたといるからver.1.0   作:流遠亜沙

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この作品は、とあるライトノベルの新人賞に投稿したものです。
結果的に一次審査も通過出来なかったわけですが、自分では気に入っているので、加筆修正してホームページにて公開中です。
ハーメルンで公開しているのは加筆修正前のもの(投稿時のもの)です。
文字数の制限などで、今読むと微妙な感もありますが……。


序章

「…………死にたい――」

 少女はそう呟いた。

 艶(つや)やかな長い黒髪は腰まで届くほど長いストレート。肌の色はやや白く、瞳の色は黒い。整った顔立ちは可愛いというよりは綺麗だと評されるだろう。

 神宮寺(しんぐうじ)カナコ。

 十六歳の高校一年生。

 だが、その雰囲気は気怠(けだる)く、世間一般に持たれる女子高生のイメージからは程遠い。

 眠たそうに目を半眼にし、学校の屋上で手すりにもたれかかっている。

 風景を眺めているわけではない。

 彼女の目は遠くを――ここではないどこかを見ているようだった。

「また始まった。カナコの『死にたい』が」

 そう言ったのはカナコの隣に居た少女だ。

 黒い髪は肩にかかるくらいのショートカットで、毛先はゆるくウェーブがかかっている。小柄でどこか小動物を思わせる、人懐っこい雰囲気がある。カナコと同じデザインの黒いセーラー服をラフに着崩しているが、だらしない感じはしない。

 及川ミズキ。

 カナコの同級生にして、唯一、友人と呼べる存在である。

「そんなに死にたいなら、死ねばいいじゃない? それとも、あたしの気を引きたくて言ってるのかな?」

 明るい口調で言うミズキ。

「…………」

 対するカナコは無言で遠くを見ているだけだ。

 ミズキは嘆息して、友人の横顔を眺める。

 カナコは美人だ。同性のミズキが憧れるくらいに整った顔つきをしている。これで愛想が良ければ間違いなくもてる――が、彼女はクラスで浮いていた。ミズキ以外とまともに会話をしている場面など見た事が無い。

 とにかく無愛想で取っ付きにくい、他人を寄せ付けない雰囲気がある。

 そんなカナコだから、自然とクラスからは孤立していった。

 そもそも学校に来ない事も多い。

 学校に来ても、たいていの時間は屋上で黄昏 (たそがれ)ている。

 日がな一日、遠くを眺めてはため息を漏らしている。

 その姿が美しかった。思わず息を飲んでしまうほどに綺麗だった。

 だからミズキはカナコに興味がわいた。始めはただの好奇心だったのだが、気がつけば彼女と一緒に居るようになった。

 無論、ミズキは授業には出ているので、カナコと過ごすのは昼休みや放課後だけだ。

 会話らしい会話は無い。ただミズキはカナコの隣に並ぶだけ。

 無言で。

 無音で。

 ただ時間だけが流れていく。

 しかし、不毛とも呼べる一時(ひととき)が、ミズキにはかけがえのない時間だった。

何も出来ない、何もしてやれない自分が唯一出来るのは、カナコの隣に居る事だから。

 そんな、ささやかな時間に必ず一度はカナコが呟く――『死にたい』と。

 カナコと出逢ってから、もう何度も耳にしたフレーズだ。

 だから今更、驚かないし、そんな事は言うもんじゃないと責めるつもりもない。

 カナコにしてみれば、ため息のようなもの。つい口から出てしまっているだけだとミズキは知っている。

 

 これはふたりの少女のお話。

 とある死にたがりの少女と、どこにでも居そうな普通の少女の、出逢いと始まりの物語。

 


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