【習作】IS/C~Ichika the Strange Carnival   作:狸原 小吉

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前作1話の改訂版。まだバランス模索中です。それにしても一度できたものを作り直すのは、普通に推敲するより難しい。また色々つめこんだ感。


第1話 「マイネーム イズ イチカ オリムラ」

 春の陽光に照らされた穏やかな海、その上を海中から突き出た複数の支柱に支えられている一本の線が伸びている。そこを行くのは銀色の車体を持つ懸垂式のモノレールだ。車体の上部と下部にそれぞれ一本ずつ赤いラインが引かれたそれは、吹きつける潮風に揺れることもなく目的地へと向かっている。

 

『まもなく学園前に到着致します。お降りの方はお忘れ物の無いよう――――』

 

 その車内にオルゴール音の後にアナウンスが響いた。六人がけの座席から見て斜め上――――天井付近にある空間投影式のモニターに、これから停車する駅の映像と先程のアナウンスと同じ内容を意味する文章が様々な国の言語で表示されている。

 

 それを見て車内にいる乗車客――――大半が十代の少女――――の中には自分の手荷物を確認する人が何人かいる。

 

 その中に、

 

――近代的、かつ国際的……!

 

 と、頬を紅潮させている少女がいる。短い黒髪の先が外側に飛び跳ねているクセっ毛の少女は、地元ではまだ導入されていない空間投影式のモニターを見てぷるぷる、と身を震わせる。

 

 そう、彼女はこの春からIS学園に入学するべく遠方よりやってきたのであった。

 

 ISが世に発表されてから大よそ10年。未だその中核を担う『コア』の解析は進んでいないが、ISから組み上げた或いは参考にした技術は研究者や企業の努力により既存の技術と合わさり様々な方面の技術が発展した。

 

 この空間投影もその一つだ。元々基礎と成りえる技術は存在したが、ISの登場からその開発が一気に加速したのだ。

 

 ISは何故か女性にしか扱えない。そのことは世の保守的な男達を『女尊男卑時代が来る』『男の居場所が無くなる』と不安にさせた。だが実際には航空、軍事、医療、宇宙、etc……多くの分野に多大な恩恵が与えられ、技術開発の最前線は性別による差別など入る余地もなく優秀な人間達が日夜その力を振るっている。

 

 むしろ、一部の開発畑の男連中はいくら汲み上げても底の見えない井戸のような存在であるISの技術解明に心血を注いでおり、そのハイテンションなヒャッハーぶりによって周囲にドン引きされるほど活躍している者もいる。

 

 そして、この空間投影を始めとした一般人の生活に用いられるレベルになると、それを扱うのにISを用いなければならないというようなことは当然無い。よって、それを使って『ISが女しか扱えない』という問題を思い浮かべる人は皆無だ。

 

 いくら『女尊男卑の世の中』などといったところでそれを真に受ける人間はほとんどいない。騒いでいるのは男女問わず、ありもしない自分の立場を勘違いしている人間だけだ。

 

 IS発表当初、最もその影響を受けると思われていた軍隊でさえそこから男の姿が消えることは無かったのだ。

 

 確かに完全にリミッターを外されたISの戦闘能力は驚異的だ。空中で戦闘機にはありえない機動をとることが可能であるし、バリアーなどというSFじみた防護機能を持っている。

 

 初期に軍用として調整されたISは、当時最新鋭の無人戦闘機と能力検証のための戦闘を行い、そして最終的にはその強力な防護機能と機動力を盾に無人機を戦闘用マニピュレーターでぶち抜いたのだ。

 

 公式発表は無いが、ネット上ではとある紛争地帯において戦車を上空から奇襲し貫く人型の機体の姿が見られたという眉唾ものの噂もあった。だがそれが可能な能力をISが有しているのは事実だ。

 

 この結果だけを見れば一般人は誰でも戦闘の主役がISとなると思うだろう。

 

 しかしそうはならなかった。

 

 ISの中核たる『コア』は発表から10年たってなおその全貌が明らかにされないブラックボックスだ。よって『コア』を生産できるのは開発者である篠ノ之束ただ一人。そして彼女は世間から姿を消しており、現時点ではこれ以上『コア』が量産されることはない。

 

 全貌の見えない技術、女性しか扱えないという仕様、得体の知れない『適性』という基準、量産できず補充のきかない兵器、そんな不安要素が多く存在するISに国防を担わせる国などどこにも無かった。

 

 ただその能力は魅力的だし、学び取れる技術は大きい。それに他国が軍用として扱えば一時的でも脅威となることも事実だ。

 

 それ故に各国政府はISの扱いに関する国際条約を作った。無人戦闘機や独自の戦闘用パワードスーツを開発していた米国が強力に支持したこともあり、ISの軍事転用及び軍事転用可能なISの取引の禁止が盛り込まれたそれは『IS運用協定』――――通称・アラスカ条約と呼ばれる形で国家間で協定が結ばれた。

 

 それ以降IS研究はその技術の平和利用のための解析と、米国が既に長年かけて下地を作っていたパワードスーツを用いたスポーツ大会のIS分野開設に伴う装備の研究が中心となった。

 

 それ以外にも欧州におけるISを利用した宇宙開発計画の第一段階でありフランスが中心となって進める『U計画』や、ISを用いて紛争地帯や厳しい環境下での救助活動と医療行為を行うための試験計画『ROA』といった計画も進んでいる。中には初期のISを改良して強力な耐圧殻を持ち深海を高速で移動可能な深海探査用IS『トリアイナ』を用いた海洋開発計画といったものまである。

 

 これから彼女が行くのはそういった人類の未来を切り開く計画の数々を支えるISについて学ぶ場所――――IS学園。全寮制であるこの学園に北九州の片隅にある田舎町から出てきた彼女としては、空間投影のモニターに流れる多様な言語を見ただけでも、これまで自分が過ごしてきた場所とは異なる世界に来たのだと痛感していた。

 

 これから始まる三年間は忘れられない色々なことがあるに違いない、と少女は期待に胸を弾ませた。

 

 彼女の期待に応えるように、進行方向にある目的地が段々と大きくなってくる。 

 

 それは緑に囲まれた美しい島だ。

 

 陸地には周囲から来る潮風に揺らされる新緑の木々が豊富に存在し、緑に寄り添うように近代的な造りをした研究施設、広大な運動場と思しきスペース、多数の客席を持つアリーナまで設けられており、海沿いにはISに関する機材を始め食料や生活用品といった様々な物資を受け入れるための港がある。

 

 それ以外にもこの島にはここで生活する人間のための様々な商業施設を有している。

 

 また、ここに来るためのモノレール乗り場の周囲にはISに関わる企業が集まり、そこに勤める人々を目的に店が集まり、さらにその人々の居住区があり――――と、いつのまにこの一帯は学園都市といっても差し支えない規模となり繁栄している。

 

 その繁栄の中心が島の中央にある。螺旋を描きつつ天へとその鎌首を上げる龍のような独特の形状の白い塔を持つ建造物、それがこの島の中心施設『IS学園』だ。 

 

 それを目にした周囲の少女達がわあ、と湧き立った。彼女達がモノレールに乗る目的は同じだ。

 

 それは明日のIS学園入学式である。

 

 既に大きな荷物は数日前に島の学生寮に送っており、一週間前から寮で生活することも許可されていたのだが、ここにいるのは色々な用事が重なってため今日到着となった前日組であった。

 

――ようやく新生活が始まるんだね!

 

 少女は溢れてくる『喜』の感情を表情に滲ませながら、今日持ってきた僅かな手荷物の入った鞄を忘れないように握りなおす。

 

 

 そして、

 

 

 

 いい加減現実から目を逸らすのをやめよう、と思った。

 

 

 

 いきなりそんなことを言っていったい何事か、と思う人もいるだろう。

 

 彼女がそのような覚悟を決めることになったその原因は同じモノレールの車内にいる一人の少年だ。年の頃は自分と同じ十代半ばといったところで、彼はその隣側の席に座るスーツ姿のサングラスの女性とずっと会話をしていた。

 

 少年の顔立ちはどちらかといえば整っている。背は170ぐらいだろうか? 憧れの誰かに似ているような気がする吊りあがり気味の瞳は、本来であれば他者に激しい印象を与えることもあるのかもしれないが、少年自身からは他者を威圧するような雰囲気は発していなかった。

 

 強いていうならば落ち着いた、静かな空気を放っていると言えるだろう。

 

 彼はこのモノレールに乗ったときから隣の女性と言葉を交わす中で何度か笑顔を見せている。北九州の女子中学出身である少女としてみれば、その心の底から浮かべているような透明感のある笑みに何度もドキリとしてしまったのも事実だ。

 

 

 事実なのだが、

 

 

――何で、あの人簀巻きにされたまま微笑んでるん?

 

 

 そう、彼は顔こそ爽やかに微笑んでいるのだが、その身体は身動きが取れないように茣蓙(ござ)で簀巻きにされて座席の足下に芋虫のように転がされていた。

 

 少女はモノレールに乗り込みそれを見た際に、自分が間違えてどこかしらの『流刑地』への直行便に乗ってしまったのではないかと激しい不安に苛まれた。

 

 そんな時代錯誤な場所が現代日本に存在するわけはないのだが、彼女はそれぐらい混乱していた。

 

 それは一緒に乗った周囲の少女達も同じだったらしく、それぞれが初対面にも関わらず周囲の人間とこの不安感を共有し、自分が取り返しのつかない過ちを犯したわけではないということを確認しようとした。 

 

 彼女も同じくそうやって不安を払拭しようとした人間の一人であり、ちょうど隣にいたおっとりした少女とお互いに『自分達は正気である』と励まし合い、会ったばかりではあったが熱い友情を育み、そうしてようやくモノレール内に足を踏み入れたのだ。

 

 そんな彼女達をさらなる試練が襲う。

 

 彼女達がモノレールに乗り込んだときはまだ少年は座席の上に乗っていたのだが、そこで乗客が増えたことで彼女達が座る席が無かったのだ。しかし、このモノレールは最新の技術により懸垂式で海上を進んでも揺れがほとんど無いことを売りにしており、彼女達としてはつり革につかまって立ち乗りしても問題は無いと思っていた。

 

 だが、簀巻きにされた少年は無駄に紳士的だった。彼は突如床に転がり落ちると、彼女達に席を譲ったのだ。

 

 そんな思わぬ親切を受けた少女達の心は、

 

 

――座りたくねぇ!

 

 

 その一言だった。

 

 彼女達ははっきりいってそこに座りたくなかった。この魔球と言いたくなるような変化球的ご厚意はいったい何なのであろうか。どう考えてもデッドボールだろう、と彼女は叫びたくなった。

 

 時間にして10秒程度、彼女は葛藤した。だが隣のサングラスの女性が『早くしろ目障りだ』と言わんばかりに睨んできた(ような気がした)のでしぶしぶだが彼女は譲られた席に座った。とりあえず席は生温かった。

 

 そうして何の因果か今だかつて無い珍妙な状況下に置かれた少女であったが、その少年は簀巻きにされていることを除けばかなりの好青年であるらしく、隣の女性(どうやら姉らしい)との会話でも彼女の身体を労わるような言動が目立った。女性の方も満更ではないらしく、少年と良く似た、しかし深みのある微笑みを浮かべながら返事をしていた。

 

――見た目はアレだけど親切だし、何か事情があるのかな? 女の人も一見すると怖そうだけど、あの男の子のこと凄く想っている感じがするし……。

 

 そうなると、先ほど席を譲ってもらったとき怯えてきちんとお礼を言わなかったのはかなり失礼だったのではなかろうか、と彼女は思う。

 

 彼女は憧れの人物に対してミーハー気味な反応を示すということを除けば、普通の一般良識を持つ善人であった。ちなみに今の憧れの人物はIS操縦の第一人者でありブリュンヒルデの称号を持つ『織斑千冬』である。

 

――ちゃんと受けた親切にはお礼を返さないといけんよね! お父ちゃん、お母ちゃん!

 

 彼女の脳裏に苺農家である実家の両親の姿が浮かび上がり、笑顔でサムズアップしている。

 

 思い立ったら即行動だ。彼女は気合を入れ、隣に座る姉弟へと視線を向けると、

 

 

 一瞬で逸らした。

 

 

 モノレールに入ったときは影になってよく見えなかったのだが、女性の右手には一本の縄が握られていた。それは手の中から伸び、座席をつたった先にある茣蓙の中――――のさらに少年の服の中まで伸びていた。

 

 そして彼女が隣へと視線を向けた瞬間目に入ったのは、彼が纏っている茣蓙の間から見える服の襟――――の影になる箇所で首元を締め付けるように食い込んだ縄だった。

 

――へ、変態! 変態姉弟がおるよーーーーー!?

 

 脳裏に浮かぶ両親のイメージ映像が一瞬で霧散し、今度は脳裏をSとかMといったアルファベットが渦巻いた。

 

――ふ、服の上からならまだしも……なんで直接なん!?

 

 そういう趣味の人間がいることは知識としては知っていた。だが、こんな近くに、しかも姉弟でだ。

 

 真実を言うと、少年は服の上から縛り上げても瞬時に縄抜けできるという無駄な高等技術を修得していた。そのことを良く理解できている彼の姉は素肌を直接縛ることで脱出を少しでも困難にしたのだ。

 

 ちなみに巻かれた茣蓙で見えていないが少年の両手は後ろ手で縛られており、おまけに手錠が三つはめられている。足も同様の処置が施されており、真っ当な人間であれば身動きをとることも困難な状況であった。

 

 ただ、彼がモノレールの乗り場に着く前はまだこんなあんまりな拘束はされていなかった。そこまでは屈強な二名の警護役がついており、自分の置かれた立場を理解していた彼は大人しくついてきていた。だが彼がモノレール乗り場に近付いたあたりでいきなり駆け出したのだ。

 

『馬鹿が逃げ出した』

 

 それが警護の人間達の率直な感想だった。いくらなんでもあんまりだと言いたくなる感想であるが、これまで彼の周辺警護を担い、普段の少年の理解不能な行動の数々を目にし振り回されてきた男達にもはや遠慮は無かった。

 

 しかし一度動き始めた少年を捕獲するのは至難の技である。彼は警護役達を散々振り回しモノレール乗り場へと駆け寄り、そしてそこのお手洗から絶妙なタイミングで出てきた実姉である女性にウェスタンラリアットをくらい沈黙した。

 

 その後彼が再び逃亡することを懸念した女性は、彼が正真正銘一切の身動きが取れないように現在のような処置を施したのであった。 

 

 

 だが、

 

 

――と、都会は怖いところだよお父ちゃん、お母ちゃん!  

 

 

 当然ながらそんな事情を知らない少女は期待感が勝っていた心中の振り子がここにきて一気に不安側へと傾き、心中で実家の両親に助けを求めた。

 

 だが目の前の現実は結局変わらなかった。その後、IS学園の駅に降り立った彼女は理解できないものから逃げるように学園の校舎がある方向へと全力疾走したのであった。

 

 

 そうして、そんなこんなでIS学園入学式前日にあやしい少年が舞台へと入場した。

 

 

 

 

 

 

 第1話 「マイネームイズイチカオリムラ」

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん揃ってますね。それでは一年一組最初のSHRをはじめますよー」

 

 手の板上の端末に映る出席簿と目の前の生徒達を交互に見やりながら、IS学園一年一組副担任・山田真耶(やまだまや)は教壇で穏やかに微笑んだ。

 

 しかしその笑みは見る者にどこかぎごちない印象を与えるものだった。

 

 今の自分の表情に硬さがあることを真耶自身も自覚していた。そしてその原因にも。

 

――うう、どうしてこんなことになっているんでしょうか……。

 

 今の彼女の体は緊張で強張っている。

 

 今日は関係者の誰もが気を引き締めるIS学園入学式。

 

『まだまだ半人前の域を出ていない』と自己を評価する彼女ではあるが、全寮制の学園で新たな生活を迎える新入生の力になろう、と朝から鏡の前で気合を入れてきたのである。

 

 しかし入学式を終えた後の一年一組教室。そこでまず初めに行った自己紹介に対する生徒の反応は――――無言。

 

 これには朝から入れてきた気合も萎んでしまいそうになった。新入生達を不安にさせることのないようスマートに、余裕ある大人として振舞うべく考えてきた自己紹介の内容とその流れはものの見事に不発に終わってしまったのである。

 

 目の前で床に固定された学生席に整然と座っている少女達――――この学園の専門に学ぶISの特性から生徒は少女のみ――――は、童顔の副担任の自己紹介など興味無しと言わんばかりに全員が教壇とは別の場所に視線を向けていた。

 

 はあ、と真耶は心中で溜息を吐く。

 

――仕方ない、ですよねー。 

 

 諦めの言葉を思い浮かべながら真耶は少女達の視線を辿る。その先にいるのは教室の最前列中央の席に座る『男子』生徒。

 

――自分達のクラスに学園で唯一の……いえ、世界でただ一人の男のIS操縦者『織斑一夏(おりむらいちか)』くんがいるんですから。

 

 そう、少女達は真耶が心中で織斑一夏と呼んだ、女子校の教室の席に座っている男子生徒興味津々であった。

 

 そして教室の視線を一身に集める彼は、

 

「……」

 

 何故か先程から無言で真耶を見つめている。

 いや、今後の学園生活やその他諸々の注意について説明している副担任に視線を向けることは決しておかしなことではない。むしろ誰もが真耶を見ていないこの状況でのその姿勢は好ましいことである……はずなのだが。

 

――な、何か話を聞いているというより、物凄い観察されてませんか私……!?

 

 目の前の少年の視線は、どちらかといえば興味の湧いた対象を観察する小学生のようなものであった。何故か時折『緑……たぬき……』などという呟きが聞こえる。

 

 ひどく居心地が悪い、と真耶は思ったが、そういえば、と一つ思い出した。IS学園の教員に採用される前に、口頭試問もかねた面談があった。今の彼の視線から受ける居心地の悪さはあの時に似たものがある。

 

 表層だけでない、山田真耶という人間の奥底にあるものを探ろうとする瞳。彼はその顔を揺らすことなく一心に真耶を眺めている。その顔立ちは真耶が尊敬する先輩教師を思い起こさせ、一層心を落ち着かなくさせる。

 

――うう、何でそんなに私の顔を見て……ま、まさか!? 今日の私の服装におかしなところが!? それともお化粧が崩れて? も、もしかして入学初日にして年上のあの女性(ひと)にフォーリンラブとかそういうラブ&パッション溢れる展開ですかー!?

 

 だんだん緊張から嫌な汗が流れてきた彼女の心はぐるぐると混乱をきたし、それに伴い思考が混沌としてきた。

 

 このように山田真耶の思考の混乱を助長させている最大の要因が一つある。

 

 それは学園の実技試験において目の前の少年の相手を真耶が務め、特に勝敗を決める必要が無かったにも関わらず、かなりあんまりな流れで敗北してしまったことである。

 

――単にISコアの起動に合格した人の中から、さらに一定以上の適性を持つ人を選抜するだけの筈だったんですけど……。

 

 思い出すだけでも恥ずかしい。彼はいきなり機体に抱きついてきたのだ。 

 

 その効果は絶大にして一撃必殺。これまで異性と触れ合う機会が少なく男慣れしていないことも手伝い、教え子の少年に抱きしめられるという突発的イベントを受けた真耶は腰が抜けてしまったのであった。

 

「はう……」

「?」

 

 と、その時の光景を思い出して赤くなった頬を両手で抑えるようにしながら、真耶は声を漏らした。

 そしてその様子を不思議そうに、しかし視線は逸らさず眺める一夏。

 

――こ、このままじゃ駄目ですよね! 私は副担任なんですからちゃんとしないと! と、とにかく織斑くんのことは一端置いて仕事に集中しましょう! ええ、現実逃避とかじゃないですよー!?

 

 何かに言い訳するように考えながらも真耶は残った連絡事項を伝えた。そして生徒の自己紹介へと話は進む。

 

 

 

 

 どこか気弱そうな印象を受ける顔に『見る者の警戒心を解くような笑顔』を浮かべる副担任。そんな彼女を見ながら織斑一夏は思考を走らせる。

 

――幼い。

 

 目の前で連絡事項を伝える副担任の容姿は、彼の十数年の人生の中で出会ったいかなる教員のタイプとも一致しなかった。

 

 その幼い顔立ちや不自然にサイズの合っていない衣服や眼鏡。そして全身からほとばしる小動物オーラ。唐突に『わたし実は同級生なんです。騙されましたか?えへへ』と可愛らしく言われても、何の疑いもなく納得してしまいそうだ。

 だが世の中は広い。全国規模で見れば彼女のような教員がいたところでおかしくはない。

 

 しかし、今自分がいる場所は特殊な場所だ。

 

 IS学園。

 

 この世界ではかつて『白騎士事件』と呼ばれる――実際には事件と呼ぶのも生ぬるいが――人類の技術革新の一つ転換点と呼べる出来事があった。その事件を転機として世界の軍事バランスに大きな影響を与えたのがIS(インフィニット・ストラトス)だ。

 

 本来は宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツとして開発が始まったそれは、ある天才の手によって従来では実現困難と考えられていた慣性制御、シールドバリアー、無機物のデータ領域への収納等々――高度な技術から成る圧倒的なSF仕様の塊に昇華した。

 

 その技術の制御はある意味ISそのものとも言える『コア』と呼ばれるパーツに依存していた。あまりにも時代の先を行く数々の技術、そして先の『白騎士事件』における謎のISの行動――それいったものを制御する『コア』の無秩序な軍事転用を恐れた各国は、その扱いをどうするかを決めるべく大小合わせて膨大な回数に上る話し合いを行った。

 

 各国が自国の不利にならないよう牽制し合う場面も多々見られた国家間による話し合いは、紛糾の末に『IS運用協定』――――通称『アラスカ条約』と呼ばれる協定を生み出した。

 

 ISの取り扱いについて学ぶこの学舎はその設置場所こそ日本だが、これも先のアラスカ条約により『いかなる国家機関にも属さずまた干渉をよせつけない』国際的にも特殊な場所となっている。

 

 世界中から筆記、面接、実技の難関試験を突破し、更には適性試験という本人にはどうにもならない要素を見る試験さえもパスしてきた才能あるエリートが集まるこの学園だが、純粋にISについて学びたいという者もいれば何らかの組織の意向を背に入学してくる者もいる。

 故に、一見すると才女達が集う華やかな女子校にも見えるIS学園はその裏で、企業や国家の思惑が入り混じり煮えに煮立った混沌の坩堝(るつぼ)と化している。

 

 そのような教育機関に属する教員が、この思わず頬をつねり倒したくなるような愛らしい見た目通りの人間だとは到底考えられない。

 

――恐らくは、相当なやり手のたぬきだ。何か緑色だし。

 

 それからしばらくは学園生活に関する説明が続いた。そして次は学生であれば誰もが経験したことがあるであろう自己紹介タイムだ。

 

「あ、あの、ね? お、織斑くん。自己紹介、出席番号順で次は織斑くんの番なの。だから自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

 

 何故か身を乗り出す形でこちらを見据えるのは害の無さそうな表情。おまけにやたらこちらに対して低姿勢な、どこか小動物を感じさせるオドオドした態度。だがこれも全ては計算し尽くされた上での行動だろう。そして頭ではそのことが理解できていても、実際に眼前でうろたえている人物からはそのような『切れる』気配は全く読み取れない。

 

――並の人間では無い、ということか。

 

 積み重ねた思考の末、一夏は眼前の女性に最終的な評価を下した。

 

「――この、狸め!」

「自己しょ……って、えぇ!? ど、どういうことですか織斑くん!? どうして私が狸なんですか!?」

 

 それまで黙りこんでいた彼がくわっ、と眉根を寄せて言い放った言葉を受けた真耶は身をのけ反らせて慌てふためいた。

 

「隠しても俺の目はごまかせません。 ――――何より、さっきから尻尾が見えている!!」

 

 勢いよく眼前の狸系教師に指を突きつける。

 

「わ、私に尻尾なんてありませんよぉ!?」

 

 額に汗を浮かべて抗議する彼女ではあったが、それでも一瞬身をよじって自分の背後――臀部(しり)――を確認するあたりに彼女の人間性が見てとれるようだった。

 

 そんな副担任の反応に一夏は一転してふむ、と顎に手を添える動作で何事かを考える素振りを見せ、

 

「いや冗談なんですけどね?」

「え……?」

 

 簡潔にそう告げた。彼の表情はそれまでとはまるで異なる真顔だった。まるで『こいつは何を本気で焦っているんだ?』と言わんばかりだった。

 こうなると恥ずかしくなってくるのは焦っている側だ。一夏のそんな態度を受けた真耶は、ふるふると目の端に涙をためた。

 

 そして、

 

「な、なんなんですかコレはーー!?」

 

 真耶はたぬーっと鳴いた。

 

 

 

▽▲▽ ▽▲▽ ▽▲▽ ▽▲▽

 

 

 

「……で? 挨拶も満足にできないのか、お前は」

 

 静かに、しかし力強く響いたその声の主は織斑一夏の実姉にしてクラス担任である織斑千冬だ。スーツに包まれたその長身はまるでアスリートのように余分な肉がそぎ落とされ、均整のとれた隙の無い身体をしている。

 彼女は二分ほど前に、自分の出席簿による打撃で強襲・制圧され机に突っ伏している実弟に対して諦念の混ざった問いをした。

 

 昨日学園に連れてくる途中のモノレール乗り場。そこで逃亡騒ぎを起こした愚弟である。彼を向かえに来ていた彼女がとりあえず打撃して捕獲した上で逃亡できないよう入念に拘束した。その騒ぎで乗る予定だったモノレールに乗ることが出来ず、次の線を待つ間に事情を聞いてみると彼は縛られた状態で首だけを上げて『千冬姉、さっき行ったモノレールに箒に似た女の子がいたんだ』といった。

 

 それを聞いてなるほど、と千冬は思った。学園の教員としてそれなりに責任ある立場である彼女は、今年度の新入生に関する情報も色々と把握している。中でも自分とも古い付き合いであるその少女のことは千冬の頭の中に残っていた。

 

 実際、彼女が学園入りしたのも昨日であり、恐らく彼が見たのは本人に間違い無いだろう。

 

 久しぶりに見かけた幼馴染に駆け寄るとはなかなか可愛いところがある、とは思った千冬であったが、事情も話さず突っ走って静止しようとした警護の人間から距離を離すのはやめろと注意した。

 

 彼女の弟が置かれた立場は極めて微妙で危ういものだ。警護がなければいつ攫われてもおかしくないのである。

 

 とりあえず無事学園内に連れてくることができほっとした千冬であったが、いざ学園に入れば姉と弟と言う前に教師と生徒という関係になる。

 

 昨日は厳密には学外ということもあり、その理由も考慮して後は談笑して過ごしたが、今日以降はそうはいかない。

 

――必要以上に甘やかすことはできん。

 

 そのような思いから容赦なく制圧した。

 

 そんな千冬に対して一夏は顔を上げ口を開く。

 

「いや、千冬姉、俺は――」

 

 スパンッ! 出席簿により小気味好い音が教室に響き渡った。

 ここで自宅にいる時と同じように接することは、公平性を欠くとして他の教師や学生からの不評を買いかねない。

 

 それは誰のためにもならないし、何より一夏がこの学園に馴染み、様々な物事を学び、力をつけていくことを阻害しかねない。そう判断した千冬は実弟に対しても特別扱いせず、むしろ他の生徒より厳しく接することにした。

 

「織斑『先生』だ」

 

 自分で言っておきながら何ともむず痒さを感じずにはいられない千冬だが、それを表情に出すことなく、つり上がった視線を一夏に向けた。

 

 それは他者から見れば、教師を軽んじる発言をした生徒を戒める光景に見えなくもない。

 

 そんな千冬の態度を見て一夏は先程の実姉に対する呼称がこの場に適したものでは無いことに気付いた。彼はそのことを反省し、この場で実姉をどう呼ぶべきかを判断した。

 

 だが、

 

「いや、千冬お姉ちゃん、俺は――」

 

 スコンッ! と、何かの角をぶつけたような軽快な音が教室に響き渡る。千冬に手に握られた出席簿が彼の頭を打った音だ。

 

「織斑『先生』だ」

 

 懲りない奴だ、と思いつつも根気よく訂正するあたり、実は結構特別扱いしているのだが千冬は気付かなかった。

 

「いや、ちーちゃん、おれ――――ッ!」

 

 瞬間、千冬のタイトスカートからスラリとのびる脚が翻り、ゴスンッ! と先ほどまでとは明らかに質の異なる鈍い音が響き渡った。

 ぬおお! といううめき声が響き、一夏の身体が力なく机の上に倒れ伏した。

 

「つべこべ言わずに織斑先生と呼べ」

 

 千冬はそんな馬鹿の頭の上に手を置くと、グリグリと力を込めながら絶対零度の瞳で命令した。今度は一切甘やかさなかった。脳裏で兎が笑った気がして微妙に腹立った。

 

「……や、了解(ヤー)、織斑先生」

 

 その返事にうむ、と頷いた千冬は猫の子でも持つように彼の襟首を掴み上げると、かくかくとその身体を揺らしながら命令を付け加えた。

 

「ほら、さっさと自己紹介をしろ。他人を惑わすような虚言戯言無しで簡潔にな」 

「わ、私は織斑一夏です。今後ともよろしく……」

 

 そこまで言って彼の震える首はがくんと下がった。

 

「よし、この馬鹿の自己紹介は以上だ」

 

 千冬の手が離され一夏は再び机に伏した。その様はもはや完全に糸の切れた人形であった。

 このやりとりで姉弟なのがクラスの人間に完全にバレたが、二人の様子に全員頬を引き攣らせておりどう反応すればいいのか判断できずにいた。というより今の千冬相手にそのことを指摘すれば、確実に睨まれるとクラス全員が察していた。

 

 なお余談だが、織斑姉弟と旧知でありその片割れとは共に剣道場に通った間柄であるポニーテールの剣道少女は頭を抱えて机に突っ伏していた。

 

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、結局自己紹介は終わらなかったことを明記しておく。

 

 

 そして真耶はずっとたぬー……と泣いていた。

 

 

 

▽▲▽ ▽▲▽ ▽▲▽ ▽▲▽

 

 

 

 授業終了を知らせるチャイムが鳴り、教室にはモニターの端末を操作するデジタル音や筆記用具を置いたりノートを閉じるアナログな音が溢れた。

 

 IS学園では入学式当日から最初の授業が始まる

 学園の生徒は通常の学校で言うところの一般科目レベルの内容は、既に筆記試験をパスするためにそれぞれの出身国で身につけている。それは膨大な数に昇る受験者の中で勝ち残るための最初の壁だ。

 

 そうして入学した少女達は今度はその知識を『基礎』として、より応用的な内容を学ぶことになる。それは日本で言えば知識を詰めこむことに傾いていたそれまでの授業とは異なり、より自分で考えることを求められる内容となる。IS学園にはそのための一般科目専門の教師も在籍している。

 

 こうしたカリキュラムを経た学園の生徒はISの知識は勿論、それ以外の様々な知識をバランス良く持ち、さらにはそれを活かすために何をするべきかを自分で考えることの出来る人材となって巣立っていくのだ。

 

「……ふう」 

 

 一夏は息を吐きながら身体の凝りをほぐすように伸びをした。

 慣れない環境で緊張した、というようなことは特になかった。そのようなまっとうな神経など彼は持ち合わせてはいない。

 彼の神経の図太さは自他共に認める強靭さを誇っており、まだ遭遇(であっ)て数時間しか経過していない一年一組のメンバーにさえも、それは共通認識として受け入れられつつあった。

 

 世界で唯一ISを扱える『男』として世に認識されたその日から、彼の日常は絶えず他者からの視線に晒されるようになった。それもそのはず、ISは女性にしか使えない――――それは子供でも知っている常識である。

 にも関わらず彼――織斑一夏は何故かそのISの起動に成功した。男であるにも関わらず。

 一般人はもちろん、様々な国の政府関係者やIS研究者、得体の知れない企業、組織が彼に興味を抱き接触を図ろうとした。

 

 幸いにも日本政府にしては迅速な要人保護プログラムの適用を受け、そうした組織の人間が許可無く彼に接触することが禁止された。そして身辺に警護の人間が密かに配備されるようにもなり、そういった人間の接触はほとんど無くなったのだが、一般人の不躾な視線までは止めようがなかった。

 

 彼に向けられた視線の中には、好奇心以外の仄暗い感情のこもったものも少なくなかった。

 人は自分の内に無いものを持つ他者に対して嫉妬する。特別な存在というものに憧れもするし、突き出た存在を排斥しようともする。

 

 自分が享受していた特権を揺るがそうとするものに穏やかな感情を向けることはできないだろうし、手に入れれば他社や他国に先んじれば莫大な利益が入る可能性がある存在がいたら、手を伸ばそうとするのも仕方のないことだろう。

 

 そして普通の人間が長期間そのような濃密な視線に晒されば精神的に疲弊してしまうであろうことは明白だ。

 だが、元々の育ってきた環境と周囲の人間の影響で斜め上に真直ぐに育まれた一夏の性根は、そういった視線に晒されても決して揺らぐことはなく、むしろその頑強さを一層強化させたのであった。

 

 そんな彼にしてみれば、現状のように多数の女子生徒の中で男が自分一人という聞くだけで胃が痛みそうな状況にあったとしても、同年代の小娘たちに向けられる好奇の視線(時には大人の事情が絡んでいる者もいるが)程度は余裕を持って受け流すことができた。

 

 我が事ながら実に理不尽な状況に晒されている、とは思わなくも無かったが、それは一重に自分の身を守るための措置であることは理解していた。おまけにIS学園の教育制度は極めて充実しており、学園卒業後の生徒の進路は一部の変わり者を除けば皆一様に良い条件の職に就いていることも大きい。

 

 彼に両親はいない。肉親は織斑千冬ただ一人。そして幼かった一夏は自分が実姉にただ養われ、苦労をかけていることを申し訳なく感じていた。彼のそんな考えに気付いた千冬が『気にするな』と言ってくれたため後ろめたさは軽減されたが、一刻も早く職に就いて実姉の力になりたいという想いは一層強まった。

 

 そんな一夏にしてみれば条件の良い場所への就職率が高い学園への入学は渡りに船であり、これから三年間男一人で過ごすことに対する憂いなど微塵も無く、ただただ己を磨き、知識を得て、力をつけていくことに何の迷いも無い。

 

 故に、彼がこの状況に与えられる緊張は皆無だ。むしろ余裕さえ感じていた。

 そうして彼の内側からあふれる余裕の発露は、授業中の鼻歌付きのペン回しという形で結実し、その手中におさめられた細身のシャープペンシルは風切り音を出しながら高速回転していた。

 

 幼少の頃より特に意味も無く鍛えてきたその業(わざ)から彼は『イチカ・カザキリ』という異名を付けられ、近隣のペン回し業界を荒らしまわる謎の孤狼として恐れられた。

 無謀にも彼に挑んだ猛者たちは皆、その十指の間で生きているかのように動き回るペンの軌跡の前に敗北した。

 

 授業中彼が持つペンはその畏怖の感情を込められた異名に相応しい回転速度を叩き出し、その回転に比例して真耶の愛らしい眼(まなこ)からはとめどなく涙があふれた。そして一夏は出席簿に制圧されて机に突っ伏し、ペンは宙を舞い、窓際の剣道少女を頭痛が襲い、世界のどこかで兎耳がくしゃみをした。

 

 そしてこのやり取りによって、クラスの人間の彼への評価はうなぎ上りとなった。ただしななめ上に。

 

 ついでに己の無力さに絶望した真耶は、世のままならない様にぽんぽこ涙したのであった。

 

 

 何はともあれ、そんなはぢめての授業が終了した彼は、ノートに『ペンの回転速度と山田先生の涙量の相関関係』なるレポートを極めて真剣な表情でまとめていた。完全に確信犯であった。

 

 そんな彼には現在多数の人間の視線が向けられている。それらの視線は教室の出入り口にある扉の内と外で、その性質を異ならせていた。

 織斑一夏という人間をまったく知らない外側の人間は、彼の整った顔立ちとノートをまとめている真剣な表情を見て頬を赤く染め、想像によって補強された好意的な視線を向けている者が少なくない。

 

 ISは女性にしか扱えない。故にISに携わる環境はほとんどが女性で構成されている。彼女達もその例外ではなく、つまり何が言いたいのかというと彼女達は男慣れしていなかった。

 

 全員がそういうわけではないのだが、そうでない生徒も唯一ISを扱える『男』であり、憧れの的である織斑千冬の弟であり、悪くない顔立ちをした彼に少なくない興味を持っていた。

 しかし今回わざわざ教室まで見に来ているミーハーな生徒達には、先に述べた方の人種が多かったようである。

 それに対して織斑一夏という人格の発露に間近で晒された一年一組の人間は、次はどのような突飛な行動に出るのだろうという好奇心、恐れ――――でも顔は良いのよね、背も高いし、という外の人間と同種の感情等が入り混じった複雑な視線を向けていた。

 

 両者に共通しているのは、そのどちらもが織斑一夏という人物が発する独特の雰囲気に物怖じして、未だに交流の切欠をつかめずにいる点であった。

『一声かけて色々なことを聞いてみたい、でも……』という躊躇いが足を踏み留まらせ、互いをけん制し合い、いつのまにか『抜け駆けは駄目よ!』という空気が醸し出されている。 

 

 そのような状況を打破したのは――――

 

「……ちょっといいか?」

「んあ?」

 

 何故か痛みを堪えるように頭を抑えた、六年ぶりの再会となる幼馴染の少女だった。

 




前半は色々と後先考えず捏造盛り込み。後半は大体前と同じです。ちなみに前半登場の名無しの北九州出身少女は原作一巻の最初の方で千冬さんに憧れて北九州から来ました的な台詞を言ってた子という設定です。毛先のはねた短髪という設定はアニメの映像由来。

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