幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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男の子はたたかれて強くなるもんさ

 

 

 

人里の外にある田畑。そこは普段人が住まうテリトリーから外れるギリギリ一歩手前にある。

 

 

幻想郷に住む人間にとってそこは普通に考えれば危険区域。好き好んで出て来る所ではない。しかし、人里の人間全員が暮らしていくにはそれ相応の食料がいる。

 

 

里の人間が必要とする分の食料を得る為に、時に人は危険な場所へも足を運ばなければならない。

 

 

 

 

その中で特に人里から離れた田畑、その一角に少年がいた。

 

 

通常、里の人間が里から出る際には複数の人数徒党を組み尚且つある程度の備えをして出るものである。

 

 

しかし、里から最も離れた場所、つまり一番危険な場所にまだ幼い少年がたった一人でいる。それだけではない。少年の右腕と左足は骨が折れているのか木で補強されている。手足だけではない。胴体にも板が体を矯正するように包帯で巻かれたいた。

 

 

少年は松葉杖を突きながら畑の周りを歩いている。

 

 

少年は誤って此処まで来てしまったのだろうか?いや、そうではない。そもそもこんな大怪我をしている子どもがこんな所にまで出歩いている方がおかしい。本来ならば家で静かに療養するべきだ。

 

 

では何故彼はここにいるのか?自ら進んで来ているわけではない。彼がここに居るのは、それが彼の役割だからだ。

 

 

人里と言う社会から強制的に押し付けられた、辞することの出来ない役割。最も危険な場所での農作物の守護。そんな案山子のような単純で、唯相手にするのが鳥ではなく妖怪というだけの危険な作業が少年、ひしがきの与えられた役割だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたとき俺は人里に戻っていた。

 

 

運んでくれたであろう博麗の巫女の姿は無く、俺はそのまま里の医者に治療を施された後、ある程度体が動くようになるまで休んでいつもの生活に戻るように言われた。

 

 

……まあ、最悪体を引きずってでも行けといわれるんじゃないかと予想はしていたので俺は素直にそれに従った。これまで家にはあまり帰らずに里の宿舎に寝泊りしていたがさすがに今回ばかりは相手が悪かったので、里の誰からも咎められる事は無く俺は久しぶりに家でゆっくりと過ごした。

 

 

いつ以来だろうか…家族と家で一緒に過ごすなんて。久しぶりだからだろうか、貧乏子沢山で苦しい生活をしていたはずなのに、今の家はどこか余裕があるように見える。実際家で仕事を手伝っていた兄弟の何人かは寺子屋に通っていた。

 

 

いつの間に家計は安定していたのだろう?まあ、俺としてはゆっくり傷を癒しておけるならば言うことはなかったので特に何も聞かなかったが。

 

 

 

 

休んでいる間俺は色々と考えることが多かった。

 

 

まず一つが自分の力不足。雑魚妖怪相手に苦戦を強いられる自分だったが今まで何とか生き延びて(危ない時も多くあったが)来れたのでこれからも何とかなるのではないかと思っていたが今回の件でそんな楽観的な考えは打ち砕かれた。

 

 

よくよく考えれば人里を襲う妖怪は何も今まで相手にしてきた力の弱い妖怪ばかりではないのだ。そして今の自分がこれからも生き延びていくためにはあまりに力が脆弱過ぎる。

 

 

今回はたまたま助けられたが早々何度も都合よく助けは来ないだろう。今以上に生き延びる術が必要だ。

 

 

二つ目はあの時、ルーミアが俺を殺そうとした時に発動した黒い結界。死の間際、生存本能によって極限にまで高められた集中力によって限界を超えるなんて事は実際に在り得そうなことではあるがあの結界についてはなにか違和感を覚える。

 

 

そもそも生存本能とは生きたいという生命の意思のようなものだ。自分はあの時既に諦め死を受け入れていた。その自分が死を目前に力に目覚めるなんて事はどうにも腑に落ちない。

 

 

そもそも仮に力に目覚めたとして本当に自分はルーミアの腕を防いだのだろうか?それが未だに信じられない。

 

 

しかし、何はともあれ自分の能力に新たな可能性を見出せたことは僥倖である。今後は黒い結界について考察していこう。

 

 

 

そうして体を休め傷を癒しながらも今後の目標を立て、具体的な方針を考えていた。家での療養はそれなりに楽しかったと思う。弟や妹達は子どもらしく無邪気に遊びながらそれぞれ家で与えられた役割をこなしている。久しぶりに一緒に過ごす俺に色々と話をせがんでくる弟妹との時間は俺を和ませてくれた。

 

 

やはりいつの間にか俺の家は金銭的にそこそこ安定しているようで家族全員が大きな問題も無く暮らしていけるようになっていたらしい。とは言え安定しているとは言え今更俺が普通の子どものように寺子屋に通えるわけではない。俺には既に役割があり残念なことにそれが出来る能力もあるのだ。

 

 

仮に俺がそれを望んでも俺の立場が悪くなるだけで下手をしたらそれが家族全員に及ぶ可能性もある。そして体がある程度回復すると俺は再び畑の警護に戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

畑の片隅、俺は腰を下ろし目を閉じて意識を集中させる。あの時、死を目前にした時の光景。迫り来るルーミアは俺の命を刈り取ろうとその腕を振り上げる。ひどく長く感じた刹那の時間。

 

 

あの時自分は何を感じた?何を思った?何を考えた?

 

 

恐怖?いや違う。そんなものはとっくに麻痺してただ諦観があっただけだ。

 

 

絶望?それでもない。そもそも最初から望みなんてないようなものだ。

 

 

自分が最後に浮かび上がった感情。それは、怒りでもない憎しみとも少し違う。

 

 

自分を取り巻く理不尽に向けての怨嗟の感情だった。

 

 

 

 

「……結」

 

 

目を開ける。そこにはあの時よりも確かな顕現を見せる黒の結界があった。

 

 

以前感情の爆発が能力に影響を及ぼすことを発見した。しかし、それはただ感情が高ぶればいいというわけではなく、それが何の感情で力が増すのかも分からなかった。

 

 

黒い、禍々しい結界。それが発動する感情は『恨み』。それに加えて結界に新たに組み込んだ術式は今までの陰陽道や神道とも違う『呪術』。

 

 

「……う~ん」

 

 

休んでいる間に色々と黒い結界について考えた。恨みの感情に俺の結界が強く反応するのは直ぐに思い当たったが、もしかしたらとためしに呪術の術式を組み込んだのは正解だったようだ。

 

 

「つまり、俺には神道や陰陽道よりも呪術の方が向いてるってことか…」

 

 

『呪術』。いままで結界とはあまりイメージが会わなかったからこちら方面には手を出してこなかったが基本的には儀式めいた術の類だったように思う。

 

 

試しに以前と同じ用に妖怪の毛を置いてみる。するとあっという間に毛は黒く変色し朽ち果てた。それは退魔の術式とは違い滅するというよりも侵すといった表現が合う。しかし、その効果は明らかに呪術の方が上だ。

 

 

だが、それでも疑問は残る。確かに『術の効果』は以前よりも高い。しかし『結界の強度』としてこれはルーミアの腕を防げるほどなのだろうか。いままで『術の効果』と『結界の強度』は比例してその精度が上がってきているがそれはこの黒い結界に関しても同じとは限らない。何しろこれまでとは組み込んできた術の根本からして違うのだ。逆に強度が弱くなっていたとしても不思議ではない。

 

 

仮に今までと同じく強度が上がっていたとしても果たしてあの時突き出された腕を防ぎうるほどかといわれれば半信半疑になってしまう。正直言ってアレを防ぐにはおそらく今までの数十倍の力が必要になってくるだろう。それこそあの時の博麗の巫女が纏っていた力に匹敵する力が必要だ。

 

 

結界を見る。『術の効果』はたった今試した。ならば次は『結界の強度』。出来ることならばある程度強い妖怪を相手に試したいがこんな状態ではいささか異常に不安だ。それでも、ここに妖怪が来る様なら腹を括るしかないがそうでもないなら今は傷を一刻も早く治したい。

 

 

「ま、少なくとも効果は大分見込めるわけだし。あとは追々考えていけばいいか」

 

 

博麗の巫女のおかげで、妖怪が姿を現す頻度は少なくなった。今も安全とは言えないがこうして畑を眺めると何とものどかに感じる。

 

 

「……………ふぅ~~」

 

 

折れた腕と胴体を無事なもう一方の手で確かめるように撫でる。ここ最近は仕事の後家に帰って休んでいる。そのおかげか経過は順調だ。後一月もあれば大分体も動くだろう。

 

 

「家に帰ったらまた話でもしてやるかな」

 

 

幼い兄弟たちを思い浮かべながら穏やかな時間を過ごす。平穏。少し偉そうだが今ならそれがどれだけ尊いものか分かる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ちょうど一月がたったある日。博麗の巫女が重傷を負ったという知らせが人里に届いた。

 

 

 




一旦ここで間を空けます。


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