幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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お久しぶりです。

かなり間が空いてしまいましたが、その分ストックは出来たと思うのでちょこちょこ投稿していきます。

投稿を待ってくれていた皆さま、本当にありがとうございます。


反逆の狼煙……狼煙?

 

 

 

 

「…外はまだ嵐みたいだな。気味が悪いぜ」

 

輝針城の中を魔理沙は飛んで進んでいく。窓から外を見れば、城の外は未だに禍々しい嵐が城を囲むように渦巻いていた。

 

「やれやれ、お宝は一体どこだ?あと、この異変を起こした奴はどこにいるんだ?」

 

城の中を魔理沙は臆すことなく進んでいく。屋内と言う制限された空間にも拘らず、魔理沙は速度を落とすことなく城の中を駆け回っていた。

 

「……ひょっとしてさっきの奴が黒幕だったのか?」

 

魔理沙はこの城に入ってすぐにあった妖怪を思い出す。随分とトリッキーな能力を使って来る妖怪ではあったが、弾幕ごっこにかけては魔理沙は今まで解決してきた異変の経験と努力に裏付けされた実力がある。例え、相手が特異な能力を持っていたとしてもそう簡単に後れを取ることはない。

 

「う~ん、大抵こういう建物にいる奴は一番奥にいる奴が親玉だと思ったんだけどなぁ」

 

そう魔理沙がぼやきながら引き返そうか悩んでいると、

 

「だーれ?」

 

間延びした声と共に魔理沙の目の前に少女が現れた。

 

「あら、巷で有名な魔法使いさん?」

 

赤色の和服で、薄紫色のショートヘアーにお椀を被っている少女。小人の末裔、少名針妙丸が魔理沙と対峙する。

 

「お、よ~やくお出ましか。待ちくたびれたぜ!」

 

八卦炉を片手に、魔理沙は帽子のつばを指で押し上げる。

 

「霊夢達が来る前に、異変はこの私が解決するぜ!」

 

 

 

 

 

 

「ここね」

 

「…うん」

 

霊夢といろはは魔理沙を追って嵐の中を進んでいた。そしてようやく嵐の中心、輝針城に到着していた。

 

「魔理沙は、もう行っちゃったか。まったく、いつもいつも先走るんだから」

 

霊夢は文句を言いながら城の中へと入っていく。いろはもそれに続くが、いろはは少し霊夢の様子に僅かに違和感を感じた。

 

「…霊夢」

 

「なに?」

 

「…どうしたの?」

 

魔理沙の実力は霊夢もいろはもよく知っている。魔理沙は一見単純な力押しの戦い方に見えるがそこには確かな研鑽と考えられた弾幕の戦い方がある。弾幕ごっこと言うルール上の決闘とは言え魔理沙の実力は本物である。たとえ相手が誰であろうとそうそう後れを取ることはないだろう。

 

故にいろはは違和感を感じた。長い付き合いだからこそ分かる、霊夢が焦っていることに。

 

「……………分からない。ただ―――」

 

霊夢はいろはに一瞬目を向けるとすぐに前を見据える。

 

「―――嫌な予感がするだけよ」

 

「……………」

 

霊夢の返答に、いろはも正面を向く。それ以上言葉を交わすことなく自然と二人は速度を上げて城の中を飛んで入っていく。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、またひしがきさんに助けてもらってしまいました」

 

わかさぎ姫は湖の端に腰を下ろしひしがきから貰った薬をポリポリ食べてた。ひしがきの薬は彼の予想通り妖怪にも効果があったようでわかさぎ姫は妖力が回復しているのを感じていた。

 

「はぁ」

 

わかさぎ姫は再び溜息を吐きつつひしがきが去って行った方角を見る。会って間もない人間。これで顔を合わせたのは2度しかない。にもかかわらず既にわかさぎ姫はひしがきに借りを作ってしまっている。

 

1度目は自分が病に倒れた時。自分のために医者の下へ行ってくれた友人を医者の下にまで導いてくれた。間接的にとは言え自分の病を治す一役を担ってくれたのだ。その後、たまたま会った時に礼をしようとしたが結局自分だけ何もできずに別れてしまった。

 

2度目はついさっき。疲労困憊で目を回していた自分にひしがきはこの薬をくれた。おかげで先ほどまでくたくたで動けなかったのに今はだいぶ動けるようになっている。

 

にもかかわらず、自分はさっき礼すらも満足にいえずにひしがきは去ってしまった。

 

(次に会えた時は、今度こそお礼をしないと)

 

わかさぎ姫は頬に手を当て溜息を吐く。

 

「わかさぎ姫ー」

 

とそこへ影浪が姿を現した。

 

「影浪ちゃん…ってあなたも?」

 

影浪の姿はいつもと違い服が所々ほつれている。見れば表情もいつものような笑顔ではなく疲れたように力がない。

 

「うん、まぁ、そっちもみたいだね」

 

影浪もまたわかさぎ姫の姿を見て状況を察したのか苦笑して隣に腰を下ろす。

 

「わかさぎ姫は誰にやられたの?」

 

「私は人間の魔法使いよ。…でも全然敵わなかったわ。」

 

「ふ~ん、こっちは博麗の巫女。でも意外ね。わかさぎ姫が弾幕ごっこするなんて」

 

「うん…。今は大丈夫なんだけど、弾幕ごっこをする前は気分がすごく上がって暴れずにはいられなかったの。…なんでかしら?」

 

「私もそんな感じかなー。博麗の巫女が動いてるってことは何かの異変なのかもね。ん?それ何?」

 

影浪はわかさぎ姫の持つ袋を指さす。

 

「ああ、これ?疲れて動けなかった時にひしがきさんに貰ったの。おかげでだいぶ楽になったの。影浪も食べる?」

 

嬉しそうに両手で丸薬の入った袋を差し出すわかさぎ姫。しかし、それに対して影浪は表情を曇らせた。

 

「?どうしたの影浪ちゃん?」

 

「……ねぇ、姫は博麗の代理って知ってる?」

 

「え?ええ、知ってるけど……」

 

博麗の代理。現博麗である博麗霊夢の前の博麗。スペルカードルールが敷かれる前の殺伐とした幻想郷を担った博麗でありその力は歴代と比べると弱く度々里に被害を出しその結果として人間の妖怪に対する恐怖を強めたとされる。

 

しかし、一方で自ら進んで妖怪を退治したりと妖怪に対しても容赦なく敵対したことで妖怪からもその名は知られるようになった。そして、ある日里に甚大な被害を出したことによって博麗を引いたと言う。

 

それがわかさぎ姫の知っている博麗の代理のすべてである。人間からも、妖怪からも疎まれる存在。その認識は影浪や蛮奇も大差はないだろう。博麗の代理とは彼女たちにとって自分たちとは直接関わりはない、しかし近づきたくはない存在であった。

 

「博麗の巫女が言ってたの………ひしがきが博麗の代理だって」

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

城の中を進んでいく霊夢といろは。

 

すると一際鼓膜を揺さぶる音と共に、城の一部が破壊される音が聞こえた。

 

「…っ!魔理沙っ!」

 

「あっ、いろは。たぶんこの音は……」

 

霊夢の声が聞こえ終わる前にいろははスピードを上げ音の下へ向かう。するとそこには、

 

「へっへ~」

 

「きゅ~~……」

 

八卦炉を構えた魔理沙と、その足元で目を回している小人がいた。

 

「まったく、派手にやったわね」

 

後から追いついた霊夢は呆れながら八卦炉が向けられている先の城の破壊された痕をみる。見事に風穴を開けられた城は中からでも外がよく見える。

 

「おっ、遅かったな。悪いが私が先に終わらせたぜ」

 

魔理沙は得意げに笑う。それを見ていろはは安心し、霊夢は溜息を吐いた後―――顔を険しくした。

 

「魔理沙」

 

「ん?なんだ?」

 

「本当にそいつが異変の黒幕なの?」

 

「え?いや、多分そうじゃないのか?なんか自分がやった的な事を言ってたぜ」

 

「………」

 

霊夢は未だに目を回している小人、少名針妙丸に目を向ける。

 

「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。さっさと起きなさい」

 

「う~~ん………」

 

霊夢が針妙丸を揺らすと針妙丸は小さく呻きながら薄く瞼を開く。

 

「…あれ?ここは?」

 

「あんたの城の中でしょ」

 

針妙丸は辺りをキョロキョロと見回した後、ハッと顔を上げた。

 

「…そうか。この小槌の力をもってしても、私たちは下剋上を成すことは出来なかったの……」

 

「下剋上ですって?」

 

「うん。私たち小さき者、弱き者たちが安心して暮らせる世界。理想郷を作ることが私たちの夢だったんだ」

 

「なんだそりゃ?別にそんなの作らなくたってこの幻想郷なら小さかろうが弱かろうが住む分にはそんなに難しくはないんじゃないか」

 

「…うん。この幻想郷には弱い子も小さい子もいっぱい暮らしてる」

 

「え~!それ本当!?」

 

驚いた針妙丸顔を上げて霊夢達を見上げる。

 

「まあ、わざわざこんな異変を起こさなくても別に幻想郷は誰も拒みはしないわよ」

 

「で、でも、正邪はそんなこと一言も……」

 

「正邪?誰なんだそいつ?」

 

「私の仲間よ。正邪のおかげでこの打ち出の小槌を手に入れ、この輝針城を再び世に出すことができたの。正邪は言ってた。幻想郷は強者が支配する世界だって。だから私はこの世界で下剋上を起こし、弱者の見捨てられぬ世界を作ろうとしていたの」

 

針妙丸の言葉を聞いた霊夢達は一様に顔を見合わせる。この小人が言っていることが本当ならば、彼女をけしかけた正邪なる存在が裏で糸を引いている可能性がある。

 

どんな意図があれそいつがこの異変を起こした真犯人であることを霊夢達は察した。

 

「ふーん、まあいいわ。とりあえず今すぐこの城しまってくれないかしら。あと勝手に動き回ってる道具も何とかして頂戴」

 

 

 

「そいつはちょ~と待ってくれよ」

 

 

 

魔理沙によって破壊され大きく開いた城の穴の外から、神経を逆撫でするような声色の言葉が聞こえた。

 

霊夢達が声のする方に顔を向けると、そこには逆さに浮いている鬼人正邪がいた。

 

「あっ、あいつはさっき私がやっつけた妖怪」

 

「正邪!」

 

針妙丸の呼んだ名前に一瞥した霊夢は正邪に向き直った。

 

「あんた?こいつにあることないこと吹き込んで異変をけしかけたのは」

 

霊夢の問いに正邪は口を歪ませくくっと声を漏らす。

 

「けしかけるだなんてとんでもない。私はちょいとばかり本当の事を教えて後押ししただけですよ?まぁ、本当の事とは言ってもちょっと古かったかもしれないですけどねぇ、くくくっ」

 

ケタケタと嗤う正邪を、霊夢は無言で見つめる。

 

「正邪!どういう事なの!?幻想郷は」

 

針妙丸が正邪に問いただすと正邪は笑いながら答える。

 

「すいませんねぇ、姫。今思い出したんですが幻想郷では強者が弱者を支配していたのはちょっと前の話でして、今では随分と住みやすくなったようですよ?」

 

「そ、そんな……」

 

「とは言っても私が言ったことは全部が全部間違いってわけでもないですよ姫?幻想郷はだいぶ住みやすくなった。それは間違いない。ただし、弱者の犠牲によって今も強者が上にいる事には変わりない。ね?私の言ったことは間違ってないでしょう?」

 

「おいおい、ちょっと待てよ。なにもそこまで幻想郷は物騒なところじゃないぜ」

 

「…うん。昔とは違う。今は、ちゃんとみんな安心して暮らしてる」

 

魔理沙といろはが正邪の言葉を否定する。彼女たちは一昔前の人間と妖怪の間に深い溝が合った頃の幻想郷を知らないわけではない。

 

彼女たちが正邪の言葉を否定するもっとも大きな理由はスペルカードルールが敷かれてからこれまでに起きた異変の解決に関わってきたからだ。相手を殺さずに勝敗を決める決闘方法である弾幕ごっこ。彼女たちはそれを持ってこれまで多くの異変を解決してきた。

 

そしてその中で多くの人ではない者たちとの関係を結んできたのだ。そしてその影響は彼女たち以外にも広がっていった。かつて人里で恐れられてきた妖怪たちが、少しずつ人里の輪の中に入ることが出来るようになったのである。

 

もちろん、完全に輪の中に入ることが出来ているわけではない。今でも里の中では妖怪を恐れ嫌う者たちも多くいる。弾幕ごっこをしない理性のない妖怪たちもいる。それでも、変わってきているのだ。幻想郷は。確かに新しい風が吹いてきているのだ。

 

その中心に居るとも言っていい彼女たちは、だからこそ正邪の言葉を否定した。

 

「………」

 

その中で唯一、霊夢だけが何も言わず正邪の言葉を聞いていた。

 

「……くくくっ、そうかいそうかい。それじゃあやっぱり私達と幻想郷は相容れないなぁ」

 

「……正邪、もういいよ。幻想郷が私たちに敵対しないなら、私たちは何もする必要はない」

 

先程の会話から、針妙丸は自分が異変を起こす理由がないことを察した。ならば針妙丸に異変を起こす必要などない。故に正邪にもういいと伝えた。しかし、

 

「何言ってるんですか?まだまだこれからですよ。ここから本当の下剋上をして私たちの理想郷を……」

 

「はっきり言ったらどう?」

 

正邪の言葉を霊夢が切る。

 

「あんた、別に下剋上とかどうでもいいでしょ」

 

霊夢の言葉に一瞬驚いたように目を丸くした正邪は、ニタリと再び顔を歪めた。

 

「へぇ、どうしてそう思うんだ?」

 

正邪の声色が変わる。さっきまでの癇に障る敬語をひっこめどこか試すように正邪は霊夢に問いかけた。

 

「別に?ただの勘よ。それにどう見てもあんたは自分以外の誰かの為に何かをするようなやつには見えないしね」

 

「くっくっく、そいつは御もっとも。まぁそこのチビみたいに馬鹿正直に他人に話を聞くような奴ばかりじゃないよなぁ」

 

「せ、正邪……」

 

愕然とする針妙丸の前に霊夢、魔理沙、いろはの三人が正邪の前に立つ。

 

「ま、とにかくこいつをとっちめれば異変は解決ってことだよな。あ~あ、私が一番に解決したと思ったのによ」

 

「馬鹿なこと言ってないでさっさと終わらせるわよ」

 

「…ん、行く」

 

3対1。霊夢たちは正邪に手加減などするつもりはなかった。それは目の前の存在が、今までとは違い純粋に悪意から異変を起こしたからと察したからだ。3人が3人とも、心の内で正邪に対して僅かに怒っていた。

 

しかし、その圧倒的に不利な状況にもかかわらず、正邪は嗤う。

 

「ケケケッ、こいつは怖いな~。弱い者いじめは良くないぜ」

 

「へっ!安心しな。直ぐに終わらせてとっ捕まえてやる!」

 

そう言って魔理沙が飛び上がり正邪に向かって突撃しようとした。

 

瞬間、魔理沙たちの視界がガクンと揺れた。

 

『!?』

 

正邪が嗤う。

 

「それが出来たらな」

 

 

 

逆さ城が、幻想郷目がけて落ち始めた。

 

 

 

 

 


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