凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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いろんな作品のせいで頭が・・・・・・。


第九話  考え事と悩み

 あれから数日、俺は考えた。至さんがアカリさんに本気なのかどうか、そうだとしたら美海はどんな気持ちなのか、俺なりに考えた。至さんはミヲリさんのことを忘れた訳じゃないけど、アカリさんのことは好きだろう。美海の気持ちがどうだとしても、アカリさんと至さんがどうなるかは変わらない。

 

 美海の気持ち・・・・・・それは、父さんに俺が再婚話を持ちかけたときと、一緒の筈だ。自分は死んだ母さんのことを忘れられずに、家に止まった。それも、結果のうちの一つだろう。美海は死んだミヲリさん大好きだった。だからこそ、他の人が来るのが許せない。俺も他の人がいやだから、父さんから離れた。

 

「ちょっと誠、誠・・・・・・!」

 

 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。誰だか知らないけど、俺の考える邪魔をしないで欲しい。俺は今、

考え事をしてるんだ。少しそっとしておいて・・・・・・。

 

 ──シュッ!! って、痛!?

 

 俺の手を包丁が掠めて、おろされた。俺は意識を思考の中から引っ張り起こして、周りを確認するのだが、状況が分からない。

 

「ちょっと誠! 大丈夫!? 手に包丁が当たらなかった!?」

 

「え? あっ、悪いな、チサキ。俺、ちょっとこの授業休んでるから、おまえ等だけで作ってくれ」

 

 俺はやっと現実に意識を引き戻して、包丁を見つめた。どうやら、さっきまで俺に話しかけていたのはチサキらしい。俺の右手に包丁。左手は、切り刻まれた白菜が・・・・・・というか、切りすぎた。白菜は四分の1しか使わないって話だったのに・・・・・・。

 

「もう、誠にも苦手なことなんてあったんだね。でも、料理ってそんなに苦手だった?」

 

「いや、料理だけは負けないよ。ちょっと考え事をしてただけだから」

 

 俺の指先から小さな赤い点が現れて、小さな小さな川を作る。俺はそれをティッシュで拭おうとして、ポケットに手を突っ込んだ瞬間、怪我した手をチサキにとられた。そして、それをチサキが自分の口に持って行き、くわえる。

 

 え・・・・・・? 何してるんですか? 

 

 俺の思考は正常に作動しており、幻覚なんて見てないはずだ。

 

 チサキは俺の指から口を離して、こっちを見た。光とマナカ、要は顔を赤面させて、口をパクパクと動かしている。どうやら、言葉にもできないようだ。そう言えば、俺も一度、ミヲリさんの家で包丁握ったとき、こうされたな。まあ、最初の話なんだけど、それからミヲリさんは包丁を使わせてくれなくなった。

 

「誠、保健室行ってきなさい。今すぐ行かないと、ばい菌入っちゃうよ」

 

「いやいや、ちょっと待て。おまえ、何してんだよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・っ!?」

 

 どうやら、今さら自分の行動に気づいたようだ。顔を赤くさせて、ボフンッて音がしたかと思うほど真っ赤になった。そして、マナカの後ろに隠れる。

 

「へえ~、おまえ等って、そんな関係だったんだな」

 

「海の奴らって、手が早いんだね~。もう発情期ですか」

 

 陸の奴らが茶化してくるが、俺は無視。茶化されたところで、別に事実でもないから、あわてる必要もない。陸の女子は、顔を赤くさせている。そんな中、慌てる馬鹿が1人・・・・・・。

 

「ままま、まーくん! まーくんってえっちだよね! こんなこと、まだしちゃいけないと思うんだ!」

 

「お、お前何やってんだよ!? こんな大勢の前で!!」

 

 やっぱり、二人に訂正だ。マナカも光も、これぐらいで騒いでるから、くっつけないんだろ。要は冷静とまではいかないが、何時も通りだ。

 

「何って、俺だけ? お前ら、見てただろ? 何で俺だけ責められてんの? それに、俺はそんな関係になった覚えはない。俺は保健室行ってくるから、あとはよろしくな~」

 

 俺は面倒になりそうだったので、調理室から出た。これで、考える時間は十分に出来たし、あいつらが料理を作り終えるまで待っていよう。

 

 

 

 

 それから、俺は1人で保健室に行った。そこまでは良いが、保健室には保健の先生すらおらず、自分で絆創膏を貼って、治療は終了。・・・・・・と、なるわけはなく。好き勝手に今まで独学で学んできた医学の知識を使って、少々遊んできた・・・・・・ではなく、学んできた・・・・・・じゃなくて、治療してきたのだ。そのお陰か、どれがどの薬か簡単にわかり、すぐに終わってしまった。

 

 そして、俺は今、調理室の扉に手をかけて開ける。と同時に、大きな音が響き渡った。

 

 ガシャン───!!

 

 俺の視界には、尻餅をついているマナカと、その横に転がる割れた皿。さらには、ちらし寿司の中身が全部、床にぶちまけられている。

 

「謝れ!」

 

 紡が男子生徒2人に向かって、謝罪を求める。紡がそう言うって事は、そこで突っ立っている男子生徒2名が悪いのだろう。

 

「・・・・・・す、すまん」

 

「・・・・・・悪かった」

 

 こういう時に頼りになる紡は、海の人間にとっては、いい存在だな。こうして、俺はちらし寿司を食べることなく、調理実習を終えるのだった。

 

 

 そうして、授業が終わってから、俺たちは教室にいた。マナカとチサキは少し、悲しそうな顔をしており、光は怒って、紡のおじいさんが言っていた嵐だった。

 

「ちらし寿司、残念だったな」

 

「あまり仕事してないお前が言うなよ・・・・・・。というか、お前のせいで白菜が無駄に多かったんだから、それ使っただけでも感謝しろ!」

 

「じゃあ、今度、俺の作れる最高の料理を食わせてやるよ」

 

「ああ、もう! むしゃくしゃする! 俺、おじょしさまみてくる!」

 

 光はそう言って、ズンズンと歩いていった。

 

「あっ、私も!」

 

「え? 待ってよ、マナカ!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 マナカとチサキはそれを追うように小走りに歩いて、光についていく。俺と要は顔を見合わせて、

ため息をつく。

 

「まあ、行こうか」

 

「そうだね・・・・・・」

 

 俺と要は光達を追いかけて、教室を出た。俺たちが向かうのは工作室で、作っている途中のおじょしさまを置いてある。

 

 渡り廊下を歩いて、光たちが入っていった工作室を目指すのだが、突然、光が工作室から凄い勢いで飛び出してきた。俺は気にせずに、工作室の中に入る。

 

 そこには、落書きと取れた首のおじょしさまが転がっていた。多分、光はこれを見て、あいつらを殴りに行ったんだろう。

 

「誠・・・・・・! 光が!」

 

「チサキ、もう手遅れだ」

 

 俺はそう言いながら、おじょしさまの落書きの仕方を見てみる。顔には、なんともおかしなマークなどがついており、笑えてくる。クルクルと頭を回していると、名前が書いてあるのを見つけた。

 

 『さゆ、三じょう』・・・・・・うん、漢字を間違えてるね。

 

 美海がこんな事に加担したと思えないし、調べに行くかな? というか、昨日、説教したばかり何だよね。

 

 

 光が昨日、至さんの乗る車を見つけて、追いかけていった。俺は光がまた殴るかもしれないので、

俺も光を追いかける。そこで会ったのは、美海とさゆ。サヤマートの前で、張り込みみたいな事をして、光を気絶させようと、ハンカチで口をふさいだ。だが、子供の見たまま知識では、光を気絶させれずに、はがされてしまった。そして、美海が『パパとあの女を別れさせるのに協力して』と言い、

光は驚く。それから、光は美海の申し出を断り、俺が美海の頭を撫でて説教。その後に光に甘いとかなんとか言われたが、俺にはそこまでキツくできるわけではないので仕方無い。まあ、昔から美海は俺の言うことをちゃんと聞くけど。

 

 

「チサキ、要、マナカ、俺は早退するって先生に言っといて。理由は何でもいいや。兎に角、俺は今から早退するから」

 

「えっ!? ちょっと誠!?」

 

「まーくん! 早退ってなんで!?」

 

「あはは・・・・・・誠は自由だね」

 

 俺は後ろで何か言っているチサキ達を置き去りにして、学校から出て行くのだった。

 

 

 

 

 それから数十分後、俺はサヤマートの近くまで走って来た。もう既に、視界にはサヤマートの看板が見えている。俺は音をあまり立てずに、サヤマートの前を通る。そして、あの時のように壁にガムで文字を書いている美海がいた。

 

 俺はそのまま、美海がいる壁のすぐ裏に行き、バレないように座った。さっき早退してきた俺が言うのもあれだが、話しかけるしか無いだろう。

 

「こんなとこで、またサボってるのか?」

 

「・・・・・・誠、怒ってる?」

 

「いや、俺も学校、今さっきサボってきた。それに、気持ちもわかるし、怒るわけないだろ」

 

「誠は・・・・・・私の気持ちがわかるの? 私は今まで・・・・・・!」

 

 俺と美海が話そうとしていると、そこに本命というか、犯人が現れた。しかも、堂々と俺がいることを知らずに、美海に自慢する。

 

「美海! やってやったぜ! あのタコスケが大事にしてたおじょしさま、顔を落書きして、ボッコボコのバッキバキにしてやったぜ!」

 

「・・・・・・っ!?」

 

 さゆちゃんの自白に、美海の息をのむ音が聞こえた。どうやら、少し動揺しているようだ。本当はそこまでやる気も、昨日の説教も覚えているのだろう。

 

「あのタコスケ! 今頃、おじょしさま見て───」

 

「なんで! なんでそんな卑怯なことしたの! さゆの馬鹿!!」

 

 あっちでは、どうやら喧嘩しているみたいだ。駆けるような足音が聞こえ、サヤマートの出口あたりから美海が走っていくのが見えた。俺は立ち上がり、美海が走っていった方に俺も走っていった。

 

 

 

 

 それから美海を追いかけて、俺は追いついた。そして、手を掴んで、引き止める。美海はふりほどこうとしながら、俺は足を蹴られた。

 

「離して! 私は、私は───!!」

 

「あんなこと、頼んでもないし、する気も無かったんでしょ?」

 

 俺が美海の言うことを遮って、自分の考えを口にする。そうすると美海は、暴れるのをやめて、冷静になった。俺は手を離して、美海の目線に合わせる。

 

「・・・・・・どうして、わかったの?」

 

「俺が早退してきた理由はさ、美海がさっきの事を一緒にやったか気になってね。まあ、予想通りになったわけだけど。それにさ、俺、ミヲリさんにお礼を言ってないんだ。家に・・・・・・一緒に行こう」

 

「・・・・・・わかった」

 

 こうして俺は美海と一緒に、ミヲリさんの家・・・・・・美海と至さんの家に行くことになった。

 

 それから道を歩き続けて、数分たった後、俺は思いついた。今は美海は俺の後ろを歩いていて、俺はゆっくり前を歩いて、無言の状態が続いている。

 

「そうだ、昔みたいに手でも繋ぐ?」 

 

「私、子供じゃない。それに、もうすぐつく」

 

「そうだったね・・・・・・」

 

 はい、これで会話終了。俺はこの空気をどうにかしようとしただけなのだが、今だに何かを怒っているようだ。それも、俺に関して・・・・・・。

 

 もう既に日は暮れており、辺りは暗い・・・・・・。そして、すぐそこには馴染みのあるアパートが見えた。昔はよく、ここに来てたのにな・・・・・・。でも、あの日からは来れなかった。

 

 俺と美海は階段を上がって、目的の部屋を目指す。そして、最後まで登り切ると、誰かとぶつかりそうになった。

 

「おっと!」

 

「おわぁ!」

 

 俺はぶつかりそうになった相手をみる。相手は波中の制服を着ている男子生徒、それどころか見覚えがある。

 

「あっ、光にマナカか?」

 

「って、お前、誠かよ。お前こそ早退したくせに、何してんだよ?」

 

「あんたたち、こんなとこで何してんの」

 

 言い争う俺と光に、こんなとこで予想外な登場の光に不機嫌そうな美海が、聞いてきた。

 

「それがよ。あのあと、あいつら殴ったんだけど、早退させられてさ。それで海に帰ったら、上からあいつが落ちてきたんだよ。そんで、今帰るとこだ」

 

「ははは・・・・・・至さんか・・・・・・」

 

 どうやら、至さんが海に潜ってきたようだ。光の早退の話を聞いて、美海は小さくつぶやく。

 

「おじょ・・・・・・」

 

「ん? なんて言ったんだ?」

 

 聞き返す光。俺は黙って、美海の言いたいことを聞こうとした。

 

「おじょしさま、私が壊したの! 私が悪いの!」

 

「え・・・・・・? お前が・・・・・・やったのか?」

 

 美海は自分がおじょしさまを壊したと嘘をついた。それを聞いた光は、難しそうな顔をする。どうやら自分が間違った奴を殴ったことを、理解したようだ。

 

「行くぞ、マナカ。誠も早く帰ろうぜ」

 

「悪い、光。俺はちょっと至さんに用があるから」

 

 俺がそう言うと、光は『そうか・・・・・・』とだけ言って、階段を降りていった。俺は美海に向き直って、問いかける。

 

「一応、聞く。なんで罪をかぶったの?」

 

「・・・・・・なんで、誠は私じゃないって言わなかったの? 私の気持ち、わかったからでしょ?」

 

 美海に当てた質問は、質問で返されてしまった。美海の言うとおり、なんでさゆちゃんを庇ったかはわかっている。

 

 俺は分が悪くなったので、扉を叩いて、至さんに話しかけた。

 

「至さん、誠です。入っても良いですか?」

 

「ああ、誠君かい!? いいよ、遠慮しないで、入ってくれ」

 

 俺は扉に手をかけて、ドアを開けようとする。ドアを開けようとする俺に、美海はとどめの一言を放つ。

 

「なんで、私がいるのに、入って良いか聞いたの? それに、さっきの答えは?」

 

「俺も、なんで美海が犯人じゃないって言わなかったのか、わからないよ」

 

 俺はただ一言、そう答えて扉を開けた。

 




さて、一応言っておこう。
ヒロインは美海です。

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