凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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やっぱり、書きにくいよこのアニメ。


第八話  いざこざ

 あれから数日後、俺は今、うろこ様とマナカと一緒に、一つの部屋にいた。マナカは土下座して、うろこ様に何かを頼み込んでいる。

 

「うろこ様、呪ってください!」

 

「おい、マナカ・・・・・・お前、なにしてんだよ?」

 

 呆けた顔のうろこ様と、真剣なマナカ・・・・・・そして、この光景にビックリする俺。自分から呪って欲しいなんて、マナカってそっちだったのか? いや、俺が見ないあいだにそっち方向に走ったのかもしれない。

 

「お前は何故、呪って欲しいのじゃ? そこの馬鹿は、何度呪われても、そっち側には落ちなかったんじゃがのぅ~」

 

「うるさい、うろこ様。俺にそんな特殊な趣味はねえし、これからもそんな趣味は作らねえよ。マナカの呪われたい理由って、だいたいわかるしな」

 

「あう・・・・・・そ、それは苦しいから、嘘つくのが・・・・・・でも、なんでまーくんが知ってるの?」

 

「ん? 俺が今まで、お前等のことでわからないことなんて、そんなにあったか?」

 

「うぅ・・・・・・ないよ。本当にまーくんって、魔法使いみたいだよね。心をみれる魔法があったら、かけて欲しいよ」

 

 質問に答えるマナカだが、俺にも質問をぶつけてきた。それに、魔法使いね~・・・・・・うろこ様呆れて、酒の入った瓶をゆらりと揺らしながら、暇そうに次の質問をぶつけてきた。

 

「はぁ、なら聞くが、何故苦しいのじゃ? お前が嘘をつく必要が、何処にある?」

 

「えっと、わからないよ・・・・・・。でも、胸がチクチクするんです」

 

 マナカはわからないというような顔をしながら、うろこ様を見ている。迷っているって言うか、自分の中にある感情に気づいていないって言うか、理解できていないようだ。そんなことを考えていると、マナカは立ち上がって、部屋から出ていった。どうやら、諦めたようだ。そんなとき、外から怒声のような声が聞こえてきた。

 

『おい、ちゃんと説明しろ! うろこ様の前で、ちゃんと話せ!』

 

 俺は気になって、外に出ていった。そこには、アカリさんが数人の大人達に掴まって、顔を伏せているところだった。近くには、マナカと光がいる。俺はマナカと光の隣まで、走っていった。

 

「あ、まーくん、アカリさんが・・・・・・」

 

「おい、ガキは引っ込んでろ。これは大人の問題だ」

 

「ちょっと待て、そろそろ、こいつらにも教えといた方がいいんじゃないのか? 村から出て行こうとしたら、どうなるか、教えとかないとな」

 

「追放の話でしょ? そんなの昔から知ってるよ。それに、アカリさんを離してよ。アカリさんなら逃げないし、離しても問題ないでしょ?」

 

 俺が掟を知っていることに驚いたのか、アカリさんを離して、こっちを見てきた。マナカと光は今だに動かずに、呆然と突っ立っている。

 

「何の騒ぎだ?」

 

「あ、宮司様・・・・・・それが、アカリの奴、地上で男を作ってやがったんですよ」

 

「地上で男とイチャついてるのを見た村の奴が居るんです」

 

 光の父さんが現れて、なにがあったかを説明する。それにわずかに怒ったような目をして、アカリさんを見ている。

 

「アカリ・・・・・・本当か?」

 

「・・・・・・」

 

 アカリさんは無言で、答えなかった。

 

「宮司様・・・・・・宮司様んとこから追放者が出たら、示しがつかねえぞ」

 

「・・・・・・悪いが、今日は帰ってくれ。俺がうろこ様のとこに連れて行く」

 

 灯さんは俯いているアカリさんを連れて、うろこ様のいる社の方へ向かった。俺と光、マナカは悲しそうなアカリさんをただ見送り、その場に突っ立っていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 それから1時間後、俺達のところに、アカリさんのことを聞いたチサキと要が来た。俺達は5人で話をするために、波中へと訪れている。そして、今は教室の前だ。廃校になった波中はぬくみ雪が溜まっていて、埃っぽい。

 

「うわっ! なんだよこれ! 埃っぽいじゃねえか」

 

「本当だね。ぬくみ雪が教室の中まで溜まってるよ」

 

 光は教室の扉を開けて、中に入っていく。俺たちも光達の後に続いて、中に入り、机の上に腰を下ろした。

 

「絶対、男のせいだ! アカリが苦しんでるのも、あの男のせいなんだよ!」

 

「ちょっと待て、光。相手の男が悪いって、なんで決めつけるの?」

 

「そんなの泣かしてるのは相手だろ! 苦しめてるのも、相手の男だ! 絶対明日、ぶん殴ってやるからな! ここからは男の作戦会議だ。女子はどっか行ってろ」

 

 うん、ごめんなさい。至さん・・・・・・光は絶対殴ります。俺は心の中で誤りながら、至さんが光に殴られる姿を想像した。あの人だったら、わざと殴られると思うんだよな。俺がそんなことを考えていると、チサキが立ち上がった。

 

「もう、行こうマナカ。光達はほっといてさ」

 

「うん、わかった。ひーくん、酷いことしないよね?」

 

 チサキとマナカが部屋から出て行く。俺も立ち上がって、マナカとチサキのあとを追いかけようとしたところで、光に声をかけられた。

 

「おい、ちょっと待て。どこ行くんだよ、誠」

 

「ああ、俺はその作戦に賛同できないからな。俺はマナカとチサキと一緒に、終わるまで待ってるよ。まあ、手は貸さないけど、一緒に行くからな」

 

 そう言って俺は、教室から出ていった。

 

 

 そして、マナカとチサキを探して校舎の中を歩き回った。見つけたのは音楽室で、こっちでも机に腰掛けていた。俺は勢いよく扉を開けて、中に入っていく。

 

「あれ? 誠、作戦会議はどうしたの?」

 

「俺は参加しないし、止めるつもりだからな。まあ、真意は知りたいから、光を放し飼いって感じかな?」

 

「まーくん、放し飼いって、やることおかしいよ」

 

「俺もいろいろ問題があるんだよ。まあ、光の頭もそのうち冷めるだろ」

 

 至さんが本気なら、アカリさんの応援したいからな。まあ、美海がアカリさんのことを認めるかが問題だけど、嫌いな訳じゃない筈だ。あいつは俺と同じで、ただ、ミヲリさんの事を忘れて欲しくない。忘れたくないだけのはずなんだ。

 

「あっ、ウミウシ!」

 

 マナカが地面をずるずると這っているウミウシを捕まえて、こっちに持ってきた。そのウミウシはお腹が赤くて、綺麗だ。

 

「あっ、赤いウミウシ! 確か、願った人の思いがちゃんとしていないと、普通の石が出て来て」

 

「願いが純粋で、長く続くものだったら、ウミウシが出した石は何時までも、綺麗に輝く・・・・・・」

 

 マナカは優しげな瞳で、赤いおなかのウミウシを撫でていた。それを見たチサキは、ちょっとびっくりしたような表情で、マナカを見ている。

 

「マナカは・・・・・・紡君のことが好きなの?」

 

「えっ!? す、好き!? そ、そんなのわからないよ・・・・・・」

 

「マナカ、お前はどう思う? もし、自分が陸の人間と結婚するとしたら」

 

 俺はマナカにもしもの質問をした。それは、今も苦しんでいるアカリさんの気持ちを少しでもわかるかな? と思って、咄嗟にでた質問だった。

 

「もし、私が陸の人を好きになって、キスしたいとか・・・・・・って、私えっちだよね!?」

 

「ううん、マナカはえっちじゃないよ」

 

「そうだぞ。そういうことをしたいってのは、当然だ。好きな人と愛し合いたいとか、一緒にいたいとかの感情は、抑えなくてもいいんだよ。人間は、海も陸も、同じ人間なんだから。今の大人達は睨みあっているけど、好きとかはいい感情だと思うぞ」

 

「ええええ!! 誠、エッチだよ!!」

 

「そうだよ、まーくん! まーくんがそんなにえっちだと思わなかったよ!!」

 

 マナカとチサキは赤面して、えっちとかなんとか言ってくる。俺は真剣に言っただけなのに、なんで俺は『えっち』だとか言われなければいけないんだろうか? 第一、えっちの基準てなに?

 

「おい、真剣に人が言ってるのに、それはないだろ。はい、マナカ続きを言えよ」

 

「あっ、そうだったね。私は・・・・・・それで付き合って、結婚したいって思うのかな? 好きになってその人とずっと一緒にいたいと思って、海に戻れないのかな・・・・・・」

 

 ガラッ──!!

 

 俺達が話していると、ドアを勢いよく光が開けて、中に入ってきた。

 

「オーッス、帰るぞ。誠、マナカ、チサキ」

 

「やっと終わったのか、光。じゃあ、帰ろうぜ」

 

 多分、光は聞いていただろう。タイミングよすぎるしな・・・・・・。そして、俺達は明日、作戦を決行することになった。

 

 

 

 

 翌日、俺、光、要、マナカ、チサキは鴛大師漁協の建物が見える山上に立っていた。と言っても、

すぐ下に階段があって、降りれるようになっている。

 

「光、本当にやるの?」

 

「当たり前だろ。ぜってー、ぶん殴ってやる」

 

「もし、悪い人じゃなかったら?」

 

「軽くぶん殴る」

 

 聞いてくるチサキに、理不尽な答えを返す光・・・・・・。ぶん殴るのは止めないんだな。本当に至さんが可哀想になってきた。

 

 俺たちが話している間に、漁協から見覚えのある車。至さんの乗っている車が、何処かに行こうとしているのが見えた。

 

「あれ、あの人じゃない?」

 

 マナカが至さんに気づいて、指差した。どうやら、味方は俺以外にいないようだ。それを見た光は勢いよく飛び出して、道路に出た。俺たちもその後を追いかけて、ついていく。

 

「くそっ! あのやろう逃げやがった!」

 

「おい、会う約束してないのに、それはねえだろ」

 

「そうだよ光。あの人、私たちのことを知らないんだよ?」

 

 訂正、味方をもう1人発見。俺が会ってくればよかったのだが、教える気もない。俺が見送ろうとしている間にも、光は足掻いていた。

 

 そして、何処からか自転車を持ってきて、追いかけ始めた。

 

 おい・・・・・・盗難は犯罪だぞ。光・・・・・・。

 

「待て! 絶対逃がさねえぞ、コノヤロウーー!!」

 

「あっ、ひーくん!」

 

「ちょっ!? 光!?」

 

「あ~あ、行っちゃったね」

 

「いやいや、追いかけるぞ」

 

 光は全力で自転車をこいで、車に追いつこうとして見えなくなった。俺たちはその後を走って、追いかけることになった。

 

 

 

 

 それから走りつづけて、俺の後ろにいる要、マナカ、チサキは疲れ果てて、必死に諦めずに走っているのだが、かなり汗もかいていて、限界のようだ。その時、俺は途中の森の中に、自転車が止まっていることに気づいた。

 

「見つけたぞ」

 

「えっ、本当?」

 

「誠・・・・・・本当なの?」

 

「待ってよ、ちーちゃん、まーくん」

 

「ほら、あいつが乗っていった自転車」

 

 チサキ達はそれを見て、ホッとする。これ以上走ったら、こいつらがもたないからな。俺はゆっくりと登って、光を探した。すると、木の陰に光が隠れているのをみつけた。

 

「おい、光」

 

「あっ、誠───って、いてええ!? なにすんだよ!」

 

「お前は少し冷静になれよ。別に、アカリさんが望んだことじゃないだろ」

 

 俺は光の頭を殴りつけ、説教する。その間に、チサキ達も俺たちのうしろに来ていた。というか、

この家見たことあるな。俺がそんな事を考えていると、マナカが叫んだ。

 

「あっ! ここ、木原君の家だよ!」

 

「あっ、そういえば、そうだな」

 

 光を追いかけるのに必死で、わかんなかったけど。ここは紡の家だ。確か紡の家は漁師だから、その話でもしに来たんだろう。そんなことを考えていると、至さんが家の中から出てきた。

 

 光はそれを見て、走り出した。そして、殴りかかろうとした瞬間、網にかかる。まるで、陸で魚を捕っているみたいだ。そんな事はおいといて、話さなきゃな。

 

「ほう、嵐だな・・・・・・あの子は、まるで静かな波のような目だったが・・・・・・」

 

 紡のおじいさんが出て来て、光の顎を掴んで、目を見た。紡のおじいさん、ナイスだよ。特に網の使い方が・・・・・・。

 

「ひーくん、大丈夫!?」

 

「光! 光がいきなりそんなことするから・・・・・・」

 

「えっ? 光・・・・・・? もしかして、アカリの弟!?」

 

 至さんが驚いたような声をあげて、光に近寄る。網から這い出した光は掴みかかろうとしたが、俺が腕をつかんで止めた。

 

「すみません、至さん。お久しぶりです。すみませんね、光が失礼で」

 

「えっ? 誠君!? そっか、よかったよまた会えて。そうだ、誠君。美海に会ったかい?」

 

「ええ、会いましたよ。でも、面倒になりましたね」

 

「誠、テメエ、知り合いかよ! お前、こんな奴の仲間なのか!?」

 

 俺は暴れる光を抑えつけて、至さんと話をする。でも、よかったよ。至さん、ミヲリさんが死んだとき、結構落ち込んでたからな。だから、行かなかったんだけど、もう大丈夫そうだ。

 

 俺が気を抜いた瞬間に、光は俺のてをすり抜けて至さんに掴みかかった。

 

「コノヤロウ! お前のせいで、アカリが責められてんだよ! お前がアカリに近づいたせいで、村の大人連中がアカリを責めてんだ!」

 

「えっ!? アカリが!? どうしてそんなことに」

 

 光が至さんに詰め寄っていると、紡のおじいさんが質問してきた。

 

「子作りはしとるのか?」

 

 その発言に、光は顔を赤面して、至さんを離した。

 

「こ、子作り!?」

 

「こ、子作りって・・・・・・///」

 

 周りにいるマナカやチサキも赤面している。どうしてそこまで赤くなるのか、俺にはわからない。

 

「やはり、知らんのか・・・・・・誠、お前は知っているのか?」

 

「はい。そりゃあ、知ってますよ。光達は知りませんけど」

 

「はぁ? 子作りがどうしたんだよ!」

 

 光が赤面しながらも、聞いてきた。俺は知っているので、驚くことじゃない。その問いには、何処からか出てきた紡が答えた。

 

「その子作りが問題なんだよ」

 

 

 

 

 その数分後、俺と紡、おじいさんは話す側なので、ビールケースに座っている。そして、知らない至さんと光達は、反対側に・・・・・・。

 

「陸と海の違いはわかるか? 陸で生まれる人間と、海で生まれる人間の違い」

 

「えっ? それって、エナがあるかどうかじゃないの?」

 

 チサキが紡の問いに答える。俺は紡の方を見て、話を聞き続ける。

 

「そうだ。でも、問題はそこじゃない。問題なのは、産まれた子供なんだ」

 

「えっ? 子供って、なんで?」

 

「それは俺が話す。同じもの同士だと、そのまま生まれてくるだろ? でも、陸と海、エナを持った人間と持たない人間が混じり合ったらどうなると思う?」

 

「えっと、エナを持って生まれてくるんじゃないの?」

 

「違う。陸と海の間の子には、エナが無いんだよ。陸と海の間の子は、海の中じゃ生きられない」

 

 美海もその1人。ミヲリさんは海出身だけど、美海にはエナがない。昔、俺は聞いてみたけど、ミヲリさんが答えてくれた。至さんも知ってる筈だし、掟の内容は知ってると思う。

 

「まあ、結局の所、そういう理由でダメだったりするんだよ」

 

 その時、光がまた至さんに掴みかかった。

 

「おい、お前はアカリのことどう思ってんだよ! 結婚する気あるのか?」

 

「えっ、僕は真剣だよ・・・・・・結婚は・・・・・・」

 

「テメエ!」

 

 光は至さんを押し倒して、殴り始めた。やっぱり、至さんも忘れていない・・・・・・。ミヲリさんの事を簡単に忘れることなんて、出来ないんだ。




セリフ多し。
もうちょっと展開を早くしようかな?

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