凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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若干のキャラ崩壊注意でございます。
それはそうと待ちました? 待ってない?
oh……駄文ながら、頑張らせていただきました。
ええ、最近『夜廻』というゲームを買ったから作者の思考までブラックに……。
夜廻で妄想ものをやりたいなーっと思いながらこんな結果になりました。個人的にはバイオハザードより怖かったよぅ。



第五十三話 脈動の雨

 

 

 

あの日以来。誠達と浴衣を買いにでかけたあの日以来、私は美空の家を尋ねられずにいる。告白もしたのにどうして私はこうも怖じ気付くのだろうか。

誠を強引にでも話を聞かせようと思ったのに、いざとなれば布団の中で燻っている。

 

あれから――3日? いや、もっと経ったかもしれない。

 

帰れば布団にダイブして見悶えたのを覚えている。あまりの恥ずかしさと格好と、あの時の状況で言う言葉ではないとは……後に気づいた。

 

私ってバカなの? バカなんだよね?

うぅ、私のバカぁ!

せっかくの告白をあんな格好で行うなんて!

痴女?以外の何者でもないよね。あんなの襲ってくださいって言ってるようなもんだよね!

 

無心になろうとすればする程、深みに嵌っていく。これで何度目か数え切れない。正確には、二回目から数えるのをやめてしまったのだけど。

……けど、誠の顔を思い出すと顔がどんどん熱くなってくる。これも誠のせいだ。誠が裸(半裸)なんて見てくるから

妙に意識してしまって……もうお嫁に行けない。

責任取ってもらわなくちゃ。うん。それがいい。いや、そうじゃなきゃヤだ。

 

 

「美海ー、早く起きないと学校遅刻……」

 

部屋の扉を開けてお母さんが入ってくる。ピタリと足を止めると、呆れたように溜息を吐いた。

 

(またやってる……)

 

気づかない私はころころと布団を自分の体に巻き付けながら、自分の世界にダイブしていた。

呆れたような視線、それすら気付かずに顔が赤いまま羞恥に悶える。

 

「ほら、美海ー学校に行かないと誠君に怒られるよ」

 

(誠っ!)

 

「おっ、起きた」

 

布団を跳ね除けちょこんと座りながら、見下ろすお母さんを見上げた。面白そうにくすくす笑うこともなく慣れたように私を急かす。

 

「……やっぱ誠くんは美海の元気だね」

 

部屋から立ち去るお母さんの声は、私の心に暖かい何かをもたらし、赤面させるのに十分だった。

 

 

 

□■□

 

 

 

午前中の授業は誠のことを考えていると内容が頭に入らずに過ぎていく。一瞬でもぼーっとすると何時しか頭は誠のことしか考えられなくなっていた。

私の心はそれだけで充分幸せなのにそれだけでは飽き足らず、心に残る小さな虚しさが穴を埋め尽くしていた。

 

「もう、美海ってば聞いてる?」

 

何度目かのサユの言葉も聞こえないくらい、泥沼に嵌るように心は沈んでいる。

目の前で私怒ってます、と言いたげなサユは不機嫌そうに頬を突いてきた。

 

ぷに。

ぷにぷに。

ぷにぷにぷに。

 

「あぁ、これは重症だわ……もう美空!」

 

誰かを呼ぶ声が聞こえた。それに応える声は女性のものだろうか、ゆっくりと私達の方に近づいてくる。

サユの隣にその女の子は立ち、同じく上から私を見下ろすようにした。

 

「どうしたんですか?」

 

「美海がまた変になった」

 

「ふーん、またですか」

 

「……早く“あれ”連れてきなさいよ」

 

「でも、兄さんが一向に学校に来てくれないんですよ」

 

「引き摺ってでも連れてきてよ。そうしないと、美海ずっとこの調子だよ」

 

溜息の音が片方から漏れ、片手で自分の頭を抑える。まるで頭痛に悩まされるかのように目を瞑った。

 

「そろそろ教えてくれてもいいでしょ? あの日、美海と誠は何したの?」

 

「それは言えませんね」

 

これも何度目の問いだろうか。学校に来たサユが何度目かの既視感に再度の質問をする。

うん、私も言えない。胸を事故とはいえ揉まれたなんて。

 

「でも、もうすぐ祭りじゃなかったっけ。こんな調子で美海はあいつに会えるの?」

 

「そうですね、来ると思いますけど」

 

ピクリと起き上がり、私は耳だけを周りの会話に移した。

 

「ねぇねぇ、今度の祭り何着ていく?」

「お母さんが浴衣用意してくれたんだ」

「いいなー」

 

「そういやもうそろそろ祭りだよな。お前ら、誰と行くんだよ?」

「……あの子を誘えたら」

「美空ちゃんを誘えればなぁ」

「……やめとけ、お前ら死ぬぞ」

 

光が仲良くなった男子生徒と何やら話していたり、周りはお祭りの話題一色だ。浮かれる生徒は沢山いる中で私もそのひとりだったりするのだけど。

もう美空の予定は埋まっている。家族水入らずを邪魔する人はいないだろう。もし祭りで美空に気づいても、誰も話しかけられないはずだ。

……家族に見えれば、の話だけど。

 

盗み聞きをしているわけじゃない。

空は曇天、雲で覆い尽くされた空を見ているとやはりどこかぼーっとして周りの話に耳が向いてしまう。私の妄想も注意していても誠のことを考えているばかりで、ふと気がつけば考えてしまっている。

 

その教室にガラガラと音を立てて戸を開き、入ってくる男の先生、担任教師はパンパンと手を叩き合わせると話していた生徒は席に戻った。

 

「みんなー、授業始めるから席についてー。お祭りのことで浮かれているのもわかるけどねぇ」

 

「それより先生、あの人はまだ学校に来ないんですか?」

 

1人の女子生徒が好奇心に瞳を輝かせながらそう言う。

その“あの人”とは――誠、彼だ。

きっとカッコイイから群がりたいだけなんだろう。男子も可愛ければ美空に群がる、それと同じ原理だ。

答えに期待を輝かせる女子生徒に先生は応える。

 

「あー誠君はねぇ事情があってもう少しかかるらしい。まぁあの子の家族はちょっと特殊だから、光くんより早く目覚めたとしても少し時間がかかるかなぁ」

 

それより、と、繋げる。

 

「夏祭りだけど。最近は妙な薬やらが流行っているけど皆は手を出さないようにねぇ〜。確か名前は《ラフレシア》と呼ばれているそうだけど、それが増えるにつれて犯罪も多くなってきているから。特に夏祭りに変なお店や買い物をしないように気をつけて」

 

そこで、ふと疑問に思うことがある。そんなに流行るような薬なら名前を知っていても可笑しくないのだけど、テレビなど報道関係では一切その話題は出たことがない。

誠が海にいる時は四六時中テレビの前でニュースのチェックをしていたものだ。

そう思い出しながらも、やはり習慣となってしまったニュースのチェックは止められないわけで、その疑問も一心に強まる。

気がつけば、クラスメイトの一人が手を挙げていた。

 

「先生、ラフレシア?って薬は危険な薬物として認定されていない筈ですけど……先生はその薬の名前をどこで知ったんですか?」

 

「うん。まぁ、誠君の受け売りなんだけどねぇ。あの子は物知りだからそういう情報に強いんだよ。特に生徒達が手を出さないように注意してくれって言ってたかなぁ」

 

「へぇー……?」

 

つい数日前に長い眠りから目覚めた人としては想像以上に行動が早い。困惑することなく、異常なように思えるその行動は違和感はない。

誠だから、といえば説明はつくのかもしれない。

だけど、名前を言われても薬の実物を見たことのないクラスメイト達は半信半疑で聞き流していた。

――僅か数名を除いて。その数名のうちの私は興味なさげに視線を落とす。

 

そして、外に視線を移せば気も病むような曇天が広がっていた。

 

 

 

 

 

長く長く外を見ていた。いつの間にか授業は終わりを告げて下校の時間となる。その前に、数名のクラスメイトとの居残り掃除が私には待っていた。

 

肌寒い夏の風、曇り空、気温とどれも夏らしくない風景が広がっている。

その中で私は学校の裏山にある焼却炉の近くにある、昔誠達が作った池を掃除しに来た。

誰も来たがらない中、教室のゴミ箱をついでに運び、軽い足取りで向かったものの気鬱だ。長年使われていなかった池は落ち葉が沢山水面で揺れている。沈み込んでいるのもいくつかあった。

私が何故こんな役回りを受けたのか――それは近く誠が使うかもしれないから、という期待半分、褒めてもらいたい意思半分で不純ながらもこうしている。

 

ゴミ箱から焼却炉の中にゴミを放り込み、ボンとゴミ箱を傍らに置く。空の容器の音が山に消えていく。

それを見届けて、放置された掃除道具に手を伸ばした。いつからかそこに置いてある道具は片付けた痕跡すらなく少しだけ真新しい感じがする。

 

ザブッ、チャップ――ざぱぁ! …ぼと。

ザブッ、チャップ――ざぱぁ! …ぼと。

 

繰り返し繰り返し、そんな音が響いた。永遠に終わらないようなその音に意識を無にして余計なことを考えないように作業を続けていく。何度も何度も何度でも、葉っぱが減っているのは目に見えているけど、それ以上に多い有限に道具を突き出した。掬っては外に捨てるの繰り返し、そして最後に森に捨てれば完了なのだけど終わらない、終わる気配すら見えない。

 

……何度繰り返しただろう。

道具を水から引き揚げて杖のように立てて寄りかかり、額の汗を拭う。実際には汗は殆ど掻いていないにも関わらず一連の動作は止まらない。

 

「……何年掃除してないんだろ」

 

確かチサキさんが卒業してから二、三年。少なくて2年くらいか。

気分転換にそんなことを考え、また掃除を再開しようとした時、

 

「……あの、美海ちゃん」

 

聞き覚えのある男子生徒の声が聞こえた。私の後で遠慮がちにかけられた声に驚いて振り向くと、そこにはやはり見覚えのある男子生徒。

峰岸淳――同じクラスの男子生徒であり、私を好きらしい(告白以降は知らない)、大人しめの子。

彼が、後方5メートルの位置で私に話しかけてきていた。

 

「……」

 

ザクっと無言で無視を決め込み作業を続ける。

 

「……」

 

それに対して彼も何も話さず、ただこちらを見ていた。

スカートの中の下着が見えないように気をつけながら同じく作業を続けていく。

何度か繰り返した後、引き下がらない峰岸に私は作業を続けながら、

 

「……なに?」

 

そう、不機嫌にかえした。

 

「えっと、美海ちゃん!」

 

話しかけてもらえたことが嬉しいのか若干の喜色を声に載せて、彼は気分が高揚したように緊張した面持ちで、今度は予想外の言葉がその口から放たれる。

 

「その、僕と今度の夏祭りに行ってくれないっ!」

 

「? どうして?」

 

「そ、それは、その……」

 

普段より高い声で、病的に彼は消え入りそうな声で最後には押し黙ってしまう。

確か、私は彼に告白されてふッたはずだ。それなら彼は私を夏祭りに誘う理由がわからない。

雨が降りそうだ。彼の勇気を前に場違いなことを考えながら空に目を向けて、雲を見た。僅かだけど池の水面にはぽつりと雨が跳ねている。

 

「ぼ、僕は、少し急ぎすぎたかな、って思って! 美海ちゃんとはあまり話したことないし、クラスは一緒でもやっぱりお互いを知る機会がなかったかなって思って……」

 

続ける彼の言葉は何だか嫌な予感がする。彼の言葉には恐怖を感じるようなものがある。興、陽したような顔と震える普段より高い声は熱暴走を起こした機械のように、何か知らないものと話している感覚がした。

 

違和感が、拭えない。

言葉と共に、彼は一歩右足を踏み出した。

縮まる距離に、思わず体が強ばる。

 

 

「ごめん、その日は予定があるから」

 

恐怖を感じた私は、鼻先を掠めた甘い香りにぴくりと反応しながら1歩足を後ろに下げようとして、池の淵に辿り着く。

踏み場のない後ろに、下がる術はない。

誠が言っていた。

『明らかに動きが怪しい奴には近づくな。もし関わったなら怒らせないようにして逃げろ。そういう相手は何言っても聞かないから聞くかどうかはわからないが』

頭を過る言葉に自分はよくやったと言いたい。怒らせるような言動はしていないし、相手は早々に怒るような相手ではなく温厚な人間だ。温厚な人間ほど怒らせると怖いとは聞いたことがあるし実例(誠)も見たことがあるから、余計にその怖さがわかった。

だから、私は事実を言ったのに、彼はもう1歩近づいてくる。

 

「予定って、またあの男と?」

 

あと、3メートル……。

彼の顔は修羅のように必死な形相に変わる。

 

「う、うん」

 

「……なんで、僕にはチャンスはないの?」

 

また躙り寄るように彼は一歩近づいた。

そして、続くのは彼自身の葛藤と疑問。

 

「どうして…どうしてなんだよ。僕は少しでも君と話して理解して欲しいだけなのに、僕のことを知って欲しいだけなのに、もっと美海ちゃんのことを知りたいだけなのに! 僕にだってチャンスはあっていいじゃないか」

 

あと、1メートル……。

じりじりと距離を縮める峰岸に生理的恐怖を感じ、足を踏み外して池に片足を突っ込んだ。冷たい水温と音。足首に来る刺すような冷たさも気にならず、私は周りを見回して逃げ場を探す。

 

その中で、狂ったような彼は私の腕を掴んで名案とばかりにこう言う。

 

「大丈夫だよ。お互いにわかり合うには最適な方法を僕は知ってるから。僕もしたことはないけど、やっぱり最初は美海ちゃんとしてみたいしね。

……少し痛いらしいけど、僕は優しくするから。深く繋がれば、きっと――」

 

そこまで言ったところで私はもう聞いていなかった。がむしゃらに逃げようとして、もう片方の足が池に入り幸を制したのか竦む脚のせいでよろめく。

予想外の動きに、彼は手を離してしまう。

私はその言葉の意味を知っている。だから、恐怖に飲まれ掛けて、運がいいことに手を離された。予想外にも普段の彼からは考えられないような力に振り切れないかもと思ったけど、性別的に考えても逃げれるはずがないと諦めながら力の強さの違いに諦めかけて、ここで運が向いたのかもしれない。

 

目の前は峰岸で塞がれ、左右は逃げたところですぐ捕まる。そう本能的に考えて選んだのは後退、そしてそのまま森に消えることだった。幸いにも誠と小さい頃遊んだせいか森のことは少なからず知っているし、地の利でいえば彼よりはある。

ザブザブと数歩で池から脱し、そのまま森に駆け込み走る。木々の合間を抜けながら、足を緩めない。

 

 

 

そして、走りながら後ろを振り返ると――

 

 

 

「待ってよ美海ちゃん。なんで逃げるの?」

 

 

 

――彼は追いかけてきていた。

普段の彼からはありえない身体能力で木々の合間を軽々と抜けながら追ってくる。

声を返す余裕はなく、ただひたすら逃げて逃げて逃げての逃走劇を繰り広げた。

 

雨が降り、土が泥濘、脚を取られる。いつの間にか雨は強くなっていたようで、転ぶ私は手を前にしながらも強く体を打ち付けた。

 

「あぅっ! ……うぅ」

 

土がぬかるんでいるせいで強打とはいかないものの、痛みはなくなる事は無い。あちこち打ったようで全身から苦痛を感じた。

しかし、幸いにも土は柔らかく、荒い息で立ち上がる。

 

「……ねぇ、鬼ごっこはもう終わり? 美海ちゃん」

 

「……うそ、なんで……」

 

「まさか、僕を振り切れると思った?」

 

確か、彼は大人しく激しい運動には弱いはずだ。それなのに彼はどうして、峰岸はどうして息も切らさずに私を追いなおも平然としているのか。

……その疑問は、彼の不思議そうな顔と共に告げられる。

 

「うん。なんだかね、身体が軽いんだ。これならいくらでも美海ちゃんを追いかけれる。愛せる。きっと、これもあの薬がくれた幸運のおかげなんだ」

 

「薬…?」

 

「そう、先生が今朝話してた薬だよ。最も美海ちゃんは聞いていなかったみたいだけど……大丈夫だよ、僕が教えてあげるから」

 

血走った目が私を舐め回すように視姦する。彼は観念したと思ったのかゆっくりとした足取りで近づく。

 

……もう、終わりなのかな?

 

ふと、そう思ってしまう。諦めるな、そう誰かが言ったような気がしたけれども誰の声か困惑する頭は思い出さない。

僅かな抵抗として身体が勝手に後ろへと下がろうとするも気がつけば、後ろは足場がない。

ここは鷲大師の裏側の山の中、平たく言えば誰も来ない山の奥深くで、急な崖の上だった。高さはそうないながらも骨折する程度は高さがあり、海に飛び込もうにも海はココ最近の寒冷化で進んだ海の氷化、それに伴う水温の低下で落ちればまず命はない。

そう、諦めても仕方のないことだった。

 

声は出ない。

足も動かない。

ここに来て疲労が溜まったのか、体はいうことを聞かない。

 

そして、腕を掴まれて、彼は喜色を顔に浮かべると私は最後の抵抗を始める。

やはり、普段の彼からは考えられないような力強さ。握力は腕を折りそうな程に強く、骨が悲鳴を上げる。

 

「やっと受け入れてくれるんだね。美海ちゃん」

 

「いや、離して――」

 

最後の抵抗も虚しく、両腕を掴まれた時だった。

ゴオォォォォォ――――!!

激しく地面が振動するような音が辺りを揺らす。森の木々も悲鳴を上げるようにせり上がり、足場がなくなるような感覚と共に私の意識は闇の中へと深く沈んでいった。




峰岸君のファンの方ごめんなさい!
彼には華々しく散っていただくために、もとい捨石になってもらうために若干のキャラ崩壊が。だって出番がないんですもの。押しにも弱そうだし。
キャラ崩壊と言っても、薬って怖いですよね。
それはキャラ崩壊と言っていいのか……。
得るは美海と誠のラブラブな生活!
捨てるわ一人の男!
……決して行き詰まったわけでは。

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