凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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第四十三話 夕焼けの病室

 

 

 

病院に通い始めて三日。何度も通い続けて大方の患者とは話をした(情報収集)。何よりお船引の話が話題を作る、関係を作るネタになり入り込みやすかった。

お船引の話はあまりしたくなかったが、そのおかげで不審がられずに接触は完了。誰と会っても大抵は愛想良く返してくれる。

寧ろ、同情の方が多かったが……。

 

その中にも色んな患者がいる。

心臓病、病気で入院する子供達、肺炎・脳梗塞、などを患わせる老人、骨折患者。

その中でも酷いのはドナーを必要とする患者さん達で、一人の少女もその一人だ。

 

夕暮れに沈む病室、簡素な白い清潔な部屋で少女がこちらを向いている。顔は体調はいいのか血の気があり、健康的な色をしていた。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、美空お姉ちゃんとはどういう関係なの?」

 

「いや、そのな……」

 

告白されたとか言えない。そんなことを言えば、返事に関して聞かれるからだ。そして芋ずる方式に好きな人がいることがバレてしまう。

さて、ここに来た理由だが……無論、少女からの要望だ(ロリコンなわけじゃない)。彼女の友達になって欲しいと看護師達に頼まれて、仕方なくとまではいかないがこうして話をしている。病院内の院長などの話も何でもいいから聞き出すためであり、小さな娘の世話は慣れている。

どうやら俺は小さい娘の世話が好きらしい。嫌いでもないし嫌でもなかった。こういうのに美海や光達の世話で慣れたんだろうなと結論づけるが――光よりは楽で、光よりはある意味面倒だった。

 

なにせ――恋愛事情を聞いてくるのだ。

年は問わずこの手の話題が女性は好きらしい。目の前の少女もその一人、聞く立場が逆になっている。本来、大抵の子供は自分の話をしたがるのだが……妙に彼女は潜り込んでくる。

楓――少女の名前はそうだったか。美空の知り合いらしく好奇心旺盛だった。

 

「俺と美空は兄妹だぞ」

 

「うん、知ってる。でも、兄妹だとしてもあんな可愛いお姉ちゃんをほっとかないと思うけどなー」

 

知ってるなら、関係について聞かないで欲しい。

呆れ混じりに溜め息をつくと、今度はニヤニヤとしながら少女が俺の腕を取る。脈を取るようなポーズで本当に脈を抑えると、今度は違う質問をした。

 

「じゃあ、お兄ちゃんが野獣さんみたくならないのは好きな人が他にいるから?」

 

「……いない」

 

心拍数は正常だ。

美海について、悟られることは――

 

「うっそだー。お兄ちゃん、いま嘘ついた」

 

しかし、少女は手強い。嘘を見破られたことに若干、苦しいながらも何故か心の中は少し喜んでいる。

誰かに打ち明けられる方が楽になれるから? ――多分、俺は少女に感謝しているのだろう。

でも、隠し通さなければ、俺は――

 

「いないって。確かに美空は綺麗で可愛いけど、ほんとに兄妹だからな?」

 

「……じゃあ、お姉ちゃんのこと嫌いなの?」

 

また、少女が深く入り込んでくる。

少女の質問全てが心を掻き回しているようだ。荒い海に起こる潮の流れのように、グルグルと頭が、脳が、思考が絶え間なく少女の言葉に耳を傾ける。

美空を嫌いかと聞かれたら、そうではない。

 

「嫌いじゃないよ」

 

「う~ん、そうなんだ」

 

少女は嬉しそうに笑みを浮かべると、そうなんだ、と繰り返しながら手を離す。

視線はゆっくりと下に向い、落ち込むような仕草を見せた。

顔を上げ、俺はその表情に釘付けになる。

薄っすらと赤く染められた頬、少女と言えどその表情は可愛らしくも見るものを引き寄せた。

 

「――じゃあさ、私がお兄ちゃんの彼女になりたいって言ったら、お兄ちゃんはどうする?」

 

終いにはこの言葉だ。顔を見られないように下げると、そのまま彼女はこちらの様子を伺う。

心臓病を患う少女、本来の俺であれば多分ここで少女の願いを叶えようとしていただろう。

――真意を知らなければ。

儚い命に嘆き悲しみ、哀れんだ筈だ。でも、彼女が欲しいのはそんな言葉ではない。今まで散々、医者から一年以内には死ぬ、二ヶ月で死ぬ、そう言われて恐怖して怯えてきた筈だ。医者の無責任な覚悟を催す言葉に惑わされ続け、疲れ果てやがては生きるのを諦める。

戦って挫折して、苦しみながら今も諦めず戦い続けて何年か経ち、今がある。

 

そうだ。

 

この子は生きたくても、学校に生きたくても、人を好きになりたくてもなれない。親も最初は哀れみ看病をしていたがそのうち見舞いに来る回数も少なくなった。

毎日から一週間に5回、2回、1回、そして月に一度と段々と数は減り諦めの一途を辿っている。

 

少女の瞳は悲しそうに揺れていた。まるで、離れていく母親を見るかのように、ひっそりとこちらの様子を伺い見ている。

まだ、母親に甘えたい年頃だろう。

 

ポンポンと少女の頭に手を乗せ、髪を撫で付けるように撫でる。少女はくすぐったそうにしながらも、微笑み受け入れた。

 

「んっ……」

 

「なーに言ってんだ」

 

頭に来る感触に恍惚の表情で、身を任せる。

 

「……お兄ちゃんは私と遊んでくるけど、それは看護師さん達に言われてだよね」

 

楓ちゃん――楓が、悲しそうに呟く。

少女は不安だった。また母親のように自分から離れていくのを、見るのが辛くて、目の前の何かに縋る。

俺が自分と話しているのも、看護師さん達に言われたからとか、院長の、病院の情報を集めるためだと思っているのだろう。

 

少女の視線に合わせて指を出す。小指だけを突き立て、少女に向かってこう言った。

 

「違うよ。俺は好きでここにいるし、楓ちゃんが好きでまた来るし、これからも毎日来るよ」

 

少女は出された小指をしばし見つめ、やがてこちらの顔を見上げてくすりと笑った。

出された小指に自分の小指を絡めると、嬉しそうにお決まりの歌を歌って小指を切る。

 

「約束だからね。それと――」

 

言いよどみ、お腹をかかえて笑い出す。

 

「お兄ちゃん、そんなことばっか言ってるから勘違いする人が増えちゃうんだよ」

 

「……え?」

 

「お兄ちゃんがロリコンって言われるのもわかる気がする」

 

「ええっ!?」

 

少女に笑い者にされ、なんだか気分はげんなりとしてきた。励ますつもりが、この仕打ちである。

ロリコン、今さら掘り返すか。

 

「お兄ちゃんの担当は小児科だね」

 

「……そうならないことを祈る」

 

少女はまたクスクスと笑う。お腹をかかえてさも満足そうに、楽しそうに。

別に小児科でもいい。全ての手術ができて、全ての医学を学べれば、所属などどこでも。

 

笑い合う空間にコンコンと扉を叩く音が響く。まず初めに反応したのは楓ちゃんで、

「はーい、どうぞ」と言うと扉は開かれた。

扉の向こうから出て来たのは、中年位に見える一人の男が白衣を無理矢理纏ったような姿。

彼は――慎吾先生は今も尚、医者を続けていた。ちなみに楓ちゃんの担当医もこのお方、実はマッドと思われがちだが名医でもある。数少ないこの病院の戦力であり、嫌われ物である。

 

「さーて、今日も検査の時間だ……ぞ?」

 

「久しぶりです。慎吾先生」

 

「あぁ……やはり、ロリコンだったか」

 

「違いますからね」

 

開口一番、罵ってくるのは変わらない。容姿もそれほど老けたようではなく、昔と比べて少し顔に深みが増した程度だ。

 

 

 

□■□

 

 

 

検査が終わり、俺は出てくる慎吾先生を待っていた。病室から出てくる慎吾先生は俺に気づき、二人珍しく並んで歩く。

 

「さて、今日の本題といこうか」

 

「直球ですね」

 

曲がり角を右に曲がり、進んでいく。

実はもう既にコンタクトだけはとっていた。起きてから会うことはなくとも、目的には協力者が必要だ。そのために美和さんに伝言を頼んでおいた。

今日の夕方、楓ちゃんの病室に来るようにと、もちろん検査を理由にだ。が、真の目的は他にある。

 

眞平は白衣を揺らすと、一枚の紙を取り出し、俺に差し出してくる。

 

「君の言った通り、君はやはり眠ることになった。そしてこの5年間、君の要望通りに何度も美空ちゃんの病原を探る為に論文などを調べてみたが……まぁ、見ての通り、最近の新しい医学はそれだけだ。機器は新しくはなったが、技術は全くの向上を見せていない。それに美空ちゃんと同じ似たような症状はあるが、やはり免疫力の弱さが原因だという有力説が一番理に叶う」

 

そこから先は慎吾先生ですら口を継ぐんだ。

手詰まり、何も喋らないのはそう言う事だろう。

しかし、美空の病気は免疫力の弱さが原因だとは思えないほどに不可思議さを持っている。

 

「この5年間、美空は何度発作を起こしましたか?」

 

「いや、一度もない」

 

「一度も?」

 

「ああ、一度もだ」

 

その理由としては、身体の何処にも異常がないこと。

肺も、心臓も、喉も、脳も、呼吸器系と筋肉に関して調べてみたが異常なし。正常に働いているのである。なのに、彼女の身体は蝕むように発作を起こす。

 

そして、ようやく一枚目の紙をめくり、二枚目の紙に目を通す。

これは、美空のことについて調べた結果、その過程で見つけた心臓病に関してのいろいろな資料。つまり、楓ちゃんの病気をドナーなしに治す方法を記載しており、美空のために集めた資料の中から有力な楓ちゃん用の医療法をサルベージした資料だ。

 

慎吾先生はやっとたどり着いたかというように、まるで待っていたかと言うように、嬉しそうに話始める。

 

「美空ちゃんの病原は今だ不明だが――その5年は無駄ではない。誠君、大量の論文と成功例、俺の論と君の論を多種多様にシュミレートした結果――楓ちゃんの新たな治療法が見つかった。だが……」

 

とある扉の前に俺は立ち止まり、慎吾先生は難しそうな不満気な声で言い淀む。

 

『新たな治療法』

この言葉に問題があるのだ。今だ誰もやったことのない、そういう意味が含まれている。故に、こんな危険な賭けにあの人が乗るわけが無い。

それを遮るように、俺は扉を開ける。

 

「院長が許可しないんでしょ?」

 

この人はチャレンジャーだ。

新たな治療法を試したがる馬鹿とも言える。

怖いものなどない。

もう楓ちゃんの家族からは許可は取ってあるだろうし、あとは楓ちゃんだけだ。

 

しかし、院長は自分の失脚を恐れ、事を全て穏便に済ませようと無茶な医療はしない。

責任を慎吾先生が取ろうと、少なからず院長自体に責任が行くから、それを怖がっている。

 

そのための問題は、もうすぐ解決させる。いや、しなければいけない。

 

扉の向こうの病室は静けさの中で、カーテンが揺れている。2つベッドがあり、廊下側のベッドはカーテンで取り仕切られ、向こうには一人の白髪色黒の老人が帽子を深くかぶった人と話している姿が。

こちらに気づくと、二人は呆れ返ったように挨拶をしてくる。

 

「昨日ぶりだな、誠」

 

「こんにちは。紡のおじいさん」

 

「ほう、久しぶりじゃのう誠君。随分と…………変わらないようだがな。それと――元気にしているかの、慎吾」

 

「……その声は、まさか元院長ですか?」

 

片方は、紡のおじいさん。やや昔と比べてやつれているようだが、今は問題ない。

もう片方は元院長、この病院を背負っていた優しき老人だった。

元院長は帽子を少し上げて顔を見せると、すぐにまた被りなおす。

 

「ふっふっふ、ほんに久しぶりじゃ……しかし、すまなんだな。院長を辞めた今、この病院は私の手元には無く守れるものも守れなくなってしまった。早瀬美和の件も現院長の自分勝手な病院支配も……全てわしの責任じゃ。暴落の一途を辿るこの病院の全ての責任はわしにある」

 

「そんな、この病院がこうなっているのは現院長の欲を満たすだけの行動に――」

 

「いや、慎吾よ……」

 

言葉を続けようとする元院長だが、そこから先は言うべきか迷っているようだ。

俺は元院長の代わりに、割って入った。

 

「誰の所為でもないです。元院長、あなたは脅されてやむなく院長を辞めたのだから」

 

「!? 誠君、どういうことだ」

 

声を荒らげる慎吾先生、少なからず元院長は慎吾先生の目標であったために、気になるのだろう。

数日前――俺は元院長の突然の辞職について調べていた。誰からも慕われる存在であった院長が誰に話すこともなく突然の辞職をして、この病院を去った。その理由を調べていたのである。その点だけが、不可解だったのだ。

 

何故かは知らないが、現院長は早瀬美和の情報をさがしており、見つけたと同時に夫がいることを知った。

その夫が婚約したわけでも、それでもないのに子を持ちながら見かけだけの事実婚をしていることに、邪魔だと感じた現院長は、自分の持つ才能を使い……この計画を思いついた。

 

まず始めたのは手に入らない薬の製造。現院長にとっては至極簡単なことだった。心まで手に入らない、身体も手に入らない女を飼い慣らすにはそのための薬が必要だと考えた。思考を乱し、言いなりにするための薬。

それに製造成功した現院長は更なる凶器を、その過程で手に入れてしまう。俗に麻薬と言われる危険ドラッグであり副作用の強い目的の劣化版だ。

その薬、飲めば使用者に快楽を与え、幻覚作用さえ見せて現実と幻覚の見分けすら出来なくなり、やがては一部の欲望を強くするらしい。その欲望が、“性慾”だ。

これは元の作ろうとしていた薬の所為で、こんな副作用になったが完全な麻薬として作用しており、完全な誤算であったが武器ともなった。暴力団とも連携を取れる武器となり、金も入手出来る欠陥品、使わない手はなかった。

そこでどうやったか、この薬を俺の親父に流し、流されやすい親父はまんまと薬漬けにされ、薬を摂取しないと狂い暴動を働くようになった。賭博、豪遊、酒乱、と遊び尽くすようになりその足で金も借りた。

しかし、これが計算外だった。当初は暴言を吐き暴力を上げるようになった彼に対し、早瀬美和を守ることで、不信感もなく手に入れる予定だった。間違いなく、惚れると思ったのだろう。だが借金の額が一般でギリギリ払える持ち合わせではなかったために、次の手を考えた。

『これ以上膨れ上がる前に、長瀬誠哉を殺す』

手順は簡単。幻覚が酷くなる酒と薬の乱用、これを促せばいいだけだ。飲んでいた酒に薬を混ぜ彼にこうして、あとは後ろから押し出すだけだ。これもまた暴力団員に取引をし、車の運転手まで仕組んでいたのだ。自分の手で殺すことに喜びを得るために、自分で押し出して……

しかし、これでもまだ早瀬美和は自分のモノにならなかった。元から彼には針は向いていない。夫への愛ではなく、ある意味鎖が彼女を縛り付けていただけだった。

計画の根本から誤解をしており、殺すだけ無駄だったのだと悟った現院長は考える。もう正攻法で手に入れなくてもいい、心など後から向けさせれば。

元から正攻法とは言えない策略、手を汚したことなど気にせずに現院長はもう一度考える。いや、考える必要などとうの昔からない。早瀬美和を手に入れるのに、必要なのは惚れさせることではない、別に一方的にこちらの思いだけで十分、権力で、従わせればいいのだ。

自分は医者、それならば本来の用途で近づけば、もっと簡単に事は済んだ。

 

「……まぁ、現院長の考えについては憶測と推測を出ない領域なので断定は出来ませんが。院長、あなたは雇ってくれと行動を起こした現院長を受け入れず、真意に気づき、拒んだ。そして……今度は、暴力団を使い院長の奥さんを怪我させると脅し、院長の座を渡すしかなかった」

 

話終えると、皆絶句というように固まり、こちらを見ていた。

苦々しげに院長は帽子を深く被る。

数分の沈黙のあと、慎吾先生は口を開いた。

 

「待て、そこまでわかっているなら、なぜ現院長を警察に突き出さない?」

 

「証拠が不十分なんです。知り合いの警察の方に頼んでみましたが、やはり動けないらしいです。それに相手は暴力団ですから、下手をすると警察まで痛手を負いかねない」

 

事実、暴力団と警察は相容れない存在だ。

 

「それより、おじいさん、あれ持ってますか?」

 

「あぁ、お前の言う通り、簡単にだが集めておいた」

 

紡のおじいさんはテレビの下にある戸棚を開ける。取っ手を掴み引っ張り、中から紙の束を取り出した。

それは? と、医者二人が揃って紙を覗き込むと、その一番上に書かれた文字に固まる。

 

「これは……」

 

「見ての通り、沢山の被害届ですけど」

 

紙の上段に書かれた『被害届』という文字。

今まで、この一年間で出た被害――全て、現院長によるセクハラによるものだ。

 

「さて、院長には協力して欲しいことがあります。

――この病院を取り戻したくはありませんか?」

 

俺の問に、驚愕し、院長は俺を咎める。

 

「……誠君、いくらなんでも無茶じゃよ。それとも君は復讐のために……父親の敵のためにか?」

 

誰もがそう思ったのだろう。院長の言葉と同時に複数の視線が俺に向けられる。

なぜ、そう思ったのか――俺にはわからない。

父親のことなど、親父のことなどに怒りなどは湧いていない。寧ろ、美和さんの生に同情していた。

 

近いものに惹かれるのは、人間の証なんだろう。

俺の一生はまともではなかったと思う。だからこそ、美和さんの酷い人生に俺は共感し、助けたいと思った。

 

「……そんなことどうだっていい。親父はまだ母さんを好きで愛していた、それなら……もう一緒になれたことに何も言うつもりはない」

 

死んで母さんは1人寂しかっただろう。孤独の辛さは俺が一番知っている。

父も、母も、また一緒にいるのだ。

なら、それでいいじゃないか?

死んで後悔はしていないはずだ。

 

死ぬことが一番辛いというのは俺にはわからない。確かに誰かが死ぬのは嫌だ。でも、自分が死んでも……それが一番辛いとは思えない。

欠陥品なのだろうか? 俺は何時から壊れ、こんな思考を持つようになったかは知らない。何が正しくて、何が間違いで、何が人間から外れているのだろうか。

 

世界の見方が正しいのなら、世界が自分が死ぬことが一番辛いと考えるのなら。

この国では家族とキスすることを異端、外国ではキスを挨拶としている国もある。(マウストゥーマウスかは知らないが)ともあれ、美和さんの態度も、美空の態度もどうかと思うが。

 

別に嫌ではない。家族と思ってないのだろうか? 多分、いや家族とは思わない。そう決めた。

表面上も、擬似的に一緒に暮らしているだけで、どこか境界線を張っている。

それでも大切な人達だからこそ、守りたいと思っていて……

俺は昔から、変わっていなかった。

 

かさこそ、ぐすっ、と声と音が聞こえる。

それは他に誰もいない病室――そう思っていた、隣のカーテンがかかったベッドからだ。

 

「……すまんな誠」

 

切り出すタイミングが掴めなかった。そう言って、紡のおじいさんが隣のベッドのカーテンを開ける。

そこには、幼馴染みが涙を流している姿があった。




誰が盗み聞きを……ともあれ、またロリータとコミュニケーションする誠、これはロリコン言われても……。

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