凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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美海sideで金曜日のお話。


第二十三話  私の日常

 

 

 

 side《美海》

 

 

 誠が帰ってこない・・・・・・。

 

 

 昨日、突然電話がかかるはずのないところからかかってきて、知った嫌なお知らせ。あれだけ海に入っちゃダメって言ったのに、約束を破った。もちろん、誠の家は海だってわかっているけど。

 

 

 ───やっぱりこっちに帰ってきて欲しい

 

 ───毎日、顔がみたい

 

 ───寂しい

 

 ───誠に触りたい

 

 

 どうしてもこう考えちゃって、勉強に集中出来ないのは誠の所為だ。きっと、どんどん好きにさせてくる誠がいけないんだと思う───絶対そうだ。

 

 それに、誠の声が聞けて嬉しいと思ったら今度はアカちゃんに電話を代わって、って言うし・・・・・・ちょっと話がしたかっただけなのに、電話はきられてしまった。

 

 その後、アカちゃんが少しして『あっ、ごめん美海・・・・・・』って謝ってきた。少し困り顔で、不安そうな顔で私に語りかけるように・・・・・・ちょっと恨んだけど。

 

 

 

「はーい、───み─ゃん───い───る?」

 

 私は黒板をぼーっと見つめ、先生の言葉を聞き流す。

 

 此処は学校で、時間は12時くらい。しかも今は授業中で、算数なのだ。耳に入ってこない言葉を聞き流しながら、じっと先生に視線を移して見る。

 

「あれ? 美海ちゃん、この問題わかるかな? おーい、美海ちゃん?」

 

「──っ? あっ、はい・・・・・・」

 

 見てみると先生が困り顔で、私の顔を心配そうにのぞき込んでいた。距離は50センチくらいで、少し驚いたがなんともないように見せて、立ち上がる。

 

【30×12=?】

 

 黒板の前に行くと、少し簡単な掛け算が書かれていた。今まで黒板に目は向けていたけど、意識は向けていなかったので今になって問題を知る。

 

【360】

 

 と書いた私は、ゆっくりと席に戻って座る。

 

「うん、正解よ美海ちゃん!」

 

「凄い、美海!」

 

「うん、さゆ。ありがとう」

 

 誠に教えてもらってたから、ちょっと算数は得意だった。

 

 

 

 

 

 授業もようやく終わって、給食の時間。私とさゆ、美空は机をくっつけている。班っていうグループも決めてあるから、

その余計な人も机をくっつけているのだが、残りは全部、男・・・・・・あまり関わりたくもないし、自分からは極力は接触を避けている。

 

「ねえ、美空今日はどうする?」

 

「うーん、兄さんがいれば遊べるのですが・・・・・・昨日はいませんでしたし」

 

 さゆが今日の予定を美空に聞いてる。少し困り顔の美空は申し訳無さそうで、多分、誠の不在を考えて不用意に外で遊べないのだろう。それを考えて、誠に対する申し訳なさであまり勝手な予定をたてれない。

 

「───美海ちゃん、兄さんは今日は学校に行ったんですか?」

 

「・・・・・・知らない」

 

「「っ!?」」

 

 私はつい、誠が帰ってこないからそう返してしまった。美空もさゆも驚いたような顔で、顔を見合わせるとすぐにこっちに向いて様子を伺ってくる。

 

「・・・・・・どうしたんですか?」

 

「別に、なんでもない・・・・・・」

 

「美海、へん・・・・・・どうしたんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 美空もさゆも気になるようで、私を見ては何かひそひそと内緒話をする。

 

(美海が可笑しい)

 

(何時もなら、兄さんの話題に飛びつくのですが・・・・・・)

 

(昨日、いなかったから?)

 

(そうですね、昨日なにかあったのでは?)

 

((もしかして───))

 

 最後の答えにたどり着いたのか、ひそひそと内緒話をしていたのをやめるとこっちをもう一度見て、二人してもう一度顔を合わせると頷いて真剣な顔で聞いてきた。

 

「「───美海(ちゃん)、誠(兄さん)は帰ってきた?」」

 

「・・・・・・・・・・・・帰ってこなかった」

 

 

((だから心此処にあらず、なんだ・・・・・・))

 

 

 美空は『アハハ・・・・・・』と苦笑いして、さゆは『美海は誠、大好きだもんな~』ってちゃかすように言うと、ニヤニヤとした顔でこっちを見てくる。

 

「誠って誰だ? 長瀬」

 

「あっ、えっと、沢渡君・・・・・・それはですね」

 

 話しかけてきたのは同じ班の男の子。

 

 

 沢渡 勝(サワタリ マサル)────何時も元気で活発な性格。クラスの人気者というか、クラスの中心人物って言うのが当てはまる男の子・・・・・・でも、女子のスカート捲りをしたりしている。

 

 ───捕まっちゃえばいいのに

 

 ───私は嫌いだ

 

 それに美空は自慢するように答えて、沢渡は『へぇ~』とか、興味なさそうに聞くけど美空の顔を見ているのに必死だ。

恐らく、好きなんだろうが美空は気づいてない。どっちかというと、優しく答えているのが奇跡と言えるくらいに嫌われても言い人物だと思う。美空も、相手しなければいいのに。

 

「───兎に角、凄い人なんです!」

 

「へぇ~、でもなんで長瀬は『兄さん』って呼んでるんだよ? 別に呼ぶ必要無いだろ」

 

 話し終わった美空。沢渡は少し不機嫌そうな声で、そう美空に聞いた。別にそれは人それぞれだと思うし、誠も気にしてないからいいのに。

 

「だって、まるで"兄さん"みたいに暖かい人なんです。優しくて、カッコヨくて、"理想のお兄さん"だからです(あとで知った話、実際は"兄さん"ですけど)」

 

「だから、お前に美空は振り向かないもんねー」

 

 誠のことを話す美空はまるで、私と同じだった。凄く楽しそうで、誠のことを何処までも見ていて、あの短時間で知れる量じゃないほどの事を知ってる。

 

 さゆはさゆで、良いことを言った。でも、ちょっと複雑。

 

 誠はみんなので、好きになるのもわかる、だけどこっちはチクッとする。

 

 沢渡は何時ものニヤニヤ顔を崩壊させかけながら、隣の峰岸 淳を見ると、そのまま話しかけた。

 

「なあ、俺って人気者だよな?」

 

「・・・・・・スカート捲りはダメだと思うけど、ある意味人気者だよ・・・・・・」

 

 峰岸 淳───あまり話したことは無い。どっちかと言えば、大人しい性格に入ると思う男の子。でも、私と話すときには何か、狼狽えるから何を考えているかわからない。同じクラスってだけで、他は何も知らないし、興味ないから知る気もない。

 

 でも、的確なことを言った、それは見直した。もしスカート捲りを褒めていたら、もっと関わりたくないと思えたと思うのはさゆも一緒? だけど、さゆは誰とでも仲良くしやすいから関係ないかな。

 

「勝、やめた方がいいと思うよ」

 

「なんでだよ? 見れて嬉しいだろ?」

 

「・・・・・・いや、みんな嫌がってるし・・・・・・ね」

 

「やめる気はない」

 

 ついでに言うと、私は学校でスカートをはかなくなった理由も沢渡の所為だったりする。

 

「美海、美空、近づいたら変態がうつるぞ」

 

「近づかないから大丈夫」

 

「私も、それは嫌ですね・・・・・・」

 

 さゆの言葉に誰もフォローを入れることなく、頷くと言葉を返した。

 

 このあと、授業はなくて帰るだけだから掃除をして学校は終わり。私達はサヤマートでアカちゃんの監視つきで、美空と遊んでから帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 起きると少し寒い。今日は土曜日で、パパもアカちゃんも仕事がない日。いっつも誠と寝てたから、なんだか隣が空いていて少しだけ寒い気がする。何時もだったら、誠がいて暖かいのに・・・・・・でも、今日は帰ってくる約束だから早起きした。

時間は6時くらい、アカちゃんも起きてないし、パパも起きてない。

 

 眠いけど、いつ帰ってくるかわからないから1人、テレビを見ながら起きてる。

 

【え~、暑くなったり寒くなったりと、最近の気象は───】

 

 最近だと、こんな天気予報が多くなった。ぬくみ雪って言うのが降ってから、寒くなったり暑くなったり、気象予報士の天気予報が外れたりと、当てにならない天気予報。

 

 ───ガチャッ───

 

 そんなとき、後ろからドアの開く音がした。急いで振り返ると、誠が手に買い物袋を持って、びっくりしたように私を見ると、ただ一言だけ───

 

 

 ────────ただいま

 

 と言った。

 

 

 私はちょっとだけ怒ってたのも忘れて、誠のところに走っていく。そして、躊躇いもなく抱きつく。

 

 こんな事が出来るのは今だけで、大人になったら出来ない。誠は少し嬉しそうに、私の頭を買い物袋を持っていない方の手で、優しく撫でてくる。

 

 袋を持っている手が逆になっていて、包帯を巻いていない手で撫でてきている。温かくて、少し気持ちいいから、アカちゃんの手と違ってこれも好き。

 

 

 

 

 

 私と誠は朝食を作り始めた。みんなが起きていない間に朝食を作ろうとしたらしく、朝一で食料を買って帰ってきてくれた。でも、私は反対したけど、一緒に作るって言葉に惑わされて、仕方なく誠と料理をする事にした。・・・・・・仕方なくだよね、仕方なく。

 

 お味噌汁、ご飯、目玉焼きに鮭の塩焼き。

 

 私がお味噌汁を作って、誠がそれ以外を全部。慣れているような手付きで作っていくところは、ママに似ているから立ち姿も重ねてしまう。

 

 昔も、誠はママと一緒にご飯を作ってた。だから似ているように見えるのか、それとも海が生まれだからかわからない。

でも、ママとは違う安心感がある。

 

「ふぁぁ~~・・・・・・あれ? 誠君?」

 

「どうしたんだい・・・・・・って、誠君と美海」

 

「おはようございます。アカリさん、至さん」

 

「うん、おはよう?」

 

「ああ、おはよう?」

 

 起きてきたアカちゃんとパパが、誠の姿に驚きながらも朝の挨拶をする。パジャマ姿で、二人ともまだ眠そうな雰囲気でそのまま自然に座布団の上に座る。

 

 出来上がったおかずは誠が皿にのせて、私はお味噌汁とご飯をついでアカちゃんとパパ、私と誠の分を持って行くとそれぞれの前において座る。

 

「私のすることなくなっちゃったね」

 

「うん、でもどれも美味しそうだ」

 

 手を合わせるアカちゃんとパパ。

 

「じゃあ───」

 

「「「「───いただきます」」」」

 

 アカちゃんとパパはまず、お味噌汁を飲んだ。

 

「美味しいね・・・・・・」

 

「うん、私のより美味しいかも・・・・・・これって、どっちが作ったの?」

 

「美海ですよ。それ以外は全部、俺が作りました」

 

 アカちゃんは少し落ち込んだようにそう言うと、誠が質問に答える。二人はそれを聞くと、お互いに顔を見合わせて頷くと。

 

「「誠君、美海いらない?」」

 

 意味がわかった私は少し顔が熱くなるのを感じた。

 

「アカちゃん、パパ、何言ってるの!!」

 

「そうですよ。だいたい、美海はまだ小学3年生ですよ? 確かに料理は簡単なものができて、可愛いから大人になったら良い女性になるのは一目瞭然ですが、早いですよ」

 

 だから赤くなっているだろう顔を隠しながらも、誠の様子を見ながらそう言う。それに反論した誠は、否定はしなかったが褒めてくれた。

 

「・・・・・・誠君、否定はしないの?」

 

「否定ですか? 無理ですね、未来は何が起こるかわからない。だから、否定するのは可笑しいと思いますよ?」

 

 私は少し嬉しくなった。誠がそう言ってくれるだけで、少しだけあった壁がない気がして、ちょっとだけ近くにいけた気がする。

 

「・・・・・・誠君、なにかあった?」

 

「そうですね・・・・・・あったと言えば、チサキの両親に『チサキはいらないか?』と小一時間程、薦められたり。此処にくる前にうろこ様を一発だけ、殴ってきました。『義務教育だから、学校に行かせなかったら殴る』って言って」

 

 よほど疲れたのか、誠は少し疲れたような顔で話し始める。それを見るアカちゃんはちょっとだけ、苦笑いをする。その瞳の奥には、悲しそうな感情が隠されているようにも見えた。

 




沢渡 勝はオリジナルなキャラ───地味にモブに近い奴です。美空が好き。だけど、告白は一度もしていない。

峰岸 淳───アニメの5年後に出て来る、美海を恋慕している少年。

なんか可哀想なので、ちょっとだけ出しました。
(オリキャラを出すのが面倒なだけだったりしないこともない)

でも、タグで決まっちゃってるんだよね。
アニメでは出番が少なかったし・・・・・・。

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