凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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やっと書けました。


第二十一話  移りゆく時間

 

 

 

 翌日。少し暑い中、いつも通りの時間に起きた。周りには朝ご飯の匂いが立ちこめており、光と至さん、アカリさんは起きたようで此処にはいない。隣の部屋で、学校に行く準備と仕事に行く準備、それぞれの準備を行っているのだろう。美海は俺と一緒の布団で寝ているため、まだ寝てる。

 

 その目の前で寝ている美海は、幸せそうな顔で寄り添うようにして寝ている。

 

 俺が起きた時間に起こす約束な為、問題は無い。今も俺が美海と一緒に寝ている理由としては、布団を買えば良かったのだが敷く場所がない。

 

 

 ───つまり、寝る場所がない

 

 

 ということで、俺が美海と寝るということになったのだ。一悶着起こしたのは俺だけで、美海は反発しなかったために多数決で負けという結果になったのだ。

 

 

「お~い、起きろ。美海」

 

「ん・・・・・・んぅぅ・・・・・・」

 

 美体を揺さぶりながら、声をかけると寝ぼけ眼の美海が一発で起きる。座ったまま体を起こすと、寝ぼけ眼をこっちに向けながらもまだ俺を見ている。

 

「朝だぞ、美海」

 

「うん・・・・・・おはよう」

 

「はい、おはよう。もうみんな起きてるだろうから、顔洗って朝ご飯を食べるよ」

 

 短い挨拶で、美海はよたよたと隣の部屋に向かって歩いていく。

 

 俺はその間に布団を片づけるのだった。

 

 

 

──────

 

 

 

 予想通り、隣の部屋ではアカリさんが弁当を作っており、至さんはもう漁協に出勤、光は席について出来上がった朝食を食べていた。

 

 先にこっちに来た美海は、顔を洗って着替えもしたようで、今は学校に行く準備中だ。

 

 

「おはようございます、アカリさん」

 

「うん、おはよう誠君」

 

 テレビは何時ものようについており、いつものように天気予報が流れている。アカリさんは弁当を詰めているため、美海の分と俺の分のご飯を茶碗によそうために茶碗を取り出してご飯を盛る。

 

「あっ、誠ダメ!」

 

「いやいや、これくらいいいでしょ?」

 

「私がやるから誠は座ってて!」

 

 これもダメなのか、美海が気づいてこっちにかけてきた。アカリさんと光辺りから来る暖かい視線が突き刺さるが、光の方はもうニヤニヤとした嫌な感じの顔をしている。

 

 

 ───正直に言うと、慣れた

 

  

 一々気にしているのも疲れるし、嫌な慣れだと思うけどそれも仕方ないだろう。ロリコンとか言いたいのだろうが、小学生に手を出すとヤバいからな・・・・・・捕まるよ。

 

 俺が美海か美空、どちらかと一緒にいるときにこの視線を感じるのだ。アカリさんにいたっては、美海といるときだけなのと、前から感じているが少し柔らかくて暖かい感じなので気にしない。

 

 

 押し切られた俺は仕方なく、朝食を食べている光の前に座る。流れる天気予報はこの前のぬくみ雪が嘘のように、気温の高さなどを伝えていった。

 

【え───、最近は異常気象が続いているので───】

 

 全く、その通りだ。

 

 まだ外では蝉が鳴いており、暑さを感じさせて夏だと言うことを実感させる。

 

「光、ちゃんと準備したか?」

 

「当たり前だろ。アカリにも言われたぞ」

 

 不機嫌そうにそう返すと、光はふてくされてしまった。特に気にすることもないが、いつものことなので放っておく。その間にも美海が皿を両手に持って、俺の目の前に置いた。自分の分も台の上に置くと、俺の隣に座ると持ってきてなかった箸を俺に渡して食べ始める。

 

「いただきます」

 

 美海は手を合わせてそう言うと、食べ始めた。俺も美海に遅れて『いただきます』と言うと、自分もおかずをつつき始めたのだった。

 

 

 

 数分で全部食べ終わった。

 

 

 

 皿を片づけると、俺は鞄を手にして家を出る為に靴を履く。美海はもう先にでて、学校に向かった。俺は光と学校に向かうために扉を閉める。

 

「行ってきます、アカリさん」

 

「行ってらっしゃい、誠君、光」

 

「行ってきまーす」

 

 少し遅い時間。このままいけば遅刻確定だろうが、昨日のお仕置きに凄く体力を使ったために走る気にもならない。のそのそと歩きながら、光と一緒に学校までの道を歩いていく。

 

 朝なのに殆ど人が通らない・・・・・・。

 

 光と俺は無言で歩き続けながら、アスファルトの上をゆっくりと歩いた。道路脇の歩道を歩いて、遅刻確定なのにそれを気にしない二人で。・・・・・・普段の俺なら気にしていただろう。人間、休みたい時なんていくらでもあるものだ。

 

 気づくともう校庭に入っており、終始無言だったのは光にしては珍しい。下駄箱で靴を履き替え、教室までの長い廊下を歩き、教室の扉の前にたつ。もう授業は始まっていて、遅れたのに悪気の一つもないのはどうでもいいだろう。

 

「すいません、遅れましたー」

 

「・・・・・・」

 

 俺が挨拶・・・・・・もとい、謝罪の言葉と共に教室に入るとみんなの視線がこっちに向く。先生も先生で、何故か驚いたような顔をしている。

 

「あれ、海村の子は全員休みかと思ったけど、光君と誠君は来たんだね」

 

「・・・・・・は?」

 

 その言葉を聞いた俺はマナカ、チサキ、要の座っているはずの席を見る。そこは本当に誰も座っていなくて、光も見た途端に驚いたような顔をした。

 

 ───昨日は元気だった。

 

 あいつ等が風邪に同時になるのは可笑しい、それに一応、チサキと要はしっかりしている。俺が気付かないはずもなく、

突然の休み・・・・・・村で何かあったか?

 

「村の連中・・・・・・!」

 

 光も何か気づいたのか教室に入らずに鞄を放り出して、走り出した。

 

 

 先生は唖然としている

 

 

 江川と狭山は『いきなりどうした?』とでも言いたげな顔

 

 

 他のクラスメイトも驚いている

 

 

 結論───うろこ様を殴りに行く。

 

 恐らくだが、今頃村で何かあったのだろう。それも登校できないような・・・・・・そんなことは一度もなかった。これまで過去を振り返ってみても、そんな事は一度もない。

 

「すいません、もしかしたら俺と光は休みます」

 

「え、ちょっ、誠君もかい!?」

 

 光が投げた鞄を拾うと、俺も教室を後にする。制止の声とか聞こえるが、それどころではない。

 

 

 走った

 

 不安を払いのけて

 

 

 鞄が邪魔だ

 

 でも、性分の所為か捨てない

 

 

 走り続けていると、曲がり角で目の前に見覚えのある影が映った。茶色の髪を持った、病院でよく会う以上に見かける女の人。当たりそうになったが、そこは当たらないようにギリギリかわす。

 

「キャア───!!」

 

 でも、かわしたはいいが自分は前のめりに倒れた。右手と左手を突いてしまい、少しピリッとした痛みが右手を襲うがそれどころじゃない。

 

 そのぶつかりそうになった美和さんは、びっくりして地面に座っていた。突き飛ばした訳じゃないから大丈夫だと思うけど、若干、涙目だ。

 

「いった~い──って、誠君!? ご、ごめん大丈夫!?」

 

「大丈夫です、すみませんが退いてください」

 

 心配してきた美和さんが俺の右手に向かって自分の手を伸ばす。そして触れた瞬間、振り払いたいのを我慢して触られるがままに触られる。温かくて、落ち着く・・・・・・。

 

「どうしてこんなとこに、学校は?」

 

「海の子が全員来てないんです。光も走っていきました。あいつらに何かあったかもしれないのに、俺はのんきに授業受けているなんて出来ませんよ」

 

 立ち上がると、驚いている美和さんを置いてまた走り出す。

 

 

 俺は気づかなかった───

 

  ───美和さんが凄く心配して俺の走り去るところを見ていることに。

 

 

 

 

 

 

 海に潜り、村に着いてみるとそこは悲しくて寂しい街になっていた。海の底にあるこの街は、まるで昔海に沈んだ都市のように人気がない。外に1人ぐらい人がいるだろうと思ったが誰も見あたらない。

 

 ───嫌な予感は当たった

 

 それが海に関することだって今、わかった。恐らくは昔聞いた、うろこ様の昔話が関係しているのだろう。それも海神様の鱗とはいえ、一応は神の一片だからバカにできない。

 

 ・・・・・・してたけど。

 

 兎に角、俺はうろこ様のいる社にでも向かうことにした。この現状はうろこ様と宮司の灯さん、町内のオッサン共で決められたことだと思う。確かこの前はチサキ達のとこも・・・・・・前言撤回、村全体で決められなきゃ、チサキ達が学校を休む理由にはならない。というか、理由を知りたがる。親としては、それくらいするだろう。

 

 歩き慣れた道・・・・・・踏む度にイライラする。ぬくみ雪を踏み、進んでいく中でも誰とも会わない。

 

 それから数分たち、社への道、後は曲がり角を曲がれば社が見える。そこで俺は見慣れた人物を目にした。私服に身を包んだチサキが、誰もいない中、社の前で立っている。

 

「チサキ、お前は何してるんだ。こんなとこで」

 

「誠・・・・・・だって、誠なら此処にくると思ったから・・・・・・」

 

 どうやら俺の行動はチサキに詠まれていたようで、先回りされていた。私服で大丈夫な様子から、風邪とか病気のたぐいではないことがわかる。それにほっとした。同時に、村の決定への怒りが沸いてくる。

 

「・・・・・・そうか」

 

「私ね、知らせに行きたかったんだ・・・・・・でも、どうすればいいかわかんなくて、何を話せばいいか分かんなくて気づいたら此処に・・・・・・」

 

 悲しそうなチサキは俯くと、ただそう呟く。

 

 チサキはこれからの村の方針を知っているのだろう。

 

 俺が知らない、まだ知らない話を知っている。だから答えることは出来ない。俺の中には現状を把握できていないために答えがなかった。

 

 

「ほう・・・・・・来たか。待っておったぞ、少年」

 

「じゃあ、なんでチサキ達が学校を休んだのか教えてくれるんですね?」

 

 

  ────────うろこ様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とチサキ、うろこ様、光、マナカ、灯さんは社の中に集まっていた。青い炎がうろこ様の後ろで燃えており、その勢いは何時もより小さい。何回目だろうか、此処にきたのは・・・・・・よくうろこ様に文句を言っていた、話をしたことは何度もある。

 

「さて、皆そろったな・・・・・・チサキもまたいるようじゃが、まあ良いかの。特にこの昔話は、お前とチサキは2回目じゃろうが、覚えておろう?」

 

「いいからうろこ様、早く話してください」

 

 前置きをするうろこ様に、ピリピリした視線を送る光。マナカと光の様子が可笑しいが、それ以上に気になることがあるので今はどうでも良いだろう。

 

「・・・・・・昔、海神様は海を捨てた人間を見て悲しみ、海の底に引きこもった・・・・・・」

 

 昔、うろこ様が語った昔話をまた語り始めるうろこ様。

 

 

 海神様は人間に忘れられると同時に力を失っていった。弱まり続けて、力を失い続けた海神様は1人で孤独に嘆く。

 

 

 ───海神様が力を失った時

 

 ───ぬくみ雪が陸と海に降り積もり

 

 ───やがて人間が暮らせないくらいの寒さになる

 

 

 そんな中で、1人の陸の女性が海神様に会いに行った。海の奥底に潜んだ海神様にお願いをしに、自然が崩れるのを止まることを願った。

 

 降り積もるぬくみ雪と寒冷を止めるため、人間の絶滅を防ぐために会いに行ったのだ。

 

 

 

 ───これが言い伝えにある、今の現象の全てじゃ

 

 

 その言葉で締めくくられ、話は終わった。うろこ様は何時も通りの顔で、世界が滅ぶ宣言をした後とは思えない顔で、俺達を見据える。

 

「これを乗り切るために与えられたのが、エナ・・・・・・それが、海神様がお主らを眠らせて人間が住めるようになるまで無事に眠らせてくれるじゃろう」

 

 嫌な話だ・・・・・・世界の崩壊の話、これを知らずに死ねたら恐怖を感じることも無かっただろう。知らない幸せもこの世界にはある。それが今の話だ。簡単に言うと、俺たちはのうのうと眠り続け、寒冷が収まるまで待てと言うらしい。

 

「待てよ、じゃあ地上の人間は、どうなるんだよ!! 知らせねえと、学校の奴らはどうなるんだよ!!」

 

「光、地上は地上だ」

 

 怒る光に地上のことなど知らないとでも言いたげなうろこ様。

 

 このままじゃ死んでしまう。

 

 

 美海

 

 美和さん

 

 美空

 

 至さん

 

 慎吾先生

 

 学校の先生

 

 クラスメイト

 

 

 どれも俺の大切な人達で、海とは違った俺の居場所・・・・・・何も無くなった俺にとっては、大切で何よりも守りたいもので海だけを選ぶことは出来ない。

 

 

 

「誠は何で何も言わねぇんだよッ!!」

 

「うるせえ、黙ってろッッッ!!!!」

 

 光の八つ当たり同然の言葉に、俺は怒りを露わにして言い返した。光より大きな声で、チサキとマナカが怯えているがそんなことは関係無い。

 

「───俺は海で眠りはしない。どうせなら、陸で生きて死んだ方がマシです。今眠って、誰もいない世界で生きるよりは最後の時間を、俺は大切にします・・・・・・失礼しました」

 

 後悔なんてしない。そう思えた俺は1人だけ立ち上がり、この空間から出るために扉に手をかける。

 

 

 起きたときにいない人達

 

 いない世界 

 

 独りぼっち

 

 

 

 ───なら、未来なんていらない

 

 

 

 帰り際、一つだけ声をかけられた。

 

 

「誠、せめてお前は金曜の宴会くらい来い・・・・・・明日までは、此処におるんじゃぞ」

 

 うろこ様はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 side《うろこ様》 

 

 

 光もチサキもマナカも、誠も帰った後。儂と灯だけの2人は酒を飲んでいた。杯に酒を注ぎ、悩める若者達の苦悩をつまみとしての考え事。

 

「あやつは本当にまっすぐじゃのぅ・・・・・・灯よ」

 

「はい、うろこ様」

 

 必要以上の事を語らない灯に嫌気がさすが、儂の興味は誠だけ。光の坊主と娘共も興味の対象じゃが、オジョシよりは今の誠の現状にはひかれる。

 

 ───似ている

 

 そう言えばいいのか、あやつは今は海に居場所が殆ど無い状態。寧ろ、陸の方で楽しく過ごす機会が増えておる。親を亡くした今は、海で冬眠をしたところであやつに良いことはない。

 

 

 

 

「まあ、あやつは居場所がないからの・・・・・・好きにさせた方が、あやつにとっては幸せじゃろう」

 

 

 ───もしかしたら、惚れた女の気持ちも分かるやもしれん

 




シリアス過ぎるとネタに困るよね・・・・・・。
でも、これにはシリアスを外せない。
別物になっちゃうしね。

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