凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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次の投稿は12月です。


第二十話  磯豚汁

 

 

 

 時間は流れて夕暮れ時・・・・・・。

 

 

 作業は何の心配もなく進んでおり、今はペタペタと小学生組と一緒にオジョシサマのパーツである物体に、楽しく青い絵の具?を塗っている。正直言うと、俺も小物作りがしたかったのだが、チサキと美海に美空の3人に止められた。まさかのドクターストップじゃなくて、美少女ストップ。

 

 何故か俺の止め方は心得ているようで、仕方無くこの作業で妥協したのだ。

 

 それで、他の人はと言うと・・・・・・狭山と江川の変態コンビは小物作りと船の補強。紡と光は同じく船の補強なのだが、木を切ったりといろいろと忙しい。要は色々な雑用(光もたまに)。チサキは縫い物をやっていて、女の子らしい一面で頑張っている。ついでに、マナカは料理のための買い出しだ。

 

 まあ、たいしてやることもないのだろう。要はどっかで頑張ってるし、後は俺の骨折が治れば本当に自由なのに、逆に美海と美空、チサキの監視が凄い。

 

 

「もっと面白いことしたいな~・・・・・・はぁ~」

 

「文句はダメですよ、兄さん?」

 

「悪化するからダメ!」

 

「そうだよ、誠は一応、安静にしてなきゃいけないんだから」

 

 このように、俺は愚痴ですら止められるのだ。骨折なんてなんでもないのにひどい仕打ちだと思う。人間の生きる意味は何か? 退屈こそ、人間の敵だろう。

 

 道具が目の前にあるのに手を出せないとは、本当に悲しい。

 

 

「せめて、小物作りだけでも───」

 

「「「ダメだよ。───じゃあ、誠(兄さん)は私が怪我しててもやらせるの(ですね)?」」」

 

 俺の弱点はどうやら知れ渡っているようで、このシンクロぶりは本当に凄いと思う。もしかしたら、裏で打ち合わせとかしたのかもしれない。・・・・・・してないよね?

 

 

「さて、チサキはそろそろ水浴びてきなよ。暇でしょ?」

 

 チサキが縫い物を終えると同時に俺は、絵の具?をペタペタと塗りながら言う。時間で言えば5時くらいだし、マナカと光に要はもう行ったとしても、チサキだけは俺の監視で行ってない。俺のエナはどうしたと聞かれればそうなのだが、何せ陸で過ごす時間が多かったからか余り乾かないのだ。

 

「・・・・・・そう言って、私がいない間に小物づくりする気でしょ?」

 

「しないって。あそこまで言われて、俺がやると思う?」

 

 ジト目で見てくるチサキに、俺はそう返した。マジでやりたいけれどあそこまで言われて、やるような馬鹿ではない。一応は面倒を見るのが俺の仕事だし、役割だからね。

 

「───それに、立派な監視が二人いるだろ?」

 

 美海と美空に視線を向けてそう言うと、チサキは渋々と言った感じで・・・・・・

 

「・・・・・・うん、わかった。お願いね? 美海ちゃんと美空ちゃん」

 

「はい、わかりました」

 

「わかった」

 

 それに答える美空と美海は、楽しそうな笑顔で俺の隣に近づいて座る。右側に美空がしゃがみ込んで、美海が左側にしゃがみ込んで完全なる檻が完成したわけで。

 

 

 ───普通、そこまでするのだろうか?

 

 

 なんて思ってしまう。

 

「じゃあ、行ってくるから。誠、絶対にダメだよ?」

 

 そう言うと、チサキは立ち上がって歩こうとするが・・・・・・少しだけよろめき、倒れそうになった。殆どの人がわからないだろうが、俺がこれを見逃せるはずもなく。それに紡も見ていたようだ。

 

「紡、頼めるか?」

 

「わかった」

 

 チサキが歩いていった後に、俺は紡にそう言うと軽く了承してくれた。

 

 

 ・・・・・・俺はこの娘、見てないといけないしな。

 

 

 

 

 数分後。

 

 

「あれ、チサキは?」

 

 戻ってきた要が木を置いて、周りを見渡す。

 

「見て、綺麗に塗ったぞ!」

 

 さゆが要を見ると、嬉しそうな顔で立ち上がる。

 

「チサキなら、水浴びに行ってるよ」

 

「ふ~ん・・・・・・」

 

 要の事だからチサキのところに行くのだろう。笑顔で褒めて欲しそうなさゆには目もくれず、紡がいないことを確認すると歩き出す。

 

 残ったのは、悲しそうなさゆだけ。

 

 

 俺が褒めてもいいけど、それじゃあ意味がないんだ。・・・・・・傍観者気取っている割には、周りが見えていないのか、チサキだけしか見えていないのか・・・・・・。

 

 何時になったら、この道化師は自分に素直になるんだろうか?

 

 

 

 

 

 side《チサキ》

 

 

 私は縫い物をしながら、ただ1人の幼なじみを見ていた。頭には包帯を巻き、右腕にも包帯を巻いて美海ちゃん達と一緒に絵の具を塗っている、痛々しい姿の"大切な人"・・・・・・誰よりも優しくて、誰よりも大人で自分は根をあげない強くて届かない存在。

 

 私に医療の知識があれば、少しくらいは手助けできたかもしれない。でも、大切な人───誠の知識に比べたら、ちっぽけで何の役にもたたない。

 

 告白した後も、答えをまだ出せないけど変わらずに接してくれてる。もしかしたらこれが"答え"なのかもしれないし、これが最善策だと誠は思ったのかもしれない。

 

 だけど・・・・・・

 

 

『告白の返事はすまないがお船引きが終わるまで待ってくれないか?』

 

 という言葉。

 

 今日言ってくれた、有耶無耶にされてなかった安心があった。少しみんなの前で恥ずかしかったけど、忘れないでくれた事が嬉しい。

 

 

「さて、チサキはそろそろ水浴びてきなよ。暇でしょ?」

 

 自分の怪我は何ともないみたいに、誠は心配してくれているのか、そう言ってきた。

 

 本当に誠は、人を観察するのが上手だ。

 

 少しだけ、頭がクラクラする。エナが乾く時間ですら、自分の予想範囲内なんだ・・・・・・悔しいけど、なにをやっても勝てる気がしない。

 

 

 

 私は何かと理由を付けながらも、少しだけたわいもない会話をしてから移動を始めた。

 

 

 

 

 

 夕焼け空は輝いていて、凄く綺麗・・・・・・海も、空に映る夕焼けの明るいオレンジ色を反射して輝いている。これを誠と一緒に見たかったけど、誠は誠で役目があるから仕方無い。美空ちゃんだって、体が弱いと聞いたし、美海ちゃんの話しではあまり外に出てない。だから、私は楽しそうな美空ちゃんに誠を貸してきた。

 

 別に私のじゃないよ? 誠は、皆の誠だもん。美空ちゃんがこの先独占しちゃったからって、誠が嫌がるとは思えないし役に立つのを喜ぶと思う。

 

 私はそんなことを考えながら、海に足を踏み入れた。冷たくて気持ち良くて、エナが喜んでいる感じがする気がするのは気のせいだろうか?

 

 

 そんなとき、ふと目に入った人物・・・・・・紡君が岩の上に立っていた。

 

「あれ? 何で此処に・・・・・・」

 

「悪い、邪魔した・・・・・・ちょっと誠に頼まれたから見に来たんだが・・・・・・」

 

 何処かでわかっていた台詞を言う紡君は岩の上に腰掛けると、いつも通りの涼しげな表情で何だか不自然。例えると、要と話している時みたいだ。

 

「誠なら、そうだもんね・・・・・・1人にするわけ、ないか・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 会話は続かないで、紡君は黙ってしまった。でも・・・・・・

 

 

「・・・・・・告白、したんだな」

 

「ふぇぇ!?」

 

 いきなりのそんな質問に私は驚いた。急に顔が熱くなってくるのがわかる、今頃私の顔は今の夕焼けと同じような色をしているだろう。

 

「あっ、悪い」

 

 そう言う紡君の顔には悪びれた様子もなく、変わらない表情で謝っているかどうかすらわからない。どっちかというと、

誠の傍観するときの、見守るときの質問に似てる気がした。

 

「・・・・・・うん、やっと決心できたんだ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 だから、私は持ち直して答えた。今までの自分だったら、出来ないけど小さな進歩・・・・・・誠に届くための小さな一歩だけど、紡君はからかう様子もなく静かに聞く。

 

「───なんで、応えないのか聞かないのか? あいつだったら、最初から気づいていたと思うぞ?」

 

「気づいてたよ・・・・・・でも、誠は誠だもん。何時だって、自分のことは後でみんなが先。私にはなんで今答えてくれないかわからないけど、今はこれでいい。誠にだって、時間は必要だから。───付き合わせてごめんなさい、さあみんなのところに早く戻ろ?」

 

 私は海からあがりながら、岩を登っていく。

 

 

 

 

 

「・・・・・・誠は、わかってるのかな? 僕が、傍観してること」

 

 見えないところで、そう呟く1人の声は波の音でかき消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 side《誠》

 

 

 今日の作業を終えた俺はお茶を飲みながら、1人でビールケースの上に座っていた。目の前では焚き火がされており、ユラユラと揺れるその様はまるで波・・・・・・いや、嵐だ。今日の作業はみんな終えて、今頃は帰ってきたマナカがおいしい料理でも作っていることだろう。俺も料理をしたかったが、光と一緒に様子を見てくると言ったらいきなり服の袖を掴まれて止められたのは、本当に勘弁して欲しい。

 

 で、光は愛しのマナカの所に料理でも見に行ったのだ。俺を置いて、目的は料理じゃなくてマナカだろうが本当にそこで告白しちまえばいいのに・・・・・・チャンスなんて、今まで何度でもあったはずだ。

 

 

「ただいま。誠、いい子にしてた?」

 

「うん、してたよ・・・・・・」

 

 帰ってきたチサキにそう返し、俺は楽しそうに見つめてくるチサキを見たが、顔がもう俺を完全にかごの中の鳥だと思わせてくるのは気のせいだろうか?

 

「嘘ついたらダメですよ? 兄さん、さっき料理をしようとしてましたからね?」

 

「誠・・・・・・」

 

 気のせいじゃなかった・・・・・・。

 

 チサキが呆れたような顔でため息をつくと、ジト目で俺を見てくる。

 

「あっ、紡、悪いな。俺は動けなかったんで」

 

「ああ、別に・・・・・・」

 

 澄ました顔の紡に話をふって逃げようとした。丁度、チサキの後ろにいたがために悪いが、少しだけ有効活用させてもらおう。何せ、チサキがなんかちょっと怖いんです・・・・・・ちょっと怒ってるんだよ。

 

 

「みんな、磯豚汁出来たよーーーって、ちぃちゃんおかえりー」

 

「うん、ただいま。マナカ」

 

 

 助かった・・・・・・

 

 

 

 

 

「「「「いっただっきまーーーす!!」」」」

 

 磯豚汁の匂いと、全員の声が周りに届いた。作業を終えた俺達はマナカ特製の磯豚汁の入った皿を片手に、そう言うと各々は磯豚汁を食べ始める。

 

 俺の右側に美空、右側にチサキ、そして美海は美空の右側に座っている。さゆちゃんは何とか要の隣に座ったようで、目に見える範囲にはいる。マナカと光は当たり前のように隣同士、紡はお祖父さんと一緒だ。

 

 ついでに、あの江川と狭山は何故か俺の目の前に・・・・・・なんかこっちを見て、聞こえない声でお互いに耳打ちをしているのはなんかヤダ・・・・・・嫌な予感しかしない。

 

 

「美味しいです。ママのとは違って、これも!」

 

「うん、美味しいね・・・・・・でも、誠の料理の方が美味しいよ?」

 

 美空は大興奮で美海に話しかけており、とても楽しそうだ。美空にとってはこれが初めてなのだろう。外でご飯を食べることも、友達と楽しく過ごすことも・・・・・・そう言えば、美海の脱走事件以来だった気がするな。こうして、外で楽しくみんなで過ごすって。

 

「そうなんですか? 是非、一度は食べてみたいです」

 

「なら、今度作ってあげるよ」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 なんとも可愛らしい笑顔の美空は、凄く引かれたのは何故だろうか?

 

 それに、なんか何処かで見たような気もしなくもない・・・・・・

 

 どっちかというと、誰かに似ていると言えばそれが当たりかもしれないのだが。

 

 

 ───まあ、今のゆういつの救いがチサキと美海の二人で俺に食べさせようとしないことだけど・・・・・・美海は家で俺の手の骨折を理由に、チサキは学校で同じ理由を使って食べさせようとしてくるのだ。したのだが、美海は自分の所為だからと断ったら落ち込み、チサキは悲しそうな目をしてくる・・・・・・そう、逃げ道はない。

 

 

「と言っても、俺の怪我が治らないと料理させてくれないけどね」

 

「当然です」

 

 作ってもらう側の美空まで、俺に枷をつけるつもりらしい。最近はアカリさんと美海が台所に立つため、俺は怪我も込みで料理ができていないのだ。

 

 ついでに、光まで料理しやがる・・・・・・まあ、その光はマナカの近くで磯豚汁を『海と陸混ぜるなんて邪道だ』と言いながらも頬張っている。

 

「おやおや、次は向井戸見てるのかな? 長瀬く~ん?」

 

「しかも、大きいおっぱいに囲まれながらも向井戸の大きさの方が好みってか?」

 

 俺の視線に気づいた江川と狭山が、子供に聞かせてはならない会話をふっかけてくる。その顔は嫌らしいの一言に尽きるが、ひそひそと話していたときの悪寒は当たったみたいだ。

 

 それに、チサキと美空が顔を赤くしている。

 

 美海はキョトンとしていて、今だに害はない・・・・・・筈だ。

 

「比良平なんて、あの学年では一番・・・・・・寧ろ、お前が告白に即答しなかったのが不思議なくらいのエロいボディ。そしてその反対側には、美空ちゃんの小学3年生とは思えない、胸の大きさと美空ちゃん自身の大人っぽさが自己主張している。

・・・・・・見てみろ、美海ちゃんと比べても、さゆちゃんと比べてもこの歴然な差を!」

 

 そう熱弁する江川は、ニヤニヤとしながら二人を見ている。隣の狭山もそうだ。

 

 それに対しての美空とチサキは顔を赤くしながら、自分の身を抱き締めるようにして胸を隠した。確かに江川の言うとおりに、美空の胸はマナカくらいはある。小学3年生とは思えないくらいだ。性格も大人びているし、本当に3年生か疑いを持つのは当たり前だろう。

 

 そして、隣の美海は自分の胸と美空の胸を見比べて、何故かこっちに視線を向けた。

 

「・・・・・・ねぇ、誠はおっきい方がいいの?」

 

「・・・・・・えっ?」

 

 ロリコンなら一発でKOするだろう、そんな質問をしてきた。純粋ながらも頬を赤くして、上目遣いで涙目になりそうな美海からは真剣な様子が見て取れる。

 

 そして元凶は、今だににやついている。美空とチサキまでもが俺を見て、頬を赤くしているのがなんとも怖い状況だと、

下手な返し方をしたら何かとヤバいことがわかる。

 

「う~ん。美海は普通だと思うよ、美空がちょっと発育がいいだけだ」

 

「・・・・・・どっち?」

 

 ・・・・・・逃げれなかった。

 

 寧ろ、美空が俺の言葉によって顔を赤くさせただけだ。

 

 

「どっちでもいいよ。好きになれば関係無いと思う」

 

 俺はそう言うと、美海の顔を見る。何故か赤さが増した気がするが、これで・・・・・・

 

 

「・・・・・・どっち///」

 

 

 ・・・・・・終わらなかった。

 

 顔を赤くしながらも美海は、この答えに納得などはしないようでまだ聞いてくる。結構、本気の答えだったのに納得出来ないということは気になるのだろうか?

 

 ───確かに、女の子にとって胸の大きさは問題だ

 

 七つの大罪の"色欲"に位置するだろうが、簡単に言うと、性欲・・・・・・美海も興味が出たのだろう。女の子の方が精神の成長は早いと言うし、かと言って俺の答えはどうすれば・・・・・・?

 

「・・・・・・小さい方も嫌いじゃないが、大きい方がいい・・・・・・かな?」

 

 敢えて小さい方をフォローしながらも、疑問系で答えた。断言するよりは、断然にこっちの方がいい。

 

 小さい方を推すと、確実にロリコン扱い。ならば、丁度いい位とか答えたらまた聞き返される。そして、男性的には大きい方がいいと思う・・・・・・自分の好みだから、仕方ないよね?

 

「「///」」

 

 約二名ほど、上機嫌になり・・・・・・

 

「・・・・・・私、小さい」

 

 約一名ほど、不機嫌になった。

 

 

 

 さて・・・・・・

 

 

「やっぱり、こいつはロリコンじゃなかったか?」

 

「でも、美空ちゃんって大きいぜ?」

 

 

 問題はこの二人・・・・・・

 

 

「何にしても───」

 

「そうだな───」

 

「「やっぱりお前も大きい方がいいよな!」」

 

 

 子供に変な事を教えた罰、与えなきゃね?

 

 

「・・・・・・覚悟はいいか?」

 

「「───へっ?」」

 

 何って───

 

「───もちろん、子供に変な知恵を与えた罰に決まってるじゃん♪」

 

 チサキは苦笑い。美海と美空はきょとんとしている。

 

 そんな死刑宣告は、無慈悲にも実行される。

 

「ちょっと、待った!」

 

「マジで、すんませんした!」

 

 俺は逃げながら謝る二人のエロ野郎を捕まえて、覚えた関節技の数々を実行するのだった。これを止められたものは、誰もいなくて、止める者すらいなかったという。  




はい。誠も男の子ですよ・・・・・・決して、ロリコンじゃありません。
ええ、断じて違います。何せ、まだ美海は恋愛対象じゃないので・・・・・・ね?
というか、気づいていないというか・・・・・・まあ、年齢が年齢ですので。

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