凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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オリ主の視点、減ったな・・・・・・


第十九話  温かい

 

 

 

 朝。

 

 

「大分、おかしな事になったな・・・・・・」

 

「・・・・・・ん? どうしたんだよ、誠?」

 

 俺は至さんの家で、朝食を食べていた。料理はパンにサラダにウインナーに目玉焼きという簡単なものだが、俺の独り言も光に聞こえていたみたいだ。

 

 

【え~、続いては陸の天気です────】

 

 

 流れるテレビの天気予報には目もくれず、俺と光は外を見ている。外は雪が所々つもった後が見えていて、不思議な感じだ。それに、不思議な事に雪が降る季節としては、まだ早すぎるというものもあるし、寒さも最近急激に上がってきた。

 

「いやさ、ぬくみ雪も地上に降るんだな~っと、思ってさ」

 

「そうだよね。私も初めて見たかも?」

 

 俺の問いに答えたのは、アカリさん。今は弁当を作っており、その首には綺麗なペンダントがかけられている。

 

 そのペンダントは昨日、美海がプレゼントしたものだ。みんなで駆け回って探したのはいいが、良いものが見つからずに自力で貝殻を探して作った。要するに、手作りの物を贈ることになったのだ。

 

 そして、その時にちょっと病気を患っている女の子にも出逢った。

 

 名前は美空───美海の友達で、良い娘なのだがちょっと悲しそうな少女だった。昔から体が弱くて、友達とまともに話したことすら無いのだろう。遊ぶことさえ、あまりないらしい。

 

 そんな少女が発作で倒れ、俺はなんとか応急処置はした。器具とかが無くてやれることはたかがしれているが、大事には至らずに無事だったと聞く。

 

「そういえば、美空の苗字って何ですか? アカリさん?」

 

「えっ・・・・・・と、あれ? 私、そう言えば知らないや・・・・・・」

 

「・・・・・・そうですか」

 

 顎に手を当てて考えるアカリさんに、俺は疑問を持つこともなく納得。

 

「お前、今度はあの娘狙ってんのかよ?」

 

「おい、人聞きの悪いこと言うなよ・・・・・・まるで、俺が何処かのたらしみたいじゃないか」

 

 だが、光は俺の発言にロリコン疑惑をかけてきた。俺はロリコンになった覚えもないし、確かに中学生が小学生に目を付ける時点でヤバいが俺はそうじゃない。

 

 ガチャ───!

 

「───見て、雪がたくさんあったよ!」

 

 扉を開ける音と共に、興奮した様子の美海が雪を持って帰ってきた。両手に乗るくらいの大きさのそれは、海牛に見えないこともない・・・・・・その姿に、俺と光とアカリさんは固まっている。

 

「雪だるま?」

 

「違うもん! 雪ウミウシだもん! アカちゃんと誠はわかった?」

 

 何に見えたのか、光がそう言うと、美海が怒ったような顔で聞いてくる。光があれをウミウシではなく、雪だるまに見えた理由を問いたいところだ。丸いフォルムに小さな尻尾のようなもの。頭がない時点で、雪だるまの確率は正直低いと思うのだが・・・・・・何で雪だるまと思ったんだ?

 

「勿論、海牛ってわかったよ。寧ろ、光に毎日見てるような奴を間違えたのか聞きたい」

 

「私もわかったよ。毎日見てるし、わからないのが不思議だよ。───あっ、こうするともっとウミウシに見えるよ」

 

 アカリさんはそう言い、かいわれを美海の作った"雪ウミウシ"の頭に二本突き刺す。そうすると、さっきよりはわかりやすいウミウシになった。

 

 美海は笑顔で、凄く嬉しそうな顔をすると、少し暗くなった。

 

「パパ、帰ってくるまで残ってるかな・・・・・・?」

 

 ・・・・・・冷凍庫に入れたら、いいんじゃないか?

 

 

 

──────

 

 

 

 登校時間、俺と光は学校への道を歩いている。美海と話していたら『遅れるぞ』と言われて、少し早い時間に出て来たのだが、少し寒い・・・・・・。

 

「お前は、可笑しいと思わないか?」

 

「は? 何がだよ?」

 

 俺の質問に、光は『何言ってんだ、こいつ?』みたいな顔で、そう聞き返してきた。

 

 ・・・・・・質問した俺が馬鹿だったのかな?

 

 わからなければ良いことだし、別に"子供が知るような話"じゃないと言って何か隠すだろう。あの大人たちは、大きくなるまで掟の内容を知らせなかった。それが、現実───でも、地上のこの寒さは気になる。

 

「まあ、馬鹿に話しても何も変わらないか・・・・・・やっぱり、俺一人で考えるかな」

 

「悪かったな? 馬鹿で!」

 

 吠える光を無視して、俺は学校の校門を通ると、そのまま入り口まで歩く。その入り口には、チサキと要、マナカが3人で靴を変えている姿が・・・・・・うん、何時もより早いね。

 

「おはよう。チサキ、マナカ、要」

 

「あ、誠・・・・・・光も、今日は早いね?」

 

 チサキは手に靴を持ちながら、取り替えている間にも挨拶を交わす。学校の下駄箱で会うなんて、なんだか不思議な気分だ。今まで、みんな揃って登校してたし。

 

「そっちこそ早いんじゃないか? いつもの時間より、10分くらい・・・・・・どうしたんだ?」

 

「うん、それがね、大人たちが早く学校に行きなさいって。大人は大事な集まりがあるからって」

 

 珍しいな・・・・・・。大人たちが集まる? 何時もだったら、うろこ様と宮司の灯さん、後はちょっと歳を老いた4、50くらいのオッサンの集まりだけなのに。

 

「まだ、何か隠してるのか・・・・・・」

 

「ふぇ? どうしたの、誠?」

 

「いいや、何でもない。教室へ行こう、此処にいると登校してくる生徒の邪魔だからな」

 

「うん」

 

 俺は靴を履き替えると、何時ものメンバーで教室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 

 遅れることもなく登校し、授業を終えた俺たちは、教室で椅子に座ってゆっくりとしていた。半数近くが、もう既に家に帰ったようだが、お船引きのメンバーはみんないる。

 

「誠、本当に大丈夫? 気分、悪くない?」

 

「うん、大丈夫。と言うか、心配しすぎだよチサキ」

 

 俺の隣にはチサキが座っていて、俺の頭の包帯と腕の包帯を心配そうに見ている。告白されてから、何時もこの調子なのだ。寧ろ、吹っ切れたと言うべきだろう。まだ返事を返していないが、元からチサキは優しい娘なので何時も通りと言っていいべきか・・・・・・。

 

「おいおい、放課後に夫婦を見せつけちゃってくれてるね~」

 

「ち、違うよ! まだ、そんな関係じゃ───」

 

 茶化す狭山に、チサキが反応。

 

 だが、それを聞き逃すはずもなく・・・・・・

 

「おっ、『まだ』と言うことは、いずれはそんな関係になりたいと言うことだな?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 馬鹿の言葉に言いよどむチサキは、涙目で今にも泣きそうだ。しかも、こっちを見てくるのでなおのこと辛い。実際、俺が返事を返していないわけだし。自業自得と言えば、自業自得なのだろう。

 

「ん~、自業自得、か・・・・・・チサキ、告白の返事はすまないがお船引きが終わるまで待ってくれないか?」

 

「へぅ!? ・・・・・・う、うん・・・・・・///」

 

 俺は真剣な顔でそう言うと、チサキは変な声を出しては顔を真っ赤にして俯いた。その姿に周りは固まり始めて、俺とチサキを交互に見る。

 

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 

 まるで、魂が抜けたかのような屍が数匹イル。

 

 マナカは口をパクパクと金魚のように開けたり閉じたり、光も指を俺とチサキに交互に差しながらマナカと同じように口をパクパクと・・・・・・要は、なんか何時ものポーカーフェイスだが、開いた口が塞がってない。紡だけが、無表情で何事もないように俺とチサキを見ている。

 

 

 

「「「「ええええええぇぇぇぇ!!?」」」」

 

 

 

 大絶叫が、教室の中に響き渡った。恐らく、廊下どころか校内中に届くほどの声量だろう。

 

 

 

 

 

「あれ? みんな、何かあったのかい・・・・・・?」

 

 

 教室に先生が来るまで、みんな正気には戻らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 side《美空》

 

 

 キーンコーンカーンコーン───!

 

 

 授業の終わりをチャイムが告げて、私は使っているペンの腕を止めた。プリントには重要な部分が書いてあり、黒板を書いている先生の腕も止まる。

 

「む、もう終わりか・・・・・・宿題を出しておくから、やってくるように!」

 

 その言葉とともに、周りから『え~~~~』という愚痴が漏れる。書き終えた私の腕はもう片付けを始めていて、既に帰る準備は万端だ。それに、今日は特別な日でもあります。

 

「美海~! 早く行こう!」

 

「待ってよ、さゆ!」

 

 さゆちゃんと美海ちゃんはもう既に準備を終えており、ランドセルを背負って教室から飛び出そうとしていた。

 

 私は立ち上がると同時にランドセルを背負い、美海ちゃん達のところにゆっくりと歩いていく。

 

「待って下さい!」

 

「あれ? どうしたの、美空?」

 

 そう声をかけた私に、美海ちゃんはうずうずとして早く行きたそうな顔をしている。本当に兄さんは、美海ちゃんに慕われていて良い人だと思う。もし、一緒に住めたのなら楽しいだろう。

 

「私も行きたいです! オジョシサマ作り、手伝います!」

 

「ん~、美空って遊べないんじゃないの? それに、外だよ? 寒いし、発作も起こる危険性が高まるし・・・・・・」

 

 そう、私は今までまともに外で遊べませんでした。子供だけで遊ぶと、私の発作に対処する方法がわからないから、外だと凄く危険なんです。体育の時間も、キツくない運動だけでしたし、マラソンくらいでした。

 

「美空って親の許可が無いと遊べないんじゃなかった?」

 

「はい、そうです」

 

 さゆちゃんが頭に?を浮かべ、考えています。私の答えに、更に考え込んでしまいました。

 

「───でもですね、ママが許可をくれたんです。『誠君がいるなら安心だから、一緒にいるなら外で遊んできてもいいよ』と・・・・・・それに『その場合は、絶対に離れちゃダメ』とも言われました。だから、兄さんがいるところなら何時だって大丈夫です!」

 

「おぉ、タコスケ2号が認められた・・・・・・もしかして、親が認めた結婚相手」

 

「ち、違います! 兄さんと私は、絶対にそういう関係じゃありません! ・・・・・・それに、私と兄さんは・・・・・・」

 

 さゆちゃんがおかしな事を言うので、私はちょっと想像してしまいました。勿論、兄さんの事は大好きですけど、本当の兄妹は結婚なんて・・・・・・でも、一緒にいれたら絶対に楽しいですね。

 

 それと、こんな事も言われました。美海ちゃんとさゆちゃんには内緒ですが、『お兄ちゃんと仲良くなるには、一緒にいるのが一番』だと、ママは結構ノリノリです。パパはパパで、『俺、誠に会った瞬間に罵倒されないかな・・・・・・』と、少し落ち込み気味のパパが見られました。何時もはママとラブラブなので、レアです。

 

「? 行こう、美空。早くしないと、誠達先に始めちゃうから。それに、良いって言うなら、遊ばなきゃ」

 

「はい、楽しみです!」

 

 

 

──────

 

 

 

「来てやったぜ! 感謝しろ、タコスケ!」

 

 ついたと同時に、さゆちゃんがいきなりの上から目線な発言を言い放ちました。

 

 此処は知らない人の家で、庭で何人かの人達が集まっています。その中には、兄さんと、兄さんとは違う学校の制服を着た人、それとあの時の砂浜にいたお姉さん達までいました。

 

「ん? あっ、美海と美空、来たんだね。───美空は大丈夫だったか? 家で寝てなくても、此処にいても大丈夫なのか? 寒くないか?」

 

「はい、あの時はありがとうございました。その節はご迷惑をおかけしました」

 

 開口一番に心配してくる兄さんに、私は丁寧な返しで答えます。あの時は本当に助かりました。何時もは学校で、発作も1人で買い物に行ったときも全然ならないから焦りました。

 

「いいよ。迷惑はかけてくれて。寧ろ、1人の時の方が心配だからね。気付かれずに、知らないところで誰も知らずに何時の間にか死んじゃうって人もいるにはいるし、ね・・・・・・」

 

「誠は医者目指してるもんね」

 

「まあ、そうだな。一番やりたいって思ったのは、人を救うことだし」

 

 どうやら兄さんは医者を目指しているようです。でも、中学生であんなに知識がつくもの何でしょうか? 不思議です、

やっぱり兄さんに任せる理由はそれでしょうか?

 

「あの・・・・・・少し、いいですか・・・・・・?」

 

「どうしたんだ?」

 

 兄さんは屈み、私の目線まで来てくれました。

 

「えっとですね・・・・・・その、パパとママには兄さんとくっついているなら外にでてもいいと言われたので、出来ればずっと一緒にいてくれないかな~なんて。ダメ・・・・・・ですよね?」

 

 これは私の必死のお願い。

 

 我が侭だってわかってます。

 

 でも、怖いものは怖いです。

 

 痛みが何時襲ってくるか、何時か呼吸が止まるんじゃないか、家に居るときでも何処にいるときでも一緒の恐怖が襲ってくる。学校に行っている時なんて、家の時より落ち着かない。

 

「───ごめんなさい、忘れて『いいよ』・・・・・・え?」

 

 私が謝ろうとすると、兄さんは優しくて温かい笑顔でそう言いました。私の心の中は何だか温かくて、凄く安心できる不思議な気分です。

 

「───そういう病気って怖いもんね。何時来るかわからない、死ぬかもしれない、喘息の発作といえどもそれくらいあるかも知れない。今まで、楽しく遊んだ事なんてあまりないでしょ? なら、安心していいよ。もし、発作が起きたら絶対に助けてあげるから。我慢せずに行きたいとこややりたいこと、全部聞いてあげるよ」

 

「はい・・・・・・ありがとうございます、兄さん・・・・・・!」

 

 

 私は思わず、泣きだしてしまいました。

 

 

 自分が腹違いの妹だって言うのに、騙してる。

 

 誰にでも向けてくれる、兄さんの優しさに甘えてる。

 

 本当なら、自分を恨むかもしれない。

 

 

 泣いている私を抱き締めてくれる兄さんは、泣きやむまでずっと私の背中や頭を撫で続けて、私に心の温かみと優しさを与えてくれました。

 

 

 




シリアス?な進みのストーリー。
書くの苦手ですね、はい。
これ、元がシリアス?ですからね・・・・・・。

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