電車に乗って数十分、俺とチサキと美海、光に要にマナカと何時の間にかいた紡の7人で街に来た。あの後、我に返ったチサキと美海は顔を真っ赤にして俺にもたれ掛かるようにして倒れ、両方の面倒を見た。
しかも、見ている側に紡までいたとは・・・・・・別に俺は構わないが、チサキと美海は誰か1人に見られていただけでアウトなようだ。
マナカに助けを求めるも、『えっちなまーくんは知らないもん!』と言うことで、チサキと一緒に見捨てられ、男共は目を逸らし、結局は俺だけで椅子から落ちないように支える羽目になった。
自業自得と言えばそうなのだが、今度あいつ等は助けないことにしよう。一度くらい、自分で問題を解決するのもいいはずだ。
「んん~~~~!」
「・・・・・・頭クラクラする」
チサキは復活したのか伸びをして、美海はぼーっとしている。背中のリュックに何が入っているか知りたいが、それどころじゃない。8時までには帰ると言っているため、美海の探し物をそれまでに見つけて帰る必要がある。
「ところで、紡。そう言えば何しに此処に来たんだ?」
「ああ、俺は用事。だけど、何時でもいいから町の案内を頼まれた」
「まあ、俺は一度来たっきり・・・・・・美海は期待できない。それに、光達はあまり此処とか来ないだろうから、当然か・・・・・・」
俺は光達が案内を頼んだことに納得。目の前には町を見て、呆然としている美海。恐らく、見るのは初めてなのか、ビルを見上げて・・・・・・転けた。
「大丈夫か、美海」
「うん・・・・・・ちょっと驚いただけ。前も来たけど、お母さんが生きてたときだから」
美海のその言葉には、何処か悲しみが含まれている。そう言う俺も、自分の母さんと来たときのことを思い出していた。
手を引っ張り、美海を立たせると俺は周りを見渡す。
見た限りに変わっているものは多くて、本当に数年で色々と変わったことがわかる。だけど、ミヲリさんと俺の母さんの死んだ年は俺の母さんの方が早い。それからは、俺も来ていないわけなのだ。
「変わったな・・・・・・」
「どうしたの、誠・・・・・・?」
チサキまで心配し始め、俺は頭から昔のことを消し去った。思い出しているところだったけど、今は過去の感傷に浸っている場合じゃない。
「潮の香りしないね」
「当たり前だ。電車で一時間近くかけて中の方に来たんだぞ?」
「エナ、乾いちゃったらどうするんだろう?」
エナの心配をするマナカだが、なにも知らないわけじゃない。前に来たし、まだ無くなっていないか増えているなら・・・・・・
「───あそこに、書いてあるだろ?」
紡がそう言って指を指した先には、『塩水あります』という看板。こういう店には、海から来る客のために塩水が置いてあったりする。昔、母さんと来たときにも無理矢理、浴びさせられた。
「まあ、そう言うわけだから行くぞ」
──────
歩いて数分で、俺達は大きなデパートについた。中にはいろんな店があるのだが、俺たちの目的は形に残るもので、俺が持っているようなペンダントに決まったのだが・・・・・・
「何かあった? 美海ちゃん」
「・・・・・・」
コレと言ったものがなくて、困っている。俺も貰ってから嬉しいと感じたわけだし、母さんが渡してきたペンダントは選ぶのに時間はかからなかったわけだが・・・・・・予想以上だ。
これで3軒目なんだけど、美海の思うものが無いのだ。俺達は手伝うと言っても、候補を探しているだけで最終決定権は美海にある。
何度か壁の宣伝を見ているのだが、なんせ値段が値段。俺の生活費から出してもいいのだけど、それはなんか違う。プレゼントに他人から金を借りるのは、なんか違うのだ。
「もしかして、これ・・・・・・?」
美海の視線に気付いたのか、チサキが美海に問いかける。俺はそれを美海の横で黙って傍観しながら、アカリさんに似合うアクセサリーを探している。
だが、空気を読めない馬鹿が1人・・・・・・
「うっわ! 何だよこれ、高すぎんだろッ!?」
その正体は光で、美海とチサキの見ていたポスターを間近くで見ていきなりのこの発言だ。正直に言うと、本当に空気が読めていない。
「光、ちょっと空気読んでくれ」
「──っ痛!? 何すんだよ、誠!?」
明らかに光が悪いため、俺は何も言わない。だが、その代わりに泣き出しそうな美海の前にたってチサキが光に注意した。
「もう、光が悪いよ。女の子の気持ちをわかってないんだから」
「俺がそんなもん、わかるわけ無いだろ」
開き直ったように喋り出す、光。
「だから、お前はマナカと何時までもくっつけねえんだよ」
「ちょっ、マナカは関係ねえだろ!」
俺の発言にチサキと美海は笑い、光は顔を赤くしている。これがマナカに聞こえなかっただけ、マシと思えよ光。・・・・・・でも、聞こえたら聞こえたでいい方こうに進と思うんだけどな。
「ほら、美海、気にしないでいいじゃないか。こんな脳内マナカ一色の馬鹿はほっといて、次の店でも行こう」
「うん・・・・・・」
なんか光が喚いているが、俺は気にしない。だいたい、周りの客の迷惑になるだけだからやめて欲しいところだ。
「ほら、光はほっといてチサキ、行くよ」
「あっ、うん。マナカ、行こう」
「待ってよ、ちーちゃん!」
俺達は喚きながらついてくる光を無視して、店を出た。
side《チサキ》
本当に今日はどうしたんだろ、私・・・・・・。
何時になく大胆な行動をしてしまった。電車の中で誠と普通にしていたはずなのに、何故か大胆にも誠に『はい、あーん』をするなんて・・・・・・しかも、バッチリとみんなに見られてたし。私に対抗して美海ちゃんが『はい、あーん』をしたときは取り乱しちゃったけど。
思い出しただけで、また顔が熱くなってきた。
でも、こんな機会は全然ないんだよね。誠ってば、誰よりも大人なんだ。何時も、誠がみんなの面倒を見ては文句も言わず、ただみんなを見て来た。みんなのお兄ちゃん的な立ち位置だが、それを放棄すらせずにただ、ずっと・・・・・・。
もしかしたら、迷惑だったのかもしれない。その所為で誰よりも誠は大人になった。みんなの恋愛事情にも詳しいし、物知りだし、頭いいし、スポーツもできる。やっぱり遠い存在・・・・・・近づきたいけど、誰も隣には立つことが出来ない。寧ろ、誠が皆のために同じ立ち位置に立っているようなそんな感覚だ。
───誠の隣に立てるのは、妻になる人だけ
きっとそうだ。私達なんかじゃ、近くに寄ることも難しい。
───それでも私は
───誠が好き
何時からか、私は誠が好きになっていた。今まで、誠は皆のお兄さんみたいな立ち位置だった。それは、過去も今も未来も、絶対に変わらないだろう。
でも、私はそこで止まりたくない。誠と彼氏彼女の関係になりたい。妹みたいだと思っているかもしれないけど、ちゃんと見て欲しい。誠のことだから、私の好きに気付いているかもしれないが今まで妹として見られていた分、気付かれていないかもしれない。
私的には前者の方が嬉しいけど、それだと私はあまり興味を持たれていないことになる。
一応、私は胸が大きい・・・・・・。クラスの中で、一番大きいかも。クラス中からの視線が凄くするし、男女問わずに見てくる。
それでも、誠は私の胸をあまり見てこない・・・・・・私って、魅力無いのかな? 体重にも気をつけてるのに。
マナカの方が可愛いし、私なんてちょっと胸が大きいだけだし、あまり積極的じゃないし、私に良いところなんて一つもない。
───誠って、えっちな事が好きなのかな?
男の子なら、興味くらいあるよね。寧ろ、大人な誠だからこそそうかもしれない。中学生で早いと思うけど、好きになってくれるなら・・・・・・いいかも///
でもやっぱり、私の胸には興味の無いような気がする。プールの時だって、誠は気にせずに1人でペンダントを見ていた。
悲しそうな目で、顔で、懐かしむように。
「はぐれないように、ついて来いよ?」
「うっせぇ! 子供かよ!」
目の前では、誠が光に向かって注意をしている。光はそれに対して、『美海に言えよ』とでも言いたいのか、誠の隣の美海ちゃんを見る。
美海ちゃんの手は、しっかりと誠の手で繋がれていて、離れないようになっていた。
いいなと思う私がいるけど、美海ちゃんだから仕方ないよね。はぐれちゃったら困るし、誠は面倒見がいいし。
「チサキ、ぼーっとしてるけど大丈夫か?」
「えっ? あっ、うん・・・・・・大丈夫」
私の様子が可笑しいと思ったのか、誠は心配して私の顔をのぞき込んでくる。それだけでドキドキしてしまうが、顔にでていないだろうか?
顔色を確認して、誠は顔を接近させ、私の額に自分の額を当てた。それと同時に、私の体温も急上昇する。
「熱はない、エナも大丈夫だな」
「う、うん・・・・・・///」
周りが見たら、キスをしようとしているように見えるだろう。誠は離れ、また前を歩いては先に進んでいってしまう。
気にしていないようだ。こっちはこっちで、凄く大変だというのに・・・・・・。
気付いたらエレベーター前で、誠と美海ちゃんが乗り込み、それに皆が続く。私も慌てて乗り込もうとして、足を踏み入れると───
───ビィィィーー!!───
重量オーバーを知らせるベルが鳴り、他の乗り込んでいる人たちの視線がこっちに向く。
「さ、最近、体重減ったのに・・・・・・」
焦る私はそう呟いて、エレベーター前から動けない。みんなの視線が怖くて、恥ずかしくて私は泣きそうになった。
そして、いきなり手を掴まれたかと思うと、誠が何時の間にか出て来て、私の手を引っ張ってエレベーター前から去ろうとする。
なんだか、凄くほっとした。それと同時に、何か熱いものが私の心の中からこみ上げてくる。
「紡、美海頼む。上の階で、後で集合な」
「わかった」
誠はそう言い、私の手を引いて離れた。エレベーターから、紡の返事が聞こえる前に誠は私を引いていく。まるで、昔みたいに・・・・・・。
エレベーターが閉まり、誠はその少し離れたところの壁にもたれかかった。私は繋がれた手を離されそうになり、何故か握る力を強くしてしまう。
───此処で言わないと、後悔する
そう思った。今なら、誠と二人きり。こんなチャンスは二度と無い。もし自分で呼び出そうものなら、私はそんな事できないから。
「どうした、チサキ?」
「ごめん、ね・・・・・・ちょっと、怖かっただけだから。少しの間、このままでいて」
そう言うと、誠は何も言わずに手を握り返してくれる。
「──誠は昔から、そうだよね。いつもは皆の面倒を見て、自分の意見を通さずに他の人の意見ばかりを聞いて、引っ張ってくれて。我が儘、何時も聞いてくれたよね。人に迷惑をかけない限り、叶えられるものは何でも──」
私の手は、震えていた。
「──私は誠が好き! 今まで引っ張られていくだけだったけど、私は誠の隣にいたい、支えたいから・・・・・・私じゃ、ダメ・・・・・・かな///」
私の目の端は、涙が溜まっている。それでも言い切れた、やっと思いを伝えれた。何かを見透かしたような誠の瞳は、何処か悲しげだ。
───迷惑だったのだろうか?
私がそう思っていると、誠が指で私の涙を拭う。優しくて、その行為だけが凄く温かくて、私は先程の誠の瞳の奥の感情は何だったのだろうかと、模索する。
「やっぱり、か・・・・・・」
「やっぱり、って・・・・・・誠は気付いてたんだね」
気付いていた、誠は私の気持ちに。
「まあ、そうだな。・・・・・・俺さ、今まで妹とかと思ってた。チサキやマナカ、要とか光は弟だけどそう思ってた。だから、考えさせてくれないか? 中途半端に答えることは出来ないし、俺はそれでチサキを傷つけたくない。・・・・・・自分は誰が好きかわかんないんだ」
正直で、大人な誠らしい答えだった。
でも、今はそれで良い。焦っても、誠を困らせるだけだから。
「私はそれで良い。だって、誠だもんね。仕方ないよ、私もわかってたから」
今日、この日・・・・・・私は一歩だけ大人になった。
チサキさん、大きな一歩です。