凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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なかなか話が進まない・・・・・・


第十六話  取り合う二人

 

 

 翌朝、俺は昨日の病院に行ったときと同じように美海、アカリさん、誠さんと一緒に病院へ行った。結果を言うと、バイタルは正常・・・・・・それに、頭も出血なしのいい状態だそうで異常なしだそうだ。

 

 それで今は車の中なんだけど、アカリさんは夜勤だった美和さんと話があるらしく残るらしい。

 

 まあ、仲良くなるのは運命、とは言え無いが、予想通りだ。最初からそんな気はしたし、俺もあの二人は何処か似ている気がする。気があうと言うのもわかってた。

 

「ほら、公園についたよ。光君も、それに他の子もいるようだね?」

 

「あっ、ありがとうございます。じゃあ、美海行くよ?」

 

「うん!」

 

 俺は止まった車から降りて、美海もそれに続く。目の前の公園には、光が集めたであろうチサキにマナカ、要がいた。光もこちらに気付いたのか、手を振って大声で俺と美海を呼ぶ。

 

「おーい、誠、美海!!」

 

 それに対して、チサキは目をそらしてチラチラとこっちを見てくる。そんな事をするくらいなら目を逸らさなければいいのに・・・・・・なんて思う。

 

 俺と美海は走り、光達のところに駆け寄った。マナカとチサキは更に目をそらし、要は美海の所持しているリュックを見ている。

 

「悪い、遅れた」

 

「仕方ないよ、診察だったんでしょ?」

 

「まあな」

 

 俺の謝罪に要は大人の対応。隣で光が『遅っせえよ!』とか言っているが、事情が事情なので無視することにした。

 

「えっと・・・・・・おはよう、誠・・・・・・」

 

「おはよう、まーくん!」

 

「ああ、おはよう。・・・・・・にしても、チサキ、マナカ・・・・・・似合ってるよ」

 

「えっ、そ、そう・・・・・・///」

 

「えへへ、まーくんに褒められた♪」

 

 褒められたチサキは頬を赤くして、マナカは若干嬉しそうに笑う。何故だか光から殺意が漂ってくるが、無視したい。

 

 

 ───嫉妬するなよ、本当の事だろ?

 

 

 いや、もう理由はわかってる。マナカが俺に笑ったことに嫉妬しているのだ。誰が誰を好きだかわかっているつもりだが、何で俺が恨まれなきゃ・・・・・・慣れてるけど。

 

 でも、何故だか美海からも危険な匂いがする。明らかに不機嫌で、俺をジト目で恨めしそうに見ているのは気のせいだろうか? ───そう思いたい。

 

「えっと・・・・・・美海、何で俺をそんな目で見てるのかな?」

 

「・・・・・・知らないもん!」

 

 美海は顔を赤くして、そういい放つ。明らかに嫉妬だが、それは触れないで置こう。兄を盗られたことに対する嫉妬だろうし。

 

「はい、じゃあ聞きたいことがあるんだけど・・・・・・光、何でチサキとマナカは不機嫌だったの? 何でか教えてくれないかな?」

 

「それが聞いてくれよ、誠。こいつら、町に行くってだけでこんな服着てくんだぜ? 何で町に行くだけでんなことしなきゃいけねえんだよ!」

 

 俺の質問の理由は、チサキとマナカの不機嫌な理由・・・・・・ではなく、光が何をしたかということだが、予想通りだった。

 

 相変わらず、そういうことに疎い。光は女子を褒めると言うことを知らないのか、さも当たり前のように言い放つ。

 

 光らしいと言えば光らしいが、それはダメだろ・・・・・・。

 

「はい、それは光が悪い」

 

「何でだよ!?」

 

「要はわかるでしょ」

 

「うん、光が悪いよね・・・・・・」

 

「美海は?」

 

「光が悪い」

 

 それで話は切られ、俺達は疑問を残す光を置いて出発するのだった。

 

 

 

──────

 

 

 

 現在、午前10時───場所は駅前の切符売り場。

 

 俺達は現在、切符を買うためにそこにいる。・・・・・・のだが、俺は表を見て値段を調べている。確か値段は620円だったが、年月によって変わっているかもしれない。

 

「おっ、あった。620円だな」

 

「誠、早いね・・・・・・」

 

「まあ、な・・・・・・」

 

 何故かこんな事でも褒めてくるチサキに、俺は軽く返事をして返す。母さんと来たときと値段は一緒だったからなのだが、別に話すことでもない。

 

 俺は金額ぶんのお金をいれ、ボタンを押して美海と自分の分を買う。だが、後ろの海組に任せると面倒そうなので全員分買った。

 

 そうして出て来た切符を取ると、みんなに順番に渡していく。

 

「ほら、買っといたぞ」

 

「「「「・・・・・・えっ、ありがとう」」」」

 

 そう言って受け取り、チサキは財布をとりだしてお金を出そうとする。

 

「ストップ。別にいらないからね」

 

「えっ、でも・・・・・・悪いし・・・・・・」

 

 チサキだけがそうしたが、俺は頑なに受け取らない。生活費の一部だが、別にコレくらいの額はどうでもいい。医学書とか、勝手に買ってるし。

 

「良いじゃねえか、誠もそう言ってんだし」

 

「此処は誠の言うとおりにするべきだと思うよ」

 

 光と要はそう言い、先に電車に乗ろうと歩いていく。俺も逃げるように、光と要の後を美海の手を引いてついて行った。

 

「チサキ、マナカ、早くしないともうすぐ来るよ」

 

「あっ、待ってよ誠!」

 

「置いてっちゃ、やだよ!」

 

 そう言う俺に、チサキとマナカは焦るようにしてついてくる。俺はそれを笑いながら、改札機に切符を通して、美海と一緒に通る。

 

 マナカとチサキも慌てながらも、ちゃんと改札を通って俺と美海を追いかけ、前には光と要が余裕の表情で俺に向かってドヤ顔・・・・・・いちいち、アホか。

 

 チサキとマナカが追いついた頃には、電車も入ってきた。ドアが開き、みんなでゆっくりと乗り込み、座る場所を探す。そして見つけると、俺は美海と隣同士で座り、チサキは俺の目の前に。光とマナカ、要は3人で通路を挟んだ向こう側に座った。

 

「チサキ・・・・・・何でこっちに・・・・・・?」

 

「えっ、だ、ダメだった・・・・・・?」

 

 俺は理由を知りながらも、意地の悪いようにそう言う。明らかに顔が赤いが、俺にとってはあまり大きな問題でもない。

 

 

 ───チサキは俺が好き

 

 

 自惚れかもしれないが、それは事実だろう。光や要、マナカとは扱いが違う。それもわかりやすいくらいに、何時もは俺の方ばかり見てる。たまに、マナカと光を見るが、マナカを見るときの目が明らかに母親。母性でもあるのか、母親なのだ。

 

 

 ───何度も見た

 

 

 ───俺に向けられた

 

 

 ───母さん

 

 

 ───ミヲリさん

 

 

 ───アカリさん

 

 

 ───美和さん

 

 

 美和さんの理由は知らないけど、心配する母親だった。

 

 それに対して、チサキは違った。最初は母性かと思ったけど、それだけじゃなかった。チサキは何度も俺を心配して、俺のことを気にかけたけど・・・・・・。

 

 

「ほら、誠も食べない?」

 

 何時の間にか、俺の口元にはチサキがお菓子を突き出していた。小首を傾げて、可愛らしく俺の目を見つめている。その瞳は、心配そうだ。

 

 ───心配させるわけにはいかないな

 

 俺はそう思い、チサキの突き出しているお菓子にかじり付く。チサキの持っているポッキーは、俺がかじり付くと、──ポキンッ──と音を立て、簡単に折れた。

 

「ん・・・・・・そう言えば、久しぶりにお菓子、食べたかな。ありがとう、チサキ」

 

「えっ、うん・・・・・・///」

 

 お礼を言われたチサキは、凄く嬉しそうに頬を緩める。少し顔を赤くしながら折れたポッキーをくわえて、モグモグと食べ進める。

 

「誠、間接キス・・・・・・」

 

「ふぇぇ!? 誰としたの、誠!!」

 

 美海は見逃さなかったのか、爆弾発言をムスッとした表情で放った。それに気付いていないチサキは、何故か俺に詰め寄ってくる。恐らく、『誠・・・・・・キス』としか聞こえていなかったのか、自分がしたことに気付いていないかだ。

 

「はぁ~、聞いて後悔しない?」

 

「しない!」

 

 必死なチサキは、ズイズイと詰め寄ってくる。間接キスかどうかは怪しいが、話した方がいいのだろうか? 多分、後悔するだろうが・・・・・・。

 

「チサキ、さっき俺が食べてたポッキーは何処?」

 

「え? それは、もちろん誠が・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言いながら、チサキは段々と顔を赤くして真っ赤なリンゴみたいになる。自分の恥じらうことすらしなかった行為に、思い出しては後悔しているのだろう。

 

「誠! これ、食べて!」

 

「えっ、あっ、うん」

 

 何故か美海はチサキの持っていたポッキーを所持して、俺に突き出してきた。震える手で、チサキと同じく真っ赤なリンゴみたいな顔で迫ってくる。

 

 仕方無く、俺は美海の持っているポッキーにかじりついた。

 

 折れたポッキーを咀嚼していると、何故か美海はその折れたポッキーの持っていた方を食べる。

 

「・・・・・・美海、何してる」

 

「え、えっと私も食べたかったから!!」

 

「じゃあ、もう一本出せばいいじゃないか」

 

「だって誠が美味しそうに食べるんだもん!!」

 

 利益の無い言い合いに俺は面倒になり、追求することを止めた。美海を見ているのも面白いが、俺はチサキに視線を移す。

 

「誠、これもどう?」

 

「・・・・・・えっとさ、俺が自分で食べるのはダメなの?」

 

 視線を移した先には、チサキがあの丸いアーモンドチョコレートを一つ、人指し指と親指で摘んで俺に震える手で差し出してきた。

 

 ───何で震えてるの?

 

 これはタブーだろうから、俺は言わない。意地悪をしたいが、チサキの頑張りを無碍に出来ないししたくない。チサキの悲しむ姿を、見たくない。

 

「ダメ、怪我してるから!」

 

「左手があるけど?」

 

「左手、使いにくいでしょ!」

 

「手のひらに乗せれば・・・・・・」

 

「電車が揺れる!」

 

「昨日は左手で食べたんだけど?」

 

「使ったのスプーンでしょ!」

 

「いや、箸だ。俺は左手も使えるように練習してたからな」

 

「だとしても、落とすかもしれないでしょ!」

 

「・・・・・・」

 

 これ以上、策は思いつかない。

 

 俺は諦めることにして、チサキの手にあるアーモンドチョコレートをくわえる。チサキの手を傷つけないように、唇でアーモンドチョコレートをくわえた。

 

「ひゃう・・・・・・!」

 

 チサキが顔を真っ赤にして驚くが、間違いなく触れた・・・・・・チサキの指に、小さくて細くて綺麗な

指に触れた。

 

 そう言えば、調理実習では逆だったな・・・・・・。

 

 どうせ暇なら、少しの間はチサキで遊ぶか。

 

「チサキ・・・・・・指、美味しかったよ」

 

「ふぇぇ!? あっ、ちょっと、指って・・・・・・!」

 

 チサキは今にも倒れそうな程、顔を林檎のような赤になっている。いや・・・・・・ハバネロソースを直接飲んだくらいだ。

 

「誠! これ、私も食べさせる!」

 

「今はっきり言ったよね!?」

 

 美海も対抗するように手にアーモンドチョコレートを持ち、ポッキーの時と同じように突き出してはまたもや赤面。

 

 

 

 その頃の隣の席は・・・・・・

 

 

 

「紡、君はてっきり誠と一緒に座るかと思ったんだけど」

 

「いや・・・・・・あれは、流石に座れない」

 

 何時の間にか、紡が要の隣に座って傍観。チサキと美海、誠の作り出す桃色?の空間に声をかけることが出来なかったのか、何時も通りの顔で眺めている。

 

「ちーちゃん、えっちだよぉ・・・・・・///」

 

「あ、あいつ、えっちすぎるだろ///」

 

 マナカと光は見ながらも赤面し、目をそらすことはしない。

 

 この光景を見られていることに気付かず、チサキと美海はお菓子が無くなるまでずっと俺に餌となるお菓子を食べさせ続けるのだった。

 

 




ちょっと修羅場?なチサキと美海。
危険を察知した紡君は避難しましたね。
無理ですよ、あの空間に入るのは。

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