凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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今月、四回目の投稿・・・・・・。


第十五話  仲良くしたい

 

 side《アカリ》

 

 

 此処はとある喫茶店。

 

 そこで私は1人で、ある人を待っていた。至さんに家に帰る前に此処で降ろしてもらい、美海と誠君を至さんに任せた私は、1人でコーヒーを片手に待っている。実は言うと此処はよく使うお店で、ミヲリとの思い出もある場所・・・・・・誠君にとっても、お母さんやミヲリとの思い出があるだろう。

 

 窓からは海が見え、此処が海の隣にある場所だとわかる・・・・・・。

 

 

 ───ガランッ───

 

 

 その音とともに、入り口のドアが開いて1人の大柄な男が入ってきた。年は40~30くらいのおじさんで、体格はまるで格闘家。・・・・・・私のお父さん、先島 灯だ。呼んだのは私で、振り返らないためにも少しは話をしなくちゃならない。

 

 ゆっくりと店内を見回す・・・・・・私を見つけたお父さんは、ゆっくりとこっちに歩いてきた。そして目の前の椅子に座る。

 

「ご注文は?」

 

「コーヒー1つ」

 

 お父さんはマスターの言葉に、目も向けずに答える。その目は私を見ていて、何を考えているかわからないけど心配はしてくれていると思う。───第一、子供の心配をしない親なんていない。

 

 数分でマスターはコーヒーを入れると、テーブルの上に、父さんの前に置く。そして、それが終わるとまたカウンターに戻っていく。

 

 それを見た父さんは、コーヒーカップを右手で持ち、少しだけ飲む。

 

「・・・・・・アカリ・・・・・・誠とあの娘は、どうだ?」

 

 先に子供たちの心配をしてくれているのか、止めなかったことで後ろめたいのか父さんはそう呟くように聞いてきた。

 

「・・・・・・誠君は右手を骨折。それに、頭を少し切っちゃって。美海は一応、脳震盪とかも無かったけど、明日も病院に行くつもり。・・・・・・誠君、クモ膜下出血にならないか心配してる。それよりも誠君が、頭に罅入らなくて良かったよ・・・・・・それと、誠君が自分の投げた源さんに謝っといてだって言ってたよ。自分は今日、帰れないから。至さん家に泊まるしね」

 

「・・・・・・そうか」

 

 現状報告と、誠君からの謝罪の言葉を口にした私はコーヒーを飲んだ。此処にくる前、誠君は自分が投げた源さんの心配をして、『すみませんがアカリさん、悪いんですけど源さんに謝っといて下さい』と言っていた。

 

 相変わらずの、大人精神。

 

 お父さんはそれに『伝えておく』と言って、また黙り込む。

 

「父さん・・・・・・私、美海ちゃんのお母さんになる」

 

「・・・・・・考えは変わらないか」

 

 話の続かない私は、そう父さんに伝える・・・・・・でも、父さんは難しそうな顔をしてテーブルの上に乗っているコーヒーを、ただ見ながら、悲しそうに呟く。

 

 お父さんは宮司で、一番にうろこ様に近くて、村の長みたいな存在。だからこそ、私が海から出て行くのは問題だ。

 

 

 ───でも、父さんに止める気配はない。

 

 

 私はそんな父さんを店において、お勘定を置いて店から出るのだった。

 

 

 

 

 

 夜。私は1人、誠君の家に勝手に侵入・・・・・・ではなく、1人で注文の品を荷造りする準備をしていた。鍵は誠君に渡されたし、ちゃんと玄関から入った。誠君がここに残った理由はただ一つ、お母さんとの思い出を捨てなかった。それだけなのに、しっかり者の雰囲気は凄い。部屋には塩も溜まってないし、綺麗。

 

 誠君なら美海の良いお嫁さんに・・・・・・違う違う、お婿さんだわ。誠君がしっかり者すぎて、危うく間違えて性転換させるとこだった。

 

 

 まずはキッチン───見たこと無かったけど、ちゃんと片付いていた。しかも、カビなんかも生えてないし汚れの一つもない。命を懸けた、台所! まさに、そんな感じだった。

 

 

 他にも紹介するところはあるんだけど、無理です。誠君に怒られる。と言うわけで、私は今は誠君の勉強部屋兼寝室兼倉庫に来ているのだが・・・・・・驚いた。

 

 棚には、医学の参考書や専門の色々な事が書かれた本。それも、世の中に出回ることもないであろうものまで勢揃い。というか、本格的すぎる。その数、なんと100を越えている。本気で、医学の道に進もうと努力しているようだ。

 

 ベッドはちゃんとシーツのシワが伸ばされ、飛び込んだら気持ちいいだろう。

 

 そして、もう一つの棚には卒業アルバムに、家族写真・・・・・・。そう言えば、誠君には家族写真を取りに行って欲しいなんて聞いてない。

 

 気になった私は、一つの真新しい、一番に埃を被っていない物を手にした。ページをパラパラ捲り続けて、私は夢中になる。

 

「へぇ~、見たこと無かったけど誠君、こんなの着せられてたんだ~」

 

 写っていたのは、誠君が親に兎の耳フード付きのパジャマ?を着せられて、一緒のペアルックをさせられている写真。お母さんの方は、ピンクで、誠君は白。実に、面白い写真だ。

 

 そしてパラパラとめくり続けると、とんでもない物を目にした。

 

 

 ───それは、家族写真

 

 

 ───でも、誠君の家族であって、家族じゃない

 

 

 ───お父さんと写っているのは

 

 

 ───髪を伸ばしてたであろう、美和さん

 

 

 その二人が、子供を抱えながら幸せそうに写っている。

 

 

 ───もしかして、美和さんは誠君の新しいお母さんになるであろう人?

 

 

 そんな考えが浮かぶが、すぐに疑問から消し去る。これは見てはいけないものであり、勝手に見ては良いものでもない。もしかしたら、美和さんに引き取られることもあるかもしれない。誠君の新しいお母さんは、もしかしたら・・・・・・。

 

 ───気付いているのか?

 

 ───だから親しい?

 

 ───美和さんも、だから気にかけている?

 

 ───でも、美和さんが近くにいるのに誠君のお父さんは何故、会いに来ない?

 

 私はその写真を握りしめたまま、アルバムを棚に戻し、再び誠君からの依頼の品を探し始める。心の中に一つの不安を、抱えたまま。

 

 

 

 

 

 side《誠》

 

 

 時刻は夜の8時・・・・・・俺は、美海と至さんと共にアパートの階段で座り込んでいた。今だに夏は過ぎていないのに、少しだけ肌寒い。もしかしたら、何か不可解なことが起こっているのかもしれないし、不安だ・・・・・・うろこ様も、あの御霊火の揺れを気にしてたし。

 

 ───絶対に何かある

 

 なんて思うけど、直接聞く以外に方法はない。俺は潔く諦め、美海を抱き締めた。

 

「わぁっ!? 誠!?」

 

「なんか寒そうにしてるから・・・・・・こっちの方が、温かいよね?」

 

 動揺する美海に、俺はそう言葉をかける。美海は頬を赤くして、耳まで真っ赤になり大人しく俺に従った。おそらく、寒いのは事実なんだろう。

 

「美海、寒いんだったら家に入ろう? 風邪を引くよ」

 

「いいもん。待ってる・・・・・・それに、温かい・・・・・・///」

 

 美海を中に入れようとする至さんは、苦笑い。それに対して美海は温かそうで、凄く満足げな表情だ。こんな可愛い笑顔だと、なんか泣けてくる。

 

「それはそうと至さん、もしかしたらアカリさん、凍らされたかもしれませんよ?」

 

「「・・・・・・えっ?」」

 

 俺はそう告げると、美海をカイロにして温まる。それに対して、至さんと美海は凍り付いたような表情で、俺に掴みかからん勢いで・・・・・・至さんが掴みかかるような勢いで、聞いてきた。

 

「ど、どど、どういうこと誠君! アカリが凍らされるって!?」

 

「いやさ、俺は昔、陸にばかり行ってたから、うろこ様からチョッカイ受けてたんですよ。呪いを受けたり、渦潮で道塞がれて凍らされる、とか・・・・・・渦潮が渦を巻きながらも、段々と海水の温度が下がり始めて、やがては自分の足下から凍りついて───」

 

「アカリ! 待ってろ、今から助けに───」

 

「アカちゃんッ!!」

 

 慌てる至さんと、叫ぶ美海。その目はマジで、助けに行こうとしているのがわかる。

 

 まあ、体験談だけど刺激が強すぎたかな・・・・・・?

 

 だけど、美海が飛び出した理由は違うらしい。道を行く人影が、こちらに向かっているのがわかるし、それは大きな女性と小さな男性の物。どう考えても、アカリさんと光の姉弟。

 

 美海は俺の腕から飛び出し、アカリさん達のところに走っていった。俺もそれに続き、ゆっくりと階段を下りてアカリさん達のところに向かう。

 

「アカリさん、光、どうだった?」

 

「何がだよ、誠?」

 

「誠君、寝てなくて大丈夫?」

 

 此処で怪我のことはどうでもいいのでスルーして、俺は深呼吸をする。俺の怪我は寝込むほどでもないし、ましてや重傷でもない。・・・・・・まあ、軽傷とも言えないけど。

 

「だから、───」

 

「アカリ! 凍らされかけたとか聞いたけど大丈夫かい!?」

 

「えっ? 何で至さんがそんなこと知って・・・・・・」

 

「誠が凍らされるって! それで、アカちゃん遅いから!!」

 

 何時の間にか走ってきた至さんに、俺は台詞をとられる。あわてる美海が凄い必死で、可愛かったのは俺にとってもアカリさんにとってもプラスだっただろうと、勝手な考えを組み立てている俺は冷えているであろうアカリさん達を温めるために味噌汁を温め直しに帰るのだった。

 

 

 

──────

 

 

 

 数分後、味噌汁を温め終えたと同時にアカリさんが帰ってきた。今日の夕飯を作ったのは美海なんだが、俺も作りたかった。いや、止められたけどね? 右手使うから、やっちゃダメって!

 

 

 そして、現在はご飯とおかずをつついてるわけだけど・・・・・・

 

 

「それで、誠君は何で渦潮と氷のこと知ってたの? 潜った?」

 

「酷いですよ、俺はちゃんと留守番してました。証人は二人ですよ、アカリさん」

 

 現在進行形で疑いをかけられる俺は、至さんと美海と言う名の証人を盾に、負けじと応戦して自由を勝ち取ろうとしていた。

 

「───過去に凍らされかけた経験があるだけですよ」

 

「・・・・・・うろこ様、容赦ないね」

 

 俺の経験談聞いたアカリさんは、固まる。確かにあの人がマジで凍らせようとすると、簡単に凍るからな。特に、小さい方が簡単なんだよ。

 

「それで、何で光まで出て来たんだ?」

 

「あんな親父と、毎日面を合わせられるかっての! 二人でんなことしてたら、そのうち殴りかかりそうだぜ!」

 

「俺の家、使えばよかったじゃん」

 

「・・・・・・あっ」

 

 光も家を出てきたらしく、理由は酷く反抗期な子供の物。だとしても、俺の家だったら貸すのにどうして出て来たんだろうか、この馬鹿は。

 

「誠君、光に貸したら家が燃えるよ?」

 

「それは勘弁して下さい!」

 

「んなことなんねえよ!」

 

「第一、誠君を一人暮らしにさせるってのも抵抗があったのに。光になると、ねぇ?」

 

「確かに、誠君だからよかった物の・・・・・・大丈夫かい?」

 

 ・・・・・・訂正。俺は光に家を貸さないことに決めた。いくら御霊火で、海の中とはいえ火事にならない可能性は否定できない。それに、あの参考書の山が・・・・・・考えただけでも、恐ろしい。

 

「でも、さ・・・・・・アカリ、本当によかったのかい?」

 

 いきなり暗い空気に変える至さん。その表情は、今までも何かを見てきたような優しさを含んだ目だった。アカリさんはキョトンとしている。

 

「何が・・・・・・?」

 

「その、ミヲリも昔は同じような目をしてたんだ」

 

「えっ? どういうこと?」

 

 至さんは落ち込んだような表情で、口を堅く結ぶ。今の至さんは、昔のことを悔やんでいるかのようで、いたたまれない。

 

 だから、俺は代わりに口にした。

 

「至さんが言いたいのは、こういうことですよ。『ミヲリは海を出て僕の妻になった。けど、時折ミヲリは海を眺めては悲しそうな表情になる。僕としては、アカリのお父さんに、海村の人に認めてもらった上で結婚したい』ですって・・・・・・俺も、ミヲリさんが羨ましそうに俺を見ていたんで、これくらいのことはわかりますよ」

 

「ちょっと、誠君は何を言って・・・・・・! いや、そりゃあ思ったけど。ミヲリの視線に気付いていたのかい?」

 

「そりゃあ、そうですよ。第一、俺は面倒見がいい方です。光とか、暴走列車みたいな暴れ牛がいるのにそれくらいわかってます」

 

 昔、俺はミヲリさんと仲がよかった。どっちかというと、家族というか、母親というか、姉というか不思議な人だった。でも、俺が帰るときに何時も、海のことを思い出しているのか、その瞳は悲しげだったのを覚えている。

 

「至さん・・・・・・それって、プロポーズ?」

 

「えっ? あっ・・・そ、それは・・・」

 

 嬉しそうに微笑むアカリさんに、顔を赤くしてショートしかけの至さん。新婚みたいと言うか、

初々しいカップルみたいだ。

 

 その空気に耐えられないのか、至さんはたこさんウインナーを口に放り込み、ご飯を勢いよく掻き込んでは誤魔化そうとする。

 

「ゲフッ! コフッ!」

 

 かき込んだ所為か、至さんは喉にご飯を詰まらせた。そんな光景に美海とアカリさんは笑いながらも、お茶を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中。

 

 

 俺は1人、目を覚ました。隣にいるはずの美海はいなくて、さらには光までもがいない。寝る直前になって、至さんが布団を四つしか無いことに気付いたのだが・・・・・・アカリさん、至さん、光が布団を1人一つ。俺が美海と、二人で一つとなった。

 

 アカリさんが美海と寝れば良かったのでは? とか思ったが、大人と子供が二人で寝るのはキツいらしいし、こうなったわけだ。でも、俺は光よりは大きくて、アカリさんとかと同じサイズだったのはツッコまない方が良かったのだろうか?

 

『ウワァァァ!?』

 

『何でそんなに驚いてるの?』

 

 光の悲鳴? と、美海の話し声。俺は起き上がり、そちらに向かってみることにした。幸いにもアカリさんと至さんは、俺らが寝ている間にも話をしていたために、起きない。

 

 台所に出て、お風呂場の方をみると、そこにはしゃがみ込んでひたすらに水をかけている光。それを立って見下ろす、美海の姿があった。

 

 俺は近づき、声をかける。

 

「お前ら、何してる?」

 

「「ウワァァァ!?」」

 

 流石は光、美海の後ろから顔を出して声をかけただけでまた驚く。美海も耳元で声がしたからかしらないが、凄いビクッとしてこっちに振り向いた。

 

「アッハッハ、そんな驚かなくてもいいじゃないか」

 

「誠、脅かさないでよ~もぅ・・・・・・」

 

「お前、いきなり美海の後ろから顔出すなよ。ビックリしたわ!」

 

 二人して俺を攻め、光は水を擦り込むことに集中する。

 

「で、二人して何で此処に?」

 

「んなもん、寝ている間に干からびたくないから決まってんだろ。というか、誠はコレしなくていいのかよ? 干からびるぞ」

 

 必死な光は、また塩水をつけ始めた。洗面器に水を張り、塩を足している。昔に俺もミヲリさんに勧められてやったが、拒食症みたいな症状。依存症とでも言うべきか。不安が行動に移し、止められなくする。これも、不安からくる依存症。

 

「お母さんも、やってた・・・・・・誠も」

 

「そうだね、やってたよ・・・・・・まあ、俺はミヲリさんが原因だけど」

 

 美海はミヲリさんのことを考えていたようで、少し悲しそうな表情になった。思い出した親の背中は、悲しく写るもの。俺もそうだ。

 

 1人でやると、悲しい感情に止まらない。二人でやると、なぜか楽しかった。不安どころか、笑みさえ出てくる。

 

「今日も上手く出来なかった・・・・・・決めたのに、上手く話せない。誠、私はどうやってアカちゃんに接したらいいの?」

 

 美海は突然、そんな事を聞いてくる。今日の美海はアカリさんと話そうとしても、少し一線を引いているという状態だった。まあ、そんな簡単に割り切れるものでもない。

 

 ───俺は、新しいお母さんとかいらない。そう思って、俺は家に隠った。写真が届いても、俺は知らんふりして話を聞かなかった。だからこそ、何かキッカケが必要。

 

 まあ、元は俺が家を、母さんとの思い出を捨てれなかった所為だけど。

 

「そうだ。贈り物を贈ったら? 俺、それで距離は縮まると思うよ?」

 

「えっ? 何で・・・・・・?」

 

 少し目を輝かせるが、理由を聞いてくる美海。俺はそこで、自分の首に掛かっていた十字架のペンダントを取り出した。

 

「これさ、俺が母さんに貰った最初で最後の贈り物なんだ。これ貰ったとき、俺は欲しいとも思ってなかったけど、凄く嬉しかった。値段は知らないけど、贈り物をされて嬉しくない人はいない」

 

「そっか・・・・・・じゃあ、そうする!」

 

 美海は満面の笑みで笑いながら、計画の話を俺と光に持ちかけてくる。俺は明日の病院、大丈夫かなと思いながら計画を聞くのだった。

 

 




地味に頑張っております。
お気に入りが40なったのは、驚きだね。

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