凪のあすから ~変わりゆく時の中で~   作:黒樹

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病院です。


第十四話  病院

 

 

 揺れる車内、通り過ぎる風景、エンジン音に赤信号、バックミラーに写る俺の血で濡れた額に俺はぼーっとしながら、美海を見ていた。

 

 俺の横では美海が心配そうに俺を見て、アカリさんはチラチラと何度も振り返り助手席から美海と俺の顔を見て、至さんは車を運転しながらも、バックミラーで俺の方をチラチラと見てくる。

 

「誠君、頭、ぼーっとしてない? 大丈夫? もうすぐ着きそうだから待っててね!」

 

「俺は大丈夫です。幸い、灰皿がガラスで出来ていることと、少し首を逸らしたからか皮膚が少し切れただけですから。もう血も止まってますし、美海と俺がクモ膜下出血にならないことを祈るだけです。でも、あれを直撃してたら、多分・・・・・・頭に罅でも入ってたんじゃないですか?」

 

 冷静な分析をしながら、俺はアカリさんの問いに答える。クモ膜下出血は頭をぶつけたときにも発症する病気・・・・・・子供でも、気付かずに何時の間にかなって死ぬというパターンがある。詳しい話しはしないけど、そう言う病気だ。この場合は怪我?

 

「冷静・・・・・・美海は大丈夫?」

 

「うん、誠に比べたら・・・・・・」

 

 アカリさんはちょっとほっとしたような顔をして、美海に聞く。だけど、美海は何故か元気が無いし、俺の方を泣きそうになりながら見てくる。

 

「着いたよ!」

 

 急に車が止まり、至さんがそう言った。誰かが喋る度に頭が痛むが、手の方が凄く痛い。

 

 アカリさんが車から降りて、俺も美海と一緒に車から降りる。至さんは車を駐車場においてから来るようで、俺と美海、アカリさんは先に降りた。

 

 降りたのを確認すると、至さんは駐車場に車を運ぶ・・・・・・俺と美海、アカリさんはそれを背に病院の中に向かって歩き出した。

 

 

 表玄関から入り、ゆっくりと受け付けに向かう。

 

 すれ違う人が多少驚いているが、病院だからか騒ぐ人はいない。

 

 

 数十秒ほどで、俺と美海、アカリさんは受け付けに着いた。至さんは走って俺達の所に、アカリさんの横に並ぶ。

 

 受付の人はビックリしながらも、俺の顔を見た。よく考えると、血を拭ってもいないので、俺の顔は流れた血の後が少しついている。それでも、冷静な受付さんは用件を聞いてくる。

 

「どうされましたか?」

 

「えっと、あっと・・・・・・喧嘩をしてて、えっと、何でこうなったの!?」

 

 事情を聞いてなかったアカリさんと至さんは、慌てながらも俺に聞いてきた。

 

「そうですね。喧嘩の仲裁をしていたら、ガラス製の灰皿が飛んできて手に当たって頭に当たったと言う感じです。それより、美海も怪我をしているかもしれませんので見て下さい」

 

「はい。では、大事になるといけませんので今から案内を呼ぶので、少々お待ち下さい」

 

 事情を聞いた受付は、今から診察を受けるための部屋への案内の為に後ろに控えていた看護士を呼び、事情を説明。よく見てみると、凄く見覚えのある看護士。確か、よく予防接種とか俺が怪我したり風邪を引いたときによくお世話になる看護士・・・・・・美和さんだ。

 

「あら、久しぶりね、誠君・・・・・・って、今回は凄い怪我ね・・・・・・」

 

「どうも、美和さん。でも、今回は美海を中心で見て下さい」

 

「それはどうかと思うけど・・・・・・まあ、それは言って上げるわね。じゃあ、付いて来て」

 

 そう言って美和さんは下敷きのような板に、紙を挟んで持ち、俺とアカリさん達の前を歩いて慣れたように道を進んでいく。

 

 美海は俺の横を、アカリさんは至さんと一緒に歩いてついて行く。

 

 美和さんは看護士をやっているけど、年齢はアカリさんと同じくらい? で、見た目が20歳よりも若く見えるお姉さん。茶髪のロングヘアーで、俺は身長が160位あるけど、俺と同じくらいの背だ。

 

「「誠君、知り合い?」」

 

 美和さんとアカリさんの声がかぶり、俺はかぶった・・・・・・とか、関心を示している。

 

「はい。美和さんは病院でよくお世話になる人で、美和さん・・・・・・この人達は・・・・・・昔からお世話になってる人、かな・・・・・・?」

 

 俺は質問に対する答えに、凄く困った。至さんとか美海とか、アカリさんは俺の昔からの知り合いではあるんだけど、お世話になっているんだけど。そう聞かれると、なんて答えればいいかわからなくなってしまう。

 

「あはは、もう誠君は家族同然だよ。美海だって、そう思ってるだろうしね。───それで、美和さん、僕は潮留 至です。えっと、誠君に関することだったら、気にかけて上げて下さい」

 

「あっ、こっちも自己紹介ね。私は美和です。えっと、誠君の知り合いをやってます」

 

「私は今は先島 アカリです。どうぞよろしく~」

 

「・・・・・・潮留 美海」

 

 至さんは俺を家族と呼び、自己紹介を始めた。別にいやな訳じゃないが、俺の心境は複雑に疑問を浮かべる。

 

 その間にも、美和さんとアカリさん、美海が自己紹介をした。何しにきたんだか、お互いに何故か意気投合しそうな二人だ。

 

 そうやって自己紹介をしている間にも、俺と美和さん、アカリさんに至さん、美海は診察室の前に辿り着く。そして、美和さんは中にズンズンと入っていった。俺と美海達も、それに続いてゆっくりと扉の中に入っていく。

 

「おや、また来たのかい誠君。それにしても、今回は結構な怪我で・・・・・・おっ? これは、ガールフレンドも一緒かい?」

 

「慎吾先生、違いますよ・・・・・・」

 

 扉の向こうで待っていたのは慎吾先生・・・・・・こちらは三十代くらいのお兄さん? で、俺の診察を何回もやっているベテラン? だが、この性格が面倒だ。

 

「ふむ、何時もはちゃんと処置をしてくるのに・・・・・・今回は何もなしか。何時も、こっちは君の処置の仕方を楽しみにさせてもらっているのに、ガールフレンドにかまけたか」

 

「あっ、そうだったのね誠君。どおりで今回は応急処置なしか♪」

 

「違いますよ。今回はいらなかっただけです」

 

 診察そっちのけで話をしてくるこのペアは、相変わらずだ。それと俺の苦手な人でもある。実際には、骨折したときなんか勝手に包帯を巻いてきたことがある。が、この二人は俺のその巻き方とかがちゃんとしていたため、俺に興味を持ったのだ。それからは、仲良く?している。

 

「じゃあ、診察を始めようか。まあ、誠君は心配ないとして・・・・・・『美海から見て下さい』──はいはい、じゃあそっちからか」

 

 慎吾先生は呆れたように、美海の方に向き直った。そして、何時も通りに何で病院に来たかを聞いて、診察を開始する。

 

 

 

 

 

 side《美海》

 

 

 私と誠、今は二人で病院に来た。アカちゃんに心配されて、パパの運転する車で何回か来た病院へ来た。此処には誠の知り合いもいるようで、綺麗な若いお姉さんの、美和さん? が、誠の事を知っていた。

 

 知らない誠を知れたけど、嬉しい気もするし、悲しい気もする。誠は私のことを車の中でも、自分の心配じゃなく私の心配をしてくれた。それでも、なんか嫌。誠がまた、どこかに行かないか心配になる。

 

「はい、じゃあ誠君のその腫れた右手も気になるけどこっちか。えっと~美海ちゃんだっけ? 今回はどうしたの?」

 

「・・・・・・頭と背中・・・・・・」

 

「なる程、誠君はガールフレンドがクモ膜下出血を起こさないか心配だと・・・・・・誠君、状況説明してくれるかな?」

 

「はい、美海は投げられてオジョシサマにぶつかり、そのオジョシサマが倒れてきたんですよ」

 

 それを聞いた医者は、何かを紙に書き込んでいく・・・・・・。誠は怪我も平気なのか、ずっと私の心配をしている。重傷は、誠なのに・・・・・・。

 

「はいはい。でっ、そっちは?」

 

「俺は手にガラス製の灰皿が当たって、頭にぶつかっただけです」

 

「ふーん、なる程・・・・・・じゃあ、レントゲンでも撮るか。そっちの方が早い」

 

 

 

──────

 

 

 

 数十分後、私と誠は最初に来た診察室に戻ってきた。お医者さんの手には、私と誠のレントゲンと呼ばれる紙?みたいなものが・・・・・・そしてそれを、お医者さんは光る板に張り付ける。

 

「ふむ、美海ちゃんは異常なし。誠君の頭も少し斬れた以外は正常・・・・・・あとは、また明日にでも病院に来てもう一度レントゲンだね。でも、お前は右手骨折な。ついでに、右手は巻いとくから絶対に使うんじゃねえぞ」

 

「わかってますよ」

 

 どうやら私は問題なしだけど、やっぱり誠は私の所為で怪我をしてる。お医者さんが頭にガーゼと包帯を巻いて、美和さんは右手に包帯を巻く。

 

 美和さんの目は優しげで、何か特別な感情を誠に抱いてる。優しく、いたわるように美和さんの腕は誠の右手に包帯を巻いた。何だかわからないけど、この人は誠を盗っていくような気がする。私から、誠を・・・・・・。

 

「にしても、今年はお船引きはやらないんじゃなかった?」

 

「おっ、そうだぞ誠君。そういや、何でオジョシサマで怪我なんて大騒ぎをしてるんだ? ガールフレンドが何で怪我しそうになったか、嘘か?」

 

 美和さんとお医者さんはそう言い、お船引きの話題を盛り込んできた。どうやら二人は気になるらしく、治療を施しながらも誠と会話する。

 

「あ~、それはですね、俺の通っている中学でオジョシサマ作ってたんですよ。それで、完成したら完成したで、お船引きをやりたいって奴が出て。せっかく作ったのに、勿体無いとか言う奴がいてそれで署名を集めました。で、今日がその陸と海の頑固なオジサン達の話し合いだったんですけど・・・・・・喧嘩を始めて、俺が灰皿に当たったってだけです」

 

「うわぁ~~、大人気なさすぎ!」

 

「それはそれは、何とも言えんな。まあ、大怪我を負わなかっただけましか・・・・・・うん? だとしたら、何でそんな危険な親父共のとこに美海ちゃんが・・・・・・?」

 

 誠の説明に疑問を持ったお医者さんは、私の方を見てくる。私はそれに対して、誠の怪我を見るように目を逸らしたが、目の前が段々とぼやけてくる。

 

「えっ、ちょっと美海ちゃんどうしたの!? オジサン、悪いこと言った?」

 

「美海? どうしたの、いきなり・・・・・・」

 

 涙が溢れて止まらない私を、お医者さんとアカちゃんとパパが心配してくる。止めようと思っても止まらない涙は、何度拭っても溢れてくる。

 

 

 ───私が一緒に行くって言ったから、誠は・・・・・・。

 

 

「ひっく・・・・・・うぅ・・・ごめんなさい、誠・・・ひっく・・・・・・。私の所為で、私が一緒に行かなきゃ誠は怪我をしなかったのに」

 

「えっと・・・・・・誠君、何か隠してる?」

 

 アカちゃんは私が泣いている理由を知りたいのか、そう誠に聞く。実際に私がいなかったら、誠は怪我するわけもなく、何時も通りだった。誠は頭と手に包帯を巻き、治療を終えたようだ。

 

「えっと・・・・・・その、美海が投げられた灰皿の直線上にいたんですけど・・・・・・避けれなくて、俺が前に飛び出しただけですよ」

 

「えっと・・・・・・こりゃ悪いことを聞いたな・・・・・・」

 

 簡単に話した誠は、椅子から降りて私の前に来る。そして、目の前に立つと左手で私の頭を撫で始めた。誠の手は気持ち良くって、安心する・・・・・・。

 

「気にするな。俺は、怪我して欲しくなかっただけだ。美海は悪くない。もう取り返しのつかない事になるのは、ごめんだからな」

 

「ひっく・・・・・・うぅ・・・」

 

 私は次第に落ち着いていき、誠の手の温かさと誠の強さに泣き止む。誠の心の温かさは、私の処方薬みたいに馴染んでいく。

 

 アカちゃんもパパも、お医者さんも申し訳無さそうな顔をして、私と誠を見ている。その目は温かくて、何処か見守るよう・・・・・・。

 

 でも、やっぱり私は好きなんだ・・・・・・誠が。

 

 誠にはただの妹みたいに思われているかもしれないけど、私は誠のことが好き。兄妹みたいじゃなくて、家族でもなくて、誠の事を私は男の人として見てる。

 

「ごめんね、誠君・・・・・・やっぱり、僕もついていれば・・・・・・」

 

「私も、至さんと一緒にいるなら居るべきだったよね・・・・・・」

 

 保護者としてなのか、パパとアカちゃんは誠に謝る。それに誠は困り顔で、私を膝の上に乗せながらもまだ頭を撫でてくる。

 

 ・・・・・・少し、心がぎゅってなる・・・・・・。

 

「謝られても別にやりたいことをやっただけです。謝る必要は無いでしょ? 元から、俺が面倒を見るって言ったんだし。まあ、俺もそろそろ帰りたいしこの辺で───」

 

「・・・・・・誠、帰っちゃだめ。今日は・・・・・・泊まっていって・・・・・・?」

 

 私は誠にしがみつき、わがままを言う。昔はよく言って困り顔だったけど、それでも誠は嬉しそうに一緒にいてくれた。

 

 でも、誠は・・・・・・

 

「えっと・・・・・・俺家に帰って勉強道具とか・・・・・・だから、無理なんだけど」

 

「誠君、君は家に泊まればいいじゃないか。美海も言ってるんだし」

 

「私も、今日はお父さんと話しつけてくるよ。だから、私が必要なものを持ってきてあげる」

 

 パパもアカちゃんも誠を家に泊めようと、協力してくれている。それに困り果てた誠は、お医者さんと美和さんに視線を向けた。

 

「あっ、言っておくけどお前は塩水に浸かるの禁止な。いろいろと不味いから」

 

「良かったね、誠君。君に女の子を泣かせることは出来なくて」

 

 お医者さんと美和さんによって、誠の退路は全部無くなった。

 

 

 

 

 




オリキャラさんの慎吾先生(職業お医者さん)
オリキャラの美和さん(職業看護士)

地味に、たまにちょくちょく使うつもりです。

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