現在、此処は中学校の工作室。そこに俺と光、マナカとチサキ、要。陸の女子生徒2人と先生、狭山 旬と江川 岳、俺の親友?の紡。そして、美海とさゆの13名が集まっていた。
理由は単純明快───
「「「「で、出来たぁぁーーーー!!!!」」」」
───と言うわけだ。
現在、俺達の目の前には努力の結晶である、オジョシサマが立っている。素材は木という何の変哲もないそこらに落ちて居るもの、という訳だが、その出来は精巧。その他にも供物と呼ばれるお供え物の木で出来た家具などがあるわけだが、どれも手抜きではなくよくできている。
「こ、これは───良い出来だよ、よく頑張ったね!」
先生は子供のように目を輝かせ、俺達で作ったオジョシサマを見ている。オジョシサマの形作りに削りだしなど、俺が全部やった。まあ、オジョシサマの本体を作ったのは俺。その外の小道具などが光達という単純な作業だった。
相変わらず、俺の手先が器用というスキルは凄いわけで、オジョシサマの顔が歴代のものより、リアルだ。だって、作業中にみんな退いてたもん。
「これも美海と私が来たお陰だな!」
「うるせぇ! お前の言える事じゃねえだろ!」
自分が頑張ったからと言うように自慢する、さゆちゃん。壊したのは君だと言いたいが、変わりに光が頭をぐりぐりとしているので良しとしよう。
───それに、美海とも仲は良くなったし。
痛がっているが、その表情は楽しそう。ぐりぐりを受けるさゆちゃんは、痛がりながらも笑っている。それに、隣の美海も・・・・・・。
「どうしたの、誠?」
「いや、美海も笑うようになったな~って、思ってさ」
俺を心配そうに見てくる美海は、そう問いかけた。見られていることを感じ取ったらしく、直ぐに俺をきょとんとした顔で見てくる。
「───だって、最初は俺を寄せ付けようとしなかったろ」
「むぅ~、それは誠が悪いもん」
膨れる美海に、俺は苦笑しながら視線を外す。確かに、美海が俺を避ける要因となったのが俺。それに、自分からも避けてたし。
「おいおい、何いちゃついてんだよ、ロリコン」
「・・・・・・」
「い、イチャついてなんかないもん///」
話しかけてきたのはクラスメートの、狭山 旬だっけ? そいつなのだが、こいつはあのアカリさんが働いているサヤマートの店長の息子。人は見かけによらないという事だろう。
それに対して、俺はロリコンではないから反応しない。此処で反応したら、ロリコンだと認めてしまうことになるだろう。
だが、それに反応した美海が頬を赤くして反論する。言われたのは美海じゃないのに、何で反応したのだろうか?
「おお、あからさまに顔を赤くしちゃって。もしかして、脈あり? それと、誠。沈黙は肯定って言葉を知ってるか?」
「おい、もしかしてロリコンって俺のことか? 今まで気がつかなかったよ。悪いけど、俺はロリコンじゃない。期待に添えなくて残念だったな」
狭山はニヤニヤしながら顔を赤くする美海を見ており、反応を楽しんでいる。"沈黙は肯定"という言葉を知らないわけではないが、反応したらそれこそ肯定だ。
「そうだ、みんなアイスをおごって上げるよ! ホームランバーかガリレオ君、どっちが良い?」
「うわっ、先生両方とも安いじゃん!」
「仕方ないだろう。人数が多いんだから」
「先生、プールも無くなるほど寒いのにそれはないと思います」
アイスを奢ろうとする先生に、陸の女子生徒と岳がブーイング。今だに生徒に何かを奢ることに燃えているのか、その目は真剣だ。
俺はそんなコントみたいな事を繰り広げている先生達を無視し、オジョシサマにもう一度、目をやるとそこには紡とマナカが。
二人は近くでオジョシサマを見て、ぼーっとしている。そして、やがて一通りぼーっとしていたかと思うと、二人が同時に口を開き───
「「お船引きをやりたいな」」
───と言った。それにみんなは固まり、紡とマナカを交互に見ている。
「・・・・・・被った」
「おうおう、仲良いねお二人さん」
「何処までいったのかな?」
女子生徒は『凄い・・・・・・』とでも言うように、二人を見ている。そんな中、陸のバカ二人組はマナカと紡をニヤニヤとしながら見だした。
この2人はぶれないというか、そう言うネタが好きなんだな。と、思ってしまう。
マナカは狭山と江川の二人の馬鹿の言葉に反応し、顔を真っ赤にする。茹で蛸とは、今のマナカが正しいのであろう。
「ふぇぇぇ! 違うよ、何もないよ!」
「またまた、ご冗談を」
まだネタを続けるのか、狭山と江川は顔を見合わせながら笑っている。流石にこれでは話は進まないので、俺は助け船を出した。
「──で、どうするんだ?」
「うんっとね、まーくん。ただ、お船引きをやりたいな~って、思って・・・・・・もしかして、まーくん怒ってる・・・・・・?」
マナカはこっちを伺うように言い、俺の顔色を伺ってきた。その瞳はうるうると潤んでおり、まるで捨てられた子犬・・・・・・いや、小動物全般。
「おい、俺は怒ってないだろ。どうすればいいか考えてんのか?」
「えっと・・・・・・それは・・・・・・お船引きをやりたいからです!」
俺の問いに、間違った答えを出す、マナカ。だが、マナカも何時もの・・・・・・それも、昔と同じマナカだったら、こんな事は言わないだろう。
俺も賛成したいところだが、簡易なら俺達だけでも出来る。──でも、マナカ達がやりたいのは恐らく大掛かりな奴だろう。
「はぁ・・・・・・お前が馬鹿なのはわかった」
「酷いよ、まーくん!」
「──でも、お前は変わったな」
「「「「えっ?」」」」
俺の言葉に驚く光達、海村の子供。俺が褒めたことに驚いたのだろう。今まで、光達をほめた事なんてなかった・・・・・・チサキ以外。
「誠が、マナカを褒めた・・・・・・」
「初めて、みたね・・・・・・」
「誠が私以外を褒めるなんて・・・・・・雪でも降るのかな」
「えへへ、まーくんに褒められた///」
光、要は驚愕の顔。それと違うのは、マナカが褒められては嬉しそうにしていることだろう。だが、一つだけ問題が・・・・・・横の美海とチサキが、ちょっとムスッとしてるが。
それに俺がチサキ以外を褒めたこと無い理由は、単純明快。光はまともなことをしない。要は何か作ったような、道化師。マナカは他の人の様子を見て、自己主張をしない。
それに対して、チサキは素直。悪いことはしないし、ちゃんと自分の意見ははっきりという。要もハッキリしているんだが、道化師なんだよな。傍観者というか、何というか・・・・・・。
まあ、マナカが成長したことは良いことだ。
「それで、どうするんだ?」
「えっとね、まーくんならわかると思うけど、大きなお船引きやりたい!」
予想通り、マナカは大きな注文をする。それを補足するように、紡がマナカの言葉に続いて意見を言ってきた。
「俺も、昔のようなお船引きがしたい。昔は汐鹿生と鷲大師で、凄いお船引きをしたって聞いた。それが俺らで、もう一度みんなでやりたい」
「でもね~、生徒だけの簡易なら出来るんだけど、それはね。みんなも知ってると思うけど、今回のお船引きが無くなったのは海と陸の喧嘩だからね」
生徒の言葉に、真剣に・・・・・・冷静に考え込む。どう考えても、生徒だけでそんな大掛かりなお船引きは執り行えない。実質、あの頑固者共が頭を柔らかくしない限り無理だ。
「そんな・・・・・・折角、作ったのに・・・・・・」
「ねぇ、誠、どうにか出来ないの?」
落ち込むマナカに、俺の服の袖を引っ張ってくる、美海。美海も作ったからには、本当のお船引きをやりたいんだろう。
「やろう! お船引き!!」
意外な事にも、光が大きく叫んだ。さっきまで黙っていたのに、一体どうしたんだろうか? マナカ関連だとはわかるが、光にしては珍しい。
「デモねぇー、光君。お船引きは、陸と海の協力がないと出来ないんだよ」
「───俺らだけで出来ないなら、説得すればいいんだ! 汐鹿生の奴らは俺が説得する! だから紡は、漁協の奴らを説得してくれよ。紡が陸のリーダーとなって、俺らでお船引きをやろうぜ」
先生の困ったような言葉に、光は堂々と言い放った。相変わらずの無茶苦茶ぶりだが、ちゃんと考えられた事だ。
こうして俺たちはお船引きの為、準備に取りかかることになったのだ。
翌日の昼過ぎ。俺と光、マナカにチサキ、要と紡。そして、美海とさゆちゃんはサヤマートの前で集まっていた。理由は昨日言ったとおりに、オジョシサマをお船引きで使いたいということなんだけど、熱い日差しが燦々と照りつけてくる。
時期的には夏だし、仕方のないことだろうが、エナが乾くのは早くなる。もちろん、俺はそんなのもう既に馴れているから問題はない。
「お船引き、やりまーす!」
「お、お船引きします!」
光とマナカがスーパーでやっている叩き売りみたいに、道行く人に紙を差し出している。それは昨日のうちに作った、お船引きの協力を願いというプリント。たったそれだけだが、やっぱり訴えるには署名を集めるという形に決まったのだ。
「あいつら、元気だな。やっぱり、光はこういう表立ってやることに向いてるな。でも、マナカがあそこまで声を出せるとは思わなかったけど」
「そうなの?」
「ああ、光は"やんちゃ坊主"。マナカはカクレクマノミってところかな? まあ、光は大人達に付けられた呼び名だけど」
「たこ助、やる~!」
隣の美海はきょとんとしており、さゆちゃんは良いことを聞いたとでもいう風に、たこ助──間違えた、光を見ている。
マナカと光は楽しそうで、見てると"変わったな"と思えてくる。この署名活動も、頭が堅い陸と海の頑固者共に話を聞かせるためなのだが、どっちもどっちだからな。
「よし、私も・・・・・・!」
とさゆちゃんが言ったと思うと、息を大きく吸い込んだ。
「──ご・きょ・う・りょ・く・く・だ・さ───痛っ!!!」
大声で呼び込もうとしたさゆちゃんに、光のグリグリ攻撃が入る。脇に紙を挟み、全力で小学生の頭をグリグリと。
「お前は、人を脅してどうすんだよっ!!」
「い、痛っ痛いーー!!」
その一撃は痛そうで、さゆちゃんは目に涙を浮かべている。隣の美海は苦笑し、さゆちゃんが光から刑を執行されるのを傍観。そこで、俺は助けることにした。
「はい、お仕置き終了。じゃないと、過剰な罰を与えたとして──」
「して?」
「光の過去をばらまくか、それより痛いグリグリが待ってるかも───」
「それは勘弁願いたく、存じます!!」
俺が光に半分脅迫の言葉を贈ると同時に、光がさゆちゃんを離した。さゆちゃんが泣いてたら、すぐにでもばらまいて上げようと思ったのに残念。
光は凄い勢いで、『俺、マナカとちゃんと働いてきます』と言って前に行った。俺と美海、さゆちゃんに要達の居るところは日陰で、日当たりを気にせずに行っている。
さゆちゃんも気を取り直したのか、改めて真面目にプリントを配り始めた。元気よく、子供らしい笑顔でプリントを掲げながら大声を出す。
「お船引きやりまーす! ご協力くださーーい!」
「お船引き・・・・・・やります・・・・・・」
さゆちゃんに釣られるようにして、美海も小さな声で紙を配ろうとする。もし此処にロリコンが居たならば、抱き締めてお持ち帰りでもしてるだろう。それくらい小さな声で、恥ずかしそうに紙を配ろうとしているのだ。それも、震える手で・・・・・・まあ、お持ち帰りしようとしたそんな奴は俺とアカリさんが許さないと思うが。
俺が美海の方を見て幸せそうにしていると、要もやる気を出したのか日陰から出て来た。
そして、満面のイケメンスマイルで、通りがかった主婦を口説き落としに・・・・・・訂正、協力をお願いしている。
「奥さん、そこの綺麗な奥さん。僕に、力を貸してくれないでしょうか?」
「ま、まあ、仕方ないわね・・・・・・!」
流石は要、主婦を口説き落とすのはお手のもの・・・・・・じゃなかった。日頃から光のお陰で、人の扱いを上手くなっているだけはある。
「要、凄いね。誠はやらないの?」
「チサキ、意味が違うよ、意味が。というか、俺は口説いたりしないって」
「えっ? 誠、カッコいいのに?」
「おい、俺がかっこいいなんて何処から出て来た?」
「それは、その・・・・・・私、一生懸命頑張ってみる!」
チサキが誤魔化すようにビラ配りを始めたが、『お船引き、やります・・・・・・』と小さな声で言う。正直言うと美海より小さい。
「お前、美海より(声が)小さいぞ?」
「えっ、私の(胸の)方が大きいもん!」
チサキは自分の胸から顔を上げると、反論する。
「俺は比良平には(声を出すの)似合わないと思うぞ?」
何故か違和感のある会話に、俺達は全く気づかない。自分の思っている内容があっているのか、それさえも知らずに俺達は会話を続ける。
「木原君は黙ってて! 誠は(胸が)小さい方が好きなの?」
「いや、俺は(声は)大きい方がいいと思うぞ?」
「そ、そう・・・・・・///」
若干の小さな喧嘩が起こった理由はわからないが、なんとか無事に収まった。チサキは顔を赤くして、俯いている。
紡も紡で、訳が分からないと言う顔をしており、俺と顔を見合わせてぼーっとしていた。そして、俺の後ろからは至さんとアカリさんのカップルが、サヤマートの中から2人して出てくる。
「おお、やってるね、やってるね」
「パパ!」
一番先に反応したのは美海で、アカリさんと至さんの所に駆けていった。俺も、美海に続くようにしてゆっくりとアカリさん達の前にでる。
「こんにちは、アカリさん、至さん」
「光に聞いたときはビックリしたけど、誠君がいるなら安心か・・・・・・」
「美海も楽しそうだし、誠君には悪いけど美海を頼むよ」
始まった会話は、お船引きについて。至さんは美海の保護を俺に頼み、安心しているようにも見える。それを聞いて面白くなさそうな美海は、
「もう、子供じゃないもん!」
と言って、顔を膨れさせる。あからさまに不機嫌そうに膨れるが、すぐに元に戻った。そして、そこに光が走ってくる。
「アカリ、署名してくれよ!」
「はいはい、わかったから、そうせかさない」
光は紙を出して、アカリさんはそれを受け取り用紙に記入をしていく。そうして書き終わると、次は至さんに渡して、至さんが記入し始めた。
「そうだ、光、誠君。私も手伝うよ」
「それなら、サヤマートに置いてくんねえか? この用紙」
「いいよ、店長さんにも許可取ったし、サヤマートの店長さんの息子さんの狭山君もやってるみたいだし、置いてあげる」
至さんが記入を終わると同時に、アカリさんがそう言ってきた。それに対して光は、紙を置いてもらえるようにアカリさんに頼む。
クラスの狭山に頼めばいいのに、面倒な奴だ。
「そうだ、僕にも用紙とかをくれないかな? 知り合いに渡してみるよ」
「ありがとうございます!」
至さんが記入用紙を光に返すと同時に、そう提案してくる。それに対して光は、綺麗なお辞儀で返事を返した。相変わらず、謝るときやお願いするときはキチッとしている。
「そうそう、誠君に頼んでた"あれ"出来た?」
「ええ、出来ましたよ。これですよね、これ」
突然にアカリさんが何かを催促して来たが、俺は冷静に答える。光と至さん、美海は『何?』と言う風な顔をしているが、俺は気にせずに何処からともなく木で出来た人形を取り出した。
それは小さな人形で、俺が暇潰しに作っていたもの・・・・・・。それは、美海人形と呼ばれる、美海にそっくりに作り上げた人形だ。
まるで、本物のように表情が表現されているそれは、身長と頭のバランスが本物そっくり。着ている衣服も、ランドセルも同じ物に作り上げた。
「・・・・・・誠君、それ何? 頼んだものと違うよ?」
「あっ、違った。アカリさんが頼んだのは、こっちでしたね」
俺は美海人形をしまい、ポケットから小さな木で出来た指輪を取り出す。それは、ちゃんと計算して作られた指輪で、宝石の代わりに薔薇の形に彫ってある。しかも、無茶苦茶立体的な薔薇だ。
「お前、さっきの何!?」
「さっきの美海だよね!?」
「何を隠したの? 見せて!」
光、至さん、美海を無視してその木製の薔薇の指輪をアカリさんに手渡す。ちょっと作ってみてと言われて作ったが、それをアカリさんは受け取ってまじまじと見る。
「へぇ~、ミヲリの言ったとおり凄いね。これは貰っておくとして・・・・・・誠君、さっきの美海人形を見せてくれない♪」
「はい、良いですよ」
俺はそう言って、アカリさん達に言われたとおりに取り出す。そして、それを渡した瞬間にアカリさんと至さんが感嘆の声を。光が『ロリコン!』と叫び。美海が自分の人形と俺を交互に見て、その度に顔を真っ赤にするという現状が続いた。
───後日、美海が少しの間は口を利いてくれなくなった事が、俺にとって痛い出来事であったのは、言うまでもない。
アニメの一話の半分で終わっちゃったよ・・・・・・。
次は後半あたりだね。