バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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ここからは瑞希、秀吉、ムッツリーニの3人の様子をお届けします。物語は瑞希視点で進行します。



第二章 僕と鍵と皆の使命(クエスト) ―― チームひみこ編 ――
第三十七話 チームひみこ活動開始


 ―――― 再び時は遡り、サラスへ向かった瑞希たちは ――――

 

 王都サンジェスタを出発した私たちは馬車に乗り、サラス王国に向かっている。メンバーは木下君と土屋君。それと私、姫路瑞希。なんだかよく分からないうちに私がリーダーなんてことになってしまったけれど、できる限り頑張ってみようと思う。

 

 サラス王国への移動手段は船しかないということで、私たちはまず港へと向かった。港町といってもこの国には港は2つある。ひとつは明久君と美波ちゃんが向かったリゼル。もうひとつが私たちが向かっているラミール。このうち、サラス王国に行けるのは大陸北側にあるラミールだけ。

 

 そのラミールの町へは大陸東側の町、オルタロードを経由して行く必要がある。しかもそこからは山道が続き、酷い揺れに耐えなければならない。私と木下君は前に一度通った道なので覚悟していた。だからそれほど苦しい思いはしなかったのだけれど、土屋君はあまりに酷い揺れに乗り物酔いをしてしまったみたい。

 

 港町までは山道を通るので馬車を使ってもサンジェスタから丸一日掛かってしまう。でも他に移動手段が無いので、土屋君には耐えてもらうしかなかった。私は彼の背中をさすりながら一刻も早い到着を願った。そうして時を過ごし、空が夕焼けに紅く燃えはじめた頃、ようやく前方に町の灯りが見えてきた。

 

 やっとの思いでラミールの町に到着したものの、土屋君を休ませてあげないとこのままでは歩くこともできなくなりそう。それ以前に船の定期便は先ほど出たばかりで、それが今日最後の便だという。つまり仮に土屋君が動けたとしても今日はもう移動できないということ。そこで私たちはひとまずこの港町で宿を取り、翌朝サラス王国へと出発することにした。

 

 そして翌朝。土屋君の体調が戻ったのを確認した私たちはサラス王国への旅を再開した。

 

「なんだかこの国って町のある所が左右に集中してますね」

「ムッツリーニよ、この真ん中の線で区切られた何も無い空間は何なのじゃ?」

 

 今、私たちはサラス王国へ向かう船に乗っている。その船の一室で、土屋君が書いてくれた地図を見ながらこの後の行動について相談しているところ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…………砂漠」

「砂漠じゃと? ではこの国は半分以上が砂漠で占められておるのか。距離はどれくらいあるのじゃ?」

「…………横にざっと1000キロメートル」

「車でも丸一日ほど掛かりそうな距離ですね……」

「姫路よ、実際は休憩を取ったりするので車でも一日では厳しいぞい」

「あっ、そうですね」

「ふむ……船の到着先はこの西海岸の町なのじゃな?」

「はい。乗船券には”リットン行き”と書いてありますね」

「東側まで探しに行かねばならぬ場合は期間的な問題が出てくるやもしれぬな」

「土屋君、この砂漠を渡るにはどうしたらいいんですか?」

「…………そこまでは調べていない」

「それは砂漠の手前の町で聞くのが良いじゃろう。渡らねばならぬのであれば、の話じゃがの」

「そうですね。王都のモンテマールは西側のここみたいですし、白金の腕輪が見つかれば行く必要無いですものね」

「んむ。そういうことじゃ」

「そういえばこの腕輪って王様に贈られた物なんですよね?」

「古文書にはそう書いてあったのう。それがどうかしたか?」

「どうしてこの国だけ3つなんでしょう? 他の国は2つなのに……」

「そういえばそうじゃな。あまり気にせずにおったわい」

「…………本には特に理由は書かれていなかった」

「ふむ……理由は分からぬが、数が多い分ワシらの責任は重いということじゃな」

「そうですね。頑張りましょうっ!」

「んむ。その意気じゃ」

 

 

 

          ☆

 

 

 

 ラミール港を出てから丸一日。私たちの乗った船は無事、サラス王国リットン港に着港した。

 

 魔障壁に覆われた薄緑色の空。立ち並ぶ石造りの茶色い建物。土がむき出しの道を(せわ)しなく行き交う、荷車を引いた馬車たち。海の方からはやや強めの風が私の体を叩くように吹き抜けていく。

 

「これがサラス王国なんですね……なんだか見た目はラミール港と変わりないですね」

「港はどこも同じようなもんじゃろう。じゃが少々気温が高いようじゃな」

「そういえばそうですね。潮風が涼しく感じます」

「…………サラス王国は高温乾燥」

「えっ? そうなんですか?」

「…………昨日調べておいた」

「むぅ。砂漠もあるというし、乾燥対策をしておかねばなるまいのう」

「じゃあそこに並んでいるお店を見ていきませんか? お洋服のお店もあるみたいですし」

「そうじゃな。じゃがムッツリーニよ、余計な買い物はするでないぞ?」

「…………なぜ俺に言う」

「お主が一番衝動買いをしそうだからじゃ」

「…………失敬な。俺は衝動買いなどしない」

「ならば良いのじゃが……では行くとしようかの」

「はいっ!」

 

 

 早速私たちは町に並んでいたお店のうち、衣料品を扱っていそうなお店に入ってみた。

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 お店に入るとすぐ女性店員さんの声が聞こえてきた。でも姿が見えない。理由は簡単。店内は凄い量の服で一杯だったから。それはもう視界が遮られるほどに。

 

「す、すっごい量のお洋服ですね……」

「これは目移りするというレベルを遥かに越えておるな」

 

 店内はそれほど広くなかった。けれど店内には縦横無尽にロープが張られ、信じられないほど沢山の洋服が掛けられていた。

 

「通気性の高い服が多いようじゃな」

「そうですね。でも結構高いみたいです……」

「一式揃える必要はあるまい。ひとまず日差しや砂塵を防ぐ物があればよかろう」

「帽子やコートですね」

「そういうことじゃ。じゃからムッツリーニよ、そういった服は今は不要じゃぞ」

「…………っ!?」

 

 気付くと土屋君が白いフリルの付いた服を数着、手にしていた。

 

「お主それを買うつもりじゃったのか……?」

「…………(ブンブンブン)」

「ならばそれを置いてこっちで帽子や外套を見てくれぬか」

 

 木下君がそう言うと土屋君は酷くがっかりした様子で洋服を戻し、トボトボと歩いて来た。

 

「そこまでがっかりせんでも良いじゃろう……」

「あ、あはは……」

 

 結局、このお店では3人の帽子と外套――つまりマントのように肩に羽織るものを購入した。マントは身体をすっぽりと覆うタイプの物で、”くるぶし”に掛かるくらいに長いもの。

 

 最初は膝丈くらいの可愛らしい物を買おうと思ったのだけれど、店員の人に「素足が日に焼かれるのでやめておいた方がいい」と言われた。文月学園のスカートは膝上丈。確かに丈の短いものでは足に日が直接当たってしまう。私も日焼けはしたくなかったので、彼女の助言に従うことにした。

 

 帽子はベージュ色の(つば)の大きい羽根付き帽子。茶色いマントに帽子なんて、まるでサバンナや砂漠に行くスタイルみたい。思っていたよりもちょっと格好良いかも……?

 

「姫路よ、なかなか似合うではないか」

「えっ? そ、そうですか? ちょっと地味過ぎるかなって思ってたんですけど……」

「そういう地味な色もなかなか良いものじゃ。のうムッツリーニ」

「…………(コクコク)」

「ありがとうございます。あ、土屋君は帽子が違うんですね」

「…………迷彩」

「土屋君もとってもよく似合ってますよ」

「ワシもムッツリーニと同じ帽子なのじゃが……」

「あっ! そ、そうですね! 木下君もかっこいいですよ!」

「そうかの? ワシもやっと男物が似合うようになってきたということかの!」

 

 えっと……男装しているみたいで良いかなって思ったんだけど……誤解したままの方が良さそう。

 

「じゃ、じゃあ皆さん、王都に行きましょうか」

「んむ」

「…………馬車乗り場は向こう」

「さすがムッツリーニじゃな。案内頼むぞい」

 

 こうして、買い物を終え私たちは馬車乗り場に向かった。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 目的地はここリットン港から北東の位置にある、王都モンテマール。この国はガルバランド王国のような険しい山は無く、王都までは馬車で一直線に行けるらしい。でも距離は結構あるようで、馬車を使っても3時間ほど掛かってしまうみたい。それと、この国にも魔獣が生息していて、やはり人間を襲うらしい。だから町にも馬車にも魔障壁は必須。これはこの世界に共通で言えることなのだと思う。

 

 私たちは今、その魔障壁に守られた馬車に乗り、モンテマールに向かっている。乗客は私たちを含めて8人。全員が肩に私と同じような外套を羽織り、一言も話さずじっと座席に座っている。

 

 外はまるでサバンナのような平野。その真ん中に茶色い1本の道が果てしなく続き、2頭の馬車馬はそれに沿ってひた走る。さっきマントを買った時に”サバンナ用みたい”なんて思ったけれど、本当にサバンナのような環境だなんて思わなかったな。

 

(国王陛下はどのような御人(ごじん)なのであろうな)

 

 そんな中、木下君が小声で話し掛けてきた。きっと周りが静かなことに配慮して声を抑えているのね。

 

(あまり人前にお姿をお見せしないらしいですね。だからほとんどの実務は王妃様がされているそうです)

(つまりワシらの用件もその王妃殿に伝えれば良いというわけじゃな)

(でもこの腕輪って友好の証として贈られた物なんですよね? そんな物を譲ってもらえるでしょうか……)

(ふむ。明久は簡単に譲ってもらえたようじゃが、普通に考えればまず断られるじゃろうな)

(そんな……じゃあどうしたらいいんでしょう……?)

(ワシらにできることは事情を包み隠さずすべて伝え、願うことだけじゃ)

(初めて会う私たちを信じてくれるでしょうか……)

(そうじゃな……ムッツリーニはどうやってハルニア国王に取り入ったのじゃ?)

(…………王子の喧嘩を知らせた)

(ほう? よく話を聞いてくれたのう)

(…………話してはいない。手紙を門兵に渡した)

(そのような手紙を信じてもらえたのか?)

(…………王家の紋章の入った紙に書いた)

(なるほどのう。じゃが今回はそうはいかぬな。ここはハルニア王国ではなくサラス王国なのじゃからな。やはり丁寧に説明する以外手はなさそうじゃ)

(私、不安です……上手くお話しできる自信がありません……)

(しっかりせい姫路よ。お主はチーム”ひみこ”のリーダーなのじゃぞ? 明久も向こうで頑張っておるのじゃ。そんなことではあやつめに笑われてしまうぞい?)

 

 明久君……。

 

(……そうですね。私、精一杯やってみます!)

(無論ワシらも共に頼み込むつもりじゃ。土下座でもなんでもするぞい)

(…………土下座なら任せろ)

(ふふっ……ありがとうございます。木下君、土屋君)

 

 国のトップとお話しするなんて初めてのことだけど……でも任された以上は責任をもってやり遂げなくちゃ。明久君だってきっとハルニア王国で頑張ってるんだから!

 


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