バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第三十四話 次の一手

「……私達……」

「ん? どうした翔子」

「……私達、何も成果を出せてない」

「今のところはな」

「……瑞希と吉井はきっと腕輪を持ち帰る」

「そうだな」

「……私は役目を果たせない」

「まぁそう落ち込むな。確かにリンナの行方は分かっていないが、まだ終わったわけじゃない」

「……何か考えがあるの?」

「あぁ。今からそいつを説明する」

 

 山岳奥地の町バルハトールを出てから2日。俺たちは王宮都市サンジェスタに戻って来ていた。今はホテルの一室で朝食を取りながら翔子と話しているところだ。

 

 結局、あの後メランダの町に向かっている最中に召喚獣は時間切れになってしまった。後数分で町に到着しようかという時だった。そこで俺たちは当初の計画通り、町に向かって歩きながら馬車が通りかかるのを待つことにした。だがその後、馬の足音が聞こえることはなかった。魔獣の襲撃に警戒しながら山間の道を歩く俺たち。そして太陽が山間(やまあい)に顔を沈ませ始めた時、メランダの灯りが見えてきたのだった。

 

 こうしてなんとか無事町には着いたものの、さすがに足が棒のようになっていた。そこでその日はメランダで宿を取り、昨日一日をかけて一気にこのサンジェスタまで戻ってきたというわけだ。

 

「いいか、明久たちとの約束の日までまだ5日ある。この間に俺たちでやれることをやるんだ」

「……やれること?」

「そうだ。俺たちにはまだやるべきことが残っている」

 

 残された時間に俺たちがやるべきこと。それはもちろん行方不明になったリンナという赤い髪の女を探すことだ。そうさ、俺はまだ諦めちゃいない。このまま終わってたまるか!

 

 ここで現状を再確認しておこう。

 

 まず、この国に存在している腕輪は2個。うち1個を明久が持ち帰り、今は姫路が持っている。俺たちの使命は残る1個の確保なのだが、持ち主であるアレックス王曰く、名前も知らない女に譲ったという。

 

 そこで俺たちはこの腕輪の持ち主である女を追い、北へと向かった。各町で手掛かりを得て足取りを追い、北西奥地の町バルハトールに行き着いた。だがそこで肝心の持ち主が行方不明という事態に陥り、手詰まりになってしまったのだ。しかも俺たちが一宿(いっしゅく)の恩を受けたリンナの夫トーラスもその日の夜に姿を消すという異常事態。俺は事の異常さに危険を感じ、腕輪の探索を中止。一旦サンジェスタまで戻ってきた。

 

 これが現在の状況だ。ではこの状況をどうするか。俺は昨日、馬車の中でずっと考えていた。そしてひとつの答えを導き出した。

 

 メランダの町では若い人が忽然と姿を消す事件が10件以上相次いでいるという。このためメランダは町を出て行く人が続出。老人だらけの町になってしまっている。加えてバルハトールにおけるリンナとトーラスの失踪。これほどの事件が起きているというのに、国の治安機関が動いていないわけがない。

 

 治安を守る組織。俺たちの世界で言うと警察だ。ではこの世界でそれに該当する組織といえばどこか? それは王家だろう。きっと王家管轄の何らかの組織が動いているはずだ。ならば王家の者に取り入り、捜査状況を聞き出す。そして腕輪の所在が判明すれば譲り受ける。これが俺たちが取るべき次の行動だ。

 

「と、いうわけだ」

「……じゃあ王様に会いに行く?」

「そういうことだ。朝食が終わったらすぐアレックス王の所に行くぞ」

「……あの公園?」

「あぁそうだ。あの王のことだ。きっと今日もあの池で釣りをしているだろう」

 

 ()くして、俺たちはあの公園へと向かった。

 

 

 

          ☆

 

 

 

「……いない」

「だな」

 

 公園に到着してみると、そこにアレックス王の姿は無かった。

 

「今日もここにいると思ったんだがな」

「……別の池に行ってるのかも」

「なるほど。そうかもしれねぇな。けどそうなると探すのは難しいな。これだけ大きな町だからな」

「……どうする?」

「そこら辺の人にでも聞いてみるか。何か知ってる人もいるかもしれん」

 

 その時、ちょうど公園脇の道を子連れの女性が通りかかるのが見えた。俺たちは早速その者に尋ねてみる。するとあっさりと答えが返ってきた。

 

 彼は毎日のようにこの公園で釣りをしているが、たまに数日姿を消すのだという。しかもこの女性は彼がアレックス王だということを知っていた。あれだけ毎日のように王家の人が来ていれば誰でも分かると彼女は笑いながら語る。それでも本人はバレてないつもりらしく、未だアレンを名乗っているらしい。

 

 まったく……面白い王様だよ。権力者は嫌いだが、こんな王になら付き従ってもいいかもしれないな。俺は改めてそう思った。

 

 しかし肝心の王の行方については彼女も知らないらしい。そしてもし知っているとすれば王宮の人だろうと言う。

 

 なるほどな。と納得したものの、思った。アレックス王とは前回ここで話しているので面識はある。だがあの王が王宮の者に俺の話をしているとは思えない。面会の約束をしていない俺たちがいきなり王宮を訪問しても門前払いだ。さてどうしたものか……。

 

「……雄二。王宮に行こう」

「けど行っても追い返されるだけじゃねぇか?」

「……行ってみなければ分からない」

「まぁ……それもそうだな。手を(こまね)いているよりはマシか」

 

 俺たちは子連れの主婦と別れ、王宮へと向かった。王宮への道は知っている。もちろん翔子が。俺は翔子の案内についていくだけだ。やはり翔子の記憶力はこういう時には助かる。

 

 

 

          ☆

 

 

 

「素性の知れぬ者を通すわけにはいかん!」

 

 王宮正門に到着した俺は、警備していた衛兵に「王に会いたい」と面会を希望してみた。だがご覧のような返答で、取り合ってはくれなかった。まぁ当然か。

 

「……アレンさんと顔見知りって言ってみたら?」

「やめておけ。信じてもらえるわけがない」

「……そう」

 

 仕方ない。やはり王を探すしかなさそうだ。しかしどこに行ったのやら……とりあえずホテルに戻って作戦を練り直すか。

 

「翔子、一旦帰るぞ」

 

 と、諦めて身体の向きを反転させると、

 

「うぉっ!?」

 

 滅多なことでは驚かない。俺はそう自負していた。だがこの時ばかりは驚かずにはいられなかった。突然目の前に馬の鼻面が現れたからだ。その距離約5センチ。危うく馬にキスしちまうところだったぜ……。

 

「何だね? 君たちは」

 

 馬が喋った!? と一瞬思わなかったでもない。だが生物学的に考えて馬が人語を操るわけが無い。冷静に状況を見れば声の主はすぐ分かった。

 

 馬には銀色の鎧に身を包んだ男が乗っていた。面長で白い肌。肩に掛かるほどに伸ばした栗色のサラサラロングヘアー。鼻先には丸縁の小さな眼鏡を乗せている。絵に書いたような優男スタイルだ。

 

「これはパトラスケイル様。お帰りなさいませ」

「警備ご苦労様。ところでこの者たちは?」

「はい、実はこの者たちが突然やってきて陛下にお会いしたいと言うのです。しかし素性の分からぬ者を通すわけにもいかず、断っていたところなのです」

「ふむ……そうでしたか」

 

 パトラスケイルと呼ばれた優男と衛兵が話をしている。この男、何者だろう。見たところ位が高そうな印象を受ける。それに見るからに育ちが良さそうだ。不精髭を生やしたアレックス王とはえらい違いだな。

 

「君たち、名前は?」

 

 馬上から俺たちを見下ろしながら男がそう言った。これはもしや話を聞く体勢か? なんだか分からんがチャンスかもしれない。

 

「これは失礼しました。(わたくし)は坂本雄二と申します」

「……霧島翔子です」

「サカモト? そうか、君がサカモト君か。なるほどね……」

 

 鼻に乗せた眼鏡を人差し指で上げながら目を光らせる優男。この反応。どうやら俺のことを知っているようだ。だが俺はこの男とは初対面。ならば今考えられる理由はただひとつ。アレックス王が俺のことを伝えたのだろう。この町で俺の名前を知っているのは王だけだからな。

 

「実はアレックス陛下にお尋ねしたいことがありまして、お伺いした次第であります」

 

 このチャンスを逃してはならない。なんとしてもこの男に取り入って事を進めなくては。俺は馬の前で(ひざまず)き、事の終始を丁寧に説明した。

 

「ふむ……その話、詳しく聞きましょう。トーマ君、お客人を応接へご案内してください」

「えっ? こ、この者たちを? よろしいのですか?」

「えぇ。構いません。私が許可します」

「はっ! かしこまりました!」

 

 トーマとは衛兵のうち、今返事をした者の名のようだ。彼はくるりと体を反転させると、力を込めて大きな門を開けていく。

 

「私は着替えてから行きます。応接で待っていてください」

 

 優男はそう言うと馬を走らせ、王宮の敷地内へと入っていった。思っていたより話は上手く進んでいるな。これなら何か手掛かりを聞き出せるかもしれない。

 

「では参りましょう。こちらです」

 

 トーマと呼ばれた衛兵に案内され、俺たちは応接室に通された。ただ、応接と言ってもバカみたいに広い。ざっと見積もって50平米……いや、もっとあるだろうか。天井もやたら高くて、豪華で巨大なシャンデリアが計4つも吊されている。やはり王宮ともなると何もかもスケールがでかい。まるで高級ホテルのホールのようだ。

 

「こちらにお掛けになってお待ちください。すぐに大臣が参ります」

 

 そう言って衛兵は部屋を去って行った。

 

「なぁ翔子、大臣ってのはやっぱさっきの髪の長い男のことだよな」

「……たぶん」

「あれが大臣か。どことなく久保に似た感じがするな」

「……そう?」

「なんつーか、いかにもガリ勉って感じがな。久保はお前と同じクラスだろ? お前の方がよく知ってるんじゃないのか?」

「……あまり話さない」

「そうなのか? あいつ試召戦争の参謀役やってんだろ? なら代表のお前とよく話してるんじゃねぇのか?」

「……作戦はいつも久保に任せてる。私はその作戦に従うだけ」

「フーン。じゃあAクラスを落とすならあいつの思考を読めばいいってことだな」

 

 久保の思考なら簡単だ。あいつの行く先に明久を配置すればいいだけだからな。

 

「……そういえば久保は中間テストの後くらいから元気がない」

「ん? 中間テストの後? ……あー。そ、そうか。そりゃ気の毒にな……」

「……気の毒?」

「うん。まぁなんだ。次に会ったらご愁傷さまと伝えておいてくれ」

「……?」

 

 中間テストの後といえば10月の下旬。あの時期であいつに関係しそうな出来事と言えば思い当たることがひとつある。明久が島田と付き合いはじめたことだ。久保はなぜかあの明久(バカ)にご執心だったからな。恐らく明久に彼女ができたことがショックで落ち込んでいるのだろう。これで久保も真っ当な世界に戻れる……と、いいんだがな。

 

「失礼いたします」

 

 ソファで待っていると、1人の男が入ってきた。蝶ネクタイをした初老の男性。彼はビシッと背筋を伸ばし、ポットを乗せたワゴンを押しながらこちらに向かってくる。まるで執事のようなスタイルだ。というか執事そのものだろう。

 

「お紅茶をお持ちしました」

 

 紅茶か。俺はどちらかというとコーヒーが飲みたいのだが、この世界には無いらしいからな。ま、ありがたく頂戴しよう。

 

「……お構いなく」

「パトラスケイル様より丁重におもてなしするようにと仰せつかっておりますので」

 

 俺は失踪事件の話を聞きに来ただけなんだが……それにアレックス王とも”顔見知り”という程度で、もてなされるような仲ってわけじゃねぇんだけどな。

 

 そんなことを考えている俺の前では、執事がテキパキとティータイムの準備を進めている。熟練の技と言うべきなのだろうか。ゆったりと指揮棒(タクト)を振るように流れる指先。その手際の良さには俺も目を奪われてしまっていた。

 

「冷めないうちにどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

「……いただきます」

 

 暖かい紅茶を飲みながら巨大な部屋の中央で大臣が現れるのを待つ俺と翔子。すぐ横では黒いスーツの執事が直立不動の姿勢をとっている。まるで石像のように微動だにしない。なんだか落ち着かねぇな……。

 

 そんないたたまれない気持ちを胸にしながら待っていると、程なくして例の優男――パトラスケイル大臣が部屋にやってきた。

 

「お待たせしました」

 

 赤いマフラーのようなものを(たすき)がけした、まるで法衣のような真っ白な服。先程の銀色の鎧姿から一転して神に仕えるかのような姿。これが執務服なのだろうか。

 

「……雄二。こういう時は立って挨拶する」

「おう」

 

 そんなことは言われなくても分かっている。俺は立ち上がり、丁寧に礼をして感謝を示した。

 

「私どものような見ず知らずの者をお招きいただき、心より感謝いたします」

 

 背筋を伸ばし、腰を折って上半身を傾けること約30度。こういった挨拶はあまり好きではない。けれど礼儀は必要だ。無礼な態度を取って追い返されてしまえば手掛かりを失ってしまうからな。

 

「あぁ、そんな堅苦しい挨拶は不要ですよ。どうぞ楽にしてください」

 

 彼はそう言ってテーブルを挟んだ向かい側のソファに腰掛けると、ふぅ、と息をついた。

 

「早速ですが本題に入りましょう。どうぞおかけください」

「失礼します」

 

 俺と翔子は再びソファに腰掛けた。よし、交渉開始だ。

 

「腕輪のことでアレックスに聞きたいことがあると言っていましたね」

「……」

「ん? どうかしましたか?」

「あ……いえ。なんでもありません。少々緊張していまして……」

 

 実は俺の返事が一瞬遅れたのは緊張していたからではない。大臣の発言が滑稽(こっけい)だと思ったからだ。

 

 通常、王の地位は国の最高位(さいこうい)のはず。大臣はその家臣にあたり、決して同位に扱われるものではない。にもかかわらず、このパトラスケイル大臣は王を「アレックス」と呼び捨てにした。それは実質の権力者であることからか、はたまた王の座を狙う反逆の意志の現れか。

 

「そう緊張なさらずとも結構ですよ。ですが実は我らが王は不在なのです。せっかく来ていただいたのに申し訳ありません。私の知っていることであればお答えしますよ」

 

 まぁこの男と王の関係がどうあろうと俺にとってはどうでもいいことだ。今は目的を果たすのみだ。

 

「ありがとうございます。ではまず私どもの素性からお話しいたします」

「あぁ、待ってください」

「何でしょう?」

「アレックスからすべて聞いていますよ。そんな(かしこ)まった話し方は無用です。君本来の話し方で構いませんよ」

 

 本来の話し方とは友人と話すような感じでいいってことか? アレックス王と話した時のような?

 

「……雄二。失礼な態度はダメ」

「お嬢さん、お気持ちは嬉しいのですが、ここは立場抜きの無礼講でお願いしますよ。私も()の話し方をさせていただきますので」

 

 王といい、この大臣といい、変わった奴が多い国だな。ま、俺も()で話せるほうが気楽で助かるんだけどな。

 

「じゃあ遠慮なくやらせてもらうぜ」

「えぇ。それで結構です」

「まず俺たちの素性についてだが、別の世界から来た異世界人ってことになるんだが……信じてもらえるだろうか?」

「それもアレックスから聞いているよ。(にわ)かには信じがたい話だけど、あいつが信じているということは本当なんだろうね」

「俺自身も驚いたが本当の話なんだ。……たぶん」

「たぶん?」

「あぁ。実はまだこの世界のことをよく理解していなくてな。確実とは言えないんだ」

「なるほど」

「それで本題なんだが、俺たちは元の世界に戻りたいんだ。だがそれにはある物が必要なことが分かっている」

「それが先程言っていた王家に伝わる腕輪というわけだね?」

「あぁ、その通りだ」

「でもその腕輪は前にアレックスが連れてきた子に渡しているよ? 彼も君の仲間だろう?」

 

 彼? 腕輪を渡した? ……あぁ、明久のことか。あいつもこの男に会っていたのか。

 

「確かに吉井は仲間だ。けどあいつが貰った腕輪は少し効果が違ったんだ」

「ほう……そうだったのか。それは残念だったね」

「まぁ仕方ねぇさ。ただ、古文書でこの腕輪がもう1つこの国にあることが分かっている」

「なるほど。つまり君たちがここへ来た理由はそのもう1つの腕輪を譲ってほしい。ということだね?」

「確かに譲ってほしいが、少し違う。実はここに無いことは既に王から聞いて知っていてな」

「ん? そうなのか? では何故ここへ?」

「王は腕輪をリンナという赤い髪の女に譲ったと言っていた。つまり今の持ち主はその女になっているんだ」

 

 ここまで話すとパトラスケイル大臣は目頭を指でつまみ、がっくりと項垂れてしまった。

 

「まっっったく……あの人ときたら……」

 

 要するに目眩がするほどの愚かな行為ということだろう。気持ちはよく分かる。俺が同じ立場なら相手が王であろうが、ぶん殴っているところだ。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「ん。あぁ大丈夫だよお嬢さん。ありがとう。あまりの愚行(ぐこう)に少々目眩(めまい)が……ね」

 

 パトラスケイル大臣は大きく一度、溜め息を吐いた。そしてソファの背凭(せもた)れに寄り掛かり、疲れ果てたように語りだした。

 

「うちの王は昔から節操がなくてね。気に入った女性にすぐそうやって王家の物をプレゼントしてしまうんだ。困った王様だよ、まったく……。まぁ、それほど高価な物ではないのがせめてもの救いなんだけどね」

 

 なるほど。アレックス王はそういう性格の持ち主なのか。というか、この前会った時の印象そのまんまじゃねぇか。この大臣の苦労も分かる気がするぜ……。

 

「すまないサカモト君。すぐにその女性を捜させよう」

「あぁいや、実はもう既に捜したんだが……」

「ん? そうなのか。では見つからなかったのかい?」

「そうなんだ。大臣、あんたはこの国で起きている失踪事件のことをを知っているか?」

「北方面のいくつかの町で何組もの男女が揃って姿を消しているという報告は受けている。今日もその件で調査に行って来たところだ」

「そうか。そいつは話が早い。実はその目的の女性がバルハトールにいるという情報を頼りに行ってみたんだが、例の事件の被害者になっていて消息が掴めなかったんだ」

「なるほど……」

「加えて俺たちが行ったその日に今度はその旦那が行方不明になってしまってな……」

「そうか、そんなことがあったのか。やはりこれは早く手を打たなければならないようだね」

「それで国の中枢である王宮なら事件の調査をしているんじゃないかと思って聞きに来たというわけなんだ」

「ふむ……」

 

 ここまで話すと、大臣は腕組みをして目を瞑り、何かを考え始めた。そしてしばらくして、真剣な目で俺たちを見つめながら言った。

 

「状況は理解した。確かに君の言う事件に関しては調査をしている。ただ、残念ながら君たちに教えられるほど情報が整理できていないんだ」

「そうか……」

「しかし君たちにとっても必要な情報だろう。そうだな……3日。今日を含めて3日後の夕刻にまた来てくれないか。その頃にはきっと何か情報を提供できるだろう」

「そいつは助かる。しかしいいのか? 俺たちのようなどこの馬の骨かも分からない者にそんな情報を提供して。もしかしたら事件の主犯かもしれないんだぜ?」

「でも違うのだろう?」

「まぁな」

「ならば問題ない。それにあいつが信用している男だ。私も信用するよ」

「ずいぶん王に入れ込んでるんだな」

「ははは、あいつとも長い付き合いだからね」

 

 ……そうか。この男とアレックス王の関係が分かった。

 

 呼び捨てにしていたのは敵対する意思や権威を振りかざしているからではない。アレックス王とこの男は信頼関係にあるのだ。それも親友のような信頼関係に。だから初対面にもかかわらず、俺たちを王の友人として、こうも手厚くもてなしたのだ。

 

「……あの、聞いていいですか」

「なんだい? お嬢さん」

「……パトラスケイルさんは王様とお友達?」

「そうだよ。知り合ったのは10年前かな。あいつとは学友だったんだ。あいつは昔から”堅苦しいのは苦手だ”と言って王位を継ぐのを嫌がっていてね。結局、私が大臣として補佐することを条件に王位に就いたんだ。王位についてもご覧の通り王宮を嫌がって外で暮らしてばかりいるのだけどね」

「……親友」

「親友か。そんなことは考えたことはなかったな。いわゆる腐れ縁ってやつだからね」

「……雄二と吉井みたい」

「よせ。俺はここまであいつを信用しちゃいない」

「……でも雄二はいつも吉井と一緒」

「まぁ色々と都合がいいからな」

「……つまり浮気相手は吉井」

「いいか翔子、何度も言うが明久は男だ。その時点で浮気は成立しねぇんだよ」

「……でも吉井を愛してる」

「ンなわけあるかっ! おぞましいことを言うな!」

 

 あぁくそっ! 翔子が余計なことを言うから鳥肌が立っちまったじゃねぇか!

 

「ははは、君たちこそ仲がいいじゃないか。その異世界ではもう結婚しているのかい?」

「……はい」

「してねぇからな!? 大臣! こいつの言うことは信じないでくれ!」

「……あとは実印を押すだけ。だからもう結婚したも同然」

「本人が合意してねぇだろうが!」

「ふむ……サカモト君。どうやら年貢の納め時のようだね」

「よし、帰るぞ翔子。お前とここで話していると余計な誤解を与えてしまいそうだ」

「もう帰るのかい? もっとゆっくりしていっていいんだよ?」

「いや、一応用件は終わったので帰ることにする。こいつが変なことを言う前にな」

「……変じゃない。本当のこと」

「あぁもう! 分かったから帰るぞ!」

「はははっ、本当に面白いな君たちは。それじゃ3日後にまた来てくれたまえ。その時は結婚の報告も待っているよ」

「……」

 

 誤解を与える前っつーか、既に大きな誤解を生んでいる気がするぜ……。

 


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