バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十五話 王の元へ

 ランチを終え、僕たちは再びレオンドバーグの町を歩き出した。既に建物の合間からは巨大な宮殿の姿が見え隠れしている。あれが目指すレナード王の王宮だ。

 

「見えてきたわね」

「うん。この分だとあと30分くらいかな」

「でも”王家の腕輪を譲ってください”なんて言って受け入れてくれるのかしら」

「う~ん……どうだろう。アレンさんはあっさり譲ってくれたけど。でも事情を話して礼儀正しくお願いすればきっと聞いてくれるんじゃないかな」

「そういえばレナードさんって研究好きなのよね? もし腕輪を分解しちゃってたらどうする?」

「えぇっ!? だ、ダメだよそんなの!」

「ウチに言わないでよ。それに”もしも”の話よ」

「あ、そっか」

「まったく、早とちりなんだから。それじゃ分解されないうちに貰えるように急ぎましょ」

「うん。そうだね」

 

 と返事をしたものの、やはり僕はゆっくり歩いた。もちろん美波の歩幅に合わせたからだ。それにこうして美波と一緒の時間をゆっくり過ごしたかったからという理由もある。のんびりとレオンドバーグの町中を歩く僕たち。結局、王宮の正門前に到着するまで50分ほど掛かってしまった。ゆっくり歩いていたとはいえ、意外に距離があるものだ。

 

「やっぱり何度見ても大きいなぁ」

「ほんとね」

 

 正面に(そび)える王宮は相変わらず巨大だった。その大きさは文月学園の校舎を遥かに凌ぐ。王宮から手前の門までの間には緑豊かな庭が広がり、まるで国立公園のようだ。門の前では以前と同じように銀色の全身鎧に身を包んだ4人の兵士が槍を携え、警備している。僕は早速その警備をしている兵士さんに王様のことを尋ねてみた。

 

「すみません。レナードさ……国王陛下はいらっしゃいますか?」

 

 言葉使いはこれでいいんだよね?

 

「陛下に何用だ?」

 

 4人の兵士のうち1人が聞き返してくる。まぁ当然の反応だ。しかしどう言ったらいいんだろう。僕らがレナードさんと知り合いだと言って通してもらうか? 前に話をした兵士さんならそれで通してくれるかもしれないけど、見たところ彼らは全員初めて見る顔だ。恐らく言ってもそう簡単には信じてもらえないだろう。

 

「ウチらは王様からこれを頂いた者です。実は王様にお聞きしたいことがあって来ました」

 

 考え込んでいるうちに美波が僕のリュックから1枚の紙を取り出し、兵士たちに広げて見せた。これは以前王様から貰った紹介状だ。なるほど、その手があったか。確かにこれ以上無い証明だ。これをサッと出せるなんて美波は機転が利くな。

 

「これは確かに陛下の筆跡……君たちの名前は?」

「吉井明久です。ヨシイと言っていただければ分かると思います」

「ウチは島田美波です。シマダと伝えてください」

「ヨシイにシマダだな。確認しよう。しばし待たれよ」

「「はいっ」」

 

 応対してくれた兵士さんは回れ右をすると門を開け、駆け足で王宮へと向かって行った。ガシャガシャと鎧を鳴らしながら庭園の中央道を軽快に駆けて行く兵士のおじさん。僕たちは黙ってその様子を見守った。

 

 さて、王様にすぐ会えるだろうか。そういえば以前話した時は”研究室にいることが多い”とか言ってたっけ。もしかしたらいないかもしれないな。なんてことを考えていたら、すぐにさっきの兵士さんが王宮から出て来た。早いな。

 

「陛下はこちらにはおられぬ。今は研究室の方にいらっしゃるそうだ」

 

 戻って来た兵士さんは僕らにそう告げた。やはりいなかったか。となればその研究室に行ってみるしかないな。そう思って隣の美波に目を向けると、彼女はそれに応えるように目を合わせてきた。言葉を交わさなくても分かる。美波も研究室に行こうと言っているのだ。

 

「それじゃその研究室に行ってみてもいいですか?」

「構わんが……行くだけ無駄かもしれんぞ?」

「ほぇ? どうしてです?」

「いや、まぁ……なぁ?」

「あぁ」

「だよなぁ……」

 

 兵士のおじさんたちは互いに顔を見合わせながら言い辛そうに言葉を詰まらせる。なんかハッキリしないな。

 

「アキ、とにかく行ってみましょ」

「そうだね。それじゃ僕たち研究室に行ってみます。どうもありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 僕は美波と共にペコリと頭を下げた。するとおじさんたちは妙な挨拶を返してきた。

 

「あぁ。頑張ってな」

「大変だろうけど根気よくな」

 

 ?

 

「はい」

 

 とりあえず返事をしてみたけど、何が大変で何を頑張るんだろう? この時の僕はまだ王様の性格をよく分かっていなかった。そしてこの後すぐに彼らの行った意味を理解することになるのであった。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 警備の兵士さんたちからレナード王がいるという研究室の場所を教えてもらい、僕たちは早速そこへ向かった。場所は王宮のすぐ裏側。王宮は周囲を広い庭で囲っていて、裏側に行くには塀の外を大きく回り込む必要があるそうだ。研究室は正門のちょうど真裏。左右どちらから回っても時間的には大差無いらしい。時間が変わらないのならどちらでも良い。僕らはひとまず右から回り込むことにした。

 

 敷地は王宮を中心に円を描くように丸い形状をしていた。庭と道の間は高さ3メートルほどの褐色のレンガで作られた塀で仕切られている。僕たちはその塀を左手に見ながら道をテクテクと歩いて行った。右手には民家のようなレンガ造りの建物がいくつも立ち並び、道の先までずっと続いている。

 

 進んでも進んでも同じ景色が続く王宮脇の道。一体どこまで行けば研究室に着くんだろう? そう思いはじめた時、前方に白い建物が見えてきた。

 

「見てアキ、あれじゃない?」

「うん。きっとそうだね」

 

 見えてきた建物は周囲の家とは雰囲気が違う。明らかに住居や商店の類いではないのだ。きっとあれが研究室だ。だいたい2、30分くらい歩いただろうか。今にして思えば王宮の真ん中を突っ切らせてもらえばすぐだったような気もする。まぁ今更か。

 

「ここに間違い無さそうね」

「うん。それにしても真っ白だなぁ」

 

 この世界の建物はほとんどがレンガや石で作られている。木造建築や鉄筋など見たことがない。しかし目の前にあるのは、まるでコンクリートで作られたような平坦で白い壁の建物。建物の形は真四角で、屋根も真っ直ぐ水平だった。高さからすると2階は無い。恐らく平屋建てだろう。見たところ窓も無いようだ。これは完全な密閉空間だな。

 

「ここに王様がいるのね」

「そういうことだね」

 

 正面には木製の扉が1つあり、開け放されている。ここが入り口のようだ。開いているということは勝手に入っていいのかな?

 

「えーっと、受付とかあるのかな?」

「入ってみれば分かるわよ」

「え……い、いいのかな。勝手に入っちゃって」

「開いてるんだからいいんじゃない?」

 

 美波はそう言ってスタスタと入って行く。

 

「ホント。度胸があるよなぁ……」

 

 僕も呟きながら続いて入ってみる。入った先は小さな四角い部屋だった。室内に飾りの類いは一切なく、壁は外壁と同じ真っ白だった。なんとも殺風景な部屋だ。

 

 唯一あるのは正面に設置された木製のカウンター。そこには金属製の呼び鈴がひとつ置かれていた。福引の当たりが出た時に鳴らすような手に持つタイプのベル。それを小さくしたような物だ。

 

「きっとこの鈴で呼び出すのね」

 

 美波はそう言いながらカウンターの上に置かれていた鈴を(つま)み、2、3回振った。

 

 

 ――チリン♪ チリリン♪

 

 

 涼しげな鈴の音が響き渡る。

 

『は~い、今参りま~す』

 

 するとカウンターの奥の扉の中から声が聞こえてきた。女の人の声だ。程なくしてその扉がガチャリと開き、金髪ショートカットの女性が姿を見せた。

 

「「あ……」」

 

 僕と美波はその人を見て小さく声をあげた。この女性が知っている人だったからだ。

 

「あら? ヨシイ様とシマダ様ではありませんか」

 

 向こうも僕たちのことを覚えていたようだ。彼女の名はクレアさん。ショートカットに切りそろえた輝くような金髪と透き通るような青い瞳。それに姫路さんに匹敵するほどの大きな胸が特徴の女性だ。

 

 初めて彼女に会ったのはこの国の2人の王子が始めようとしていた戦争を止めに入った時。乱入してきた巨大な熊の魔獣を僕と美波の2人がかりで倒した直後だった。レナード王と共に現れ、負傷した僕の手当てをしてくれた人。それがこのクレアさんだった。

 

 あの時はスーツの上にマントを羽織った姿をしていた。けれど今は化学の布施先生がいつも着ているような白衣を羽織っている。まるでお医者さんのようだ

 

「お久しぶりです。クレアさん」

「お2人ともお元気そうで何よりです」

 

 僕が挨拶すると小さな眼鏡をかけた慧眼の女性はにっこりと微笑んだ。マント姿も格好良かったけど、今の白衣姿も魅力的だ。

 

「そ、そうですか? いやぁ、元気が取り柄みたいなもんですからね! あはははっ!」

 

 綺麗な目で見つめられ、ドキドキしながら返事を返す僕。やっぱりクレアさんは美人だなぁ。白衣姿もよく似合ってるし、サラサラの金髪も変わらずとっても綺麗だ。

 

 ――ドスッ

 

「ぐほっ!」

 

 突如、左脇腹に強い衝撃。

 

「な……何するんだよ美波ぃ……」

「ふんっ!」

「何だよぅ。何を怒ってるのさ」

「知らないっ!」

 

 むぅ。なんだかよく分からないけど機嫌が悪いみたいだ。まいったなぁ。美波ってたまにこうやって突然怒り出すんだよなぁ。

 

「ふふ……お2人ともお変わりありませんね。ところでなぜここへ? 確かガルバランド王国へ向かわれたと伺いましたが……」

「あ、はい。実は――――」

 

 僕はこの町を出てからここまでの経緯を順を追って説明した。

 

 仲間との再会やガルバランド王から貰った腕輪と力。そしてハルニア王家に贈られたという2つの腕輪のこと。クレアさんは”うんうん”と時折相槌を打ち、僕の話を聞いてくれた。やはり頭が良くて理解力のある人のようだ。

 

「そういうことでしたか。それでしたら陛下に直接お話しされた方がよろしいですね」

「はい。そう思ってここに来たんです。レナードさんいらっしゃいますか?」

「えぇ、もちろん。ただ……」

 

 僕が尋ねるとクレアさんはそこで言葉を切り、表情を曇らせた。またこの顔か。さっきの警備のおじさんたちといい、一体何があるというのだ?

 

「あの……何か問題でもあるんですか?」

「え、えぇ。まぁ……なんと申しますか……」

 

 尋ねてみてもこの返答。えぇい、じれったい。

 

「クレアさん、とりあえず僕たち王様に話してみますので案内してもらってもいいですか?」

「……分かりました。ではご案内します」

 

 クレアさんはカウンターから出てすぐ横の扉を開け、僕らを招き入れてくれた。奥には廊下があるようだ。

 

「こちらへどうぞ」

 

 そう言ってクレアさんはその廊下に入って行った。

 

「行こう、美波」

「うん」

 

 僕たちもクレアさんに続き、廊下に入った。それにしても皆のこの反応。王様に一体何があるというのだろう?

 


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