バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十一話 出発前夜のひと騒動

 2時間ほどの宴を終え、僕らは明日に備えて寝ることにした。

 

「なぁ雄二、部屋の割り振りはどうする?」

「借りているのはこの部屋と隣の部屋の2つだ。男子と女子で分けるべきだろうな」

「まぁそうだよね」

 

 男女に別れるとして、問題はどっちの組がどっちの部屋を使うかだ。こっちの部屋は透き間風が入ってくるのか、まるでFクラスの教室のように寒い。言うまでもなく原因は塞いだ壁の穴だ。

 

 応急処置をしただけなので外から空気が流れ込んでくるのだろう。食事中はあまり気にならなかったが、この寒さはもはや屋外に居るのも同然だ。女の子は寒さに弱い人が多いと聞く。姫路さんたち女子にこんな劣悪な環境で寝させるわけにはいかないだろう。

 

「それじゃ僕ら男子3人はこっちの部屋だね」

「明久よ。4人じゃぞ」

「何言ってるのさ。秀吉は女子側に決まってるじゃないか」

「……お主、初詣の時の約束を忘れてはおるまいな」

「初詣? なんだっけ?」

 

 そういえば初詣の帰りに秀吉と何か約束したような気がする。なんだっけ。忘れちゃったな。

 

「ふむ。ならば帰ったら放送室の手配をせねばなるまいのう」

「放送室?」

 

 ハッ!

 

「そっ、そうだね! 4人だったね! いやぁ自分を数に入れるのを忘れてたよ!」

 

 そういえば初詣の帰りに秀吉を女扱いしないって約束したんだった……。約束を破ったら僕の声真似で”美波をお嫁さんにしたい”と校内放送するなんて言われて。そんなことをされたら全校生徒を敵に回すことになる。清水さんと須川君だけでも手いっぱいだというのに、これ以上余計な敵は増やしたくはない。

 

「自分を数に入れるのを忘れるなんて、アキもおっちょこちょいね」

「ったく、お前はぜんぜん成長しねぇな」

「うぅっ……」

 

 咄嗟に誤魔化したのはいいけど、またバカだと思われてしまった。どこかで名誉挽回しないとなぁ……。

 

「あ、あのっ! 明久君!」

「ん? 何? 姫路さん」

「やっぱりこの部屋は私が使います! だって……壁を壊しちゃったのは私ですから……」

 

 胸の前でぎゅっと拳を握り、姫路さんが辛そうな表情を見せる。姫路さんってこんなに責任感が強かったのか。そんなに気にしなくてもいいのに。

 

「でもこっちは寒いよ? 姫路さんだって寒いのは苦手でしょ? 僕は慣れてるけどさ」

「寒いくらい我慢できますっ!」

「いやぁ、でも姫路さん1人だけこっちの部屋ってわけにもいかないからさ」

「明久の言う通りだ。部屋は2つしかないんだ。お前1人にこの部屋を使わせたら残り6人が雑魚寝になるだろうが」

「それならウチと翔子もこっちの部屋でいいわよ? ね、翔子」

「……うん」

「いやでも本当に寒いよ? いくら美波が我慢強くたって厳しいんじゃないかな」

「平気よ。少しくらい寒くたって皆でぴったり密着して寝れば結構暖かいんだから」

「…………み、密着……! (プシャァァッ!)」

 

 突然隣で赤い噴水が吹き上がった。ムッツリーニが何かを想像して鼻血を吹き出したようだ。

 

「姫路に島田よ。お主らの気持ちは嬉しい。じゃがワシらはお主ら女子に寒い思いをさせながら、ぬくぬくと寝られるほど厚顔無恥ではないのじゃ。ここはワシらに顔を立てさせてくれぬか」

 

 いいこと言うなぁ秀吉。

 

「そうだよ2人とも。だから女子は遠慮なく向こうの暖かい部屋を使ってよ」

 

 それに美波が風邪を引いたりしたら僕も嫌だからね。

 

「まぁ、アキがそう言うのなら……」

「すみません……それじゃお言葉に甘えさせていただきます」

「決まりだな。ンじゃ寝る準備すっか」

「ウチらも向こうの部屋で寝る支度をしましょ」

「……うん」

「明久君、木下君、ありがとうございます。おやすみなさい」

「うん。おやすみ姫路さん」

「おやすみじゃ」

 

 

 そんなわけで僕ら男子は壁の穴を塞いだこっちの部屋。姫路さんたち女子は暖房の効いた隣の部屋で寝ることになった。女子3人が部屋を移動したのち、僕たち男子は寝具の用意を始めた。

 

 

「ベッドは2つだね。どうする? 雄二」

「俺らは4人でベッドは2つ。ベッドに2人ずつ寝るか2人が床で寝るかどちらかしかねぇだろ」

「さすがにこの気温では床で寝るのはちと厳しいのう」

「だな。しかしそうなるとベッドを共有しなきゃなんねぇわけだが……さてどうするか」

 

 ふむ。見たところベッドはシングル。これに2人が寝るのなら美波が言ったように密着して寝ることになるだろう。つまり今夜は一夜限りのアバンチュールというわけだ。

 

 

 ――――しかも男と。

 

 

「要するにペアを決めねばならぬということじゃな」

「ま、そういうこったな」

 

 確かにこの冷蔵庫のような気温の中、床で寝るなんてのは無謀だ。当然の判断だろう。でもだからと言ってこの赤毛ゴリラと一緒なんて死んでもお断りだ。秀吉やムッツリーニならまだしも。いやむしろ秀吉なら歓迎だが。

 

「ならばグーパーで決めるかの?」

「ジャンケンのグーかパーのどちらかを出し合ってペアを決めるっていうアレ?」

「んむ。そのとおりじゃ。明久が知っておるとは意外じゃな」

「いくらなんでもそれくらい僕だって知ってるよ……」

「手っ取り早くそれで決めるか。ムッツリーニもいいな?」

「…………構わない」

「よし、ンじゃ行くぞ。グーパー……」

 

「「「「ジャスッ!」」」」

 

 パー ←僕

 グー ←秀吉

 グー ←ムッツリーニ

 グー ←雄二

 

「もう一度じゃな。行くぞい。グーパー……」

 

「「「「ジャスッ!」」」」

 

 グー ←僕

 グー ←秀吉

 パー ←ムッツリーニ

 グー ←雄二

 

「お前らもっと協調性を持てよ。これじゃなかなか決まらねぇじゃねぇか」

「…………そう言われても困る」

「じゃあ今度は僕が。グーパー……!」

 

 秀吉とペアになりますように……!

 

「「「「ジャスッ!」」」」

 

 グー ←僕

 パー ←秀吉

 パー ←ムッツリーニ

 グー ←雄二

 

「「んのぉぉぉーーーーっ!!」」 ←僕と雄二の悲痛な叫び

 

「てめぇ! なんでグーなんか出しやがるんだ!」

「雄二の方こそなんでグーなんだよ!」

「お前がパーみたいな顔してるからだろ!」

「それはこっちの台詞だよ! 雄二の方こそいかにもパーな顔してたじゃないか!」

「ンだとてめぇ! もういっぺん言ってみろ! 誰がパーだ!」

「そっちこそ人のことをパーパー言って失礼じゃないか!」

「パーにパーと言って何が悪い!」

 

 ――バンッ!

 

「何やってるのアンタたち! 静かにしなさいっ!!」

 

「「は、はいっ!!」」

 

 突然乱暴に扉が開かれ、美波の怒号が部屋中に響き渡った。心臓が飛び出すくらいに驚いた僕と雄二はピンと背筋を伸ばし、反射的に”気をつけ”のポーズを取っていた。

 

「こんな夜遅くに騒ぐなんて他の人に迷惑でしょ! 子供じゃないんだからそれくらい考えなさい!!」

 

 ――バンッ!

 

「「「「……」」」」

 

 美波が去った後、室内はなんともいえない空気に包まれた。

 

「やれやれ……えらい剣幕じゃったな。肝を冷やしたぞい」

「…………心臓が一瞬止まった」

「美波だって人のこと言えないくらい大きな声じゃないか……」

「ったく。明久、お前のせいだぞ」

「なんで僕のせいなんだよ! もとはと言えば雄二が――!」

「ほれほれ、島田がまた怒鳴り込んでくるぞい」

「ぐ……」

 

 また美波に怒鳴られたくはない。悔しいけどここは一時休戦だ。

 

「分かったよ……」

「チッ、しゃーねぇ。諦めて寝るとすっか」

「そういうことじゃな」

「ハァ……しょうがないね。って……なんだよムッツリーニ、その嬉しそうな顔は」

「…………嬉しくなどない」

 

 鼻血を滴らしながら真顔で言われても。

 

「毛布は人数分ある。その窓の前に畳んで重ねてあるやつがそうだ。明久、そいつを配れ」

「へ~い」

 

 やれやれ。結局雄二と一緒のベッドか。まぁ硬い床で寝るよりマシと思って諦めるしかないか。ハァ……。

 

「ほい秀吉」

「すまぬな」

「ほいムッツリーニ」

「…………サンクス」

「んで、ほい雄二」

「おう」

 

 毛布を1枚ずつ渡していく僕。

 

「それでこれが僕の分っと……ん?」

 

 最後の1枚を持って立ち上がった時、窓の外にあるものが見えた。ホテル前の暗い道に(たたず)むひとつの影。そのシルエットは髪の長い女性のようだった。こんな夜遅くに誰だろう? もしかしてまだヤジ馬が残っているんだろうか。そう思って目を凝らしてよく見ると、その人影は僕のよく知る人のようだった。

 

「どうした明久」

「あ……ううん。なんでもない」

 

 あれって姫路さんだよね……あんな暗い所で何をしてるんだろう? 見たところコートも着てないみたいだったし、あれじゃ風邪を引いてしまうぞ。

 

 …………

 

「ちょっと僕、隣の部屋に行ってくる」

「…………着替えを覗くのなら俺も連れていけ」

「そんなことしないよ!?」

「…………チッ」

 

 舌打ちされたよ……ま、まぁいいや。とにかく確認に行こう。隣の部屋に姫路さんがいればあれはただのヤジ馬か通行人ってことになる。それを確認したいだけさ。

 

 僕は部屋を出て廊下を進む。そして隣の部屋の扉を叩いた。

 

 ――トントン

 

「僕だけど、ちょっと開けてくれる?」

『アキ? ちょっと待って。今開けるわ』

 

 すぐに扉がガチャリと開き、ポニーテールを解いた美波が姿を見せた。やはり髪を下ろした美波には少しだけ違和感を感じてしまう。

 

「どうしたの? アキ」

「姫路さんいる?」

「瑞希ならさっき頭を冷やしてくるって言って出ていったわよ?」

「え……そうなの?」

「寒いからやめなさいって言ったんだけど、ちょっとだけだからって1人で行っちゃったのよ」

「そっか……」

 

 じゃあやっぱりあれは姫路さんなのか。頭を冷やすって言ったって外は冷蔵庫並の気温なんだけど……大丈夫かな。心配だな……。

 

「ちょっと様子を見てくるよ。それで戻るように説得してみる」

「ホント? 助かるわ。きっとアキの言うことならきっと聞くと思うし」

「そうかな?」

「きっとね。あ、ちょっと待って」

 

 美波は何かを思い出したように部屋の奥へと戻って行く。そして戻って来た彼女はベージュ色のマントを手にしていた。

 

「これを瑞希に持っていってあげて」

「これ美波のマントじゃないか」

「そうよ。これならあったかくて外でも平気でしょ? もし長引くようなら瑞希に貸してあげて」

「分かった。それじゃ少しだけ借りるね」

「瑞希のこと、よろしくね」

「うん」

 

 さて、風邪を引く前に姫路さんを呼び戻さないとな。

 




ところでグーパーって地域によって掛け声にかなり違いがあるようですね。念のため調べてみてびっくりしました。僕の暮らしていた地域では「グーパージャス」なので、本作ではこれを採用しています。

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