バカと仲間と異世界冒険記!   作:mos

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第十話 振り分け

「まずハルニア王国だが、これには明久と――」

 

 雄二がそこで口を止め、皆の顔を順に見ていく。僕はハルニアか。昨日までいた国じゃないか。まさかまた行くことになるなんて思わなかったな。でもハルニアなら町の位置とかも把握しているし、僕にとっては動きやすい。むしろ問題はチームメンバーだ。雄二のやつ誰を指名するつもりだろう?

 

 確実に言えるのは、万に一つも雄二とペアになることは無いということだ。たとえ雄二がそれを望んだとしても御免(こうむ)る。それから霧島さんを指名することも無いだろう。そんな割り振りをしたら自分の命が危ういことは知っているはずだ。

 

 なんてことを考えていると隣から凄まじいプレッシャーを感じた。

 

「そう睨むな島田。まるで般若だぞ」

「わ、悪かったわね!」

 

 今の殺気は隣に座っている美波から発せられていたものらしい。でもなぜそんなに殺気立ってるんだろう? って……なんか姫路さんも僕をじっと睨みつけてるんだけど……。何か恨まれるようなことしたっけ?

 

「安心しろ島田。ハルニア王国には明久とお前の2人に行ってもらう」

「えっ! ホント!? やったっ!」

 

 先程の凄まじいほどの殺気は瞬時にして消え去り、パァッと花が咲くような笑顔を見せる美波。相変わらず気持ちの切り替えが早い。

 

「よ~しっ! 頑張るわよ! 絶対に腕輪を持ち帰ってみせるわ! ね、アキっ!」

「ふぇ?」

「なによその気の抜けた返事は。もっと気合い入れなさいよ」

「え? あ……ご、ごめん。そうだね」

 

 美波が張り切っている。張り切り過ぎていて怖いくらいだ。それに対して姫路さんは大きく溜め息をつき、酷く残念そうな顔をしている。もしかして姫路さんも一緒に行きたかったのかな? できることなら僕もその方が安心できるんだけど……。雄二はどんな理由で僕らをハルニア王国にしたんだろう?

 

「雄二、ちょっと質問なんだけど」

「なんだ?」

「どうして僕と美波がハルニアなのさ」

「そんなことか。島田から聞いたぞ。お前らハルニア王国の国賓扱いなんだろ? 話を通すのにこれ以上の待遇は無いだろ」

「そうかもしれないけどさ、そういう意味ではムッツリーニだって同じくらいの待遇なんじゃないの?」

「なんだ? 気を利かせたつもりなんだが気に入らねぇのか?」

「なによアキ。ウチと行くのが嫌だとでも言うつもり?」

「いや! そ、そんなことはないよ!?」

「じゃあどうして土屋を行かせようとするのよ」

「だってほら、ムッツリーニってレナードさんと仲が良かったじゃないか。だから僕らより上手く話をまとめられるんじゃないかなって思ってさ」

 

 本当はムッツリーニに一緒に行ってほしいわけじゃなくて姫路さんが心配なんだけどね……。

 

「まぁ気を利かせてってのは冗談だ。だがムッツリーニにはサラス王国に行ってもらいたい」

「サラス? 何それ? サラミソーセージの仲間?」

「お前は食品にしか結び付けられんのか。サラス王国。秀吉と姫路のいたラミール港から船で行く別の大陸だ」

「へぇ。そんなのがあったんだ」

「さっき翔子が読み上げた中に名前があっただろうが……」

「そうだっけ? なんかもう頭が一杯で覚え切れなくてさ……」

「まぁお前の頭じゃ仕方ねぇな。ハルニア、ガルバランド、サラス。この世界にはこの3つの国がある。このうちサラスは俺たちにとって未知の国だ。だからムッツリーニにはそこに行ってもらいたい。いいな? ムッツリーニ」

「…………問題ない」

「それとサラス王国には姫路と秀吉にも行ってもらう」

 

 つまりサラス王国には姫路さんと秀吉、ムッツリーニの3人ってわけか。でもそれってどうなんだ?

 

(ねぇ雄二、さすがにその3人だと危険なんじゃない? 女子2人にエロの化身だよ?)

(お前の気持ちも分からんではないが、ムッツリーニの適応力は未知の国には必要だ)

(じゃあ雄二とムッツリーニで行けばいいじゃないか)

(俺はそれでも構わんが翔子が納得すると思うか?)

(だよねぇ……)

(心配するな。姫路はお前が思っているほど子供じゃない。俺にしてみればむしろお前の方が子供だ)

(悪かったね。どうせ僕は子供だよ)

(そんなことはどうでもいい)

(どうでもいいのかよ!)

(とにかく今は俺に任せろ。島田と別行動したいと言うのなら話は別だがな)

(ぐ……わ、分かった……)

 

 仕方ない。せっかく美波と一緒のチームになったのに組み直しなんて嫌だし、ここは雄二の指示に従おう。

 

「話を続けるぞ。残る俺と翔子はガルバランド王国――つまりこの国を調べる」

「あれ? 雄二、なんか自分だけ楽しようとしてない?」

「あ? 何がだ?」

「だってこの国に残ってる腕輪はあと1個だろ? しかも移動も無いから一番楽じゃないか」

「まぁ楽と言えば楽かもしれんな。だが適材適所を考えた結果だ」

「どこら辺が?」

「ハルニアはお前と島田以上の適任者はいない。サラスは未知の領域だから3人チームの姫路たちにしたい。そうしたら残るは俺と翔子で行くしかねぇだろ」

「う……確かにそうかもしれないけど……」

 

 どうも釈然としないんだよな。なんだかうまく言いくるめられた気がして。まぁ美波と一緒なら僕に不満は無いんだけどさ。

 

「それにこの国には不穏な噂があってな」

「噂? 噂とは何じゃ?」

「俺も詳しいことは知らない。だがもし噂が本当なら姫路や島田にはちょいとキツいかもしれん」

「ウチと瑞希? どういうこと?」

「まぁ、なんというか……俺も詳しくは知らねぇんだ。とにかくこの国については俺に任せろ」

 

 雄二にしては珍しく歯切れの悪い答えだな。姫路さんや美波にキツいって何だろう? 険しい山を登るから体力がいるとか? それなら確かに姫路さんには無理かもしれないけど、美波なら問題ないよね。それに霧島さんが入ってない理由が分からない。

 

「もう一度言うぞ。ハルニア王国には明久、島田。ガルバランド王国は俺と翔子。サラス王国は姫路、秀吉、ムッツリーニだ。皆いいな?」

 

 その場の全員が同時に頷く。雄二の言う噂っていうのが気になるけど、まぁいいか。あいつは僕には嘘をつくけど、女子に嘘は言わないからな。さて、これでチーム決定か。でも姫路さんのチームが少し心配だな。本当にあの3人で大丈夫かな……。

 

「あっ、そうだ! ねぇ皆、チーム名を決めない?」

 

『『『チーム名?』』』

 

 突然の美波の提案。皆は声を揃えて聞き返した。そんなものを決めてどうしようっていうんだろう?

 

「せっかくチーム分けしたんだからチーム名を付けた方が格好いいと思うの」

「チームと言うても2人や3人じゃがの」

「いいじゃない。それでもチームはチームよ」

「別に名前を付けたって何も変わりゃしねぇぞ?」

「私は美波ちゃんに賛成です。その方が気合が入ると思いますし」

「……私も賛成」

 

 女子3人は賛成か。雄二はあまり乗り気じゃないみたいだ。秀吉はどちらでもいいといった感じだし、ムッツリーニは……どっちでもいいって言うよね。とりあえず僕も意思表示をしておくか。

 

「どちらかと言うと僕は賛成かな」

 

 美波が楽しそうだし、反対する理由も無いからね。

 

「じゃあ賛成多数ってことで決定ね」

「ま、好きにしてくれや」

「ウチらのチーム名はもう決めてあるの。チーム”アキ”よ」

 

 はいぃ!?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ美波! なんで僕の名前なの!?」

「決まってるじゃない。アンタがリーダーだからよ」

「えぇぇっ!? ぼ、僕がリーダーなの!?」

「そうよ。ウチはアキの指示に従うわ」

「いやでも2人のチームでリーダーって言われても……」

「頑張ってね、アキっ」

 

 美波が笑顔をキラキラと輝かせて言う。こんなに可愛い笑顔で言われたら拒否できるわけがないじゃないか。

 

「う、うん……」

「じゃあ決まりね。ウチらは今からチームアキよ」

 

 とほほ……こんなことなら賛成なんかするんじゃなかった……。

 

「じゃあ次は瑞希のチームね」

「やっぱりリーダーを決めてチーム名にすべきですか?」

「別にそう決まってるわけじゃないわよ?」

「え……じゃあなんで僕の名前をチーム名に使ったのさ。やっぱり別の名前にしようよ」

「ダメよアキ。もう決まったことなんだから」

「え~……そんなぁ……」

「さ、瑞希たちのチーム名を考えましょ」

 

 まったく、美波も強引だなぁ。けどこういった皆を引っ張って行くところは美波らしいな。だからこそチームリーダーも美波の方が適任だと思うんだけどな。

 

「私は木下君と土屋君と一緒ですよね。この中でリーダーをやるとしたら……やっぱり土屋君でしょうか」

「…………俺はリーダーの器じゃない」

「そうでしょうか? この世界への順応は土屋君が一番だと思うんですけど……」

「…………そんなことはない」

「でも王宮諜報員なんて凄い職に就いてますし、やっぱり土屋君が適任だと思うんです」

「…………なぜそれを知っている」

「あ、それ僕が話した」

「…………余計なことを」

「いいじゃんか。本当のことなんだし」

「そうですよ。隠す必要なんてありませんよ」

「…………あまり知られると面倒になる」

「ふむ。ムッツリーニもこう言っておるし、どうじゃ姫路よ。ここはお主がリーダーをやってみぬか?」

「えっ!? わ、私ですか!? ダメですよ私なんて! 体力は無いし坂本君みたいに頭も良くないですし!」

 

 この時、僕の心の中にはスコールのような涙の雨が降った。学年次席とサシで勝負できるような人が何を言ってるんだろう。姫路さんが頭が良くないのなら僕はどうなるんだろう? と。

 

「体力などなくても良いのじゃ。リーダーはメンバーをまとめ上げるのが役目じゃからな」

「で、でも私なんかじゃ力不足だと思うんです。リーダーなんてやったこともないですし……」

「なに、最初は誰もが初めてじゃ。こういった経験をしておくのも良いかもしれぬぞ?」

「そうでしょうか……」

「安心せい。いざと言う時はワシらがフォローする」

「…………手伝う」

「でも……」

 

 渋る姫路さん。彼女は人差し指を唇に当てて考え込んでいる。悩む気持ちはよく分かる。僕もなぜかリーダーにされて戸惑っているから。でも姫路さんなら僕なんかよりずっと上手くやれそうな気がする。

 

「……分かりました。私、やってみます!」

 

 姫路さんは顔を上げて片手に拳を握る。その表情は凛々しく、やる気に満ちていた。この様子ならきっと上手くやれるだろう。

 

 それにしても姫路さんのリーダーか。きっと雄二と違って優しく皆を導くんだろうな。もし彼女が試召戦争のリーダーをやったらどうなるんだろう? 一度やってみるのも面白いかもしれないな。男子全員が奮起して信じられないような力を出したりするかもしれない。

 

「決まったみたいね。じゃあチーム名はどうする? チーム瑞希でいいのかしら?」

「あっ……ち、チーム名は皆の名前を使いませんか?」

「ワシらの名前を繋げるということかの?」

「はいっ、そうです!」

「繋げるって言うと……チーム瑞希木下土屋? ちょっと長いわね」

「どうして私だけ下の名前なんですかっ!?」

「それもそうね。じゃあ瑞希も名字にする?」

「あ……いえ、明久君のチームも下の名前を使ってますし、ここは皆で下の名前を使うべきだと思うんです」

 

 そこは同じにしなくてもいいんじゃないかな……。

 

「じゃあ、えっと……チーム瑞希秀吉康太ってことになるのかしら? やっぱり長いわね」

「ならば名前の一文字ずつを取って”みひこ”というのはどうじゃ?」

「あっ! それなら順番を入れ替えて”ひみこ”にしませんか?」

「ほう? 邪馬台国の女王の名じゃな」

「どうですか? 可愛くていいと思うんですけど」

「可愛いかどうかは別として、悪くはないのう。ワシは構わぬぞ。ムッツリーニよ、お主はどうじゃ?」

「…………卑弥呼がどんな巫女衣装を着ていたのか気になる」

「問題ないそうじゃ」

 

 ……今の会話のどこに同意があったのだろうか。

 

「決まりみたいね。じゃあ瑞希、木下、土屋のチームはチーム”ひみこ”に決定よ」

「……最後は私と雄二」

「めんどくせぇな。さっさと決めろよ」

 

 雄二は円卓テーブルの椅子に座り、つまらなそうに頬杖をついている。こいつは興味のあるものとないもので態度がはっきりしてるな。きっと名前なんかどうでもよくて、さっさと話を進めたいんだろう。

 

「……大丈夫。もう決めてある」

「そうなの? なんて名前?」

 

 美波が尋ねると霧島さんが少しだけ笑顔を見せた気がした。

 

「……チームしょうゆ」

「却下だ」

 

 霧島さんが言い終えた瞬間、雄二が速攻で拒否した。

 

「……どうして」

「いいかげん調味料から離れろと何度言えば分かるんだお前は……」

「……可愛いのに」

「ンなわけあるか! そんな名前を付けられた子供の身にもなってみろ!」

「……でも子供召喚獣のしょうゆは可愛がってくれた」

「んがっ……! あ、あれはだな……。なんだ、その……あ、あんまり俺を慕ってくるから……つい、ほっとけなくて……だな……」

 

 仄かに頬を赤く染めて恥じらう雄二が気持ち悪い。

 

「坂本ってきっといいパパになるわよね」

「そうですね。あの”高い高い”をしてた坂本君はとってもいい顔してました」

「やめろ! 思い出すんじゃねぇ! 頼むから忘れてくれぇぇっ!」

 

 頭を抱えて悶え苦しむ雄二。今まで散々僕をバカにしてきた報いだ。とことん苦しむがいいさ!

 

「それでチーム名はどうするのじゃ? チームしょうゆで良いのか?」

「いいわけねぇだろ!」

「坂本がああ言ってるけど、どうする? 翔子」

「……じゃあ、こしょう」

「却下!」

「……しお」

「却下だ!」

「……さとう」

「そりゃ名字だろ!」

「……みりん」

「お前調味料の名前言ってるだけじゃねぇのか!?」

 

 雄二と霧島さんが漫才のようなやりとりを繰り広げる。お互い一歩も引かないようだ。

 

 

 ――――そんなこんなで10分後。

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……も、もういい、好きにしてくれ……」

「……じゃあしょうゆ」

 

 押し問答を繰り広げたあげく、結局最後は雄二が折れてチーム名は晴れて”しょうゆ”になった。なんだか卵かけごはんが食べたくなっちゃったな。

 

「ったく、無駄に時間を費やしちまったじゃねぇか……」

 

 気に入らないのか、雄二がブツブツと文句を言っている。そんなに早く話を進めたいのなら最初から抵抗しなければいいのに。

 

「よし、じゃあ話をまとめるぞ。まず行き先の確認だ。明久と島田はハルニア。姫路、秀吉、ムッツリーニはサラス。俺と翔子はここガルバランド。皆いいな?」

 

 雄二の言葉に全員が黙って頷く。

 

「さっきも言ったとおり、この世界では通信手段が無い。だから期限と集合場所を決めておく。期限は10日。集合場所はこの部屋だ。たとえ腕輪が見つからなくても必ず期限までに集合しろ。何か質問はあるか?」

「もし期限までに戻れぬ事情ができたらどうするのじゃ?」

「なんとしても戻れ。と言いたいが、どうしてもできない時はこのホテル宛てに手紙を出せ。オーナーには俺から話しておく」

「んむ。承知した」

「他に質問は?」

 

『『『…………』』』

 

「無いようだな。道中は何があるか分からん。絶対に無理はするな。危険を感じたらすぐに戻れ。俺たち全員で元の世界に帰るぞ! いいな!」

 

『『『おーーっ!』』』

 

「出発は明朝(みょうちょう)! 明日を含めて10日以内に必ずここに戻れ! 以上だ!」

 

 

 こうして僕たちの腕輪探しの旅がはじまることになった。

 

 

 この後は皆と相談し、一緒に夕食を取ることにした。残念ながら調理台が設置できるのは壁の壊れた向こうの部屋のみ。やむなく僕らは向こうの部屋に移動し、食事の仕度を始めた。

 

 料理をするのはもちろん僕ら男子。本当は皆で一緒にワイワイとやりたかったのだが、姫路さんがいる以上、楽しくワイワイどころではなくなってしまう。間違いなく阿鼻叫喚(あびきょうかん)地獄絵図(じごくえず)と化すだろう。だから料理は僕と雄二とムッツリーニ、それに秀吉を加えた4人で作ることにしたのだ。

 

 しかしこのことを女子3人に伝えると、美波が自分も料理をしたいと言い出してしまった。そう言われてもこればかりは受け入れられない。美波だけを許可してしまうと姫路さんに説明がつかないからだ。

 

 なんとか説得しようと懸命に言い訳を考える僕たち男子。そうして練り出したのは、”男の秘密のレシピ”などという、わけの分からない理由だった。けれど美波はこの理由に納得してくれたようだった。こんな理由でよく納得してくれたものだ。

 

 そして皆揃って円卓テーブルでの食事。7人という大勢での食事は本当に楽しかった。今までの美波と過ごした日々も幸せで楽しかった。けれどこうして仲間と共に過ごす(とき)は別の楽しさがあった。壊れた壁から透き間風が入ってきて少し寒かったけど、僕らは夜遅くまで宴を楽しんだ。

 

 

 もちろんお酒じゃなくてジュースで。

 


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